司法制度改革推進本部事務局たたき台「刑事裁判の充実・迅速化について」に対する日弁連意見書
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2003年8月22日
日本弁護士連合会
本意見書について
日本の刑事裁判は、捜査段階で作成された調書が証拠の中で大きな比重を占めている。裁判官は、その調書を読みこむことによって心証をとるという意味で、「調書裁判」「精密司法」であると言われている。また、捜査段階の取調べで自白をとることが重視される結果、ときに無理な取調べが行われたり、作成された調書の任意性や信用性をめぐってしばしば公判で長期間の争いが続き、裁判遅延の大きな原因となっている。「調書裁判」の弊を改め、公判中心の直接主義・口頭主義を徹底するとともに、取調過程を録音・録画(可視化)する制度を導入する必要がある。また、被告人の防御権を保障しつつ迅速な裁判を実現するためには、検察官手持ち証拠の原則全面開示を実現するとともに、被告人の身体拘束制度を抜本的に改革する必要がある。
今回、戦後半世紀以上経過して初めて実現される国民の司法参加制度である裁判員制度が導入されるとともに刑事司法手続が見直されるが、上記のような視点での改革が必要不可欠である。
日弁連は、このような視点から、司法制度改革推進本部事務局が提示したたたき台「刑事裁判の充実・迅速化について(その1、その2)」に対する意見を述べたが、その骨子は以下の通りである。
1 十分な準備期間などを保障する充実した準備手続
連日的開廷を行うために第1回公判期日前の準備手続は必要であるが、例えば、十分な準備期間を保障するなど充実した準備手続となるよう諸規定を設けるべきである。なお、被告人の黙秘権の保障という観点やかえって無用な主張立証がなされることになるという観点等から、準備手続で主張せず、あるいは証拠調べ請求しなかった主張や証拠調べ請求を準備手続終了後行えないとすべきではない。
2 検察官手持ち証拠の原則全面開示
連日的開廷を行うためにも、また、被告人の防禦権を実質的に保障するというためにも、原則全面開示を前提とした十分な証拠開示が必要不可欠である。十分な証拠開示を行うためには、検察官手持ち証拠の一覧表開示や一定の類型に属する証拠の全面開示は特に重要であり、それを前提とした法整備がなされる必要がある。また、開示を拒否できる弊害要件は非常に厳格なものとすべきである。
なお、開示された証拠について、被告人の防禦活動など正当な目的による使用を禁止すべきではなく、また、目的外使用について罰則や過料等の制裁規定は設けるべきではない。
3 連日的開廷の確保のための諸条件の整備
連日的開廷の原則を法律において規定するだけでなく、それを実質的に可能にするためには、少なくとも、(1)検察官手持ち証拠の原則全面開示、(2)十分な公判待ち期間の保障、(3)被疑者・被告人の身体拘束からの開放(原則保釈等)、(4)刑事訴訟法39条3項の削除をはじめとした接見交通権の実質的保障、(5)有効な弁護の保障(公的弁護制度、弁護人の権限拡充)、(6)公判の速記録または録音テープの即時交付などについて必要な法整備を行うべきである。
4 当事者の信頼関係を基本とした訴訟指揮の実施
訴訟手続の主宰者が裁判所であり、訴訟指揮の最終決定権が裁判所にあることは当然であるが、その訴訟指揮権の行使は当事者の信頼関係を基本として行われなければならない。当事者(弁護人含む)の出頭や尋問あるいは尋問に関して深刻な対立が継続し、そのために訴訟が遅延したという具体的事例は近年ほとんど見られない。不出頭や尋問あるいは陳述制限違反に対する過料等の新たな制裁規定は設けるべきではない。
5 直接主義・口頭主義の徹底
公判廷において見て聞いて分かる裁判とするために、「調書裁判」の弊を改めて直接主義・口頭主義を徹底することは、裁判員裁判のみならず一般の刑事裁判においても妥当する要請である。具体的には、供述調書の採用をできる限り制限して伝聞法則を厳格化すること、取り調べの適正化に加え、公判中心の分かりやすい証拠調べという観点からも取調べの可視化(取調べ全課程の録音・録画)を実現することなどの改革が必要である。
6 捜査の合理化を伴う制度の検討
たたき台が提案している即決裁判手続では捜査の合理化が行われえないので、公的弁護体制の充実等の状況を鑑みつつ、アレインメント制度の導入を検討すべきである。
以上