日弁連新聞 第605号
旧優生保護法最高裁大法廷判決
除斥期間適用せず、被害者への賠償を命じる
本年7月3日、最高裁判所大法廷は、旧優生保護法下の強制不妊手術に関する国家賠償請求訴訟の上告審において、国による除斥期間(改正前の民法724条後段)の主張は信義則違反または権利濫用により許されないとの統一的判断を示し、国に対して被害者への損害賠償を命じた。
最高裁判決の内容
本判決は、旧優生保護法の不妊手術に関する規定が憲法13条および14条1項に違反するものであったことを認めた。
その上で、除斥期間の適用について、①立法行為の人権侵害性が明白な場合は法律関係の安定という除斥期間の趣旨が妥当しない面がある、②国の責任が極めて重大、③被害者らの損害賠償請求権の行使は極めて困難、④国会が長期間にわたり補償の措置を取らなかった等を理由として、旧優生保護法による被害に除斥期間を適用することは、著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができないと判断した。
訴訟運営における合理的配慮
最高裁判所は、本件の審理・判決に当たって、傍聴者向けの手話通訳の手配、弁論および判決の内容を文字で映す大型モニターの法廷内への設置、点字版資料の配布等を行い、障がいのある当事者および傍聴者に向けたさまざまな配慮を提供した。すべての人に開かれた裁判の実現に向け、歴史的な一歩が踏み出されたと言える。
他方、当事者向けの手話通訳等の費用が公費で賄われないなどの課題も残った。
会長声明の公表
日弁連は、7月3日付け「旧優生保護法国賠訴訟の最高裁判所大法廷判決を受けて、被害の全面的回復及び一時金支給法の改正を求める会長声明」を公表した。
係属している同種の全訴訟について、和解による早期解決を求めるとともに、一時金支給法を抜本的に改め、すべての被害者に対し、被害を償うに足りる適正な額の補償金の支給等を定めた補償制度を一刻も早く再構築することを国に求めた。
全国一斉相談会
7月16日、日弁連は47の弁護士会と共催し、全国一斉旧優生保護法相談会を実施した。当日の相談件数は合計174件であり、2022年12月に実施した相談会に比べて、相談件数が大きく増加する結果となった。
すべての被害者に救済が行き届くまで、被害者の掘り起こしを含めて取り組みを続けていく。
(人権擁護委員会 副委員長 松岡優子)
改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会――現在までの議論
改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会(以下「在り方協議会」)において、取調べの録音・録画等に関する制度とその運用の課題等に関する議論が行われている。
在り方協議会の位置付け
2016年改正刑事訴訟法の附則9条1項は、施行3年経過後に取調べの録音・録画等に関する制度の在り方等を検討することを定めている。これに基づき、2022年に在り方協議会が設置された。
2010年には、郵便不正・厚生労働省元局長事件において検察の不祥事が発覚し、検察の在り方検討会議が設置された。その後、法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会では、供述証拠の収集が適正な手続の下で行われるべきこと、公判廷に顕出される捜査段階での供述が任意性・信用性のあるものだと明らかになるような制度にする必要があることなどが共通認識とされた。度重なるえん罪事件への反省を踏まえて成立したのが2016年改正刑事訴訟法である。在り方協議会は、この改正の趣旨にのっとって議論を行うことが求められる。
議論の状況
2022年7月から始まった会議では、第1段階として、取調べの録音・録画制度や刑事免責制度、通信傍受、裁量保釈、弁護人による援助の充実化、証拠開示制度の拡充、被害者・証人保護措置、証拠隠滅等の罪、自白事件の簡易迅速な処理、再審制度の運用などの状況について議論された。しかし、議論は統計上の数値等を基に行われ、具体的な問題事例が検討対象として取り上げられることはなかった。開催頻度が低く、1回当たりの時間も限られ、第1段階の議論が終了したのは本年3月である。
4月に取調べの録音・録画の使用機材などを視察し、6月から諸課題についての第2段階の議論が始まった。取調べの録音・録画に関しては、対象事件の範囲や除外事由の再検討、在宅被疑者・参考人等についての義務化などが検討事項である。
日弁連は今後も、取調べの録音・録画の全事件・全過程への対象拡大を含めた取調べの全面可視化を求めていく。会員におかれては、引き続きその基礎となる問題事例などの情報提供をお願いしたい。
(刑事調査室嘱託 須﨑友里)
国際刑事裁判所長と渕上会長が会談
国際刑事裁判所(ICC)は、戦争犯罪などの国際的な重大犯罪について世界中に管轄を持つ唯一の常設国際刑事法廷である。日本は2007年に創設根拠となるローマ規程を批准し、2023年時点で最大の分担金拠出国となっている。 本年6月12日、日弁連は、3月に日本人で初めてICC所長に就任した赤根智子氏を迎えて意見交換を行った。
渕上会長は、日本の女性法曹が国際的に活躍していることに大変勇気付けられているとして、赤根氏のICC所長就任に祝意を表した。
赤根氏は、ICCが果たすべき役割への期待の高まりを実感しており、公正中立な裁判所として、世界中のあらゆる被害者の人権を保護できるよう、関係者一丸となって業務に励んでいると述べた。一方で、不安定な国際情勢が続く現状に触れ、ICCへの信頼を確固たるものとするために取り組みを続けなければならないと語った。
日本の弁護士の法的素養は世界的にも高い水準にあるとし、弁護人、被害者代理人、検察局の客員実務家などのさまざまな形でICCの職務を担ってほしいと要望した。その実現のためにも、日弁連に対しては、定期的な意見交換会の開催や、会員に対するICCの活動等の周知、国際人権問題に関心のある若手弁護士への継続的な支援の検討などを望むとした。また、弁護士向けの研修などにも積極的に協力したいとの姿勢を示した。
会談では、日弁連とICCが今後も国際人権問題の解消に向けて相互に協力していくことが確認された。
ひまわり
花屋の軒先にひまわりの植木鉢が並ぶようになると、もうすぐ父の命日だなと思う。父が亡くなったのは私が大学生の頃だが、随分と昔のことになってしまった▼父はよく昔話をする人だった。終戦とともに満州から引き揚げてきた話、幼少期を過ごした佐渡島の話、中学卒業と同時に上京した話、自衛隊少年工科学校の話、大検を受けて大学に入った話、行商や夜警のアルバイトの話、司法試験の受験勉強の話、合格した年の口述試験の話など、何度も聞いた。こんな話を息子にすれば、俺は苦労して頑張った、お前も頑張れという説教くさい話になりかねないところだが、冗談交じりに面白おかしく話すので、父の話を聞くのは楽しみだった▼父が亡くなった夏は、私が択一試験に落ちた年の夏である。前年は受かっていたから今年こそはと期待していたかもしれない。親不孝な息子だ▼時を経て、なんとか試験に受かり、ひまわりのバッジを付け、家庭を持った。気づけば父が亡くなった年齢に近づいている。息子に語るべき経験もさしてなく、つい勉強したらどうかなどと言ってしまうだめな父親である▼今年の命日にはお墓にひまわりの花を供えてみよう。ひまわりの花言葉は敬慕・憧れ。心新たにもう少し立派な父親になろうか。(S・K)
捜査書類の適切な送致・管理を求める会長声明を公表
日弁連は、本年6月19日付け「 鹿児島県警察による捜査書類の廃棄を促す文書の作成・配布に関する会長声明」を公表した。法務省、最高検察庁、警察庁および国家公安委員会に対し、捜査書類の送致・管理を適切に行うよう周知徹底することなどを求めた。
鹿児島県警察が作成・配布した文書
鹿児島県警察が捜査書類の廃棄を促す内部向けの文書(以下「本文書」)を作成し、県警察本部や警察署内で配布していたことが明らかになった。本文書は、「再審や国賠請求等において、廃棄せずに保管していた捜査書類やその写しが組織的にプラスになることはありません!!」などとして、未送致書類を適宜廃棄するよう呼び掛けるものであった。
本文書の問題性
本文書は、捜査機関の一方的かつ恣意的な判断による捜査書類の廃棄を推奨し、刑事訴訟法が定める証拠開示制度を実質的に画餅に等しくするものである。捜査の違法性・不当性が問題となった場合の真相解明を困難にするものでもあり、公平・公正な裁判を受ける被告人の憲法上の権利を侵害することにもなりかねない。
また、過去の再審事件では、検察側が当初は存在しないとしていた証拠が後に捜査機関内で見つかり、再審開始決定・無罪判決につながった例が少なくない。本文書はこのようなえん罪被害からの救済を阻むものであり、その問題性は極めて大きい。
捜査書類の保全や開示制度の整備を
捜査書類は真実発見のために不可欠な公共財である。本文書の発覚により、捜査書類の送致・保管に関する捜査機関の意識・意欲の低さが改めて露呈した。また、証拠の適正保管・管理や証拠開示制度の整備を含む再審法改正の必要性も改めて明確になった。捜査書類の保全や開示制度の整備は急務である。
シンポジウム
死刑について考える~小説家と学者の対話~
6月11日 弁護士会館
日弁連は、2016年の人権擁護大会で「 死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し、国民的議論を呼び掛けてきた。本シンポジウムでは、死刑制度について発信を続けている平野啓一郎氏(小説家)と、法制審議会前会長の井田良教授(中央大学大学院)が対談した。
死刑制度の問題点
平野氏は、犯罪は加害者の成育環境や境遇にも起因することから、社会の問題として取り組むべきであり、死刑制度は加害者をこの世にいなかったことにすることをもって犯罪の決着を図ろうとする点に大きな問題があると指摘した。また、規範を破った者に対して刑罰を科すことを正当化するためには、科刑者たる国家が受刑者よりも常に倫理的に優位であることが前提となるが、死刑制度は、人を殺してはならないという規範の例外を国家自身が認める点で、刑罰の本質と矛盾していると述べた。
死刑制度の廃止に対する「被害者のことを考えていない」との非難の声についても、被害者が加害者への憎しみを抱いているであろうという一点のみで犯罪被害を捉えるのではなく、本来必要な経済的・精神的支援に目を向けて被害救済をしなければならないとし、犯罪被害者が直面する苦境を、加害者への憎悪をもって解決するような仕組みであってはならないと語った。
刑罰制度の在り方から
井田教授は、死刑の威嚇力、抑止力は科学的に証明できず、それを死刑存廃論の争点とする限り、議論の進展はないと指摘した。近代国家における被害救済は、犯罪による公益侵害に対して刑罰を科し、私益侵害は民事司法により回復を図るという、公益と私益の分離に立脚していると説き、被害者遺族の処罰感情を理由に死刑を存置させるべきとする考え方は、近代国家の刑罰制度の根幹を揺るがすものであると警鐘を鳴らした。
対談では、日本は人権に対する理解がいまだ成熟の途上にあり、それが死刑制度に関する議論が進まない原因の一つであるとの言及があったほか、日弁連が議論を支える役割を担っていくことへの期待が示された。
第23回弁護士業務改革シンポジウム第3分科会プレシンポジウム
創業社長から学ぶ上場までのストーリー
スタートアップ支援・創業支援はじめの一歩
6月18日 弁護士会館
スタートアップ支援や創業支援に当たっては、創業希望者のビジネスアイデアを言語化し、創業の準備から創業後の経営までの事業全体を継続的に支援する必要がある。
本プレシンポジウムでは、ある企業の創業から上場までの過程を踏まえ、弁護士が創業支援に関与する意義や支援内容等について議論した。
創業から上場までの弁護士による支援
伊藤一彦氏(BCC株式会社代表取締役、中小企業診断士)は、いわゆる創業社長として、2002年に27歳で起業した。その後M&Aなどの活用により事業を拡大して、2021年7月、東京証券取引所マザーズ(現グロース)に会社を上場させた。
伊藤氏は、会社を興してから上場するまでに受けた主な法的支援として、3人の弁護士からのサポートを挙げた。
起業して間もない頃に無料法律相談で出会った弁護士を1人目に挙げ、会社の取引先が倒産した際の売掛金の回収について有益な助言を受けたと語った。創業当初、事業資金の返済に苦慮した経験に触れ、創業者にとって資金繰りは死活問題であり、ぜひ寄り添って力になってほしいと呼び掛けた。
2人目に挙げたのは、ベンチャー支援のイベントで出会い、会社の顧問を依頼した弁護士。伊藤氏は、サポートを受けるに当たり、「トラブルになる前に相談してほしい」と言われたことで悩みを早めに相談するようになり、スムーズな事業運営へとつながったとし、早期の法的助言の有用性を強調した。
3人目には会社の社外取締役を務める弁護士を挙げた。会社の維持と発展には法的観点からの冷静な意見が不可欠であるとして、弁護士を社外役員に起用する重要性を語った。
パネルディスカッション
伊藤氏と北周士会員(東京)は、ベンチャーの創業者の多くが25歳から35歳ほどで起業していることから、同年代の若手の弁護士はそのビジネスアイデアや文化的背景を理解しやすく、良好なパートナーとしての関係を築きやすい側面があるとした。弁護士もベンチャーの創業者を対象としたイベントに参加するなどして自らの業務拡大を目指してほしいとし、より多くの若手弁護士がスタートアップ支援、創業支援に積極的に関わっていくことを要望した。
2024年度
全国一斉女性の権利ホットラインを実施
本年6月23日~29日(男女共同参画週間)を中心に、各地の弁護士会で「全国一斉女性の権利ホットライン」を実施した。
本ホットラインは、両性の平等に関する委員会の前身である、女性の権利に関する委員会の設置15周年(1991年)を契機に、「全国一斉女性の権利110番」としてスタートした。2001年からは、内閣府等の主唱により「男女共同参画週間」(6月23日から29日までの1週間)が設けられ、近年はこの期間を中心に実施してきた。2021年には「全国一斉女性の権利ホットライン」へと名称を変更している。
「110番」当時から毎年継続して、各地の弁護士会の協力を得て電話相談を受け付けている。近年はLGBTに関する相談なども寄せられ、相談窓口としての対応の幅は広がっている。
本年7月24日時点の集計によると、相談件数は668件に上る。弁護士会によっては電話相談のみならず面談相談や複数の実施日の設定、夜間・休日の実施など、相談のしやすさに配慮した工夫や体制整備もなされた。実施に先立つ地元新聞などでの告知記事の掲出、支援団体などと連携した広報にも努めた。
今後も、両性の平等に関する委員会を中心に、各地の弁護士会の関連委員会等で協議を重ね、一人でも多くの人に利用してもらえるよう、より充実した相談会の実施に向けて取り組んでいく。
(両性の平等に関する委員会第3部会 委員 射場和子)
第34回夏期消費者セミナー
霊感商法等の実態を知り、救済と予防を考える
7月6日 オンライン開催
第34回日本弁護士連合会夏期消費者セミナー「霊感商法等の実態を知り、救済と予防を考える」
なぜ人生のすべてが奪われるような被害が生じているのか。どうすれば被害をなくすことができるのか。霊感商法等の被害実態を改めて共有するとともに、信教の自由の保障やあるべき法制度について議論した。
霊感商法等の被害の実態
日弁連が関連機関と連携し、全国の弁護士会の協力を得て2022年9月5日から2023年2月28日まで実施した霊感商法等の被害に関する無料相談受け付けでは、約1500件の相談が寄せられ、被害の深刻さが明らかになっている。
郷路征記会員(札幌)は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の勧誘行為と寄附等について、個別の経済的拠出を取り上げてそれぞれが拠出者の意思に基づくものとみることは相当でなく、いずれも不当な伝道・教化活動により生じた結果であり、被勧誘者の自由意思を阻害する一連の違法行為に他ならないとし、規制の必要性を説いた。
憲法、民事法の観点から
山元一教授(慶應義塾大学大学院)は、フランスのセクト規制法では、宗教団体であるか否かにかかわらず、人々の心理的・肉体的な従属状態を維持または利用する目的を有する団体を規制し、他者を服従状態に陥れ自由な意思決定を奪う行為自体が取り締まりの対象になっていると解説した。規制の内容は、特定の集団を排除するものではなく、宗教的多様性を等しく市民社会秩序に包摂したものとすべきだと述べた。
沖野眞已教授(東京大学大学院)は、法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律の制定により、寄附の勧誘における配慮義務(3条)や禁止行為(4条)が、不法行為や公序良俗違反の要素となり、被害者による違法行為の立証負担の軽減につながり得ると説明した。違法行為が継続する中で拠出者の判断基準をゆがませる霊感商法の特殊性を指摘し、マインドコントロール下での法律行為を無効・取り消しの対象とする諸外国の例にも言及した。
パネルディスカッション
郷路会員は、被害者の苦しみに接してきた経験を語り、信仰は精神的自由の根幹であり、信仰の選択が不当にねじ曲げられる苦痛は筆舌に尽くしがたいとして、被害の救済の必要性を訴えた。山元教授は、弱い立場にある人々の権利保障のために、法専門職が役割を果たしていくべきだと強調した。
シンポジウム
「安全なマンションに居住する権利」の実現
共用部分の欠陥の100%の補修を目指して
6月7日 弁護士会館
シンポジウム「安全なマンションに居住する権利」の実現-共用部分の欠陥の100%の補修を目指して-
建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」)により、マンションの管理者は「共用部分等について生じた損害賠償金」等の訴訟に関して、区分所有者全員を代理する権限が認められているが、一定の場合にこれを否定する裁判例が出現している。
本シンポジウムでは、共用部分の欠陥の100%補修を実現する立法化に向けて意見を交わした。
問題の所在
東京地裁平成28年7月29日判決は、マンションの区分所有権の転得者が居住者に含まれる場合、その者が共用部分等について生じた損害賠償請求権を譲り受けていない限り、マンション管理者は、区分所有者全員を代理することができないとした。
実務上、欠陥の発見時にすでに転売が生じていることは多い。元の区分所有者を探し出し、全員から債権譲渡を受けることは非現実的である。管理者による訴訟追行は不可能または著しく困難となって、損害賠償請求権を行使できないことで、共用部分等の欠陥を補修することができず、マンション管理の現場で大きな問題となっている。
要綱案の概要と問題点
本年1月16日、法制審議会区分所有法制部会において示された「区分所有法制の見直しに関する要綱案」の「第1・6」(以下「要綱案」)は、共用部分等について生じた損害賠償請求権は元区分所有者にとどまるとの構成の下、管理者は元区分所有者も代理して権利行使が可能とする。しかし、元区分所有者は「別段の意思表示」をすることでこれを拒絶できる。
消費者問題対策委員会の森友隆成副委員長(広島)と折田泰宏会員(京都、元日本マンション学会会長)は、「別段の意思表示」が濫用的に行使される懸念があるなど、要綱案は解決策として不十分であると指摘した。課題を解消するためには、マンションの転売に伴って損害賠償請求権も当然に移転するものとすべきであると語った。
パネルディスカッション
鎌野邦樹名誉教授(早稲田大学)、花房博文教授(創価大学法科大学院、弁護士(第二東京))らが加わり、あるべき立法のほか、要綱案を前提にしつつ規約を活用して「別段の意思表示」を排除できないかといった方法論なども議論した。
コーディネーターの水谷大太郎委員(愛知県)は、安全なマンションに居住する権利は人権であり、実務上の不都合が解消される法改正が実現するよう、多くの声を上げていく必要があると力を込めた。
シンポジウム
インクルーシブ教育の実践と地域で生きる権利 in大阪
〜障害者権利条約2022年総括所見の実現を目指して〜
6月29日 大阪弁護士会館
シンポジウム「インクルーシブ教育の実践と地域で生きる権利in大阪 ~障害者権利条約2022年総括所見の実現を目指して~」
日本は2014年に国連障害者権利条約を批准しているが、支援を要する児童生徒の分離教育が進んでいる。2022年の総括所見ではインクルーシブ教育について強い勧告を受け、学校教育を根本的に見直すべき時期にある。
本シンポジウムでは、インクルーシブ教育を国に先駆けて実践している自治体の取り組みや諸外国の制度を踏まえ、日本における学校教育の在り方を議論した。
人権としてのインクルーシブ教育
人権擁護委員会障がいを理由とする差別禁止法制に関する特別部会の大谷恭子特別委嘱委員(東京)は、国際社会で求められているインクルーシブ教育とは、あるがままの状態を尊重して当事者の人権を実現しようとするものであるが、日本の障がい児教育の実態は、地域で共に学びたいなどの本人や保護者の意向を軽視して通常学級から分離してきたものであると批判した。真のインクルーシブ教育を実現するためには、分離ではなく、すべての子どもにとっての学校の在り方を考え、社会の意識変革につなげることが必要であると説いた。
北欧の教育制度
大胡田誠副部会長(第一東京)は、スウェーデンおよびノルウェーの教育制度の視察結果を報告した。障がいのある子どもも同じ教育を受けることを基本に据えながら、発達を保障するために専門的な教育を取り入れるもので、地域の学校において他の子どもとの共生・共育と必要な発達支援がバランスよく取り入れられており、長年にわたってこれらが対立する日本の教育制度に重要な示唆を与えるものであると述べた。
豊中市での実践例
パネルディスカッションでは、大谷特別委嘱委員、大胡田副部会長に加え、障がいの有無を問わず同じ教室で授業を実施する体制を確立している大阪府豊中市の教育関係者らが登壇した。
同市で教育を受けた元生徒は、障がいのある人と共に過ごす環境を当たり前と認識しており、それによる困難を感じることはないと語った。常清麻紀氏(豊中市立小学校教員)は、学校教育現場での経験から、子どもたちは障がいのある生徒と一緒に学校生活を送るに当たって何をなすべきかを自ら考えて行動し、成長していくと話した。子どもの考える機会や可能性を奪わないことを大切にし、同市の取り組みを広げていきたいと語った。
シンポジウム なぜ、国際人権保障が重要か
〜国際人権の誕生から個人通報制度まで〜
6月18日 早稲田大学
シンポジウム「なぜ、国際人権保障が重要か~国際人権の誕生から個人通報制度まで~」
国際人権保障は国際社会における人権侵害や武力紛争の抑止だけでなく、身近な人権状況を改善する役割も果たす。
本シンポジウムでは、日本における人権保障の状況や人権条約に基づき設置された委員会への個人通報制度導入の必要性を議論した。
基調講演
国際人権(自由権)規約委員会元副委員長の古谷修一教授(早稲田大学)は、第二次世界大戦の経験は、人権を抑圧する権威主義的・独裁主義的国家が平和を脅かす危険が大きいことを示唆していると指摘した。それを踏まえて国際の安全と平和を守るための人権保護が国連の任務として組み込まれ、国際人権保障が発展してきたことを説明した。
個人通報制度では、国連の各委員会による審査を経て採択された見解または勧告が公表される。締結国に対して180日以内に勧告内容の履行状況の報告を求めるとともに、通報者からの情報提供や面談等により同国の履行状況を確認した上で、追加的措置を決定・公表し、一連のフォローアップにより人権侵害解消につなげる。古谷教授は、これらの公表は国際社会からの批判であり、個々の通報事案の救済のみならず、中長期的に締結国の人権状況の改善を促進させるものだと述べた。
基調報告
浅倉むつ子氏(女性差別撤廃条約実現アクション共同代表)は、日本では夫婦別姓制度が導入されていないなど、女性の権利の観点から人権保障が確立していない現状を指摘した。崔栄繁氏(認定NPO法人DPI日本会議議長補佐)は、個人通報制度により人権侵害が解消したスペインの事例を挙げ、障がい者の権利の保護のために同制度の必要性を訴えた。
小川隆太郎会員(東京)は、日本の入管収容の実態について、国連憲章に基づく国連人権理事会の特別手続である国連恣意的拘禁作業部会に対する通報を行って国際人権法違反との認定を得たことや、それを国賠訴訟で活用したことを報告した。
座談会
個人通報制度実現委員会の石田真美委員(兵庫県)は、日本で個人通報制度を導入することにより、国内法の解釈において国際条約が強く意識され、人権保障の促進につながると強調した。古谷教授は、国際水準の人権感覚の定着や社会の変化に向けて、ビジネスの世界も含めて人々が研さんし続けることが必要であると語った。
JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.193
若手チャレンジ基金制度シルバージャフバ賞
受賞者インタビュー
第3回となる2023年度若手チャレンジ基金制度「弁護士業務における先進的な取組等に対する表彰」部門でシルバージャフバ賞を受賞した2人の会員に、それぞれの活動についてお話を伺いました。
(広報室嘱託 花井ゆう子)
海外弁護士らと協力・連携して訴訟活動を展開
吉田幸一郎 会員(第二東京)
取り組みの概要
カメルーン出身男性に対する難民不認定処分の取消訴訟で男性の代理人を務めました。男性は反政府活動を理由にした政府による迫害から逃れるため来日し、パスポートしか持っていませんでした。代理人活動は、どうすれば争う材料を収集できるか、からのスタートでした。男性の知人らのつてをたどり、カメルーンの政治団体の構成員リストや迫害を受けて死亡した男性の同僚の死亡診断書、現地の新聞記事、虐殺の映像などを一つ一つ収集しました。
また、現地の弁護士に協力を求め、カメルーンで発付された男性への逮捕状や、現地関係者の証言を得ました。彼らは自身も危険を抱えながら、母国の現状を知ってほしいとの思いや使命感から協力してくれたのです。
第一審の東京地裁で勝訴判決を得たものの、東京高裁では逮捕状にスペルミスがあるなどとして証拠の信用性が否定され判断が覆りました。公的書類に誤りがあるはずはないという前提に立ち、国情や文化の違いを無視した不当な判断で、現在は上告中です。
活動を通じて感じたこと
何をなすべきかを常に考え、自分を信じて取り組みました。これを評価してもらえたことを率直に嬉しく思います。
同時に、難民認定申請者が困難な立証を強いられている現状に疑問を抱いています。個人と国とでは圧倒的な情報格差があり、母国から追われた者であればなおさらです。しかし、入管は資料集めをしません。また、国の誤りを正す行政訴訟の費用を補償する制度も必要です。これがなければ、難民として保護を求める人を救済することはできません。日本の難民認定率の低さも見過ごせず、日本政府はもちろん私たちも、国際的に取り残されるという危機感を持つべきです。
さらなる若手支援を
困難な事件ですが多くの学びを得ています。怯まずにチャレンジすることには意義があると、今回の経験から強く感じます。若手会員が経済的な不安などで躊躇してしまうことなく挑戦できるよう、さらなる環境整備や支援に期待します。
聴覚障がい者への情報提供支援
相原 健吾 会員(兵庫県)
取り組みの概要
兵庫旧優生保護法被害国賠訴訟の弁護団の一員として訴訟活動に当たり、被害者のサポート、特に「知る」ことの支援に取り組みました。裁判に向けた会議には聴覚障がいを持つ被害者や支援者も多く参加します。訴訟経過の説明には、法律用語自体の難しさに加え、身体的な壁があります。そこで、判決の概要を分かりやすく解説する手話通訳動画を作成しました。判決文を平易にし、手話に翻訳する過程では、抽象的な概念(消滅時効と除斥期間の違いなど)の表現のしにくさという手話の特性に苦労しました。他方で、動画を見た方からは初めて裁判の意味が分かったと言っていただき、知ること、理解することの重要性を実感しました。
きっかけとなった旧優生保護法問題
旧優生保護法による問題は遠い昔のことだと思っていましたが、何万人もの被害者が現実に存在する実態を知り、放っておいてはいけないと活動に加わりました。第一審の神戸地裁では除斥期間の経過を理由に請求が棄却されましたが、大阪高裁では逆転勝訴となりました。全国各地で司法判断が集積され、本年7月3日、最高裁大法廷の判決が出ました。同判決は、旧優生保護法が憲法13条、14条1項に違反していると述べ、除斥期間の適用は、著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができず、信義則に反し、または権利の濫用として許されないとして、国の賠償義務を認めました。
社会をより良くするために
被害者への一時金支給制度は救済として不十分で、新たな法整備を望みます。また、障がいなどを持つ方に対する、裁判を受ける権利の実質的な保障や合理的配慮の観点から、裁判所でもルビや点字、手話通訳などの配慮の充実が必要だと思います。
旧優生保護法の被害救済は、仙台の当事者による人権救済申立て、日弁連が公表した意見書などをきっかけに世論が動き出しました。働き掛けにより法律が改正され、声を上げれば社会は変わることを実感しました。今回の表彰を受けたことで講演に招かれるなど自分の活動の幅も広がっています。私の活動を知っていただくことで、果敢に行動する若手会員が増えれば嬉しく思います。
ブックセンターベストセラー (2024年6月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター
順位 | 書名 | 著者名・編者名 | 出版社名 |
---|---|---|---|
1 |
事業承継・M&Aの実務と考え方 |
西本隆文/著 | 日本能率協会マネジメントセンター |
2 |
事例解説 離婚と財産分与―裁判実務における判断基準と考慮要素 |
松本哲泓/著 | 青林書院 |
3 |
「裁判官の良心」とはなにか |
竹内浩史/著 | LABO |
4 |
有斐閣コンメンタール 新注釈民法(13)Ⅰ 債権(6) |
森田宏樹/編集 大村敦志、道垣内弘人、山本敬三/編集代表 | 有斐閣 |
5 |
民事訴訟 裁判官からの質問に答える技術 |
中村雅人、城石 惣/共著 | 学陽書房 |
6 |
令和5年度重要判例解説 |
有斐閣 | |
7 |
法律文章読本 |
白石忠志/著 | 弘文堂 |
類型別 慰謝料算定の実務Ⅰ |
平田 厚/著 | 青林書院 | |
エンターテインメント法務Q&A〔第4版〕 |
エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク/編 | 民事法研究会 | |
10 |
株式会社法〔第9版〕 |
江頭憲治郎/著 | 有斐閣 |