日弁連新聞 第470号

法制審刑事特別部会
刑事司法改革の基本構想取りまとめ

2011年6月に設置された法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」に向けて、日弁連は「新たな刑事司法制度の構築に関する意見書」(その1)~(その4)を策定し議論に臨んできた。1年半余の議論を経て、特別部会は、1月29日の第19回部会において「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」を取りまとめた。今後、この基本構想に沿って、各方策についての具体的検討が進められることになる。

 

当初の試案から改善 

注目される取調べの録音・録画制度については、「一定の例外事由を定めつつ、原則として、被疑者取調べの全過程について録音・録画を義務付ける」制度と、「録音・録画の対象とする範囲は、取調官の一定の裁量に委ねるものとする」制度の二つの制度案を念頭に置いて具体的な検討を行うこととされた。
取りまとめに至る道のりは平坦ではなかった。前回1月18日(第18回部会)に示された部会長試案においては、前者(録音・録画義務付け)の制度案については、具体的な検討対象を「裁判員制度対象事件の身柄事件」の「被疑者取調べ」に限定するかのような、問題のある記載となっていた。しかし、日弁連推薦委員・幹事や多くの有識者委員からの厳しい批判を受けて修正され、対象事件は「裁判員制度対象事件の身柄事件を念頭に置いて制度の枠組みに関する具体的な検討を行い、その結果を踏まえ、更に当部会でその範囲の在り方についての検討を加える」こととされ、参考人取調べについても「被疑者取調べの録音・録画制度についての具体的な検討結果を踏まえつつ、必要に応じて更に当部会で検討を加える」と改められた。

 

制度の具体的検討に向け働きかけを強化

その他、被疑者・被告人の身体拘束の在り方(勾留と在宅の間の中間的な処分を設ける等)、証拠開示の拡充、弁護人による援助の充実化、通信傍受の拡充、会話傍受の導入、協議・合意制度(いわゆる司法取引制度)等についても検討することとされた。
日弁連は、基本構想に取調べの全過程の録音・録画制度が盛り込まれたことを踏まえ、捜査機関の裁量に委ねる制度については徹底的に反対するとともに、全過程の録音・録画を義務付ける制度を幅広い範囲において実現すべく、特別部会への働きかけや、世論への訴えかけなどを行っていく。(事務次長 二瓶 茂)
(8面に基本構想の要旨を掲載)

 

法曹養成制度検討会議 
修習生への救済的支援を論議

 

1月30日に開催された第八回法曹養成制度検討会議では、懸案の司法修習生への経済的支援の在り方について第3回に続き活発な議論が行われた。旧「フォーラム」での議論と異なり、複数の委員から給費制の復活を求める意見が表明されるなど、活発な議論が行われた。

 

複数の委員が給費制支持 

複数の委員から表明された給費制支持の論拠は、法科大学院と司法修習を合わせた経済的負担が重く、法曹への道を断念する事態を招いていること、研修医が研修に専念できるよう身分の安定と収入の保障がはかられてきた経緯を考慮すべき等である。

 

貸与制維持の立場からも支援を求める意見

他方、給費制廃止に至る議論の経緯や旧「フォーラム」の第一次取りまとめを踏まえ貸与制維持を求める多数の委員からも、修習配属地による住居費や交通費の負担等の不公正を是正することなど、何らかの経済的支援を検討する必要があるとの意見が述べられた。そして、こうした不公平是正に加え、公務員が研修を行う際に給与とは別に支給される研修日額旅費等を参考に、すべての修習生に対し実費弁債的な支援も考慮すべきではないかとの新たな提案もなされた。

 

支援内容の具体化は持ち越し

ただし、こうした修習生に対する経済的支援については「修習生の地位と身分をもっと明確にする必要がある」、「一律支給はかえって不公平であり経済的弱者に厚くすべきではないか」との議論もあり、支援内容の具体化とその論拠についてはさらに議論を持ち越した形となった。
日弁連からは、給費制の復活を求めつつ、今回の議論を踏まえ給費か貸与かといった二者択一の議論を超えて、実態にあった支援内容で合意を求める等のコメントを行った。
(事務次長 中西一裕)

 

法曹人口問題シンポジウム
急増から漸増へ  ~現実の法的需要と弁護士人口増員のバランスとは
2月12日 弁護士会館

  • 法曹人口問題シンポジウム「急増から漸増へ ~現実の法的需要と弁護士人口増員のバランスとは?」

政府の法曹養成制度検討会議による「法曹人口の在り方」の議論に先立ち、現在の問題状況を確認し、各分野におけるニーズを踏まえ、弁護士がどう積極的にこれに応えていくか──あるべき制度基盤やバランス、弁護士の在り方等を議論した。

 

消費者・労働分野の専門家が足りないと語る丹野氏(左)と末永氏データを基に基調報告

冒頭、シンポジウム作業チームから、各種データに基づく基調報告があった。
弁護士数はこの10年で7割増加したが、これに対し裁判官、検察官とも2割増にとどまっており、民事訴訟事件も過払いを除くとほぼ横ばいで、医療過誤や知財などの専門分野における訴訟件数も伸びていない。
日弁連は司法アクセスの改善のために多額の予算を投じ、ゼロワン地区の解消など一定の成果を上げてきた。一方、この間の法曹人口急増により、新人弁護士の「就職難」などOJTの機会の確保が困難になり質の低下の懸念を生じている。こうした否定的状況もあり法曹志願者の減少を招くなど大変厳しい状況にあると報告された。

 

各分野のニーズについて実情を議論

パネルディスカッションでは、主にどのような弁護士が必要とされているかについて議論がなされた。利用者の視点から、末永太氏(連合総合政策局長・経済政策局長)、丹野美絵子氏(全国消費生活相談員協会理事長)からは、「法的救済が十分行き届いていない」としつつ、その原因は消費者や労働の分野を専門とする弁護士の不足であり、単純に弁護士を増やすことでは問題は解消されないとの指摘があった。

 

司法試験合格者数について

各パネリストとも、「さまざまな弊害が現実化している今、適正人員について考え直す時期に 来ているのではないか」とし、法律扶助の充実や司法の基盤整備などによる法的需要喚起の 必要性について概ねの一致を見た。

 

ひまわり

東日本大震災からの復興は、テレビや新聞だけを見ると既に解決に向かっているように見えるが、被災地に赴けば様相が異なる。津波が町をさらった後に広がる更地には建物が建てられる気配が感じられず、住民は皆不安を顕にする。福島の人々もコミュニティを失ったまま、肝心の不動産賠償が進まず、次の生活へのメドが立ちにくい状況が続いている▼取材を通じ被災地で復興に携わる弁護士に共通するのは「長いスパン」という言葉だ。皆口を揃えて今後の弁護士人生に復興問題が関わることを意識していた。一方で、復興が弁護士にとって重要かつ長期的な任務となっているのにもかかわらず、復興に携わる業務が法律事務所の経営上貢献することは残念ながらあまりない。被災地でも相当の苦労をされているのではないか。多くの弁護士が必要となる復興支援業務が、次第に限られた人頼みになるのはそういった事情も背景にあるのではないか▼復興に携わる弁護士たちが語ってくれた言葉を思い出すにつれ、震災当時、弁護士として何ができるだろうと心に問うた多くの人が、安心して長いスパンの復興支援業務に携われるための仕組み作りができないかと考えた。震災は特定の場所の問題ではなく、どこでも起こりうる普遍的な問題なのだから。(R・S)
 

 

法制審で少年法改正要綱を採択 
国選付添人制度は対象拡大へ

2月8日に開催された法制審議会総会は、国選付添人制度の拡大を含む少年法改正の要綱(骨子)を採択し、法務大臣に答申した。
要綱(骨子)の内容は、①国選付添人制度の対象事件を、被疑者国選弁護制度と同範囲まで拡大する(第一の一)、②現行の検察官関与制度も同範囲まで拡大する(第一の二)、③少年の刑事事件における有期刑の上限を引き上げるほか、不定期刑の要件等を整備する(第2)、というものである。
要綱(骨子)は、昨年10月から法制審議会少年法部会で審議されてきたが、1月28日の同部会第四回会議において採決が行われた。12月20日の理事会で承認された日弁連の対応方針および執行部の方針を踏まえ、日弁連委員から、検察官関与制度には問題があり、日弁連は一貫して反対してきており、検察官関与それ自体には賛成できない、少年刑には反対であることを述べた上で、要綱(骨子)第一には一括賛成し、第二には反対した。
法制審議会総会では、日弁連推薦委員は、要綱(骨子)第二には賛成できない旨を述べて、第一と第二の個別採決を求めたが、一括採決となったため、これに賛成し、全員一致で採択された。
法務省は、法制審の答申を受けて、少年法改正法案を国会に提出すると見込まれるが、日弁連としては、速やかな可決・成立に向けて、国会議員要請等の取り組みを進める必要がある。
(全面的国選付添人制度実現本部事務局長 須納瀬 学)

 

「民事司法を利用しやすくする懇談会」が発足

1月24日、日弁連の呼びかけにより、真に利用者に役立つ民事司法はどうあるべきかを多角的に検討すべく、「民事司法を利用しやすくする懇談会」(略称・民事司法懇)が設立された。民事司法改革の必要性が説かれて久しく、民事訴訟の利用率が向上しているとは言い難い状況が続くなか、これまで法曹関係者のみで議論されがちだった民事司法の在り方について、各界の有識者から幅広い意見を取り入れる画期的な取り組みであり、今後の動向が注目される。

 

懇談会議長には元鳥取県知事の片山善博教授(慶應義塾大学)が就任し、本年10月末までに政府を含む関係諸機関に対する問題提起と提言を取りまとめることを目指す。
メンバーには法曹関係者に加えて経済団体、労働団体、消費者団体や学識経験者など31人が名を連ね、さまざまな角度から利用者にとって真に役立つ民事司法の在り方を議論する。
懇談会は3月16日にシンポジウム「民事司法改革オープンミーティング~利用者の声を聴く」(仮称)を開催する。また、懇談会のもとには、懇談会委員から選出された運営会議が置かれ、民事・家事・商事、行政、労働、消費者、基盤整備の五つの部会に分かれ議論する。
本年6月29日の第3回懇談会で中間報告を行い、10月30日の第4回懇談会までに最終報告書をまとめる予定である。

 

日弁連短信

荒中 事務総長 日弁連会長選挙の改正問題について

2012年度と2013年度の会長を選出する選挙は、再投票でも決着がつかず、再選挙に突入し、現会長である山岸会長が選出されました。

しかし、山岸会長の就任は2012年5月9日となり、新年度が始まってから40日余りも経過した後になってしまいました。仮に3回目の投票により決着しなかった場合、4回目の選挙は六月に予定されており、新会長不在の期間は2カ月半にも及ぶ可能性がありました。

このような事態の発生を受け、本年度の執行部は選挙制度の改善に向けたワーキングを立ち上げ、その検討結果について各弁護士会に意見照会を行い、意見の取りまとめを行わせていただきました。

その結果、かなり多くの弁護士会から所謂三分の一条項は再選挙、再々選挙においても撤廃すべきではない、現段階において改正の必要はないといった意向が表明されました。

これを受けて、先般、本年度の執行部としては2012年度中に選挙規程の改正案を取りまとめることは困難との判断を行い、その旨理事会において説明しました。少なからぬ理事から継続的に議論を進めるべきであるとの意見が出されましたが、議論をするにしても、まずは各弁護士会において改正の要否につき十分時間をかけてご検討いただく必要があろうかと思います。

弁護士自治を堅持するために迅速適切な対応を行う、引き継ぎを円滑に進める、さらに日弁連が提案する諸々の政策について通常国会の会期中にその実現に向けた働きかけを行うためには、会長の選出は前年度中に終わっているのが望ましいことは誰もが認めるところかと思います。

しかし、それをどのように実現するかについては、実際にこれらの活動を展開している会員の意見を参考にしつつ、全国の弁護士会において真剣に討議していただく必要があるように思われます。
(事務総長 荒 中)

 

2012年懲戒請求事案集計報告

日弁連は、2012年(暦年)中の各弁護士会における懲戒請求事案並びに日弁連における審査請求事案・異議申出事案及び綱紀審査申出事案の概況を集計して取りまとめた。

 

弁護士会が2012年に懲戒手続に付した事案の総数は3898件であった。新受事案が前年の2倍となったのは、1人で100件以上の懲戒請求をした事案が5例(5例の合計1899件)あったこと等による。懲戒処分の件数は79件であり昨年と比べると1件減っているが、会員数との比では0.23%でここ10年間の値との間に大きな差はない。懲戒処分を受けた弁護士からの審査請求は34件であり、2012年中に日弁連がした裁決内容は、棄却が25件、処分取消が2件、軽い処分への変更が0件であった。弁護士会懲戒委員会の審査に関する懲戒請求者からの異議申出は32件であり、2012年中に日弁連がした決定内容は、棄却が29件、決定取消および処分変更が0件であった。弁護士会綱紀委員会の調査に関する懲戒請求者からの異議申出は778件(前年比96件増)、綱紀審査申出は321件(前年比6件減)であった。日弁連綱紀委員会及び綱紀審査会が懲戒審査相当と議決し、弁護士会に送付した事案はそれぞれ6件、3件であった。

 

表1:懲戒請求事案処理の内訳(弁護士会)

新受 既済
懲戒 懲戒しない 却下 終了 
戒告 業務停止 退会命令 除名
1年未満 1~2年
2003 1127 27 23 2 3 4 59 822 69 23
2004 1268 23 19 2 3 2 49 1023 1 19
2005 1192 35 18 4 3 2 62 893 0 18
2006 1367 31 29 4 2 3 69 1232 0 24
2007 9585 40 23 5 1 1 70 1929 0 30
2008 1596 42 13 2 2 1 60 8928 0 37
2009 1402 40 27 3 5 1 76 1140 0 20
2010 1849 41 24 6 8 1 80 1164 0 31
2011 1885 38 26 9 2 5 80 1535 0 21
2012 3898 54 17 6 2 0 79 2189 0 25

    表1、2について

  • *一事案について複数の議決・決定(例:請求理由中一部懲戒相当、一部不相当)がなされたものについてはそれぞれ該当の項目に計上した。
  • *日弁連による懲戒処分・決定の取消・変更は含まれていない。
  • *新受事案は各弁護士会宛てになされた懲戒請求事案に会立件事案を加えた数とし、懲戒しない及び終了事案数等は綱紀・懲戒両委員会における数とした。
  • *2007年の新受事案が前年の7倍となったのは、光市事件の弁護団に対する懲戒請求が8095件あったため。

 

表2:審査請求事案の内訳(日弁連懲戒委員会)

新受(原処分の内訳別) 既済 未済
戒告 業務
停止
退会
命令
除名 棄却 原処分
取消※2
原処分
変更※3
却下・終了
※4
2010 14 19 1 0 34 18 4 5 4 31 18
2011 14 15 0 0 29 20 2 3 3 28 19
2012 25 8 1 0 34 25 2 0 2 29 24

※2 原処分取消の内訳
   2010年:戒告→懲戒しない(4)

   2011年:戒告→懲戒しない(2)
   2012年:戒告→懲戒しない(2)
※3 原処分変更の内訳
   2010年:業務停止1月→戒告(1)、業務停止2年→業務停止1年6月(1)、業務停止6月→業務停止5月(1)、業務停止3月→
   戒告(1)、業務停止2年→業務停止1年(1)
   2011年:業務停止6月→戒告(1)、業務停止4月→業務停止2月(1)、業務停止1年→業務停止8月(1)
※4 終了等は取下げ・資格喪失・死亡による終了を指す

 

表3:異議申出事案処理の内訳(日弁連綱紀委員会)

新受 既済
未済
審査相当 審査不相当 速やかに終了せよ
棄却 却下 終了※5
2010 511 9 404 11 5 35 464※6 135
2011 682 7 494 14 10 22 547 270
2012 778 6 759 39 4 26 834 196
※5 取下げ・資格喪失・死亡等による終了を指す。
※6 1件は一部棄却・一部却下となっており、棄却にカウントし、もう1件は一部理由あり・一部却下となっており、却下にカウントしている。

 

 

表4:異議申出事案処理の内訳(日弁連懲戒委員会)

新受 既済 未済
棄却 取消※7 変更※8 却下 取下 速やかに
終了せよ
資格喪失・
死亡終了
2010 27 21 1 2 0 0 2 0 26 15
2011 29 20 3 0 0 0 1 2 26 18
2012 32 29 0 0 1 0 3 0 33 16
※7 「取消」の内訳 2010年:懲戒しない→戒告(1)、2011年:懲戒しない→戒告(3)
※8 「変更」の内訳 2010年:戒告→業務停止1月(2)

 

表5:綱紀審査申出事案処理の内訳(日弁連綱紀審査会)

新受 既済 未済
審査相当 審査不相当 却下 取下 資格喪失・
死亡終了
2010 231 0 251 4 0 0 255 66
2011 327 0 271 2 2 0 275 118
2012 321 3 264 10 0 0 277 162

震災2周年特別号

 

山岸会長が被災自治体を訪問
弁護士の採用について前向きな意見交換

日弁連は、震災復興支援の一環として、被災自治体に対して弁護士を任期付き職員として派遣することを検討しており、被災自治体の法的ニーズなどについて聴き取り調査を行うなどして働きかけを続けている。現在、宮城県の石巻市と東松島市をはじめ複数の自治体から受け入れ希望の声が上がっており、山岸会長は2月6日に両市を訪問し協力を約束した。当日は仙台市も訪れ、必要な支援策について意見交換を実地した。

 

集団移転をどう成し遂げるか

弁護士の採用を希望する亀山石巻市長(左)に継続的な支援を約束した

 

亀山紘石巻市長は「石巻は布施辰治先生の出身地でもあり、意欲のある弁護士が来てくれれば大変嬉しい」と歓迎の意を表した。石巻市は、現在も1万3000世帯が仮設住宅に居住しており、今後集団移転事業が本格化する。また、造船業や水産業を中心とした被災企業の再建も喫緊の課題となっている。山岸会長は、コミュニティーを尊重した復興の重要性、個人・法人の被災ローン減免の必要性を指摘し、弁護士・弁護士会による継続的な支援を約束した。

 

自治体から国に提言していく

東松島市は、2012年2月に法テラス東松島が設置され、弁護士の採用にも積極的である。阿部秀保市長は「法テラスの出張所ができ、弁護士の赴任も実現すれば、市にとって大きなメリット」と語った。東松島市では3000世帯が津波で家屋を喪失し、集団移転事業の真っ最中であり、阿部市長は「現在の法制度では対応できないことが多く、国に対してもいろいろ提言している」と意欲を述べた。山岸会長も「赴任予定の弁護士からも報告を上げてもらい、日弁連としても対応していきたい」と応じた。

 

大川小学校の校舎跡から、生存者が登った裏山の方角に目をやる山岸会長

専門力をどう活用するか

 

奥山恵美子仙台市長は、震災直後からの法律相談など仙台弁護士会のバックアップに謝意を述べる一方、「現在の法制度は被災者を系統立てて救済する仕組みになっていない。これでは復興費も無駄になってしまう」と問題点を指摘した。山岸会長の「自治体の内部に弁護士が入って復興に取り組むという形もありうる」との指摘に対し、奥山市長は「日本社会の雇用も流動化しており、NPO、国際機関、政府、自治体などいろいろな場で活躍する人が出てきている。専門力をどう活用するか考えていきたい」と応じた。

 

正確な被災予測の重要性を想う

訪問の合間には、地元弁護士会出身の荒中事務総長の案内で、児童・教職員84人が津波により死亡・行方不明となった石巻市の大川小学校跡、海抜16メートルの高台にありながらそれを超える津波により犠牲者を出した女川町立病院、津波被害の爪あとを残す石巻市の沿岸部を訪ねた。山岸会長は「現場の判断で被害を防ぐことができたかどうかは何とも言えない。やはりきちんとした被災予測に基づく防災計画が重要だろう」と沈痛な面持ちで語り、「1年9カ月前にも石巻市を訪れたが、『3・11から時間の止まったまま』の地域が今なお多く衝撃を受けた。復興計画の早期実現と支援が急務だ」と述べた。


日弁連災害復興支援委員会の活動報告
これまでの経過と東日本大震災における取り組みについて
委員長 中野明安

中野明安委員長日弁連は、阪神・淡路大震災に際して被災者支援活動を行った兵庫県弁護士会の提案で、2003年に「全国弁護士会災害復興の支援に関する規程」を制定し、また、被災者の人権を擁護するための日弁連、弁護士会連合会および弁護士会の態勢を整備する目的で災害復興支援委員会を設置しました。
委員会の具体的な活動の一つに、「日弁連の災害対策本部との連携」があります。東日本大震災・原子力発電所事故に対する日弁連災害対策本部および同事務局にも、多くの委員が、副本部長、本部員、事務局長代行、事務局次長に就任するなどして、被災地および全国の先生方と共に被災者支援活動を行っています。
東日本大震災では、霞が関の弁護士会館でも震度5強の大きな揺れがあり、日弁連は直ちに災害対策本部(現在の東日本大震災・原子力発電所事故等対策本部)を立ち上げ、当日に第1回の対策本部会議を開催しました。会議では、「第一に、会員の安否確認、各会の状況の確認、それから最高裁に法定期間等に関して期間伸長、訴訟行為追完(民事訴訟法)、あるいは上訴権回復(刑事訴訟法)等において当事者の不利益とならないよう処理すべきとの要望書を提出する」ということになりました。要望書は、過去に委員会が弁護士会、弁護士会連合会にお渡ししているCD―ROMに収録されたひな形を用いました。ひな形から作成された要望書はさっそく最高裁に提出され、最高裁は、要望に沿った対応をする旨公表しました。支援委員会での準備が実際に役立った瞬間でした。
その後は、皆様もご承知のとおり、被災地および避難者の滞在する各地でなされた4万件にも及ぶ法律相談が集約・分析され、差押禁止財産に関する法律制定、相続放棄熟慮期間の伸長、原発ADRの設置、被災ローン減免制度の実施、原発事故子ども・被災者支援法の制定などの具体的な成果につながり、被災者の人権擁護に寄与したものと思います。委員会でも最重要課題との認識でこれまで対応をしてきています。
この3月で震災から2年が経ちます。しかし、被災者支援活動は終わっていません。被災者がこれまでの生活を取り戻すための復興まちづくりをはじめ、取り組むべき課題は山積しています。当支援委員会では、弁護士、弁護士会、弁護士会連合会、日弁連の被災者復興支援活動をこれからもしっかりとサポートし続けていきたいと考えています。

 

法テラス気仙
法テラスふたばが開設

本年3月、法テラスの被災地出張所が新たに2カ所開設される。岩手県大船渡市の「法テラス気仙」は、大船渡市だけでなく、陸前高田市、住田町を含む気仙地域の支援拠点を目指す。福島県双葉郡広野町の「法テラスふたば」は、福島第一原発から30キロ圏内にあり、福島県双葉郡からいわき市にかけての被災者支援に取り組む。これで法テラスの被災地出張所は七カ所になる。2012年3月に設置された「いわて三陸ひまわり基金法律事務所」(陸前高田市)、本年4月1日に開所予定の「原町ひまわり基金法律事務所」(南相馬市)とともに、被災者支援の拠点が着実に拡がっている。

 

岩手県 宮城県 福島県

 

東日本大震災・原子力発電所事故から二年を経て

岩手弁護士会

渡辺正和会長被災者の目線でともに復興を

岩手県は、沿岸部を中心に甚大な被害を受け、震災から2年を迎えた今でも多くの被災者が未だに仮設住宅での生活を余儀なくされております。
当会は、震災直後に開始した電話による無料相談を現在も続けております。十分に情報が行き届いていない被災者の方々に正確な情報を提供し、法的な問題について、解決の道筋を示すという大きな役割を果たしているものと感じております。
また、面談相談に関しては、震災直後から、多くの弁護士会、弁護士会連合会からの支援を受け、避難所等における相談に対応して参りました。現在は、2011年9月に設立した山田町法律相談センターで相談に対応するとともに、消費者庁が被災各地で実施している相談会や被災ローン減免制度に関する相談会等に担当弁護士を派遣しています。法テラスに関しては、昨年3月に大槌に臨時出張所が設置され、今年3月には大船渡に臨時出張所が設置されることとなっております。
このような震災直後からの会としての相談活動、そして震災直後から自主的に避難所等において相談にあたってきた沿岸部の会員からの声を受け、当会は、情報提供の必要性を訴え、不合理な制度の改善を求め、さらには必要な立法に関して提言する等の活動をして参りました。
相続放棄に関しては、民法上3カ月とされている熟慮期間の一律伸長を求めました。災害弔慰金に関しては、支給対象となる遺族に兄弟姉妹を含めるよう求め、審査申出手続の弁護士費用を立て替える制度を創設するよう求め、災害弔慰金の支給対象には災害関連死も含まれることや災害障害見舞金の制度を周知するよう求め、災害弔慰金等の不支給決定をする際には不服申立の制度があることを教示するよう求める等の活動をして参りました。被災ローン減免制度に関しても、周知を徹底するよう求め、また、債務弁済計画案の期間を原則五年以内とする定めに固執することなく、柔軟に運用するよう求め、また、財産評価の取扱いの変更に反対する等の活動をして参りました。
このような当会の活動は、多くの場面で成果を挙げております。
今後も被災者に寄り添い、被災者の目線で被災者とともに復興を考え、弁護士会として関与できることには積極的に関与し、被災者の声をさまざまなところに届け、被災者の支援を続けていきたいと考えております。

 

仙台弁護士会

高橋春男会長被災地弁護士会から伝えたいこと

東日本大震災の発生から約2年が経過しました。この間仙台弁護士会は、多くの会員が力を合わせて、震災ADRの運用、被災ローン減免制度(個人版私的整理ガイドライン)の利用促進と運用改善、被災した中小企業者の再生支援、福島原子力発電所事故被害者の損害賠償請求の支援など被災者の権利救済のための活動に取り組んできました。その際に日弁連・弁護士会連合会・各弁護士会および多くの弁護士から多大の人的・経済的支援を受けたことに深く感謝申し上げます。
現在被災地においては、各所で震災からの復興に向けた取り組みが進められています。その取り組みの中から見えてきた課題について、弁護士会の役割との関連で以下に述べさせていただきます。
大震災はある日突然起こります。しかし、例えば東海や東南海大地震などは近い将来の発生が予想されており、弁護士会としても一定の備えをしておく必要があります。ただ、弁護士会という組織の性格上避難訓練の実施や防災グッズ・非常用飲食料の備置などを除き、防災対策に力点を置くのは現実的ではなく、震災発生後の対応が中心となります。その観点から特に留意すべき事項は以下の二つです。
1つ目は、会長等の役員に事故がある場合の対応を含めた、緊急時の組織体制の維持と緊急連絡網の整備です。災害時シュミレーションに基づく訓練を行うことができれば理想的ですが、それが無理でもマニュアルの整備と関係者の理解が不可欠です。
2つ目は、震災直後の被災者相談への迅速な対応です。震災直後の被災者は、自分がどのような立場にあり、各種公的支援を受けられるかどうか、受けられる場合の支援内容はどのようなものかに高い関心があります。これら公的支援の大部分は法令の規定に基づくもので、平常時の研修によって私たち弁護士は容易に知識を身に付けることができます。震災直後は膨大な数の相談が寄せられるので、その時点で基本的な知識を有する多くの弁護士が必要になります。他方で、震災関連の法令や制度に精通した弁護士には、他の弁護士に対する指導的な役割が期待されます。このような役割分担も意識しながら、弁護士会全体で被災者の支援救済活動に取り組む姿勢を内外に示すことが必要であり、また重要です。
全国の皆様の今後の活動の参考にしていただければ幸いです。

 

福島県弁護士会

本田哲夫会長原発事故被害者救済へのご支援を

原発事故被害者救済へのご支援を 震災原発事故から二年経ちましたが、福島県民約200万人のうち現在でも約6万人が県外に、約10万人が県内に避難し、自宅に戻れないまま生活を送っています。
県外への避難者は全国のすべての都道府県に及び、それぞれ現地の自治体や市民の皆様、そして弁護士会や弁護士会連合会にお世話になっています。また当会は、全国の弁護士会、弁護士会連合会、日弁連から物心両面にわたり多大な御支援をいただきました。県民の1人として、また福島県弁護士会の代表として改めまして厚く御礼申し上げます。
さて、福島県内は、放射性物質の影響により制度的に避難しなければならない地域と、避難が義務付けられていない地域に分かれています。
避難が義務付けられている地域の方々に対する損害賠償は、大きく分けると東京電力に対する直接請求、文部科学省の原子力損害賠償紛争解決センター(原紛センター)への和解仲介の申立、そして訴訟によって図られていますが、これまでのところ訴訟は数十件単位、原紛センターへの申立は約5000件です。これに対して被害者は10万人単位ですので、恐らく9割を超える方が東京電力に対する直接請求で対処されているものと思われます。
一方、避難を義務付けられていない地域の方々でも、直接請求のほか、訴訟や原紛センターへの申立に踏み切った方もいらっしゃいますが、多くの方々は今後の情勢の推移を見てから検討しようと考えているものと思われます。
あと1年経ちますと震災原発事故から不法行為による損害賠償請求権の消滅時効期間の3年が経過することになります。
政府は、原紛センターへの和解仲介の申立に時効中断効を認め、その手続が終了してから一定の期間内に提訴すれば、時効中断効が継続するという構造の特別法を制定しようとしています。
しかし、被害者は数10万人あるいはこれを超える規模であり、これまでの提訴、原紛センターへの申立件数に照らすと、原紛センターへの申立あるいは提訴を時効中断の要件とすることだけでは、大半の被害者が救済されないことになり、およそ現実的ではありません。
法律で定める一定の時期までは一律に時効が進行しないという構造の立法が必要不可欠です。
今後とも全国の会員の皆様の御支援をどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

事務局長 八杖友一

高齢者・障がい者に関する震災対応PT2年間の取り組み

震災直後の2011年4月、高齢社会対策本部および高齢者・障害者の権利に関する委員会の有志メンバーで、女川町、石巻市等を現地調査のため訪れました。津波被害等で亡くなった人の65%以上が高齢者であることや障がい者の死亡率が二倍に上ること、避難所や仮設住宅等での高齢者、障がい者の悲惨な生活状況などを目のあたりにし、両委員会合同でプロジェクトチーム(震災PT)を立ち上げました。
最初に取り組んだのは、高齢者・障がい者を支援する弁護士を派遣する仕組みを作ることでした。厚生労働省との協議を繰り返し、同省が企画するサポート拠点との連携事業に弁護士派遣を組み込み(厚労省平成23年7月19日付事務連絡「サポート拠点等の被災者支援における弁護士会等との連携について」)、その財源として国の「介護基盤緊急整備等臨時特例基金(地域支え合い体制づくり事業)」を利用できるようにし、2011年9月から2012年6月にかけ、被災三県弁護士会の協力のもと、日弁連モデル事業を実施しました。
2つ目の取り組みは、福島の原発賠償問題で取り残されている障がい者の支援です。日本障害フォーラム(JDF)、福島県弁護士会と連携し「障がい者のためのわかりやすい東電賠償学習会」を福島県郡山市、いわき市、南相馬市、福島市、会津若松市の五カ所で開催するとともに、障がい者向け「Q&Aマニュアル」を制作・配布しています。(日弁連ホームページからダウンロード可能)
3つ目の取り組みは、個人情報の取扱いに関する対応です。東日本大震災では、自治体の個人情報の取扱いが適切でなく、高齢者・障がい者の安否確認が進まず個別の支援にも大きな支障が生じました。そこで、東京、大阪、愛知でシンポジウムを開催し、福祉関係者や自治体関係者等と、要援護者情報の適切な取扱いや、今後の対応について議論を深めています。国も問題意識を共有し、災害時要援護者名簿の共有等を災害基本法やガイドラインに明記する予定となりました。シンポジウムは今後、四国、九州、中国、北海道の各地で開催を検討しています。
震災PTでは、これらの取り組みに加え、東日本大震災における高齢者・障がい者支援の課題を整理・検証し、2012年4月に日弁連として「災害時における高齢者・障がい者に対する支援報告書」を公表し、同年10月には、あけび書房から出版しました。この報告書の内容を踏まえ、来るべき次の災害時に東日本大震災での反省や教訓が行かされるよう、厚生労働省や内閣府等との意見交換を予定しています。災害時における高齢者・障がい者支援の仕組みづくりや立法提言など、法律家である弁護士として出来ることを引続き探求し、実践していきたいと考えています。

 

ひまわり座談会 ~全国の会員で経験の共有を

1月26日、仙台弁護士会館にて、震災復興をめざす岩手はまゆり法律事務所(釜石市)の瀧上明会員、遠野ひまわり基金法律事務所の亀山元会員、いわて三陸ひまわり基金法律事務所(陸前高田市)の在間文康会員に集まっていただき、被災者支援の取り組みと今後の課題についてお話を伺いました。(広報室嘱託 白木麗弥)

 

左から在間会員、亀山会員、瀧上会員、コーディネーターを務めていただいた杉岡麻子会員(東日本大震災・原子力発電所事故等対策本部嘱託)―被災地での活動状況を教えてください

瀧上 震災後4カ月で釜石市に「震災復興をめざす岩手はまゆり法律事務所」を立ち上げました。2011年8月から11月までに釜石大槌地区の仮設住宅を全部回り、解決課題を明らかにすることができました。

 

亀山 私は赴任中に震災がありました。避難所での法律相談を岩手弁護士会で開始したのは、3月末でした。震災直後は交通手段がない方もおられて、被災地に出向く相談が大半でした。

 

在間 震災前は弁護士がいなかった陸前高田市に公設事務所が設置され、赴任しました。訪問した仮設住宅でお会いした方が来所されたケースもあり、被災者の元に出向くことの重要性を感じます。

 

―どのような相談が多いのですか 

瀧上 コンスタントに多いのは被災ローンと相続です。

 

在間 市の防災集団移転の最終意向確認があると相続相談が増える等、行政の動きに応じて相談の傾向が変わることもあります。

 

―亀山弁護士や瀧上弁護士は震災前から現地で仕事をしていますが、現地の経済状況や復興状況をどう見ていますか

瀧上 震災で手元に入った支援金や義援金、失業保険を使いきった感じの人が増えているのでこれからが危ない気がします。また、事業者が3、4割減り、雇用状況が長期的には悪くなるでしょう。岩手県の沿岸南部でも壊滅的な被害を受けたのが陸前高田市と大槌町、山田町です。今の段階では移転先も、区画整理の方法も決まっていないので、どこに行くかわからない。自治体の人はロードマップに従って進んでいると見るのでしょうが、住民から見ると先が見えないという意識のギャップがありますね。

 

亀山 遠野に被災者が多いわけではないので、震災以降は市外に法律相談に行く機会が増え、そのせいか離婚や遺産分割を含めた民事事件が増えました。

 

在間 確かに離婚事件は多いですね。生活環境が変わっていますし、震災がなかったらこのタイミングでの離婚はなかっただろうというケースはあります。

 

―被災ローン減免制度の利用状況はどうでしょうか

瀧上 利用者が委員会に相談の電話をかけてから、登録専門家への配点まで何カ月もかかることがあります。

 

在間 一時停止効の開始時期にも関わる問題なので、早期に登録専門家に配点してもらいたいですね。

 

亀山 運営委員会の本部を宮城に移すか、本部の権限を現地に移譲しないと迅速に対応するのはちょっと難しい感じですね。 

 

在間 被災ローン問題の解決には、やはり立法が必要だと思っています。事実上不公平な取扱いがなされている例もありますし、制度を知らずに支払った人は救われません。専門家から見ても、基準が不明確なので先が見えにくいと思い

ます。

 

―今後増えてくるであろう課題は

在間 加算支援金の期限が平成30年4月10日と定められていますが、短いと思っている被災者は多い。目に見えて何も進んでいませんから、自分たちが家を建てられる頃に支援金をもらえるか非常に不安だと思います。災害弔慰金も審査の基準が明らかに厳しすぎる。関連性について高度なものを要求されすぎていて、申請者の負担が重過ぎます。

 

亀山 これから土地や経済状況が動いてくると、権利関係の問題が浮かび上が

って、紛争が起きてくると思います。

 

―これまでの経験を踏まえ全国の会員に伝えたいことは

亀山 被災ローン減免制度は、金融機関側に有利な運用に変えられる危険性が常にあります。関心を持って監視してほしいと思います。

 

瀧上 今回の震災では兵庫県弁護士会の弁護士が活動をリードしてきた。それは阪神大震災の経験が活きているからです。皆が今度の震災の経験を共有すれば、次の災害ですぐ動ける。被災者支援や復興はまだ終わっていませんから、今からでも遅くないので、経験を共有していただければと思っています。

 

まちづくりを変える弁護士 

東日本大震災の半年ほど後から、まちづくりに携わる弁護士たちがいる。弁護士業務とは無関係にも見えるまちづくりにおいて、弁護士が関われることは何か。気仙沼の只越地区でまちづくりに関わる宇都彰浩会員(仙台・写真)に話を聞いた。

 

都彰浩会員弁護士は重要なパイプ役

宇都会員がこの支援に関わるようになったのは、兵庫が修習地だったことからだという。阪神・淡路大震災の教訓を活かすべく、兵庫県や兵庫県弁護士会では早くから被災地のまちづくりの支援に動いており、宇都会員自身も現在宮城県気仙沼市の只越地区で野崎隆一氏(NPO法人神戸まちづくり研究所事務局長)と共にまちづくりに携わる。
住民が高台への集団移転に参加したくても、自分のケースではどんなハードルがありどうすればクリアできるかがわからない。住民の合意形成を助ける専門家が未だ派遣されない自治体も多い。その結果、声高な主張だけが反映されたまちが作られたり、住民の意思形成が進まず復興が遅れたりする状況が見られる。宇都会員は「自治体自体もまちづくりに慣れていない場合もあり、住民は自分が何をどう判断したらいいのかがわからない。だからこそ、弁護士がそれぞれの住民の事情をくみ上げていく必要があるのです」と指摘する。
まちづくりでは弁護士は建築士等の専門家と連携することになる。地区のすべての仮設住宅を回り、震災前の生活ぶりについて聞くことからスタートし、土地を購入する人、復興住宅に入居する人等それぞれの立場の住民の意見を自治体に伝えた。その結果、エリア全体として土地購入者と復興住宅の入居者が近くに住むことが可能になり、コミュニティの再生に近づけるようになった。

 

―長いスパンでの仕組みを 

このような地道に人と人とのつながりを構築する方法を弁護士会単位で行うとなると、「予算や人の関係で柔軟性が損なわれ、却って自由に動けなくなってしまうのではないか」という懸念がある。しかし、現状は交通費等の諸費用ですら従事する会員が自己負担する完全ボランティアの状態だという。まちづくりが長いスパンで今後も続くことを考えれば課題はあまりにも大きい。
「日本にいればどの弁護士もまちづくりに携わる機会がありうる。いつどこで震災が起きてもこの事業に弁護士が携われる仕組みがあれば」と宇都会員はまちづくりに従事するための仕組みの必要性を訴えた。

 

日弁連支援制度を利用して ~復興に役立つ仕事に関われる喜び

震災当初、日弁連は被災地に赴任する弁護士への経済的支援制度を立ち上げ、11人の会員が利用しています。山岸会長の石巻市訪問(三面記事)に際し、この制度を利用して石巻市に赴任した松浦健太郎会員(64期)と、ボス弁である庄司捷彦会員(26期)を訪ねました。
(広報室長 生田康介)

 

左から松浦会員、山岸会長、庄司会員―赴任から一年が経過しましたが、どんな活動をされていますか

松浦 最近は私的整理ガイドラインの登録専門家にも任命されるなど、何らかの形で震災と関わっている案件が多いですね。生まれ育った石巻市で復興に役立つ仕事をしたいという目的が実現できており、有り難いなと思います。

 

―被災者支援活動のなかで、特に意識していることはありますか

松浦 家族を亡くした方も多く、相談者の気持ちに配慮しながら対応しています。法律相談にはカウンセリング的要素もあると強く感じます。

 

―ボス弁から見て、松浦会員が赴任して変化を感じますか

庄司 やはり助かっています。石巻は長年弁護士3人でしたが、現在は8人体制となっています。おかげで震災直後から被災者相談を続けることができました。近隣の法テラス南三陸や東松島の相談件数は今も減っていないようです。

 

―相談案件で特徴的なものはありますか

庄司 離婚案件は増えていると思います。次第に統計的にもはっきりしてくるのではないでしょうか。

 

松浦 一方で出産も増えていると聞きます。明るい話題ですね。

 

庄司 石巻支部は家事事件が増加し、民事事件も減っていません。しかし支部であるために態勢が不十分で、合議事件はできず競売も全部本庁管轄になってしまいます。この点は何とか改善していただきたい。

 

―行政との連携はうまくいっていますか

松浦 相談を受ける中で、行政でしか答えられない問題もあります。市役所には母校である石巻高校の先輩など知り合いも多く、いろいろ教えていただきながら対応してきました。

 

庄司 今後復興に関連する案件が増えてくるでしょう。石巻市に赴任予定の弁護士さんとも協力しながら進めていきたいですね。

 

原発事故損害賠償請求の現状と課題

原紛センターへの申立て

福島原発事故についての東京電力に対する損害賠償請求が2011年夏から始まり、これに伴い弁護団が各地で結成された。
弁護団では、南相馬市や双葉町をはじめ、飯舘村や伊達市等の被害者を代理し、集団申立てや集団請求を行なっている。また、各弁護団は定期的に集まり、現状での原子力損害賠償紛争解決センター(原紛センター)の運用状況や和解案成立事例などについてお互いに情報交換を行い、時には連名での意見書を公表するなどして意見表明を行ってきた。
また、弁護団は手続のあり方につき原紛センターとの意見交換も行う。一時よりは改善されたものの、和解案提示までの期間も当初の予定よりも時間がかかるのが現状で、原紛センターでの被害者救済の実効性を図る必要がある。

 

訴訟への動きの活発化

一方で、国に対する責任追及を行いたい、原紛センターでは十分な解決ができなかった等の理由(特に区域外避難者)から、直接請求や訴訟による解決を求める弁護団も出てきた。
ちょうど2年目に当たる今年3月11日に4か所(福島地裁、同いわき支部、東京地裁、千葉地裁)で各地の弁護団が集団訴訟を提起予定で、現在具体的な調整にさしかかっている。その他地域の弁護団も訴訟提起の検討を進めている。
今後も、不動産等の財物損害賠償手続が具体化するにつれ、建築時期が古い等の理由で十分な賠償がなされないケースが出てくればこうした訴訟を含めた解決が増加する可能性がある。
(東京弁護団所属弁護士 的場美友紀)

 

消滅時効に関する 東京電力の見解が公表される

東京電力および原子力損害賠償支援機構が提出した総合特別事業計画が2月4日に認定されたのに併せて、東京電力は、同日、原子力損害賠償請求権の消滅時効に関して見解を発表した。
公表された見解の骨子は、以下のとおりである。①仮払補償金の支払いの際に請求書等を送付した行為は、「債務の承認」に当たり、被害者が請求書等を受領した時点から、再び三年間の新たな時効期間が開始する。②時効の起算点は、東京電力が中間指針等に基づきそれぞれの損害項目について請求受付を開始したときからとする。
日弁連は、既に本年1月11日付けで意見書を取りまとめ、東京電力および国に対して、消滅時効を援用しないことを確約すべきこと、確約をした場合でも、その内容が不十分なときには、立法も含めたさらなる立法措置を講ずるべきことを求めていたが、上記した東京電力の見解には、次の3点において大きな問題があるといわざるを得ない。①請求書等の発送の対象とならなかった者、保管していない者、受領できなかった者については、消滅時効が完成する可能性があり、全体的解決となっていない。②この見解によっても、請求書等を受領したときから三年間時効が延長されるだけで、抜本的解決にはほど遠い。③国に対する請求等が対象から除かれている。
また、東京電力は、上記見解にて、消滅時効については「柔軟な対応」を行う旨も表明しているが、その内容は不明確であり、やはり救済策としては不十分である。
そこで日弁連は、2月5日付けで会長声明を発表し、東京電力に対して時効の援用権を行使しない旨表明するように再度要請するとともに、政府に対しても一律に立法により抜本的な救済措置を講じるよう、強く求めた。今後もこの問題について取り組みを続けていく。
(事務次長 二瓶 茂)

 

院内集会
原発事故被災者支援法に基づく施策の早期実現を
1月22日参議院議員会館

  • 原発事故子ども・被災者支援法に基づく施策の早期実現を求める院内集会

「できることから施策を進める」と語る森大臣原発事故子ども・被災者支援法ネットワーク(日弁連が支援団体とともに設立)が主催する院内集会が開催され、約200人が集まった。(日弁連ホームページ「NICHIBENREN TV」に動画を掲載)

 

冒頭、大城聡会員(東京)から、「支援法は、支援施策の推進に関する基本方針を決定し、その中で支援対象地域お。 よび施策推進に関する計画を定めることとしているが、昨年六月の法成立以降、基本方針の策定はされていない」と指摘するとともに、施策の具体的な内容については被害者の意見を反映させる必要があることを強調した
被害者等からの報告では、「自分たちの状況が正しく理解してもらえないため、声を上げなくなってきている」(避難区域の方)や、「福島でがんばること、避難することのどちらも等しく重要な権利であることをもっと大きな声で言ってほしい」(自主避難を決めた方)といった声が伝えられた。
また、支援者の立場から、「支援の対象地域は、行政的な区域ではなく放射線量に基づき決定するべきだ」と提言があり、過去の取り組みの経験から「自治体や弁護士等の専門家との協力により、支援の受け皿を作る必要がある」との指摘があった。
院内集会には多くの国会議員が出席し、森まさこ内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全、少子化対策、男女共同参画)は「(総選挙後)政府に入ってみると支援法関連には予算が全く付いていなかった。基本方針を早急に策定する必要があるが、それとともに基本方針と切り離してできるところから支援施策を進めていきたい」と抱負を語った。

 

原子力損害賠償紛争解決センターインタビュー

福島第一原発事故をめぐる被害者と東京電力の和解を仲介する原子力損害賠償紛争解決センターの開設からおよそ一年半が経過しました。開設後の運用実績とその評価、今後の課題と対応策について、原子力損害賠償紛争和解仲介室の野山宏室長、出井直樹次長にお話を伺いました。(広報室嘱託 大達一賢)

 

出井次長(左)と、野山室長―現在までの運用実績とその評価をお聞かせください

出井 当初は月間数10件だった申立件数が、2012年3月から7月にかけては400件を超えました。最近でもおおむね月間300件以上という水準が続いています。当初は申立件数に対する人員の態勢が追いつかない状況でしたが、人員の増強により、本年1月には初めて和解成立件数が新規申立件数を上回りました。


野山 当初は調査官(登録10年以内の若手弁護士を想定)30人程度の態勢でしたが、弁護士会のご協力もいただき、1月末の時点で調査官約130人態勢となりました。昨年までは標準的な申立で、和解提案まで半年以上を要していましたが、今年はこれを4~5カ月以内に短縮するのが目標です。そのためにも、調査官200人態勢を整えたいと考えています。

 

―調査官の過剰負担という状況は改善されたのでしょうか

出井 最近は所定の労働時間の範囲で仕事を終えて頂くことができており、弁護士業務との両立が十分可能となっているはずです。


野山 一方で、調査官を統括する、弁護士経験10年から20年程度の室長補佐クラスがさらに必要です。

 

迅速な事件処理についての工夫は

野山 センターは和解仲介に特化しているので、証拠による詳細な事実認定は必ずしも求められません。申立書や当事者の陳述書、経験則等から積極的に心証をとり、書面審理だけで和解案を提案することもあります。「ぜひ口頭審理を」というお気持ちも分かりますが、迅速な処理が多くの被害者の方々の利益につながるということをご理解いただきたい。東京電力に対しても、早期の認否など柔軟な対応を常に求めています。

 

―弁護士・弁護士会への要望は

野山 まだまだ必要な人員態勢には達していませんので、是非室長補佐・調査官への応募をご検討いただきたい。弁護士会の一層のご努力もお願いします。


出井 センターの運営は主として実務法曹が担っています。原発事故被害者の一日も早い救済のためにも、弁護士会のさらなるご協力を期待します。

 

 

避難する権利を求めて

SAFLAN副代表の福田会員

―避難する権利と被曝を避ける権利 
原発事故・子ども被災者支援法(支援法)が立法されてから半年経ったが、未だこれを具体化する基本方針は定められていない。原発事故被害者の避難する権利を求めて、被害者に寄り添う「福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク(SAFLAN)」の副代表である福田健治会員(第二東京)に話を聞いた。 

 

 個々の会員の活動から次第に組織化されてきたSAFLANには現在30人余りが所属する。「避難する人には避難する権利を、残る人には被曝を避ける権利を」というポリシーのもと、支援法の立法にも携わり、市民会議の一部として提言をまとめている。
 今も独自に月に1、2回法律相談を行う他、NPO団体の行う説明会や支援活動に参加し相談業務を行う。また、支援法に関する講演を全国から依頼されている。

 

―自主避難者支援のための代理人活動

SAFLANではこのような活動のほか、原発事故損害賠償の基準作りを目的に代理人活動を行っている。自主避難者の支援を目的としていたSAFLANは、中間指針に自主避難者の項目がなかったことを受け、2011年8月12日に411世帯の請求書を東京電力に提出した。また、9月の終わりに自主避難者にも賠償を認めるべきとの意見書を発表し、審査会に送ると同時にロビー活動を行った。その結果、審査会という公の場で実際に自主避難した人々の声を届ける機会を実現させ、12月の追補に結びつけた。今後も大きく被害者をめぐる政策全体の流れに意義があれば訴訟を含め検討していくという。

 

―福島で暮らす人々の健康問題へ

これまで避難する権利を考えてサポートすることを中心としてきたSAFLANだが、「今後は福島で暮らす人々の健康問題にも取り組みたい」と福田会員は語る。専門家市民委員会を立ち上げ、第三者から福島県の県民健康管理調査をレビューすること、健康診断を国から進め、県外でも行う活動を進める予定だ。また、支援法以外にも、健康診断問題についての立法を政党に対し働きかけていくという。
原発問題は難しいのではないかという会員に向け、「原発問題は運用の変化が早く、今でも数件ADRの代理を行えばその分野の最前線にいけるので、ぜひチャレンジを」と福田会員は語った。

 



 

 

院内集会
新しい国会で、取調べの可視化の実現を!
1月24日 参議院議員会館

  • 取調べの可視化を求める院内集会 新しい国会で、取調べの可視化の実現を!

冤罪被害の経験から可視化の必要性を訴える桜井氏1面記事でも報告しているとおり、1月18日、法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会において、取調べの録音・録画の範囲を限定的なものとし、さらには対象範囲を取調官の裁量に委ねる案を併記するという、極めて問題のある「基本構想の部会長試案」が公表された。本集会では、部会長試案の問題点を指摘・批判するとともに、1月29日の取りまとめに向け、取調べの全過程の録画の必要性について確認した。

 

冒頭、特別部会委員の青木和子会員(第二東京)が、PC遠隔操作事件で4人の被疑者のうち、2人が自白したという事実に触れ、取調べの可視化の必要性を訴えた。「特別部会は、全過程の録画・録音の制度化を話し合う場だったにもかかわらず、部会長試案には進歩が感じられない」と指摘した。
続いて、布川事件冤罪被害者の桜井昌司氏、無実のゴビンダさんを支える会事務局長の客野美喜子氏、非営利団体マザーハウス代表の五十嵐弘志氏から、意見表明があった。
桜井氏は、特別部会の幹事の半分以上が法務省関係者であると指摘し、「これできちんとした取りまとめができるのか」と怒りの声をあげた。
五十嵐氏は、被疑者として実際に取調べを受けた経験に基づき、発覚している冤罪は「氷山の一角」であると訴えた。
客野氏は、「ゴビンダ氏の『無実の者が刑務所に入れられるのは、私で最後にしてください』という悲痛な訴えに警察は応えようとしていない」と語り、「冤罪をなくすには、取調べの全過程の録画と全面証拠開示を法的に義務付けるしかない」と強く主張した。

 

シンポジウム
福祉大国デンマークに学ぶ   ~国民の納得に基づく高負担・高福祉
1月29日弁護士会館

  • 総選挙後の今、福祉大国デンマークに何を学ぶか―働き方と国民負担のあり方を問う―

「デンマーク人は民主主義について徹底的に議論する」と語る銭本氏日弁連貧困問題対策本部は、2012年8月、デンマークを訪れ同国の社会保障制度を調査した。高負担・高福祉の北欧型福祉国家として国民の幸福度調査世界一位(OECD調べ)を誇るデンマークの調査結果を踏まえ、社会保障制度改革の真っ直中にある日本が何を学ぶべきか議論した。

 

日弁連貧困問題対策本部は、2012年8月、デンマークを訪れ同国の社会保障制度を調査した。高負担・高福祉の北欧型福祉国家として国民の幸福度調査世界一位(OECD調べ)を誇るデンマークの調査結果を踏まえ、社会保障制度改革の真っ直中にある日本が何を学ぶべきか議論した。

基調報告では、教育、医療、公的扶助、育児、介護などあらゆる場面において、税金を財源とする平等な社会保障を実現するデンマークの現状が明らかにされた。無償医療、無償教育、無料在宅サービスを原則とする高齢者施策などは、徹底した民主主義のもと、国民の納得に基づく高い税負担により実現されている。
続いて、根本到教授(大阪市立大学)が、労働分野における特徴を解説した。高い女性の就業率、失業時の充実した教育実習カリキュラムなど、積極的な雇用政策が失業率の低さにつながっている。ただし、2008年の金融危機以降、デンマークでも高福祉を維持するための財政問題が深刻化しているという。
デンマーク滞在歴が長く調査のコーディネートも行った銭本隆行氏(日欧文化交流学院長)は「デンマーク人は幼少時から民主主義について徹底的に議論している」、「個人を尊重し、国が平等な給付を実現するというコンセンサスのもと、誰もが所得比例で税を負担する義務があることを理解している」と説明した。
これら報告を受け、貧困問題対策本部副本部長の尾藤廣喜会員(京都)は、日本にはデンマークのような「社会保障のグランドデザイン」がないと指摘し、この点について日弁連が主体的に構想し提言していくことの重要性を強調した。

 

再審シンポジウム
冤罪はこうしてつくられる   ~PartⅡ~問われる裁判所の責任
1月31日弁護士会館

  • 再審連続シンポジウム「冤罪はこうしてつくられるpartⅠ・PartⅡ」

冤罪事件における裁判所の対応を批判する江川氏本シンポジウムは、昨年11月9日の「捜査・公判の実態」に引き続き開催された。今回は、裁判所の責任という観点から、冤罪がつくられる原因とその防止策について検証した。

 

基調報告において、名張事件弁護人の脇田敬志会員(第二東京)は、2005年の再審開始決定が奥西勝氏の自白を信用性がないと判断したのに対し、2006年の異議審が「自白の信用性は高い」と判断したことについて、「自白偏重が著しい」と厳しく批判した。奥西氏は現在八七歳と高齢であることから、一刻も早い再審開始を訴えた。
パネルディスカッションでは、ジャーナリストの江川紹子氏、元裁判官の安原浩会員(兵庫県)、名張事件弁護人の鈴木泉会員(愛知県)を迎え議論した。
江川氏は、冤罪が明らかになった場合「捜査機関は内輪ながらも検証するが、裁判所は検証すらしない」と裁判所を批判し、再審手続を国民の監視下におくべきと問題提起した。
安原会員は「裁判官は日々膨大な調書に目を通すうちに、無罪推定の原則を貫くことが難しくなってくる」、「調書中心の裁判はやめるべき」と訴えた。また、「冤罪をなくすためには、裁判官以外の視点を取り入れるべく、法曹一元を進めることが必要」と主張した。
鈴木会員は、名張事件決定の矛盾点を指摘しつつ、「無罪推定の原則が形骸化しており、検察官の主張を鵜呑みにする裁判所に対し、弁護人がその無実を晴らしていくという、原則とは全く逆の手続きになっている」と裁判所の姿勢を厳しく批判した。

 

指定弁護士のための全国経験交流集会
沖縄未公開株事件・明石歩道橋事件・陸山会事件の経験から
2月1日 弁護士会館

2月8日、徳島地裁で、検察審査会の議決によって強制起訴された一審判決において、初めて有罪判決が出た。2004年の検察審査会法の改正により、強制起訴により指定弁護士が検察官の職務を行うこととなったが、その職務はあまり公表されていない。
本集会では、沖縄未公開株事件の天方徹会員(沖縄)、明石歩道橋事件の長谷部信一会員(兵庫県)、陸山会事件の山本健一会員(第二東京)が、指定弁護士の執務内容を紹介した。

 

指定弁護士となるまで

指定弁護士は、その管轄区域内の弁護士会の推薦を受けて、裁判所が指定する。「沖縄では、当時五人が指定弁護士として登録していた。現在は、20人ほどの弁護士が登録しているが、実際に事件が回ってくると断る弁護士が多い」との天方会員の発言があった。
この点、現在審級ごとの手当が19万円から120万円であり、作業量に見合っていないことも問題だとの指摘があった。

 

補充捜査を行う際の苦労

天方会員から、「検察官を通じての呼出と違い、指定弁護士からの呼出にはなかなか応じてもらえないことがあった」、山本会員から、「『既に警察・検察の事情聴取は受けた。もう事情聴取はたくさん』と言われ、参考人から話を聞くのに苦労した」との話があった。

 

補察庁での執務とマスコミ対応

執務は、原則地検が用意した部屋で行い、事務官が調書作成を補助してくれる。検察庁への出入りの方法や、部屋を利用できる日、時間等については、各検察庁により対応が異なるようであった。 マスコミ対応について長谷部会員は、「公判が終わるごとに記者会見をして、個々の事務所での対応はしないようにした」と語った。 最後に、「社会が注目する事件を担当できることは弁護士冥利に尽きる」との感想が語られ閉会した。

 

シンポジウム
改正行政事件訴訟法の見直しはやはり必要
1月21日 弁護士会館

  • シンポジウム「法務省検証報告書を検証する-改正行政事件訴訟法施行状況検証研究会報告書(平成24年11月)の問題点を徹底検証する-」

2005年に施行された改正行訴法の5年目見直しを受けて、昨年11月、法務省は「現時点において直ちに見直しを実施する必要性はない」とする検証報告書を公表した。本シンポジウムでは、報告書の問題点を検証し、改正行訴法見直しの必要性を訴えた。

 

冒頭、行政訴訟センターの阿部泰隆委員(兵庫県)が、司法の行政に対するチェック機能の強化の必要性から、権利救済の実効性、両当事者の対等性、救済ルールの明確性が不可欠であると指摘した。その上で、「未だ行訴法は、訴えの濫用を防止するための法律で、国民の権利救済のための法律ではない」と主張した。
続いて、「サテライト大阪」設置許可処分取消請求事件の代理人を務めた八木倫夫会員(大阪)と東九州自動車道事業認定事前差止請求事件および原子力発電所運転差止請求事件の代理人を務めた海渡雄一会員(第二東京)が、改正行訴法の問題点を指摘した。
八木会員は、原告適格につき、「著しい業務上の支障が生ずるおそれがあると位置的に認められる区域」に限定した判決は、裁判所の解釈に委ねる範囲が大きすぎると訴えた。
海渡会員は、強制収用に対して補償がなされれば「重大な損害がないとの判決は、「既成事実の前に行政措置が積み重ねられることを防ぐための差止制度の存在意義そのものを否定する」と主張した。また、東日本大震災後の原発関連行政訴訟につき、「取り返しのつかない被害の大きさと、現実に事故が発生したという事実を踏まえ、裁判所がどう判断するか注視したい」と語った。
後半は、岩本安昭行政訴訟センター副委員長(大阪)と水野武夫同委員(大阪)が、パネルディスカッションを行い、被申請型義務付け訴訟の要件、差止訴訟の要件、裁量権の逸脱の判断基準など改正行訴法のさらなる見直しの必要性を指摘した。

 

法制審議会 新時代の刑事司法制度特別部会

「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」要旨

※基本構想全文は法務省ホームページに掲載


検討指針

「取調べへの過度の依存からの脱却と証拠収集手段の適正化・多様化」および「供述調書への過度の依存からの脱却と公判審理の更なる充実化」について、同部会の下に2つの作業分科会を設け、制度設計のたたき台等の資料を作成した上で、同部会で検討を行うこととされた。

 

取調べの録音・録画

「一定の例外事由を定めつつ、原則として、被疑者取調べの全過程について録音・録画を義務付ける」制度と、「録音・録画の対象とする範囲は、取調官の一定の裁量に委ねるものとする」制度の2つの制度案を念頭に置いて具体的な検討を行うこととされた。
そして、前者の制度案(録音・録画義務付け)の対象事件については、「裁判員制度対象事件の身柄事件を念頭に置いて制度の枠組みに関する具体的な検討を行い、その結果を踏まえ、更に当部会でその範囲の在り方についての検討を加える」こととなった。また、参考人取調べの録音・録画については、「被疑者取調べの録音・録画制度についての具体的な検討結果を踏まえつつ、必要に応じて更に当部会で検討を加える」こととされた。

 

被疑者・被告人の身体拘束の在り方

「勾留と在宅の間の中間的な処分を設ける」「被疑者・被告人の身柄拘束に関する適正な運用を担保するため、その指針となるべき規定を設ける」ことについて、「指摘される懸念をも踏まえ、その採否も含めた具体的な検討を行う」こととされた。

 

証拠開示の拡充

「公判前整理手続における被告人側からの請求により、検察官が保管する証拠の標目等を記載した一覧表を交付する仕組みを設けること」および、「検察官及び被告人又は弁護人に公判前整理手続に付する請求権を与えること」について、「同手続の運用状況等をも踏まえ、その採否も含めた具体的な検討を行う」こととされた。
類型証拠開示については、「対象となる証拠に被告人以外の者の供述内容が記載された捜査報告書等を含めるべきとの意見もあった」ことを指摘した上で、今後の具体的な検討の中で、「必要に応じ、その要否及び当否も含めて検討する」こととされた。また、再審請求審における証拠開示についても、「通常審における証拠開示の在り方についての具体的な検討結果を踏まえ、必要に応じて更に」同部会で検討を加えることとされた。

 

弁護人による援助の充実化-被疑者国選弁護制度等

「被疑者国選弁護制度の対象を、被疑者が勾留された全ての事件に拡大することについて、弁護士の対応態勢、更なる公費負担の合理性や予算措置の可否など、指摘される懸念をも踏まえて具体的な検討を行う」こととされた。
さらに逮捕段階の弁護人援助の制度については、勾留全件についての具体的な検討結果を踏まえ、必要に応じて更に同部会で検討することとなった。

 

通信・会話傍受等

「通信傍受の対象犯罪を拡大し、振り込め詐欺や組織窃盗を含め、通信傍受が必要かつ有用な犯罪において活用できるものとする」こと、「暗号等の技術的措置を活用することにより、立会いや封印等の手続を合理化する」こと、「該当性判断のための傍受の方法として、全ての通信を一旦記録しておき、事後的にスポット傍受の方法による必要最小限度の範囲の聴取を行うことも可能な仕組みとする」ことについて、「傍受の実施の適正を担保しつつ、…通信傍受法を改正することについて具体的な検討を行う」こととされた。
また、会話傍受については、「①振り込め詐欺の拠点となっている事務所等、②対立抗争等の場合における暴力団事務所や暴力団幹部の使用車両、③コントロールド・デリバリーが実施される場合における配送物の3つの場面を念頭に置き、指摘される懸念をも踏まえて、その採否も含めた具体的な検討を行う」こととされた。

 

その他

刑の減免制度、協議・合意制度(いわゆる司法取引制度)及び刑事免責制度の採否についても、具体的に検討されることとされた。また、犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充、公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等(司法の機能を妨害する行為への対処)、自白事件を簡易迅速に処理するための手続の在り方について、具体的に検討されることとなった。

 

「別途検討」とされた事項

被疑者の取調べへの弁護人の立会いについては、取調べの録音・録画制度以上に「取調べへの支障が大きいとして強い異論があることから、当部会において結論を得ることは困難であり、その要否及び当否も含めて別途検討されるべきである」とされ、同部会での具体的な検討対象となるに至らなかった。
また、いわゆる2号書面制度の在り方については、参考人取調べの録音・録画に関連する部分を除き、「当部会で結論を得ることは困難と考えられることから、その要否及び当否も含めて別途検討されるべきである」とされた。
さらに、事実認定と量刑に関する手続の在り方(手続二分制度)、DNA型鑑定資料の採取及び保管等に係る法制化、検察官の上訴権の制限、刑事実体法の在り方等についても、「別途検討されるべき」とされ、同部会での具体的な検討対象となるに至らなかった。
日弁連としては、これらの事項が、将来の課題として先送りにされてしまうことのないよう、検討の早急な開始について強く働きかける必要がある。

 

ブックセンターベストセラー
(2012年11月・六法、手帳は除く)協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書籍 著者・編者 出版社
1 民事再生の手引[裁判実務シリーズ4] 鹿子木 康 編 商事法務
2 東京家庭裁判所における人事訴訟の審理の実情 第3版 東京家庭裁判所家事第6部 編著 判例タイムズ社
3 概説 家事事件手続法 秋武憲一 編著 青林書院
4 別冊ジュリストNo.212 行政判例百選2〔第6版〕 宇賀克也・交告尚史・山本隆司 編  有斐閣
5 破産実務Q&A200問 ―全倒ネットメーリングリストの質疑から 全国倒産処理弁護ネットワーク 編 きんざい
6 破産管財の手引[増補版] 東京地裁破産実務研究所会 著 きんざい
7 民事保全の実務[裁判実務シリーズ3] 菅野博之・田代雅彦 編 商事法務
8 労働関係訴訟の実務[裁判実務シリーズ1] 白石 哲 編著 商事法務
9 インターネット新時代の法律実務Q&A 日本加除出版 日本加除出版
10 保証の実務[新版]―保証契約の不成立から求償まで― 新潟県弁護士会 編 新潟県弁護士会

編集後記

本号3面~6面は東日本大震災二周年特別号です。「2年間の日弁連の活動が俯瞰できるものを」との事務総長のオーダーのもと、被災者支援、震災復興、原発事故対応など、嘱託四人でなるべく広く取材し、原稿を寄せて頂いたつもりです。特別号だけ抜き出すこともできますので、ぜひ目を通していただければと思います。編集を通じて感じたのは「いまだ災害・被害は終わっていない」ということです。災害・被害を過去のものとしないよう、全国の会員の力で、息の長い被災者支援、原発事故被害者支援を行っていく必要があると思います。また、通常紙面でも、法制審刑事特別部会の取りまとめ、法曹養成検討会議の動きなど重要な記事が重なりました。いつもの倍の紙面を編集するのはかなりの労力を要しましたが、何とか校了にこぎつけることができました。ご協力頂いた皆様に感謝いたします。(K・I)