「生活保障法」の制定等により、すべての人の生存権が保障され、誰もが安心して暮らせる社会の実現を求める決議


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憲法第25条は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」として生存権を保障し、これを具体化するために生活保護制度が存在している。


しかし、日本の相対的貧困率は15.4%であり、貧困とされる人は1900万人に上るが、生活保護を利用している人は204万人にとどまり、貧困とされる人の1割程度しか生活保護の利用にたどり着けていない。外国人には生存権の保障すら及ばないものとされ、特定の在留資格を有しない者は必要な医療さえ受けられないという非人道的な扱いを受けている。


また、生活保護の利用にたどり着いた人も、度重なる生活保護基準の引下げにより、「健康で文化的な最低限度の生活」を保障されているとは言い難い状況にある。2013年からの史上最大規模の生活保護基準引下げに基づく保護費減額処分の取消し等を求めた訴訟において、名古屋高等裁判所は、2023年11月30日、「健康で文化的な最低限度の生活」といえるためには、3度の食事ができるだけでなく、基本的な栄養バランスのとれた食事、親族間や地域における対人関係、自分なりに何らかの楽しみが行えることが必要であると指摘した上で、保護費減額処分を取り消しただけでなく、生活保護利用者が「生活扶助費の減額分だけ更に余裕のない生活」を「長期間にわたり強いられてきた」ことを理由として国に慰謝料の支払まで命じる厳しい判決を言い渡した。また、これまでに全国の裁判所で言い渡された32の判決のうち半数を超える18の判決で生活保護基準の引下げが違法とされた。


このように、現在の生活保護制度は、「すべての人」に「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するセーフティネットとして機能しているとは言い難い状況にある。


その要因には、生活保護制度の問題と、それと密接に関わる社会保障制度全体の問題とがある。前者は、「保護」というスティグマ(恥の烙印)を与える名称、福祉事務所窓口での違法・不当な「水際作戦」、保護開始時に僅かな資産しか保有を容認されないという高いハードル、親族への扶養照会、合理的根拠によらない生活保護基準引下げなど、利用者の尊厳を傷つける法律上及び運用上の問題である。また、後者は、もともと社会保障制度が脆弱であったのにもかかわらず、不安定就労の拡大により低所得層が増大する中で「自己責任」が強調され、所得制限などによる対象者の厳しい選別・限定や年金の引下げなどによる保障水準の低下が進められ(選別主義の強化)、生活保護制度の前段階で社会保障制度に支えられずに困窮する人が増えているという問題である。これが、生活保護利用者が特別に恩恵を受けているとの偏見を強め、その結果、生活保護の利用を厳格化する国の政策が進められた。このことが、利用者の尊厳を傷つける生活保護制度の問題点とあいまって、生活保護に対する強烈な忌避感を醸成し、生活保護制度の利用を更に抑制する結果となっている。


ひとり親世帯(特に母子世帯)・高齢者世帯(特に単身高齢女性世帯)・障害者世帯など、もともと経済的基盤に乏しい世帯は、些細なきっかけが生活の破綻へとつながる危険を常に抱えている。また、低賃金で不安定な非正規雇用労働者が増え続け、フリーランスやギグワーカーなどと呼ばれる「雇用によらない働き方」をする人も増えているが、こうした人々は仕事の喪失が収入の喪失に直結し、たちまち困窮状態に陥ることが多い。さらに、正規雇用の下で働く人々にとっても、生活困窮は決して縁遠いものではない。このように、誰もがたやすく困窮状態に陥り得る社会情勢の下、生活保護の機能不全の要因を解消し、日本で暮らすすべての人の生存権が実質的に保障され、誰もが安心して暮らせる社会を実現することが強く求められている。


そのためには、中長期的な課題として、社会保障制度全体の在り方を見直し、人間としての尊厳を維持するに足る生存に必要不可欠な医療、介護、保育、教育、障害者福祉などについては、誰もがサービスにアクセスできることを保障し、最低保障年金や家賃補助(住宅手当)の創設、児童手当の増額等の所得保障制度を拡充することなどを通じて、社会保障制度の普遍性を強化し、中間層を含む幅広い人々の受益感を高めて互いに支え合う社会へと漸進させることが必要である。


また、2023年の自殺者のうち、経済・生活問題、中でも生活苦及び負債を理由とする自殺者数が僅か2年でいずれも1.5倍以上に急増し、生存を脅かされる人が日々続出している現状においては、生存の最後の砦である生活保護制度の法律上及び運用上の問題点を解消し、人間のいのちと暮らしを徹底して支えることが喫緊の課題である。国は、下位10%の最貧困層の消費水準との比較を理由に、2025年度には更なる生活保護基準の引下げを予定しているが、酷暑が年々悪化し、光熱費を含む物価高騰が続く中、到底容認することができない。


現行生活保護制度が制定された1950年と現代では、社会の様々な側面で大きな変化があるにもかかわらず、旧態依然とした日本の生活保護制度の現状は、先進諸外国と比較すると著しく立ち遅れている。当連合会は、2008年11月18日に「→生活保護法改正要綱案」を、2019年2月14日にその→改訂版を公表し、生活保護法を権利性の明確な「生活保障法」に改正することを提言してきたが、その後の状況の変化を踏まえ、生活保護制度が、一時的な困窮に陥った人も含めて誰もが必要に応じて利用しやすい制度となるよう、より豊かな内容を持つ「生活保障法」に改正することを改めて提案する。併せて、国及び地方自治体に対し、以下の施策を実施するよう強く求める。


1 「生活保護法」から「生活保障法」への改正

 生活保護法を、次に挙げる事項を盛り込んだ「生活保障法」に改正すること。

 (1) 法律の名称を「生活保障法」に変更し、「被保護者」を「利用者」、「扶助」を「給付」とするなどのように用語を置き換えて、権利性を明確にする。


 (2) 国と実施機関の生活保障制度の周知・広報義務、教示・助言義務、捕捉率の調査・向上義務を明記する。


 (3) 外国人を含めた日本に在留するすべての人が生活保障法の適用対象となることを明記する。


 (4) 「健康で文化的な生活」水準を保障するため、生活保障基準の改定は、①国会が、利用当事者の意見を反映させた専門的知見を有する審議会の検証結果を踏まえ、統計等の客観的数値等との合理的関連性について再検証可能な方法により行うこと、②周囲との交流、文化的生活への参加、子ども・青少年の成長発達に必要な費用を保障すること、及びこうした需要をも充足する新たな検証手法によることを明記する。


 (5) ケースワーカーを福祉専門職として位置付け、ケースワーカー一人当たりが担当するケース数の上限を明記する。


 (6) 教育・住宅・医療・自立支援(生業)の各給付については、収入が最低生活費の130%未満であれば単独で利用可能とする。


2 厚生労働省通知及び厚生労働大臣告示の改正

 上記1の法改正を待つことなく、速やかに厚生労働省通知及び厚生労働大臣告示を次に挙げる内容に改正すること。

 (1) 保護開始時に当該世帯の最低生活費の6か月分の預貯金の保有を認める。


 (2) 処分価値の小さい自動車について生活用品としての保有を認める。


 (3) 扶養照会は、申請者が扶養義務者に自己の扶養を求める意思を示した場合に限り行う。


 (4) 大学生等が生活保護制度を利用しながら就学することを認める。


 (5) 2025年度からの更なる生活保護基準引下げを中止する。


 (6) 生活保護基準を引き上げ、夏季加算を創設する。


3 地方自治体の先進的取組の実践・共有による、地域からの生存権保障

 地方自治体においては、地方自治体の広報・教示義務等を定めた条例の制定、ホームページや「保護のしおり」の記載内容の改善、SNSやポスター等での広報、申請権侵害を根絶するための書式・手順の改善、ケースワーカーの増員や専門性確保等、「生活保障法」の趣旨を実現するための独自の運用改善や条例制定等を率先して行い、各地の先進的な取組を相互に共有しつつ、地域から、すべての人の生存権が保障される社会を創る実践を続けること。


当連合会は、これまでも生活保護を始めとする社会保障分野における研究・提言・相談支援活動に取り組んできたところであるが、今後、こうした取組をより一層強化し、各地域において、様々な専門職や団体と連携しながら地方自治体への働きかけ等を行い、地域から先進的な取組を拡大していくことや、司法が「少数者の人権保障の砦」としての機能を十全に果たすための取組を強化することなどを通じて、上記の提言内容の早期実現に向けて全力を尽くすことを決意する。

 

以上のとおり決議する。


2024年(令和6年)10月4日
日本弁護士連合会


提案理由

第1 憲法第25条の保障内容・対象と、セーフティネットとして機能し得ていない生活保護制度

1 憲法第25条の保障内容

   憲法第25条は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(第1項)、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」(第2項)と規定している。


   現代社会における憲法第25条第1項の「健康で文化的な最低限度の生活」の意義については、「肉体的生存が維持できない状態」をもって貧困(あってはならない生活状態)とする絶対的貧困概念に依拠することが許されないのはもちろんのこと、相対的貧困概念(「その社会で当たり前とされる生活ができない状態」を貧困とする考え方)にとどまることなく、更に一歩進めた、社会的排除概念(「その人らしく自己決定しながら社会参加できないこと」を貧困とする考え方)に依拠して解釈される必要がある。


2 憲法第25条の保障の対象

   マクリーン事件最高裁判決(最高裁大法廷1978年(昭和53年)10月4日判決)は、「憲法第三章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべき」と判断している。同判決が「外国人に対する憲法の基本的人権の保障は…外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎない」と判断したことには疑問があるが、上記の最低限度の生活の憲法上の保障は人間の尊厳を保つ上で必要不可欠なものであるから、憲法第25条第1項が保障する生存権のみならず、憲法第13条が保障する個人の尊重、生命、自由及び幸福追求に対する権利の前提としても、これを保障されなければならない。したがって、最低限度の生活の憲法上の保障は、権利の性質上、日本国民のみをその対象としていると解することはできず、日本に在留する外国人を含む「すべての人」に対して等しく保障されなければならない。

なお、同判決は、「特別の条約がない限り、外国人を自国内に受け入れるかどうか、また、これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを、当該国家が自由に決定」できるとも判示しているが、同判決の翌年である1979年に日本が批准した経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)第9条は「社会保障についてのすべての者の権利」を認め、第11条第1項は「相当な食糧、衣類及び住居を内容とする相当な生活水準についての並びに生活条件の不断の改善についてのすべての者の権利」を認め、第2条第2項は規約に規定する権利がいかなる類いの差別もなく行使されることを保障しており(一般的意見第20)、憲法第98条第2項が締結した条約を誠実に遵守することを求めていることからしても、在留資格のいかんにかかわらず外国人を含む「すべての人」の「相当な生活水準の権利」が平等に保障されなければならない。また、社会保障に対する権利に関して、社会権規約第2条第1項は締約国に完全な実現に向けて措置を採る義務を課しているため(一般的意見第3)、後退的措置は禁じられているとの強い推定が働くものと解されている(一般的意見第19・パラグラフ42)。


3 多くの人が生活保護制度の利用にたどり着けていない状況

(1) 低すぎる利用率と捕捉率

  日本の生活保護利用者数は、2015年3月の217万4000人をピークに減少傾向にあり、直近(2024年5月)では201万4000人となっている(厚生労働省「被保護者調査」)。相対的貧困率、すなわち貧困線(等価可処分所得の中央値の半分。2021年は127万円)を下回る等価可処分所得しか得ていない人の割合が15.4%で、人数にして1900万人に上ることからすれば、貧困とされる人の1割程度しか生活保護の利用にたどり着けていないことになる(2022年国民生活基礎調査)。

生活保護利用世帯のうち母子世帯が占める割合(世帯数)も、2004年度には8.8%(8万7000世帯)であったものが、2024年5月には3.8%(6万2000世帯)と減り続けている。2021年度における母子世帯数は119万5000世帯であるが(令和3年度全国ひとり親世帯等調査)、同年のひとり親世帯全体の世帯員の相対的貧困率が44.5%に及ぶこと、ひとり親世帯の約89%(2021年度)を占める母子世帯の所得は父子世帯より明らかに低いことからすれば、貧困とされる母子世帯(53万世帯以上)のうち生活保護の利用にたどり着けている世帯は、やはり1割程度と解される。

厚生労働省の国民生活基礎調査に基づく推計(2018年11月公表)によっても、生活保護基準以下の低所得世帯に対する生活保護利用世帯の割合は22.6%にとどまっている。

日本と諸外国で、貧困とされる人のうち、どの程度を公的扶助で捕捉しているかについて、公的扶助利用率(①)を相対的貧困率(②)で除した割合で比較すると、日本が10.8%(①1.7%/②15.6%)であるのに対し、ドイツは100%(①9.5%/②9.5%)、フランスは139%(①11%/②8%)、スウェーデンは47.8%(①4.2%/②9.2%)、韓国は23.2%(①3.2%/②13.8%)であり、日本の低さが際立っている(生活保護問題対策全国会議編「「生活保護法」から「生活保障法」へ」明石書店、2018年)。


(2) 低すぎる公的扶助の対GDP比率

  日本と諸外国の公的扶助支出(医療費を除く。)の対GDP比率をOECDの社会支出統計(2019年)に基づいて比較すると、日本は0.29%で、フランス(1.41%)、イギリス(1.25%)、ドイツ(0.95%)にはるか及ばないだけでなく、アメリカ(0.90%)と比べても、その3分の1にも達しない。


  生活保護費が日本の国家財政を圧迫しているかのように喧伝されることがあるが、そのような事実はなく、日本の公的扶助の対GDP比は先進国内で際立って低い。


(3) 生存権の保障すら及ばないものとされている外国人

  技能実習生など日本で働く外国人が増える中、失業や疾病等によって生活困窮に陥る外国人も少なくない。特に仮放免等の非正規滞在の外国人は、働くことも生活保護を始めとする社会保障制度を利用することも許されず、健康を害しても医療さえ受けることができず生存の危機に瀕するという非人道的な事態がまかり通っている。


4 生活保護の利用にたどり着いても「健康で文化的な最低限度の生活」が保障されているとは言い難い状況

(1) ナショナル・ミニマムとしての保護基準の低さ

  生活保護基準は、ナショナル・ミニマム(国が国民に最低限保障すべき生活水準)とも言われているとおり、生存権保障の岩盤を成す重要な「ものさし」であり、国の発表でも、最低賃金、地方税非課税、地方税・保育料・国民健康保険料・介護保険料等の減免、就学援助等の47以上の低所得者支援制度の基準と連動している。


  この生活保護基準が、この20年来、相次いで引き下げられ続けていることによって、生活保護の利用にたどり着いたとしても、「健康で文化的な最低限度の生活」を保障されているとは言い難い状況が生じている。


  すなわち、国は、2004年から老齢加算を削減・廃止したが、2013年からは史上最大規模(平均6.5%、最大10%)で生活扶助基準を引き下げ、2015年からは住宅扶助基準と冬季加算を引き下げ、2018年からは生活扶助(平均1.8%、最大5%)と母子加算・児童養育加算等を引き下げた。


  このうち2013年からの生活扶助基準引下げに対しては、全国29の地方裁判所で、1000名を超える生活保護利用者が保護変更決定処分の取消し等を求め、31の訴訟(いわゆる「いのちのとりで裁判」)が提起された。これまでに、32の判決(地裁28、高裁4)が言い渡されているが、うち半数を超える18の判決で保護変更処分が取り消され(2024年7月末日現在)、生活保護基準の設定を争う訴訟としては認容率が高い異例の展開となっている。特に、法制定当初から慣例とされてきた専門家から成る審議会(生活保護基準部会)の検証を経ることなく、厚生労働省独自の物価指数を考慮した「デフレ調整」の恣意性が、司法の場で繰り返し指摘されている。とりわけ、名古屋高等裁判所は、2023年11月30日、保護費減額処分を取り消しただけでなく、生活保護利用者が「生活扶助費の減額分だけ更に余裕のない生活」を「長期間にわたり強いられてきた」ことを理由として国に慰謝料の支払まで命じる厳しい判決を言い渡した。このことからも、現在の生活保護基準が「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する水準に達していないことが明らかとなっている。


  それにもかかわらず、国は、2023年度にも高齢者世帯と都市部を中心として保護基準を引き下げる方針を示した。その後、特異な物価高を考慮して2年間実施を凍結することとしたものの、2025年度には引下げの実行を予定しており、生存権保障の地盤沈下が歯止めなく進行している。


(2) 大学生等への生活保護の不適用

  大学・短大・専門学校等への進学率(2022年3月末)は、一般世帯では83.8%(過年度卒を含む。)であるのに対し、生活保護利用世帯では上昇傾向にはあるものの、なお42.4%と低く、一般世帯のおよそ半分にとどまっている。

その理由の一つが、生活保護利用世帯の子どもが大学等に進学すると当該子どもを生活保護の支給対象から外し(世帯分離)、その子どもの保護費(生活扶助費、医療扶助費等)を支給しない扱いである。生活保護を利用しながら大学等に就学することを認めない扱いは、例えば、虐待を受けて自宅を出なければならなくなり困窮する単身の大学生等についても同様であり、就学を断念せざるを得ない事態を招いている。また、仮に進学ができたとしても、子どもは自分の生活費や大学等で学ぶための費用を賄う必要があるため、アルバイトに時間を割くことや、多額の奨学金を借りることを余儀なくされるなど、学生生活や卒業後の生活に大きな制約を受けることになる。

しかし、国は、一般世帯でも高等学校卒業後、大学等へ進学せずに就職する者や、奨学金やアルバイトなどで自ら学費や生活費を賄いながら大学等に通う者がいることとの「バランス」を理由として、このような扱いを変更しようとしない。


5 多くの人の生存権が侵害されている現状

  以上のとおり、現代日本では、貧困とされる人のうち1割程度しか生活保護の利用にたどり着けず、外国人には生存権の保障すら及ばないものとされている。また、生活保護の利用にたどり着いたとしても、その保障水準は、到底「健康で文化的な最低限度の生活」とは言えない状況にある。

日本は、憲法第25条がありながら、多くの人が生存権を侵害された状況が放置され続けているという、憲法の趣旨に反する極めて深刻な状況に陥っているのである。


第2 生活保護制度の機能不全の要因

このように、生活保護制度が機能不全に陥っている要因としては、生活保護制度の問題と、それと密接に関わる社会保障制度全体の問題とがある。


1 生活保護制度の法律上及び運用上の問題点

(1) 「保護」という名称等

  生活「保護」という法律の名称や、「被保護者」、「扶助」などの恩恵的な用語が、スティグマを与え、制度の利用を躊躇させることにつながっている。


(2) 福祉事務所窓口での違法・不当な「水際作戦」

  制度を利用しようとしても、福祉事務所窓口において、「持家がある」、「家賃が高すぎる」、「借金がある」などの誤った理由で申請をさせないという「水際作戦」と呼ばれる違法・不当な追い返しが一向になくならないばかりか、確信犯的に違法運用を続ける地方自治体さえ存在する。


(3) 保護開始時の保有容認預貯金額の低さ

  保護開始時に保有を認められる預貯金等の資産要件は、当該世帯の最低生活費(厚生労働大臣が、年齢別・世帯人員別・地域別に定めた最低限度の生活に必要な金額)の半月分と、諸外国と比較しても極めて厳格であり、いわば丸裸にならない限り生活保護の利用にたどり着くことができない。


(4) 自動車保有の制限

  厚生労働省は、自動車の保有(所有だけではなく利用も含む。)を原則として認めない姿勢を示してきた。例外的に認める場合でも、公共交通機関の利用が著しく困難な場合(障害がある、居住地・勤務先等が公共交通機関利用困難地にある、深夜業務に従事しているなど)に限られ、保有を認めた場合も、例えば通勤や通院以外の日常生活には使用が認められない。

そのため、自動車がなければ生活が成り立たない場合には、申請者が「生活保護か自動車か」の選択を迫られた結果、生活保護の利用を諦めるケースも多く、特に地方都市や母子世帯等の生活保護利用の障壁となっている。


(5) 親族に対する扶養照会

  生活保護申請時に親族に対して行われる「扶養照会」(仕送りできないかの問合せ)は、本来、扶養の期待可能性がある場合に行うものとされているが、無制約に行う福祉事務所も少なくないため、申請者に親族との軋轢を恐れて申請をためらわせる大きな原因となっている。

この点、厚生労働省は、2021年(令和3年)3月30日付け保護課長通知によって、扶養照会を実施するのは「扶養義務の履行が期待できる」と判断される者に限ることを明確にし、生活保護の申請者が扶養照会を拒んだ場合、その理由について「特に丁寧に聞き取りを行い」、照会をしなくてもよい場合に当たらないかという観点から検討する方針を示したことから、実務運用は若干改善された。しかし、従前どおり無制約に照会をかける地方自治体も残っており、照会率は5.5%(東京都中野区)から78%(佐賀市)まで大きな格差があり(2023年4月30日朝日新聞デジタル)、問題は解消していない。


(6) 度重なる生活保護基準の引下げ

  第1の4(1)のとおり、生活保護基準が20年来、相次いで引き下げられ続けている。その結果、制度の利用にたどり着けない人が増加し、また、利用にたどり着いたとしても、社会参加の費用までは賄えないなど、「健康で文化的な最低限度の生活」を保障されているとは言い難い状況が生じている。


2 社会保障制度全体の問題

(1) 新自由主義的政策と社会保障の給付削減による人々の分断

  二度の石油危機(1973年、1978年)以降、政府により、財政困難の理由を社会保障費に帰責させる「福祉見直し」論や、個人や家族の自助努力と地域社会の助け合いを重視する「日本型福祉社会」論が推奨されてきた。

1990年代以降、自己責任、市場原理、規制緩和、小さな政府・民営化などを重視する新自由主義の影響が強まり、非正規雇用の拡大に伴う雇用の不安定化、実質賃金の低下が続く中、中間層が減少して低所得層へとシフトした。しかし、社会保障制度は、給付の削減が進められ、所得制限などによる給付対象者の厳しい選別・限定や、年金の給付額引下げなどによる保障水準の低下によって(選別主義の強化)、より脆弱なものとされた。

こうして、自己責任では生活していくことが困難となった状況にもかかわらず、なお自己責任を求められ社会保障に支えられずに困窮する人が増えている中、生活保護を利用していない市民の間で、生活保護利用者は自分たちより優遇されており、「怠けている」、「甘えている」といった誤解、偏見、不寛容が広がり、人々の間に分断が生まれた。


(2) 生活保護バッシング・社会保障制度改革推進法の制定後、相次ぐ生活保護基準引下げと厳格化方向での法改正

  2012年春、こうした誤解や偏見を増幅する形で、人気お笑いタレントの母親の生活保護利用に端を発した「生活保護バッシング」報道が過熱し、同年8月、社会保障制度改革推進法が制定された。同法は、「自立を家族相互、国民相互の助け合いの仕組みを通じて支援」するとして「自助(自己責任)」を強調し、「社会保障給付の重点化・制度運営の効率化により負担の増大を抑制」するとして社会保障給付削減の方向性を一層明確にするとともに、その附則第2条には、特に「生活保護制度の見直し」が掲げられ、「不正受給者への厳格な対処、給付水準の適正化、就労の促進その他必要な見直しを早急に行うこと」とされた。

こうした方向性を受けて、国は、第1の4(1)で述べたとおり、2013年から相次いで生活保護基準を引き下げた。また、2013年には、保護申請手続の厳格化、扶養義務者に対する調査権限の強化、不正受給対策の強化等を内容として、2018年には、不当利得による徴収金についての徴収策の強化、後発医薬品の使用原則化等を内容とする生活保護法の改正がなされた。


3 社会保障の選別性強化と生活保護バッシングの行き着く先

  このように、「自己責任」の強調とともに、社会保障の選別性が強化されて、生活保護の手前で支えられずに困窮する人が増え、生活保護利用者への偏見やバッシングが広がる中、生活保護の利用を厳格化し給付を削減する国の政策が進められた。これが、上記の利用者の尊厳を傷つける制度上の問題点とあいまって、「生活保護だけは死んでも受けたくない」という強烈な忌避感を醸成し、制度利用を抑制するという結果となっている。生活保護に対する強烈な忌避感は、自分が困窮者として選別されることへの恥の意識に加え、他者から蔑まれ、叩かれることへの恐れと結び付いている。

2021年3月には、東京都で、84歳の姉を「老々介護」する82歳の妹が、周囲から生活保護の利用を勧められたのに「税金をもらって生きるのは他人の迷惑」と断り、姉の顔にウェットティッシュを置き手で押さえて、「お姉ちゃん、ごめんね」と手を握りながら窒息死させるという事件まで起きた(2021年12月2日朝日新聞デジタルより)。

2023年の自殺者総数(2万1818人)は、2021年(2万1007人)と比較すると微増にとどまるが、その内訳を見ると、経済・生活問題(5157人)、中でも生活苦(1655人)及び負債(1919人)を理由とする自殺者数が、僅か2年でいずれも1.5倍以上に急増している。自死を選ばざるを得ないほどの生活苦に追い込まれる人々が急激に増えているのである。


第3 すべての人の生存権が保障される社会を実現する必要性

1 特に困窮に陥りやすい世帯類型(ひとり親・高齢者・障害者世帯)

(1) ひとり親世帯(特に母子世帯)

  第1の3(1)でも述べたとおり、ひとり親世帯の貧困率は44.5%に及ぶが、ひとり親世帯全体の89%を占める母子世帯の86.3%は働いているにもかかわらず、その平均年間就労収入は236万円にとどまる(厚生労働省「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」)。シングルマザーが家事、育児を一手に担いながら、自らの低水準の所得で家計を維持しなければならない母子世帯は、特に困窮に陥りやすい世帯類型である。


(2) 高齢者世帯(特に単身高齢女性世帯)

  無年金・低年金高齢者の増加に伴い、被保護世帯中に占める高齢者世帯の割合は、2013年の45%から2024年5月の55.4%へと増え続けている。

特に、65歳以上の女性の単身世帯の貧困率は、2021年には実に44.1%(同年齢層の男性単身世帯の貧困率は30.0%)にも上っている(阿部彩(2024)「相対的貧困率の動向(2022調査update)」JSPS22H05098、 https://www.hinkonstat.net/)。こうした単身高齢女性世帯の貧困の深刻化は、女性の就業率がすべての年齢層で男性よりも低い一方、待遇が劣悪な非正規雇用の割合は女性が男性を大きく上回り、賃金も正規・非正規を問わず女性の方が男性より低いという性差別の帰結でもある。


(3) 障害者世帯

  障害年金制度の生活保障機能が極めて不十分であるため、1か月の平均収入が15万円未満の割合は、障害者手帳所持者全体では64.5%に及び、知的障害者手帳所持者では74.1%、精神障害者手帳所持者では73.9%と優に7割を超えている(厚生労働省「令和4年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」)。また、相対的貧困状態(2023年の等価可処分所得が年127万円以下)にある人の割合は、障害者では78.6%と、障害のない人の5倍に及び、年収200万円以下のワーキングプアの状態にある障害者は実に97.2%に及ぶという調査もある(きょうされん「障害のある人の地域生活実態調査」2023年実施分)。被保護者世帯のうち障害者・傷病者世帯が占める割合は25.0%であり、最低保障年金の創設や就労環境の劇的な改善がない限り、障害者世帯にとって生活保護制度は命綱である。


2 非正規雇用労働者やフリーランス・ギグワーカーの増加

  労働者としての地位が不安定なパート・アルバイト、派遣社員・契約社員などの非正規雇用労働者は長年にわたって増加しており、コロナ禍での解雇や雇い止めにより一時的に減少したものの、近時は再び増加傾向に転じている。2002年には非正規雇用労働者が1451万人で、その割合が29.4%だったのが、2023年には2130万人、37.0%にまで増加し、特に女性労働者では非正規雇用労働者の割合が53.1%を占めるに至っている(総務省「労働力調査」)。また、非正規雇用労働者の所定内給与の平均月額(2023年)は22万6600円(女性は20万3500円)であり、正規雇用労働者の給与の67.4%(女性は60.5%)にとどまっている(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。そして、1年を通じて勤務した正社員以外の給与所得者の年収分布(2022年)では、200万円以下が全体の61.8%(女性は70.2%)を占めている(国税庁「民間給与実態統計調査結果」)。

非正規雇用労働者は、雇用によって生計を立てることが困難なだけでなく、景気の状況いかんにより企業の人員調整の対象となりやすく、生活困窮に陥るリスクが高い。特に、多数を占める女性の非正規雇用労働者は、主たる男性稼ぎ手の存在を前提とし、女性を家事、育児、介護の担い手とする伝統的な性別役割分業観の下、性別と雇用形態の違いによる二重の差別を受けている(第58回人権擁護大会決議「→全ての女性が貧困から解放され、性別により不利益を受けることなく働き生活できる労働条件、労働環境の整備を求める決議 」(2015年10月2日))。

さらに、近年は、フリーランスやギグワーカーなどと呼ばれる、「雇用によらない働き方」をする人も増えている。フリーランスの人数は462万人(本業214万人、副業248万人)と推計され、雇用労働者数の約8%に相当し(2020年5月内閣官房「フリーランス実態調査結果」)、フリーランスの年収は「100万円未満」が14.1%で最も多く、「100~200万円未満」、「200~300万円未満」が12.6%、12.7%と拮抗しながら続いている(内閣官房新しい資本主義実現会議事務局等「令和4年度フリーランス実態調査結果」)。

こうした人々には、社会保険のセーフティネットが脆弱若しくは皆無であり、仕事の喪失が収入の喪失に直結し、たちまち困窮状態に陥ることが多い。


3 誰もがたやすく生活困窮に陥り得る社会状況

  正規雇用の下で働く人々にとっても、生活困窮は決して縁遠いものではない。いわゆる「現役世代」の人口減少を背景とした業務負荷の高まりや各種ハラスメントの結果、労働災害の申請件数も顕著な増加傾向にあり、精神障害に係る労災請求件数は2002年には341件(うち認定100件)であったが、2023年には3575件(うち認定883件)と激増している(厚生労働省「令和5年度「過労死等の労災補償状況」」)。また、2022年11月1日から2023年10月31日までの1年間において、メンタルヘルス不調により「連続1か月以上休業した労働者又は退職した労働者がいた」事業所の割合は13.5%(前年は10.6%)、メンタルヘルス不調により「退職した労働者がいた」事業所の割合は6.4%(前年は5.9%)となっている(同「令和5年労働安全衛生調査(実態調査)」)。これらのことは、近年、職場のストレスにより働けなくなる人の数が大幅に増加していることを示している。

また、2024年1月には能登半島を巨大地震が襲い、多くの人が生活に打撃を受けているように、地震、津波、豪雨などの災害や感染症によって、誰もがたやすく困窮状態に陥る可能性がある。


第4 社会保障制度全体の在り方の見直し

1 社会保障制度の普遍性を強化する必要性

  すべての人の生存権保障を十全化し、誰もが安心して暮らせる社会を実現するためには、困窮に陥ることを予防し、困窮者を生まないことが重要である。

そのためには、自己責任を強調する新自由主義的政策を転換し、対象者を一部の低所得者に選別・限定していくのではなく、社会保障の普遍性を強化していくことが、中長期的な取組として重要である。

具体的には、医療、介護、保育、教育、障害者福祉などは、健康を維持し、社会生活に参加し、自己実現を可能とし、人間らしい生活を保障するために極めて重要であることから、自己負担の軽減又は無償化を漸進的に進め、誰もがサービスにアクセスできることを保障すべきである。

また、低所得者の尊厳に足る生存を維持できるようにするため、高齢・障害・死亡による稼得能力の減少、喪失により、働いても十分な所得が得られなくなった者やその遺族に対する最低保障年金制度の創設、生活の基盤である住居を維持する家賃補助(住宅手当)の創設、児童手当の増額など、生活保護以外の所得保障制度の拡充も進める必要がある。


2 社会保障の普遍性強化の効果-人々の分断の解消と所得再分配の強化-

  このようにして、社会保障の普遍性を強化することにより、人々が、困窮に陥るリスクを減少させることができる。また、生活保護の教育扶助、住宅扶助、医療扶助、介護扶助などにより支えられる領域が限定されることから、スティグマの解消や、生活保護の利用を厳格化する圧力が弱まることにつながる。さらに、中間層の生活不安を取り除き、国民全体の受益感を高めることにより、生活保護に対するバッシングや忌避感をなくすとともに、人々の分断を解消して連帯を強化することで税負担への同意を促し、税と社会保障による所得再分配を強化することにもつながる。

このような社会保障の普遍性強化のためには、安定した財源の確保が不可欠であるが、当連合会は、「「自己責任」から脱却し…対象を低所得者に限定しないことを特徴とする普遍主義の社会保障へ転換することが必要である」と指摘し、互いに租税を負担し連帯して支え合う税制の構築に向けた施策の実施を提言しているところである(第61回人権擁護大会決議「→ 若者が未来に希望を抱くことができる社会の実現を求める決議」(2018年10月5日))。また、医療保険制度について、保険料負担が軽減されている被用者保険における高額所得者の負担率の引上げなど、保険料について応能負担を貫徹する施策の実施を提言しているところである(第65回人権擁護大会決議「→人権としての「医療へのアクセス」が保障される社会の実現を目指す決議」(2023年10月6日))。


第5 生活保護制度の法律上及び運用上の問題点の解消

第2の3で述べたとおり、生存を脅かされる人が急増している現状においては、まずは、生存の最後の砦である生活保護制度の機能不全を生じさせている法律上及び運用上の問題点を解消し、人間のいのちと暮らしを徹底して支えることこそが、喫緊の課題として重要である。

本来、生活保護制度は、「本当に困っているのか」が厳しく問われ、丸裸になって初めて利用できる制度ではなく、理由のいかんを問わず一時的な困窮に陥った人も含めて誰もが必要に応じて利用しやすい制度であるべきである。

ところが現状は、統計的根拠のない厚生労働大臣告示で生活保護基準の設定が歪められたり、合理性が乏しい厚生労働省通知で生活保護の利用が阻害されたりする状況にある。生存権保障を実質化する観点からの立法措置によって恣意的な生活保護行政を統制することなくして、問題状況を抜本的に改善することはできない。

現行生活保護制度が制定された1950年と現在では、社会の様々な側面で大きな変化があるにもかかわらず、旧態依然とした日本の生活保護制度の現状は、先進諸外国と比較すると著しく立ち遅れている。当連合会は、2008年11月18日に「→ 生活保護法改正要綱案」を、2019年2月14日にその→改訂版を公表し、生活保護法を権利性の明確な「生活保障法」に改正することを提言してきたところであるが、その後の状況の変化を踏まえ、より豊かな内容を持つ「生活保障法」への改正を改めて提案する。併せて、国及び地方自治体に対し、以下の施策を実施するよう強く求める。

誰もが安心して暮らせる社会にするため、今こそ、先進的な地方自治体の取組を全国に広げ、国レベルでの運用の改善を積み上げながら、抜本的な法改正を実現すべきときである。


第6 提言

福祉事務所窓口での違法・不当な「水際作戦」や生活保護制度に対する強い偏見や忌避感をなくし、制度の利用率・捕捉率を高めるため、当連合会は、国に対し、①現行の生活保護法を、権利性を強化する内実を持つ「生活保障法」に改正すること、②法改正を待つことなく速やかに厚生労働省通知等を改正することを求め、地方自治体に対し、一部の自治体の先進的な取組を自治体間で広げ、「生活保障法」の趣旨を実質的に実現していくことを求める。


1 「生活保護法」から「生活保障法」へ

(1) 権利性の明確化(法律の名称や用語の変更)

  諸外国における公的扶助制度の名称は、ドイツは「市民手当」、フランスは「積極的連帯所得」、スウェーデンは「社会サービス法に基づく経済的援助」であり、日本と同じ「生活保護」であった韓国も1999年には「国民基礎生活保障」に改正している。未だに「生活保護」という恩恵的な名称となっているのは、先進国では日本だけである。

上記の生活保護法改正要綱案で提言したとおり、「生活保護」を「生活保障」、「被保護者」を「利用者」、「扶助」を「給付」、「受給」を「利用」とするなどのように用語を置き換えて、権利性を明確にすべきである。


(2) 国と実施機関の周知・広報義務等の明記

  生活保護制度に対する偏見と福祉事務所窓口における違法・不当な「水際作戦」を根絶するためには、国と実施機関の周知・広報義務、教示・援助義務、捕捉率の調査・向上義務を法定すべきである。


(3) 外国人の生存権保障

  生活保護法第1条、第2条等が保障の対象を「国民」と規定しているため、国は、生活保護法は国民にのみ適用されるものであり、厚生労働省通知に基づく行政措置として、一定範囲の外国人については日本人と同様の取扱いがなされ得るとしている(最高裁第二小法廷2014年(平成26年)7月18日判決参照)。

しかし、外国人労働者数は、2008年には48万6000人であったものが一貫して増加し続け、2023年には204万8000人と過去最高を更新した(厚生労働省「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末時点)」)。2024年6月14日、「国際貢献人材育成」を名目とする「技能実習制度」を廃止し、国内における「人材確保」を目的とする「育成就労制度」に改正する法律が成立するなど、外国人労働者の受入れに関する国の政策も大きく転換しつつある。今後も外国人労働者数の増加が期待されていることからすれば、外国人から選ばれる国になるためにも、外国人を「使い捨ての労働力」としてではなく、日本社会に欠かすことのできない構成員としてその人権を尊重する施策が当然に求められている。

第1の2で述べたとおり、生存権が権利の性質上、日本国民のみをその対象としていると解することができないことなどからすると、現行法を前提としても外国人の生存権享有主体性を認めることは可能である。ただ、解釈上の疑義を払拭するため、生活保護法の国籍条項を撤廃し、外国人を含むすべての人が生活保障法の適用対象となることを明記することが必要である。

なお、法改正を待たずとも、厚生労働省通知を改正し、在留資格の有無や種類によって保護の準用対象になる者を差別せず、入管法別表第一の外国人やオーバーステイ滞在者も含めた一定期間日本に滞在する外国人を幅広く保護の対象とし(1990年10月25日付け厚生省社会局保護課企画法令係長口頭指示以前の取扱いに戻す。)、特に緊急の医療を要する状況に陥った場合には、生活保護の医療扶助単給を可能とすることが必要である。


(4) 「健康で文化的な生活」水準を保障する生活保障基準の設定

  ① 手続的統制(専門的知見の反映と透明性確保)の法定

現行生活保護法第8条第1項は、生活保護基準は厚生労働大臣が定めるものとしている。しかし、生活保護基準は、202万人の生活保護利用者の健康で文化的な最低限度の生活を保障しているだけでなく、第1の4(1)で述べたとおり、他の多くの制度に影響を及ぼす極めて重要な国家的基準であるから、国権の最高機関であり民主的コントロールが及ぶ国会で定められるべきものである。

一連の「いのちのとりで裁判」で、津地方裁判所は、2024年2月22日に言い渡した判決において、厚生労働大臣が、生活保護費10%削減という自民党の「選挙公約に忖度」し、「専門的知見を度外視した政治的判断」であり、基準改定の過程又は手続に「過誤又は欠落があったといわざるを得ない」と判示した。このような時々の政治情勢に流された基準引下げを許せば、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を人権として保障した憲法第25条第1項が画餅に帰す。そのため、科学的・合理的根拠のない単なる政治的判断による恣意的な基準引下げは決して許してはならない。

この点、老齢加算廃止の違法性が争われた最高裁第二小法廷2012年(平成24年)4月2日判決等も、厚生労働大臣に対し、「高度の専門技術的考察とそれに基づいた政策的判断」を求め、その判断過程及び手続に過誤、欠落があるか、「統計等の客観的数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等」について審査されるべきと判示している。「いのちのとりで裁判」において生活扶助費減額処分の違法性を認めた判決は、いずれも上記の最高裁判決の規範に照らし、「統計等の客観的数値等との合理的関連性」等が認められない旨判示している一方、かかる司法審査を行っていない判決もあり判断が分かれている。

そこで、「健康で文化的な最低限度の生活」の保障を万全なものとするため、(ア)名実ともに政治部門から独立した専門家からなる審議会において、要保障者の年齢別、世帯構成別、所在地域別等の必要な事情を考慮した(現行生活保護法第8条第2項参照)「健康で文化的な生活水準」(同法第3条参照)の需要に関する調査審議を行った上で、その結果を踏まえて国会が生活保障基準を設定すること、(イ)「健康で文化的な生活水準」の需要に関する調査審議に当たっては利用当事者の意見を反映させること、(ウ)生活保障基準の改定は、統計等の客観的数値等との合理的関連性の有無について再検証を可能とする方法によらなければならないことを法定し、政治的影響を徹底して排除した上で、科学的・合理的根拠に基づき生活保障基準が設定されることを担保すべきである。


  ② 社会参加等の需要が保障されることと需要を充足する新たな検証手法に拠ることの法定

「いのちのとりで裁判」において、名古屋高等裁判所は、2023年11月30日、「人が3度の食事ができているというだけでは、当面は飢餓やいのちの危険がなく、生命が維持できているというにすぎず、到底健康で文化的な最低限度の生活であるといえないし、健康であるためには、基本的な栄養バランスのとれるような食事を行うことが可能であることが必要であり、文化的といえるためには、孤立せずに親族間や地域において対人関係を持ったり、当然ながら贅沢は許されないとしても、自分なりに何らかの楽しみとなることを行うことなどが可能であることなどが必要」であると判示し、今日的な「社会的排除概念」に立脚した貧困観に依拠し、現行生活保護法第8条第2項が規定する「最低限度の生活の需要」の内容を正しく理解した判断を示した。しかし、その一方で、他の裁判例では同条項を抽象的な規定と理解して同条項による規律を無効化する判断もみられる。

そこで、同条項による規律内容を明確にするため、ドイツの社会法典第12編第27a条(必要生計費)等に倣い、「健康で文化的な生活水準」の需要には、周囲との交流、文化的生活への参加、子ども・青少年の成長発達に必要な費用が含まれることを法律に明記すべきである。

また、2025年度に予定されている生活保護基準の引下げは、下位10%の最貧困層の消費水準と生活保護基準を比較する手法に依拠している。しかし、現在の生活保護基準の改定方式である「水準均衡方式」は、一般世帯の消費水準が右肩上がりに上昇していた1983年に採用されたものであり、現在は前提状況が大きく変化している。日本の生活保護の捕捉率が極めて低いことからすれば下位10%の最貧困層には生活保護基準以下の水準での生活を強いられている世帯が現実に多数含まれている。このような手法に依拠し続ければ、肉体的生存を確保する絶対水準さえ割り込んでしまい、現行生活保護法第8条第2項が求めている年齢別等の「必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要」の充足が図られないこととなる。だからこそ、社会保障審議会の生活保護基準部会は、2013年の報告書以来、社会的経費も含めた「健康で文化的な生活水準」に必要な需要を積み上げる「新たなマーケットバスケット方式」のような検証手法の開発が必要であることを繰り返し指摘してきた。

科学的・合理的根拠のない恣意的な生活保護基準の引下げに歯止めをかけるためには、かかる「新たな検証手法」を早急に開発した上で、生活保障基準の改定がかかる検証手法に拠るべきことを法定することが必要である。


(5) ケースワーカーの専門性確保と担当ケース数の上限の法定

  生活保護(公的扶助)の利用者は、高齢、障害、依存症などを含む傷病など様々な困難を抱えていることが多いため、担当職員は社会福祉に対する専門性と熱意を備えていることが必要である。そのため、先進諸外国では、生活保護ケースワーカーは社会福祉専門職として採用されるのが通常であるところ、日本はそうではない。ケースワーカーの社会福祉士、精神保健福祉士資格取得率は、2004年でそれぞれ13.5%、2.4%にとどまり、同年を最後に厚生労働省は資格取得率の数値さえ公表していない。

そこで、ケースワーカーを福祉専門職として位置付けて専門職採用を推進し、採用後も必要な研修を行い、無資格者には資格取得の援助を行うことを法定すべきである。

また、社会福祉法第16条を改正し、ケースワーカー一人当たりの担当世帯数の上限について、現在都市部80世帯、郡部65世帯が「標準」とされているものを、まずはそれぞれ60世帯、40世帯と「法定」し、ケースワーカーを増員すべきである。


(6) 生活保護利用の一歩手前の生活困窮者に対する積極的な支援

   現行制度では、収入が生活保護基準を僅かに超える世帯は、生活保護法の定める一切の給付を利用できない一方、生活保護利用世帯に対しては免除されている負担があるため、生活保護利用世帯よりも生活が苦しいという「逆転現象」が生じ、これが生活保護利用者に対するバッシングの遠因ともなっている。

そこで、小中学生の給食費等を給付する就学援助制度では収入が生活保護基準の1.2~1.3倍以下であることを要件としている地方自治体が多いことに鑑み、収入が最低生活費の130%未満の場合には、教育・住宅・医療・自立支援(生業)の各給付を単独で利用可能とすべきである。少なくとも、住宅については、現行の住居確保給付金の求職活動要件を撤廃した上で収入基準・所得基準を緩和して、より普遍的な住宅手当(家賃補助)制度とすべきである。


2 厚生労働省通知及び厚生労働大臣告示の改正

   生活保護制度を、誰もが必要に応じて利用しやく、「健康で文化的な生活」水準を保障する制度にするために、法改正を待つことなく、速やかに厚生労働省通知と厚生労働大臣告示を次に挙げる内容に改正することが必要である。


(1) 保護開始時における保有容認資産の緩和

   日本では、保護開始時に保有を容認される現金・預金が当該世帯の最低生活費の半月分に限られているため、いわば「丸裸」になるまで生活保護の利用にたどり着けない一方、一旦保護を利用するに至った人の経済的自立を困難にしている。

諸外国の公的扶助制度における預貯金保有限度額は、フランスはそもそも制限がなく、ドイツ(1年の猶予期間中)は4万ユーロ(643万円)、イギリスは1万6000ポンド(304万円)、韓国は不動産等の財産が一切なければ都市規模に応じて最大7740万~1億1340万ウォン(851~1247万円)であり(円換算は2024年8月1日時点)、ここでも日本の制度の厳格さが際立っている。

2004年12月に出された「社会保障審議会福祉部会「生活保護制度の在り方に関する専門委員会報告書」」では、保護開始時の資産保有要件を最低生活費の3か月分まで緩和すべき旨提案したが、自己破産をした者についても99万円までは自由財産が認められていることに鑑みれば、保護開始後の臨時的収入等によって保護が廃止される場合の基準を参照して、当該世帯の最低生活費の6か月分までの預貯金等の資産保有が容認される旨、厚生労働省通知を改正すべきである。


(2) 処分価値の小さい自動車の保有容認

   自動車の普及率は、最も古い1964年の統計では複数世帯で7%に過ぎなかったが、2014年には単身世帯72.8%、複数世帯84.8%に達し(全国消費実態調査)、2023年には全国77.6%、首都圏以外83.9%と大きく増えている(日本自動車工業会「乗用車市場動向調査」)。

特に地方では、公共交通機関や地域密着型店舗の衰退などから、自動車が無ければ生活が成り立たない地域が広がっているのであり、保有率が全世帯の70%程度の生活用品は保有を認める扱いがされていることからすれば、処分価値が小さい(上記(1)の場合と同様の考慮により、当該世帯の最低生活費6か月分以下)自動車については生活用品として保有が容認される旨、厚生労働省通知を改正すべきである。

特に移動が困難な障害のある人にとって、自動車は、「移動の自由」を確保するための不可欠な存在になっている。この「移動の自由」は憲法第13条あるいは第22条によって保障されるほか、日本も批准する障害者の権利に関する条約第20条が「(a)障害者自身が、自ら選択する方法で、自ら選択する時に、かつ、負担しやすい費用で移動することを容易にすること」として求めるものでもあることからすれば、こうした障害者の自動車保有を認める必要性は特に高い。


(3) 申請者の同意なき扶養照会の禁止

   諸外国では、「夫婦」と「未成熟の子に対する父母」に限って扶養義務を認めるのが一般的であり、これに直系血族(祖父母、父母、子、孫)や兄弟姉妹まで加える日本民法の扶養義務の広さは極めて特異であることから、少なくとも兄弟姉妹については扶養義務を廃止すべきとする学説が通説である。しかも、民法上の扶養義務は、扶養義務者が負うものであり、要扶養者が持つのは、処分や譲渡ができない一身専属権としての「扶養請求権」であって、扶養請求権は、要扶養者が特定の関係にある扶養義務者に扶養の請求をした時に初めて発生すること(判例・通説)からしても、扶養を求めるかどうかは本来的に要扶養者の自由である。

したがって、扶養照会は、「申請者が扶養義務者に扶養を求める意思を示した場合」に限り行う旨、厚生労働省通知を改正すべきである。


(4) 生活保護利用世帯の子どもの大学等進学の保障

   1954年の大学・短大への進学率(過年度卒含む。)は10.1%に過ぎなかったが、2023年の大学・短大・専門学校等への進学率(同前)は84.0%に達している(文部科学省「学校基本調査」)。大学の役割も、一種のエリート養成機関からキャリアパスとしての側面へ大きく変化しており、現に大卒・大学院卒か高卒かによって生涯賃金にも大きな格差が生じている。

かつては高校生についても、生活保護を利用しながらの就学(「世帯内就学」という。)が認められていなかったところ、一般世帯の進学率が80%を超えた1970年に世帯内就学が認められるに至った。とすれば、一般世帯の大学等への進学率が80%を超える現在の日本においては、生活保護利用世帯の子どもの大学等への進学を後押しするため、大学生等の世帯内就学を認める旨、厚生労働省通知を改正すべきである。


(5) 更なる生活保護基準引下げの中止

   2025年度には都市部の高齢者世帯を中心に更なる生活保護基準の引下げが予定されている。上記1(4)②で述べたとおり、最貧困層の消費水準との比較によれば、肉体的生存を維持することすら危うくなるのであり、新たな検証手法が開発されるまで、生活保護基準の引下げは中止すべきである。


(6) 生活保護基準の引上げと夏季加算の創設

   「地球沸騰化」とも言われ夏の暑さが年々深刻化する中、光熱費を含む物価の高騰が続いている。真に「健康で文化的な最低限度の生活」水準を保障するために、ドイツなど諸外国のように、生活保護基準の引上げが必要である。また、国は、2023年5月に熱中症対策実行計画を閣議決定し、熱中症による死亡者の8割以上が高齢者であるとしてエアコンの利用を呼びかけている。生活保護世帯の8割以上を高齢者、障害・傷病者世帯が占めることからすれば、熱中症による被害を防止する観点から、夏季の光熱費を賄う夏季加算を早急に創設すべきである。


3 地方自治体による先進的取組の実践・共有による、地域からの生存権保障

   住民に身近な地域でサービス提供を担う地方自治体においても、住民自治を機能させ、生活保障法の趣旨を実現する独自の運用改善や条例制定等を率先して行うことが求められている。

地方自治体の先進的な取組や地域の実情に合った運用改善の実践には、以下のような例があるが、こうした先進的な取組を相互に共有しつつ、地域から、すべての人の生存権が保障される社会を創る実践を続けることが重要である。


(1) スティグマを解消し権利性を明確化する取組

   神奈川県小田原市では、「保護のしおり」やホームページなどにおいて、生活保護の「利用」や「利用者」という用語を既に用いている。京都府京丹後市では、よくある疑問に対する答えや、制度を利用して良かったという利用者の声を紹介したカラーチラシを数次にわたって全戸配布する取組をしている。厚生労働省の取組に倣って、「生活保護の申請は国民の権利です」といったポスターやSNSで広報する地方自治体も増えているが、社会保障の権利性や具体的な活用方法などを学校や地域で学べるようにする取組等も重要である。


(2) 地方自治体等の義務の明記による違法・不当な対応の根絶

   滋賀県野洲市では、2016年6月に「くらし支えあい条例」を制定している。同条例の第23条は、「市は、その組織及び機能の全てを挙げて、生活困窮者等の発見に努めるものとする」と規定し、第24条は、「市は、生活困窮者等を発見したときは、その者の生活上の諸課題の解決及び生活再建を図るため、その者又は他の者からの相談に応じ、これらの者に対し、必要な情報の提供、助言その他の支援を行うものとする」と規定し、法律の制定を待たずに、福祉事務所の教示・助言義務などを条例化している。東京都国立市や東京都足立区では、保護のしおりや生活保護申請書類をホームページでダウンロードできるようにしている。違法・不当な対応を根絶するためには、ケースワーカー対象の研修会の実施なども重要である。


(3) ケースワーカーの専門性と人員の確保

   神奈川県小田原市では、独自に専門職採用の推進や人員の増加を図っている。また、東京都国立市では、条例設置された生活保護行政等運営審議会から答申を受ける中で、人員確保や研修の充実を図っている。


(4) 生活保護の一歩手前の生活困窮者に対する積極的支援策

   学校給食や子どもの医療費の無償化、保育料や高校授業料の無償化などを行っている地方自治体が増えているが、更に広げていく必要がある。


(5) その他

   京都府山城南保健所では、自動車保有容認を求める利用者が、判断に必要な事項を記入することができる申立書式を作成・交付することで、自動車保有を適正に容認する取組をしている。

東京都足立区では、扶養照会によって制度利用が抑制される問題点を改善するため、扶養義務者に関する申告書式の改善によって扶養義務者との関係を簡易に確認し、無用の扶養照会を行わないようにしている。

東京都世田谷区では、生活保護利用世帯の子どもの大学等進学の機会を保障するため、生活保護利用世帯の大学生等の生活費を補填する給付型奨学金制度を実施している。


第7 当連合会の役割

当連合会は、2006年10月6日の第49回人権擁護大会で採択された「→ 貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現することを求める決議」において、生活保護法を生存権を保障する内実を持つ法制に改正することなどを提案したが、約18年が経過しても事態は改善していない。

また、当連合会は、上記決議において、「生活困窮者支援の分野における従前の取り組みが不十分であったとの反省に立ち、(略)より多くの弁護士がこの問題に携わることになるよう実践を積み重ね、生活困窮者支援に向けて全力を尽くす決意」を示して以来、この分野への取組を強化し、継続してきた。その結果、各地の弁護士会や弁護士の生活保護を始めとする生活困窮者支援分野における知識や取組は広がった。弁護士等による生活保護の申請同行や審査請求代理、先に述べた生活保護基準引下げに対する集団訴訟等を通じて、行政の誤りを司法が正す実例も増えている。

しかし、日本の生活保護に関する年間争訟件数(2022年)は、増えたとはいえ、審査請求が3317件、生活保護に関する訴訟件数については公表されておらず、行政訴訟全体で見ても1912件に過ぎない。争訟件数が飛躍的には増えない一因は、生活保護を始めとする社会保障に関する行政訴訟は高い専門性と濃密な主張立証活動を要する一方、総合法律支援法に基づく民事法律扶助制度による報酬額は極めて低廉であり、担当する弁護士の自己犠牲的負担が大きいことにあると考えられる。

そこで、当連合会は、生活保護を始めとする社会保障分野における研究・提言・相談支援活動をより一層強化するとともに、司法が「少数者の人権保障の砦」としての機能を十全に果たすための提言、民事法律扶助の対象事件の拡大や弁護士報酬の改善に取り組むことなどを通じて、上記の提言内容の早期実現に向けて全力を尽くすことを決意する。

また、当連合会は、各地の弁護士会と連携し、様々な専門職や団体との協力により地方自治体への働きかけ等を行い、「生活保障法」の趣旨を実現する地方自治体による先進的取組が全国各地で実践されるよう、地域からの取組にも力を尽くす決意である。