日弁連新聞 第474号

第64回定期総会 5月31日東京都港区
「預り金等の取扱いに関する規程制定の件」など7議案を可決

預り金の横領など弁護士による不祥事の再発防止策を強化するため、「預り金等の取扱いに関する規程」を制定した。また、これまで憲法上許容されないと解されてきた集団的自衛権行使を容認しようとする昨今の政府の動きを受け、これに反対する決議を採択した。なお、来年の第65回定期総会は宮城県で開催される。

 

決算報告承認・予算議決
いずれの議案も賛成多数で可決された

2012年度の一般会計決算は、収入53億1052万円および前年度からの繰越金14億2792万円に対し、46億8456万円を支出し、次年度への繰越金は20億5387万円となった。

2013年度の一般会計予算は、事業活動収入55億0170万円に対し、事業活動支出53億8770万円、予備費1億円等を予定し、単年度では収支差額0円の予算となっている。いずれも、賛成多数で承認・議決された。

 

「預り金等の取扱いに関する規程」を制定

本規程は、預り金等を適正に管理するため、自己の金員と区別して保管し、出入金を記録すること等を会員に義務づけている。そして、特定の会員に対する弁護士会への苦情申出が重なるなど「相当の理由」がある場合には、弁護士会に、預り金等の保管状況全般について規程に列挙する事項の調査権限を付与する一方、対象会員に回答義務を課し、調査の結果相当と認めるときは、当該会員に対する助言、懲戒手続に付すことのいずれか、または双方の措置を講じること等を定めている。

討論では、「規程の制定だけでは実効性ある不祥事防止策として不十分ではないか」などの意見も出されたが、本規程を早急に制定し、全弁護士会をあげて、弁護士および弁護士会に対する信頼回復を図る必要がある等の理由から議案に賛成する立場が大勢を占め、賛成多数で可決された。

 

「集団的自衛権の行使容認に反対する決議」を採択

憲法九条の下において許容されている自衛権の行使は、わが国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであり、集団的自衛権を行使することはその範囲を超えるもので憲法上許されないというのがこれまでの政府見解であったが、昨今、政府はこの見解を変更する方針を打ち出している。議員立法により国家安全保障基本法を制定しようとする動きもあるが、本決議は集団的自衛権の行使に関する確立した解釈の変更あるいは国家安全保障基本法案の立法に強く反対するものである。

討論においても、本決議の結論に賛成する意見が相次ぎ、採決の結果、賛成多数で可決された。


法曹養成制度検討会議
「取りまとめ」を公表

政府の法曹養成制度検討会議は、去る6月26日に開催された第16回会議で「取りまとめ」を最終確定し、審議を終了した。

 

「中間的取りまとめ」以後の議論を反映

検討会議は4月9日に「中間的取りまとめ」を公表後、約1カ月間のパブリックコメントを行い、さらに自民党司法制度調査会の中間提言および公明党法曹養成PTの提言を受けて審議をした結果、「取りまとめ」では主に次の点を追加または変更した。

1 法曹有資格者の活動領域拡大のために、新たな検討体制の下で各分野の有識者会議を設置する。
2 今後の法曹人口の在り方に関し必要な調査を行い、2年以内に結果を公表する。
3 司法修習生への経済的支援の具体策として、本年度から移転料支給等の措置を実施する。
4 法科大学院の自主的な組織見直しに加え、必要な法的措置を設ける。他方、法科大学院の浮揚に向けた総合的方策を展開する。
5 司法試験の受験回数制限を5年以内5回に緩和。また、短答式試験科目を憲法、民法、刑法に限定する。
6 司法修習生への導入的教育や選択型実務修習の在り方を含め、修習内容の充実に向けた検討を行う。
7 新たに章として「第4 今後の法曹養成制度についての検討体制の在り方」が追加された(後述)。

 

積み残された重要課題

しかし、今後の検討に残された課題は、法曹有資格者の活動領域拡大の施策の具体化や課題のある法科大学院に対する法的措置の内容、司法修習の在り方など、少なくない。

特に、今後の法曹人口の在り方については、3000人の数値目標は撤廃したものの、当面の司法試験合格者数については明確な言及が避けられた。

また、司法修習生への経済的支援については、パブコメの多数が給費制復活を求めていたことや上記の自民党・公明党の各提言がより積極的な経済的支援を求めていることに照らしても極めて不十分であり、さらなる支援策が今後の検討課題となっている。

 

今後の検討体制

「取りまとめ」は、提言された施策の実施と残された課題の検討のため、「省庁横断的にフォローアップしつつ、検討課題について速やかに結論を得ることのできる新たな検討体制」を整備し、学識経験者や法曹三者等の意見を必要に応じ求める体制を設けるべきであるとしている。

執行部としては、この夏以降に設置されると見られるこの新たな検討体制の下で、諸課題のさらなる改善が図られるよう取組を強化する方針である。

(法曹養成制度改革実現本部委員 中西一裕)


 

アジア弁護士会会長会議
POLA
The Conference of the Presidents of Law Associations in Asia
わが地域における弁護士のより力強い連携のために
6月10日~12日 東京都港区

日弁連の主催による第24回アジア弁護士会会長会議(POLA)が開催された。本年は、海外からは、アジア・太平洋地域の弁護士会と国際法曹団体合わせて19団体60人が参加した。

 

開会式でウェルカムスピーチをする山岸会長

本会議は、日弁連と大韓辯護士協會の提唱により1990年に発足し、毎年1回各弁護士会が持ち回りで主催しているもの。日弁連の主催は、1990年、99年に続き3回目となる。

開会式では、山岸憲司会長の挨拶とともに、大橋正春最高裁判所判事からの来賓挨拶、アジア開発銀行の中尾武彦総裁による基調講演があり、続くレセプションでは、谷垣禎一法務大臣からご挨拶をいただいた。いずれも、それぞれの視点から、アジア・太平洋地域での法の支配確立の重要性を強調するものであった。

2日目は、「弁護士・弁護士会の公益活動」、「公害・環境への取組」の2つのテーマについてパネルディスカッションを行い、昼食時には、「大規模災害と弁護士会」と題して東日本大震災からの復興に向けた日弁連の取組が紹介された。午後は最高裁判所を訪問し、長官との面会と大法廷の見学を行った。

3日目は、「アジア地域内での中小企業における域外活動の促進」をテーマに、公開セッションを開催した。閉会式後は、東京入国管理局の見学を経てスカイツリー観光でのお開きとなった。また、2日目と3日目には会長のみを出席者とする会長会議をもち、参加団体相互の情報提供とアクセスへの協力などを再確認した「東京宣言」を日弁連のイニシアティブにより採択した。

各セッションは、パネリストとして各会の会長自身が発言するというスタイルを取り、山岸会長は、「公害・環境への取組」でパネリストを務め、四大公害訴訟を中心とした弁護士の活動を紹介しつつ、環境保護に向けてのアジア弁護士の連携を訴えた。これは、参加弁護士会会長に感銘をもって受けとめられた。弁護士の公益心が国境を問わず共有されていることを確認できる場面であった。また、スピーチは英語によるものだったが、英語を第二公用語とする多くの会長達からその準備に対する敬意も表明された。言語の壁も、アジア地域の弁護士にとって、共通の課題であることを再確認する思いだった。

(アジア弁護士会会長会議運営委員会委員長 鈴木五十三)


 

ひまわり

 

夏が来れば思い出す、のははるかな尾瀬、遠い空というのが定番であるが、法曹関係者の中には論文試験を思い出す者も少なくないのではないか。夏の陽射しが照りつける中、試験室で設問と格闘し、冷や汗を流したのが昨日のように思い出される▼そんな夏を代表する花といえば、記章のモチーフでもある向日葵である。夏の陽射しに堂々と対峙し、大輪の花を咲かせる様は、とても力強い。しかし、そんな向日葵は、実は小さな花の集合体でもある。1つ1つの花が結集し、大輪を形成している▼政府の法曹養成制度検討会議が「取りまとめ」を公表した。しかしその内容は、貸与制が前提とされていたり、司法試験合格者数の数値目標がなかったりと不十分な内容にとどまり、法曹志願者の減少に歯止めがかからないことが懸念される。そんな時代だからこそ、我々は各人の草の根活動により、社会に有用な法曹の養成には何が必要なのか、社会の理解を得ることが求められる▼受験生だった頃、皆それぞれ思いをもって法曹を志願していた。その思いは、今の法曹志願者と変わりはない。彼らの熱意が経済的困難を理由に絶たれることのないよう、今こそ小さな活動を結集させ、いつか向日葵の大輪を形成するように、真に有用な法曹養成を実現したい。(K・O)

 

法制審刑事特別部会第20回会議
取調べの録音・録画制度等について議論

6月14日、法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会(特別部会)第20回会議が開催され、1月に取りまとめた「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」を受け、2つの作業分科会で検討されてきた現時点での具体的制度案が報告・議論された。

 

会議では、捜査機関の意向を色濃く反映した制度案に対し、有識者委員を中心に、この特別部会がなぜ設置されたのかという原点に立ち返るべきであるとの強い批判がなされた。

特に、取調べの録音・録画制度については、村木厚子委員(厚生労働省社会・援護局長[当時])が、「もともと取調べでいろいろな問題があって録音・録画制度を取り入れようというときに、対象範囲を取調べ側で選ぶという案は採り得ない」と述べるなど、有識者委員から批判的な意見が相次いだ。

また、通信傍受の拡大については、その対象犯罪を、①窃盗、強盗、詐欺、恐喝、②殺人、③逮捕・監禁、略取・誘拐、④その他重大な犯罪であって、通信傍受が捜査手法として必要かつ有用であると認められるもの、とする案が示されたのに対し、弁護士委員および幹事が、「対象拡大について国民的合意が成立するには捜査機関への極めて高度な信頼が前提で、よほどの強い必要性がなければ認められない」などと批判した。

その他、刑の減免制度、協議・合意制度、刑事免責制度、被疑者・被告人の身柄拘束の在り方、被疑者国選弁護制度の拡充、証拠開示制度、犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充、公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策、自白事件を簡易迅速に処理するための手続の在り方についても議論が行われた。

今後は、再び作業分科会において具体的制度案が検討された上、再度特別部会での議論に付されることとなる。

(事務次長 二瓶 茂)

 

●債権法改正●
法制審中間試案パブコメに対する日弁連意見書を提出

日弁連は、6月20日の理事会において「民法(債権関係)の改正に関する中間試案」に係るパブリックコメントに対応する意見書を取りまとめ、6月24日に法務省に提出した。

 

意見書を取りまとめるにあたって、昨年11月頃から中間試案のたたき台に基づき、各弁護士会に対して意見照会を実施し、理事会では十分な検討時間を確保するために4月から6月までの3回にわたって審議した。理事会では、「相殺の禁止」や「時効期間の更新事由」、「無効な法律行為の効果」等の個別論点に関する意見から改正の意義に関するものまで幅広く意見が出され、活発に審議が行われた。取りまとめられた意見書は、意見照会の結果やこれまで公表した意見書等の内容、今般の理事会における審議を踏まえたものとなっている。

今後、法制審民法(債権関係)部会では第三巡の議論が行われる。中間試案は、2011年の中間論点整理で63あった項目が46と一定程度絞り込まれたものとなり、意見を集約する段階への移行を印象付ける内容となっている。日弁連は、2010年6月理事会で「民法(債権法)改正問題に取り組む基本姿勢」を採択し、その方針に則って大局の対応をしつつ、個別項目については、随時意見書を発表してきた。日弁連としては、取りまとめに向けた議論が予想される第三巡の議論を重大局面と位置付け、随時意見を述べていく所存である。 なお、会員専用ホームページには特設コーナーを設置している。これまでに発表した意見書、各種参考資料、法制審の審議資料が掲載されている法務省のウェブサイトのリンクを掲載しているので、ぜひ参考にしていただきたい。

https://w3.nichibenren.or.jp/member/index.cgi?loginscr.a=contents:3332246

(事務次長 鈴木啓文)

 

全国憲法委員会委員長会議
憲法改正をめぐる情勢について活発な意見交換
5月29日 弁護士会館

昨今、政権与党の中で憲法改正の必要性が活発に議論されるなど緊迫した状況が続いている。これを踏まえ、各弁護士会の憲法委員会委員長らが出席して、各地の憲法改正問題に関する取組の報告と意見交換を行った。

 

憲法をめぐる最近の情勢について、日弁連憲法委員会の藤原真由美事務局長(第二東京)が「情勢は非常に緊迫しており、重大な時期が到来した」と述べ、憲法九六条の発議要件緩和、自衛隊を国防軍にするなど憲法改正への動きが急に加速した感は否めないと報告した。一方で5月9日に開催された衆議院憲法審査会を傍聴した同委員会の粟谷しのぶ幹事(第二東京)は、審査会構成委員の出席率の低さ等を挙げ、「憲法改正の重大性に対する審査会委員の認識が欠如しているとしか言いようがない」と報告した。

樋口陽一名誉教授(東京大学・東北大学)を軸とする「九六条の会」が5月23日に発足したことも報告された。運営等具体的な動きはこれからであるものの、現在の憲法九六条の先行改正に向けた動きを憂い、憲法学者が大同団結したものである。

続く各弁護士会の取組報告では、「まず、国民への情報提供者であるマスコミに、憲法というものの正しい知識をもってもらうための試みをしている」と報告する委員長もいた。

九六条改正問題については、会長声明や総会決議を発表している弁護士会も複数あり、その他の弁護士会においても6月や7月の発表を見据えて検討中であると報告があった。

さらに、10月に人権擁護大会シンポジウム第二分科会として、「なぜ、今『国防軍』なのか~日本国憲法における安全保障と人権保障を考える~」というテーマで開催されるシンポジウムについても報告された。既に全国の各弁護士会においてプレシンポジウムを開催しているが、今後も積極的に開催してもらうように、同委員会の永尾廣久委員長(福岡県)から呼びかけがあった。

(憲法委員会委員 原田美紀)


日弁連短信
憲法改正問題をめぐって ~憲法九六条、憲法九条

現実味を増した改憲論議

昨年末の政権交代後、「憲法改正」がにわかに現実の問題となっている。本年3月には衆参両院の憲法審査会(いわゆる「憲法改正国民投票法」制定に伴って設置され、憲法改正原案提出権をもつ)が開催され、衆議院憲法審査会では6月まで13回にわたって憲法各章ごとの検討が行われた。

さらに、憲法改正発議要件を定めた憲法九六条を先行的に改正(各議院の総議員の3分の2の賛成を過半数に緩和)しようという動きが、一時期、急速に強まり、メディアでも連日のように取り上げられた。現在はかなりトーンダウンしているが、この秋以降再び急浮上する可能性も指摘されている。

 

「九六条からの改憲」の問題性

憲法九六条は、基本的人権の本質を定める一一条、九七条、憲法の最高法規性を謳う九八条とともに、基本的人権を守るために国家権力に縛りをかける「立憲主義」の原則を定めた規定である。これを改正して改憲要件を緩和することは、立憲主義の土台を危うくする。

このような動きに対し、本年5月、憲法学者らによって「九六条の会」が結成された。護憲論者も改憲派も、ともに立憲主義の立場から九六条改正反対を訴える同会の活動は大きく注目され、6月14日に開催された同会のシンポジウムには約1200人が参加した。

日弁連も本年3月「憲法第九六条の発議要件緩和に反対する意見書」を発表。5月末に発行したパンフレット「憲法九六条改正に異議あり!!」は分かりやすいと好評で、現在10万部まで増刷されている。

この間の議論の中で「立憲主義」という言葉が国民に広く知られるようになったが、今後さらにその理解を深めていくような取組が求められている。

 

憲法改正問題と弁護士会

憲法改正手続の議論の先には、改正の「中身」の問題がある。それらは時に極めて政治的な問題であり、個人の思想信条に関わる事柄でもあるため、強制加入団体である弁護士会において、どこまで踏み込むべきなのか、常に論議されてきた。

憲法九条をめぐる問題もその1つであるが、日弁連ではこれまで人権擁護大会等において議論を重ね、九条の今日的意義等について確認してきた。そして、それらを踏まえ、本年の定期総会では「集団的自衛権の行使容認に反対する決議」を採択した。10月の人権擁護大会では「国防軍」の問題を取り上げる。

会員による活発な議論を期待したい。

(事務次長 菅沼友子)

 

●人権擁護大会プレシンポジウム●
福島原発事故被害の十分な補償のために
6月8日 弁護士会館

  • 第56回人権擁護大会プレシンポジウム「福島原発事故被害の補償・救済はこれでよいか?」

第56回人権擁護大会シンポジウム第一分科会(10月3日・広島市)は、「放射能による人権侵害の根絶をめざして」と題し、福島第一原発事故による人権侵害の早期かつ完全な救済の実現と原発廃止に向けての議論を予定している。この議論につなげることを目的に、同事故による損害賠償をどのように考えるべきかに焦点を当てたシンポジウムを開催した。

 

「従来の固定した枠組にとらわれないことが必要」と説く淡路会員
損害をあるがまま捉える

冒頭、福島原発事故の損害賠償の法理について、淡路剛久会員(東京、日本環境会議理事長)が基調講演を行った。淡路会員は「被害の広範性、継続性、深刻性、全面性の点で類のない今回の被害は、これまでの賠償モデルの検討にとらわれず、被害を全体として見ることが必要」として、「実態被害をそのままに損害として把握すべき」と提言した。特に不動産被害においては「原状回復の理念を念頭に置けば従来の生活を破壊された被害者の生活再建を可能にする賠償が考案されなければならない」と述べた。

 

ADRは被害者救済のためにさらなる飛躍を

後半に行われたパネルディスカッションでは、「ADRでは慰謝料のベースアップは限界ではないか」とする小海範亮会員(第二東京、原発被災者弁護団事務局次長)の問題提起に対して、小島延夫会員(東京、原子力損害賠償紛争解決センター仲介委員)が、「中間指針を大きく上回るベースの慰謝料を提示してよいものか悩ましい」と仲介委員としての悩みを率直に表した。これを受けて、除本理史氏(日本環境会議常務理事)は「原紛センターが設立された当初目指したところからすれば、被害者救済のためADRに大きな飛躍が求められているのではないか」として、浪江町での集団申立てが被害者救済に向けた引き金になることに期待を寄せた。


シンポジウム
水俣病被害者の全面救済を求めて
6月1日 弁護士会館

  • すべての水俣病被害者の全面救済を求めるシンポジウム

水俣病未認定患者の遺族が水俣病の認定義務付けを求めた訴訟において、最高裁は4月16日、水俣病として認定すべきとの判決を言い渡した。この判決を踏まえ、すべての水俣病被害者の全面救済を求めるため、本シンポジウムを開催した。

 

今こそ認定基準を改めさせるチャンス

1977年に環境庁が示した水俣病認定基準(五二年判断条件)では、感覚障害、運動障害等の症候の組み合わせが必要とされた。その後、水俣病関西訴訟最高裁判決(2004年)は、広く被害者を救済し、同基準を実質的に否定したものの、国は認定基準を変更せず、多くの水俣病患者が切り捨てられてきた。今回の最高裁判決は、症候の組み合わせが認められない場合でも総合的に検討して水俣病と認定しうると判示したもの。

日弁連公害対策・環境保全委員会委員の鈴木堯博会員(東京)は、「被害者救済の推進力となる最高裁判決が出された今が、52年判断条件を改めさせる千載一遇のチャンス」と訴えた。

 

従来の調査方法にとらわれない
「住民の健康調査が必要」と述べる山下氏

チッソOBであり、水俣病認定申請者である山下善寛氏は、「認定基準を見直し、水俣病を終わらせるためには、まずは住民の健康調査が必要」と述べた。花田昌宣氏(水俣学研究センター長)も、「海はつながっている。魚は泳いでいる。地域を限定した調査では意味がない」と従来の調査の問題点について言及した。

 

新しい社会福祉政策の必要性

胎児性水俣病患者などの共同作業所「ほっとはうす」の施設長である加藤タケ子氏は、「水俣病は補償金の受給をもって解決という問題ではない。水俣病患者が、地域で安心して生活できる社会福祉策が必要」と今後の課題を指摘した。

最後に、「ほっとはうす」創設者の1人であり、胎児性水俣病患者でもある永本賢二氏が、「水俣病は、まだ終わっていない。これからも水俣病患者の苦しみを伝えていきたい」と訴え、閉会した。

 

障害者差別解消法が成立
日弁連の長年の取組が後押し

  • 院内集会「本国会での障害者差別解消法の成立を目指して」

障がいを理由とした差別のない共生社会の実現を目指す「障害者差別解消法」が6月19日、参議院本会議で可決・成立した。日弁連は、2001年開催の人権擁護大会での宣言以来、一貫して障がいを理由とする差別を禁止する個別法の制定を求め、4月26日に法案が提出されてからは、国会会期中の成立に向けた活動を行ってきた。

 

会期内での成立を目指し院内集会を開催
6月4日の院内集会

本法律は、2006年に国連が採択し、130カ国が批准している障害者権利条約の批准のための国内法整備として、行政機関および事業者に対し、障がいを理由とする不当な差別的取扱いの禁止を義務付け、また行政機関等に対し、過重な負担ではない限り、社会的障壁の除去につき合理的配慮義務を課すもの。

政府提出法案として5月末には全会一致で衆議院を通過したものの、参議院選を控えて廃案になるのではないかとの懸念が広がっていた。日弁連は、国会会期中での法律制定への流れを作るべく、6月4日に院内集会を開催し、280人超が参加して早期成立の必要性を訴えた。このような動きもあり、個別法がようやく成立するに至ったものである。

 

今後に残された課題

今後の課題も多い。差別の一類型である合理的配慮義務違反について、民間事業者に対しては努力義務にとどまっているが、障がいのある人を差別から救済するためには、民間事業者についても法的義務に移行させる必要がある。また、実効性ある権利救済のためには、第三者性のある救済機関の設置が肝要だ。さらに、本法律は合理的配慮の具体的内容等の重要事項の定めをガイドラインに委ねているが、このガイドラインの策定について、国会の関与など制度的担保も求められる。日弁連は、引き続きこれらの課題の解決に向けて取り組んでいく。

 

シンポジウム
消費者法の課題と展望Ⅶ
高齢者の消費者被害の予防と救済のために
6月1日 弁護士会館

  • シンポジウム「消費者法の課題と展望Ⅶ 高齢者の消費者被害の予防と救済~地方行政における取組と効果的な救済ルールの提言~」

高齢者が標的となる消費者被害が後を絶たない中、その予防と救済手段の整備が喫緊の課題となっている。高齢者の消費者被害の現状や、国や地方における取組状況を分析し、より実効的な被害の予防と救済の在り方について検討した。

 

浦川有希氏(独立行政法人国民生活センター)は、高齢者の消費トラブルの傾向と特質について、「訪問販売や電話勧誘によるものが多く、対象商品としては健康食品やファンド型投資商品が多い」とデータ分析の結果を報告した。また、坂田昌平氏(消費者庁消費者政策課)は、高齢者の消費生活相談の動向について、「消費者相談件数全体は2004年の192万件をピークに減少しているが、高齢者からの相談件数は年々増加傾向にある」としたうえで、「注意喚起のための広報を実施し、ケアマネジャーとの連携など見守り体制の強化を図っている」と同庁の取組を紹介した。

地方自治体の取組について、消費者問題対策委員会委員の池本誠司会員(埼玉)は、東京都が検討を進めた、地域のネットワークを核とした消費者被害防止の仕組み作りの状況と、その成果をまとめたガイドラインの内容を説明し、消費生活部門と高齢者福祉部門との緊密な連携に努めている都の実例について言及した。

また、高野龍一氏(足立区消費者センター所長)は、足立区が推進する高齢者孤立ゼロプロジェクトや、トラブルに遭わないよう消費者に注意喚起するための出前講座の事例などを紹介した。

後半に行われたパネルディスカッションでは、高齢者被害に対する効果的な救済策について、消費者問題対策委員会委員の薬袋真司会員(大阪)が、高齢者にとって不適切な取引がなされた場合の「高齢者解除権」を提唱した。これについて、国民生活センター理事長の野々山宏会員(京都)は、「成年後見制度が高齢者の消費者被害を防止するために必ずしも十分な機能を果たしていない現状を踏まえると、検討に値する」との意見を述べた。


院内集会
今こそ!個人情報全般を保護する第三者機関の設立を
5月29日 衆議院第一議員会館

  • 院内集会 今こそ!個人情報全般を保護する第三者機関の設立を

現在、EU諸国などでは、政府から独立した第三者機関が個人データ全般の収集・利用・保管等について監督する制度が定着しているが、日本では未だに制度化に至っていない。5月24日に成立したマイナンバー法によりプライバシーに対する新たな脅威が懸念される中、個人データ保護のための第三者機関を制度化する必要性について理解を求めるため、院内集会を開催した。

 

世界水準から立ち遅れた日本の体制

冒頭、牧山嘉道会員(第二東京)が、EU諸国、米国やアジア諸国における個人データ保護のための第三者機関の活動状況や機能について報告した。特に制度化が進んだEUでは、加盟国ごとに一機関以上の公的な第三者機関があり、政府から完全に独立して個人に関するデータ保護の一元的監督業務を行っている。これに対し、日本では個人情報保護法の対象となるプライバシー侵害に限り、主務官庁が監視の役割を担うにとどまり、世界水準から立ち遅れている実態が浮き彫りになった。

 

個人情報全般の保護を

次いで、情報問題対策委員会副委員長の齋藤裕会員(新潟県)が、秘密保全法制の中で導入が検討されている、秘密を扱う人やその周辺の人々を政府が調査・管理する「適性評価制度」について、「国民のプライバシー侵害の可能性が高まるにもかかわらず、第三者機関の権限が及ばない危険性がある」と指摘した。

また、同副委員長の水永誠二会員(東京)は、マイナンバー法において設置が予定されている第三者機関(特定個人情報保護委員会)について、人的構成を含む体制の弱さや、その有する権限に例外が多いなどの問題点を指摘するとともに、個人情報全般の保護をカバーする第三者機関の設立の必要性を訴えた。

 

JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.79

外国人支援の現場から
東京パブリック法律事務所三田支所・NPO法人難民支援協会を訪ねて

2011年中の渉外家事事件の新受件数は8000件を超えています。離婚の相談を受けたら配偶者が外国籍だった、相続の相談を受けたら代襲相続人が海外で生活する外国人だったということも珍しくありません。6月にはハーグ条約実施法も国会で成立し、外国人事件は弁護士にとってますます身近なものになっています。そこで今回は、2012年10月に弁護士法人東京パブリック法律事務所の「外国人・国際部門」として設立された三田支所と、認定NPO法人難民支援協会を訪問し、お話を伺いました。(広報室嘱託 柴田亮子)

 

東京パブリック法律事務所三田支所

三田支所の大谷会員(右)と妹尾会員
外国人・国際部門のシンボルとして

入管事件や渉外家事事件などの増加を受け、外国人事件についての情報共有を目的として、外国人ローヤリングネットワーク(LNF)が設立されたのが4年前。LNFの事務局所属の弁護士が中心となって外国人事件を専門に扱う事務所の必要性を訴え、池袋本所の外国人部門と合わせて三田支所が開設された。 「三田支所が外国人・国際部門を取り扱う法律事務所のシンボルとなって、潜在的なニーズを掘り起こし、全国的に外国人へのリーガルサービスを充実させたい」と、三田支所共同代表の大谷美紀子会員(東京)は語る。

 

外国人事件の壁

三田支所は、現在弁護士8人が所属し、日本語、英語、スペイン語での法律相談に直接対応している。その他の言語については、東京外国語大学に通訳者の派遣を依頼している。

毎月70件ほどの新規相談予約があり、家事、在留資格、一般民事、労働に関する相談が多い。

大谷会員は、「外国人の家事事件の場合、まずは日本の法制度を理解してもらってから、解決のための方向性を選択してもらう。言葉の壁、法制度の違いの壁と事件を進めていくのに、いくつもの壁がある」と語った。

 

外国人事件対応弁護士、事務職員の養成

外国人事件に対応できる弁護士を養成するための試みとしては、LNFの研修等がある。大谷会員は、「相談のうち事務的・手続的なサポートを必要とするもの、弁護士につなげるべきものとを選別すれば、より多くの人にリーガルサービスが提供できる。今後は、外国人事件に対応できる事務職員の養成も課題」と言う。

また、東京に限らず遠隔地の相談にどのように対応するかという課題がある。これについては、各地で外国人事件に対応できる弁護士を育てるべく、三田支所も、公設事務所弁護士および法テラススタッフ弁護士養成事務所となっている。三田支所に勤務する妹尾圭持会員(東京)は、「頭でわかっていても、実際に事件にあたるとわからないことがたくさんある。三田支所での経験を活かして、赴任先でも外国人の支援をしていきたい」と意気込みを語った。

 

NPO法人難民支援協会

支援件数は年間1万6000件超
難民支援協会の石川事務局長(右)と野津氏

難民支援協会は、日本で生活している難民の法的支援、生活支援、定住支援等を行うことを目的に1999年に設立された認定NPO法人だ。2011年度の支援件数は、1日平均約70件で、前年比45%増。電話相談に加え、来訪相談も多く、1日に20人近い難民が相談に来ることもあるという。このうちアフリカ国籍の相談者が約半数を占める。

近年は難民支援で培った経験を活かして、難民に限らず広く被災者支援も行っている。関東近郊の弁護士との連携の下、陸前高田市、大槌町、石巻市などで個別法律相談も開催した。

 

難民認定までの高いハードル

難民申請してから認定されるまで、平均2~3年かるのが実情だ。その間、難民申請者が利用できる社会保障制度は限られており、就労・住宅・国保への加入・子どもの教育等さまざまな問題に直面する。また、難民認定率は、0.5%程度で、米国の50%超と比較すると、極めて低い。

事務局長の石川えり氏は、「認定率の上昇、認定期間の短縮を図ることも重要だが、まずは2~3年待つことを前提とした社会保障が現実的には必要」と訴えた。

 

自立に向けた支援

日本で生活する難民は社会の中で周辺化されやすく、社会参画の仕組みが必要となる。

石川事務局長は、「難民申請者の中でも特に女性は孤立しがちであり、女性たちを対象とした社会参画の仕掛けが必要」と語る。2009年に始まったクルドの伝統手工芸「オヤ」の制作を通じたクルド難民女性の社会参画に向けたサポートは、数年経ち少しずつ成果を上げている。

広報部の野津美由紀氏は、難民の方から教わった家庭料理のレシピ本「海を渡った故郷の味」を紹介し、「この本の収益が難民の自立に少しでも役に立ってくれれば」と語った。


日弁連委員会めぐり 55

国際人権問題委員会

今回の委員会めぐりは国際人権問題委員会です。

日弁連は、この数カ月間で、UPR(国連に加盟するすべての国の人権状況を普遍的に審査する枠組みとして盛り込まれた制度)に関する政府対応についての日弁連コメント、国連社会権規約委員会の総括所見、および国連拷問禁止委員会の総括所見に関する会長声明を続けて発表していますが、これを支える委員会の活動内容や新しい試みについてお聞きしました。

(広報室嘱託 白木麗弥)

コーディネーターとして

上柳委員長(右)と芝池事務局長

国際人権問題委員会の主要な活動として、国際人権・人道法に関する活動に関する各種委員会間の連絡や調整が挙げられる。例えば、今回のように国連の条約審査が行われる場合には、日弁連の対応を検討するためにワーキンググループが設置されるが、各関連委員会間の情報共有・連絡・調整を行うのが国際人権問題委員会である。また、国際人権に関する調査・研究の一環として、意見書を公表した後のフォローアップを行うことも委員会の重要な任務となっている。

また、海外で起きた弁護士の逮捕事案など、弁護士の職務に対する侵害についての情報収集や調査研究なども行っている。

さらに、日本の憲法の前文の趣旨を活かして「平和に対する権利」を国際的な権利として拡大しようという活動も委員会で進められている。

上柳敏郎委員長(第一東京)は、「今後は他の委員会が取り組む課題と関連する国際人権規約についての情報も発信していきたい」と委員会の新しい試みについて語る。

 

国際人権をもっと身近に

今後の課題は、若い会員の層を厚くすることだ。 芝池俊輝事務局長(札幌)は、「国際人権問題と聞くと、英語が堪能でなければいけないのではないかとか、業務との関係が薄いのではないかというイメージを持たれることが多いのですが、実際はそれほど難しくはありません。弁護団の活動や個別の事件でも、条約や国連の勧告が主張の理由付けとして活用できることもあります」と、国際人権問題が弁護士業務につながるヒントになるという。 国際人権問題は、昨今世間の注目を浴びるテーマとなったが、日本が国連などの国際機関から受けた勧告や総括所見の内容について、これまで知らなかったという会員やマスコミに対しても情報発信を積極的に行い、国際機関と日本の架け橋になれればと今後の抱負を語ってくれた。

 


ブックセンターベストセラー
(2013年3月・六法、手帳は除く)協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名
1 会社法コンメンタール3 ―株式(1)§§104~154の2 山下友信 編 商事法務
2 弁護士報酬基準等書式集[改訂版] 弁護士報酬基準書式研究会 編 東京都弁護士協同組合
3 労働相談実践マニュアル Ver.6 ―改正労基法、派遣法、高年法対応 日本労働弁護団 著 日本労働弁護団
4 過払金返還請求・全論点網羅2013 名古屋消費者信用問題研究会 監修 民事法研究会
5 中小企業のための 金融円滑化法出口対応の手引き 日本弁護士連合会・日弁連中小企業法律支援センター 編 商事法務
6 実例 弁護士が悩む家族に関する法律相談 ―専門弁護士による実践的解決のノウハウ― 第一東京弁護士会法律相談運営員会 編著 日本加除出版
7 条解家事事件手続規則 最高裁判所事務総局家庭局 監修 法曹会
8 破産実務Q&A200問 ―全倒ネットメーリングリストの質疑から 全国倒産処理弁護ネットワーク 編 きんざい
9 破産管財の手引[増補版] 東京地裁破産実務研究所会 著 きんざい
10 弁護士研修ノート ―相談・受任~報酬請求 課題解決プログラム 原 和良 著 レクシスネクシス・ジャパン

編集後記

広報室嘱託となって早いもので4カ月が過ぎようとしています。これまで、自分の業務に直接関わる範囲でしか日弁連の活動に接することがありませんでしたが、日弁連新聞の記事執筆や編集作業を通じて、全国の会員の方が、幅広い分野で精力的に活躍されている姿を目の当たりにし、あらためて頭の下がる思いがしています。

7月号も、定期総会での熱心な議論の報告をはじめ、憲法改正問題、法曹養成問題、刑事司法改革に関する問題など、重要課題についての報告やイベント報告が盛りだくさんです。紙面の関係ですべての情報をお伝えしきれないのが毎号歯がゆいのですが、掲載記事をきっかけに、多くの会員の皆様に「日弁連って、こんな活動にも取り組んでいたんだ!」と気づいていただければ編集者冥利に尽きるというものです。

(M・K)