日弁連新聞 第476号

法曹養成制度に関する今後の検討体制

本年7月16日、関係閣僚で構成される政府の法曹養成制度関係閣僚会議が、「法曹養成制度検討会議取りまとめ」(本年6月26日)を受けて、政府として講ずべき措置の内容および時期、今後の検討体制について閣僚会議決定を行った。

 

今後の検討体制

今後の検討体制については次のとおりとされた。

1 内閣に関係閣僚で構成される会議体(閣僚会議)を設置し、その下に事務局を置き、施策の実施をフォローアップするとともに2年以内に課題の検討を行う。

2 法曹有資格者の活動領域については、さらなる拡大を図るため、閣僚会議の下に有識者等で構成される有識者会議を設置する。

新体制の発足に向けて現在準備が進められており、本年9月に発足する予定である。

 

新体制による施策の実施と検討課題

短答式試験の科目削減、受験回数制限の緩和など、検討会議取りまとめで結論が出された事項については、速やかに法改正等の必要な措置を講ずるべく、来年の通常国会を見据えて検討が行われる見通しである。また、論文式試験の選択科目の廃止や、司法修習の改革、法科大学院の法的措置など、引き続きの検討課題とされた事項についても、自民党司法制度調査会の中間提言が半年以内の検討結果の報告を関係機関に要求していることから、早急に結論を得るべく検討が進められるものと予想される。

 

司法修習制度の抜本的改革も検討

司法修習の改革およびそれに関連する修習生の経済的支援の問題については、上述の自民党の中間提言や公明党の提言が、導入型集合修習の実施、修習期間の延長も含む修習内容の充実や修習生の経済的負担の軽減を求めており、現行の枠組みにとらわれない抜本的改革に向けた検討が必要である。

新体制の発足に先駆けて、最高裁の司法修習委員会も検討を開始しており、現在、法曹三者それぞれが、弁護、検察、裁判の実務修習の実態を把握するため、アンケート調査を実施している。

新検討体制の事務局には日弁連からも弁護士を数人派遣する予定であり、日弁連としても、時機に乗り遅れることがないよう会内の意見を集約しながら機動的に対応していく必要がある。

(事務次長 鈴木啓文)

 

連続市民集会
取調べがアブナイ!~可視化して 防げ 罪なき人の 罪~
7月31日 弁護士会館

  • 取調べの可視化(取調べ全過程の録画)を求める連続市民集会 取調べがアブナイ! Part 1 可視化して 防げ 罪なき人の 罪

虚偽自白から生じる冤罪被害を防ぐため、日弁連は取調べの全過程の録画による可視化の実現に向けてさまざまな取組を続けている。その一環として、過去の冤罪事件を振り返り、可視化の義務付けの必要性を再確認するため、市民集会を開催した。

 

踏み字の再現場面。取調官役の川畑氏(左)と、川畑氏役の野平康博弁護士

北九州の病院に勤務していた看護師が認知症高齢者の患者の爪を剥がしたと誤認され傷害罪で起訴された北九州爪ケア事件。同事件の冤罪被害者である上田里美氏は、「起訴された頃には、『いくらでもサインするから刑事さんが好きなように(調書を)書けばいい』と自暴自棄になっていた。しかし、自分でしゃべるようにと言うので、面接試験に答えるような感じで、刑事さんの求める答えを考えながら取調べを受けていた」と、虚偽の自白調書が作成された経過を報告した。また、強姦・強姦未遂罪に問われた氷見事件の冤罪被害者である柳原浩氏は、警察官から見たこともない被害者宅への道案内をさせられた際、「どこまで真っすぐ行けばよいのか」などと暗に曲がることを示唆されながら連れて行かれた上、現場を見せられた直後に現場見取図を作成するよう指示を受けるなど、強い誘導が行われた実態を明らかにした。

志布志事件冤罪被害者の川畑幸夫氏は、家族からのメッセージに見立てた紙を踏みつける「踏み字」を強要された体験を語り、「取調べは人間としての尊厳を蔑ろにする。可視化がこのようなやり方を防ぐ有用な手立てになるはず」と任意取調べの段階から全過程の録画が必要と訴えた。また、足利事件の冤罪被害者、菅家利和さんは取調べの際、机の下で足を蹴られた経験から、全身を録画してほしいと訴えた。これらの報告を受け、法制審議会特別部会の幹事を務める小坂井久会員(大阪)は、「皆様のすさまじい話で密室取調べの構造的問題が出た。法制審の議論は予断を許さないが、全過程録音・録画に向け、じりじりと進んでいる」と報告し、引き続き全過程録画義務付けの制度化を目指して努力すると述べた。


第7回
高校生模擬裁判選手権
8月3日 東京・大阪・福井・高知

  • 第7回「高校生模擬裁判選手権」

今年から、新たに中部・北陸大会が加わり、全国四都市(参加校合計二四校)で開催した。抽選による対戦校の発表のあと、選手宣誓を皮切りに、課題事案をめぐって、午前・午後にわたり検察側・弁護側と立場を変え、一校が二試合ずつ行った。熱戦の末、関東大会(東京)では湘南白百合学園高校が、関西大会(大阪)では京都教育大学附属高校が、中部・北陸大会(福井)では福井県立金津高校が、四国大会(高知)では徳島文理高校が優勝した。 本稿では、関東大会の模様を紹介する。

 

工夫された主張・立証

各校とも主張・立証にさまざまな工夫を凝らした

今年の課題事案は、被告人と犯人の同一性が争点となるもので、各校がその主張・立証にさまざまな工夫を凝らした。

10分もの冒頭陳述を、手元のメモも見ずに身体を精一杯使って裁判員にアピールする弁護人。模造紙を使って論点を構造的に説明する検察官。多くの学校が、凶器の灰皿の模造品を用意し、被告人質問を展開した。

2時間弱の試合の中で、異議も活発に出た。異議に対して質問を撤回するだけではなく、臨機応変に質問を変える高校生に審査員一同目を見張った。「反対尋問だから誘導尋問も大丈夫」という専門家顔負けの発言もあった。

 

相手の意見を聞き、自分の意見を分かりやすく伝える重要性

関東大会の講評では、樋口雅夫氏(文科省教科調査官)が、「相手の意見をよく聞き、ポイントを絞って自分の意見を分かり易く伝えるという力は、どんな場面でも必要です」と、高校生を激励した。伊木緑氏(朝日新聞社会部記者)は、「異議ありと2人の声が重なったときは、しびれました」と感想を述べた。橋本健判事(東京地裁)からは、「事案を本当によく読み込んでいる」と感嘆の声が上がった。

 

来年も出たい!

模擬裁判を終えた生徒からは、口々に「終わってほっとした。やってよかった」という声が上がり、「相手がどう切り返してくるかを予想するのが面白い」、「来年も出たい。自分の学校から2チーム出したい」という感想もあった。


ひまわり

オスプレイ、普天間、国防軍、従軍慰安婦、集団的自衛権、九六条、ここ数カ月、憲法問題に関わるキーワードがマスコミに取り上げられ、さまざまな形で議論されている▼そもそも憲法が権力を縛る役割を果たしている以上、権力を行使する側との間に緊張関係が生ずることは必然とも言い得る。従って市民が個別の憲法問題を議論しながら憲法が担ってきた役割を理解すること、そして戦争によるおびただしい人々の犠牲の上に現憲法が制定されたことを確認することは極めて重要であると考える▼しかしながら、最近の議論をみると気になる点が出てきている。私の父母の世代は戦争に赴き実際に戦闘を経験したり、捕虜としてシベリアに抑留された人々が周囲に少なからずおり、その体験を聞きながら憲法の問題を考えてきた。しかし、戦争の悲惨さを体験した人が少なくなっていく中で実体験に基づかない議論がなされがちになっている。戦争を映画の中の美化されたイメージでとらえる人々も増えている。まさに、立憲主義が正念場を迎えているとも言い得る▼本年10月4日、広島市において人権擁護大会が開催される。原爆死没者慰霊碑に刻まれたあの言葉―「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」を深く噛み締めたい。(A・T)

 

木内最高裁判事を訪ねて

 

4月25日付けで就任した木内道祥最高裁判事を訪ね、今後の抱負などお話を伺いました。(広報室嘱託 柴田亮子)

 

―就任して3カ月半の現在の状況をお聞かせください

木内最高裁判事

特記的なこととしては、婚外子相続規定をめぐって大法廷での審理に臨んだことでしょうか。

通常は、持ち回り事件を、1日10件以上、処理しています。事件は、持ち回り事件と審議事件に振り分けられ、大半が持ち回り事件として裁判官に回覧され、異論がなければ審議終了(上告棄却・不受理)となります。

審議事件の場合に開かれる審議と裁判官会議がない場合は、執務室で記録を読む毎日です。

 

―裁判官と弁護士で記録の読み方に違いはありますか

基本的には違いはないと思います。

当事者の顔が見えないというのは、上級審から受任した弁護士の場合と同じですし、弁護士が相手方書面の弱いところを探すというならば、原審判決の弱いところを探すというのが最高裁判事の作業だと思います。

弁護士と裁判官の仕事の大きな違いは、判決つまり「決める」か否かです。とはいえ、弁護士業務でも判決を予想しながら和解に臨む等、絶えず「決める」作業はしていると言え、弁護士の業務も裁判官の業務も本質的なところでは変わりはないのではないかと思います。

 

―最高裁判事就任までの道のりは

私は、大阪で弁護士登録し、刑事事件で有名な毛利與一先生の事務所にお世話になりました。残念ながら、毛利先生が手掛けていた事件は既に五年以上やっているという事件が多く、弁護人に加わらせていただく機会はありませんでしたが。弁護士登録をして初めて担当した事件が人身保護事件でした。その年の秋に、事務所の顧問先の会社更生の申立てをしました。どちらも一から勉強の事件でした。

それから、40年。最高裁判事という機会を与えられて、やってみようと思い、飛び込んだということです。

 

―弁護士の時は、どのような事件を中心に活動されていましたか

日弁連、大阪弁護士会では、家事事件や倒産法に関する委員会に所属していました。

家事事件は、弁護士になる前から親しくさせていただいていた先輩弁護士が、長年家裁の裁判官をされていたことから、事件のお手伝いをさせていただくようになり、それ以降、手がけることが多くなりました。振り返って、思い出に残る事件の1つということでも、子どもから不貞の相手方に対する損害賠償請求事件で、最高裁でひっくり返された事件が思い浮かびます。倒産事件は、登録した年の会社更生の申立てが最初ですが、その後の受任も、偶然的なものでした。

特にこれらの分野を目指したわけではありませんが、目の前に登場した事件で勉強させられて、次の事件でまた勉強させられるということの積み重ねの弁護士生活でした。

 

―座右の銘は、「成功体験に縛られてはいけない」

成功体験に縛られるのが普通なのです。ものごとはそれで進んでいくものです。しかし、それだと、人間はつい手抜きをしてしまいます。「ひょっとしたら、うまくいかないかも…」と考えることが必要。弁護士としては、判例がなかったら、果たしてどうかと常に白紙に戻して検討することが重要だと思います。

 

―最高裁判事としての今後の抱負は

最高裁の中の議論を広く分かってもらうことが司法の信頼につながると考えています。

問題は、どうやって裁判所から発信するかですが、これは判決か決定しかない。とすると、個別意見での発信となるわけですが、個別意見を付するに適した事件はなかなかありません。

持ち回り事件が審議事件になることもありますが、そうならなくて持ち回りのままで処理されるときでも、裁判官の間で「結論は動かないが、この点は気になる」というようなメモを付けて回す等で意見を交換しています。単純な上告棄却・不受理という事件でも、いろいろ議論していることは多いのです。

 

―余暇の過ごし方を教えてください

研修所以来の東京での生活です。やっと、生活環境を構築しつつあります。

実は、街中を歩いていても線路が見えて、電車に乗っていても人々の生活が感じられることから、路面電車が好きです。路面電車に乗る、あとで通ったところを地図で確認する、路面電車の1本の線路から2次元的に町が広がっていきます。

学生時代の東京には都内全域に都電が走っていましたが、今は荒川線1つしかなく、残念です。次は路線バスかと考えていますが、ないものねだりとはいえ、線路のないのが難点です。

 

木内道祥最高裁判事プロフィール

  • 1973年 東京大学法学部卒業、同年司法修習生
  • 1975年 弁護士登録(大阪弁護士会)
  • 2007年 大阪弁護士会家事事件審理改善に関する協議会座長
  • 2007年 大阪弁護士会家族法改正問題に関する検討プロジェクトチーム座長
  • 2010年 大阪弁護士会ハーグ条約問題検討プロジェクトチーム座長
  • 2013年 最高裁判所判事

 

ハーグ条約
弁護士紹介の制度固まる
~各弁護士会で名簿作成

7月18日開催の理事会において、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)の実施に伴う弁護士の紹介に関する規則」を制定し、各弁護士会における規則制定の要請を行った。

 

わが国が近く締結するハーグ条約は、子の監護権を侵害する国外への連れ去りについて、まずは子の常居所地国に子を返還させることを主たる目的としている。返還事件の他に面会交流事件もあるが、いずれも外務省が中央当局として一定の援助を行い、家庭裁判所での審理がなされる。返還事件は、東京および大阪の家庭裁判所本庁のみが管轄裁判所となる。

これらの事件では、外国人からの依頼を含め、弁護士の紹介を求められることが予想されるため、日弁連において、全国的な弁護士の紹介の仕組をつくることとし、そのための規則を制定した。

基本は、各弁護士会で、対応する弁護士の名簿を作成し、日弁連がこれを集約する。その後、外務省に弁護士紹介の依頼があったときに、名簿の中から地域、事件の種類などから該当する弁護士3人を日弁連が外務省を通じて紹介するというものである。日弁連は、直接の紹介依頼は受け付けない。

名簿登録要件としては、英語で意思疎通できること、子の監護事件複数の経験、3年を超える弁護士経験、法テラスとの契約、損害賠償責任保険1億円以上への加入、指定の研修の受講などがある。

本年11月20日には、日弁連で、2014年の名簿登録のための指定研修を実施する(後日e-ラーニングでの受講も可能である)。

名簿作成の詳細は、各弁護士会にお問い合わせいただきたい。

(ハーグ条約に関するワーキンググループ委員 池田綾子)

 

全国冤罪事件弁護団連絡協議会
東京電力女性社員殺害事件から何を学ぶか
7月16日 弁護士会館

  • 全国冤罪事件弁護団連絡協議会第21回交流会 東京電力女性社員殺害事件 証拠未開示と逆転有罪

2012年11月にゴビンダ・プラサド・マイナリ氏の無罪が確定した東京電力女性社員殺害事件の審理経過を検証すべく、全国冤罪事件弁護団連絡協議会第21回交流会を開催し、同事件の主任弁護人であった神山啓史会員(第二東京)と、一審無罪判決後、職権拘留しないと判断した元裁判官の木谷明会員(第二東京)が事件を振り返って報告をした。

 

証拠開示の重要性を語る神山会員

一審無罪が一転して有罪

2000年の一審は、残存した陰毛と便器に捨てられたコンドーム内の精液をゴビンダ氏のものと認定しながら、「合理的な疑問を差し挟む余地」があるとして無罪判決。ところが、二審ではゴビンダ氏が犯行可能であるという状況証拠を積み上げて逆転有罪とした。

神山会員は、「被害者と性交したからといって、強盗殺人犯人とはならない。思い込みは怖い」と批判した。

 

証拠開示をめぐる戦い

再審請求後、弁護側のDNA鑑定の請求に応じて、検察はDNA鑑定を行う。ところが、検察の期待に反してゴビンダ氏を犯人とする鑑定結果は出ず、検察は40点を超える鑑定を五月雨式に行った。結果的には、ゴビンダ氏を有罪とする結果は出ず、むしろ被害者の乳房、コートの血痕等の鑑定結果は、第三者の犯行の可能性を示唆し、ゴビンダ氏の無罪判決につながった。

神山会員は、「状況証拠の積み上げによる事実認定の場合、証拠が1つ増えるごとに心証は変化する。証拠開示が判決を左右する」と証拠開示の重要性を指摘した。

 

二審判決の問題点

木谷会員は、「一審と二審は同じ事実を認定しながら、結論に至る過程でその評価が全く違った」と分析する。その上で、「二審判決は、可能性の寄せ集めであり、経験則も論理もなく、裁判官の主観のみで判断している」と厳しく批判した。

 

新事務次長紹介

 

8月31日をもって、二瓶茂事務次長(東京)が退任し、後任には、谷英樹事務次長(大阪)が就任した。

 

谷 英樹(大阪・43期)

谷 英樹氏

 

9月1日付で着任し、日弁連の活動の重要さと事務次長の職責の重さを改めて認識しています。
任務を全うして無事大阪に戻れるよう、職務に精励する所存ですので、どうぞよろしくお願いいたします。

 

シンポジウム
グローバル化する弁護士活動と日本の弁護士
国際法曹団体トップリーダーに聞く
7月29日 弁護士会館

企業の国際取引が活発化するのに伴い、海外に支店・支所を置く法律事務所が増加するなど、国際舞台における日本の弁護士の活躍ぶりはめざましい。若手会員の国際舞台でのさらなる活躍を支援するため、主要な国際法曹団体で会長職等の主導的役割を果たしてきた会員を招き、弁護士が国際法曹団体等でグローバルに活躍することの魅力やメリット等を議論した。

 

IBA会長の経験に基づく知見を語る川村会員

基調講演では、元最高裁判事で環太平洋法曹協会(IPBA)の初代会長を務めた濱田邦夫会員(第二東京)、および国際法曹協会(IBA)の前会長である川村明会員(第二東京)を迎えた。川村会員は、海外の法律事務所の大規模化について、オーストラリアで中小の法律事務所がM&Aを重ねて証券市場に上場した例を挙げ、「大規模化は決して日本の小規模事務所にとっても無縁ではなく、国際動向に注意を払うべき」と語った。IPBAの設立に関わった濱田会員は、設立当初の動機について、「普通の弁護士が気軽に活動できる国際法曹団体を作りたかった」と語り、若手会員に積極的な参加を呼びかけた。

パネルディスカッションでは、アジア太平洋地域における法の支配の確立や法曹間の連携・協力の強化等を目的とするローエイシア(LAWASIA)の元会長である小杉丈夫会員(東京)が、「国際会議への参加は、キャリアアップや弁護士としての信頼性の向上の観点からも非常にメリットが大きい」と述べ、同次期会長の鈴木五十三会員(第二東京)からは、「ビジネスと公益・人権を軸に展開するローエイシアの活動は、日弁連の活動とも親和性が高い」との説明があった。IPBAの元会長である国谷史朗会員(大阪)は、「IPBAは日本国内に事務局が置かれていることもあり、日本の弁護士にとって主体的に関与しやすいのではないか」と述べるとともに、海外の有力弁護士との人脈作りやネットワーク形成のメリットを強調するなど、各パネリストから、国際会議等への積極的な参加を促す発言が相次いだ。


シンポジウム
生活困窮者に対する就労支援を考える
「中間的就労」の課題と可能性
7月22日 弁護士会館

  • シンポジウム「生活困窮者に対する就労支援を考える~韓国実態調査を踏まえて・『中間的就労』の課題と可能性~」

本年5月17日、生活保護法改正案と生活困窮者自立支援法案が国会に提出された(後に廃案)。このうち生活困窮者自立支援法案は、仕事に就けない生活困窮者に最初は比較的簡単な作業を提供し、段階的な就労訓練を経て、本格就労につなげる中間的就労を盛り込んでいる。この中間的就労の課題と可能性について議論するため、本シンポジウムを開催した。

 

韓国での実例に学ぶ

冒頭、貧困問題対策本部委員の堀金博会員(徳島)から、昨年7月に同本部が実施した韓国での実態調査に関する報告がされた。

韓国では、2006年に就労困難者に雇用の場を提供することを目的とした社会的企業育成法が制定され、翌年から施行されている。受け入れ先として認証された既存団体(社会的企業)は、賃金・租税等で公的補助を受けられる。社会的企業での就労者の平均賃金は、一般企業の約半分ほどであるという。

 

中間的就労の光と影

次に、社会福祉法人生活クラブ風の村の平田智子氏から、障がい者・生活困窮者を対象として、居場所や雇用の機会を提供する取組が紹介された。

他方、指宿昭一会員(第二東京)は、企業が研修生として受け入れた外国人を低賃金の労働者として酷使する被害事例を報告し、中間的就労がこのような使われ方をされることへの懸念を示した。

 

貧困ビジネスの温床となる危険性

ジャーナリストでもある竹信三恵子教授(和光大学)は、日本の中間的就労が最低賃金実現に主眼を置いた制度ではないことから、貧困ビジネスの温床となる危険性を指摘し、「中間的就労を目的に沿って運用するためには、セーフティネットの整備等の一般労働市場の改善、就職弱者が最低賃金を確保できる仕事づくりへの支援、労働と福祉の橋渡しが必要」と述べた。


現地調査報告会
チェルノブイリに学べ
8月7日 弁護士会館

  • ウクライナ現地調査報告会~チェルノブイリ原子力発電所事故の被害実態に学ぶ、事故被害対策~

本年10月の人権擁護大会シンポジウム第一分科会「放射能による人権侵害の根絶をめざして」の開催に先立ち、かつて多大な被害をもたらしたチェルノブイリ原子力発電所事故による被害状況等について5月に実施したウクライナ現地調査の報告会を開催した。

 

世代を超えて続く健康被害

前半、ウクライナ調査の概要について報告があった。チェルノブイリ原発の近くに居住していた人を中心に構成されるNGOへの事情聴取を行ったところ、事故が起きて数日は何の情報も与えられず、平常どおりの生活をし、避難の際にも避難期間は数日間と聞いていたそうだ。その後、キエフ市内に居住スペースを割り当てられることとなった。

事故により被ばくした子どもは免疫力が低いといわれ、さらにその子どもたちも免疫力が低いといわれている。事故後の二七年間で、原発事故に関連する身体障がい者認定を受けた子どもは124人、原発事故に関連する病気を抱えるとされている子どもは約200人に上る。大人では、2500人が原発事故に関連する身体障がい者認定を受けている。

また、27年経った今でも、地元農家が市場で食品を販売する前には検査を受ける必要があり、放射線量を証明書類に記載するという態勢が続けられている。

 

報告を行う湯坐会員

福島に教訓を活かせ

後半は、ウクライナ調査の結果を踏まえ、4月に行った福島現地調査の結果を中心に、福島の現状報告がなされた。チェルノブイリでは、免疫疾患の発見のため血液検査が行われているのに対し、福島県民の健康調査では採血は全く行われていない。

人権擁護大会シンポジウム第一分科会実行委員会事務局次長の湯坐聖史会員(福島県)は、「福島の学校ではマスクをさせずに野外で運動会を行っている」と子どもの内部被ばくへの配慮がおざなりにされている現状を語った。その上で、「チェルノブイリに学び、子どもたちへの血液検査等、長期にわたって十分な検査を行ってほしい」と訴えかけた。


研修会
法律相談は「聴く」と「訊く」
弁護士のための面接技術
7月24日 弁護士会館

弁護士業務につきものの法律相談。いつの間にか、一人よがりに終わっていないだろうか。民事訴訟法、法と心理学を専門とする菅原郁夫教授(早稲田大学大学院法務研究科)を講師に招いて開催した研修会では、若手のみならず、ベテランもハッとするたくさんの気づきを得ることができた。

 

若手ほど高い顧客満足度

愛知県弁護士会が行った法律相談センターでの法律相談の満足度アンケートの結果によれば、満足度が一番高いのは60期代、次点が50期代と期が上になるにつれて満足度が下がっていったという。菅原教授によれば、アメリカの研究では、専門知識は高いがコミュニケーション能力に問題がある弁護士は、専門知識に問題があるがコミュニケーション能力は高い弁護士よりも顧客満足度が低かったとのことである。

これらのデータについて、菅原教授は、「専門知識を軽視するものではないが、コミュニケーション能力が法律相談において重要な役割を持つことを意識すべき」と分析した。

 

相談の最初と最後は「聴く」

弁護士は要件事実を中心に話を絞ろうとしてしまいがちだ。しかし、相談の最初は信頼関係の構築が第一であり、話を聴いている姿を見てもらうこと、受容する態度が重要という。また、最後の合意形成においても認識が同一かを確認するために「聴く」必要がある。一方、相談の中盤では「訊く」、つまり法的助言を回答するにあたって必要な事実を聴取することも重要だ。

話が長い人への対応について、菅原教授は、「相手の緊張をほぐすこと、ある程度聞いたところで確認をして、理解の範囲を示しつつ、整理して絞りをかけることが有用」と説明した。


CCBE/ACLAとの三極会議
7月12日-13日 アテネ

日弁連、欧州弁護士会評議会(CCBE)および中華全国律師協会(ACLA)による経験交流の場として2005年から毎年行われている三極会議がギリシャのアテネで開催され、「弁護士の独立」、「国際法律業務の問題点」および「非弁護士による事務所所有(ABS)」という3つのテーマにつき意見交換を行った。

 

三極会議の様子

弁護士の独立については、日弁連から、国家権力の監督下にあった時代を経て徹底した弁護士自治を獲得するに至った経緯を紹介し、ACLAからは、規則制定や懲戒システム構築等、中国の最近の取組が報告された。また、CCBEから、国家権力からの独立や守秘義務との抵触が問題となる依頼者密告制度(マネーロンダリング規制等を目的として、「疑わしい取引」につき政府当局への通報義務を課す制度)について、日本とは異なり欧州では弁護士にも適用されてきたが、2012年の欧州人権裁判所判決を契機に、当局への通報を弁護士会の判断によって行う仕組みの導入が検討されていることが報告された。

次に、国際法律業務の問題点について、ACLAから、中国国内では現在263の外国事務所が駐在オフィスを開設しているが、政府は開設手続迅速化とともに規制強化を予定していること、中国事務所による海外進出については、30の事務所が計54カ所の海外オフィスを開設したことが報告された。

ABSについては、EUでは投資型ABS・業務参加型ABSのいずれについても導入の可否を加盟国が決定できること、ABSを認めない加盟国においてABS所属弁護士が支店設置を求めた場合には、EU拠点設置指令に基づきこれを拒絶できること等が報告された。

いずれのテーマも、各国・地域の対応が相互に影響する重要課題であり、継続的な情報収集や意見交換の重要性を再認識した。

(国際室嘱託 山神麻子)

 

JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.81

高齢者・障がい者等自立支援事業
NPO法人おかやま入居支援センター

高齢者・障がい者等にとって、安定的な住まいを確保することが自立した生活を送る上で不可欠です。しかし、現実には、これらの方々が住まいを借りることは決して容易ではありません。NPO法人おかやま入居支援センターでは、そのような現状を受け、高齢者・障がい者を始め、虐待等が原因で家に戻れない方や元受刑者など、住居確保に困難を抱える方々に対して入居支援を行っています。支援の内容や現在抱える問題点などについて、同センター理事長の井上雅雄会員(岡山)および同理事の竹内俊一会員(岡山)にお話を伺いました。
(広報室嘱託 大達一賢)

 

―設立の経緯を教えてください

井上会員

(井上)精神保健福祉センターの所長さんと話をしていた時に、精神障がい者の方々が地域で生活をする際、賃貸住宅への入居時の保証人が見つからなくて困っているという相談を受けました。調べてみたところ、保証人が見つからないという以外に、差別や偏見等が原因で、そもそも貸してくれる物件自体が少ないということがわかりました。そのような話を岡山高齢者・障がい者権利擁護ネットワーク懇談会(弁護士、社会福祉士等の多職種によるネットワーク)でしたところ、精神障がい者の方々の住居確保サポートをしていた不動産屋さんを紹介していただいたことも契機となり、貸す方も借りる方も安心できる支援枠組みを作ろうという話になりました。弁護士・司法書士・医師・精神保健福祉士・社会福祉士・不動産仲介業者などが集まって2009年3月に設立に至りました。

 

―入居支援とは具体的にどのようなことを行うのですか

(井上)入居にあたって保証人を用意できない方がほとんどなので、保証会社を利用しますが、保証会社によっては精神障がいがあるという理由だけで審査を拒否するところもあります。保証会社の審査が通らなかった時、一定の条件の下に当NPOが保証する場合もあります。その場合、第三者による財産管理をお願いしたり、1月分の敷金の増額をお願いしたり、個別の事案に応じて柔軟に対応するよう心がけています。

なお、支援先において、入居後に家賃の滞納で揉めるといったケースはほとんどなく、滞納が生じる前の段階で迅速に対応するようにしています。また、入居した後もいつでも相談できるよう、NPO事務局に「生活支援サロン」を設けており、ときにはお好み焼きパーティーを開いたりするなど、入居者間のコミュニケーションの場も提供しています。

 

―入居支援と弁護士業務との関わりとは

竹内会員

(竹内)入居支援とはいっても、実際には生活サポートという側面もあります。具体的には、大家さんへの家賃や生活費の支払い等を円滑に行うために、金銭管理が必要と思われるケースも少なくなく、その場合には成年後見制度の利用を勧めるなどして対応しています。また、入居する前提として、生活保護申請が必要となる場合もありますし、刑事事件において、定まった住居を確保し得ることによって執行猶予を得られる見込みが立つ場合もあることから、入居支援は多様な場面で弁護士業務と関わりを持っているといえます。

 

―現状の問題点と今後の方針を教えてください

(井上)現在の事務局は、岡山県の緊急雇用対策の助成金を受けることで費用をまかなっていますが、それも今年いっぱいで打ち切られるため、事務局体制のあり方を再検討する必要があります。また、人員が不足している反面、案件数は増加傾向にあるため、社会的なニーズに応じられる体制を整備することが喫緊の課題です。運営経費確保のために福祉事業を行うことも検討していますが、具体的な見通しが立っているわけではなく、運営継続のためにしっかりした分析を行わなければならないと考えています。

(竹内)ただし、長期入院の精神障がい者の方の退院促進などに、入居支援策が非常に有効な手段であることは認知されていますし、入居支援先の町内会とも良好な関係を築けていることから、何とか安定的に継続できる方策を検討していきたいと思っています。

 

―弁護士、弁護士会に期待することは

(井上)私たちは入居支援を主事業としていますが、実際の活動内容は、社会福祉援助も含めたケースワークに及びます。ケースワークを駆使している現場に入り込んで意見の言える弁護士は貴重な存在になり得るため、ケースワークは弁護士の仕事ではないと決めつけず、研鑽の機会を設けるようにぜひ取り組んでいただきたいです。

支援により入居できた方が、順調に生活を送っており、幸せそうな表情で生活できていることは何よりも嬉しいことです。入居者の中には、住環境が変わることで、身なりや行動にも気を使うようになる方もおり、その方自身にも大きな変化が現れることもあるほどです。

会員のみなさんにも関心を持っていただきたいと思っています。


日弁連委員会めぐり 57

行政訴訟センター

2005年に改正行政事件訴訟法が施行され、本年6月には、総務省が、行政不服審査制度につき見直し方針を取りまとめるなど、今、行政事件関連法は、国民の権利救済を目指し、大きく動いています。そこで、行政訴訟センターの活動等について、松倉佳紀委員長(仙台)と斎藤浩事務局長(大阪)にお話を伺いました。

(広報室嘱託 柴田亮子)

自ら法案の提案作成も
松倉委員長(左)と斎藤事務局長

行政訴訟センターの業務は、行政訴訟制度改革のための行政関係法令等の調査研究および政府関係諸機関に対し、日弁連の意見を反映させるための活動が大きな部分を占める。

意見書の作成・執行のみならず、法案を自ら作成し、提案する点に特徴があり、2003年には具体案として行政訴訟法(案)を公表したという実績を有する。法律の立案の専門家である衆参議院法制局出身の委員も所属しているという。

斎藤事務局長は、「日弁連が提案する法案は、国会や学会で参照されるなどその影響力は大きい」と語る。

現在は、およそ60人の委員が、住民訴訟部会と行政不服審査法改正部会に分かれて活動している。

 

政党への働きかけ

法案を作成するにとどまらず、実現に向けた政党への働きかけも行っている。

具体的には、以前の自公政権の際は、「若手の会」という有力議員と研究会を開催し、民主党政権の際は、弁護士出身の大臣と直接折衝した。 松倉委員長は、「政治家の懐に入ることが肝要」と語る。

その他、会内的活動としては、行訴法改正の際にキャラバンを行い、各弁連や弁護士会に前掲の法案の説明を行い、賛同を呼びかけた活動等が挙げられた。

 

行政不服審査法改正への動き

本年6月に総務省が「行政不服審査制度の見直し方針」を取りまとめた。ここには、不服申立期間の60日から3カ月への延長、不服申立手続の審査請求への一元化、不服申立前置主義の見直し等が盛り込まれている。

松倉委員長は、「行政を統制するツールを国民にとって使いやすいものにするのが行政訴訟センターの使命」と抱負を語った。

 

行政訴訟を敬遠しないで

行政訴訟センターでは、会員であれば誰でも参加できるメーリングリストを運営している。このメーリングリストに参加すると、気軽に行政事件について相談することができる。「行政事件を敬遠しないでほしい」と斎藤事務局長。参加を希望する会員は、日弁連法制第一課(電話03-3580-9841)までお問い合わせいただきたい。



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(2013年5月・六法、手帳は除く)協力:弁護士会館ブックセンター

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編集後記

本後記を書いている今は、暦は既に残暑でも、季節はまだまだ夏の真っ盛り。連日猛暑関連のニュースが伝えられ、「灼熱」という文字がそこかしこに踊っている。

「灼」とは、「あらた」と読み、霊験などが著しい、鮮やかな様を意味する。なるほどこの暑さは人智を超越するほどだから、灼熱と呼ぶのかと感心した。ならば記事原稿の執筆も灼に書けぬものか、そんな願いを込めて、灼熱という言葉を題材にしてはみたものの、現実は取材意欲の熱だけが灼になるばかりで、締切りの迫る原稿執筆には、霊験はどうも見込めそうもない。

9月号が届けられる頃、気候は灼熱という言葉から解放されているだろうか。本格的に訪れる秋に向かい、空は高く、突き抜ける青から夕焼けの赤へと美しく回るのに、取材意欲の灼熱化のみが先行するその様は、空回りだよと呼ばれぬよう注意したい。(K・O)