日弁連新聞 第564号

緊急時における臨時給付金支給に関する提言
受給権の保障のために

arrow_blue_1.gif緊急時における臨時給付金支給に関する提言


日弁連は1月21日付で「緊急時における臨時給付金支給に関する提言」を取りまとめ、同日付で総務大臣、厚生労働大臣および法務大臣に提出した。


特別定額給付金を受給できなかった住民の存在

政府は2020年4月、新型コロナウイルス感染症緊急経済対策として特別定額給付金の支給を決定した。給付金は住民登録のある全ての人を支給対象としながら、世帯主を受給権者としたために、虐待を受けて世帯主と離れて生活せざるを得ない人などの中には、特例措置が講じられてもなお受給できない人が生じた。また、成年後見制度の利用者、病院や施設に入院または入所中の人やホームレスの人など、受給申請手続を行うことに困難な事情を抱える人への適切な対応がなされなかったために受給できない事態が生じた。特別定額給付金を例とする大規模災害時や感染症拡大などの緊急時における臨時給付金について、国は全ての住民が確実かつ迅速に受給できる仕組みを整える責任がある。


提言の内容

このような状況を受け、日弁連は提言を取りまとめた。提言は、①世帯主要件を廃し、個人給付とすること、②成年後見人等代理権を有する者に対し申請書を送付すること、③受給申請に困難な事情を抱える人に対し支給方法を周知するとともに、受給のための支援を行い、手続要件を緩和すること、を内容としている。


今こそ臨時給付金問題の解決を

2008年のリーマンショックによる定額給付金や東日本大震災による災害弔慰金等の支給の際にも、今回と同様の事態が生じていたが、その解決は図られないままであった。今後、実効ある解決を図るべく関係省庁に申し入れを行う予定である。


(日弁連高齢者・障害者権利支援センター 委員 小山操子)



感染症法・特措法の改正法案に反対する会長声明を公表

arrow_blue_1.gif感染症法・特措法の改正法案に反対する会長声明


政府は1月22日、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下「感染症法」)および新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」)の改正案を国会に提出した。日弁連は同日、改正案の問題点を指摘し、これらについて抜本的な見直しがなされない限り、強く反対する旨の会長声明を公表した。


感染症法改正案の問題点

改正案は、入院措置に応じない者等や積極的疫学調査に対して拒否・虚偽報告等をした者に刑事罰を導入するとした。しかし、刑罰の対象者の範囲は不明確かつ流動的であり、不公正・不公平な適用のおそれも大きい。また、入院措置・調査の拒否者等に対して刑罰を科したからといって、感染拡大が防止できるわけではなく、かえって感染した事実や感染の疑いのあることを隠すおそれさえ懸念される。さらに、感染者等に対する差別偏見が一層助長される可能性もある。


特措法改正案の問題点

改正案は、「まん延防止等重点措置」として都道府県知事が事業者に対して営業時間の変更等の措置を要請・命令することができ、命令に応じない場合は過料を科し、要請・命令したことを公表できるとした。しかし、知事に付与される権限は極めて広範であり、恣意的な運用のおそれがある。また、憲法の求める「正当な補償」となる対象事業者への必要かつ十分な補償について明確にされておらず、さらに、風評被害や偏見差別を生むおそれがある。


修正の上改正法が成立

その後、衆議院で感染症法の入院措置、積極的疫学調査に係る罰則を刑事罰から行政罰に修正(金額も引き下げ)し、特措法の過料の金額も引き下げ、2月3日に改正法は成立した。日弁連が会長声明で指摘した問題点は必ずしも解消されたわけではなく、今後は衆参両院でなされた附帯決議の実現が求められる。


(人権擁護委員会 委員長 川上詩朗)



第1回民事裁判のIT化に関する全国勉強会
1月30日 オンライン開催

民事裁判手続のIT化について全国的な情報共有を図るため、勉強会を開催した。全3回のうち第1回となる今回は、民事裁判手続等のIT化に関する検討WGの阿多博文委員(大阪/法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会委員)が講師を務め、民事裁判手続のIT化の進捗状況と今後の予定、法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会(以下「部会」)での議論状況を解説した。


阿多委員は、現行民事訴訟法下で行うことのできるウェブを利用した争点整理手続の運用は、2020年12月から全国の地裁本庁において既に開始されており、2021年中には地裁支部、高裁と順次拡大していく見込みであると現状を説明した。


また、2022年中に民事訴訟法の改正を予定していることから、2021年度中には部会の答申案を確定させる必要があり、中間試案の取りまとめが目前に迫っている状況であると述べた。


続いて、中間試案のたたき台の目次に従い①総論、②訴えの提起・準備書面の提出、③送達、④送付、⑤口頭弁論、⑥新たな訴訟手続の6項目について、それぞれ論点と部会内で出た意見を説明した。これらの論点に対する日弁連意見案の内容についても言及した。


質疑応答では、みなし送達の対象とすべき書類、被告が裁判所にメールアドレスを届け出ない場合の対応など送達に関するもの、無断撮影の禁止など口頭弁論に関するもの、新たな訴訟手続に関するものなどを中心に20近くの質問があり、部会での議論状況に対する参加者の関心の高さがうかがえた。


◇    ◇


*勉強会の資料および動画は、日弁連総合研修サイトでご覧いただけます。icon_page.png会員専用サイトからアクセスしてください。



民法(親子法制)の改正に関する説明会
2月6日 オンライン開催

法制審議会民法(親子法制)部会(以下「法制審部会」)は、2019年7月以降、民法の懲戒権や嫡出推定制度に関する規定等の見直しについて検討してきた。説明会では、その審議状況・論点を解説し、中間試案の取りまとめを見据えて準備が進む日弁連の意見書案について説明した。


懲戒権

法制審議会民法(親子法制)部会バックアップ会議の磯谷文明委員(東京/法制審部会委員)は、意見書案では、法制審部会の見直し案が、懲戒権を廃止し子の人格尊重を明記していることを評価しつつ、児童虐待防止に向けたさらなる提言などを行っていると説明した。


嫡出推定制度

大森啓子委員(第二東京/同幹事)は、法制審部会の見直し案は、基本的に離婚後300日以内に出生した子を前夫の子と推定する枠組みを維持しつつ、婚姻後200日以内に出生した子を現夫の子と推定する新制度を導入して、再婚禁止規定廃止を前提に、母が再婚し離婚後300日以内で再婚後200日以内に出生した場合に新制度の推定を優先して現夫の子と推定するとともに、子の否認権を認めるなど否認を拡張していると説明した。もっとも、母が法律婚をしなければ新制度の推定によって救済されず、DV事案等では否認権行使が現実的に困難であることなどから、この見直しによる効果は限定的なものと分析した。その上で、意見書案では、無戸籍者問題解消に向けて法的親子関係を確定する仕組みの全体的見直しの提言などを行っていると説明した。


その他の論点

髙橋良委員(神奈川県/同委員)は、法制審部会は、生殖補助医療に関わる親子法制については、嫡出否認規制の必要性を引き続き検討し、その他の規律は今後の動向を見守る方針であるが、意見書案では、諸論点を広く検討する必要性に言及していることなどを説明した。



ひまわり

年度末である。今年度は何といってもコロナ禍に終始した1年であったと思う。日本では2回にわたる緊急事態宣言の発出を経ながらも、コロナ禍の終息はまだ見通せていない▼先月から日本でもワクチンの接種が始まっている。効果への期待が高まる一方で、安全性に対する不安の声もある▼ワクチン接種は、人間が持つ免疫機能を利用した感染症予防策である。この免疫機能については、以前に次のような話を聞いたことがある▼免疫は、自己と非自己を区別し、非自己を速やかに排除する体内の営みであるが、この「自己と非自己の区別」が例外なく貫徹されてしまうと、例えば臓器移植といった治療法は採り得ないことになる。しかし、それを可能としているメカニズムが人体には備わっており、これを「寛容」と呼ぶ▼昨今、立場や意見が自分と異なるというだけで攻撃や排除の対象とする向きが増えていないだろうか。それは、コロナ禍において不幸にもクラスターが発生してしまった会社や学校への心ない攻撃という形などでより鮮明になってはいないだろうか▼免疫の世界では、人間は生来の資質として「寛容」を備えており、ときにそれが自らを救う鍵ともなる。このことに思いを致しつつ、身体も心も健康であり続けたい。

(Y・F)



2020年懲戒請求事案集計報告

日弁連は、2020年(暦年)中の各弁護士会における懲戒請求事案ならびに日弁連における審査請求事案、異議申出事案および綱紀審査申出事案の概況を集計して取りまとめた。


弁護士会が2020年に懲戒手続に付した事案の総数は2254件であった。


懲戒処分の件数は107件であり、前年と比べると12件増えているが、会員数との比では0.24%(前年は0.22%)で、ここ10年間の値との間に大きな差はない。


懲戒処分を受けた弁護士からの審査請求は41件であり、2020年中に日弁連がした裁決内容は、棄却が25件、処分取消が2件、軽い処分への変更が4件等であった。


弁護士会懲戒委員会の審査に関する懲戒請求者からの異議申出は41件であり、2020年中に日弁連がした決定内容は、棄却が31件、決定取消が1件、重い処分への変更が1件等であった。


弁護士会綱紀委員会の調査に関する懲戒請求者からの異議申出は856件、綱紀審査申出は372件であった。日弁連綱紀委員会および綱紀審査会が懲戒審査相当と議決し、弁護士会に送付した事案は、それぞれ4件、1件であった。


一事案について複数の議決・決定(例:請求理由中一部懲戒審査相当、一部不相当など)がなされたものについてはそれぞれ該当の項目に計上した。

終了は、弁護士の資格喪失・死亡により終了したもの。日弁連においては、異議申出および綱紀審査申出を取り下げた場合も終了となるためここに含む。


表1:懲戒請求事案処理の内訳(弁護士会)

新受 既済
懲戒処分 懲戒しない 終了 懲戒審査開始件数
戒告 業務停止 退会命令 除名
1年未満 1~2年
2011 1855 38 26 9 2 5 80 1535 21 137
2012 3898 54 17 6 2 0 79 2189 25 134
2013 3347 61 26 3 6 2 98 4432 33 177
2014 2348 55 31 6 3 6 101 2060 37 182
2015 2681 59 27 3 5 3 97 2191 54 186
2016 3480 60 43 4 3 4 114 2972 49 191
2017 2864 68 22 9 4 3 106 2347

42

211
2018 12684 45 35 4 1 3 88 3633 21 172
2019 4299 62 25 0 7 1 95 11009 38 208
2020 2254 61 28 7 8 3 107 4931 22 142


日弁連による懲戒処分・決定の取消し・変更は含まれていない。

新受事案は、各弁護士会宛てになされた懲戒請求事案に弁護士会立件事案を加えた数とし、懲戒しないおよび終了事案数等は綱紀・懲戒両委員会における数とした。

2012年の新受事案が前年の2倍以上となったのは、一人で100件以上の懲戒請求をした事案が5例(5例の合計1899件)あったこと等による。

2013年の新受事案が前年に引き続き3000件を超えたのは、一人で100件以上の懲戒請求をした事案が5例(5例の合計1701件)あったこと等による。

2016年の新受事案が3000件を超えたのは、一人で100件以上の懲戒請求をした事案が5例(5例の合計1511件)あったこと等による。

2018年の新受事案が前年の4倍以上となったのは、一人で100件以上の懲戒請求をした事案が4例(4例の合計1777件)あったこと、特定の会員に対する同一内容の懲戒請求が8640件あったこと等による。

2019年の新受事案が3000件を超えたのは、関連する事案につき複数の会員に対する同種内容の懲戒請求が合計1900件あったこと等による。


表2:審査請求事案の内訳(日弁連懲戒委員会)

新受(原処分の内訳別) 既済 未済
戒告 業務
停止
退会
命令
除名 棄却 原処分
取消
原処分
変更
却下・終了
2018 14 12 1 0 27 24 6 4 3 37 27
2019 15 13 2 0 30 23 3 1 3 30 27
2020 24 14 3 0 41 25 2 4 1 32 36


原処分取消の内訳
【2018年~2020年:戒告→懲戒しない(10)】【2019年:業務停止1月→懲戒しない(1)】

原処分変更の内訳
【2018年:業務停止1年6月→業務停止9月(1)、業務停止1年→業務停止9月(1)、業務停止6月→業務停止4月(1)、業務停止3月→業務停止2月(1)】
【2019年:業務停止1月→戒告(1)】
【2020年:退会命令→業務停止9月(1)、業務停止3月→業務停止2月(1)、業務停止2月→業務停止1月(2)】


表3:異議申出事案の内訳(日弁連懲戒委員会)

新受 既済 未済
棄却 取消 変更 却下 終了 速やかに終了せよ
2018 27 42 1 1 4 1 0 49 23
2019 48 36 0 0 2 0 6 44 27
2020 41 31 1 1 0 1 2 36 32


取消の内訳
【2018~2020年:懲戒しない→戒告(2)】

変更の内訳
【2018~2020年:戒告→業務停止1月(2)】


表4:異議申出事案の内訳(日弁連綱紀委員会)

新受 既済 未済
審査相当 棄却 却下 終了 速やかに終了せよ
2018 2036 5 1179 41 2 102 1329 918
2019 1271 16 1041 13 8 655 1733 456
2020 856 4 908 18 46 53 1029 283


2018年の新受事案のうち、同一の異議申出人による計1200件の異議申出事案を含む。

2019年の新受事案のうち、同一の異議申出人による計502件の異議申出事案を含む。


表5:綱紀審査申出事案処理の内訳(日弁連綱紀審査会)

新受 既済 未済
審査相当 審査不相当 却下 終了
2018 398 3 325 6 0 334 225
2019 479

2

475 7 2 486 218
2020 372 1 357 11 1 370 220



日弁連短信

攻めと守り

「攻めと守り」。このタイトルは、大貫裕仁・元事務次長(故人)がこのコーナーで使ったタイトルである(2014年2月号)。剣道の名手であった大貫先生らしい言葉だが、一部同じ領域を担当することとなった後輩事務次長として、敬意とともに拝借したい。

まずは「攻め」、と言いたいところだが、この業界はとにかく「守り」を意識しなければならない場面が多い。裁判のIT化、ODR推進、養育費の不払い解消などといった民事・家事の制度改革の検討場面では、常に周辺で他の勢力の動きがある。

第一は司法書士をはじめとする隣接士業だ。各種の制度改革の議論に合わせ、それぞれに権限拡大を求めて各方面で動いている。「弁護士と隣接法律専門職種との関係については、弁護士人口の大幅な増加と諸般の弁護士改革が現実化する将来において(中略)改めて総合的に検討する必要がある」とした隣接士業の権限拡大を認めた司法制度改革審議会意見書から20年が過ぎ、その間に弁護士人口の大幅な増加も実現したのだが、隣接士業の権限拡大要求はとどまるところを知らず、むしろ勢いを増している。


勢力の第二は、他人の法律事務に介入し、依頼者だけでなく弁護士をも食い物にする悪質な非弁業者である。こうした業者は新たな広告手法などを用いて今なお巧みにこの業界の侵食を図っている。


第三は、そのような悪意の有無に関わりなく、法律サービスの浸透が不十分な領域にビジネスチャンスを見いだして参入しようとしてくる業者だ。


AIを含むテクノロジーの進化や、コロナ禍により急速に普及した各種サービスの非対面・オンライン化の流れは、上記3つの勢力に対する「守り」の戦線に少なからぬ影響を与えている。弁護士法72条が守ろうとしているのは弁護士の権益ではなく国民の利益なのだということを粘り強く訴えながら、利便性と信頼性の両立を図っていかなければならない。


他方の「攻め」はどうか。2019年から、外国人向けに生活相談サービスを提供する「多文化共生総合相談ワンストップセンター」が各自治体に設置されている。その生活相談において不可避的に発生する法律相談に対応できる態勢を整えることが急務である。生活者だけでなく、外国人労働者を受け入れる中小企業向けの支援態勢も必要だ。コロナ禍の収束を見据えて準備をしておく必要がある。


(事務次長 柳楽久司)



第66回 市民会議
罪に問われた人の自立支援および多文化共生に関する取り組みについて議論
1月15日 弁護士会館

2020年度第2回の市民会議では、日弁連から①罪に問われた人の自立支援に関する取り組み、および②多文化共生に関する取り組みについて報告し、意見交換を行った。


罪に問われた人の自立支援に関する取り組みについて

日弁連高齢者・障害者権利支援センターの辻川圭乃委員(大阪)と日弁連刑事弁護センターの宮田桂子副委員長(第一東京)は、日弁連や弁護士会が、罪に問われた高齢者・障害者について、被疑者・被告人段階での入口支援、出所後の出口支援を通じた切れ目のない自立支援に取り組んでいることを報告した。その上で、地域再犯防止モデル事業、弁護士と福祉職との連携による入口支援、弁護士個人の支援活動など具体的な取り組みの状況について説明した。


市民会議委員からは、財源の問題や自治体との連携などの課題について質問が寄せられ、自治体が支援を推進するためには弁護士会が自治体の支援計画に関わる必要があるとの意見や、更生支援の重要性について広く市民の理解が必要であるなどの意見が挙がった。


多文化共生に関する取り組みについて

延命政之副会長と人権擁護委員会の関聡介特別委嘱委員(東京)が、各地の弁護士会等が多文化共生総合相談ワンストップセンターとの連携によって法律相談の態勢を整備し、外国人の司法アクセスの充実・強化を目指していると報告した。また、多言語に対応するための通訳人の確保、通訳システムの整備、関係機関との連携モデルの構築、相談担当弁護士の育成など外国人法律相談の課題を説明した。


市民会議委員からは、コロナ禍で生活が厳しい外国籍住民がワンストップセンターに実際にアクセスできることが重要との指摘や、コロナ禍をきっかけに、生活者としての外国人の存在を当たり前とする地域づくりが広がるとよいなどの意見が述べられた。


市民会議委員(2021年1月15日現在)五十音順・敬称略

 井田香奈子(朝日新聞論説委員)

 逢見直人(日本労働組合総連合会会長代行)

 太田昌克(共同通信編集委員、早稲田大学客員教授、長崎大学客員教授、博士(政策研究))

 北川正恭(議長・早稲田大学名誉教授)

 吉柳さおり(株式会社プラチナム代表取締役、株式会社ベクトル取締役副社長)

 河野康子(一般財団法人日本消費者協会理事、NPO法人消費者スマイル基金事務局長)

 鈴木正朝(新潟大学大学院現代社会文化研究科・法学部教授、一般財団法人情報法制研究所理事長)

  田中良(杉並区長)

 浜野京(信州大学理事(特命戦略(大学経営力強化)担当)、元日本貿易振興機構理事)

 村木厚子(副議長・元厚生労働事務次官)

 湯浅誠(社会活動家、東京大学先端科学技術研究センター特任教授)



シンポジウム
来たれ、リーガル女子!
〜女性の弁護士・裁判官・検察官に会ってみよう!〜
2月6日 オンライン開催

arrow_blue_1.gifシンポジウム「来たれ、リーガル女子!~女性の弁護士・裁判官・検察官に会ってみよう!~」


多くの女性に法律家の魅力を伝え、女性の法曹志願者の増加につなげるためのシンポジウムを開催した。中学生・高校生を対象としたこのイベントは、今回初めてオンラインで行われ、全国から約210人の参加があった。


パネルディスカッション

男女共同参画推進本部の近藤里沙事務局員(埼玉)の進行の下、パネリストから、仕事の内容ややりがい、法律家を目指したきっかけ、仕事で女性差別を感じたことがあるか等が語られた。


森田浩美裁判官(東京地裁)は、裁判官の仕事について、法律を暗記して機械的に結論を出すのではなく、当事者の話をじっくり聞いて共感することで解決に至ることも多いとやりがいを伝えた。西田理恵検察官(東京地検)は、自らが携わる社会復帰支援業務を説明し、女性であることで仕事上不利に感じたことは一度もなく、この仕事に就いて本当に良かったと力強く語った。寺町東子事務局員(東京)は、薬害エイズ訴訟に関与したことをきっかけに被害者と一緒に闘う弁護士を目指したと述べ、法律による公正な解決を目指すという意味で、法律家は正論を通すことのできるまれな職業であり、ぜひ将来の選択肢として考えてほしいと語りかけた。松田早貴会員(東京)は、企業内弁護士について、幅広い分野で新しい案件に携わることのできる刺激的な仕事であることや、仕事とプライベートの両立がしやすいなどの魅力を伝えた。


グループセッション

後半は、参加者と女性法曹が6つのグループに分かれ、質疑応答を行った。参加者からは、国際的業務の具体的内容、新型コロナウイルス感染症の影響、仕事で辛かったこと、人の人生を左右する責任の重い仕事への向き合い方、家事や育児との両立など多岐にわたる質問が出された。これらに女性法曹が丁寧に回答し、参加者の関心はより高まったようであった。



第74期司法修習予定者対象
就職活動セミナー
2月3日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif【第74期司法修習予定者対象】就職活動セミナーのご案内(Zoomによるオンラインセミナー)


第74期司法修習予定者に、就職活動の一般的な流れや注意点、心構え等について情報提供するセミナーを開催し、約230人が参加した。


基調講演

若手弁護士サポートセンターの鍋嶋隆志委員(福岡県)は、やりがいのある、思いを実現できる事務所を選んでほしいと、就職活動の方法や働き方の選択について具体的に説明した。また、委員会や勉強会等で多くの弁護士と話す機会をつくり、自分を知ってもらうとともに、どのような事務所が自分に向いているかを考えるべきと説いた。


続いて飯田隆委員(第二東京)、山本昌平副委員長兼事務局長(東京)、寺町東子会員(東京)が、弁護士を採用する立場からアドバイスをした。


履歴書については、事務所の方向性と親和性があるか判断するポイントとして、どのような弁護士を目指しているか明確に伝える必要があること、その事務所を選んだ理由が伝わるよう、情報を集めた上で志望理由を記載することが大切であることが指摘された。また、面接での姿勢について、なぜその事務所に就職したいのか、聞かれる前に話すくらいの熱意を前面に出してほしいとの助言があった。


パネルディスカッション

69期から73期までの5人の若手会員が、就職活動における工夫や苦労した経験を紹介した。各会員からは、「第三者の視点を反映するため、履歴書を提出する前に知人に見てもらった」「面接に備えてビジネスマナーに関する書籍を読んだ」「募集要項の記載内容はきっかけにすぎず、業務内容等の情報を十分に集めることが重要である」「企業内弁護士として一緒に仕事をすることとなる社員と面接する機会を設けてもらった」などのアドバイスがあった。


いずれの会員も、修習期間中は弁護士会の委員会等に積極的に参加して弁護士の知り合いを増やすことの重要性を実感したと強調した。



シンポジウム
人口減少時代の地方公共団体のあり方を考える
〜多様性と自主性を尊重した広域連携を目指して〜
1月26日 オンライン開催

arrow_blue_1.gifシンポジウム「人口減少時代の地方公共団体のあり方を考える ~多様性と自主性を尊重した広域連携を目指して~」


第32次地方制度調査会は、2020年6月、「圏域における地方公共団体の協力関係その他の必要な地方行政体制のあり方」に関する答申を行った。日弁連はこれまで、今後の「地方公共団体の広域連携」のあり方の検討が、地方自治の本旨にのっとり、より慎重に行われることを求めてきた。本シンポジウムでは、地方公共団体の多様性と自主性を尊重した広域連携のあり方について議論した。


講演・報告

2.jpg山下祐介教授(東京都立大学人文社会学部)は、基調講演で、人口減少問題から出発したはずの合併や圏域等の議論が、地方自治を無力化したいという権力意思を背景にした政治主導の中で政策哲学を失っているのではないか、と指摘し、政策形成過程の正常化のために法曹として何ができるのか考えていく必要があると述べた。


講演では、浅井由祟氏(愛知県豊橋市長/東三河広域連合長)が、東三河地域における個々の市町村の特色を生かしたまま地域力を高めるための取り組みを、棚野孝夫氏(北海道白糠町長)が、釧路地域における地域づくりビジョンの共有とその実現に向けた取り組みをそれぞれ紹介した。公害対策・環境保全委員会の菅澤紀生委員(札幌)と小島延夫委員(東京)は、連携中枢都市圏・定住自立圏に関する同委員会としての調査結果を報告し、現地調査で寄せられた多様な意見を紹介した。


パネルディスカッション

金井利之教授(東京大学大学院)、宍戸常寿教授(同)、辻宏康氏(大阪府和泉市長)、小島委員が、広域連携のあり方と地方行政のデジタル化について意見交換した。金井教授は、広域連携では地方公共団体の存立保障が必要で、その基盤整備は国の責務だと述べた。宍戸教授は、地方行政のデジタル化には公共サービスの維持向上と住民の権利利益の擁護の視点が重要であると説いた。その他、それぞれの立場から積極的な議論が行われた。



連続講座―COVID-19と国際人権(第5回)
パンデミックと女性
1月21日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif連続講座-COVID-19と国際人権-


日弁連では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)によって顕在化した公衆衛生と基本的人権とが拮抗する場面について、国際人権の視点から議論する連続講座を開催している。第5回(最終回)となる今回は、コロナ禍で深刻化している女性の問題とその改善策について検討した。


UN Women(国連女性機関)日本事務所の中村敏久氏は、COVID-19がもたらす影響は男女に対して同一ではないと述べ、女性への影響として、①多くの国でドメスティックバイオレンス(DV)報告件数が25%以上増加したこと、②不安定な就業体系が多く、不景気の影響が直撃していること、③男性の約3倍の時間、家事・育児・介護等の無償労働に従事していること、④最前線で対応する医療従事者の70%を占め、感染リスクにさらされていることを指摘した。また、COVID-19によるジェンダー不平等・不平等なリスク負担に関する情報収集・調査活動を行い、ジェンダーに基づく暴力への対策強化や啓発キャンペーンを実施しており、今後も継続するとUN Womenの役割について述べた。


NPО法人全国女性シェルターネット共同代表の北仲千里氏は、社会構造の歪みは非常時に顕在化することが多く、コロナ禍という緊急状況下でもDVや虐待等の相談窓口を閉じることなく支援体制の情報を共有し、命に関わる事態を防ぐことが必要と訴えた。


貧困問題対策本部の山田治彦事務局員(大阪)は、2020年7月以降、自殺者が前年同月比で増加し続け、10月には女性の自殺者が82.6%(*)も増加した現状に着目し、コロナ禍で経済問題や勤務問題、DV被害や育児の悩み、介護疲れや精神疾患などの問題が深刻化したと推測した。そして、普段接する人の中にも希死念慮者や自殺未遂経験者がいる可能性を意識し、声をかけて支援窓口に誘導することが必要と力を込めた。


*2020年11月の速報値に基づく



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.156

2020年度 日弁連の広報
「伝わる」広報の強化・促進を

日弁連は2013年度から市民向け広報活動の充実・強化に努めており、本年度の会務執行方針でも「広報の充実」が重要課題に挙げられています。
2020年度は新型コロナウイルス感染拡大により、イベントの中止や延期など活動の制約が多い中ではありましたが、できるかぎり広報活動を展開しました。本稿では、2020年度に日弁連が実施した広報活動の概要を紹介します。

(広報室)


武井咲さんを起用したイメージアップ広報

2018年度に制作した武井咲さん起用の全国統一ポスターを、弁護士会、裁判所、法務省、警察庁、自治体などのほか、図書館や文化会館・センター・ホールなどの全国の公立文化施設に継続的に掲出しています。武井さんの画像を用いて2019年度に制作したロールアップバナーとミニのぼりも法律相談会などで活用いただいています。また、2016年度に制作した武井さんのCM動画を引き続き活用し、JR東日本・JR西日本・東京メトロなど鉄道各社の電車内ビジョンで放映したほか、YouTube TrueⅤiewおよびTVerの各媒体を利用して全国的な広告を実施しました。


さらに、武井さんを起用したスペシャルサイトをランディングページとして、Yahoo!ブランドパネル、同ディスプレイアドネットワーク、Googleディスプレイネットワーク、Twitterの各媒体にバナー広告を展開しました。これにより、スペシャルサイトへのアクセス数が飛躍的に増加しました。


雑誌広告等による弁護士業務広報

3.jpg中小企業経営者向け広告として、武井さんを起用した「ひまわりほっとダイヤル」の雑誌広告を『プレジデント』と『日経トップリーダー』に継続して掲載し、周知を図りました。


高齢者向け広告として、月刊誌『家の光』、定期雑誌『NHKガッテン!』にホームロイヤーの広告を掲載し、かかりつけ弁護士であるホームロイヤーをアピールしました。また、バナー広告を展開し、日弁連ウェブサイト内の「ホームロイヤーのすすめ」と題したページにリンクさせ、ホームロイヤーを紹介しています。



法律相談についての広報

4.jpg2021年2月に法律相談ムービー「戦国法律相談アニメ」を公開しました。アニメは、全8話で構成され、北条政子、明智光秀などの歴史上の人物が、離婚、相続、パワハラなどを弁護士に相談する内容です。新聞やテレビなどマスメディアにも取り上げられ、多くの方々に視聴いただいています。2018年12月に制作した、時短勤務者と中間管理職との間で起きた出来事を双方の視点で描いた法律相談ムービー「ハラスメントA面・B面」も好評を博しており、これらを活用した法律相談センターの広報、周知を継続します。


また、希望する弁護士会に対し、法律相談用の特設ページを制作し、誘導するための広告を行いました。


全国紙への新聞広告掲載

新型コロナウイルス感染症の拡大に対する日弁連の姿勢・取り組みを周知し、新型コロナウイルスで厳しい立場に置かれている方々のための情報を広く発信するため、2020年11月6日発行の日本経済新聞(朝刊)に広告を掲載しました。


会員専用サイトのリニューアル

2019年度の日弁連一般サイトのリニューアルに引き続き、2020年11月に会員専用サイトをリニューアルしました。必要な情報にアクセスしやすく利便性の高いサイトを目指し、サイトマップを見直すとともに、検索機能も強化しています。デザイン面では、日弁連一般サイトとの識別が容易となるよう色合いを工夫し、日弁連広報キャラクター「ジャフバ」の衣装に合わせたパステルカラーを用いて仕上げました。


マイナビ学生の窓口WEBタイアップ企画

10代後半から20代前半の大学生を中心とする若者に対し、弁護士の魅力を伝えて弁護士を目指すきっかけとしてもらうとともに、弁護士の仕事についての理解を深め、将来法的問題を抱えた際の相談相手として弁護士を認知してもらうことを目的として、2020年3月、「マイナビ学生の窓口」のWEBタイアップ企画を実施しました。


大学生等が遭遇しそうなトラブルの相談と回答、弁護士に対するイメージと実際の弁護士業務のギャップを説明するQ&A、弁護士8人の経験談の3つの記事を掲載しています。


法の日スペシャルサイト

例年、法の日(10月1日)に合わせて最高裁、法務省と共催で「法の日週間記念行事」を実施していましたが、本年度は実施を見合わせたため、自宅や学校等で、ウェブサイトを通じて法の役割や重要性について考えてもらえるよう、弁護士にまつわるクイズを盛り込んだ「法の日スペシャルサイト」を制作しました。クイズの解説には日弁連一般サイトの関連情報ページへリンクを貼り、より理解を深められるよう工夫しました。


仕事体験テーマパーク「カンドゥー」への協賛継続

2019年3月から、千葉県のイオンモール幕張新都心内にある仕事体験テーマパーク「カンドゥー」に協賛し、子どもたちが弁護士の仕事を体験できるアクティビティを提供しています。新型コロナウイルスによる一時営業中止や規模縮小等の影響を受けましたが、参加した子どもたちは、マスクやフェイスシールドを着用の上、被告人を無罪とすべく証拠を収集し、刑事弁護人に扮して活動しました。さらに本年度は「カンドゥー」を飛び出して、全国のイオンモールなどで弁護士に関するクイズを解いてもらう「出張カンドゥー」を実施しました。「カンドゥー」「出張カンドゥー」での体験を通し、子どもたちに弁護士の社会的役割を理解してもらい、弁護士を将来の職業選択の候補にしてもらうことを目指しています。


マスメディアへの対応

新聞社やテレビ局等からの問い合わせ対応のほか会長声明や意見書等のプレスリリースを行いました。また、マスコミ各社への情報提供の目的で開催しているプレスセミナーについては、本年度は送還忌避・長期収容問題と原子力損害賠償請求権の時効問題をテーマに取り上げ2回開催しました。


日弁連広報キャラクター「ジャフバ」の活用

5.jpg日弁連広報キャラクター「ジャフバ」の着ぐるみは、本年度は人権擁護大会をはじめさまざまなイベントが中止、オンライン化されたことなどにより、登場機会が減りました。コロナ禍が収束し、全国各地で多くの皆さんと触れ合うことができる日を心待ちにしています。




弁護士会との連携強化

例年、弁護士会の広報担当者が一堂に会する全国広報担当者連絡会議を開催していましたが、本年度は新型コロナウイルスの影響でやむなく中止となりました。連絡会議は貴重な情報共有・意見交換の場であることから、2021年度はオンラインによる開催を含めて実施を検討しています。今後も各地の意見を参考に、弁護士会と連携して、よりよい広報活動につなげていきます。



ブックセンターベストセラー
(2021年1月・手帳は除く)協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編集者名 出版社名・発行元
1

婚姻費用・養育費等計算事例集(中・上級編)新装補訂版

婚姻費用養育費問題研究会/編 婚姻費用養育費問題研究会
2 婚姻費用・養育費の算定〔改訂版〕 松本哲泓/著 新日本法規出版
3 有斐閣判例六法 Professional 令和3年版 長谷部恭男・佐伯仁志・酒巻 匡・大村敦志/編集代表 有斐閣
4 養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究 司法研修所/編 法曹会
5 要件事実マニュアル 第2巻〔第6版〕 岡口基一/著 ぎょうせい
5 一問一答 令和元年改正会社法 竹林俊憲/編著 商事法務
7 模範六法2021 令和3年版 判例六法編修委員会/編 三省堂
8 携帯実務六法 2020年度版 「携帯実務六法」編集プロジェクトチーム/編 東京都弁護士協同組合
9 新・弁護士の就職と転職 西田章/著 商事法務
10 改訂版 ケース・スタディ ネット権利侵害対応の実務 清水陽平・神田知宏・中澤佑一/著 新日本法規出版


海外情報紹介コーナー⑨
Japan Federation of Bar Associations

デジタルファーストな裁判制度に向けた取り組み

6.jpg英国ロンドン市は2020年10月、2025年に向けたビジョンについての報告の中で将来の司法サービスを一項目として大きく取り上げ、提言を行った。


提言では、コロナ禍でリモート裁判期日を実施した経験を基に、尋問や書面提出といった手続の改善点などを検討すること、基本的な裁判インフラについて早期に包括的なデジタル化を実現することなど、テクノロジーによって可能となる裁判プロセスへの投資と今後の展開について言及されている。また、リーガルテックといった司法サービスにおけるイノベーションの重要性や法律実務家のスキル向上などにも触れられている。


(国際室嘱託 佐藤暁子)