日弁連新聞 第566号

「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案」に対する意見書

arrow_blue_1.gif「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案」に対する意見書


日弁連は3月18日、「『民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案』に対する意見書」を取りまとめ、法務省に提出した。意見書では多くの課題について述べているが、特に議論になった二点に絞って意見の要旨を説明する。


オンライン申し立ての義務化について

段階的に実施すべきである。具体的には、まず義務化せずにオンライン申し立てができるようにし(丙案実施)、次に訴訟代理人のみ義務化(乙案実施)、最後に原則義務化する(甲案実施)。


乙案は、事件管理システムの使いやすさや安定性・信頼性の確保、訴訟代理人による事件管理システムの習熟、事務職員がオンライン申し立て等に係る事務を行える制度が整備された段階で施行すべきである。


さらに甲案は、裁判所による適切な事件管理システムや通信環境の構築、市民におけるIT機器の浸透、適切な担い手による充実したITサポートの全国的な展開が確保され、国会における検証を経た後に、法曹三者の自律的判断を尊重しつつ、その施行の可否と時期を国会の議決で決めるべきである。



新たな訴訟手続について

原告の申し出により、被告に異議のない場合は原則6か月以内で審理を終結し、判決をすることを骨子とする甲案には反対する。


両当事者の合意で主体的に審理計画を立てることを骨子とし、審理期間は甲案と同様とする乙案は、そのままであれば賛成できない。ただし、さらに検討するのであれば、訴訟制度における当事者の自主性を基本とする乙案の考え方を基礎とし、審理の充実が損なわれないように配慮すべきである。


加えて、審理期間も当事者の合意を尊重して決められるようにすること、合意の前提事情が変わった場合は当事者の申し立てで通常の手続に移行できる制度とすること、訴訟代理人がついていない事案にはこの手続を認めるべきでないことなど、審理の充実を図るためのさまざまな意見を述べている。



今後の予定

2022年の民訴法改正に向けて要綱案が作成される。裁判のIT化がもたらす利便性を生かしながらも、裁判を受ける権利が保障される法制度の実現に向けた取り組みを全国で進める必要がある。


(民事裁判手続等のIT化に関するワーキンググループ 副座長 今川 忠)


*意見書は日弁連ウェブサイトでご覧いただけます。



国際シンポジウム
刑事司法の未来を展望する
刑事司法制度は死刑制度や弁護士への攻撃とともに共存できるのか
3月13日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif国際シンポジウム「刑事司法の未来を展望する―刑事司法制度は死刑制度や弁護士への攻撃とともに共存できるのか」


本シンポジウムでは、今日の刑事司法が直面する弁護士への攻撃と死刑制度という2つの問題について、国内外の専門家を集めて討論した。
シンポジウムには約300人が参加した。
(共催:国際弁護士連盟・国際刑法学会日本部会)


第1部 弁護士の役割に関する基本原則採択30周年
―弁護士の職務の独立と保護を確立するために

当日の様子

Diego García-Sayán氏(国連人権理事会裁判官と弁護士の独立に関する特別報告者)による基調講演「弁護士の保護と独立のための弁護士会の役割―2018年国連人権理事会報告書」と、Jacqueline R.Scott氏(国際弁護士連盟(UIA)法の支配機構代表)による報告の中で、世界中で起きている弁護士に対する攻撃事例が多数紹介された。


パネルディスカッションでは、「弁護士の役割に関する基本原則30周年―適正な刑事司法の実現のために必要なシステム」とのテーマで議論が行われ、弁護士に関する国際基準である基本原則が存在すること自体に大きな意義があるとの指摘がなされた。他方で基本原則が拘束力のないソフトローであり制裁を伴うものではないこと、検察の独立がうたわれていないことなど課題が残っているとの意見もあった。


第2部 世界のあらゆる国と地域での死刑廃止を目指す
―国際法における死刑制度の違法性

Donald Rothwell教授(オーストラリア国立大学法学部)は、「国際法は死刑を違法とみなしている」と題する基調講演の中で、主要な条約や各国の状況、近時の動きを紹介した。


その後国会議員や関係機関の方々からのビデオメッセージの紹介と会場スピーチが行われ、日本の死刑制度の今後を考える議員の会会長の河村建夫衆議院議員(自由民主党)、山口那津男参議院議員(公明党代表)、福山哲郎参議院議員(立憲民主党幹事長)、全日本仏教会の戸松義晴理事長および元法務大臣の谷垣禎一氏から力強いコメントが寄せられた。


パネルディスカッションでは、日本と世界の死刑制度の現状についてどう考えるか、死刑の廃止を進めてゆくために何が必要か、死刑廃止が実現した後の死刑に代わる刑罰制度としてどのようなものが考えられるかなどのテーマで活発な意見交換が行われた。


また袴田巖氏の姉ひで子氏のビデオメッセージが紹介された。ひで子氏は「人間のすることだから間違いもある。(けれども間違えて死刑を執行してしまったら)間違えましたでは済まない。死刑制度について改めてよく考えてほしい」と訴えた。


京都コングレス記念
「世界のあらゆる国と地域での死刑廃止を目指す共同メッセージ」

シンポジウムの締めくくりとして、日弁連、国際弁護士連盟および駐日欧州連合代表部が共同で取りまとめたメッセージが読み上げられ、死刑廃止に向けて積極的に動き出すことが呼びかけられた。



「出入国管理及び難民認定法改正案に関する意見書」取りまとめ

arrow_blue_1.gif出入国管理及び難民認定法改正案に関する意見書


日弁連は3月18日、「出入国管理及び難民認定法改正案に関する意見書」を取りまとめ、同月23日付けで法務大臣、出入国在留管理庁長官、衆参両院議長および各政党に提出した。



2019年6月、長崎県の大村入国管理センターで、長期収容されていたナイジェリア人男性が餓死するという事件が発生した(同年8月8日付日弁連会長声明参照)。これを契機として、法務大臣の下に設置された第七次出入国管理政策懇談会の「収容・ 送還に関する専門部会」が2020年6月に提言を取りまとめ、この提言等を受けた政府提出法案(以下「本法案」)が2月19日に国会に提出された。しかし、本法案には多くの深刻な問題点が含まれていたため、日弁連は2月26日に会長声明を公表し、3月18日に本意見書を取りまとめた。


冒頭の悲劇的な事件の再発防止策としては、収容要件や収容期間の法定、令状主義の導入など入管収容制度の抜本的見直しが不可欠である。しかし、本法案がこれを回避して導入した監理措置制度は、監理人に選定されることが予想される支援者や弁護士等に被監理人を監督させ、多岐にわたる届出義務等を課すといった根本的な問題点をはらんでいる。また、難民を誤って本国に送還してその生命・身体等を危険にさらす恐れのある難民申請者の送還停止効の一部解除、退去命令や旅券発給申請命令制度等と罰則の新設など、本法案は多岐にわたって問題の多い制度変更を行う内容となっている。


日弁連は抜本的な見直しなくしては到底受け入れることができないとの立場から、本意見書で本法案の問題点を詳細に分析した。本法案は4月16日に審議入りし、日弁連は弁護士会や弁護士会連合会と連携して取り組みを強めているところである。


(人権擁護委員会第6部会 特別委嘱委員 関 聡介)

*意見書は日弁連ウェブサイトでご覧いただけます。



2021年度会務執行方針(要約)

(全文は日弁連ウェブサイトをご覧ください。)


はじめに

新型コロナウイルス感染症の感染拡大に対し、COVID―19対策本部を中心として他の委員会や52の弁護士会の総力を結集し、様々な活動を展開する一方、法の支配の確立、法治主義の徹底、立憲主義の堅持を含む憲法の基本原理の尊重、司法基盤の整備・拡充、弁護士自治の堅持、格差社会の是正などを諸課題の中で実現すべく、国内最大の人権擁護団体である日弁連に相応しい活動を行います。


第1 コロナ禍の中での課題への対応

不測の事態にも意思決定を適時適切に行うべく充実した議事の実現と会務の安定的な運用を目指します。


ウェブ会議システムを活用した委員会活動の安定した運用に注力します。


COVID―19対策本部を中心として、関連委員会及び全国の弁護士会と連携・協力しながら、市民・事業者向けの各種施策を実施します。情報提供を中心とした会員向け施策にも取り組みます。


市民・事業者の法的ニーズに応える施策を立案・実行し、自然災害債務整理ガイドラインの更なる利用促進のための支援態勢の整備や、オンラインを活用した法的サービスの提供も推進します。


感染拡大状況下における各地の弁護士会の負担に対して必要な補助を行い、法律相談や事務所経営に役立つコンテンツも提供して会員の業務を支援します。


コロナ関連の様々な問題について活動を推進します。


第2 平和と人権

憲法改正について、国民が熟慮できる機会が保障されなければなりません。憲法改正手続法には最低投票率の定めがないなどの問題もあります。立憲主義の大切さを国民や政府に丁寧に説明し、問題の所在を指摘します。


特定秘密保護法は、廃止を含めた抜本的な見直しに向けて取り組み、運用状況を監視します。


いわゆる共謀罪法は、廃止へ向けて取り組むとともに、厳しくその適用状況を注視し続けます。


全国の児童相談所における弁護士の配置等を推進し、児童虐待防止のための取組を強めます。


少年法の改正に当たっては課題も多く、解決に向けた取組を継続します。


高齢者や障がい者が自分らしい生き方を選択できる社会を実現するために、各種の制度構築と運用改善に取り組み、より身近な「ホームロイヤー制度」の普及に努めます。


自然災害債務整理ガイドラインによる生活再建や災害ADRの活用による紛争解決など、これまでの被災者支援で得られたノウハウを活かした取組を継続します。


犯罪被害者・家族・遺族の心情と実情に配慮しつつ、死刑制度の廃止を訴えます。


外国にルーツを持つ人々との共生社会の実現を目指し、外国人住民に対する司法アクセスの拡充、外国人の人権救済申立事件を通じた救済に取り組みます。


犯罪被害者法律援助事業の国費化に向けた取組を強め、全ての地方公共団体において犯罪被害者支援条例を制定するよう働きかけます。さらに、性犯罪・性暴力被害者のための病院拠点型ワンストップ支援センターの設立を求めます。


消費者被害防止・救済方策を進め、高齢者や成年年齢の引下げが近付く中での若年者の被害拡大の防止に取り組みます。


生活保護法改正を求めるとともに運用改善に取り組み、コロナ禍を踏まえ、住居確保給付金の支給要件等の緩和、失業給付の受給と雇用調整助成金の支給拡大、最低賃金額の引上げや全国一律最低賃金制度の実施等を求めます。


労働審判制度が効果的に機能するための取組を進め、労働者の救済策の充実、ワークルール教育を推進します。


個人通報制度の導入と国内人権機関の設置を求めます。


性的指向や性自認による偏見や差別をなくすための法律相談の充実、市民への啓発活動や政府に対する働きかけを行います。


公害・環境破壊の根絶を目指すとともに、生態系の保全と持続可能な社会の実現に向けて多様な環境問題に取り組みます。


若年層の法教育の充実のために、広く法教育が浸透するよう活動します。


第3 弁護士業務の拡大・拡充

公益的業務について、国や自治体との連携を強化し、適切な予算措置を求める取組を推進します。


国や地方公共団体における弁護士任用の促進等、行政との連携の取組を一層推進します。


日本司法支援センターにおける民事法律扶助の立替基準を検証するとともに、困難案件加算や償還免除の活用・拡大等に取り組みます。


弁護士費用保険について、研修の充実等により弁護士の紹介を円滑迅速に行える態勢の整備に努めます。


新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により経営上の打撃を受けた事業者向け施策の実施のほか、関係機関と連携して中小企業の法的ニーズに応えるべく取り組みます。


中小企業の国際業務支援、在留邦人・在日外国人への法的支援、国際公務、国際交流への取組や、国際仲裁・調停で活躍できる弁護士の育成・支援も進めます。


隣接士業の権限逸脱行為や無資格者による他人の法律事件への介入に対して厳正に対処します。


第4 法の支配の確立のための司法基盤の整備

民事裁判手続のIT化などの重要課題について、より良い民事司法制度の構築を目指します。


子に対する懲戒権、嫡出推定制度等について、日弁連の意見が適切に法改正に反映されるよう取り組みます。家事事件手続のリモート化の実現に向けて取り組みます。


地域の実情に応じた弁護士過疎・偏在解消に向けた取組を推進します。ひまわり基金法律事務所の支援を推進し、赴任弁護士の人材確保と養成のための施策を実施します。法律相談事業の在り方についてコロナ後も見据えた改善を実行します。


市民にとって身近で利用しやすく、頼りがいのある民事司法を実現するため裁判所支部機能の拡充に取り組みます。


日本司法支援センターが行う、認知機能が十分でない高齢者・障がい者やDV・ストーカー・児童虐待の被害者、大規模災害による被災者等に対する法律相談事業が市民にとって利用しやすい制度となるよう適正な運用を目指します。


スタッフ弁護士の人材確保、養成及び支援に努めます。


第5 法曹養成問題と法曹人口問題への取組

法曹の魅力を高め、これを的確に発信します。法曹コースの設置や法科大学院在学中の司法試験受験を認めるなどの新しい制度が適切に運用されるよう提言します。


現実の法的需要、司法基盤整備の状況、法曹の質等の観点から、今後の司法試験合格者数の検討を行います。


第6 刑事司法制度の改革

人質司法の解消に向けての立法事実の集積と身体拘束より制限的でない代替措置についての検討に取り組みます。


取調べの全過程の録音・録画の対象を全事件に広げる取組、弁護人立会権の確立に向けた取組を進め、逮捕段階における公的弁護制度の実現を目指します。


全面的証拠開示の立法事実となるべき事例の収集分析に取り組みます。


刑事手続のIT化が、憲法が保障する権利の実効性を高める方向で進められるよう取り組みます。


更生支援計画書の作成・活用や多方面における法的サポート等に向けた取組を、国、自治体、福祉専門職等と協力しながら進めます。


再審請求手続における全面的な証拠開示の制度化を含む再審法改正に向けて取り組みます。


国選付添人制度について、身体拘束事件全件への対象拡大の実現を目指します。


第7 若手弁護士への支援

いわゆる谷間世代の会員に対する給付金の制度や修習期の新しい法曹の活動を支援するための施策の実現に向けた取組を実施し、国費による是正措置を求める運動を進めます。


若手会員が新たな活動領域を開拓する体制を支援します。


第8 男女共同参画の推進

政策・方針決定過程への女性会員の参画拡大を目指し、施策を推進します。関連団体と連携の上、弁護士会内と社会の両面から男女間格差を解消する取組を進めます。


第9 弁護士自治を堅持する方策等

不祥事対策に取り組みます。弁護士会の市民窓口及び紛議調停の機能強化、懲戒制度の運用面での工夫など実務面の対策を推進するとともに、会員への支援策の充実を図ります。


依頼者の本人特定事項の確認・記録の保存・年次報告書の提出の履行の徹底に努めます。


各種会議の性質や運営上の課題を整理した上で、オンライン化に適したものはオンライン化を推進し、リアル参加とオンライン参加の併用によって会議の更なる充実に努めます。


小規模弁護士会に対する財政的支援について、より良い支援の在り方を考えます。


必要な支出は行う反面、各種イベントのスリム化や委員会の統廃合等により、適正な会財政を目指します。


選挙公報の早期発行のための立候補届出期間の短縮、ファクシミリによる選挙運動を可能にします。


第10 広報の充実

「日本弁護士連合会広報中長期戦略」に基づくイメージアップ広報、弁護士の仕事を市民や企業に知ってもらう広報、法曹の魅力を発信する広報に力を入れます。また、市民や企業が必要とする情報が「伝わる」広報のために、情報の受け手のニーズに配慮したコンテンツ及び媒体を活用します。



オンラインセミナー
国際社会における法の支配と日本の弁護士の未来像
3月23日 オンライン開催

arrow_blue_1.gifオンラインセミナー「国際社会における法の支配と日本の弁護士の未来像」


ヒト、モノ、カネが国境を越えて自由に行き来する経済が進展し、法の支配が持つ意味が一層重要となっている。国際社会における法の支配、国際法の研究と理解を深めるべく「国際法と法曹の役割」をテーマにセミナーを開催した。


基調講演

2.jpg 小和田恆氏(第22代国際司法裁判所所長)は、これからの社会で日本の法曹が活躍していくためには、国際法の理解が不可欠であると指摘した。


小和田氏は、社会生活が国際社会全体の中で営まれる結果、国際法は国際社会を構成する個人の行動基準として人々の生存を確保し安全を保障する手段へと転換し、国際法が国内法に取り込まれて国内法秩序の一環をなしており、国際法を知らずに国内法を解釈適用できない段階にあると説いた。その上で、国際法と国内法が互いに影響することを踏まえ、法の支配とは何かを学び、考える力を養ってほしい、そのためには文化の理解に力を入れることが重要であると語った。


対談

小和田氏と大谷美紀子会員(東京/国連子どもの権利委員会委員)が対談し、大谷会員は、国際法の知識だけでなく、その奥にある法の原理を考えることが重要であると指摘した。


小和田氏は、国際法の価値として一番重要なものは、普遍性が確保されることであり、そのためには、主体的なparticipation(参加・関与)が大切であると強調した。そして、法のcreation(策定)、application(適用)、enforcement(執行)の各段階において実務家である弁護士が果たす役割は大きく、積極的に経験を積んでほしいと期待を寄せた。


国際交流委員会の活動報告

国際交流委員会の小川晶露副委員長(愛知県)が世界の弁護士団体との交流などについて、佐藤直史副委員長(第二東京)がアジアの弁護士団体とのパートナーシップ・国際司法支援などについてそれぞれ報告した。



第67回 市民会議
民事裁判手続等のIT化と新型コロナ拡大への取り組みについて議論
3月25日 弁護士会館

2020年度3回目の市民会議では、①民事裁判手続等のIT化、②新型コロナウイルス感染症の拡大に関する取り組み状況の2つのテーマについて、現在の状況や日弁連の取り組みを報告し、議論を行った。


民事裁判手続等のIT化について

民事裁判手続等のIT化に関する検討ワーキンググループの斎藤義房座長(東京)と平岡敦委員(第二東京)が、民事裁判手続等のIT化の全体スケジュールと現状や課題、意見書等の日弁連の取り組みについて説明した。


市民会議委員からは、何のためのIT化なのかという根本的な思想から議論すべき、国民のメリットを丁寧に説明すべきという意見が出され、斎藤座長から全ての人の裁判を受ける権利を保障するという出発点を忘れず、残された課題に対応していきたいとの決意が述べられた。また、証人尋問など具体的な手続や刑事裁判についての質問も寄せられ、関心の高さがうかがわれた。


新型コロナウイルス感染症の拡大に関する取組状況について

西村依子副会長(当時)が「COVID―19と人権に関する日弁連の取組―中間報告書―」について、關本喜文副会長(同)が「感染症法・特措法の改正法案に反対する会長声明」「新型コロナウイルスワクチン接種に関する提言書」について、鎌田健司副会長(同)が、弁護士会と日弁連で実施した、新型コロナウイルス関連相談に関する傾向分析・事例収集について報告した。


市民会議委員からは、人権侵害や被害に関する問題や相談を分野ごとに集約して分析し、次の対策に生かすという取り組みは評価できるとの意見や、法律相談の周知や相談手段についてSNSやインターネットなど地域や世代を超えて広く届くように多様化させる工夫が必要であるなどの意見が寄せられた。


市民会議委員(2021年3月25日現在)五十音順・敬称略

 井田香奈子 (朝日新聞論説委員)
逢見 直人 (日本労働組合総連合会会長代行)
太田 昌克 (共同通信編集委員、早稲田大学客員教授、長崎大学客員教授、博士(政策研究))
北川 正恭 (議長・早稲田大学名誉教授)
吉柳さおり (株式会社プラチナム代表取締役、株式会社ベクトル取締役副社長)
河野 康子 (一般財団法人日本消費者協会理事、NPO法人消費者スマイル基金事務局長)
鈴木 正朝 (新潟大学大学院現代社会文化研究科・法学部教授、一般財団法人情報法制研究所理事長)
田中  良 (杉並区長)
浜野  京 (信州大学理事(特命戦略(大学経営力強化)担当)、元日本貿易振興機構理事)
村木 厚子 (副議長・元厚生労働事務次官)
湯浅  誠 (社会活動家、東京大学先端科学技術研究センター特任教授)



民事裁判シンポジウム
民事裁判に関する運用改善提言
~現状の問題点を探り、あるべき民事裁判の運用を考える!~
3月31日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif民事裁判シンポジウム~現状の問題点を探り、あるべき民事裁判の運用を考える!~


日弁連の民事裁判手続に関する委員会は、より良い民事裁判の実現を目指し、調査・研究および弁護士会等との協議を重ねてきた。本シンポジウムでは、近年の民事裁判における運用上の課題や裁判手続のIT化に触れ、新しい時代の民事裁判を見据えた手続のあるべき姿について意見を交わした。


基調報告

民事裁判手続に関する委員会の横路俊一事務局長(札幌)は、民事裁判に関する運用改善提言について①当事者主導による訴訟運営の活性化②訴訟運営における裁判所の責務と役割の明確化の視点から各手続を詳細に検討し提言を行ったと説明した。また、2014年の提言公表後の実務の実情として、争点整理手続における口頭での議論の不活性や争点整理期日の増加、平均審理期間の長期化傾向等の問題点を指摘した。


パネルディスカッション

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垣内秀介教授(東京大学大学院法学政治学研究科)、渡邉達之輔氏(最高裁判所事務総局民事局第二課長)、日下部真治委員長(第二東京)、永石一恵事務局次長(東京)が登壇し、宮本圭子副委員長(大阪)がコーディネーターを務めた。






◇民事裁判運用上の問題点

渡邉氏は、訴訟物が不明確であるなど、問題のある訴状が少なくないと指摘した。訴状の補正について、垣内教授らは、被告の手続保障の観点から透明性・中立性確保が必要であると述べた。争点整理手続については、当事者と裁判所の認識共有が重要との共通理解のもと、暫定的心証開示の在り方や口頭での議論活性化のためのノンコミットメントルールの適用等について意見を交わした。


◇裁判手続のIT化

渡邉氏は、WEB会議の導入により、争点整理表の画面共有など実務も変化していると述べた。垣内教授は、IT化によって司法の役割の核心部分は変容させてはならず、定期的検証の必要性を強調した。



罪に問われた障がい者等の刑事弁護の体制整備等に関する研修・意見交換会
3月30日 神奈川県弁護士会館・オンライン開催

近時の調査によれば、新規受刑者の約2割に知的障がいの疑いがあるとされる。障がいがある者の弁護には、その障がいの特性等を理解することが不可欠であり、対応できる弁護人の質を確保する必要がある。前半の研修会では弁護人としていかに対応すべきかを学び、後半の意見交換会では各弁護士会での取り組み等につき情報を共有した。


研修会

罪に問われた障がい者の刑事弁護に関する連絡会議の佐藤邦男委員(広島)は、新規受刑者における精神障がい者の割合が、総人口に対する精神障がい者の割合と比較して大きくなっている現状について、精神障がい者が適切な支援を得られていない可能性があると問題提起した。弁護人としては、まず被疑者等に障がいがあることに気付くことが重要と述べ、気付きの端緒として、①事件の経緯や内容につき動機と犯行内容に乖離がある、②接見時に視線が合わない、被害者等の気持ちを考えることが極めて難しい、自発的な発言が見られない、などを挙げた。障がいがあると疑われる場合、弁護人としては、捜査機関に積極的に可視化を申し入れ、誘導的な取調べや黙秘権侵害について注意喚起すべきと述べ、福祉専門職と同行接見をしたり更生支援計画書を作成するなどの連携が効果的と強調した。


意見交換会

小鉢由美委員(福岡県)は、障がいがある被疑者等の更生のためには適切な社会福祉的支援につなげる弁護活動の実践が求められ、弁護士会として、その活動を支援する必要があると述べた。社会福祉士会や地域生活定着支援センターなどの福祉関係者との連携スキームが構築されている弁護士会の取り組みを紹介する一方、十分な運用がなされていない現状についても触れ、経験に基づく意見交換が活発になされた。



弁護士に会ってみよう!
春休みWEB特別企画
3月26日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif弁護士に会ってみよう!春休みWEB特別企画


弁護士の仕事や活躍の場を紹介するオンラインミーティングを2回にわたって開催した。1回目は、弁護士という進路に興味を持つ高校生、大学生30人が参加した。


全体セッション

冒頭に、講師を務める各弁護士から、主な業務内容や勤務形態等の話を交えた自己紹介があった後、法科大学院センターの関理秀副委員長(東京)が、弁護士の一日の生活を紹介した。ドラマなどの設定と異なり、弁護士は多様な案件を同時に何件も抱えていること、勤務先として法律事務所以外に民間企業、省庁、自治体、国際機関など多くの選択肢があることを説明した。


グループセッション

後半は、参加者と弁護士が2つのグループに分かれて質疑応答を行った。弁護士として必要な資質は何かとの質問に対し、関副委員長は一つのことに熱中し、人や物事に関心を持つことが、事件や依頼者と真摯に向き合う姿勢につながると答えた。


企業内弁護士である中貴史幹事(東京)は、国際的な仕事に携わる際には、自分の人物像を印象づけるバックボーンの強さが求められるので、何かに真剣に取り組んだ経験を持つことが強みになると語った。


さらに、子どもに関する問題、難民問題、企業間の国際取引など、さまざまな分野に関心を持つ参加者に対し、資格を持つことで問題を解決する手段が増えることや活躍の場が広がる強み、ライフイベントに合わせた働き方を選べること、人生観が変わるような体験ができることなど、弁護士という仕事の魅力が実感をもって語られた。


留学をした方がいいのか、大学を選ぶ際のポイントは何か、弁護士になってからの業務内容はどのように決まるのかなど、具体的な進路を想定した参加者からの質問に、各弁護士が経験を交えて丁寧に回答し、参加者の進路選択の一助となったようであった。



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.157

福島第一・第二原発事故発生から10年
原子力損害賠償紛争解決     センターの歩みと展望

原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」)では、多くの弁護士がその業務を担っています。原子力損害賠償紛争和解仲介室次長の近藤健太会員(東京)、和解仲介手続に携わる仲介委員で室長補佐の鍬竹昌利会員(東京)、元調査官で室長補佐の竹之内俊会員(東京)にお話を伺いました。

(広報室嘱託 田中和人)


和解仲介の状況

左から竹之内会員、鍬竹会員、近藤会員

(近藤)センターでは、業務開始以降2020年12月末日までに、総件数2万6407件、申立人総数11万3511人(法人および地方公共団体を含む延べ人数)の事件を受理しています。そのうち2万5692件が終了し、和解の成立数が2万562件、成立率は80.0%です。他方、打ち切りで終了した事件のうち、東京電力の和解案拒否を理由とするものの件数と当該年の終了件数に占める割合は、2016年6件(0.2%)、2017年4件(0.2%)、2018年49件(2.7%)、2019年17件(1.2%)、2020年2件(0.2%)です。


(鍬竹)センターへの申立件数は、東京電力に対する直接請求数の100分の1程度で、組織の規模も東京電力に遠く及びません。しかし、東京電力に対する直接請求では十分な救済が受けられない被害者の救済、その積み重ねによる適正な賠償ルールの形成への橋渡しを使命として取り組んできました。


申立件数は減少傾向も約4割は初回申し立て

(近藤)センターへの近年の申立件数は、2018年1121件、2019年1209件、2020年862件と、2014年の5217件をピークに減少傾向にあります。


もっとも、これまでセンターを利用したことのない方の申し立ては、2018年40.2%、2019年36.2%、2020年も39.0%を占めます。センターの存在を知りながら躊躇したり、諦めたりしている方は少なくありません。


時間の経過による影響

(近藤)センターの平均審理期間(仲介委員指名から和解案提示まで)は、2014、2015年が4.6か月でしたが、2018年以降は10〜11か月程度と長くなっています。時間の経過によって相当因果関係が中心的争点となる事案が増えており、その調査等に時間を要する傾向がみられます。


(鍬竹)避難指示解除後も避難を継続する方がいる一方、帰還し生活を送る方もいます。和解案検討には、申立人の事情を丁寧に調査する必要があります。


(竹之内)私は2011年からセンターに関わっていますが、事故当初も現在も、申立人が訴える東京電力への不満・賠償に対する不平等感は変わらないと感じています。


事実上の最後の砦

(近藤)原発事故の損害賠償については、まだ確定した判決はないものの複数の判決が出ています。しかし、センターが参加する現地説明会では、賠償を望みながら、弁護士へのアクセスはおろか、資料等のコピーにさえ苦労する方もいます。東京電力という大企業相手の裁判などおよそ考えられないという方は少なくないと感じます。このような方にとって、センターは最後の砦なのです。


(竹之内)手続の負担を理由に救済の道を閉ざさないよう、センターは和解仲介の実情の周知に力を入れています。併せて、チェックのみの簡易な申立書の作成や現地説明会での申立受付など、申し立てのハードルを下げるための簡易化の工夫を重ねています。


申し立てさえしてもらえれば、弁護士である調査官・仲介委員が必要な調査・検討を尽くします。今も大半の事件で和解が成立しています。


(鍬竹)弁護士の方は、自ら受任することが難しくとも、申立書にチェックをするだけで、本人でも申し立てられることを被害者に伝えてほしいと思います。


迅速かつ適正な賠償を実現していく

(鍬竹)原発事故発生から10年が経過し、復興に向けた動きが見られる一方で、今も原発事故に伴う避難者が一定数存在し、事故の影響はなお続いています。


時間の経過を理由に賠償を否定することは難しくありません。しかし、申立人の訴えに耳を傾け、審理を尽くすことを放棄してはならないと思っています。


近藤)自分は救われないと諦めてしまっている被害者もいます。センターの使命は、迅速で適正な賠償の実現です。漏れがあっては適正とは言えません。センターにはまだまだやるべきことがあります。


*センターに関する統計データ等は、文部科学省ウェブサイトに掲載されているicon_page.png活動状況報告書でご覧いただけます。



日弁連委員会めぐり108
自然災害債務整理ガイドラインに関するワーキンググループ

今回の委員会めぐりは、自然災害債務整理ガイドラインに関するワーキンググループ(以下「WG」)です。奥国範座長(東京)、加賀山瞭委員(第二東京)、本澤陽一委員(東京)にお話を伺いました。

(広報室嘱託 木南麻浦)


WG発足の経緯

(奥)2020年夏ごろ、金融庁と一般社団法人東日本大震災・自然災害債務整理ガイドライン運営機関から日弁連に対し、自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン(以下「ガイドライン」)の新型コロナウイルスの影響を受けた債務者(個人・個人事業主)への適用について検討打診があり、執行部において関係機関との協議を開始しました。この協議に当たっては、災害復興支援委員会、倒産法制等検討委員会、消費者問題対策委員会、日弁連中小企業法律支援センター等から推薦いただいたメンバーによるバックアップを受けながら検討を進めました。同年9月に制度の大枠が固まった段階で、協議を担当していた執行部とバックアップのメンバーを中心としてWGが発足しました。


活動内容

左から本澤委員、奥座長、加賀山委員(奥)2020年10月30日に「『自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン』を新型コロナウイルス感染症に適用する場合の特則」が公表され、同年12月1日から運用を開始することになりました。このため、WG発足後の主な活動は、運用開始に向けた体制整備でした。公表からの時間がとても短く、当初は毎週のように会議を実施し、各種課題に取り組みました。マニュアル・Q&A、研修、広報の3チームに分かれて活動していますが、全員参加のメーリングリストで議論することが多いです。新型コロナウイルスの感染拡大状況を踏まえ、WGの会議は常にオンラインで行っており、実は一度もリアルに会ったことがない委員が多いのですが、一体感を持って非常に活発な意見交換をしています。


(本澤)特に、東日本大震災、西日本豪雨、熊本地震、胆振東部地震等の大規模な災害を経験した地域の弁護士会からWGに参加している委員は「全国に知見を共有する」という使命感を持っているように感じました。


会員へのメッセージ

(奥)自然災害やコロナ禍という不可抗力で債務を弁済できなくなったケースでは、貸した側もリスクを負担することが公平との発想がガイドラインの根底にあります。登録支援専門家として関与される会員が多いと思いますが、債権者と債務者は必ずしも戦う相手同士ではなく、共に解決を目指す存在だということを念頭に取り組んでいただきたいです。


(加賀山)この制度に関する市民からの相談が増えてきていると感じます。「明日、相談を受けるかもしれない」という意識を持って制度の理解を深めていただけると幸いです。会員専用サイトに、制度の概要やeラーニングを複数公開していますので、ぜひ参考にしてください。



ブックセンターベストセラー (2021年3月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編集者名 出版社名・発行元
1

婚姻費用・養育費等計算事例集(中・上級編)新装補訂版

婚姻費用養育費問題研究会/編 婚姻費用養育費問題研究会
2

遺産分割実務マニュアル〔第4版〕

東京弁護士会法友全期会相続実務研究会/編 ぎょうせい

労働基準法解釈総覧〔改訂16版〕

厚生労働省労働基準局/編 労働調査会
4 こんなところでつまずかない!保全・執行事件21のメソッド 東京弁護士会親和全期会/編著 第一法規
5 法律英単語2100 法律・基礎編 渡部友一郎/著 日本加除出版
養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究 司法研修所/編 法曹会
7

会社・株主間契約の理論と実務

田中 亘、森・濱田松本法律事務所/編 有斐閣
8

会社法〔第3版〕

田中 亘/著 東京大学出版会
9

模範六法2021 令和3年版

判例六法編修委員会/編 三省堂
10

会社法を読み解く

中村直人、後藤晃輔、北村勇人/著 商事法務


日本弁護士連合会 総合研修サイト

eラーニング人気講座ランキング(コンパクトシリーズ) 2021年3月

日弁連会員専用サイトからアクセス


順位 講座名 時間
1 戸籍・住民票等の取得(職務上請求)の基本~戸籍、住民票の写し、固定資産評価証明書、自動車の登録事項等証明書の取得について~ 34分
2 地図の読み方の基本~ブルーマップ・公図の利用方法~ 31分
3 戸籍の仕組み・読み方の基本 30分
4 弁護士報酬の基本 29分
5 接見の基本 34分
6 被疑者の不必要な身体拘束からの解放に向けた弁護活動 28分
弁護士会照会の基本 32分
8 不動産登記の基本 31分
セクシャル・ハラスメント及びマタニティ・ハラスメントの基本 28分
10 公正証書の基本~概要と利用法~ 37分
公判前整理手続きの基本 30分


お問い合わせ先:日弁連業務部業務第三課(TEL:03-3580-9902)