個人情報の保護に関する法律施行令(案)に関する意見

2003年11月21日
日本弁護士連合会


 

本意見書について

「個人情報の保護に関する法律」(以下「個人情報保護法」という。)は広く市民間における個人情報の保護を目的とした制度であるが、規制の必要性の有無高低を問わないこと、主務大臣が国民を監視する仕組みになっていることなどから、当連合会では市民社会における自由な情報の流通を損なうおそれがある一方で、個人情報保護に有効に機能しないのではないかという危惧を表明してきた。


このたび、総務省は個人情報保護法施行令(案)(以下「施行令(案)」という。)についてパブリックコメントを求めていた。このなかで特に個人情報取扱事業者の例外規定である個人情報保護法第2条第3項第4号の施行令(案)に重大な問題があるので意見を述べることにした。


意見

個人情報保護法第2条第3項第4号では「その取り扱う個人情報の量及び利用方法からみて個人の権利利益を害するおそれが少ないものとして政令で定める者」を個人情報取扱事業者から除外している。


個人情報保護法は個人の権利利益を守ろうとする意図においては正当であるが、他方、民間団体による自主的な規制を第一義的としつつも、その上には主務大臣による監督がなされることが法律上予定されており、主体的な市民社会における自由な情報の流通を著しく損なうおそれがある。そうであるだけに適用対象の拡大化には慎重であるべきである。個人情報保護法において個人情報取扱事業者に該当しないとしても、契約上の責任や不法行為責任まで免れることを意味するものではないから、必ずしも個人の権利利益の保護にとって著しく支障があるということにはならない。


施行令(案)は、上記の「個人情報の量」について、「その事業の用に供する個人情報データベース等を構成する個人情報によって識別される『特定の個人の数』の合計が過去6月以内のいずれの日においても5千を超えない者」としている。


過去6ヶ月間継続していることを要件としている点(施行令案第3-4参照)においては一見安定しているようであるが、デジタル世界で個人情報を利用する者にとって、個人情報は入ったり出たりを頻繁に繰り返しているものであるから、いま現在及び過去6ヶ月間どれだけの個人情報を取り扱っているかを正確に把握することは極めて困難である。コンピュータによって個人情報を利用する場合を考えると、特定の個人が所有しているパソコン内に個人情報が蓄積されていなくても自由に使える環境がコンピュータネットワーク内にはあるから、「5千を超えない」という限定は意味を持たない。


また、施行令(案)では、「他人の作成に係る個人情報データベース等で個人情報として氏名等(氏名又は住所若しくは居所(地図上又は電子計算機の映像面上において住所又は居所の所在の場所を示す表示を含む。)若しくは電話番号をいう。)のみが含まれる場合であって、これを編集し、又は加工することなくその事業の用に供するときは」上記「『特定の個人の数』に算入しないものとする。」としている。これは衆参両議院の特別委員会でカーナビや『筆まめ』など個人識別データが100万人単位で取り込まれているデータベースをだれもが日常的に利用するようになっている実態からすると、だれもが個人情報取扱事業者になってしまうのではないかという疑問に対して、これらを対象とするものではないという政府答弁を踏まえた内容になっている。しかし、これらのデータベースの内容を編集し直したり加工したりすることは容易であるから、「編集し、又は加工することなく」という条件を加えても何ら限定したことにならない。結局、だれもが個人情報の利用に関して国家(監督官庁)の管理下に置かれるということである。


個人情報保護法は規制対象である個人情報取扱事業者を定義するに当たってコンピュータネットワーク社会の実状を十分に踏まえたものになっていないし、個人情報保護法施行時までにはさらに状況が著しく変わっていることを想定していない。


個人情報保護法の施行日は未定であるが、時代に即応した個人情報保護制度にするために速やかに個人情報保護法の見直しに着手すべきである。


以上