日弁連新聞 第503号

弁護士業務改革シンポジウム
利用者の立場に立った業務の充実・拡大を目指して
10月16日 岡山市

  • 第19回弁護士業務改革シンポジウムのご案内

第19回弁護士業務改革シンポジウムを開催し、8分科会に分かれて弁護士業務に関する課題等を議論した。本稿では、このうち4分科会の模様を報告する。その他の分科会では、事務職員の養成と確保、青少年アスリートのスポーツ権の確保、弁護士の専門化、近未来の裁判所(電子裁判所)がテーマとされた。各分科会の詳細な報告は、「自由と正義」2016年4月号に掲載予定である。

 

創業支援・弁護士活用法

第1分科会

近時、創業支援の重要性が認識されつつあるが、この分野に強い関心を寄せる弁護士は少なく、創業者側にも弁護士を積極的に利用すべきとの認識は低い。重要な法的問題は創業段階にも多く存在し、弁護士が法的サービスを提供する意義は十分にある。弁護士の活用拡大に向けて、本分科会を開催した。

 

前半は、創業者の支援に力を注いでいる佐藤有紀会員(第一東京)から、支援に携わる方法や課題が報告され、創業者のバックグラウンドを知ることの重要性が指摘された。

続いて、弁護士への相談を促すツールとして、弁護士業務改革委員会企業コンプライアンス推進PTが作成した「中小企業向けコンプライアンスチェックシート」が紹介された。

後半は、和栗博氏(経済産業省中小企業庁経営支援部創業・新事業促進課長)から基調報告として、創業支援に関する国の施策や補助金制度等が紹介された。

門野誠治氏(日本政策金融公庫国民生活事業中国創業支援センター所長)と三宅昇氏(岡山県産業振興財団理事長)からは、創業支援連携団体の創業支援への関わり方や、成功する創業パターンの紹介、創業者が抱える悩みなどが具体的に報告された。

最後に、須々木敏彦氏(岡山商工会議所中小企業・地域振興部長)、柿沼太一会員(兵庫県)らが加わりパネルディスカッションを行い、創業における弁護士の活用について、その可能性と課題を議論した。

柿沼会員は、ベンチャー企業支援には①新しいビジネスモデルと既存の規制に関する調査や相談、②不当な契約を結ばないための契約書作成、③資金調達のための投資契約作成などが含まれることを紹介し、当初の顧問料については柔軟に対応し、将来を見据えて長期的に支援していく姿勢が重要だと指摘した。

門野氏は、弁護士会や弁護士は、既に創業支援に取り組んでいる商工会議所などと連携することが重要と指摘した。

日弁連や弁護士会に、創業支援業務拡充のための組織整備などを求める提言がなされた。

 

法律事務所と企業内弁護士の関係

第2分科会

企業内弁護士の数は年々増加し、本年6月時点で1442人に達している。本分科会では、企業内弁護士の全体像・役割・課題・展望などを紹介するとともに、顧問弁護士など法律事務所の弁護士(以下、「外部弁護士」)と企業内弁護士によるパネルディスカッションを行った。

 

田中努会員(北陸銀行/富山県)は「数字で見る企業内弁護士の現状と弁護士業務の構造変化」と題し、1400人を超える企業内弁護士の9割が、50期代以降の若手会員で占められていること、日系企業や地方の企業での採用が進んでいることなどの現状を報告した。

続いて、本間正浩会員(東京/日清食品ホールディングス執行役員兼CLO)が、米国における企業内弁護士の150年にわたる盛衰の概観を報告した。

その後、外部弁護士と企業内弁護士との関係について、講演とパネルディスカッションを行った。

藤本和也会員(共栄火災海上保険/第一東京)は講演の中で、企業内弁護士の増加により、外部弁護士への依頼の必要性や、外部弁護士の業務の質を、同じ法曹である企業内弁護士が厳しく評価するようになっていることを指摘した。

後半は、外部弁護士として近藤浩会員(東京)、中崎隆会員(第一東京)が、企業内弁護士として後藤康淑会員(三井海洋開発/東京)、河井耕治会員(野村不動産/東京)が参加し、パネルディスカッションを行った。そこでは、外部弁護士の評価方法、外部弁護士に開示する情報の範囲、顧問弁護士が複数いる場合の依頼方法、追加作業が発生した場合の弁護士費用の見積方法など、多岐にわたる論点につき、双方の立場から踏み込んだ議論が展開された。

 

自治体との新たな関係構築に向けて

第6分科会

近年、自治体を取り巻く環境は大きく変化している。本分科会では、弁護士会による行政連携全般、自治体内弁護士任用、条例制定支援、公金債権管理、外部監査、福祉分野における自治体と弁護士・弁護士会の連携の実践例を踏まえ、現在の課題と今後の展望を議論した。

 

基調講演を行う山田京都府知事

午前の部では、行政連携、公務員任用、条例制定、公金債権、外部監査の各分野における弁護士・弁護士会の取り組みが報告された。

岸本佳浩会員(大阪)は、セーフティネット機能の充実や法の支配拡充の観点などから、弁護士・弁護士会は行政連携に一層取り組むべきと語り、自治体の法的ニーズの喚起およびニーズに即した法的サービスの提供が重要と指摘した。

午後の部では、山田啓二京都府知事(全国知事会会長)が基調講演を行い、弁護士・弁護士会に対し、法律家ならではの視点で行政に関与し、「新しい公共」として、その役割を果たしてほしいと期待を寄せた。

次に、日弁連および弁護士会の福祉分野の取り組み全般について報告の後、小山操子会員(大阪)が、地域包括支援センター等の職員に対し法律相談を行う大阪弁護士会の取り組みについて報告を行った。

パネルディスカッションでは、太田昇真庭市長が、弁護士職員と他の職員との日常的協働が、組織のリーガルマインド涵養に役立つと自治体内弁護士の利点を説いた。

大貫裕之教授(中央大学法科大学院)は、弁護士が行政の政策形成に関与することの意義を強調した。

 

弁護士保険制度の発展とその可能性

第7分科会

本年1月、補償対象範囲を拡充した弁護士保険の運用が開始された。本分科会では、初期相談の重要性、全国の弁護士会での実施に向けたノウハウの共有、中小企業向けモデル約款の作成に向けた検討、弁護士紹介における問題、適正報酬の在り方、弁護士保険に関する紛争解決機関設立の必要性を議論した。

 

まず、武田涼子会員(第一東京)および應本昌樹会員(第一東京)が、カナダでは職種に応じた商品設計や職業団体等を通じた募集などが弁護士保険の普及に寄与していると報告した。

小池康弘会員(大阪)は、今後拡充すべき弁護士保険の分野としては、クレーマー対策、労働者の労働紛争関係、建物賃貸借関係などが考えられると指摘した。

池内稚利会員(第一東京)は、日弁連リーガル・アクセス・センター(LAC)が関与している弁護士保険のクレーム事例を分析すると、同一弁護士に対し複数のクレームがあった事例が16%を占めており、弁護士保険制度の信頼を損ねる恐れがあると指摘し、日弁連としては、弁護士紹介体制をバックアップする組織の立ち上げを弁護士会に促していきたいと述べた。

「弁護士保険の新しい発展のために」と題するパネルディスカッションでは、木村彰宏氏(損害保険ジャパン日本興亜株式会社企画開発部課長)が、弁護士保険は、弁護士による「良質な」法的サービスを得られるようにするための制度であると語り、他のパネリストからも、提供される法的サービスの質の確保の重要性が指摘された。

 

東住吉事件 再審開始決定

10月23日、大阪高裁は、いわゆる東住吉事件について、原審(大阪地裁)の再審開始決定に対する検察官の即時抗告を棄却するとともに、請求人両名の刑の執行を停止する決定をした。

本件は、1995年7月、大阪市東住吉区内の家屋で火災が発生し、同家屋に居住する小学6年生の女児が亡くなった事件であるが、請求人両名は、本件火災は放火ではなく火災事故によるものであるとして事件性を争い、2009年に再審請求を行っていた。また、日弁連も、2012年7月から本件の再審請求を支援してきた。

今回の決定は、車両からのガソリン漏出に関する実例や各種の実験結果、専門家の意見なども踏まえ、車両の給油口から液体ガソリンが漏出し、風呂釜種火からガソリンに引火して火災に発展した可能性を認めた。また、燃焼実験の結果や取調日誌の内容なども踏まえ、自白の信用性に疑問を呈した原審の判断を是認するとともに、自白の採取過程の問題点をも指摘するなど、弁護団の主張をほぼ全面的に認める内容であった。

日弁連は決定当日、会長声明を公表し、今回の決定を評価するとともに、検察官に対し、請求人両名を釈放し、特別抗告を断念するよう求めた。その後、刑の執行停止決定に対する検察官の異議申立てが棄却され、10月26日には請求人両名が20年ぶりに釈放された。また、今回の決定に対する特別抗告はなされず、今後、大阪地裁で再審公判が行われる予定である。

請求人両名の自由と名誉の回復のため、速やかな再審無罪判決がなされるよう引き続き支援をしていく。

(東住吉事件委員会 委員長 上地大三郎)

 

名張毒ぶどう酒事件について
死後再審請求を申し立て

10月4日、名張毒ぶどう酒事件再審請求人の奥西勝氏が死亡し、11月6日、妹の岡美代子氏が死後再審請求を申し立てた。日弁連は同日、引き続き事件を支援していく旨の会長声明を公表した。

 

院内意見交換会
司法修習生への給費の実現と充実した司法修習を
11月17日 衆議院第一議員会館

  • 司法修習生への給費の実現と充実した司法修習に関する院内意見交換会

本年6月30日、政府の法曹養成制度改革推進会議は「司法修習生に対する経済的支援の在り方を検討する」と決定した。
修習生への給費実現へ向けた機運がますます高まりを見せる中、本年度3回目となる院内意見交換会を開催した。

 

「給費の実現に向けて力を合わせていきたい」と語る丸山議員

冒頭、村越会長が、「これまでの活動により、司法修習生に対する給付型の経済的支援の必要性が広く理解されるようになった。いよいよ裁判所法の改正を実現しなければならない」と、給費の実現に向け全力で取り組む決意を表明した。

続いて、丸山和也参議院議員(自民党)が、「充実した社会とは、個人が自由闊達に権利主張できる社会であり、その権利主張を支援する人が職業として成り立つ社会である。その担い手たる修習生には安心して学んでもらう環境が必要となる。給費の実現に向けて力を合わせていきたい」と発言した。

國重徹衆議院議員(公明党)は、「経済的理由によって法曹の道を断念するようなことがあってはならない。司法制度改革の目的は、多様な法曹を集めるためのものであったはず。改革によってそれが阻害されている現状は本末転倒」と指摘した上、修習手当創設への意気込みを語った。

まもなく司法修習を開始する司法試験合格者も登壇し、「自分は母子家庭で育ったが、いま、その母は体を壊して就労不能となっている。貸与制の下では、弁護士になった時点で300万円以上の借金を抱えるが、その中で困っている人、貧しい人のための弁護活動に尽力できるか不安に感じている。市民に質の高い法的サービスを提供するためには修習生への給付が必要不可欠だ」と当事者の切実な声を届けた。

本意見交換会には、国会議員の本人出席24人、代理出席73人を含む346人の出席があり、また、この日までに327人の国会議員から賛同メッセージが寄せられた。国会議員の過半数のメッセージ獲得も目前まで迫っている。

日弁連は、次期国会での給費の実現・修習手当の創設を目指し、今後も注力し続ける。

 

無戸籍ホットライン実施報告

  • 2015年11月11日に「全国一斉無戸籍ホットライン(法務省後援)」を実施します

11月11日、全国の弁護士会において、「全国一斉無戸籍ホットライン」を実施した。

ホットラインは、離婚後300日問題や貧困等を理由として、出生届が出されず、戸籍がないまま暮らしている「無戸籍」の人たちを対象に行われたものである。

実施に当たっては、無戸籍が夫婦間のDVや貧困に起因することが多いことを踏まえ、8月に専門研修を実施し、そのDVDを全国の弁護士会に配付したほか、詳細なマニュアルも作成し、専門性を備えた相談体制の構築を図った。

また、ホットラインに先行して、9月29日に、上川陽子法務大臣(当時)と村越会長との会談が実現した。

その結果、法務省はホットラインを後援し、全国の法務局等にホットラインのチラシを備置することとした。

これら一連の法務省のサポートは、相談件数の増加に寄与したと思われる。

実施当日は、メディアを通じた広報の成果もあり、全国で96件の相談が寄せられた。無戸籍が、特定地域だけではなく、日本全国の問題であること、そこに弁護士の支援が必要なことがあらためて明らかとなった。

今回の実施により、無戸籍問題に対する弁護士会の取り組みが本格的に動き出し、その翌日からは、全国で継続相談の対応も始まっている。

この流れを止めることなく、引き続き日弁連と法務省、各地の弁護士会と法務局が連携し、無戸籍者ゼロを目指していきたい。

(子どもの権利委員会 委員 稲毛正弘)

 

法務省
「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」を設置

9月17日、自民党の政務調査会は、少年法の適用年齢を「満18歳未満に引き下げるのが適当」とし、他方、満18歳以上満20歳未満の年齢層を含む「若年者のうち要保護性が認められる者に対しては保護処分に相当する措置の適用ができるような制度の在り方を検討すべき」等とする「成年年齢に関する提言」を提出した。

これを受け、法務省は、省内に「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」を設置した。

11月2日には、第1回の勉強会が開催され、日弁連および藤本哲也氏(中央大学名誉教授/常磐大学大学院教授)からのヒアリング・意見交換が行われた。

ヒアリング事項は、①少年を含む若年者に対する現行刑事法制(社会内処遇および施設内処遇を含む)の現状と課題、②少年法の適用年齢の引き下げの2点であり、日弁連は、①については会内議論が十分でないことから意見を述べず、②については年齢引き下げに反対する意見を表明した。

藤本氏は、少年法の適用年齢引き下げに賛成した上で、若年者に対する新制度の試案を説明した。

その後、11月27日には、第2回の勉強会が開かれた。今後も、引き続きおおむね3週間に1回程度の割合で開催され、有識者からのヒアリングと意見交換、内部検討が進められる。その議事録は公開され、最終的な取りまとめも公表される予定である。

また、法務省では、11月16日から12月31日まで、少年法の適用年齢の引き下げ等について、意見募集が行われている。

日弁連としては、勉強会の議論状況を踏まえ、少年法の適用年齢引き下げに反対する考え方への理解をさらに広げていく必要がある。併せて、少年法の適用年齢引き下げに反対することを前提として、別途、若年者に対する刑事法制の在り方についても、会内において議論を開始したい。

(事務次長 神田安積)

◇      ◇

 

勉強会での議論状況および資料等ならびに意見募集要領は、法務省ホームページにおいて確認することができる。

 

法制審・刑事法(性犯罪関係)部会
性犯罪の厳罰化に関する議論状況

11月2日、法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の第1回会議が開催された。
部会では、法務省「性犯罪の罰則に関する検討会」が本年8月に公表した取りまとめ報告書を受けて、10月9日に法務大臣から法制審議会 に諮問された、「性犯罪に対処するための刑法の一部改正に関する諮問」についての検討が予定されている。

 

第1回会議では、諮問全体についての概括的な議論および個別の論点のうち、非親告罪化についての議論が行われた。

概括的な議論では、刑事弁護の立場から、えん罪の危険性等についても検討する必要があると指摘されたものの、捜査実務および被害者支援の立場から、現行法では処罰が不十分であるとして、性犯罪に関する規定を時代や実態に則した形で改正する必要があるなど、改正に前向きな意見が多数を占めた。

非親告罪化については、賛成意見が多数を占め、積極的な反対意見は述べられなかった。また、非親告罪化した場合に、被害者の意思に反する起訴が行われるのではないかとの懸念に対しては、運用で適切に対応できるとの意見が複数述べられた。

その後、11月27日に開催された第2回会議において、強姦罪等の構成要件の拡大および法定刑の引上げ等の論点について検討された。引き続き諮問内容に沿って、監護者であることによる影響力を利用したわいせつな行為又は性交等に係る罪の新設等の論点について検討される予定である。

(司法改革調査室嘱託 高橋しず香)

◇      ◇

 

同部会での議論状況および資料等は、法務省ホームページでも確認することができる。

 

シンポジウム
行政不服審査法改正と建築・開発審査会の今後
11月6日 弁護士会館

  • シンポジウム「行政不服審査法改正と建築・開発審査会の今後」

来年4月に施行される改正行政不服審査法において、行政不服申立制度の大幅な見直しが行われる。建築確認や開発許可に関し不服がある場合の手続につき、建築審査会(建築基準法)、開発審査会(都市計画法)による審査請求前置は廃止される。これにより当事者は、審査請求か訴訟提起かの選択が可能となる。この改正による実務への影響を明らかにするため、シンポジウムを開催した。

 

公害対策・環境保全委員会の日置雅晴委員(第二東京)は、建築審査会と開発審査会、それぞれの運用状況を報告した。建築審査会には、全国で毎年100件程度の審査請求が提起され、そのうちの1割程度が認容されている。他方、開発審査会は審査件数自体が少なく、例えば、東京でも認容裁決は過去40年余りの累計数が数件に止まっている。

また、訴訟と審査請求とを比較すると、執行停止が認められにくい点は同じだが、審査請求の場合、裁決の効力が直ちに発生することや、原告適格が広く認められる傾向にあることなど、訴訟より優れた点があることを指摘した。

 

訴訟か審査請求か

後半は、稲垣道子氏(都市計画コンサルタント)、北村喜宣教授(上智大学法科大学院)、公害対策・環境保全委員会の飯田昭委員(京都)を迎え、パネルディスカッションを行った。

パネルディスカッションでは、まず、審査請求について、審査会と処分庁の事務局が同一であることにより偏った判断が下される可能性につき、議論された。

これについて、北村教授は「判断の偏りは、審査会の過去の事例調査により検討可能ではないか」、また、稲垣氏からも「審査会の判断が必ずしも行政庁に偏ったものとは思われない。審査請求書の説得力次第ではないか」との意見が示された。

さらに、飯田委員からも「集団訴訟の場合、人数分の印紙貼付が求められることがあり、訴訟利用の障害となる一方、審査請求には費用がかからない」と審査請求の利点が述べられた。

 

講演会
ケント・ウォン氏来日記念講演
アメリカにおける低賃金労働の現状と展望
10月30日 弁護士会館

  • ケント・ウォン氏来日記念講演「アメリカにおける低賃金労働の現状と展望」

今夏、全米第2の都市ロサンゼルスは、最低賃金を2020年までに時給15ドルに引き上げる法案を可決した。
その経緯やアメリカにおける問題の現状を知るため、弁護士、社会活動家、研究者の肩書を持つ、UCLAレイバーセンター(労働研究・労働教育センター)所長のケント・ウォン氏を招き講演会を開催した(講演の概略は以下のとおり)。

 

アメリカの最低賃金は現在、時給7.25ドル、フルタイム労働者の年収は1万5000ドルである。これは貧困賃金ともいえるレベルで、最低賃金で働く労働者に尊厳ある生活は望めない。非正規労働者の増加も日本と同様であり、経済的格差の拡大は著しい。

最も過酷な状況に置かれているのは1100万人に及ぶ移民労働者であり、最低賃金が守られるどころか、賃金の不払いや搾取に苦しんでいる。

こうした背景の中、2006年5月1日に、最低賃金引き上げの議論のきっかけとなるデモが実施された。ロサンゼルス市庁舎の前に、100万人の移民労働者が仕事を休んで賃金引き上げを求めて集まった。この日、ロサンゼルスの経済は停滞し、移民労働者が市の経済に重要な役割を果たしていることが示された。UCLAレイバーセンターをはじめとして、多くの者がデモに参加した。

この後、最低賃金引き上げの議論が始まり、今夏、最低賃金を2020年までに時給15ドルに引き上げる法案が可決された。

アメリカと日本の労働問題には共通点が多い。アメリカにおいても、まだ問題は解決していないが、解決のためには、前述のデモのように、地域市民と労働者が共に活動することが必要である。幅広い市民や労働者を取り込んだ動きこそが、問題解決の要となるだろう。

 

シンポジウム
今あらためて「健康食品」を考える
機能性表示食品制度創設を契機として
10月29日 弁護士会館

  • 今あらためて「健康食品」を考える-機能性表示食品制度創設を契機として-

本年4月、食品表示法第4条第1項に基づく食品表示基準を改定して、機能性表示食品制度(以下、「本制度」)がスタートした。既に市場に出ている機能性表示食品は、確認できているだけでも100を超えている。日弁連は施行直後の5月9日付で、本制度については、届出制を改め、国の監督機能を確保するため登録制への変更等を求める意見書を公表している。このような状況の中、健康食品全体の在り方についてあらためて考えるため、シンポジウムを開催した。

 

冒頭、池上幸江名誉教授(大妻女子大学)が「食品の機能性表示に関する各国の制度について」と題し、諸外国の表示制度を報告した。池上名誉教授は、本制度はアメリカのダイエタリーサプリメント(以下、「DS」)制度を参考にしたものといわれるが、127種のDS製品を調査したところ、必要な表示や、表示を裏付ける証拠をすべて備える製品は皆無であったことを指摘し、DS制度を参考にすることの危険性を訴えた。

後半は、本制度について、特定保健用食品や栄養機能食品といった他の保健機能食品や、いわゆる健康食品に関する制度との比較を踏まえ、パネルディスカッションを行った。

消費者問題対策委員会の石川直基委員(大阪)は、本制度が届出制にとどまっていることについて、国に届出内容の実質的審査義務がない点、事業者に製品の安全性、品質確保、危害情報公表の体制整備義務がない点が問題であると、疑問を呈した。池上名誉教授も、専門家が、実験結果などを踏まえて実質的審査をすることの必要性を、食品の安全の視点から指摘した。

石川委員は、表示規制が広告に及んでいない点について「根拠のあいまいな広告は禁止されるべきではないか」と問題提起し、さらに、健康食品の制度全体についても「制度の違いが一般消費者には分かりにくい。制度趣旨の差を理解してもらうのは難しい」と懸念を示した。

 

シンポジウム
日本で犯罪被害者庁をつくるなら
10月30日 弁護士会館

  • シンポジウム「日本で犯罪被害者庁をつくるなら」

ノルウェー、スウェーデンでは、犯罪被害者に関する問題を専門的に扱う官庁を設置している。
日本における「犯罪被害者庁」の設置については、日弁連内でもまさに議論中で、その方向性について会内合意には至っていない。
このような状況の中、犯罪被害者庁の意義・課題等を検討するため、ノルウェー王国大使館等と共催し、シンポジウムを開催した。

 

ノルウェーにおける犯罪被害者支援について説明するバッケン氏(右)とホルム氏

冒頭、ノルウェー王国大使館参事官のスノーフリッド・B・エムテルード氏から、近年、両国間では相互に、さまざまな分野で視察が行われており、非常に意義深いことであると開会の挨拶がなされた。

 

ノルウェーの犯罪被害者支援

基調講演では、犯罪被害者支援委員会の齋藤実委員(東京/獨協大学特任教授)が、一つの公的機関が責任をもって犯罪被害者支援を行っていることは世界的に珍しいとし、ノルウェーにおける犯罪被害者に対する公的支援の概要を解説した。

続いて、ノルウェー王国暴力犯罪補償庁被害者支援局長であるリータ・へニー・バッケン氏が、同庁は、被害者が補償金の支給を受けるための支援と、被害者が有するさまざまな権利についての情報提供を行っている、と業務内容を説明した。また、同庁広報官のイーヴァル・アンドレ・ホルム氏は、ノルウェーでは犯罪被害者に対して補償金の給付をする一方、回収庁(NCA)が加害者の資産や所得を把握し、求償にも力を入れていると報告した。

 

今後の課題と取り組み

犯罪被害者支援委員会の合間利事務局委員(千葉県)は、犯罪被害者庁を設置するには、被害者支援制度の拡充だけではなく、支援のための財源確保も課題となると指摘した。

また、パネルディスカッションが行われ、鴻巣たか子氏(犯罪被害者団体ネットワーク(ハートバンド)運営委員・交通事故遺族)は、犯罪被害者の支援のため、自治体による犯罪被害者等基本条例の策定が必要と訴え、各地での取り組みについて紹介した。

 

第28回LAWASIA年次大会(シドニー)報告
11月6日~9日 オーストラリア・シドニー

11月6日から9日にかけて、オーストラリアのシドニーでLAWASIA(ローエイシア)の第28回年次大会が開催され、アジア大洋州を中心とする26カ国から約300人の法律家が集って交流を深めた。日本からは総勢30人を超える参加があった。日弁連からは村越会長、齋藤拓生副会長、田邊護前副会長が参加した。

 

レセプションで歓迎スピーチをする村越会長

年次大会に先駆けて開催された理事会では、2017年の年次大会を東京で開催することが正式に決定された。また、第二東京弁護士会および台湾弁護士連合会のローエイシア加盟がいずれも承認された。さらに、「弁護士の秘匿特権に関する決議案」、「安全への脅威に対する立法的対応に関する決議案」が議論されたが、より十分な内容吟味と議論を行うべく、両議案ともに持ち回り決議に付されることとなった。このほか、日弁連選出の代表理事である髙谷知佐子会員(第二東京)が、定員6人の執行委員への当選を果たした。

年次大会では4日間にわたり約30のセッションが設けられ、公益からビジネスまで多様なテーマについて議論が交わされた。

閉会式では、今大会をもって2年間のローエイシア会長任期を満了した鈴木五十三会員(第二東京)の功績を讃える拍手が会場に鳴り響いた。

なお、日弁連は今大会の日程に合わせ、在シドニー日本国総領事館との共催レセプションを開いた。海外の弁護士会会長をはじめ約60人の参加を得て、こちらも盛会だった。

また、ローエイシア年次大会と同時期に2年に1回開催されるアジア太平洋最高裁判所長官会議には、寺田逸郎最高裁長官が出席された。

次回の年次大会は、ローエイシア設立50周年を記念して2016年8月12日から15日にスリランカのコロンボで開催される。次回大会は、2017年東京大会の成功へのステップとしても重要な意義があり、次回大会にも多くの会員が参加することが望まれる。

(国際室嘱託 相馬 卓)

 

JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.106

開発途上国への法整備支援
JICA(独立行政法人国際協力機構)の取り組み

開発途上国(以下、「途上国」)への資金協力や技術協力などに取り組むJICA。日弁連は、国際司法支援についてJICAと協定を結び、長期専門家として派遣する弁護士の推薦、講師派遣、セミナー開催など、さまざまな形で連携・協力をしています。
今回は、JICAの長期専門家として、モンゴルとカンボジアの法整備支援に携わられた磯井美葉会員(第一東京)と、ウズベキスタンとネパールの支援に携わられた社本洋典会員(愛知県)からお話を伺いました。

(広報室嘱託 小口幸人)

 

法整備支援とは

「法律という共通のバックグラウンドを持つ人とコミュニケーションをとり、協力して困難を克服していく作業は、知的好奇心が刺激され、非常に楽しい」と語る磯井会員

(社本)相手国の要望によりますが、法整備支援は、おおむね4つの分野に分かれます。①基本法の起草支援、②裁判所、検察庁、司法省、弁護士会などの法律運用組織の能力強化、③法律を運用する人材の育成、④司法アクセスへの取り組み支援です。
2011年7月から1年間、長期専門家としてウズベキスタンに派遣され、行政手続関連法の円滑な運用のための手引を作成したり、関連規則の制定を支援したりしました。
2013年9月から2年間派遣されたネパールでは、基本法である民法の制定支援と、裁判所の能力強化プロジェクトとして、民事・刑事の事件管理制度や司法調停制度の改善などに取り組みました。

(磯井)私が2006年から2年間モンゴルに派遣されていたころ、同国では、弁護士会の能力強化プロジェクトが進んでおり、その成果として、弁護士会のADRセンターが導入されました。それから数年が経ち、現在では、弁護士会のADRセンターを参考に、裁判所に調停制度を導入するプロジェクトが進んでいます。
カンボジアでは、90年代から継続的に民法と民事訴訟法の起草支援が行われましたが、私はこれに関連し、2013年から1年間、不動産登記関連の省令制定と、これを普及させる活動に取り組みました。

 

法整備支援のやりがいを教えてください

「法曹人生を豊かにするために、JICAの法整備支援に興味を持っていただけたら嬉しい」と会員へのメッセージを語る社本会員

(社本)その国の根本に携わることができるのが大きなやりがいです。例えば、日本ではすでに精緻な民法が制定されているので、仮に民法が改正されたとしても、国民の日常生活に大きな変化は生じないかもしれません。しかし、ネパールのように民法のない国に、新たに民法ができるということは非常に大きな出来事であり、国民生活をドラスティックに変える可能性があります。
私は、修習61期で、日本で実務経験を積むことなくいきなり海外に出た若手の弁護士ですが、日本で受けた法教育の中で自然と培われた法律家としての感覚を頼りに、現地の人とディスカッションしながら活動を進めています。仮に自分では分からないことが出てきても、JICAに設置されているアドバイザリーグループに相談しながら進めることができます。

(磯井)私の場合は、6年半、一般民事の事務所で働いた後、JICAの仕事に就きました。日弁連の国際交流委員会での活動がきっかけでした。
法整備支援の仕事というのは、その国全体にとってどういう制度がよいのか、どう動かしていくのがよいのかを常に考える仕事です。理想を語ることは簡単ですが、現実にはインフラが整っていなかったり、腐敗があったりと、さまざまな困難があります。そのような中で、国を越えて、法律という共通のバックグラウンドを持つ人とコミュニケーションをとり、協力して困難を克服していく作業は、知的好奇心が刺激され、非常に楽しいです。

 

会員へのメッセージをお願いします

(社本)他国の制度に触れることで、日本の制度についても新たな発見があります。ぜひ今後の法曹人生を豊かにするために、JICAの法整備支援に興味を持っていただけたら嬉しいです。

(磯井)言葉のことで敬遠される方もいると思いますが、法整備支援の仕事は本当に面白いです。国際的な司法支援活動については、長期専門家としての派遣以外にも、講師としての派遣、途上国の弁護士の受け入れやセミナー開催など、いろいろな関わり方があります。ご関心のある方は、ぜひ日弁連の会員専用ページに案内がある国際司法支援活動弁護士登録制度に登録してみてください。
最近は、各地の弁護士会にもこの司法支援活動の動きを広げていこうとしていますので、皆様に興味を持っていただけたらと思います。

 

日弁連委員会めぐり81

労働法制委員会

今回の委員会めぐりは、労働法制委員会です。近年大きく変容する労働法制ですが、この間の取り組みや今後の課題などについて林紀子委員長(東京)、和田一郎副委員長(第一東京)、棗一郎事務局長(第二東京)からお話を伺いました。

(広報室嘱託 神田友輔)

 

委員会設置の経緯は

左から和田副委員長、林委員長、棗事務局長

(林)司法制度改革の一環として、労働関係事件に関する新しい紛争解決制度の構築について審議が重ねられる中で、弁護士会としての調査・研究を行っていくため、2002年8月に設置されました。

 

主な活動内容を教えてください

(和田)委員会内に労働審判制度PT、労働者派遣法・労働のありようPTなどのプロジェクトチームを設置し、労働分野に関する各種課題について検討を行ってきました。近年、「ブラックバイト」、「ブラック企業」の存在が問題化していますので、今年6月、労働に関する法教育を検討・実施するワークルールPTを新たに設置しました。また、委員会設置当初から、最高裁行政局と主に労働審判に関し継続的に協議を行い、情報の共有化を図っています。

 

労・使・中立、それぞれの委員がいますね

(林)問題によっては、委員同士で意見が対立し、意見書を作成できないこともあります。しかし、互いの意見を尊重しながら、常に建設的な議論を行っています。

 

今年度末で労働審判制度開始から10年を迎えます

(棗)労働審判制度は、労使双方から評価されていると思います。利用者数も想定よりも高い水準にありますが、ここ数年の申立件数の伸びは鈍化しています。労働審判が、原則、本庁でしか行われていないため、司法アクセスの問題が背景にあると思います。支部での実施拡充が必要です。また、パワハラやセクハラなど、近時増えている事件に労働審判制度が対応できているのかという問題もあります。

(和田)使用者側からも、最長おおむね70日で終わることや、金銭解決が解雇事件の有力な解決手段となっていることなどが評価されています。

 

会員へのメッセージをお願いします

(林)労働審判制度においては、裁判所も当事者に弁護士の代理人の選任をお願いしています。しかし、残念なことに、事案を正確に把握せずに労働審判に臨む弁護士がいたり、雑な申立書が増えていたりという問題が発生しています。労働審判制度をより良い制度にするためには、弁護士自身もスキルアップする必要があります。今後も当委員会では研修会やシンポジウムなどを開催していきたいと思います。ぜひご参加ください。

 

ブックセンターベストセラー
(2015年9月・六法、手帳は除く)協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名
1 新版 注釈民法(9)物権(4)抵当権・仮登記担保・譲渡担保・他 §§369~398の22[改訂版] 柚木 馨・高木多喜男 編 有斐閣
2 弁護士の周辺学 実務のための税務・会計・登記・戸籍の基礎知識 髙中正彦・市川 充・堀川裕美・西田弥代・関 理秀 編著 ぎょうせい
3 簡易算定表だけでは解決できない養育費・婚姻費用算定事例集 森公任・森元みのり 編著 新日本法規出版
4 平成26年改正 知的財産権法文集 平成27年6月1日施行版 発明推進協会 編 発明推進協会
5 判例による 不貞慰謝料請求の実務 中里和伸 著 LABO
6 民法(債権関係)改正法案の概要 潮見佳男 著 きんざい
7 交通事故物的損害の認定の実際 ―理論と裁判例― 園部 厚 著 青林書院
量刑調査報告集Ⅳ 第一東京弁護士会刑事弁護委員会 編 第一東京弁護士会
9 サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル 清水陽平 著 弘文堂
10 民事訴訟マニュアル[上][第2版]―書式のポイントと実務― 岡口基一 著 ぎょうせい

編集後記

小学生の子どもに付き添って、仕事体験テーマパークを初めて訪問した。ここでは、子どもたちが約70種類の仕事を体験できる。仕事をすると、専用通貨で給料がもらえ、そのお金を貯めて物を買ったり、各種サービスを利用したり、銀行で入出金をしたり、という体験もできる。ちなみに、裁判官・検察官・弁護士などになって刑事裁判を体験できるパビリオンも設置されているが、残念ながら訪問した時間帯は催行人数不足であった。
帰宅後、我が子は、達成感に満ちあふれた顔で、日記帳に「おしごとは、たのしいけれどむずかしかったです」と書き付けていた。我々弁護士の仕事のやりがいというと、やはり、依頼者に感謝していただけることが真っ先に思い浮かぶが、「難しいことに取り組むこと」、それ自体も大切なやりがいであると、子どもを通して再発見させられた1日であった。

(T・O)