日弁連新聞 第602号

電磁的記録提供命令制度の問題を指摘
修正を求める意見書を公表

arrow_blue_1.gif電磁的記録提供命令の創設を含む刑事訴訟法等の改正に当たり、プライバシーの権利等を保護するための修正を求める意見書


日弁連は、本年3月14日付けで「電磁的記録提供命令の創設を含む刑事訴訟法等の改正に当たり、プライバシーの権利等を保護するための修正を求める意見書」を取りまとめ、法務大臣に提出した。


法制審提案の電磁的記録提供命令

本年2月15日、法制審議会(総会)は、情報通信技術の進展等に対応するための刑事法の整備に関する要綱(骨子)を採択し、法務大臣に答申した。この中には、刑事手続における書類の電子化・オンライン化などのほか、捜査機関が電磁的記録を利用する権限を有する者に対し、刑事罰をもって電磁的記録の提供を強制することができるようにする電磁的記録提供命令制度の創設の提案が含まれている。


深刻かつ広範囲に及ぶ影響

要綱(骨子)は、捜査機関が「犯罪の捜査をするについて必要があるとき」に、裁判官の発する令状により、「必要な電磁的記録」の提供を命ずることができるものとしている。捜査機関は、現行法上の証拠収集に加えて、大量の電磁的記録を収集・蓄積・利用することができるようになる。これは、犯罪捜査には資するものであると言える一方で、個人の私的領域に侵入されることのない権利やプライバシー権を脅かす。弁護人との通信内容が把握されることにより秘密交通権が侵害される危険や、企業、労働組合、報道機関、市民団体、政党等の団体の活動が監視されることとなる危険もはらんでいる。要綱(骨子)の影響は、深刻かつ広範囲に及ぶものであり、看過することはできない。


意見の趣旨

本意見書では、プライバシーの権利をはじめとする市民の権利を保護するため、刑事訴訟法等の改正に当たって、①特定の犯罪事実と関連性のない個人情報の収集の禁止の明記、②自己の情報を取得された市民への不服申立ての機会の保障、③違法に収集された電磁的記録の消去、④特定の犯罪事実と関連性のない個人情報を含む電磁的記録の消去の請求権、⑤自己負罪拒否特権(憲法38条1項)の保障を担保するための措置、⑥個人情報の利用目的、保存期間および消去等の規定と独立した監督機関の設置を盛り込む修正を求めている。


(刑事調査室嘱託 須﨑友里)



ご活用ください!
偏在対応女性弁護士等経済的支援制度

新たな支援制度

日弁連は弁護士過疎・偏在対策として、弁護士の少ない地域へのひまわり基金法律事務所(過疎地型公設事務所)の設置や独立開業支援などを実施してきた。


女性弁護士の偏在を解消し女性弁護士への法律相談等のニーズに応えることは、弁護士過疎・偏在解消のための大きな課題である。女性弁護士の偏在解消は「arrow 第四次日本弁護士連合会男女共同参画推進基本計画」においても重点項目に掲げられている。


より多くの女性弁護士が地方で活躍する契機とすべく、新たに規則を制定し、「偏在対応女性弁護士等経済的支援制度」を設けた。対象となる女性弁護士(偏在対応女性弁護士)本人や、採用する側の弁護士等への経済的支援等を内容とするもので、本年4月1日から施行されている。


経済的支援の概要

①偏在対応女性弁護士への支援

地方裁判所支部管内の女性弁護士の登録がゼロの地域等に登録をする女性弁護士に対して、上限500万円の無利息での貸し付けを行う。「女性弁護士偏在解消に資する活動」を積極的に行うなどすることで、300万円までは収入を問わずに、これを超える部分についても経済的状況等により、返済の免除を受けることが可能である。


②採用弁護士等への支援

偏在対応女性弁護士を採用した弁護士等に対し、上限50万円を給付する。


従来の弁護士偏在解消のための独立開業支援策に比べても利用しやすい制度であり、ぜひ活用されたい。


(日弁連公設事務所・法律相談センター  委員長 石川裕一)


活動報告
大きな山場を迎える再審法改正

日弁連は、再審法(刑事訴訟法第四編「再審」)の改正実現に向けて、国会議員などへの働き掛けを重ねている。本稿では最近の主な取り組みを報告する。


院内会議の開催

本年3月12日、参議院議員会館で「再審法改正を実現する院内会議」を開催した。本テーマを掲げての院内会議(集会)の開催は、2023年度2回目である。


超党派の「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」が設立された翌日でもあり、国会の本会議等の合間を縫って出席した国会議員は代理出席・オンライン参加を含めて与野党の154人に上った。議員連盟の役員を務める議員からは、すべての国民がえん罪被害に巻き込まれる可能性があることを踏まえ、抜本的な再審法改正が必要であるとの挨拶があり、他の国会議員からも再審法改正の必要性が熱を込めて語られた。


袴田巖氏の姉である袴田ひで子氏、故櫻井昌司氏の妻である櫻井恵子氏は、えん罪被害者家族の立場から再審法改正を熱願した。また、秋元克広札幌市長の賛同メッセージも代読された。再審法改正実現本部の德田靖之副本部長(大分県)は、えん罪被害者一人一人の闘いが再審法改正の流れへとつながってきたとして、今を逃しては再審法改正は実現しない、実現のために力を貸してほしいと強く訴えた。


袴田事件公判の地での街宣活動

3月25日から27日まで、静岡地裁で袴田事件の再審公判の審理が3日連続で行われた。最終日の27日、静岡県弁護士会とともに静岡地裁周辺や市街地の公園で街宣活動を行った。2014年に裁判官として袴田事件の再審開始決定と死刑・拘置の執行停止を認めた村山浩昭会員(東京)も参加し、市民やメディアの注目を集めた。「いま、変えるとき。」「再審法改正」と大きく示したのぼりを掲げ、多くの市民に再審法の改正実現を訴え掛けた。フリーペーパーや再審法改正の必要性をコンパクトにまとめた資料を「ACT for RETRIAL」のロゴを印字したエコバッグとともに配るなど、これまでに工夫を凝らして作成したさまざまな広報ツールも活用した。


袴田事件公判の結審および本年夏頃と想定される判決をも見据え、法改正の実現に向けた活動を一層進展させていく。全国的な取り組みを通じてあらゆる力を結集させ、法改正が結実するよう、引き続き活動へのご協力をお願いしたい。


(再審法改正実現本部  副本部長 秀嶋ゆかり)



ひまわり

80歳に近い義理の母は、将棋の藤井聡太棋士の大ファンだ。棋戦配信サービスに加入し、スマホの小さな画面でタイトル戦を見守りながら「頑張れ!聡太!」と応援する。勝ったら大喜びで、負けたら本気で落ち込んでいる▼記事をスクラップし、出演したテレビ番組を繰り返し見る。八大タイトルを独占し、藤井聡太八冠が誕生した際はお祭り騒ぎ。推しを見つけて人生に張りが出てきた様子が本当にうらやましい▼そんな私は、実は小学校で将棋クラブ、高校で棋道部に所属していた。残念にも才能はなく、努力もしないまま過ごし、大学からはほぼやめてしまって30年近くが経った。弱いままでも、頑張って続けていたらなあ…▼友人が、長年楽器の演奏を続けていると知った。高音の響きが特徴で、扱いが難しい楽器とされる。先日その演奏を聴く機会を得た。練習が大変そうだったが、力強く、それでいて優しく包み込むような響きを奏でる姿に、素晴らしいと感じずにはいられなかった▼そんな私は、実は中学校で吹奏楽クラブに所属していた。その友人と同じ楽器を演奏していたものの、そこでやめてしまって35年近くが経った。もう全く演奏できない。頑張って続けていたらなあ…▼いやいや、そんな私にも実は…えっ、紙面がもう終わり…。(M・Y)



2024年度会務執行方針(要約)

arrow_blue_1.gif2024年度会務執行方針


はじめに

法律・司法に関する問題や人権擁護活動のみならず、平和、気候変動、災害などの大きな問題に対して、更に積極的に取り組みます。初の女性会長を先頭に、全ての国民の人権や個性が尊重され、誰もが自分らしく活躍できる社会を目指します。



第1 立憲主義と恒久平和主義を守る

安全保障関連法の廃止、憲法改正に関する諸問題に取り組み、立憲主義、恒久平和主義、基本的人権の尊重など憲法が定める基本原理の実現に向けて積極的に活動を進めます。



第2 市民の人権を守る

両性の平等、多様な性的指向・性自認や多文化、価値観の違いを認め合う社会の実現を求め、他者への気付きの機会を大切にします。


速やかな選択的夫婦別姓制度の導入を国会及び政府に強く求め、運動を展開します。


権利主体である子どもが自由に意見を表明し、その意見が尊重される社会の実現に取り組み、虐待問題やいじめ問題への対策を強化します。改正少年法が少年の更生に資する制度となるよう改善を求めます。国選付添人制度の対象事件の拡大に取り組みます。


市民が安心して暮らせる社会の実現のため、民事介入暴力による被害の防止・救済のための活動を推進します。


成年後見制度見直しの議論に積極的に参加し、専門職後見人の報酬の適正化や報酬助成制度の拡充を求めます。強制入院制度の廃止、入院に伴う尊厳確保のための手続的保障を求めて取り組みます。障害のある人への法的援助事業の国費・公費化への取組も推進します。


デジタルツールによる消費者被害、高齢者の消費者被害に対する支援態勢の整備に取り組みます。


霊感商法等による被害の救済・被害者支援を継続し、実効的な救済と予防に向けた立法措置及び体制整備を訴えます。


生活保護法改正要綱案に基づく法改正の実現を求め、生活保護基準の引下げの撤回を要求します。更なる最低賃金の引上げと全国一律最低賃金制度の実現に取り組みます。


外国人が抱える法律問題への支援を続けます。改正入管法の是正や難民認定制度の適正化、収容施設における処遇等の改善を求めます。ヘイトスピーチが許されないことを強く訴え差別的言動を禁止する法律の制定を求めます。


犯罪被害者等への経済的支援の拡充、配偶者暴力防止法改正を求めます。犯罪被害者等支援弁護士制度の充実や犯罪被害者への国費・公費による途切れのない援助の実現に向け活動を続けます。


被災地のニーズを正しく理解し、被災者に寄り添う支援を継続します。


持続可能な社会の実現、地球環境・生物多様性の保全、公害・環境汚染に起因する被害者救済等の課題について提言を続けます。


個人情報保護・プライバシー保護のための施策の充実を求め、マイナンバー利用の無限定な拡大に警鐘を鳴らしていきます。重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案について、国民の知る権利やプライバシー権の制度的保障を強く求めていきます。


インターネット上での誹謗中傷による被害者の救済のため発信者情報開示が更に容易になるよう法改正を求めます。


犯罪加害者家族が法律専門家の支援を受けられる態勢整備を求めます。


ビジネスと人権に関する指導原則に基づく企業の取組を促進するなどの取組を強化します。


政府から独立した人権機関の設置と人権侵害に対する救済のために個人通報制度の導入を求めます。



第3 法の支配を社会のすみずみに

扶助対象事件の拡大、弁護士報酬の適正化など利用しやすい民事法律扶助制度の実現を目指すとともに、IT化・デジタル化の推進など利用者の利便性の向上を求めます。


市民の弁護士に対するアクセス障害を軽減させるべく、弁護士費用保険制度の推進と信頼向上及び適正な報酬確保等に向けて取り組みます。


公設事務所、女性弁護士ゼロ支部への応募者増などに取り組みます。


法曹養成制度の改革に主体的に取り組み、引き続き法科大学院制度の状況を注視します。法曹の魅力を発信し法曹志望者増のための取組を一層強化します。


若手弁護士への支援策の更なる充実とその広報周知に取り組み、会員の業務拡大のサポートを行います。貸与制世代を中心とする若手弁護士が活躍し得る制度の構築を目指します。


弁護士の活動領域の更なる拡大を推進します。中小企業経営者等への伴走支援を進める活動を展開します。組織内弁護士の環境整備や研修などの会員のニーズに応えていきます。自治体との連携作りを積極的に後押しします。中小企業の国際業務支援活動の拡大を推進します。国際交流や法整備支援、国際人権活動、国際仲裁・調停の普及など、これまで以上に発展していく弁護士の国際活動を積極的に支援します。



第4 司法の未来―裁判手続を中心に

IT化・デジタル化が加速する裁判手続等が、利用しやすく手続保障が十分図られたものとなるよう意見を述べていきます。民事訴訟手続を真に実効あるものにするため、証拠・情報開示を更に促進する新制度の導入及び現行制度の拡充を求めます。慰謝料額の算定を適正なものとする規定や違法収益移転制度の創設も進めていきます。


刑事手続のIT化を、被疑者・被告人を含めた市民の権利を制約しないものとすることを強く求めます。全ての取調べについて全過程の録音・録画の義務付け、弁護人立会権の確立、証拠開示制度の改善等の実現を目指します。逮捕段階の公的弁護制度の創設、国選弁護報酬の適正化に向けた取組を行います。死刑廃止の実現に向けて関係諸団体と連携し、なお一層の取組を行います。罪に問われた障がい者等に対する福祉的支援活動に伴う費用の公費化に向けて立法事実を積み重ねます。拘禁刑の導入を受け、切れ目のない支援のための連携を図ります。再審請求審における全面的証拠開示の制度化、再審開始決定に対する検察官の不服申立禁止を含む再審法改正を最優先課題として、その実現のための取組を続けます。


家庭裁判所における司法手続が実質的に保障されるよう、人的・物的基盤の拡充を引き続き提言します。家事事件当事者の権利保護が十分に果たされるようIT化の運用面での対応を進めます。家族法制の見直しを受けて子どもの最善の利益を図るための施策や立法手当を提言します。


ADR利用の活性化を図るとともにODRの運用の適正さ、公正さが担保されるよう積極的な提言や問題提起を行います。


法務省によるガイドライン「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」の運用状況等を注視し必要に応じて意見を述べます。新技術(生成AI)が司法分野等に与える影響について精査・検討します。



第5 弁護士自治を守り新たな弁護士会の未来を築く

弁護士による不祥事の根絶に向け弁護士倫理研修を一層充実させるとともに、不祥事発生時には迅速かつ厳正に弁護士会の綱紀・懲戒手続を進めます。濫用的懲戒請求に対する弁護士会の負担軽減の方策を引き続き検討します。弁護士がマネー・ローンダリングに巻き込まれることを防ぐための取組を進めます。


ダイバーシティ&インクルージョンを一層推進し、弁護士業界における男女共同参画の更なる推進を喫緊の課題として、取組を広げていきます。


市民の利益を守るため隣接士業の権限拡大のための法改正には厳しい姿勢で臨み、権限逸脱行為に毅然と対応します。非弁行為及び非弁提携の取締りに弁護士会と連携して取り組みます。


業務妨害に関する情報収集・分析を行い、弁護士会等に対する注意喚起や周知活動を通じて、対策に取り組みます。


広報の継続性にも留意しつつ、長期的な視野に立って日弁連や弁護士の活動内容を広く内外に周知します。


予算の執行を適正に行い、財政基盤を確固たるものにします。会員サービスの向上と会務の合理化・効率化を図るため、一層のIT化を推進します。


小規模弁護士会への支援の拡充やIT化・デジタル化に即応するための支援を継続します。



おわりに

社会事象の変化により新たに生じ、顕在化する課題に対応し、日本最大の人権擁護団体・法律家団体として課題解決に積極的・能動的に関わっていきます。



シンポジウム 三本の矢
〜カルト問題・二世問題・霊感商法等の被害対策に取り組むにあたって〜
3月21日 オンライン開催

arrowシンポジウム「三本の矢~カルト問題・二世問題・霊感商法等の被害対策に取り組むにあたって~」


日弁連は、カルト問題、宗教二世問題、霊感商法等の悪質商法による被害の救済・防止に向けて、2023年に提言および意見書を3件公表した。かかる提言等が一体となって初めてカルト問題の抜本的解決につながるという意味で、これらを「三本の矢」と位置付け、ジャーナリストや被害当事者を迎えて被害の実態に迫り、被害の救済・防止のための課題を確認した。


勧誘や被害の実態

旧統一教会を脱会した登壇者は、その正体を隠した勧誘により、宗教と気付かずに入信し、献金等を重ねた体験を語った。子の生育や親族不和に悩む中、PTA活動を通じて親しくなった友人から、自身の悩みが先祖の因縁によるものと説かれ、誘われるままに教会の講義に通うようになり入信した。物品の購入や献金については、家族に相談すると良い流れが断ち切られてしまうなどと、教会による組織的な口止めが行われていたことも明かされ、自己決定権が侵害された状態で被害が発生している実態が改めて浮かび上がった。


宗教二世の声

宗教二世の登壇者は、脱会することや信者である親から離れることは親に対する裏切りになるとの葛藤を抱えていたが、悩みながらも脱会を決意し、初めて自身で人生を選択できたと感じたと語った。また、信者であり子の自立を妨害している家族から、子が物理的に離れて生活するための福祉制度の創設や奨学金制度の整備、宗教団体の外の世界を知るための相談窓口や宗教二世同士が交流できる場の設定、宗教団体からの虐待への介入など、宗教二世のサポート体制の整備を訴えた。


解決に向けた継続的取り組みを

江川紹子氏(ジャーナリスト・神奈川大学特任教授)は、事件が発生するたびに宗教問題が社会問題として取り上げられてきたものの、次第に世間の関心は薄れていき、信者や家族らに対する人権侵害が繰り返されてきたことを指摘した。2000年に厚生省(当時)、警視庁および法務省が連携して設置した研究会が、カルトに関する研究や相談を担うカルト研究センター(仮称)の設置を提言していたにもかかわらず、提言が生かされてこなかったことにも触れ、国や地方公共団体、弁護士会、研究者等の関係者が協働して継続的に対策に取り組んでいくべきと力を込めた。また、現実に生じているカルト問題を市民に知ってもらうことの必要性を訴え、自身を守る方法を伝える予防・啓発の活動を教育現場に広げていくことも重要であると述べた。



第二期成年後見制度利用促進基本計画に関する連続学習会(第7回)
適切な選任と交代―候補者の受任調整の工夫―
3月6日 オンライン開催

arrow第二期成年後見制度利用促進基本計画に関する連続学習会(第7回) 適切な選任と交代―候補者の受任調整の工夫―


2022年3月に閣議決定された第二期成年後見制度利用促進基本計画(以下「第二期計画」)は、尊厳のある本人らしい生活を継続できるようにするための取り組みとして、成年後見人等の適切な選任や交代の推進等を挙げる。今回の学習会では、本人にふさわしい候補者の検討などを行う「受任調整」について議論した。


地域連携ネットワークの構築と活用

第二期計画が取り組みの基盤に据える「権利擁護支援の地域連携ネットワーク」は、各地域において、現に権利擁護支援を必要としている人も含めた地域に暮らすすべての人が、尊厳のある本人らしい生活を継続し、地域社会に参加できるようにするため、地域や福祉、行政などに司法を加えた多様な分野・主体が連携する仕組みである。市町村の運営や委託による「中核機関」がコーディネートを担い、本人を中心に、親族、地域、保健・福祉・医療・法律の専門職等が協力して継続的な支援対応を行う「権利擁護支援チーム」のサポートなどを行う。


火宮麻衣子氏(厚生労働省社会・援護局地域福祉課成年後見制度利用促進室長)は、中核機関には、後見制度利用のための相談だけでなく、適切な成年後見人等候補者や選任形態の検討・マッチングを行う受任調整を含めた支援機能が求められると説明した。向井宣人氏(最高裁判所事務総局家庭局第二課長)は、福祉・行政等と裁判所が、成年後見人等の選任のための考慮要素などを共有し、受任調整の結果を裁判所が十分に考慮して選任の判断をすることで、選任申し立て前後で連続した福祉的支援につながるのではないかと述べた。


パネルディスカッション

各地で権利擁護支援の実務に携わる関係者が加わった議論で、谷川ひとみ氏(日本社会福祉士会後見委員会都道府県体制整備支援プロジェクト委員)は、受任調整の過程で本人と候補者との面談を実施したことを紹介し、候補者選任プロセスに本人も関与していくことが望ましいと述べた。


他の登壇者からは、受任調整において、表面化している課題の解決だけでなく、その先の本人の状況やそれに適した成年後見人等への交代も見据えた継続的な支援という視点で検討しているとの工夫が挙げられた。他方、本人が複雑困難な問題を抱えるケースなどで成年後見人等の負担が大きいことや、多岐にわたるケースに対応するためには多様な担い手を増やす必要があることなど、多くの課題も共有された。



シンポジウム
LGBT理解増進法と人権擁護のこれから
3月30日 オンライン開催

arrowシンポジウム「LGBT理解増進法と人権擁護のこれから」


2023年6月に性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(以下「法」)が制定・施行された。本シンポジウムでは、国会議員、学者、支援者を迎え、法を踏まえたLGBTに関する人権擁護の展望と在り方について議論した。


基調報告

法案提出等に携わった牧島かれん衆議院議員(自由民主党)は、法の目的を達成するためには、国による国民の理解増進施策の策定・実施(法4条)が肝要だとし、関係省庁の連携の下一体的な施策を実践していくことが必要だと述べた。地方公共団体や事業主等による取り組みにも言及し、身近なところから理解促進に関する施策が実施されることに期待を寄せた。


神谷悠一氏(LGBT法連合会事務局長)は、「性的指向」や「ジェンダーアイデンティティ」(法2条)に関し、当事者が社会生活において直面する困難事例を紹介し、当事者の生きづらさを説いた。施策実施に当たっての参考として、各地での先進的な取り組みや寄せられることが多い質問への回答等を取りまとめた手引きを作成したことを報告し、地方公共団体における法の基本理念に沿った施策実施を望むと述べた。


鈴木秀洋教授(日本大学大学院)は、行政は表層的な啓発のみならず、対応部局を決定し、所掌事務を明確に位置付けて人員・予算を配分し、具体的施策を実現していく必要があると説いた。


パネルディスカッション

各基調報告者が登壇し、法を踏まえた今後の人権擁護について議論した。鈴木教授は、公衆トイレ等の公共衛生施設の利用を例に、施設等(ハード)とその安全な利用のための運用等(ソフト)の両面で、すべての人の利用を保障する必要があるとし、特定の局面を取り上げた論争ではなく、理解と対話を深めていくべきだとした。


神谷氏は、LGBTに関する国の調査データが不足しており、今後、学術研究等の必要な研究・調査が行われることを望むとし、鈴木教授は、生きづらさを抱える者に対する気付きや寄り添う姿勢が共生社会の実現につながっていくと語った。



第79回市民会議
日弁連における政策課題の実現に向けた方策について
3月5日 弁護士会館

第79回市民会議では2023年度の日弁連の主要政策について総括し、市民会議委員と意見交換を行った。


小林元治会長(当時)は、人権と正義・法の支配の実現、日本における最大の人権NGOである自負と責任、弁護士自治の堅持を大きな柱に据えて各種課題に向き合ったとし、特に民事法律扶助制度改革、ダイバーシティ&インクルージョン、再審法改正をはじめとする刑事司法改革に関する取り組みと成果を報告した。委員からは、次のような意見等があった。


民事法律扶助制度改革

民事法律扶助制度におけるひとり親世帯支援拡大の実現については、司法アクセスの改善に直結し、市民の福祉にかなう成果であるとの評価があった。一方で、支援が必要な人は多様化し、行政が設定する「標準的」な弱者には該当しないが支援を要するグレーゾーンの人が存在しているとの指摘があり、社会の隅々まで必要な法的サービスが行き渡るよう、引き続き改革を進めてほしいとの要望があった。


ダイバーシティ&インクルージョン

日弁連のクオータ制の取り組みを評価しつつ、世界的には日本のダイバーシティ水準は低いとして、副会長や理事の女性割合のさらなる増加を期待する声や、日弁連が先陣を切ってダイバーシティ&インクルージョンの取り組みを推進してほしいとの声があった。


刑事司法改革等

新たなえん罪事件を生まないためには、再審法改正と並行して取調べの全事件・全過程の録音・録画の導入などが急務であるとの指摘のほか、市民の権利利益の保護・実現に資するためのIT化、日本の刑事司法の国際的な水準への引き上げに向けた今後の取り組みへの期待が示された。日弁連の政策を実現していくためには、世間の関心や賛同を得ることが重要であるとして、広報や法教育の充実にも一層注力すべきとの意見が寄せられた。


市民会議委員(2024年3月現在)五十音順・敬称略

 井田香奈子 (朝日新聞論説委員)
伊藤 明子 (公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター顧問、元消費者庁長官)
太田 昌克 (共同通信編集委員、早稲田大学客員教授、長崎大学客員教授、博士(政策研究))
北川 正恭 (議長・早稲田大学名誉教授)
吉柳さおり (株式会社プラチナム代表取締役、株式会社ベクトル取締役副社長)
河野 康子 (副議長・一般財団法人日本消費者協会理事、NPO法人消費者スマイル基金理事長)
清水 秀行 (日本労働組合総連合会事務局長)
浜野  京 (信州大学理事(ダイバーシティ推進担当)、元日本貿易振興機構理事)
林  香里 (東京大学理事・副学長)
湯浅  誠 (社会活動家、東京大学先端科学技術研究センター特任教授)



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.190

優れた法曹人材の養成を支援する
法実務技能教育教材研究開発コンソーシアム

法科大学院制度の発足以降、法科大学院をはじめとして、法実務技能習得のための実践的教育の取り組みが行われています。法曹養成支援のための研究や教材開発などに取り組む、法実務技能教育教材研究開発コンソーシアム(以下「PSIMコンソーシアム」)の藤本亮代表(名古屋大学大学院法学研究科教授)、宮木康博氏(同教授)、富崎おり江氏(同講師)にお話を伺いました。

(広報室嘱託 李桂香)


設立の経緯

(藤本)2004年の法科大学院創設に伴い、面接や交渉、尋問などの実務技能の習得を目的とした科目が設置されました。名古屋大学は、文部科学省の支援の下で主幹校として「実務技能教育教材共同開発プロジェクト」を実施してきました。その取り組みと成果を継承する各大学間の協定による組織体として、2007年に発足したのがPSIMコンソーシアムです。


PSIMコンソーシアムの参加校は2023年4月現在、法科大学院17校です。オブザーバー校として参加している海外5校のほか、海外の複数の大学とも交流・情報交換を行っています。また、2008年2月からは、全米法廷技術研修所(NITA)と学術交流協定を締結しています。


活動の概要

(藤本)PSIMコンソーシアムでは、①実務技能教育教材の開発と共有、②教育方法論の開発、③教員養成プログラムの開発の3点を大きな柱としています。模擬裁判や法律相談のシナリオ、調停・交渉のシミュレーション、ロイヤリング等の映像教材など、PSIMコンソーシアムで開発した教材は、参加校はもちろん、一部はオープン教材として参加校に限らず活用していただくことが可能です。また、国内外から、法曹三者、研究者などの専門家やNITAの講師を招いてセミナーを開催してきました。NITAの講師による刑事裁判法廷技法をはじめ、セミナーで提供される専門的な知見や経験は、参加者の弁論技術向上などに大いに役立っています。


(富崎)PSIMコンソーシアムが提供するツールの一つに映像システムがあります。法廷教室(模擬法廷)の裁判官席、検察官席、弁護人席、証言台をカメラ4台で撮影し、その映像を4分割して同時に1画面で再生・配信・録画するものです。コロナ禍では、密集を避けるために法廷教室での実演と傍聴を分け、別教室からリアルタイムで傍聴するという形でも活用しました。コロナ禍での法実務教育の実践は困難を伴うものでしたが、先進的ツールの開発・活用を推進していくきっかけになったように思います。


法学教育・法教育の裾野を広げるために

(宮木)近時の取り組みとして、書籍『Practical Studies 刑事訴訟―この事件を裁くのはあなたです―』の出版とその映像教材の制作を紹介します。架空の刑事事件を題材にした教材ですが、事件の展開をドラマ仕立てで描き、小説のような読み応えを持たせています。同時に、法実務の書式例をふんだんに盛り込み、脚注において解説を充実させることで、法科大学院での刑事訴訟法の教材としても活用できるものにしました。書籍と連動する映像教材は、PSIMコンソーシアムのYouTubeチャンネルで公開していますので、ぜひご覧いただければと思います。


ある高校では、この映像教材を題材にして、法曹三者に役割を分けて、それぞれの立場からの討論会を実施したそうです。生徒たちは、教員が驚くほど堂々と論述を行い、法曹への憧れを強めるきっかけとなったと聞きました。映像教材を見た一般の方からも「裁判員に選ばれたら辞退することなく参加しようと思う」といった感想が寄せられており、法学教育関係者に限らず、多方面からの高い評価をいただいています。さまざまな層が法や法学への関心を持つきっかけを提供したいという制作意図に基づき、実務家とともに議論を重ねて作り上げたツールであり、制作側の思いが伝わっているという手応えを感じています。


今後も法曹三者との連携を深め、専門性やリアリティをより高めたコンテンツを社会に提供していければと考えています。本年出版予定の民事訴訟編もご期待ください。


結びに代えて

(藤本)法曹養成プロセスの中核を担う法科大学院は、法学教育や法教育におけるプラットフォームになり得る存在だと考えています。弁護士の皆さんをはじめ、法曹三者の方々が引き続き、法学教育・法教育の現場においても法曹養成に携わっていただくことを期待しています。一緒に汗を流してたくさんの種をまき、未来を担う人材が芽吹き成長する姿を共に見ていくことができればと思っています。



日弁連委員会めぐり128
弁護士業務における情報セキュリティに関するワーキンググループ

今回の委員会めぐりは、弁護士業務に関する情報セキュリティに関するワーキンググループ(以下「WG」)です。柳楽久司座長(第二東京)、平岡敦委員(第二東京)、北條孝佳委員(東京)、吉井和明委員(福岡県)、岡村庸靖委員(滋賀)にお話を伺いました。

(広報室嘱託 枝廣恭子)


「弁護士情報セキュリティ規程」の制定

裁判手続等のIT化が進む中、弁護士業務においても適切な情報管理が不可欠です。WGは、弁護士や法律事務所の職員などに求められる情報セキュリティに関する取り組み等の調査・研究や、情報提供をはじめとする各種支援策の策定、研修等を担います。


WGで検討を重ねた「弁護士情報セキュリティ規程」(以下「規程」)は、2022年6月の定期総会で制定されました。


本年6月1日の施行により、弁護士等(規程1条)には「取扱情報の情報セキュリティを確保するための基本的な取扱方法」(以下「キホトリ」)を定める義務が課されます。弁護士等は、規程の施行までにキホトリを策定しておく必要があります。


規程は、「情報セキュリティ」を情報の機密性・完全性・可用性が維持された状態と定義しています。これまでも機密性は守秘義務との関係で意識されていましたが、今後は完全性と可用性の維持も極めて重要になってきます。この点を意識付けることにも、規程の意義があります。


キホトリの策定支援

規程の制定以降、WGでは、規程の周知を継続的に行うとともに、キホトリの策定支援に力を入れています。規程の解説書や、キホトリのサンプル、副読本「弁護士のための情報セキュリティ入門」の作成・提供のほか、各地で研修を実施してきました。


業務で取り扱う情報も、ソフト面・ハード面を含めた執務環境も、弁護士等により千差万別です。規程では、弁護士等が、各自の業務や執務環境に応じたキホトリを定めることとされています。キホトリの策定を、セキュリティ意識と対策向上の契機にしていただければと思います。


今後に向けて

規程が求めるセキュリティ対策は、キホトリを定めれば終わりというものではありません。むしろキホトリの策定がスタートです。今後も技術の進歩に伴って新たな情報セキュリティ課題が生じてくることが想定されます。WGは、弁護士等が認識や対策をアップデートできるよう、情報提供や研修を充実していく体制を整え、支援を継続していく予定です。



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協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名
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東京弁護士会労働法制特別委員会/編著 ぎょうせい
2

一問一答 令和4年民法等改正―親子法制の見直し

佐藤隆幸/編著 商事法務
3

企業における裁判に負けないための契約条項の実務

阿部・井窪・片山法律事務所/編著 青林書院
4

良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方〔改訂第3版〕

雨宮美季、片岡玄一、橋詰卓司/著 技術評論社
5

交通事故実務マニュアル―手続、事件対応と書式作成〔三訂版〕

東京弁護士会法友全期会交通事故実務研究会/編 ぎょうせい
6

弁護士法第23条の2照会の手引〔七訂版〕

第一東京弁護士会業務改革委員会第8部会/編 第一東京弁護士会
7

速解交通事故判例調査 休業損害・企業損害の算定

不法行為法研究会/編 ぎょうせい
8

企業法務1年目の教科書 契約書作成・レビューの実務

幅野直人/著 中央経済社

有斐閣コンメンタール 注釈労働基準法・労働契約法〈第3巻〉個別的労働関係諸法

木尚志、岩村正彦、村中孝史、山川隆一/編 有斐閣
10

懲戒処分の実務必携Q&A―トラブルを防ぐ有効・適正な処分指針〔第2版〕

三上安雄、増田陳彦、内田靖人、荒川正嗣、吉永大樹/著 民事法研究会



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1 「見落とし注意」2025年6月施行改正刑法(拘禁刑新設・執行猶予制度の改正) 27分
2 戸籍・住民票等の取得(職務上請求)の基本~戸籍、住民票の写し、固定資産評価証明書、自動車の登録事項等証明書の取得について~ 34分
3 接見の基本 34分
弁護士会照会の基本 32分
5 地図の読み方の基本~ブルーマップ・公図の利用方法~ 31分
6 被疑者の不必要な身体拘束からの解放に向けた弁護活動 28分
7 不動産登記の基本 31分
8 身体拘束からの解放の基本 24分
内容証明の基本 30分
10 保釈の基本 25分
戸籍の仕組み・読み方の基本 30分


お問い合わせ先:日弁連業務部業務第三課(TEL:03-3580-9826)