司法試験「丙案」の廃止を求める決議

2000(平成12)年10月18日
日本弁護士連合会


 

決議の趣旨

当連合会は、かねてより司法試験第二次試験論文式試験におけるいわゆる丙案導入の回避と、その廃止を主張して


1.司法制度改革審議会に対し、丙案廃止問題を審議の対象とするよう要求する。


2.「法曹の選抜及び養成の在り方に関する検討会」において丙案廃止に向けた合意を成立させる。


決議の理由

1. 司法試験第二次試験論文式試験におけるいわゆる丙案による合否判定について、当連合会は、その提案当初から導入に一貫して反対を続けてきた。1990年10月16日の「司法試験制度改革に関する基本的合意」においても、(1) 5年間の検証期間を設け、1995年の検証時点で同合意所定の検証基準に該当した場合には丙案による合否判定を行わないこと、(2) 検証期間中に法曹養成制度等改革協議会(以下「改革協」という。)において抜本的改革に関する関係者の合意が得られた場合には、その時点でこれを実施するための措置を直ちに採り丙案による合否判定を行わないこと、(3) 2000年の試験終了後にそれまでの結果に基づき、その間に行われた試験方法をその後も継続すべきか(丙案が実施されている場合にはこれの廃止を含む)、他の方法をとるべきかを協議すること、を合意している。


2. 改革協は、1995年11月13日、司法の機能を充実し、国民の法的ニーズに応えるため、法曹人口を増加させる必要があり、そのために司法試験合格者数を増加させる措置を採るべきであるとの意見をまとめ、その多数意見は合格者数を年間1500人程度を目標としてその増加を図るなどとするものであった。当連合会は、同意見の発表の前後にわたり、司法試験の検証結果を踏まえ、丙案導入の回避を主張したが、1995年12月11日、司法試験管理委員会において、最高裁・法務省からの二委員の賛成、当連合会からの委員の反対の多数決により、1996年度からの丙案実施が決定された。


3. 改革協意見を受けて1996年7月29日から開催された法曹三者協議においても、当連合会は、丙案の不平等性、長期受験者の滞留現象の改善、合格者の1000名程度への増加等を指摘して遅くとも2000年度をもって丙案を廃止すべきであると主張した。その結果、1997年10月28日の「司法試験制度と法曹養成制度に関する合意」において、遅くとも2000年度をもって丙案を廃止すべきであるとの当連合会の提言を受けて、丙案の廃止を含め、法曹の選抜及び養成の在り方について法曹三者で速やかに協議を開始すること、丙案枠合格者数を現状以上に増加させないことなどを合意するに至った。


4. 上記三者合意に基づき、1998年10月15日、法曹三者による「法曹の選抜及び養成の在り方に関する検討会」が設置され、遅くとも2000年末までに結論を得ることを目指し(設置要綱)、丙案の存廃問題に関する協議が続けられている。同検討会では、司法試験結果の分析、丙案導入の立法事実の解消の有無、丙案を廃止した場合の将来予測等につき協議を重ねてきているが、状況は予断を許さない。法務省は、1999年11月4日の検討会において、「現時点で平成13年度からの合格枠制廃止という結論には至らない」旨の意見を述べており、また、仮に丙案廃止について合意が成立したとしても実際の廃止のためには少なくとも1年以上の周知期間が必要という立場をとっていることなどからみて、同検討会において、「遅くとも平成12年度試験をもって丙案を廃止する」という当連合会の方針を実現することは極めて厳しい情勢にある。


5. 他方、1999年7月27日に第1回審議会が開催された司法制度改革審議会では、法科大学院(仮称)制度創設を軸とした抜本的な制度改革としての法曹養成制度改革の議論が進行中である。本年11月の中間報告には具体的な改革構想が盛り込まれようとしており、今後の審議の中では、法科大学院制度創設を前提とした、現行司法試験制度の取扱いについても議論が行われる見通しである。


6. 当連合会は、1994年12月21日の臨時総会決議、1995年11月2日の臨時総会決議、1997年10月15日の臨時総会決議と、重ねて丙案に反対し、その廃止を求める旨の決議を会員の総意として採択し、また、1996年から1999年までの毎年の司法試験第二次試験最終合格発表時における当連合会会長声明において、同趣旨の意見を表明してきた。これらの決議等を通じ、当連合会は、少数回受験者を優遇して合格させるという丙案の不平等性、長期受験者の滞留現象の改善、合格者の1000名程度への増加などを指摘して丙案の早期廃止を求めてきたところである。


しかも、現在、司法制度改革審議会において法科大学院を中核とする新たな法曹養成制度の創設が検討されているところ、法曹一元制を目指し、21世紀の「市民の司法」を担うにふさわしい専門的能力と高い職業倫理を身につけた法曹の養成を眼目とした新たな法曹養成制度の創設に際し、いわゆる法科大学院制度は、公平性・開放性・多様性を基本理念とすることが求められているのであり、不平等制を帯有し、かつ司法試験予備校による受験技術教育を助長している丙案の存在が、上記理念と相入れないことは明らかである。


当連合会は、当連合会が一貫して丙案反対を主張してきた経緯、かつ、21世紀の「市民の司法」を担うにふさわしい法曹の養成を眼目とする新たな法曹養成制度の意義を踏まえ、司法試験第二次試験論文式試験における丙案による合否判定の廃止を実現するため、上記のとおり決議する。


以上