日弁連新聞 第509号

平成28年
熊本地震への対応

熊本地震の発生から1か月余りが過ぎ、被災地では被災者の生活再建、復旧・復興に向けた取り組みが進められている。日弁連は、前震発生当日に熊本地震災害対策本部を設置し、熊本県弁護士会等と連携し、さまざまな支援活動を行っている。
本号では、熊本県弁護士会における被災者向け法律相談や中本会長らの被災地訪問などを報告する(2面=被災地訪問関連記事)。

 

無料電話相談に3000件を超える相談

熊本県弁護士会との協議の様子

4月25日、熊本県弁護士会は、被災者向けの無料電話相談窓口を開設した。窓口開設当初から数多くの相談が寄せられ、電話がつながらないという声が多数寄せられた。そこで、同28日には電話回線を増設し、5月の連休には、福岡県弁護士会の会員が直接熊本を訪れ、電話対応に参加するとともに、日弁連への電話転送を開始した(東京三会の会員が対応)。さらに、連休明けからは電話の転送先を拡大し、現在は熊本県弁護士会、福岡県弁護士会、大阪弁護士会および東京三会で電話相談に対応している。

5月29日時点で、相談件数は3148件に及んでおり(速報値)、相談内容は、不動産の賃貸借、相隣関係等に関するものが多い。

また、熊本県弁護士会では、法テラス、自治体等と連携し、連休明けからは益城町など被害の大きかった被災地での出張相談を実施している。

 

立法・政策提言

前震発生直後に公表した緊急会長談話に続き、4月18日には、総合法律支援法の一部を改正する法律案の早期成立と、熊本地震への適用を求める緊急声明を公表した。5月9日には、義援金差押禁止措置等を求める緊急会長声明を、同20日には、生活保護世帯が受給する義援金の収入認定に関する緊急会長声明と震災関連死の審査に関する会長声明をそれぞれ公表した。日弁連は、東日本大震災等における経験を踏まえ、迅速な被災者支援策の実現を求めている。

 

自然災害債務整理ガイドラインへの対応

本年4月1日から新たな被災ローン減免制度として、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の運用が開始された。4月15日、災害救助法の適用により、熊本地震は本ガイドラインの適用対象となった。これを受け、熊本県弁護士会では、直ちに登録支援専門家の登録手続を開始するとともに、4月25日からは、登録支援専門家の委嘱の受付を開始した。また、被災者が他都道府県に避難した場合には、当該避難先の弁護士会における登録支援専門家が委嘱を受けることとなるため、各地の弁護士会でも窓口設置等の対応が求められている。

日弁連では、会員に本制度の周知を図るため、eラーニングを配信している。

 

「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」が成立

被疑者取調べの全過程の録音・録画の義務付けをはじめとする「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」(以下「法案」)は、5月24日の衆議院本会議で可決・成立した。日弁連は同日、大要、以下の内容の会長声明を公表した。

 

法案は、有識者が参加した法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」での約3年間の議論の後、全会一致で取りまとめられた答申に基づくものである。

日弁連は長年にわたり、刑事司法改革を訴え、全件全過程の取調べの可視化に取り組んできた。今回の改正は、録音・録画の義務付けの対象を裁判員裁判対象事件及び検察独自捜査事件についての、逮捕又は勾留された被疑者の取調べに限定しているものの、対象事件については全過程の録音・録画を原則としている。また、被疑者国選弁護制度の勾留全件への拡大、証拠リストの交付等の証拠開示の拡大、裁量保釈の判断に当たっての考慮事情の明確化等、複数の重要な制度改正が実現したものであり、全体として刑事司法改革が確実に一歩前進するものと評価する。

他方で、通信傍受の拡大、証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度の導入など、証拠収集手段の多様化も盛り込まれた。日弁連は、通信傍受制度の安易な拡大に反対してきたところであるが、補充性・組織性の要件が厳格に解釈運用されるかどうかを厳しく注視するとともに、引き続き、第三者監視機関の設置などの通信の秘密やプライバシーの不当な侵害を防止するための制度の創設を求めていく。合意制度についても、引き込みの危険等に留意しつつ、新たな制度が誤判原因とならないよう、合意に基づく供述の信用性がどのように判断されるか等を注視していく。

なお、取調べの録音・録画について、参議院法務委員会の審議において問題とされた別件の被告人勾留中における対象事件の取調べは、対象事件について、「勾留されている被疑者」を取り調べることにほかならないのであるから、別件の被疑者勾留中における対象事件の取調べと同様に、録音・録画の義務付けの対象となることが明らかである。録音・録画義務の範囲が不当に限定されることのないよう、運用を厳しく監視することが求められる。

日弁連は、えん罪を生まない刑事司法制度の実現のため、新たな制度の下で十分な弁護が提供できるよう会員に対して研修等を行うとともに、残された課題をふまえ、施行後3年を経過した後の見直しに向けて、取調べの全件全過程の可視化の立法事実となる事例等の収集・分析を積極的に行い、刑事司法の実情を広く市民に情報開示していく。

 

総合法律支援法改正案が成立

総合法律支援法改正案が5月27日の参議院本会議にて可決の上、成立した。

同月26日の参議院法務委員会では、平成28年熊本地震へ本改正案を早急に適用すべきとの意見があり、法務大臣から政令の指定や規定整備等の準備を早期に進めたいとの答弁があった。

他に、認知機能が十分でないために自己の権利実現が妨げられているおそれがある方やDV・ストーカー・児童虐待を現に受けている疑いのあると認められる方に対する法律相談や代理援助の在り方について質疑が行われた。

質疑を受けて、平成28年熊本地震の被災者に対する無料法律相談を早期に実施するため、政令の指定や規定整備を早期に行うことを含む附帯決議が可決された。

日弁連は、今後、運用実施に関する関係機関との協議等、態勢整備を進める予定である。

(日本司法支援センター対応室長 高橋太郎)

 

児童相談所における弁護士配置について

日弁連は、4月13日「児童相談所における弁護士配置への対応に関するワーキンググループ(WG)」を設置した。これは今国会で成立した児童福祉法の一部改正法案において、都道府県(政令指定都市、中核市、東京23区等を含む)が、児童相談所における弁護士の配置又はこれに準ずる措置を行う旨規定されたことに対応するためである。メンバーは子どもの権利委員会、法律サービス展開本部、国・地方公共団体等による弁護士任用促進に関するWGの委員等で構成されている。

法案では、年々増加する児童虐待について、法律に関する専門的な知識・経験に基づき適切かつ円滑に対応するため、子どもの権利を擁護する観点から2016年10月以降、すべての児童相談所に弁護士の配置又はこれに準ずる措置を行うことが想定されている。

当WGは、常勤弁護士等の配置を目指しつつ、これまでの児童相談所と弁護士との連携の状況や各地の実情にも配慮し、弁護士を採用したいという自治体の声に応えられるよう、各弁護士会の協力を得ながら最大限の努力をしていきたいと考えている。

(児童相談所における弁護士配置への対応に関するWG座長 小林元治)

 

ひまわり

訟廷日誌に「審判講習会」という予定が書き込まれていた場合、弁護士任官を予定しているものと早合点されるかもしれない。しかしながら、その開催場所は「第二グランドB」である。

息子が少年野球チームに属していると、父親もコーチ登録して何かとお手伝いをすることになる。各チームは連盟主催の大会に審判員を出さなければならず、父親コーチも講習会に参加するなどして審判のスキルを磨かなければならないのである。実際に審判をやってみて感じたのは、責任感と重圧である。自信のない素振りを見せればミスジャッジを疑われかねないし、高圧的に振る舞えば反発される。不可解な判定で自チームが敗退した経験があるからこそ、過誤のない判定を心掛けたい。以後、プロ野球を見ていても、審判の努力と苦労に思いを馳せるようになった。

むろん野球と訴訟を同列に論じる訳にはいかないが、立場を変えると視野が変わるのはどこの世界でも同じかもしれない。安定的かつ継続的な弁護士任官者の輩出が望まれる所以である。

今般、日弁連でも、「都市型公設事務所による弁護士任官の支援に関するワーキンググループ」が始動した。都市型公設事務所の活性化とともに、中長期的に弁護士任官者を輩出する体制の整備が期待されている。

(K・K)

 

中本会長らが被災地を訪問
被災者支援策を弁護士会・熊本県・熊本市と協議
5月2日 熊本県

益城町を視察する中本会長

熊本県弁護士会との協議

熊本県弁護士会において、吉田賢一会長はじめ同会執行部らから、被害状況や同会における対応状況の報告を受け、電話相談など今後の復興支援の体制、自治体および関連機関等との連携や、九州弁護士会連合会、各弁護士会、日弁連による支援体制等について協議を行った。

協議結果を受け、被災者支援対応が各地で実施されている(1面参照)。

 

被災現場の視察

4月14日の前震で最も大きな揺れを観測した熊本県益城町を視察した。倒壊した家屋等が続く町並みには、地震前の面影は全く見られず、本地震による被害がいかに甚大であるかを物語っていた。

 

蒲島郁夫熊本県知事との面談の様子

熊本県知事・熊本市長との面談

熊本県弁護士会執行部らとともに、熊本県庁と熊本市役所を訪問し、同会発行の「熊本県弁護士会ニュース〈災害Q&A〉」を提供し、同会における支援活動等について説明した。なお、同ニュースは、被災者にとって有益な被災者支援情報が記載されていることから、避難所等各所で配布されることとなった。また、今後整備が進められる予定の拠点避難所に、行政窓口とともに法律相談窓口の設置を検討すること等について意見交換を行った。

 

院内学習会
技能実習法案・入管法改正案の問題点
4月25日 参議院議員会館

  • 院内学習会「技能実習法案・入管法改正案の問題点」の開催について

今国会では、外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律案と出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案(以下「入管法改正案」)が審議された。外国人技能実習生や難民認定者など当事者の声を聞き、これらの法律案の問題点について議論を深め、認識を共有することを目的として、院内学習会を開催した。

なお、両法案ともに今国会では採決には至らず継続審議となった。

 

まず、人権擁護委員会外国人労働者受入れ問題PTの指宿昭一事務局長(第二東京)が、外国人技能実習制度は、国際貢献を名目に、実質は、非熟練労働力不足の解消を図るものとなっていることを指摘し、実態と制度目的との乖離は問題であり廃止されるべきとの意見を述べた。また、制度を当面存続させるとしても、実習生が実習先を選択できるようにし、監理者等による実習生の強制帰国を禁止するなど、外国人技能実習生の人権保障のために改善する必要があると述べた。

そして、外国人技能実習生2人が当事者として発言し、極めて低い賃金で長時間労働を強いられたこと、日本の法律で禁止されていると知らずに本国で保証金や違約金の支払いを約束させられたこと等の実態を語った。

続いて、人権擁護委員会入管問題検討PTの山脇康嗣特別委嘱委員(第二東京)が、入管法改正案における在留資格の不正取得に対する罰則の新設について、構成要件が不明確であり、難民認定申請を萎縮させる危険がある等の問題点を指摘した。また、在留資格取消事由の拡大についても、在留資格を有する外国人の地位を過度に不安定にするおそれがあると述べた。

その後、難民認定者が当事者として発言し、上陸を拒否されながらも司法手続を通じて難民認定を受けた経緯を明らかにした上で、母国で迫害等されあらゆる手段を尽くして保護を求めている難民を追い返すことは許されないと述べ、難民に対して適切な対応をとるよう訴えた。

当日は代理出席10人を含め16人の国会議員が出席し、本人出席の国会議員からは、外国人技能実習制度に頼るのではなく外国人労働者を受け入れるか否かの検討をすべきとの声や、入管法改正案が資格外活動を行おうとしている者に対し在留資格取消という予防的措置を認めていることは問題である等の声が上がった。

 

院内意見交換会
司法修習生への給費の実現と充実した司法修習を
4月26日 衆議院第一議員会館

  • 司法修習生への給費の実現と充実した司法修習に関する院内意見交換会

司法修習生への給費が廃止され、貸与制5年目を迎えた今、法曹志望者の減少傾向は止まる気配がない。司法修習生の経済的基盤を安定させることは、多様な人材を確保し、充実した司法修習を実現させることにつながる。修習手当の創設に向けて開催した本意見交換会には、定員を大きく超える330人が参加し、会場は熱気に包まれた。

 

冒頭、中本会長が挨拶し、経済的負担等から法曹志望者の減少傾向が続いているが、このような状況を一刻も早く改善した上、充実した司法修習制度を実現することは国の責務であり、修習手当の創設が求められると述べた。

次に、法学部に在籍し、法曹を志望している大学生から「弁護士を目指して、入学直後から研究室に入って勉強しているが、4年生になった今、経済的な理由から法曹の道をあきらめてしまった友人も多い。経済的に余裕のない人は法曹を目指しにくい状況になっているが、私は夢をあきらめたくない」と当事者の切実な声が語られた。

国会議員は超党派で98人が出席し(国会議員の本人出席34人、代理出席64人)、「経済的負担により法曹への道をあきらめる者が増えている。多様な法曹人材を確保するため、本意見交換会の趣旨実現のために努力したい」等のエールが送られた。

また、日本医師会の横倉義武会長からも「社会正義の実現に極めて重要な役割が期待される司法修習生に対する経済支援が貸与制であるという状況は、今すぐに改善されるべき喫緊の課題である」とのメッセージが送られた。

最後に、司法修習費用給費制存続緊急対策本部の新里宏二本部長代行(仙台)が、既に総議員の半数を超える382人の国会議員の賛同を得ており、法改正まであと一歩、実現のために頑張りたいと力強く述べた。

 

中央教育審議会大学分科会
法科大学院特別委員会における審議・報告内容
(第74回・5月11日開催)

法科大学院における2016年度の入学者選抜実施状況

2016年度の法科大学院志願者数は、先に実施された適性試験受験者の減少を反映し、延べ8274人となり前年度から2096人の減少となった。入学定員は前年度から445人減員した2724人となり、入学者の実数は前年度から344人減少し1857人であった。

 

法科大学院全国統一適性試験の在り方に関する検討
WGの報告(2016年3月15日付報告書に基づいて)

現在すべての法科大学院出願者に対して課している適性試験について、既修者選抜、未修者選抜いずれについても、適性試験の利用を各法科大学院の任意とすべきとの提言が報告された。ただし、適性試験を利用しない場合は、各法科大学院において、受験生の適性を適確かつ客観的に判定するため、適性試験に代わる入試の取り組みが必要であるとされ、ガイドラインの必要性についても言及されている。実施時期については、2018年の夏ごろから行われる2019年度入学者選抜から実施することも考えられると提言された。同提言については、引き続き特別委員会において審議される。

(司法調査室嘱託 片桐 武)

 

 

*中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会の議論状況および資料等は文部科学省のホームページでご覧いただけます。

 

院内学習会
国民の知る権利のため、今こそ、公文書の適切な管理を!
内閣法制局による文書管理問題から考える
4月21日 衆議院第一議員会館

  • 院内学習会「国民の知る権利のため、今こそ、公文書の適切な管理を!~内閣法制局による文書管理問題から考える~」

公的情報は本来、国民の情報であるとともに公的資源であり、適切に公開、保存することが国民の知る権利に資するものであるが、行政機関における文書管理には問題が見られる。そこで、問題点を共有し、行政機関に対し公文書の適正な管理を求めていくため、院内学習会を開催した。

 

基調報告

冒頭、熊本地震の犠牲者に黙とうをささげた後、秘密保護法対策本部の三宅弘本部長代行(内閣府公文書管理委員会委員)は、情報公開法の行政文書とは、行政機関の長が作成したものだけではなく、職員が作成したものも含まれるのであり、広く適正な管理をすべきであると述べた上で、日弁連としては、情報自由基本法の制定に向けて取り組むとともに、情報公開法の改正、公文書管理法の厳格な運用を求めていくことを報告した。

 

国会議員からのメッセージ

後藤祐一衆議院議員(民進党)は、文書管理ルールを省庁がそれぞれ定めている現状に疑問を呈し、統一ルールの必要性を指摘した。階猛衆議院議員(民進党)は、情報公開が、行政情報を破棄するのか、公文書館で保存するのかの判断材料として重要な役割を果たすと語った。また、塩川鉄也衆議院議員(共産党)は、公文書の適正な管理により、行政機関に対するチェック機能が働くと述べた。

 

関係団体等から

日下部聡氏(毎日新聞東京社会部記者)は、本来行政機関が作った文書は、国民の共有財産であると述べ、行政機関は黒塗り開示をせず情報公開に積極的に応じるという雰囲気や風土を作っていかなければならないと指摘した。また、公的機関の情報公開と個人情報保護に取り組む三木由希子氏(NPO法人情報公開クリアリングハウス理事長)は、情報公開においては、重要な文書が不存在の場合には、新たに作成または取得して公開させるという方法もあり得ると指摘し、その実例として、北海道ニセコ町の情報公開条例を報告した。

 

共謀罪創設反対を求める院内学習会
4月22日 衆議院第二議員会館

  • 共謀罪創設反対を求める院内学習会

具体的な犯罪に合意するだけで処罰されてしまう共謀罪は、わが国の刑事法体系の基本原則に矛盾し、基本的人権の保障と深刻な対立を引き起こすおそれが高い。既に三度廃案となっているものの、2015年11月にパリでのテロ事件が発生した際に、一部与党議員から国内テロ対策の一環として共謀罪法案の早期提出の必要があるとの趣旨の発言があったことを受けて、今秋の臨時国会以降に新たな法案提出が見込まれている。
院内学習会では、共謀罪をめぐる最近の情勢を報告するとともに、法案提出阻止の重要性について理解を求めた。

 

共謀罪法案対策本部の海渡雄一副本部長(第二東京)は、共謀罪法案はテロ対策を理由に提出される見込みだが、これは、政府が従来行ってきた「重大犯罪につき共謀罪の設置を求める国連越境組織犯罪防止条約の批准のために必要」との説明とは異なること、同条約はそもそも経済犯罪抑止を目的としており、テロ対策を目的としたものではないことを力説した。

松宮孝明教授(立命館大学大学院法務研究科)は、新たな法案は、共謀に加え、共謀に係る犯罪の準備行為など顕示行為が必要であるとする従前の政府修正案をベースとし、その対象犯罪は長期4年以上の懲役または禁錮刑が定められる犯罪となると予想されることを報告した。その上で、現行制度でも重大犯罪について予備罪や準備罪が規定され、かつ共謀共同正犯理論も存在し、既に新法案が念頭に置く行為について処罰は可能とし、共謀罪新設の必要性を否定した。

最後に、角山正本部長代行(仙台)が、共謀罪を成立させてはならないことはもとより、法案提出自体を阻止することが重要であり、日弁連として引き続き全力を尽くすとの決意を述べた。

 

シンポジウム
大規模災害と法制度
災害関連法規の課題、憲法の緊急事態条項
4月30日 弁護士会館

  • シンポジウム「大規模災害と法制度~災害関連法規の課題、憲法の緊急事態条項~」

現在、憲法改正をめぐっては、東日本大震災のような大規模自然災害などの緊急事態の際、政府が平時の統治機構では対処できないと判断した場合に、憲法秩序を一時停止して非常措置を行う権限(=国家緊急権)を具体化した緊急事態条項の創設が議論の対象とされている状況にある。本テーマについては日弁連内でもまさに議論中で、その方向性について会内合意には至っていない。
このような状況の中、阪神・淡路大震災や東日本大震災等の被災者支援活動を通じて明らかになってきた大規模災害に関する法制度の問題点や課題、緊急事態条項の創設と立憲主義の関係等を検討するため、シンポジウムを開催した。

 

馬場浪江町長

冒頭、参加者一同で、熊本地震の犠牲者に黙とうをささげた。

前半はまず、福島県浪江町の馬場有町長が登壇し、浪江町が受けた原発被害と現状について基調報告を行った。馬場町長は、震災発生直後、東京電力や国からは適時の連絡がなかったこと、避難先で仮設の診療所を再開するに当たり法令違反との反対を受けたことなど、被災自治体の長として直面した苦難を報告した。

また、石川健治教授(東京大学法学部)は、憲法と緊急事態条項に関する基調報告を行い、日本では参議院の緊急集会制度や災害対策基本法制が存するところ、災害対策として緊急事態条項が必要という議論には、目的と手段との整合性がないと指摘した。

後半はパネルディスカッションが行われ、災害復興支援委員会緊急時法制PTの永井幸寿座長(兵庫県)が、2015年9月に実施した東北被災三県の市町村に対するアンケート結果を参照しながら、「刻々と変化する被災地のニーズに効果的な対処ができるのは、国ではなく近くにいる市町村」と述べ、国の権限強化が被災地・被災者のためにならないことを指摘した。

続いて石川教授は、「緊急事態」を理由に立憲主義のコントロールが破られ、国民の権利・利益の制約を招いた過去の歴史を忘れてはならないと訴えた。河北新報社報道部の矢野奨副部長も、「5年前の東日本大震災の折、被災者たちは、支援物資の受け取りの列に何時間も整然と並び続けた。その姿に世界が驚嘆した。緊急時でも取り乱さないこの国に、緊急事態条項はいらないのではないか」と発言した。

 

シンポジウム
最低賃金問題を考える
5月13日 弁護士会館

  • 最低賃金問題を考えるシンポジウム

日本の最低賃金は先進諸外国と比較して低い水準にあり、日弁連は非正規労働者の賃金面における待遇改善および生活と健康の確保の点からも、大幅な引上げを求めている。こうした日弁連の見解を広く発信するとともに、最低賃金額の意義およびこれに関する問題点を広く周知するためシンポジウムを開催した。

 

基調講演

神吉知郁子准教授(立教大学)は、「最低賃金法のこれまでとこれから」と題し、中央最低賃金審議会は、これまで、前年からの賃金引上げ幅の議論をしてきたが、今後は、最低賃金水準の妥当性を議論し、最低賃金引上げの根拠を明確に示していく必要があると指摘した。

 

当事者発言

神奈川県の地域別最低賃金を1000円以上に引き上げる行政処分義務付け訴訟の原告訴訟代理人を務める田渕大輔会員(神奈川県)は、主な争点の一つである「最低賃金と生活保護との逆転現象」について、最低賃金が1200円に上がったとしても、勤労控除制度などを有する生活保護制度による支給額には未だ及ばないと指摘した。また、同訴訟の原告である猪井伸哉氏は、最低賃金(時給905円)で働いている現状を語り、最低賃金が1000円、1500円となれば、多少の交際費も拠出でき、人並みの生活を送ることができると自らの窮乏を訴えた。さらに、小畑精武氏(コミュニティ・ユニオン全国ネットワーク江戸川ユニオン委員長)は、現在の最低賃金の算出基準が19歳の単身者の生活費を基に計算され、年功による増額がなく、家族のいる家庭の生活を支えるには十分でないと指摘した。

 

日弁連からの報告

貧困問題対策本部の三浦直子事務局員(東京)は、日弁連が2011年6月に「地域別最低賃金額が、人たるに値する生活を保障するのにふさわしい水準まで大幅に引き上げられるべき」との意見書を発表していることを報告し、今後も市民集会、院内集会などで粘り強く増額を求めていくと意気込みを語った。

 

*中央最低賃金審議会の議論状況および資料等は厚生労働省のホームページでご覧いただけます。

 

シンポジウム
憲法9条を変えるとはどういうことか
社会構造や国民生活はどうなるのか
4月23日 弁護士会館

  • シンポジウム「憲法9条を変えるとはどういうことか~社会構造や国民生活はどうなるのか~」

憲法の基本理念と原理を再確認するとともに、これらの理念や原理が崩壊した場合の社会構造の変化や国民生活への影響を議論し、認識を深めるため、シンポジウムを開催した。

 

冒頭、中本会長が挨拶し、憲法改正は極めて重要な問題であり、日弁連としても憲法改正が社会や国民生活に及ぼす影響について問題提起や情報発信をしていきたいと述べた。

続いて、山内敏弘名誉教授(一橋大学)が特別講演を行い、憲法9条は戦争放棄を宣言するほか自由を「下支え」する役割を果たしており、これを改正すれば自由が失われると述べた。また、自民党の憲法改正草案の問題点の一つとして平和的生存権の削除を指摘し、立憲主義と平和主義は不可分一体であり、憲法は国家権力を立憲的に統制して国民の平和的生存権を保障すべきものであると論じた。

その後、航空・船員・医療関係者らによるリレートークが行われ、それぞれの立場から、戦争や憲法改正等の諸問題に対する意見や取り組みなどが語られた。

パネルディスカッションでは、池内了名誉教授(名古屋大学)が、政府によって大学や企業等の研究機関が軍事技術の研究開発に誘導されている現状を概説し、この「軍学共同」が続けば、学問の自由が脅かされ、研究現場が萎縮するなどの問題が生じ得ると指摘した。

大沢真理教授(東京大学)は、若年層の貧困率が高く、社会保障制度が機能していないなどの日本の経済状況を統計に基づき説明し、経済的困窮者が軍事部門に取り込まれる「経済的徴兵制」の条件が整えられつつあると指摘した。そして、憲法9条を改正すればこの方向性を加速させることになりかねないと述べた。

ジャーナリストの青木理氏は、特定秘密保護法の施行後、報道機関に一定の萎縮が生じている可能性があるとし、今後、国内での大規模テロや海外での自衛隊員の被害が発生した場合には、ナショナリズムが沸騰し、安保法制への批判に対する圧力が生じる懸念があると述べた。また、特定秘密保護法に象徴されるように、政府は一貫して表現の自由を制約する方向に動いているように思えるが、今であればまだその動きを止めることはできるはずと指摘した。

 

JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.112

赤ちゃんを虐待死から救う
認定NPO法人フローレンス

育児放棄などの虐待により乳幼児が死亡する事件が相次ぎ、深刻な社会問題となっています。今回は、そのような痛ましい事件をなくすべく、本年4月から特別養子縁組あっせん事業に取り組み始めた認定NPO法人フローレンス(以下「フローレンス」)を訪ね、駒崎弘樹代表理事からお話を伺いました。

(広報室嘱託 渡邊寛一)

 

これまでの活動内容と養子縁組事業を始めるに至った経緯を教えてください

駒崎代表理事。職員有志による絵画の前で

「親だけが子育てする社会から、社会全体でそれを支え、共に子ども達を育むことがあたりまえの社会」の実現を目指して、2004年にフローレンスを設立しました。

まず、2005年に病児保育事業を開始し、さらに2010年からは、都心の空き家を利用して小規模保育所を運営する「おうち保育園」事業などの活動にも取り組みを広げてきました。

利用者は年々増加しており、育児と仕事の両立支援の成果は着実に出てきています。

しかし、その一方、乳幼児に対する虐待事件が相次いでおり、生後間もない赤ちゃんが、2週間に1人虐待で命を落とすという痛ましい現状があります。

保育の事業を充実させるだけでは支援できていない親に対し、何か取り組めないかと考えるようになりました。

虐待の原因として、親のモラルの低下が叫ばれがちですが、社会的構造の問題によるものもあるのです。

例えば、貧困や社会的孤立により出産しても育てられない状況にあるとか、性犯罪被害など望まない妊娠をしてしまったとか、難しい背景事情を抱えている場合があります。

なお、こういった問題を抱える親がいる一方で、子どもが欲しくても授かることができない夫婦も相当数います。

この両者を結び付けることにより、虐待で亡くなる乳幼児をゼロにすることができるのではないかと考え、本年4月、特別養子縁組あっせん事業への取り組みを開始しました。

 

具体的にはどのような取り組みをしているのでしょうか

実親(生みの親)については、課題を抱える妊婦の相談にのり、出産を支援します。

養親(育ての親)については、子どもの人生を預かるという覚悟を持ってもらうため、説明会を開いています。次に、審査を行い、育ての親の候補者を選定します。候補者には、研修を行った上、家裁への特別養子縁組の申し立てのサポートをします。特別養子縁組の審判確定後も、育ての親同士の交流会などを開催し、子育てをフォローしていきます。

 

審査と研修の内容を教えてください

まず、育ての親となることを希望する者の職業、年収、家族構成、年齢を明らかにするための資料を提出してもらい、書面審査を行います。

その上で夫婦両名と面談して、生い立ちから結婚に至るまでの経緯を調査し、さらには家庭訪問を行います。

すべての審査を通過し、適正であると判断した育ての親の候補者を、正式に育ての親として登録し、研修を受けてもらいます。

育児・保育に関する座学のほか、フローレンスが運営する保育園での実習や障害児保育園の見学、提携病院での育児研修を受けてもらいます。

このような厳しい審査と研修をすべて終えて初めて子どもの養育を委託できる状態になります。

もちろん、子どもと育ての親とのそれぞれの背景事情を考慮して適切なマッチングができるように慎重を期しています。

 

事業の目標を教えてください

2020年までに制度化させ、施設養護から家庭養護を推し進めていきたいと考えています。

施設では複数の子どもに対して一人の先生が対応しますので、子どもとの接触が不足し、個々の結び付きが弱くなってしまう傾向がありますが、特別養子縁組により家庭養護を行えば、子どもと親との1対1の関係が出来上がり、結び付きを強くすることができます。

諸外国では、家庭養護の方が好ましいとして、養子縁組制度が積極的に運用されています。

しかし、日本では特別養子縁組の活用は進んでいないのが実情です。この事業への取り組みによって、目の前の赤ちゃんを一人ひとり助けながら、家庭養護の成果を積み上げ、政策提言を行っていきたいと考えています。

 

弁護士・弁護士会への期待・要望は

出産前に問題を抱えている妊婦の相談にのってほしいと思います。

例えば、離婚後に出産を控えている妊婦の経済的問題や、外国人夫婦の間に生まれてくる子どもの国籍問題への、弁護士による適切なアドバイスを期待します。

将来的には、法律と福祉の専門家とで連携して子ども達を救っていける社会を実現したいと思います。

 

日弁連委員会めぐり 86

国際活動に関する協議会

今回の委員会めぐりは、国際活動の総合施策の策定・推進などを行っている国際活動に関する協議会です。鈴木五十三議長(第二東京)、國谷史朗副議長(大阪)、山神麻子事務局長(第一東京)からお話を伺いました。

(広報室嘱託 神田友輔)

 

左から國谷副議長、鈴木議長、山神事務局長

協議会設置の経緯は

従来、日弁連の国際活動は関連委員会が個別に行っていましたが、委員会と国際室とが連携を図り、日弁連として統一的に対応するため、1998年設置の前身組織が改組され、2004年4月に当協議会が設置されました。その目的・任務は、①日弁連の国際活動について、総合的施策を策定し推進すること、②国際法曹団体等における日弁連の活動について、対応方針を検討し、会長に提言することなどです。

 

最近の主な活動内容は

2014年には、東京で開催されたIBA年次大会のための準備活動を行いました。同大会はIBA史上最大級の約6300人の参加者を得て、成功裏に終わりました。
昨年度は、2015年4月に設置された「国際戦略会議」に対し、日弁連の取るべき国際戦略について提言を行ったほか、法務省に設置されている日本法令外国語訳推進会議の構成員の推薦を行いました。

 

2017年のLAWASIAへの対応は

LAWASIAはアジア・太平洋地域の法曹団体および法律家の団体で、2017年の年次大会が東京で開催されます。現在組織委員会が立ち上がっていますが、この大会に向け、協議会ではプロジェクトチーム(PT)を立ち上げ、準備を始めています。

 

今後の課題は

国際法曹団体等でのルールメイキングに参加していきたいと考えていますが、これらの組織における活動は、機動的、継続的な対応が必要となります。日弁連としては、対応可能な体制を整える必要があります。
また、「国際戦略会議」で策定した「国際戦略」を、今後いかに実行に移せるかも課題です。

 

会員へのメッセージをお願いします

協議会メンバーは、国際関係の委員会の委員長、国際法曹団体の元理事など、国際経験豊富な委員により構成されていますが、最近、若手会員の参加を増やす取り組みを始めました。
グローバル化が進む今日、国際的な法律分野に絡む業務は、会員の誰もが関与する可能性があります。国際活動に興味をお持ちの会員の皆さま、国際活動への接点の第一歩として、LAWASIA東京大会PTへの参加を考えてみませんか。若手や地方弁護士会の会員の皆さまの参加を期待しています。

 

*日弁連の国際戦略(ミッション・ステートメント)は、日弁連ホームページ(HOME≫日弁連の活動≫国際人権・国際交流のための活動≫『国際戦略(ミッション・ステートメント)』の策定)からご覧いただけます。

 

ブックセンターベストセラー
(2016年3月・六法、手帳は除く)協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名
1 労働法[第十一版] 法律学講座双書 菅野和夫 著 弘文堂
2 会社法コンメンタール20―雑則〔2〕§§868〜938 森本 滋・山本克己 編 商事法務
3 相続・遺言ガイドブック 第二東京弁護士会法律相談センター運営委員会 編著 LABO
4 逐条解説会社法 第9巻 外国会社・雑則・罰則―第817条〜第979条 酒巻俊雄・龍田 節 編集代表 中央経済社
5 事例にみる 特別受益・寄与分・遺留分主張のポイント 近藤ルミ子・小島妙子 編著 新日本法規出版
6 刑事上訴審における弁護活動 植村立郎 監修 岡 慎一・神山啓史 編 成文堂
7 住環境トラブル解決実務マニュアル 東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会 著 LABO
8 弁護士の周辺学 実務のための税務・会計・登記・戸籍の基礎知識 髙中正彦・市川 充・堀川裕美・西田弥代・関 理秀 編著 ぎょうせい
9 遺留分減殺請求事件処理マニュアル 野々山哲郎・仲 隆・浦岡由美子 共編 新日本法規出版
10 弁護士会照会制度[第5版]活用マニュアルと事例集[CD−ROM付] 東京弁護士会調査室 編 商事法務

 

編集後記

今クールは、弁護士が主役の連続テレビドラマが2番組放映されており、どちらもなかなかの高視聴率である。一方は刑事弁護、他方は企業法務と、取り上げているテーマが違うが、弁護士の仕事の振幅の広さを伝えてくれるようで、それがまた面白い。
現在、広報室では、学研プラスの小学生向け学習漫画「弁護士のひみつ」(2017年発刊予定)の制作にかかわっている。そこでつくづく感じるのも、弁護士という仕事の「幅広さ」である。生活のすべてに法律がかかわっている以上、当然といえば当然なのだが、仕事の全容を言い表そうとすると、いくら言葉があっても足りない。そんな仕事のエッセンスを、一冊の漫画の中に落とし込もうとするのだから、これはもう大変な作業だったりもするのだが、小学生以下の子どものパパ・ママでもある嘱託総出で喧々諤々の議論を続けている。発刊を乞うご期待!

(T・O)