日弁連新聞 第562号
新年会長インタビュー
新型コロナウイルス感染拡大の下で課題に取り組む
明けましておめでとうございます
本年が皆さまにとって良い年となりますようお祈り申し上げます
就任後、特に力を入れて取り組んだ課題は何ですか
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い必要となったさまざまな対応です。全く予想しなかった事態に直面し、市民の生活はもちろんのこと、事業者の方々も活動ができなくなったり、仮にできたとしても著しく制約を受けた中での活動となったりするなど、大きな影響を受けました。日弁連は、このような事態に迅速かつ適切に対応するため、昨年4月にCOVID―19対策本部を設置し、必要性が高いさまざまな活動を行いました。その一つが、各弁護士会の会員の皆さまに御協力いただき、全国統一ダイヤルを使った電話による無料相談を実施したことです。4月から7月までの約3か月間に1859件の相談を受けましたが、その内容は、労働問題(30%)と消費者問題(21%)で過半数となっています。また、偏見や差別に関する問題の相談もあり、今後は、この結果を参考にしながら、問題に対応していきたいと思っています。
新型コロナウイルスの感染拡大は、国民の裁判を受ける権利にも重大な影響を及ぼしました。訴訟事件、調停事件など、裁判所に係属していたかなりの事件が期日を繰り延べされることになり、大きな影響を受けました。特に、刑事裁判の長期化は、身体拘束の長期化につながる可能性もあり、深刻な影響を受ける被告人等が出ることが予想されたことから、会長声明を公表しました。昨年4月から11月までに、新型コロナウイルスの感染拡大に関連して問題が発生している分野について公表した会長声明・談話は19本にのぼります。
実を結んだ課題はありますか
一つ目は検察官の定年後勤務延長問題です。準司法官とも言われる検察官が中立公正な立場でその役割を果たすことは、司法が三権分立の中で期待されている機能を果たすための大前提です。その意味で、提案されているような定年後勤務延長が実現した場合、深刻な事態を招きかねないと判断し、二度にわたる会長声明と意見書を公表し、記者会見も行いました。各政党や国会議員への働き掛けもしました。最終的に世論が大きな力となって廃案となりましたが、通常国会にあらためて法案が提出される可能性がありますので、その動向を注視し、適切に対応したいと思います。
二つ目は、これまで法制審でも3年半以上にわたって議論されてきた少年法改正問題です。昨年与党PTと法制審でそれぞれ取りまとめが行われ、本年には法律の改正が行われる見込みです。この議論の過程で日弁連は、18歳・19歳の者についても少年法を適用すること、全件を家裁送致することを、関係諸団体等の皆さまと連携しながら訴えてきました。その成果として、与党PTでは、この二つの大きな問題について日弁連の主張に沿った内容で取りまとめがなされました。しかしながら、逆送の対象となる罪の範囲、推知報道、ぐ犯についての適用など重要な問題については今後慎重に議論を行い、日弁連の意見が十分反映されるよう取り組んでいかなければなりません。
就任中に実現したい課題は何ですか
一つ目は、コロナ禍のような事態が発生しても、日弁連の重要な意思決定機関である総会や理事会などが会則・会規等のルールに基づいて確実に開催され、会員の皆さまの業務や日弁連の会務に支障を来さないようにすることで、極めて大事なことだと思っています。これに加えて法定委員会の活動も同じように行われるよう会則・会期等を改正するための検討を進めています。
二つ目は、法曹人口問題です。昨年7月に法曹養成制度改革実現本部内に設置した法曹人口検証本部で、今後の法曹人口問題についてどう考えていくべきかについて取りまとめ作業を行います。
三つ目は、民事裁判手続等のIT化に向けた準備作業です。現在、制度自体の具体的内容の確定作業と実務での試行が同時進行している状況の中で、これまで懸念されてきた事項について十分に議論され、日弁連の意見が生かされる形で制度設計と運用がなされるよう最善を尽くしたいと思っています。
四つ目は、現在検討している若手弁護士の活動を支援するための具体的な方策を実行に移すことです。これも極めて大事なことです。
五つ目は、男女共同参画の推進のために創設された女性理事のクオータ制の目的が達成されるよう取り組みを進めることです。
最後に、会員へのメッセージをお願いします
昨年は誰もが予想しなかったような事態が発生し、新型コロナウイルスの感染拡大は収束に向かうどころか「第2波」、「第3波」と何度も波が押し寄せました。市民の皆さまも事業者の皆さまもこれを乗り切るためにかなりの力を注いだことから、余力がなくなっている方々が多数いらっしゃいます。このような方々を支援するため、さらに幅広く活動を展開していきたいと思っています。また、私たち会員の中にも支援を必要とする方々がいますので、こうした会員を支援するためのさまざまな方策も講じたいと思っています。
最後になりましたが、東日本大震災が発生した後、被災者を奮い立たせてくれた言葉を弁護士バージョンにして噛みしめています。
見せましょう、弁護士の底力を。
見せましょう、弁護士会の底力を。
見せましょう、司法の底力を。
(インタビュアー 広報室長 吉岡祥子)
日弁連ひまわり基金20周年記念シンポジウム
ここに弁護士がいてよかった
11月24日 オンライン開催
日弁連ひまわり基金20周年記念シンポジウム『ここに弁護士がいてよかった』
日弁連は「いつでも、どこでも、だれでも良質な司法サービスを受けられる社会」の実現を目指し、1999年に「日弁連ひまわり基金」を設立した。全国初の公設事務所である石見ひまわり基金法律事務所の開設から20周年を迎え、シンポジウムを開催した。
ひまわり基金の概要
上田英友副会長は、1993年7月当時、いわゆるゼロワン地域は74か所あったが、2020年11月1日現在、2か所のワン地域を除いて全国の地方裁判所支部の管轄区域内には2人以上の弁護士がいる状態になっていると説明した。また実際に弁護士過疎地域等で働く会員のインタビュー動画が紹介された。
ミニスピーチでは、佐藤克哉会員(新潟県・元佐渡ひまわり基金法律事務所所長)が、若いときに事件処理から事務所経営までありとあらゆることを経験することができ、ハードではあったが非常に鍛えられたと振り返った。
基調講演
―司法過疎対策の現状と課題
飯考行教授(専修大学)は、ひまわり基金の20年間にわたるさまざまな活動が実を結び、地方裁判所支部単位での弁護士ゼロワン地域がほぼ解消するに至っていると述べた。その上で、これを簡易裁判所や市町村レベルまでどう広げるか、また司法過疎対策にとどまらない司法アクセス全般の改善にどうつなげるかなど新たな課題を指摘した。
パネルディスカッション
―さらなる司法アクセス改善に向けて
パネルディスカッションでは、飯教授のほか、伊藤一郎氏(毎日新聞社記者)、葦名ゆき会員(静岡県・元相馬ひまわり基金法律事務所所長)、米元悠会員(沖縄・元八重山ひまわり基金法律事務所所長)が加わり意見交換を行った。葦名会員は過疎地域に赴任して「弁護士がいない」とは「法律による紛争解決がない」と同義である実態を目の当たりにしたと述べ、困りごとを抱えた人々との接触の機会が多い民生委員向けに講演を行ったり、市の広報誌で発信するなど、正しい法的知識を広める工夫をしたと語った。
公設事務所に赴任した後そのまま赴任地に定着した米元会員は、赴任期間が長くなるにつれ地域の他職種の専門家との協力体制が深まり、よりよい事件解決ができるようになったと述べた。このことが自身のやりがいにもつながり定着を決めたと説明した。一方で、一人きりで業務を行うことが自身にも地域にもマイナスになりかねない点については、事務所を法人化し他の事務所と連携することで乗り越えられたと語った。
養育費の不払い解消の方策に関する意見書を提出
日弁連は昨年11月17日、「養育費の不払い解消の方策に関する意見書」を取りまとめ、法務大臣に提出した。
意見書は、養育費の不払いが社会問題となっている中、昨年6月に法務省が設置した「養育費不払い解消に向けた検討会議」における同年9月の中間とりまとめ等を踏まえ、この問題に対する弁護士会としての取り組みや解決策を提言している。
離婚後継続的に養育費が支払われているのは2割程度という現状において、当事者間の適正な合意と合意の債務名義化により、支払いの履行を確保することが望ましいが、権利者にとっては費用や時間等の手続的なハードルがある。意見書では、各弁護士会と家庭裁判所が連携することで、弁護士会ADRにおける合意を家裁の即日調停または調停に代わる審判で簡易迅速に債務名義化することが可能であると指摘し、パイロット的な実施を提言している。
さらに国等に対して、①非監護親が養育費支払義務を負うことの民法への明記を求めているほか、②養育費の新算定方式の策定および自動計算ツールのウェブサイト公開、③一時的かつ緊急的な給付制度の創設などを提言している。また、弁護士会として各地域の実情に応じて、相談窓口の多様化や、研修等の充実に積極的に取り組むとし、そのための予算措置を求めている。
養育費の不払い解消は喫緊の課題である。関係諸機関と連携し、課題解決に向けてできることから取り組みたい。
(法務省「養育費不払い解消に向けた検討会議」構成員 兼川真紀)
「人質司法」の解消を求める意見書を提出
日弁連は昨年11月17日、「『人質司法』の解消を求める意見書」を取りまとめ、法務大臣に提出した。
取りまとめに至る経緯
現在、法制審議会の刑事法(逃亡防止関係)部会では、保釈中の被告人や刑が確定した者の逃亡を防止し、公判期日への出頭や刑の執行を確保するための刑事法整備が審議されている。逃亡防止策としては、諸外国で導入されているGPS発信装置等を装着し動静を把握する電子監視制度や発信装置等を装着した上で外出を禁止する在宅拘禁制度が議論されている。
無罪を主張し、または黙秘権を行使している被疑者・被告人について、殊更に長期間身体拘束する日本の勾留・保釈の運用は「人質司法」と呼ばれ、国際的にも批判を浴びている。
勾留請求却下率や保釈率は上昇傾向にあるものの、現在でも、勾留請求却下および保釈許可の事例の多くは被疑者・被告人が犯罪の嫌疑を認めた事例であり、無罪を主張し、または黙秘権を行使している被疑者・被告人が長期間にわたり身体拘束される傾向はなお顕著である。
意見書の内容
意見書では、「人質司法」を解消するべく、その原因となっている運用を改めるための立法措置として、罪証隠滅の疑いを必要的保釈の除外事由とする刑事訴訟法89条4号の削除など同法の改正を求めている。また、電子監視制度や在宅拘禁制度は、身体拘束より制限的でない代替措置の一種として、必要な場合に限り、最小限の制限を課すものとして検討を求めている。
(日弁連刑事弁護センター 事務局長 菅野 亮)
少年法適用年齢に関する法制審答申に対する意見書を提出
法制審議会は昨年10月29日、少年法の適用年齢等について法務大臣に答申した。日弁連は11月17日、これに対する意見書を取りまとめ、法務大臣、衆参両院議長および各政党に提出した。
意見書の概要
意見書では、答申が18歳・19歳の者の位置付けや呼称については結論を出さず、立法プロセスにおける検討に委ねるとしたが、少年法が適用される「少年」であることを明確にすべきであるとした。
また18歳・19歳の者の被疑事件について、全件を家裁に送致し調査や鑑別の対象とした上で施設収容処分等を行うという現行法に近い枠組を採用した点は、重要であり維持すべきであるとした。
他方で、答申が①「原則逆送」の対象事件を、強盗罪等を含む短期1年以上の罪の事件にまで拡大するとした点、②推知報道について、逆送後公判請求された段階で解禁するとした点、③ぐ犯を適用対象としない点、④家裁の処分は行為責任を上限として行わなければならないとした点、⑤不定期刑や資格制限排除の特則が適用されないとした点については、いずれも許容できず、今後の立法においてこれを解消すべきであるとした。
今後の予定
今後、改正法案が通常国会に提出される見込みであり、意見書で述べた問題点が解消されるよう取り組みを進めていくことが求められる。
(子どもの権利委員会少年法・裁判員裁判対策チーム 座長 須納瀬学)
任意後見制度の利用促進に向けて
運用の改善と法改正について提言
現在日本では、圧倒的に法定後見制度が主流であり、任意後見制度の利用者数は低迷している。しかし、高齢者が元気なうちに安心で豊かな生活の備えを行うことを保障する任意後見制度の重要性は高い。そこで、日弁連は昨年11月18日、「任意後見制度の利用促進に向けた運用の改善及び法改正の提言」を取りまとめ、法務大臣および厚生労働大臣に提出した。
提言内容は、①任意後見制度の利用促進に向けての改善提言、②任意後見制度の濫用防止に向けての改善提言、③専門職が任意後見受任者である場合の登記表示に関する改善提言の3つに分かれる。
①については、実態調査と利用阻害要因の分析、制度の理解の周知や相談活動、担い手の質の確保や正しい情報提供等を行うべきとしている。
②については、移行型任意後見契約における不正を防止するため、地域連携ネットワークにおける見守りと任意後見監督人の選任申立支援、不祥事対策に有用な契約条項の在り方の普及・啓発等を挙げている。
③については、任意後見受任者の事務所所在地および通称姓での登記を可能とする制度改善を求めている。
その他、弁護士会における人材育成、適切な受任者の紹介や質の確保等、任意後見制度の利用促進に向けてさらなる取り組みを推進することが求められている。
(日弁連高齢者・障害者権利支援センター 委員 佐々木育子)
第73期司法修習終了者
1047人が一斉登録
2020年12月16日時点の第73期司法修習終了者1465人のうち1047人が、同月17日、日弁連に一斉登録した。
任官志望者数(2020年12月24日現在未公表)を第72期と同じ75人と仮定し、任検者数(66人)とともに除いた未登録者数は277人(18.9%)と推計される。さらに1月中の登録予定者(勤務開始時期等の理由から、例年、1月の登録希望者も相当数に上る)を差し引いた場合の未登録者数は93人(6.3%)と推計される。
日弁連では、引き続き若手弁護士サポートセンターを中心に、新規登録者を含む若手弁護士への各種支援を行うとともに、未登録者への採用情報提供、即時独立支援、さらには登録後のフォローアップを行って、今後の推移を見守りたい。
修習 終了者数 |
登録者数 (一日登録日時点) |
未登録者数 (一斉登録日時点) |
|
---|---|---|---|
66期 | 2,034 | 1,286 | 570 |
67期 | 1,973 | 1,248 | 550 |
68期 | 1,766 | 1,131 | 468 |
69期 | 1,762 | 1,198 | 416 |
70期 | 1,563 | 1,075 | 356 |
71期 | 1,517 | 1,032 | 334 |
72期 | 1,487 | 1,032 | 315 |
73期 | 1,465 | 1,047 | 277(推計値) |
※登録者数・未登録者数は各期一斉登録日時点
※73期の修習終了者数は2020年12月16日時点
国連子どもの権利委員会委員に大谷美紀子会員が再選
昨年11月25日(現地時間24日)にニューヨークで開催された国連子どもの権利条約締約国会合で、子どもの権利委員会委員の選挙が行われ、大谷美紀子会員(東京)が当選した(任期4年)。
大谷会員は国際人権法などを専門とし、2017年3月に日本人初の同委員会委員に就任、今回再選を果たした。大谷会員の豊富な知見と経験を活かした、さらなる活躍が期待される。
日弁連公害対策・環境保全委員会50周年記念シンポジウム
わたしたちは未来を描けるのか~環境法・参加と公開・裁判所の役割~
11月21日 オンライン開催
日弁連公害対策・環境保全委員会50周年記念シンポジウム「わたしたちは未来を描けるのか~環境法・参加と公開・裁判所の役割~」
気候危機や海洋プラスチックごみ問題などの環境問題を解決するため、脱石油石炭へ向けた国際的な取り組みが始まっているが、日本ではいまだに石炭火力発電が推進され、使い捨てプラスチック製品の製造の規制もない。SDGsの目標年である2030年まで残り10年となった今、山積する課題を解決し持続可能な未来を描くために私たちは何をすべきか考えるべく、シンポジウムを開催した。
現状と課題
大島堅一教授(龍谷大学政策学部/原子力市民委員会座長)は、二酸化炭素累積排出量と気温上昇は比例する関係にあり二酸化炭素の排出をゼロにしない限り温暖化を止めることはできないと指摘した。高田秀重教授(東京農工大学農学部環境資源科学科)も、安価で加工しやすいからといって長期的な環境への影響を考えずにプラスチックを多用すると生態系を隅々まで汚染することになると警鐘を鳴らした。大久保規子教授(大阪大学大学院法学研究科/中央環境審議会委員)は、環境権の実効的保障のための①情報アクセス権、②決定への参加権、③司法アクセス権の全てにおいて日本が世界に後れを取っている実情を指摘した。
未来を描くために
佐藤潤一氏(元パタゴニア日本支社環境・社会部門シニアディレクター)による「環境保全がビジネスを営む理由になる時代」と題する特別報告、公害対策・環境保全委員会の委員による環境訴訟に関する国内外の情勢や日本の環境訴訟において環境法が発展してきた経緯に関する報告が行われた。
パネルディスカッションで、大飯原発運転差止訴訟の一審で裁判長を務めた元裁判官の樋口英明氏は、日本で原子力発電所の運転が許されないことは差止訴訟の訴訟物から要件事実を検討すれば当然のことだと力強く語った。また、裁判官に対する要望として、権限行使に抑制的であろうとするのではなく、権限を行使しないことこそ国民に対して不誠実であるとの自覚を持って職責を果たしてほしいと締めくくった。
連続講座 COVID-19と国際人権(第3回)
パンデミックと医薬品アクセス
11月12日 オンライン開催
連続講座-COVID-19と国際人権-
日弁連では、新型コロナウイルス感染症(COVID―19)の世界的大流行(パンデミック)によって顕在化した公衆衛生と基本的人権とが拮抗する場面について、国際人権の視点から議論する連続講座を開催している。第3回となる今回は、医薬品アクセスをテーマに、医薬品の国際公共財としての性質と企業の知的財産権保護の関係などについて検討した。
国境なき医師団(MSF)アクセスキャンペーン・リジョナル・アドボカシー責任者のナタリー・エレヌー氏は、医薬品アクセスを妨げる主な課題として①Unavailability(手に入らないこと)、②Unaffordability(高価すぎること)、③Unsuitability(合わないこと)を挙げ、医薬品の価格設定が透明性に欠けることや、特許により独占され数十年にわたり価格が維持されることを問題視した。MSFがHIVやマラリアその他の感染症に使用する医薬品の94%がジェネリック薬である実情を語り、ジェネリック薬なしには多くの患者を治療できないと切実さを訴えた。
加藤暁子准教授(日本大学法学部経営法学科)は、医薬品アクセスに関連して問題となる知的財産権として特許権、意匠権、商標権、さらには不正競争防止法上の営業秘密などを挙げた。世界におけるCOVID―19関連医薬品の特許の現状について、特許権の維持を認めた上で、暫定的かつ限定的に政府による特許発明の利用を可能にするフランスやドイツなどの立法例を紹介し、日本では法的な手当が不足していると問題提起した。医薬品アクセスを改善するためには、知的財産の適正な保護と国際公共財としての活用の両立が必要であるとし、各国・地域で方策を講じるとともに、これまでの医薬品アクセス改善の取り組みを活用して国際協調を強化するほか、製薬会社の貢献に対する報奨制度なども活用すべきと訴えた。
シンポジウム 法曹界における202030を検証する
11月25日 オンライン開催
シンポジウム「法曹界における202030を検証する」
政府は2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30%にするとの目標を設定していた。この目標年に、司法、特に弁護士業界における男女共同参画の現状と重要性を確認するとともに、今後の展望について議論した。
男女共同参画推進本部の杉田明子事務局長(栃木県)は、日弁連では、2002年の第53回定期総会において「ジェンダーの視点を盛り込んだ司法改革の実現をめざす決議」を採択したのを皮切りに順次施策を実施し、現在、2018年に策定した第三次日本弁護士連合会男女共同参画推進基本計画を遂行中であることを報告した。2018年度から副会長クオータ制が始まったが、30%の実現はまだ遠いと説明した。
上野千鶴子氏(社会学者/東京大学名誉教授/認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長)は、基調講演で、フェミニズムとは女性が女性を捨てて男性のように働くということではなく、男女差を受け入れ、違っていても差別されないことであり、弱者が弱者のまま尊重される思想をいうと解説した。
また、鼎談で上野氏は、世の中の空気を変えることで法を弱者にふさわしいものに作り変えられるよう、法律専門家も活動すべきと主張した。荒中会長は、現状を打破するには、機会の平等ではなく結果の平等を求める必要があること、女性の法曹人口増加を基盤整備と位置付けて推進すべきと説いた。林陽子会員(第二東京/国連女性差別撤廃委員会前委員長)は、日本のジェンダーギャップ指数が153か国中121位と低いことを指摘し、ジェンダー平等先進国が有する包括的差別禁止法とこれを支える国内人権救済機関、公職選挙のクオータ制、人権条約の個人通報制度を日本に導入する必要性を強調した。
司法試験受験者向け企業内弁護士セミナー
11月17日 オンライン開催
司法試験受験者向け企業内弁護士セミナー
司法試験受験者に対し、企業が求める人材、企業内弁護士の役割や業務内容、企業への就職活動に関するスケジュールや準備等について情報を提供するためのセミナーを開催した。(共催:大阪弁護士会)
印刷技術を応用して医療機器やモビリティ分野など幅広く事業展開をしているNISSHA株式会社で勤務する小西絢子会員(京都)と、世界187か国で飲料事業等を展開するネスレ日本株式会社で管理職として勤務する美馬耕平会員(兵庫県)が、企業内弁護士の業務内容や魅力について語った。小西会員は、司法修習を終えてすぐに企業内弁護士を選択した経緯や、法務部のほか事業企画部や人事部を兼務する現在の業務内容について説明した。美馬会員は、法律事務所における仕事には有事(紛争になってから)の対応が多いが、企業内弁護士は予防法務が中心であることが最も大きな違いと強調した。
山本健司会員(大阪)は、以前は、外資系企業が法律事務所に勤務した経験を持つ弁護士を採用することが多かったのに対し、近年では日系企業が修習終了者をすぐに採用することが増えてきたと就職状況の変化を語った。東京三弁護士会就職協議会の藤井麻莉議長(第二東京)は、採用に至らなかった人の特徴として、対象企業についての研究不足や企業内弁護士を目指す明確なビジョンが見えない点を指摘した。
質疑応答では、参加者から多数の質問が寄せられた。企業内弁護士として求められる資質について、美馬会員は、①会社が追求する真の目的を考える想像力、②内容によっては正確性よりもスピード感を重視するバランス感覚、③上司や同僚、他部署を含む社内の多くの人と接することができるコミュニケーション能力を挙げた。小西会員は、詳しい法律知識に関しては顧問弁護士に相談することもあり、企業内弁護士としてはスピード感を持った対応が重要であると語った。
人種等を理由とする差別を撤廃するための取組に関する意見交換会
12月3日 オンライン開催
「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」、いわゆるヘイトスピーチ解消法(以下「解消法」)の施行から4年半が経過した。ヘイトスピーチを含む人種等を理由とする差別の撤廃に向けて、日弁連と弁護士会の担当者が参加し、取り組みの現状や今後の課題を共有した。
日弁連の活動報告
人権擁護委員会人種的憎悪を煽る言動などについての検討PTの加藤高志座長(大阪)は、日弁連が2020年9月10日に「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律の適正な運用を求める意見書」を公表し、これを踏まえて法務省、文部科学省および警察庁と意見交換を行ったことを報告した。また同意見書は、解消法が十分に機能しているとは言い難い現状において、その適正な運用・対応を国や自治体に求めるとともに、依然根強く残る人種的差別に適切に対処するためには、人種的差別を禁止する基本法の制定が急務との認識を示したものであると解説した。
各地の活動報告・意見交換
続いて、各地の活動報告と意見交換が行われた。
ヘイトスピーチに関する条例の制定については東京、神奈川県、愛知県および三重、インターネット上の不当な差別的言動の規制に関しては東京、第二東京および大阪、法律相談・教育・啓発に関しては大阪、京都および福井の各弁護士会から報告があった。
意見交換では、「東京弁護士会が2018年に発表した人種差別撤廃モデル条例案が自治体の条例制定に影響を与えている」「人権侵害救済の局面では修復的司法の発想も重要である」「弁護士が法務局と連携・関与することも有益である」などの意見や、法曹自らが改めて差別や人権への意識を強く持つ必要があるとの声が上がった。
JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.154
日弁連のシンクタンクとして
公益財団法人日弁連法務研究財団
「法務研究財団の名はあちこちで耳にするけれど、どのような活動をしている団体か実はよく知らない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、公益財団法人日弁連法務研究財団(以下「JLF」)の鎌田薫理事長(東京/前早稲田大学総長)、久保英幸常務理事・事務局長(東京)、高須順一常務理事(東京)、藤原浩常務理事(東京)、大坪和敏事務局員(東京)にお話を伺いました。
(広報室嘱託 木南麻浦)
JLF発足の経緯
JLFは、日弁連の提唱を受けて1998年に発足しました。最高裁判所の司法研修所、法務省の法務総合研究所のような専門の研究機関がなかったので日弁連のシンクタンクを担う存在が必要と考えられたためです。2010年10月1日に公益財団法人となりました。主として法律専門家を対象に、理論と実務の架け橋を構築することを目指し、法および司法制度の研究、それらの研究に対する助成、研修事業、情報収集と提供、試験事業、法科大学院認証評価事業等の活動を行っています。
2020年11月末現在で会員数は約4200人。JLF会員の大部分が日弁連の会員です。
実務に役立つ研究を支援
JLFの柱となる事業が研究事業です。法令・法制度・法慣習・法実務、法曹養成制度、弁護士業務など広く研究テーマを募集し、採用された研究に対して助成を行っています。これまでに150件を超える研究テーマに対する助成を行ってきました。実務に直結するような実践的なテーマについて法律実務家と研究者がチームで取り組んでいるのが特徴です。法律実務家からの研究テーマの応募に対し必要に応じて共同研究相手となる研究者を紹介するなど、意欲のある方が挑戦しやすいようにサポートも行っています。ご自身の関心分野についてのネットワークを広げられることは大きな魅力だと思います。
また、近時特筆すべきは、元最高裁判事・弁護士の滝井繁男先生の遺言によるJLFへの寄付金を活用した行政訴訟の活性化および行政に関わる権利救済のための研究です。さらに行政争訟等を活性化させるための活動の一環として「滝井繁男行政争訟奨励賞」を設置し、優れた研究や顕著なる功績を残した方または団体を表彰しています。
充実した研修ラインナップ
研究と並ぶもう一つの柱が研修です。ここでも理論と実務の両輪を強く意識しており、実務家だけでなくその分野に精通した研究者に講師を務めていただいています。民事裁判手続等のIT化や、今後AIが法律家の業務に与える影響など、最新のテーマも取り上げています。新型コロナウイルスの感染拡大防止の要請に対応すべく、オンライン研修やオンデマンド研修を大至急整備しました。ご活用いただければ幸いです。
このほか実務家なら最低限知っておきたいレベルの最新判例の情報をコンパクトにまとめた法務速報(メールマガジン)の配信を月1回のペースで行っており、これは「(弁護士業務にはつきものの)待ち時間にチェックするのにちょうど良い」と非常に好評です。
民事判決のオープンデータ化検討プロジェクトチームの立ち上げ
現在、最高裁判所は、全ての裁判所の民事判決を信頼のおける機関が集約し匿名化した上で広く公開すること(オープンデータ化)を検討しています。民事判決はJLFの行う研究の基盤となるものであり、この問題は私たちの活動に深く関わります。JLFとしては自らが民事判決データの管理機関となることも視野に入れた上で、最高裁・法務省の協力の下、民事判決データの匿名化や利活用に当たり検討すべき課題や対応策について実務的協議を行うべくプロジェクトチームを立ち上げました。
理事長から皆さまへ
かつて留学中に、フランスの公証人たちが自らの売り上げの3%を拠出して、公証人自身の日々の業務に役立てるための充実した研究情報センターを運営しているのを目の当たりにしました。そこには自らの職能を磨き続けることでプロフェッションとしての矜持を維持し、社会的地位の向上に繋げるのだという信念がありました。私たちJLFもプロフェッションを支える存在でありたいと願い日々活動しています。一人でも多くの方の入会をお待ちしています。
日弁連委員会めぐり107
公害対策・環境保全委員会
今回の委員会めぐりは、2019年に設立50周年を迎えた公害対策・環境保全委員会です。針原祥次委員長(大阪)と山本英司前委員長(東京)に、活動等についてお話を伺いました。
(広報室嘱託 白石裕美子)
委員会設置の経緯
設置当初は人権擁護委員会内の特別委員会でしたが、公害の社会問題化、大規模公害訴訟の提起などを背景に、1969年に独立した組織の「日弁連公害対策委員会」が発足しました。その後、活動内容が公害にとどまらず地球環境の保全へと広がったため、1985年に現在の「公害対策・環境保全委員会」に改称しました。
活動内容
当委員会では、7つの部会と5つのプロジェクトチーム(PT)を設置し、幅広い課題の研究や調査を行っています。共通の問題意識は「内発的発展」です。地域の環境に最も強い関心を持ち、適切な判断ができるのは、そこに住む地域住民です。自分たちの将来のために必要な持続可能な開発とは何かを住民が自ら考える、この内発的発展の考え方こそが環境保全に不可欠なのです。このため、地方自治や住民参加は重要なテーマであり、一見環境問題とは関係なさそうな空き家問題や地域再生についてもPTで検討しています。また、行政訴訟(差止訴訟)を環境保全の手段として機能させるため、裁判所の意識を変えることも重要です。
2020年11月に開催した設立50周年記念シンポジウム(3面参照)では、気候危機、マイクロプラスチック、行政参加など当委員会が特に重要と考えている今日の課題を議論しました。
当委員会では、国内外を問わず現地調査を実施してきました。現地に行くと、写真や文章だけでは読み取れない多くの価値ある情報を、五感をフル活用して得ることができます。昨年は新型コロナウイルス感染症の影響で思うように調査できませんでしたが、現場主義は当委員会の活動の原点なので、今後も適切な方法で継続したいと思っています。
会員へのメッセージ
地球環境への配慮を求めるSDGsの視点は、今や国内外の企業法務で不可欠ですから、法律相談に応じる弁護士も気候変動や生物の多様性など環境問題に関する基本的知識を持つことが重要です。
また、弁護士も一市民ですから、自らの生活における環境負荷について意識してみてください。日々の細やかな心掛けが、未来の地球環境を守るのです。
ブックセンターベストセラー
(2020年11月・手帳は除く)協力:弁護士会館ブックセンター
順位 | 書名 | 著者名・編集者名 | 出版社名・発行元 |
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1 |
模範六法2021 令和3年版 |
判例六法編修委員会/編 | 三省堂 |
2 | 携帯実務六法 2020年度版 | 「携帯実務六法」編集プロジェクトチーム/編 | 東京都弁護士協同組合 |
3 | 婚姻費用・養育費等計算事例集(中・上級編)新装補訂版 | 婚姻費用養育費問題研究会/編 | 婚姻費用養育費問題研究会 |
4 | 有斐閣判例六法 Professional 令和3年版 | 長谷部恭男・佐伯仁志・酒巻 匡・大村敦志/編集代表 | 有斐閣 |
5 | 破産・民事再生の実務〔第4版〕破産編 | 永谷典雄・谷口安史・上拂大作・菊池浩也/編 | きんざい |
6 | 一問一答 新しい相続法〔第2版〕 | 堂薗幹一郎・野口宣大/編著 | 商事法務 |
7 | 有斐閣判例六法 令和3年版 | 長谷部恭男・佐伯仁志・酒巻 匡/編集代表 | 有斐閣 |
8 | 養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究 | 司法研修所/編 | 法曹会 |
9 | プラットフォームビジネスの法務 | 岡田 淳・中野玲也・古市 啓・羽深宏樹/編著 | 商事法務 |
10 | 一問一答 令和元年改正会社法 | 竹林俊憲/編著 | 商事法務 |
日本弁護士連合会 総合研修サイト
eラーニング人気講座ランキング 2020年10月~11月
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順位 | 講座名 | 時間 |
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1 | 自然災害債務整理ガイドライン-新型コロナウィルス感染症への適用- | 88分 |
2 | ファクタリング被害に関する法律相談~事業者ファクタリングを中心として弁護士が知っておくべき基礎知識~ | 29分 |
3 | 刑事弁護のひやりはっと | 142分 |
4 | LAC制度の概要 | 12分 |
5 | 交通事故を中心とした偶発事故対応弁護士費用保険について | 38分 |
6 | 民事執行法等の改正と家事事件実務~子の引き渡し、第三者からの情報取得手続、財産開示手続ほか~ | 100分 |
7 | コーポレート・ガバナンスに関わる弁護士のための連続講座(中級編)~第1回 昨今のコーポレート・ガバナンスの動向と独立社外取締役の役割~ | 104分 |
8 | 改訂「社外取締役ガイドライン」の解説~改めて確認する社外取締役の役割と具体的行動~ | 118分 |
9 | できる!インターネット被害対応2020-入門編- | 113分 |
改正民事執行法の実務上の諸問題(金銭債権執行の事例検討を中心に) | 120分 | |
10 | 弁護士のための企業会計に関する連続講座 第1回 会計入門 | 100分 |
お問い合わせ先:日弁連業務部業務第三課(TEL:03-3580-9902)