「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」の見直しに関する意見書

2003年9月5日
日本弁護士連合会


本意見書について

「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(以下「DV防止法」という)は、2001年10月13日に施行され、法律の附則には3年を目処として見直しの検討が規定されている。ところが、被害者支援団体や弁護士からの強い要請の声を受け、3年を待たずして見直し作業が開始され、今秋の臨時国会において改正案をまとめる運びである。


本意見書は、今回の見直しを期に、単なる現行法の手直しにとどまらず、DV被害者の保護及び支援のあるべき方向性を示すための意見をまとめたものである。


意見要約

第1 DV防止法の現状と問題点

1.DV問題に関する研修の充実

DV防止法は、DV問題にかかわる職務関係者に対する研修実施を国及び地方公共団体に義務付けているが、研修を実効性あるものとするには、男女雇用機会均等法において設けられているような指針(ガイドライン)を、DV防止法についても設けるべきである。


2.「暴力の防止」「被害者の保護」にとどまらず「自立支援」を

現行DV防止法は、暴力を受けている女性が、その環境から逃れるために必要なことの一部について定めているにすぎない。被害者の自立までを見据えて法律を整備し、あるいは運用を見直すべきである。


3.DVと子どもの問題

DVが行われている環境に置かれること自体が子どもに対する虐待であるという観点から、法整備及び運用の見直しが図られるべきである。


4.外国人被害者の保護

DV防止法では、外国人被害者も等しく同法により保護を受け得ることになっているが、実際にはそのように運用されていない。しかし、DV問題は重大な人権侵害であるという認識に立つ以上、このような状態を放置することはできない。多岐にわたる関係法規の運用改善や法改正が急務である。


5.いわゆる「二次被害」の根絶

DV事案においても、いわゆる二次被害(DV被害者が第三者に救済を求めた段階で受ける精神的苦痛)が指摘されている。DVは、人権侵害であるという認識を徹底させるべきである。


6.DV被害者に対する司法的援助の観点から、法律扶助制度の見直し

DV事件については、財政上特別枠を設け、法律扶助協会支部間にまたがる事案については、事案に即した対応がなされるべきである。


第2 DV防止法の改正

1.現行法は、DV防止法全体の規制対象としての暴力(第1条に規定)と保護命令発令の要件としての暴力(第10条に規定)の範囲を同じくしている。しかし、被害者に対する自立支援措置実施の範囲を画する要件としての暴力は、違反に対しては刑事罰さえ予定されている保護命令発令の要件としての暴力よりは広くて然るべきである。


2.以上の観点から、


  1. DV防止法全体の規制対象としての暴力の主体(加害者)の範囲を拡大。現行の「配偶者」に加え、元の配偶者及び現在あるいは元の交際相手を含める。ただし、保護命令発令の要件としての暴力の主体は、現行法よりは拡大(下記3(1)参照)するものの、これよりも狭い範囲にする。
  2. DV防止法全体の規制対象としての暴力(行為)の範囲を拡大。現行の「身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの」より広い、「心身に有害な影響を及ぼす言動」とし、注意的に「身体的、精神的若しくは性的損害を与えるものを含む」ことを明記する。ただし、保護命令発令の要件としての暴力は、現行法よりは拡大(下記3(2)参照)するものの、これよりも狭い範囲にする。

3.保護命令の要件・効果の拡大


  1. 現行の「配偶者」に、過去の配偶者も含め、交際相手は含めない。
  2. 「暴力」の範囲を広げる。ただし明確化のため、「生命、身体、自由、名誉を侵害し、又は刑法上の暴行、傷害、強姦、強制猥褻、脅迫、強要、逮捕監禁、名誉毀損、侮辱に該当する行為」とする。
  3. 保護命令によって保護される対象の範囲を広げる。申立権者は被害者に限るが、保護命令によって保護される対象は、子どもや親族、友人、支援者等、被害者が指定する者も含める。
  4. 保護命令により禁止される行為を広げる。現行の「つきまとい」、「はいかい」に加え、電話、ファックス、電子メール、手紙の送付等で接触することも禁止する。
  5. 保護命令の期間を延ばす。接近禁止命令、退去命令ともに1年間とするが、退去命令については、事情に応じて裁判官が短縮できることにする。
  6. 再度の申立の要件を緩和する。宣誓供述書を添付する必要なく、接近禁止命令及び退去命令の期間延長ができるようにする。

4.被害者の自立支援に必要な制度の充実


5.相談機関の充実に必要な制度全般の充実


第3 関連法規の見直し

1.国民健康保険法

その地での住民登録がなくても、またDV加害者の協力がなくても加入できるようにする。


2.国民年金法

住民登録がなくても現居所での受給を可能にする。


3.住民基本台帳法

DV加害者のもとから逃れた被害者、及びその子どもたちが、加害者に現住民登録地を探知されないようにする。


4.民法

配偶者からの暴力がある場合を離婚原因として明記する。また、DV被害者の連れ子と加害者の養子縁組を離縁しやすくするために、離縁原因として明記する。DV加害者の共同親権を制限するため、親権者に関する規定を改正する。


5.母体保護法

夫から暴力を受けて離婚の決意をし、夫から逃れた場合等、一定の場合には、配偶者の同意がなくても人工妊娠中絶ができるようにする。


6.民事訴訟法

離婚訴訟、損害賠償請求訴訟等、DV被害者と加害者間の民事訴訟においては、一定の場合には、付添人や遮蔽措置、ビデオリンク方式による証人尋問制度を取り入れる。


7.家事審判法及び同規則

DVの離婚事件については、調停前置は任意とし、また、管轄の範囲を広げる。


8.児童虐待防止法と児童福祉法

DV被害者とともに避難した子どもが、児童相談所に入所した場合には、DV加害者に対し通知をしない。


9.外国人被害者の保護に関する改正及び運用の改善

「日本人の配偶者等」の在留資格の付与に際し、同居して配偶者として活動することを要件とする運用をやめ、かつ、DV被害者が在留資格の更新等に際して、被害者のみの申請による更新等の余地を認める。


また、「短期滞在」の在留資格や在留資格のない外国人被害者がDV防止法による保護救済を受けるのが事実上困難であることに鑑み、これらの被害者についても保護・救済することが国・地方公共団体の債務であることを明記する。


1 0.刑法

強姦罪の法定刑を現行法より重くし、かつ、近親姦を独立の犯罪類型として処罰規定を設ける。


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