日弁連新聞 第567号

仲裁法等の改正に関する中間試案に対する意見書

arrow_blue_1.gif仲裁法等の改正に関する中間試案に対する意見書


日弁連は4月15日、「仲裁法等の改正に関する中間試案に対する意見書」を取りまとめ、法務省に提出した。


経緯

2020年9月、法務大臣から法制審議会に対し、仲裁手続における暫定措置または保全措置に基づく強制執行のための規律の整備を含む仲裁法等の改正要綱を示すよう諮問があり、法制審議会に仲裁法制部会(以下「部会」)が設置された。部会では日弁連推薦の委員3人が選任された。部会での検討の結果、「仲裁法等の改正に関する中間試案」が取りまとめられ、意見募集が行われた。


中間試案の内容等

中間試案では、国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)2006年改正モデル仲裁法を反映する趣旨で仲裁法を改正し、仲裁廷の暫定保全措置にも裁判所の執行決定を経て執行力を付与することや、仲裁関係事件手続に関する規律を改正することが提案されている。また調停による和解合意の執行決定等に関して規律を創設し、執行受諾合意があることおよび裁判所の執行決定を経ることを前提に執行力を付与する方向で、その適用範囲や執行決定手続等を定める法改正を行うことも提案されている。


意見書では、これらについて概ね賛成の意見を述べている。


日弁連のこれまでの対応と今後の予定

日弁連はこれまでに、2017年2月16日の「日本における国際仲裁機能を強化することに関する意見書」や2019年6月21日の「UNCITRAL2006年改正モデル仲裁法を反映した法整備要綱試案」において、仲裁法制の整備を行う必要性について述べてきた。


今後も引き続き部会での検討を注視するとともに、日本が国際仲裁・国際調停における紛争解決地としてより多く選定され、日本の法曹がより広く活躍できるよう、取り組みを継続する。


(国際商事・投資仲裁ADRに関するワーキンググループ座長 鈴木五十三/ADR(裁判外紛争解決機関)センター委員長 斉藤睦男)


*部会の議論状況および資料等は法務省ウェブサイトで、日弁連意見書は日弁連ウェブサイトでご覧いただけます。



年次報告書の提出期限迫る!
―未提出の方は速やかにご提出を―

弁護士業務におけるマネー・ローンダリング対策の観点から、会員には、依頼者の本人特定事項の確認・記録の保存義務等の履行状況について、所属する弁護士会に年次報告書を提出することが義務付けられています(依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等に関する規程11条1項)。


提出期限は6月30日

2021年度の年次報告書の提出期限は本年6月30日です。2020年4月1日から2021年3月31日までの期間の執務状況等について、書式に基づき報告が必要です。


速やかに所属する弁護士会へのご提出をお願いします。


全会員に提出義務があります

弁護士、弁護士法人、外国法事務弁護士、外国法事務弁護士法人等、全ての会員に年次報告書の提出義務があります。


例えば、組織内弁護士や高齢・育児・疾病などで弁護士等の職務を行っていない会員にも提出義務がありますのでご注意ください。


弁護士によるマネー・ローンダリング対策については、弁護士自治の下、日弁連会則により定められています。年次報告書の提出は、同対策における極めて重要な取り組みです。


参考資料はウェブで

依頼者の本人特定事項の確認・記録の保存等に関連する各種資料は、日弁連ウェブサイトの「依頼者の本人確認―年次報告書の提出を!―」 のページで確認することができます。年次報告書の作成・提出の際にご参照ください。 (東京三会は独自の書式を設けていますので、詳しくは各会にお問い合わせください。)


年次報告書の書き方を解説したeラーニング「簡単!依頼者の本人確認と年次報告書の作成(2019年12月改訂版)」(総合研修サイトに掲載)もご活用ください。



コロナ禍における社会福祉施設・医療施設での面会機会の確保について

arrow_blue_1.gifコロナ禍における社会福祉施設・医療施設での面会機会の確保を求める意見書


意見書取りまとめ

日弁連は4月16日、「コロナ禍における社会福祉施設・医療施設での面会機会の確保を求める意見書」を取りまとめ、4月20日付けで内閣総理大臣等に提出した。


背景

新型コロナウイルスの感染拡大時には、重症化リスクが高い高齢者・障がい者が入所・入院する施設・病院で面会禁止措置が採られることが多い。


感染拡大防止は重要な課題であるが、高齢者・障がい者にとって家族や支援者と面会してコミュニケーションを取ることは、その心身の安定や機能低下の防止等に資するだけでなく、人格的生存に不可欠であるため、幸福追求権として保障されるべき人権である。


当初の感染拡大時とは異なり、適切な感染症対策を採れば面会時の感染の危険性は相当程度軽減されることから、画一的な面会禁止は望ましくない。



意見書の内容

できる限り面会の機会を確保するためには、感染防止のための物的設備の整備や追加的な人員配置が必要であり、そのための財政支援も必須である。また、感染防止対策を講じた面会の在り方についての具体的な情報提供も必要である。


意見書は、①国と地方公共団体に対し、施設・病院に対する必要な財政支援と、面会の機会を確保するための具体的な方策についての情報提供を求め、②各業種別団体に対しても同様の情報提供と、所属する施設・病院からの相談に対応・助言を行う体制の整備を求め、③各施設・病院には、感染防止と面会機会の確保のバランスの取れた対応に努め、一律の面会禁止などの画一的な対応を取らないよう求めている。


今後に向けて

日本の感染拡大状況はなお予断を許さない状況にあるが、「感染症対策」の名目で過度に人権が制限されることは許されない。施設等での面会についても、最新の専門的知見に基づく感染防止と面会機会の確保のバランスを取ることが重要であり、関係機関の動向を注視することが重要である。


(日弁連高齢者・障害者権利支援センター  副センター長 矢野和雄 )



所有者不明土地問題 改正法等が成立
民法・不動産登記法の改正法と相続土地国庫帰属法が成立

所有者不明土地の発生防止、土地の適正利用および相続による権利承継の円滑化等を図るため、民法等の一部を改正する法律(民法や不動産登記法等の改正)と、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(相続土地国庫帰属法)が成立した。


民法の改正

相隣関係について、境界調査等のための隣地使用権、ライフライン等の設備設置・使用権等が整備された。  


共有について、裁判所の関与の下、不明共有者以外の共有者で共有物の変更・管理行為を可能にする制度や不明共有者の持分の取得・譲渡を可能にする制度等が創設された。


寄与分や特別受益を考慮した具体的相続分に基づく遺産分割ができる期間が制限され、相続開始時から10年経過したときは共有物分割請求が可能となった。


所有者不明土地建物について、裁判所の選任した管理人が管理処分を行い、裁判所の許可を得て売却等もできる制度や管理不全土地建物について管理人による管理ができる制度が創設された。


不動産登記法の改正

不動産を取得した相続人に、その事実を知った日から3年以内に相続登記申請を義務付け、また、所有権登記名義人に、氏名・名称・住所変更の登記申請を義務付けた(過料の制裁を伴う)。一方、登記手続の負担軽減を図るため、相続人申告登記制度、所有不動産記録証明制度等が創設され、買戻登記など形骸化した登記の抹消手続が簡略化された。


相続土地国庫帰属法の新規制定

相続や遺贈によって土地を取得した相続人は厳格な要件の下で土地所有権を国庫に帰属させることが可能となった。ただし、10年分の土地管理費相当額の負担金納付が必要である。


施行時期

原則として、公布の日(2021年4月28日)から2年以内に施行される。


(所有者不明土地問題等に関するワーキンググループ  座長 中井康之 )



新事務次長紹介

柳楽久司事務次長(第二東京)が退任し、後任には、6月1日付で石井邦尚事務次長(第二東京)が就任した。


石井 邦尚(いしい・くにひさ) (第二東京・51期)

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一人一人の弁護士、弁護士会や弁護士会連合会、日弁連の活動を支える皆さまのお話をよく聞くことを大切にし、日弁連を裏方として支えることを通じて、社会や弁護士を必要とする人たち、そして会員の皆さまのお役に立てるよう、微力ながら尽力いたします。



日本国際紛争解決センター大阪移転記念イベント
国際仲裁と大阪
4月21日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif日本国際紛争解決センター・大阪(JIDRC-Osaka)移転記念イベント「国際仲裁と大阪」


本年4月1日に日本国際紛争解決センター・大阪(JIDRC-Osaka)が大阪国際会議場(グランキューブ大阪)に移転したことを記念してイベントを開催した。(共同主催:一般社団法人日本国際紛争解決センター(JIDRC)、法務省、大阪弁護士会)


閉会の挨拶をする田中宏副会長当日は、河村建夫衆議院議員(自由民主党)および石川博崇参議院議員(公明党)秘書が参加され、山口信彦大阪府副知事の来賓挨拶、小野田紀美法務大臣政務官からのビデオメッセージ、左藤章衆議院議員(自由民主党)によるお祝いメッセージが披露された。


「国際仲裁と大阪~仲裁条項『仲裁地/大阪』の実現~」をテーマとしたプレゼンテーションには、アンセルモ・レイエス氏(同志社大学客員教授・シンガポール国際裁判所裁判官)および小原正敏会員(JIDRCアドバイザリーボードメンバー・大阪)がスピーカーとして参加した。国際仲裁に関わる実務家である両氏から、地元で仲裁を行うこと(大阪周辺の企業にとっては契約条項において仲裁地を「大阪」と合意して仲裁審問を大阪で行うこと)は、紛争解決コストの面だけでなく、不慣れな外国で不慣れな証言をせずに済むという証人の安心感の面や、審問途中の緊急対応の面でも有利に働くとの説明があった。さらに、日本企業が外国企業との契約で大阪を仲裁地とする合意を得たり、外国企業同士が大阪を仲裁地として選んだりする動機付けのために、大阪の都市そのものの利便性、安全性のほか、費用を含めた施設の使いやすさを国内外に向けてさらに発信していくことの重要性が強調された。


(国際商事・投資仲裁ADRに関するワーキンググループ 座長 鈴木五十三)



日弁連短信

進む「非対面」化

前事務次長

新元号「令和」が発表されたのは、事務次長に就任するための引継ぎを受けている頃だった。それから2年が経ったが、振り返ればこの2年の在任期間は、前半がコロナ前、後半がコロナ後という、社会の様相がガラッと変わった激変の時期であった。この2年で急激に進んだのが「非対面」化である。人と人との接触を避けるため、さまざまな場面でオンラインの活用が進み、それに伴い、紙でやり取りされていた情報のデジタル化も加速した。


変わる法律相談

各地の法律相談センター等で、電話相談やウェブ会議システム等を利用した非対面の相談が広く行われるようになった。会員各自の業務においても、依頼者との打ち合わせをオンラインやメールで行う機会が増え、弁護士費用保険においても、このような非対面で行われる相談業務も一定の要件のもと保険金支払の対象となることを明示する基準案が検討されている。


中小企業の経営資源の散逸を防ぐ

非対面化の流れは、企業の事業活動に大きな影響をもたらした。これまで人を集めることによって利益を上げてきたビジネスモデルが立ち行かなくなり、多くの企業が苦境に立たされている。一方で、この状況下で過去最高益を上げる企業も現れており、既存の経営資源を有効活用して外部環境の変化に対応できた企業とそうでない企業との差が鮮明となっている。 中小企業の経営資源の散逸を防ぐため、「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会」がこのほど公表した取りまとめでは、各地の中小企業のM&Aや転廃業に、より広く弁護士が関与するべきとの指摘がなされている。各地での対応が急がれる。


刑事手続のIT化と法律事務所のセキュリティ

非対面化の波は、刑事手続にも及んでいる。接見や閲覧謄写のオンライン化が実現すれば、弁護人の負担が大幅に軽減され、被疑者・被告人の防御に資することとなる。他方、被害者を含む関係人の極めてセンシティブな情報を含むデータがひとたび漏洩すれば、関係人に回復不能な損害をもたらしかねない。刑事に限った話ではないが、弁護士業務における情報セキュリティの確保について、社会の理解が得られる体制の整備が急務である。


(前事務次長 柳楽久司)



第19回公設事務所弁護士協議会
4月27日 オンライン開催

日弁連は、弁護士過疎地で活躍するひまわり基金法律事務所(以下「ひまわり」)の所長弁護士が、全国から集まり意見を交換する協議会を毎年開催している。本年は新型コロナウイルスの感染拡大に鑑みてオンライン開催とした。


赴任経験者に聞く公設事務所の運営と弁護士の未来

前半は、4人の公設事務所の所長経験者(田村秀樹会員(元紋別ひまわり所長・札幌)、傳田真梨絵会員(元佐渡ひまわり所長・新潟県)、石井翔大会員(元輪島ひまわり所長・金沢)、千葉剛志会員(元新庄ひまわり所長・神奈川県))が、赴任中の経験談を述べるとともに公設事務所の今後の展望について意見を交わした。


日弁連公設事務所・法律相談センター(以下「センター」)の林信行副委員長(第二東京)は、公設事務所の現役所長や公設事務所への赴任を予定する会員らを対象に実施した、事件相談における工夫例等に関する事前アンケートについて、分析と講評を行った。事前アンケートに対する回答数は約350件に上った。


事務所運営に関する意見交換会

後半は、現役所長、赴任を予定する会員、所長経験者らがそれぞれ9人程度のグループに分かれ、事務所の運営に関する問題や事件処理上の問題等、グループごとに設定されたテーマについて意見交換を行った。


現役所長からは普段抱えている悩みや事件処理に関する相談があり、赴任を予定する会員からは赴任後の生活や事件処理への不安等について質問があった。所長経験者や委員からはさまざまなアドバイスがあり、有意義な議論となった。


日弁連のサポート

センターから現役所長らに対し、コロナ禍における事務所運営の工夫、運営費援助の申請方法および事務所ウェブサイトの作成などに関するアナウンスがあった。


(日弁連公設事務所・法律相談センター 事務局員 森将)



成年年齢引下げに伴う弊害防止のために
会長声明を公表

arrow_blue_1.gif1年後に迫る成年年齢引下げに伴う弊害防止のための実効性ある施策の実現を求める会長声明


民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げる「民法の一部を改正する法律」が2022年4月1日に施行される。施行まで一年を切ったが、若年者の消費者被害の防止等に向けた施策はいまだ不十分である。日弁連は4月28日、実効性ある施策の実現を求める会長声明を公表した。


若年者の消費者被害の防止等に向けた施策は不十分

2018年の改正法成立の際になされた参議院法務委員会の附帯決議では、事業者が知識・経験・判断力の不足など消費者が合理的な判断をすることができない事情を不当に利用して、消費者を勧誘し契約を締結させた場合における消費者の取消権(つけ込み型不当勧誘取消権)の創設等の法整備を改正法成立後2年以内に行うことや、消費者教育の充実などの施策を実現するよう求めていた。


しかし、改正法成立から約3年が経過した現時点においても、つけ込み型不当勧誘取消権は創設されず、実践的な消費者教育も十分ではないなど、いずれの施策も不十分である。


この現状を受け、「1年後に迫る成年年齢引下げに伴う弊害防止のための実効性ある施策の実現を求める会長声明」を公表した。


シンポジウムの開催・書籍の発刊

会長声明の公表に先立ち、4月8日にはオンラインシンポジウム「狙われる18歳!?~待ったなし!引下げまであと1年~」を開催した。成年年齢引下げの問題点を整理し、学校教育現場や地方自治体での取り組みなどを報告した上で、若年者に向けた消費者教育の在り方を議論し、参加者は230名にも上った。


また岩波ブックレット『狙われる18歳!?消費者被害から身を守る18のQ&A』(日弁連消費者問題対策委員会著/岩波書店)も発刊されている。


(消費者問題対策委員会 委員 小西秀明)



シンポジウム
ここが問題!入管法改正案 
~当事者・支援者の訴えを聞く~
4月13日 オンライン開催

arrow_blue_1.gifシンポジウム「ここが問題!入管法改正案~当事者・支援者の訴えを聞く~」


出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案(以下「改正案」)について、当事者や支援者の声を聞き、改めてその問題を共有するためのシンポジウムを開催した。シンポジウムには、国会議員も複数名参加した。
なお、5月18日、政府・与党は、改正案の通常国会での成立を見送ると決定した。


特別報告

被収容者との面会を重ねる松井保憲氏(START〜外国人労働者・難民と共に歩む会〜)は、本年3月の名古屋入国在留管理局での死亡事故をはじめ、収容主体が人権を軽視し続けていると批判した。


基調報告

人権擁護委員会第6部会の本田麻奈弥部会長(第一東京)と丸山由紀特別委嘱委員(東京)は、改正案の概要等を解説し、難民保護の中核たる送還停止効(ノン・ルフールマン原則)に立法事実なく例外を認めていることなど改正案の根本的問題を指摘した。


リレー報告

9歳で来日し、いまだ在留資格を得られないトルコ国籍のクルド人男性(20代)は、父親の長期収容による長年の家族別離、進学や就職、日常生活での窮状を語った。3度目の難民認定申請中のミャンマー国籍でカチン族の女性は、改正案の送還停止効喪失により帰国を強制される可能性への不安を訴えた。


仮放免保証人を引き受ける宮島牧人氏(牧師/面会支援ボランティア)は、新設される監理措置制度では制裁を伴う義務を負う監理人の担い手確保が困難となり、長期収容者が増加すると懸念した。


取り組み報告

鈴木江理子氏(NPO法人移住者と連帯するネットワーク副代表理事)は、移民難民問題の解決に求められるのは、適切な難民認定と人道的視点での在留特別許可であると力を込めた。


赤阪むつみ氏(NPO法人なんみんフォーラム理事)は、国際法に準拠した収容代替措置の導入の必要性に言及した。


ビデオメッセージ

国内外で難民、貧困、災害等の取材活動を行う安田菜津紀氏(NPO法人Dialogue for People副代表/フォトジャーナリスト)は、法改正は人権がより護られる方向で行われるべきだが、改正案は逆に舵を切るものだと批判し、真に人権を護る制度を構築するべきと締めくくった。



シンポジウム
刑罰制度改革の一環として死刑廃止を考える
4月12日 オンライン開催

arrow_blue_1.gifシンポジウム「刑罰制度改革の一環として死刑廃止を考える」【オンライン開催】


刑罰制度の改革については、今後、法務省および国会において、懲役刑と禁固刑を一本化した「新自由刑」の議論が始まる。新自由刑の内容と今後の展望や、日弁連が死刑に代わる刑罰として提言する終身刑の処遇の在り方などについて議論した。


笹倉香奈教授名執雅子氏(元法務省人権擁護局長・矯正局長)は、2006年に監獄法が刑事収容施設法に改正され、懲役刑の処遇の実質が単に刑務作業を行わせるのみならず改善指導等の教育的処遇を行うものとなり、実務に大きな進展があったと説明した。今後、新自由刑について実務上の検討を行う上で、立法理由や方向性に関する社会の共通認識を醸成することが重要であると述べた。


笹倉香奈教授(甲南大学法学部)は、アメリカにおける死刑について、議論の最大の特色であるスーパー・デュー・プロセス(超適正手続)の考え方を紹介し、近年の州および連邦の状況を説明した。アメリカの現状が理想的とは言えないものの、政治が主導して死刑制度を改革しようとする動きには学ぶところも多いと指摘した。


続いて、死刑廃止及び関連する刑罰制度改革実現本部の小田清和副本部長(広島)は、日弁連が死刑に代わる刑罰として提言する終身刑の内容について説明し、社会復帰の可能性がない終身刑受刑者に対する処遇理念と処遇内容をどう考えるか等検討すべき課題を示唆した。


当日は、河村建夫衆議院議員(自由民主党)、本多平直衆議院議員(立憲民主党)、福島みずほ参議院議員(社会民主党)、清水忠史衆議院議員(共産党)、平岡秀夫氏(元法務大臣)がスピーチを行ったほか、複数の国会議員からメッセージが寄せられた。


また、袴田事件弁護団事務局長の小川秀世会員(静岡県)から特別報告があった。



事業再生シンポジウム
ウィズコロナ時代における事業再生・廃業支援の在り方
4月14日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif事業再生シンポジウム「ウィズコロナ時代における事業再生・廃業支援の在り方」


コロナ禍の今、金融機関や弁護士は何に留意して事業再生・廃業支援を行うべきか。情報の共有と議論を行った。


基調講演

新型コロナウイルスにより影響を受けた中小事業者向けの施策について

貴田仁郎氏(中小企業庁金融課長)が、政府系金融機関による実質無利子・無担保・据置最大5年の融資、コロナ禍における中小企業再生支援協議会による資金繰り支援施策の全体像並びに新型コロナ特例リスケジュール支援の状況等を紹介した。また、ポストコロナに向けて実施している事業再生支援策についても説明があった。


報告

コロナ禍における事業再生・廃業支援の事例

日弁連中小企業法律支援センターの髙井章光副本部長(第二東京)が、事業破綻の危機にある中小企業の再生への対応策として、早期に事業譲渡による再建策を講じる必要性を指摘し、その具体的な手法を紹介した。また、再生案件や廃業案件、保証債務処理案件の実例を挙げ、廃業支援方法としての特定調停(日弁連廃業支援型特定調停スキーム)のメリットを説いた。


パネルディスカッション

ウィズコロナ時代における事業再生・廃業支援の在り方

鋸屋弘氏(日本政策金融公庫中小企業事業本部企業支援部前部長)、萩尾太氏(商工組合中央金庫常務執行役員)、加藤寛史氏(中小企業再生支援全国本部統括プロジェクトマネージャー)、髙井副本部長がパネリストとなり、中小企業や中小企業支援に対するコロナ禍の影響、再生支援と廃業支援の区別や意義を語った。さらに、ウィズコロナ時代における再生支援、廃業支援に関して、弁護士と金融機関が相互に期待することについて議論した。それぞれの立場から意見交換することで、中小企業支援の場における金融機関と弁護士の連携の重要性を再認識する機会となった。



シンポジウム
本当にやくだつ障害者差別解消法へ
4月21日 オンライン開催

arrow_blue_1.gifシンポジウム「本当にやくだつ障害者差別解消法へ」


障害者差別解消法の改正法案が今国会で審議されている。そこで、2019年11月21日に日弁連が公表した「障害者差別禁止法制の見直しを求める意見書」の内容を改めて説明し、改正法案の問題点を議論するシンポジウムを開催した。
なお、改正法は5月28日に成立した。


報告

日弁連意見書について

人権擁護委員会の採澤友香特別委嘱委員(第二東京)が、障害者の範囲を明確にすべきこと、民間事業者の合理的配慮を努力義務ではなく法的義務とすべきこと、障害を理由とする差別に関する相談体制等を整備すべきことなど、意見書の主なポイントを説明した。改正法案に盛り込まれなかった点は、政府の基本方針での明確化や適切な運用により対応するよう強く求めた。


パネルディスカッション

事例と実践に基づく障害者差別解消法の意義と改正の必要性について

4人のパネリストが、障害者差別解消に向けた取り組みの現状を紹介し、改正法の問題点と求められる対応について議論した。


高野亜紀特別委嘱委員(高知)は、訴訟では差別行為自体を解消できないことや「差別」の定義が明確でないために差別の認定が困難なことに言及し、訴訟以外の紛争解決システムの必要性を説いた。相談業務に携わる大谷省吾氏(大阪市福祉局障がい者施策部企画調整担当課長)は、紛争解決をより実効的なものとするには全国規模で対応する専門家の育成が望まれるとの考えを述べた。廣川麻子氏(NPO法人シアターアクセシビリティネットワーク理事長/東京大学先端科学技術研究センター当事者研究分野ユーザーリサーチャー)は、事業者に合理的配慮を促すには、関わる人全てをサポートする体制の構築が重要であると指摘した。佐藤聡氏(日本障害フォーラム幹事会副議長・パラレルレポート特別委員会事務局長)は、障害者差別を解消するには、障害者の権利に関する条約の理念を国内法に落とし込むことが必要であると強調した。



「テレワーク」という働き方に関するシンポジウム
4月23日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif「テレワーク」という働き方に関するシンポジウム


テレワークは「働き方改革」の一環として企業を中心に導入が検討・実施されていたが、新型コロナウイルス感染拡大への対応として在宅勤務が広く普及するに至った。これに伴う労働法上の問題点について、企業・労働組合の実務家と使用者側・労働者側の弁護士をパネリストに迎え、論点を整理し意見を交換した。


実務家として新田秀司氏(経団連労働政策本部長)・冨田珠代氏(連合総合政策推進局総合局長)、使用者側弁護士として末啓一郎会員(第一東京)・大浦綾子会員(大阪)、労働者側弁護士として新村響子会員(東京)・竹村和也会員(東京)が登壇し、それぞれの立場から各論点について意見を交わした。


テレワークを命ずる根拠としての個別合意の要否について、緊急事態宣言発令下などの緊急時には個別合意は不要との使用者側の見解に対し、労働者側は緊急時・平時を問わず個別合意が必要であると述べた。


労務時間管理について冨田氏は、2020年に連合が行った調査では「テレワークで通常勤務より長時間労働になることがあった」との回答が半数を超えた実情を報告した。新田氏は、実労働時間把握のための取り組み例を紹介したほか、適切な時間管理にはルール作りや上司と部下のコミュニケーション、信頼関係の構築が必要であると指摘した。


テレワークに要する費用の負担について、使用者側は就業規則に規定すれば労働者負担とすることができるとの見解を示したが、労働者側は就業規則に規定するだけで労働者負担とすることについて疑問を呈した。


そのほか、テレワークにおける作業環境整備・安全衛生の確保や人事評価の難しさなどについても意見が交わされた。



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.158

女性の弁護士、裁判官、検察官、法律学者から構成される全国組織
日本女性法律家協会

日本女性法律家協会(以下「女法協」)は、1950年に十余名で設立され、2020年に創立70周年を迎えました。今回は、佐貫葉子会長(第二東京)、犬伏由子副会長(慶應義塾大学法学部名誉教授)、金野志保幹事(第一東京)、川尻恵理子幹事(第一東京)からお話を伺いました。

(広報室嘱託 木南麻浦)


2020年6月の会長就任後、コロナ禍でどのような活動を?

前列左から佐貫会長、犬伏副会長、後列左から川尻幹事、金野幹事(佐貫)意見書・要望書関係では、選択的夫婦別姓制度導入に係る要望書を2020年7月と12月に提出しました。2021年3月には、少年法改正法案に反対する意見書を提出したほか、4月には女性最高裁判事の任命を求める要望書や「民法(親子法制)等の改正に関する中間試案」に対するパブリックコメント(意見書)を提出しました。


イベント関係では、2020年7月に予定していた創立70周年記念シンポジウムが2021年6月に延期となりましたが、さまざまな企画をオンラインで実施しました。会員向けの「社外役員本音座談会」、「企業内弁護士を深掘りするセミナー」(日本組織内弁護士協会と共催)、女子大学生を主な対象にした「キャリアサポートセミナー」などです。このほか、女性法曹・法律家による無料法律相談、女性活躍推進をテーマとする日弁連主催のシンポジウムの後援を行いました。


時代とともに広がる活動

(金野)近年の女法協は、家事事件に限らず、ビジネス界で活躍する女性にも焦点を当てて活動しています。こうした変化によって、女性法曹にとってさまざまな道があることを後進に示すことができています。未来の女性法曹に対する働きかけとして、ジュニア会員制度にも力を入れています。キャリアサポートセミナーに参加した学生をジュニア会員として迎え、彼女たちにとって有益な情報を継続的に発信しています。将来の選択肢に法曹が加わるといいな、できたら女法協に入って活躍してもらいたいなと考えています。


選択的夫婦別姓制度の早期実現を目指して

(川尻)女法協が四半世紀以上にわたって取り組んでいる選択的夫婦別姓制度問題の本質は、なぜ「家族は同氏であるべき」という特定の家族観(信条)を全員に押し付けるのかという点です。世界では、氏名は個人のアイデンティティの主要な要素で、その変更の強制は許されないと考えられており、これを強制する国は今や日本だけです。女法協の仲間は、法学者・法曹の共同声明やビジネスリーダー有志の会の賛同書集めなど、精力的に活動しています。


(犬伏)選択的夫婦別姓制度は、氏名に対する個人の思いを尊重し、夫婦や家族の在り方の多様性を認める制度です。残念ながら、第五次男女共同参画基本計画では、従前よりも後退したと言わざるを得ない内容になってしまいましたが、法制度に直接関わる人たちから署名を募った結果、最終的に法学者302人、法曹720人の賛同を得て共同声明を公表することができました。女法協のメーリングリストを使って拡散したところ、会員の協力のおかげで男性の賛同者も多く集まりました。


会員の皆さまへ~これからの女法協~

(川尻)女性会員の皆さん、ぜひ女法協に入会してください。女法協にはさまざまな分野で活躍する弁護士、裁判官、検察官、法律学者が所属しており、司法の分野を超えて活躍している方もいます。日々の困りごとから社会を動かす活動まで、メーリングリストに投稿すると、わっと返事が返ってきます。


(犬伏)専門分野の違う方のコメントは切り口が違っていてハッとさせられることがあります。こうした交流は女法協ならではだと感じます。


(金野)多様な価値観が認められる社会は女性だけでなく、男性にとっても生きやすい社会だと思います。多様性の一丁目一番地が女性の活躍といわれているので、男性会員の皆さまにも活動を見守っていただけたらありがたいです。


(佐貫)創立70年を経た今、ジェンダー差別は性別役割分担意識あるいはモデル家族の尊重と、創立当初とは形を変えて人々の意識に深く根ざしているようにみえます。こうした「壁」をしなやかに乗り越え、多様な価値観を真に実現するという視点から、女法協が新たにスタートするときだと思っています。



日弁連委員会めぐり109
市民のための法教育委員会

日弁連は、市民のための法教育の普及・実践に取り組んでいます。今回は市民のための法教育委員会(以下「委員会」)の村松剛委員長(神奈川県)、額田みさ子副委員長(第二東京)、神坪浩喜副委員長(仙台)、荒川武志事務局長(愛知県)に活動内容等を伺いました。

(広報室嘱託 本多基記)


委員会の目的~民主主義社会の構成員の育成・支援

前列左から村松委員長、額田副委員長、後列左から神坪副委員長、荒川事務局長

日弁連では、1990年代前半から司法教育への取り組みを始め、裁判傍聴の引率や学校へ弁護士が出張する「出前授業」などに取り組んできました。こうした活動を背景に、2003年4月に委員会が設置されました。委員会は、①自由で公正な民主主義社会の構成員(市民)を育成・支援するための教育(法教育)の方策策定および実践、②学校等における法教育のための教材の研究・開発、③法教育に関する教育関係者等との情報交換などの活動をしています。


法教育の意味~弁護士だからこそできること

法教育に取り組むに当たり、一人一人が大事な存在である(個人の尊厳)という考え方が重要です。社会生活の上では多様な価値観が存在し、中には自分とは異なる価値観を排除する人もいます。法教育では、価値観が違う人同士が共生するために法律・ルールが存在すること、共生のために他を尊重することが必要と伝えています。昨今、新型コロナウイルスに関する差別が問題視されていますが、このような差別の防止も法教育の使命だと考えています。


法教育の拡大を目指す~全国の弁護士会との連携強化

現在、全国で出張授業などが実施されていますが、法教育を広めるためには全国の弁護士会の協力が不可欠です。委員会では、法教育に携わる会員が活動しやすいよう環境整備や教育現場・各弁護士会への情報発信に取り組んでいます。本年5月29日に開催された法教育セミナーでは、新学習指導要領における主体的・対話的で深い学びについて研究しました。


法教育は、司法や弁護士を身近に感じ、弁護士への信頼構築につながります。教育現場で子どもたちと触れ合うことは理屈抜きに楽しく、難しい言葉や概念を分かりやすく伝えるという弁護士活動の原点にもつながるので、多くの会員に経験してほしいと思います。


法教育が浸透してきたという実感はありますが、まだ十分とは言えません。個人が尊重される社会を実現するためにも、会員の皆さまにはぜひ法教育に関心を寄せていただき、一緒に取り組んでほしいです。



ブックセンターベストセラー (2021年4月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編集者名 出版社名・発行元
1

株式会社法〔第8版〕

江頭憲治郎/著 有斐閣
2

民事介護の起案技術

民事介護実務研究会/編著 創耕舎

3訂 紛争累計型別の要件事実

司法研修所/編 法曹会
4 会社法〔第3版〕 田中 亘/著 東京大学出版会
我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権〔第7版〕 我妻 榮・有泉 亨・清水 誠・田山輝明/著 日本評論社
6 婚姻費用・養育費等計算事例集(中・上級編)新装補訂版 婚姻費用養育費問題研究会/編 婚姻費用養育費問題研究会
7

インターネット削除請求・発信者情報開示請求の実務と書式

神田知宏/著 日本加除出版
8

法律事務職員研修「基礎講座」テキスト 2021年度

東京弁護士会弁護士業務改革委員会/編 東京弁護士会

令和2年度 重要判例解説

有斐閣

ケーススタディ 財産分与の実務

勝木 萌・ 竹下龍之介・中村啓乃・堀尾雅光・宮﨑 晃/著 日本加除出版


海外情報紹介コーナ⑩
Japan Federation of Bar Associations

薬物犯罪で人種や性別による量刑格差(英国)


英国では、量刑の透明化と一貫性を保つため、2010年に「量刑評議会」(以下「評議会」)という公共機関が設立された。評議会は、犯罪類型に応じて裁判官向けの量刑ガイドラインを制定している。


今年4月、評議会は薬物犯罪に係る量刑ガイドラインの改訂を行ったが、その改訂に先立つ調査で人種や性別による量刑格差が明らかとなった。


評議会によると、薬物犯罪について、黒人が実刑判決を言い渡される確率は白人の1.4倍に上り、アジア系の刑期は白人よりも平均4%長期となっていた。大変重い意味を持つ調査結果である。


(国際室嘱託 津田顕一郎)