人権擁護法案に関する意見
意見表明
当連合会は、現在参議院において審議中の人権擁護法案について、最低どうしても確保すべき条件を提示し、法案の出直しを求めるものである。
「人権委員会」の独立性を確保するための最低条件
1、人権委員会の位置付け
内閣府の所轄とすること(法務大臣の所轄は不可)
- 理由
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名古屋刑務所事件にみられるような公権力による人権侵害をいかに救済するかが、人権委員会の中心課題である。それは国連規約人権委員会が勧告しているところである。
2、人権委員の選任方法
人選の適切性、透明性を担保するため、推薦委員会を国会に置く。
推薦委員会の委員は立法、司法、行政、メディア、日弁連、学識経験者等から選任する。
推薦された候補者について、公開の聴聞会を開く。
- 理由
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韓国国家人権委員会の委員は、国会から4名、内閣から4名、裁判所から3名が選任される。
行政委員会は肥大化した行政権限から立法府が一定の権限を奪い返すものとして作られたアメリカの歴史がある。日本でも、国会に推薦委員会を設置して、真に行政から独立した委員会として組織される意味がある。
3、職員人事
人権委員会はその職員の任免を独自に行うものとし、他の省庁との人事交流は原則として行わない。
- 理由
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人権委員会の独立性はまず職員人事が独自に行われる必要がある。
法務省の人権擁護局の職員がそのまま横滑りして看板を替えただけというような組織は論外である。
立案当局は、人権委員会の職員が法務省(本庁)との間で定期的に人事異動する構想を隠していない。これでは独立性が何もないといわざるを得ない。
4、事務局
事務局長及び事務局員には人権擁護に必要な知識と経験を有する者をあてる。
法曹資格を要する場合は弁護士をあてる。
- 理由
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事務局長および事務局員人事はきわめて重要である。
法案では「弁護士の資格を有する者」が入るとされているが、それでは検事の任命を予定していると言わざるを得ない。
法務省の主要部局のトップが検事で占められているところに日本の法務省人事の問題点がある(たとえば、矯正局のトップに検事がなり、2~3年に1回で転勤するという状況では腰の座った矯正行政ができない。矯正畑生え抜きがトップになるべきである)。
人権委員会でも検事が入るというのでは同じ愚をおかすことになる。
5、地方人権委員会など
各都道府県に地方人権委員会をおく。
少なくとも、各都道府県に委員会の事務局をもつ。
- 理由
- 法案は、地方法務局に人権委員会の事務を委任する規定になっている。これでは、法務大臣の指揮下にある地方法務局が人権委員会の仕事をすることになり、行政からの独立が全くないことになり、建前としての「独立行政委員会」としての体裁すらないことになる。
6、業務・権限
- 憲法、国際人権条約に規定される人権すべての擁護を任務とする。とりわけ公権力による侵害が対象となることを明記する。
- 立法、行政に対する政策提言、人権教育の実施、国際人権機関及びNGOとの協力に関し、権限と責務を有することを明記する。
- 理由
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- 法案は、「人権」の内容について何も規定しない。韓国のように、憲法、国際人権条約に規定される人権すべての擁護を任務とすべきである。
法案は、差別・虐待の項目の中に公権力による人権侵害を含ませているだけである。国際人権規約委員会の勧告や諸外国の人権委員会にあるように、公権力による様々な人権侵害(差別・虐待に限らない)こそを人権委員会の中心的な救済対象とすべきである。 - 昨年、韓国国家人権委員会は、テロ防止法案が人権を侵害する恐れがあるとの反対声明を発表した。このためこの法案は陽の目を見なくなった。
日本の人権委員会もこのような立法、行政に対する政策提言をすべきである。
- 法案は、「人権」の内容について何も規定しない。韓国のように、憲法、国際人権条約に規定される人権すべての擁護を任務とすべきである。
2003年2月21日
日本弁護士連合会
会長 本林 徹