日弁連新聞 第603号

支援の内容を大幅拡充!
2024年度 若手チャレンジ基金制度

若手チャレンジ基金制度は、弁護士としての活動の幅を広げるために積極的にチャレンジする若手会員を、日弁連が支援する制度である。本年度は支援対象や金額を大幅に拡充して実施する。本稿では2023年度からの変更点を含めた制度の概要を紹介する。


対象となる若手会員の拡大

2023年度は対象会員が新65期から72期までであったが、本年度は新65期から75期までの会員を対象とした。より幅広い若手の会員が利用できるものとなった。


対象活動や支援等の概要

本制度において支援対象となる活動等は、次の4つである。


①公益的活動等への支援

社会的・経済的に困窮した人を支援する団体と提携した法律相談等の法的支援や各種弁護団活動、会員独自に行う法教育の活動などに対し、最大20万円の支援金を支給する(2023年度の最大10万円から増額)。


②研修・学習等への支援

弁護士業務に生かすための各種スキルアップ講座、簿記や社会福祉士等の資格取得講座、語学講座などによる研修・学習に対し、実負担額(10万円以上)に応じて7万円または10万円の定額での支援金を支給する(2023年度の実負担額の3割かつ最大10万円から定額化)。


③先進的な取組等への表彰

従来の弁護士業務の枠にとらわれない活動や、将来にわたって影響がある判決の獲得等を対象とし、受賞者に最大50万円の副賞を贈呈する(2023年度の最大30万円から増額)。


④先進的な取組等への助成

現時点では実現していないものの、将来の弁護士業務に画期的な進歩・改善をもたらすことが期待される取り組み等に対し、2023年度と同様に、最大30万円の助成金を支給する。


積極的な利用を!

本年度の対象期間内に行った活動等であれば、同一の活動について①〜④それぞれに重複して申請することができる。また、過去に支援金を支給された活動等であっても、本年度の対象期間内にも実施していれば申請が可能である。


本制度の活用により、若手会員が活動の幅を一層広げることを期待している。


(研修・業務支援室  室長 岩田康孝)



法制審議会
民法(成年後見等関係)部会が設置

1999年以来となる成年後見制度の抜本的改正が動き出した。本年2月15日の法制審議会総会において成年後見制度の見直しに関する法務大臣の諮問がなされ「民法(成年後見等関係)部会」が設置された。4月9日から改正要綱案策定に向けた議論が開始されている。

確定的なものではないが、2026年度には民法および関連法の改正案が国会に提出されることが想定される。


改正に向けた議論のポイント

現行制度については、「第二期成年後見制度利用促進基本計画」(2022年3月閣議決定)において見直しに向けた検討が求められ、同年9月には国連障害者権利委員会からの障害者権利条約による総括所見で是正勧告が出されている。


今回の改正は、「成年後見制度を利用する本人の尊厳にふさわしい生活の継続やその権利利益の擁護等をより一層図る観点」(諮問事項)から検討される。2022年6月から開催された商事法務研究会「成年後見制度の在り方に関する研究会」が本年2月に取りまとめた報告書では、現行制度の問題点として、①制度利用の動機となった課題が解決し、本人や家族において、家族その他の支援によって制度利用の必要がなくなったと考えられる場合でも、判断能力が回復しない限り制度の利用が継続すること、②本人にとって必要な限度を超えて、本人の行為能力が制限される場合があり、取消権や代理権が広すぎること、③成年後見人等による代理権や財産管理権の行使が、本人の意思に反して、または、本人の意思を無視して行われることで、本人の自律や自己決定に基づく権利行使が制約される場合があること、④本人の制度利用のニーズの変化に応じた成年後見人等の交代が実現せず、本人が自らのニーズに合った保護を十分に受けることができないこと等が指摘されている。


今後について

本部会において現行制度の問題点を踏まえた改正内容が検討されることになり、家庭裁判所の審判実務や弁護士を含む成年後見人等の実務にも大きな影響がある。日弁連は、委員2名・幹事1名を選出し、関連委員会横断でのバックアップ会議を設置して対応に当たる。


議論状況を会員に広く周知するとともに、現場の意見を集約しながら、本人の意思を十分に踏まえ、適切な時機・事項につき、必要最小限度の範囲・期間で代理権等を付与する制度への改革に向けて取り組みを進めていきたい。


(法制審議会民法(成年後見等関係)部会バックアップ会議委員 青木佳史)



犯罪被害者等支援弁護士制度創設へ

本年4月18日、犯罪被害者等支援弁護士制度(以下「本制度」)の創設を盛り込んだ総合法律支援法の一部を改正する法律(以下「改正法」)が成立した(2026年までに施行の見通し)。


犯罪被害者や犯罪被害者遺族(以下「犯罪被害者等」)は、被害によって身体的・精神的・経済的な負担を強いられる。本制度の創設によって、被害届の提出や告訴、事情聴取等の捜査機関への対応、加害者・弁護人との示談交渉や加害者に対する損害賠償請求、証人尋問や法廷傍聴、少年審判傍聴などの民事・刑事の各種手続について、被害直後の段階から弁護士が犯罪被害者等の代理人となるなどの支援を受けることが可能となる。


本制度は、弁護士による早期からの一貫した法的支援を犯罪被害者等に提供することに主眼を置く。これまで会員の会費を原資として運営されていた犯罪被害者法律援助事業の一部が国費負担となったものである。必要な経済的援助を行うことで、民事・刑事等各種手続へのアクセスを十分確保し、それらの手続を通じた継続的かつ包括的な法的支援により、犯罪被害者等の実効的な救済を実現することが期待される。


利用者には原則として費用負担を求めないとされている。一定の資力要件が設けられることとなっているが、改正法成立の際の附帯決議にもあるとおり、犯罪被害者等が費用負担を理由として利用を躊躇することのないような制度設計が望まれる。


(犯罪被害者支援委員会  事務局次長 増村圭一)



障害年金制度の認定基準に係る早急な見直しを求める意見書

arrow 障害年金制度の認定基準に係る早急な見直しを求める意見書


日弁連は、本年4月19日付けで「障害年金制度の認定基準に係る早急な見直しを求める意見書」を取りまとめ、厚生労働大臣に提出した。


経緯・背景

障害年金は障害のある人の重要な社会保障上の権利であるにもかかわらず、問題が山積している。国は、厚生労働省の社会保障審議会年金部会において議論を進め、2025年度に年金制度改革を実施する方針である。いわゆる「医学モデル」に依拠した障害年金制度の抜本的改革が求められる。


その一方で、障害年金受給権の不当な侵害の解消は喫緊の課題である。具体的には、根拠法令上の障害等級規定の表現や内容に問題がある。また、その解釈適用基準として障害年金の認定実務に大きな影響がある「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」の「障害認定に当たっての基本的事項」(以下「基本的事項」)の内容が障害者の生活実態とかけ離れている。少なくともこれら当面の不合理な点を見直し、認定実務が恣意的に運用され、障害年金を受給できるはずの多くの障害者がその支給を受けられていない現状を、早急に改善する必要がある。


意見の趣旨

本意見書では、①国民年金法施行令別表の1級9号の文言を、現代社会で用いられる表現に改訂し、同別表2級15号と共にその内容について現在の障害年金受給者の生活実態を反映すべく、機能障害を重視するものではなく日常生活上の制限の程度を基準とするよう改訂すること、②基本的事項の例示や、2級の障害の程度を示す「労働により収入を得ることができない程度のものである。」の文言を削除すること、③基本的事項が定める「認定の方法」は、医学的な資料だけでなく、日常生活の状況等を総合的に考慮したものとすること、④国民年金法施行令および厚生年金法施行令上の精神障害に関する「障害の状態」の規定をより明確にすること、⑤知的障害について、同各施行令上に精神障害とは独立した項目を設けることを求めている。


(日弁連高齢者・障害者権利支援センター委員 徳田 暁)



日弁連短信

後見制度だけではない改革に向けて

成年後見制度の見直しに向けた議論が法制審議会民法(成年後見等関係)部会で始まったことは本紙面で報告されているとおりです。今般の見直しの実質的な理由は、端的に言えば、現行の成年後見制度が本人や親族、関係者にとって利用しやすいものではないことにあります。


現場で後見実務を担っている多くの会員からすれば、必要性があるから後見が開始され、必要性があるから継続しており、各種権限も適切に行使している、本人の意思尊重や意思決定支援も十分に行っている、交代も柔軟に対応しているのになぜ改正を、などと思うかもしれません。発足以来20年以上現行制度に基づき後見実務を担ってきている専門職としては、今般の見直しによって、むしろ保護されるべき人を放置する、または投げ出すことになるのではないかという懸念を抱くのも自然なことと思われます。


他方で、本人の権利擁護支援という観点から、社会を俯瞰してさまざまな社会福祉制度やサービスに目を向けた時、成年後見制度は決して万能なものでも唯一の方策でもなく、あくまで手段の一つであることに気付かされます。


法制審議会の部会に先立って行われた商事法務研究会「成年後見制度の在り方に関する研究会」が取りまとめた報告書の冒頭には「多数の委員から、本人にとって必要かつ望ましい保護、支援は、民事基本法制としての成年後見制度のみによって実現されるものではなく、本人を支える他の制度との連携の上で構築され、具体的に実現されていくものであるとの意見があった」との指摘があります。まさにそのとおりであると思います。ここでの「他の制度」としては、例えば家族等による支援や福祉等による支援が挙げられますが、これらだけではありません。成年後見制度と両輪をなす施策のイメージを、我々弁護士も具体的に描いていく必要があると思います。議論・検討すべき対象は民法だけではありません。


成年後見制度は、家族や自分自身も利用する可能性が大いにあるものです。使い勝手の良さは他人事ではありません。実務家の視点に加えて、当事者の視点でも関心を寄せていただき、議論が活発化することを期待します。


(元事務次長 亀井真紀)



シンポジウム    すべての戸建住宅に構造計算を! Part2
~法改正により危険な4号建築物はなくなるのか・令和6年能登半島地震被害も踏まえて~ 4月5日 弁護士会館

arrow_blue_1.gifシンポジウム「全ての戸建住宅に構造計算を!Part2~法改正により危険な4号建築物はなくなるのか・令和6年能登半島地震被害も踏まえて~」


木造2階建て以下の戸建て住宅等の小規模建築物(以下「4号建築物」)には、構造審査の省略(手続的特例)、構造計算の免除(実体的特例)が認められており、日弁連は、安全性確保のためにその是正を求めてきた。2025年4月には改正建築基準法の施行が予定されるが、なお問題は残る。問題を共有し、あるべき建築基準法令について考えるため、本シンポジウムを開催した。


建築基準法改正の概要

消費者問題対策委員会の神崎哲幹事(京都)は、法改正により、木造2階建て戸建て住宅への手続的特例は無くなるが、小規模な平屋建て等ではなお特例が残ること、実体的特例の範囲も縮小するが、一部の木造2階建てへの特例は残ることなどを説明した。その結果、手続的特例がある建築物と実体的特例がある建築物の範囲が異なることにも注意を促した。


能登半島地震での建物倒壊被害の状況など

佐藤実氏(一級建築士、株式会社M’s構造設計代表)は、震災後の能登半島を視察し、建物倒壊やそれにより避難経路がふさがれた状況が多く見られた一方、耐震構造の建物は倒壊せずに残存していたことを報告した。地震は天災だが、建物倒壊による被害は人災であり、適切な審査や構造計算によって防止できる社会課題であるとして、手続的・実体的特例は全面的に廃止されるべきであると強調した。


東郷拓真氏(一級建築士、京都芸術大学客員教授)は、人命や財産の保護という法の趣旨からすれば、建物ごとの特徴に応じた構造計算が当然に実施されるべきだとし、構造を理解することで、安全で美しく快適な建物を造ることができるという認識が社会に浸透してほしいと語った。


パネルディスカッション

登壇者らは、すべての戸建て住宅の安全性確保に向けた課題として、建築基準法令はあくまで最低限の基準に過ぎないことが建築業者に理解されていないことや、建築基準法上の仕様規定の曖昧さなども指摘した。構造審査や構造計算の義務化は、消費者保護にとどまらず、むしろ自由な設計を促進するとして、4号建築物の構造安全性の基準を引き上げていくべきであると締めくくった。



新事務次長紹介

亀井真紀事務次長(第二東京)が退任し、後任には、6月1日付けで妹尾孝之事務次長(神奈川県)が就任した。


妹尾孝之〈せのお たかゆき〉(神奈川県・55期)

横浜で主に地域の案件に携わっておりましたが、この度、事務次長として日弁連の運営を補佐する機会をいただきました。社会に課題が山積する中、多岐にわたる日弁連の活動をしっかりと支えられるよう努めます。どうぞよろしくお願いいたします。



公開講座
社外取締役の職務の要点 ~改訂社外取締役ガイドラインを考える~
4月12日 弁護士会館

arrow公開講座「社外取締役の職務の要点~改訂社外取締役ガイドラインを考える~」


日弁連は、2023年12月14日付けでarrow 社外取締役ガイドラインを改訂した(以下「改訂ガイドライン」)。
本講座では、その解説とともに、経営経験や専門性を持つ社外取締役、機関投資家を迎え、監督機能を中心とした社外取締役の役割について議論した。


改訂ガイドラインについて

上場企業の企業統治に関する指針であるコーポレートガバナンスコードの改訂(2021年)、東京証券取引所の市場区分変更(2022年)、敵対的買収や株主提案の増加、経済産業省の各種ガイドライン等の公表を踏まえて見直されたのが改訂ガイドラインである。司法制度調査会の中西和幸特別委嘱委員(第一東京)は、就任から退任までの各場面における定型・非定型の職務や、特別な事態への対応など、社外取締役の職務に関する重要な項目を網羅していると説明し、現役の社外取締役や予定者等に対して活用を呼びかけた。



社外取締役による監督への期待の高まり

松﨑正年氏(元コニカミノルタ取締役・代表執行役社長、LIXIL社外取締役・取締役会議長兼指名委員会委員兼ガバナンス委員会委員長)は、社外取締役として取締役会に関与するに当たっては、取締役や執行役による職務執行が、会社の経営方針に従い、業務の適正を確保するための体制に沿って実行されているかを常に注視することが重要であり、株主や機関投資家は社外取締役の監督機能に期待していると述べた。


古布薫氏(インベスコ・アセット・マネジメント運用本部日本株式運用部ヘッド・オブ・ESG)は、事業の新規参入など非定型的な事案の決定に当たって、社外取締役が監督機能を発揮し、その役割を果たすことが少数株主の保護につながると指摘した。資本市場との対話を促進する意識を持って社外取締役の職務を遂行してほしいと要望した。


中核人材の多様性確保のために

大川順子氏(元日本航空代表取締役専務執行役員、KDDI社外取締役等)は、育休制度の創設など社内制度の整備によって就業を継続でき、役員に就任した経験を語った。職場環境の改善を含め、多様な中核人材を育成することの重要性を指摘し、社外取締役がその意思決定にも積極的に関与していくことで中長期的に取締役の多様性が確保され、企業価値の向上につながると説いた。



シンポジウム
障害者差別解消法の改正―民間事業者の合理的配慮義務化―を踏まえて求められる対応
4月23日 弁護士会館

arrow_blue_1.gifシンポジウム「障害者差別解消法の改正-民間事業者の合理的配慮義務化-を踏まえて求められる対応」


障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律が改正され、本年4月から、民間事業者による障害のある人への合理的配慮の提供が法的義務となった。
法改正の内容や意義、民間事業者に求められる対応について理解を深めるべくシンポジウムを開催し、300人を超える参加(オンライン参加を含む)を得た。


基調報告

板原愛会員(東京)は、令和5年版障害者白書によれば、国民の約9.2%が何らかの障害を有していると指摘し、障害者の社会生活上の障壁を除去する責任は、障害者個人ではなく社会全体に対して課されていると説明した。法改正により合理的配慮の不提供は障害者に対する差別を構成し得るとして、関係府省庁が定める民間事業者向けのガイドライン等を踏まえた主体的な取り組みの必要性を強調した。


パネルディスカッション

今泉妃美子氏(全日本空輸株式会社CX推進室CX戦略部)は、施設等の整備のハード面と顧客に提供するサービス等のソフト面での取り組みを紹介した。人員や予算等の観点から合理的配慮の提供が困難な場合でも、理由を丁寧に説明した上で代替提案をするなど、顧客に向き合うことを心掛けているとし、公共交通機関としての社会的責任を果たす上でも、すべての人が利用できるサービスの実現を目指したいと語った。


志村正彦氏(東京都福祉局障害者施策推進部共生社会推進担当課長)は、法改正に先駆けて条例で合理的配慮の提供の義務を定めた東京都における、専門的な相談を受け付ける体制や調整委員会のあっせん等の紛争解決の仕組みを解説した。東京都障害者権利擁護センターでは、相談件数が2022年度に過去最高の429件に上り、そのうち24件は民間事業者からの相談であった。志村氏は、法令違反者と障害者という対立的な構図ではなく、対話を重ねて互いを認め合うことが共生社会の実現につながるとし、建設的対話の重要性を説いた。


松尾章司氏(東京都手をつなぐ育成会ゆうあい会会長)は、障害特性は人それぞれであり一律に対応できるものではなく、障害そのものと障害者個人への理解が重要だと語り、障害者の困りごとや要望に耳を傾け一緒に考えていってほしいと呼びかけた。



シンポジウム
任意後見制度のあるべき姿を考える
4月8日 弁護士会館

arrow_blue_1.gifシンポジウム「任意後見制度のあるべき姿を考える」


任意後見は、本人の自己決定権を尊重する制度として活用が期待されてきたものの、利用件数は伸び悩んでいる現状がある。任意後見制度をより利用しやすいものとするため、日弁連はさまざまな提言や改善に向けた活動を行っている。
本シンポジウムでは、任意後見制度のあるべき姿について議論した。


実務上の諸問題

①円滑な移行の観点から

日弁連高齢者・障害者権利支援センターの冨永忠祐副センター長(東京)は、本人の判断能力が低下した後も、任意後見監督人選任の申し立てがなされず任意後見に移行しない案件が多く見られることを報告した。福祉・行政などの公的機関を含む第三者にも申し立て権を付与するなどの方策にも言及し、第三者の負担も踏まえた上で実効的な方法を検討することが必要であると述べた。


②委任者の観点から

根本雄司委員(神奈川県)は、障害特性のある未成年者の親権者による任意後見契約の締結について、発効時期が受任者の意思に委ねられる、自己決定権の尊重という任意後見契約の趣旨と矛盾し得る、子の成年後の意思決定まで行うことになり親権の範囲を超え得る等の問題点を指摘した。


③より充実した身上監護の観点から

佐々木育子委員(奈良)は、任意後見契約の目的は本人の思いに沿った暮らしを実現することにあるとし、契約締結に関与する専門職は、医療や介護に関する本人の希望も十分に聞き取って契約条項を整え、任意後見人につなぐことが重要であると述べた。


パネルディスカッション

公証人の青木晋氏(新宿公証役場)、小宮山茂樹氏(千葉公証役場)、原啓一郎氏(丸の内公証役場)が加わり、実務上の諸問題を踏まえた対応などについて議論した。


登壇者らは、任意後見人が医療や介護に関する本人の意思を適切かつ正確に実現するために、医療行為に関する事前指示書やライフプランノートを尊重する旨の文言を契約条項として定める、要望を契約書の付言事項として記載するといった工夫などを挙げた。身寄りのない高齢者が増加する中、最期まで自分らしく生きることを実現できる任意後見制度の重要性は高まっているとし、制度の周知や改善に引き続き取り組んでいくことを確認した。



シンポジウム
アイヌの人権から考える、独立した人権機関の必要性について
4月19日 札幌弁護士会館

arrowシンポジウム「アイヌの人権から考える、独立した人権機関の必要性について」


日本では、国連からの再三の勧告にもかかわらず、人権の促進および擁護のための国家機関の地位に関する原則(パリ原則)にのっとった政府から独立した人権機関(国家人権機関)がいまだ設置されていない。

本シンポジウムでは、アイヌの人権問題解消の観点から、国家人権機関の意義について議論した。


国家人権機関についての報告

政府から独立した人権機関実現委員会の小林美奈委員(第二東京)は、諸外国の国家人権機関の活動を紹介した。具体例として、韓国では、政府によるハンセン病患者に対する人権侵害の調査を行い、これに基づく名誉回復と補償のための特別法の制定を勧告して実現に至ったこと、オーストラリアでは、先住民の子どもたちを親から強制的に離別させた同化政策の実態を解明し、国に対策を講じるよう勧告したことを挙げ、国家人権機関は、差別などの人権課題の解決に大きな役割を果たすと指摘した。


基調講演

公害対策・環境保全委員会アイヌ民族権利保障プロジェクトチームの市川守弘委員(旭川)は、アイヌの集団(アイヌコタン)としての権利について、日本政府が、実定法に規定がないことを理由に権利性を認めていないことや、アイヌコタンが鮭の捕獲権を有することの確認を求めた訴訟で、本年4月18日の札幌地裁判決が、集団として文化を共有する権利を認めつつ、経済活動としての漁業はその範囲を超えるとして権利性を否定したことを批判した。その権利は、歴史、伝統、文化等に由来する固有のものとして認められるべきであると説いた。


パネルディスカッション

アイヌ当事者である宇梶静江氏は、アイヌ民族は漁業、狩猟、採取といったなりわいを強制的に奪われて困窮し、教育の機会も奪われ就業上の差別などを受け続けていると語り、文化に根差した自立生活を可能にするべく早期に権利回復が果たされるべきだと憤りをもって訴えた。


政府から独立した人権機関実現委員会の佐谷道浩委員(茨城県)は、国家人権機関が設置されれば、アイヌの問題についても、話し合いの場の設定、強制力を持った調査、政府への実効的な政策提言などが可能となり、司法と異なる方法での人権救済が期待できると述べ、日本の人権状況を国際水準に引き上げるために、国家人権機関の設置が急務であると締めくくった。



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.191

若手チャレンジ基金制度ゴールドジャフバ賞
受賞者インタビュー

第3回となる2023年度の若手チャレンジ基金制度において、「弁護士業務における先進的な取組等に対する表彰」部門でゴールドジャフバ賞を受賞した2人の会員に、それぞれの活動についてお話を伺いました。

(広報室嘱託 枝廣恭子)


孤立出産に追い込まれない社会を目指して
石黒 大貴 会員(熊本県)

取り組みの概要

ベトナム国籍の女性技能実習生(以下「実習生」)が、孤立出産の末、死産した双子の遺体をタオルで包み、自宅の段ボール箱に入れていた死体遺棄罪事件の弁護人を務めました。一審、控訴審は執行猶予付き有罪判決でしたが、最高裁で無罪判決を得ました。


事件の実態を明らかにするために

事件当初、インターネット上などで実習生への多くの中傷がありました。しかし、事件の背景や事件当時の実習生の行動などの報道をきっかけに、社会の見方が少しずつ変わり始めたと感じました。それでも、控訴審では、実習生が妊娠を周囲に明かさなかったという事実が、隠匿・遺棄の意図を認定する方向で評価されてしまいました。


誰にも言えずに孤立出産へと至った実習生の置かれた状況や心理を明らかにすべく、孤立出産経験者の意見書を集め上告審で提出しました。意見書は127通に上り、逆転無罪という結果につながる大きな要因になったと考えています。


孤立出産を社会の問題として捉える

本件も契機となり、技能実習生の妊娠・出産をめぐる問題が社会に認知されるようになりました。一方で、技能実習生に限らず、近時、孤立出産関連事案が刑事事件として立件されるケースが増えている印象があります。妊娠・出産は社会全体で考え、支えていくべきものです。そこからこぼれ落ちてしまい孤立出産に至った人に刑罰を科し、個人の問題として完結する方向には疑問を感じます。孤立出産を社会の構造的問題として捉え、国が解決に向けて取り組むべきです。議論を十分に重ね、孤立出産が無くなる仕組みが構築されるよう、これからも力を尽くしていきたいと考えています。


若手弁護士支援への期待

私にとって上告審は未知の世界でした。その戦いで、経験豊富な先輩弁護士に弁護団に加わっていただけたことは非常に心強かったです。若手弁護士にとって先人の貴重な経験や知恵を共有していただける機会は励みになります。若手弁護士が恐れずに先進的分野に挑戦することを、弁護士業界全体で支援・後押ししていただくことを期待します。



必要な時に司法や福祉にアクセスできるように
徳田 玲亜 会員(埼玉)

取り組みの概要

弁護士登録1年目から、「風テラス」に携わっています。風テラスは一般社団法人ホワイトハンズ(当時)が運営する性風俗従事者向けの生活法律相談事業として始まりました。2022年にNPO法人化し、副理事長として、相談への対応のほか、団体の運営にも関与しています。


法的・福祉的サービスを届ける

受け付ける相談の内容に制限はなく、債務整理、インターネット上での誹謗中傷、離婚・男女関係トラブルなど多岐にわたる相談が寄せられます。相談にたどり着いたときには困難が多重化しており、法的支援のみならず福祉的な支援を要するケースが多々あります。風テラスでは弁護士とソーシャルワーカーがペアで対応します。活動当初から多数の相談がありましたが、コロナ禍では800件に上る月もありました。


性風俗従事者の中には自身の職業について尋ねられることへの抵抗感から相談を躊躇する方や、発達障害などを抱えて予定どおりの行動が苦手で相談窓口にたどり着けない方も少なくありません。そうした人たちの支援の窓口という役割を担っていると考えています。


取り組みを通じて思うこと

9年以上活動を重ねて、いつでも安心して相談できる場所があることやその意義が次第に認知され、相談件数が増えてきたことには成果を感じます。日本での性風俗従事者は増え続けていますが、性風俗に従事する人数それ自体が問題なのではありません。


風テラスは、“だれもが「今日の安心」と「明日の選択肢」を得られる社会の実現”を新たなビジョンに掲げて2024年をスタートしました。裏を返せば今の日本社会は今日という日を安心して過ごせず、明日をどう生きるかの選択肢がない人たちであふれているというのが私たちの認識です。誰もが目をそらしたい現実だと思います。しかし、これを「夜の世界」の問題だとして目を背けてはいけないと思っています。今回の受賞が、会員の皆さんに活動の理念を理解いただく機会となり、一緒に取り組んでもらえる方が増えれば嬉しく思います。



第23回
弁護士業務改革シンポジウムのご案内

「杜の都から発信!変革の時代を生き抜くための弁護士業務〜AIにできること、弁護士にしかできないこと〜」をテーマに、10の分科会を開催します。ライブ配信も行います。ぜひ、ご参加ください!


(第23回弁護士業務改革シンポジウム運営委員会委員長 久保井 聡明)


【開催日】2024年9月7日(土)

【会 場】 東北学院大学五橋キャンパス

(仙台市若林区清水小路3-1 地下鉄南北線「五橋駅(南2・荒町方面口)」直結)


全体会

11時00分〜11時20分(ライブ配信あり)


分科会 ※開始・終了時刻は分科会によって異なります。

第1分科会 11時30分〜17時40分
リーガルテクノロジーは弁護士業務をどう変えるか


第2分科会 12時50分〜17時40分
スポーツ事故補償のあり方について


第3分科会 11時20分〜16時10分
多様化する【創業】支援 〜クライアントと共に事業に変革をもたらす〜


第4分科会 12時50分〜17時40分
なってみっちゃ!自治体内弁護士 ――被災自治体の経験などを通じて


第5分科会 11時20分〜14時20分
我が国の司法アクセス推進のために弁護士費用保険と法律扶助との関係を考える―北欧調査を踏まえて


第6分科会 14時40分〜17時40分
法律事務所のポテンシャル最大化!〜小規模・地方・スタートアップにおける法律事務職員との協働による弁護士の能力最大化〜


第7分科会 11時20分〜14時20分
企業コンプライアンスの実効性確保のための企業内弁護士の役割


【会員限定】第8分科会 14時40分〜17時40分
民事信託を普段使いに ―民事信託の実践と注意点―


【会員限定】第9分科会 11時20分〜14時20分
弁護士増員時代、小規模法律事務所の明るい展望を得るために


【会員限定】第10分科会 14時40分〜17時40分
中小企業の伴走者としての国際業務支援―今から始める!国際業務をセールスポイントとするためのアプローチ―



参加のご案内

 全体会、分科会ともに、現地会場での参加(来場)とオンライン参加(ライブ配信の視聴)が可能です。

 *分科会の参加は、事前申し込み制です。 *各分科会の会場詳細は、当日ご案内します。

 *開場時刻は、開演の15分前です。

 *オンライン参加(ライブ配信)のURL等は、シンポジウム当日までに日弁連ウェブサイトに掲載します。

 *申込期限は、【2024年7月31日(水)】です。

 *各分科会の概要、申し込み方法等の詳細は、日弁連ウェブサイトのご案内をご覧ください。



ブックセンターベストセラー (2024年4月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名
1

労働法〔第13版〕

菅野和夫、山川隆一/著 弘文堂
2

法律文章読本

白石忠志/著 弘文堂
3

民事執行マニュアル〈下巻〉債権執行・その他の執行編

岡口基一/著 ぎょうせい

一問一答 新しい民事訴訟制度(デジタル化等)―令和4年民事訴訟法等改正の解説

脇村真治/編著 商事法務
5

民事執行マニュアル〈上巻〉総論・不動産執行編

岡口基一/著 ぎょうせい
6

株式会社法〔第9版〕

江頭憲治郎/著 有斐閣
7

新労働事件実務マニュアル〔第6版〕

東京弁護士会労働法制特別委員会/編著 ぎょうせい
8

一問一答 令和4年民法等改正―親子法制の見直し

佐藤隆幸/編著 商事法務
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企業法務1年目の教科書 契約書作成・レビューの実務

幅野直人/著 中央経済社



海外情報紹介コーナー㉒
Japan Federation of Bar Associations

ASEAN各国が人権問題について議論

本年2月20日から同月23日まで、ラオス・ビエンチャンにおいて、第38回ASEAN政府間人権委員会が開催された。ASEAN加盟国のほか、東ティモールがオブザーバーとして参加した(東ティモールにとってASEAN加盟は悲願であり、同国は正式加盟に向けて取り組んでいる。)。


会議では、警察活動と人権、人身売買、気候変動、障がい者および子どもの権利、貧困の撲滅と人権、フェイクニュースなどについて議論された。議長国ラオスは人権擁護の促進を呼びかけ、ASEAN各国の結束強化の重要性を強調した。


(国際室嘱託 鈴木一子)