臨時総会・裁判官の再任拒否に関する決議

(第一決議)

最高裁判所は、本年度の裁判官の再任にあたり、10年の任期を終えた13期裁判官の宮本康昭判事補を再任名簿から除外し、また23期司法修習生で裁判官を志望するもののうち7名の不採用を決めた。


右の宮本判事補と新任を拒否された7人のうち6人は青年法律家協会の会員であり、1名は任官拒否を許さぬ会の発起人であるということである。右事実と最近の司法をめぐる一連の経過を見るとき、また、本人及び国民の理由明示の強い要望にもかかわらず最高裁判所がこれを明らかにしないことから見て、この処分は裁判官の思想・信条・団体加入を理由に再任を拒否したものと考えざるを得ない。


このことは、裁判官の基本的人権をおかすばかりか、裁判官の身分保障ひいては司法権の独立をおびやかすことになるとともに、民主主義の基本にかかわる重大事である。


よって最高裁判所に対し直ちに再任ならびに新任をするよう強く要望するものである。


1971年(昭和46年)5月8日
臨時総会


提案理由(議事録より)

最高裁判所は、さる3月31日の裁判官会議におきまして、宮本康昭裁判官を再任名簿から除外し、また23期司法修習生の裁判官志望者のうち、7名について採用を拒否いたしました。私達が憂慮していた事態が正に発生したのであります。この事実が報道されますと、日本弁護士連合会が会長談話を発表したのを初め、全国各地の弁護士会から、決議、要請、要望などが、ぞくぞくと行われ、最高裁判所の処置に対する抗議の意思が表明され、再任拒否の事由を明示せよということと、同時に再任・任用を行うよう要請が行われたのであります。法律学者600余名も同様の要請を行っております。報道機関は連日この問題に対してニュースとして取り上げ、司法の問題は今日国民各層の間に大きな関心を呼ぶに至っております。このような運動の高まりの中で、さらに注目すべきことは、宮本裁判官の再任拒否に関しまして、熊本県下の裁判官29名が、最高裁判所に対して要望書を提出したことであります。熊本県下の裁判官に限らず、各地の裁判所におきまして、ぞくぞくとこの要請がなされまして、現在、総数は470名に達したといわれているのであります。この事実は、再任拒否がいかに裁判所に深刻な衝撃を与えたか、裁判官にいかに大きな影響を与えたかということを示すものに外なりません。また、この4月5日には最高裁判所は、23期司法修習生阪口徳雄君の修習終了式における言動をとらえて、これを即日罷免処分するということを行いました。このことは、再任拒否、任官拒否の問題とともに、法曹内外における大きな怒りを巻起したのであります。そして裁判所のあり方というものに対して、大きな疑念をもたらしたのであります。


ところで、再任拒否、任官拒否という問題はいま突如として起ったものではありません。今年10年の再任期を迎える13期の裁判官の再任に関して、思想、信条、団体加入ということを理由とする再任拒否の問題が発生するのではないかと、いうことは、既に昨年12月19日の日弁連総会の席においても、13期の弁護士から、発言がなされております。また、同期の弁護士を中心にして、早くからこの問題についての活動がはじまっているのであります。23期の修習生の任官拒否の問題にしても、これは既に昨年、22期の修習生に関しまして、3名の任官拒否が発生しております。その際、この3名について、青年法律家協会の会員であるということを理由とするものではないか、或は女性であるということによる差別ではないかということが、既に昨年の任官拒否に際しても言われているのであります。


このようなことから、23期の修習生の間におきましても、11月の時点から再任、任官についての差別を許さないための運動が既に行われているのであります。そして、このような疑念、危惧というようなものは、本年1月の22日と26日の2回に亘って、最高裁判所が一部特定の裁判官を上司の指名によって密かに集めて異例の司法行政事務協議会を行い、その中で、青年法律家協会の加盟の問題を再任の問題とからめて議論するという事態が明らかになって以来、再任或は任官拒否の問題は、現実に発生する危険があると、いうことが強くいわれるようになったのであります。


既にご承知のように、本年1月27日には、日本弁護士連合会は、裁判官の再任、或は任用にあたって、思想・信条・団体加入というようなことを理由にして、これを拒否することがあってはならない。もし、そのようなことが行われるならば、これは憲法に保障された基本的権利を侵害するというばかりでなく、法の下の平等にも反することになる。従って、このような理由による拒否がないように裁判所の毅然たる態度を望むという要望を提出しているのであります。日本弁護士連合会が、このような要望したことにつきまして、ご承知のように各地の弁護士会では、ぞくぞくとそのような要請をしたのであります。この間在野法曹の間でも、三千名を超える署名が行われ、このようなことは絶対に起らないようにという要請を強く行ったのであります。また各新聞は社説を揚げて、裁判官の団体加入、青年法律家協会加入の問題は、これはあくまでもモラルの問題である。裁判官のモラルの問題を、任用即ち裁判官の適格性乃至は身分の問題とからませてはいけないと、これはあくまでも、青年法律家協会加盟の問題は、裁判官の自由な判断にまかせるべきであるということを述べ、そして、このようなことを理由とする再任拒否があっては絶対にならないと、若しこのようなことが行われるならば、それは裁判所が自ら司法権の独立を危くするものだという警告を発しているのであります。


ところが、最高裁判所は、これらの良識ある意見、これらの大きな意向を無視して、さきに述べましたように、今回の任官拒否、採用拒否という措置を行ったのであります。


さて、決議案に盛られている事項の個別的説明は、さらに後程行わせていただきますけれども、今回のような事態の本質をどのように理解すべきかということに関しましては、われわれは、昨年12月19日に、この会場で行いました、日弁連臨時総会の基礎となった、その司法の危機ということについて、再度その問題を考えてみる必要があると思うのであります。


すなわち、今日一見最高裁判所による青法協排除という形、最高裁判所対青法協という形で今日現わされておりますけれども、周知のように、この問題の発端は、自由民主党による、いわゆる偏向判決の問題に端を発しているのであります。昭和44年3月22日に東京地裁が、東京都の公安条例違反デモ事件に対して、無罪判決をしたことに対し、既にいわれていることでありますけれども、西郷法務大臣が、あそこだけは手が出せなかったが、最早、何等かの歯止めが必要になったという発言を行ったのであります。このことから、当時、偏向判決問題というのが起きてきたのであります。


(議長より、後で発言の機会を与えますからしばらく静粛にして下さいとの発言あり)


この偏向判決として非難の対象になった判決について、いまここで一つ一つを挙げることはいたしませんけれども、その対象になったものが、どのようなものであったかということを考えましたならば、この非難攻撃は、まさに西郷法務大臣の談話に完璧に示されていますように、自由民主党が政権を担当する、その立場において、自分に都合の悪い判決、これに偏向判決というレッテルを貼っていることは明らかであります。自分の政治的見解というものを、裁判所に押しつけて行くと、自分の政治的な見解に裁判所をしたがわせるという、その意図が、この偏向判決批判という問題に現れているのであります。そして、昭和44年の4月22日には、自民党が総務会を開きまして、党内に、裁判制度に関する調査特別委員会を設置するという意向を明らかにしたのであります。


今日の事態を予測させる上で非常に重要なことは、その当時すでに発言されているのであります。例えば、裁判官を内閣で任命する際裁判官の判決文や、公安調査庁の資料を添付すべきである。一面、或は憲法には裁判官の弾劾制度もあるけれども、この制度がねむっていると、訴追委員会や弾劾裁判所等憲法や法律で認められている制度をもつと活用すべきだというような意見、このような強硬意見が当時既に述べられているのであります。その後に生じた事態というものは、この意向に全く添うものであります。そして、こういう偏向判決批判という問題が次第に青法協会員に対する非難となり、そして、5月に自由民主党が司法制度調査会を発足させて、そして45年度の運動方針の中に青法協の問題を取り上げたということから、この問題は、青法協対策、いわゆる偏向判決対策というようなものは、政権を握る政党の方針ということになってきたのであります。


ところで、こういう形で青法協問題が問題になるまで、つまり、裁判所の中では、今日のような形における青法協問題というようなものは、発生していなかったのであります。すなわち、青年法律家協会は、既に昭和29年に設立されており、32年には、裁判官部会というものが存在するのであります。32年から既に裁判官部会は、いろいろな読書会や研究会を行っているわけでありますけれども、この青年法律家協会の問題が、裁判所の中で問題にされたのは、いま申し上げたようないわゆる偏向判決問題に端を発しているのであります。これは、その当時、或は青年法律家協会の存在というものについて他の裁判官支部は知らなかったのではないかとか、或は、裁判所としては、そういう事実に気がつかなかったのではないのかという問題があるかも知れませんが、これは最近の矢口人事局長の新聞の談話の中にも現れておりますように、前から青法協の刊行物というようなものについては、自由に手に入れることは出来たんだということをはっきりいっております。それからまた、更に注目すべきこととしては、昭和35年頃に、現在最高裁入りをしました岸盛一裁判官他数名の裁判官を青年法律家協会が招いて、そして裁判の実務問題について、多く会員や裁判官が集って、座談会、懇談会をしているのであります。その席上、青年法律家協会に期待するんだという発言もなされているわけであります。また、その当時、青年法律家協会が、最高裁判所の8名の裁判官に対しまして、国民審査に関連して詳細なアンケートを行いましたが、そのアンケートについては、最高裁判所の裁判官がいずれも丁寧な回答を寄せ、それが新聞に大きく報道されたという事実もあります。それからまた、われわれ自身、研修所で経験していることでありますけれども、青年法律家協会の研修所における同期の機関誌などに、研修所の所長であるとか、事務局長であるとか、或は教官、それから研修所外の裁判官や検察官まで文章を投稿し、そして、それらの雑誌は、教官に皆配られるということで、青年法律家協会に属する修習生が、どのような意見を持ちどのような考え方の下で修習を送っているのかということは、研修所当局や、裁判所も十分承知しているのであります。ところがその当時、青年法律家協会の会員であるというようなことが、任官の際にそれが基準になって、採用を拒否されるというような問題が起る。或は、再任に当ってそれが基準になるというようなことは、全く予想すら出来ないような事態であったわけであります。


ところで、このような形で青年法律家協会の問題が、政治的な形で取り上げられるようになりますと、これにあたかも呼応するかのように、裁判所では青年法律家協会の会員裁判官に対する退会の勧告、所長、事務局長、或は上席の裁判官、さまざまな形において、司法行政上のルートにおいて、この退会の勧告ということがなされたのであります。これは今日では公知の事実となっております。特に昨年4月8日、岸最高裁事務総長の談話、次いで5月2日の石田談話、これが行われるようになりましてから、この傾向はますます強化されております。そして、このことについて最高裁判所が自らの手で思想統制をやるものではないかという危険性が各方面で指摘されるようになったのであります。そして、その後にどのような事態が発生したかということは、これは既に周知のことであり、そしてそのテンポは非常に急速だったわけであります。昨年12月19日に、われわれが臨時総会を持ちました。その問題となったいわゆる訴追委員会の処分、この処分に追随した札幌高裁の処分の問題、それから或は213名の裁判官に対する照会状の発送、この問題に対してとった最高裁判所の態度、このような司法の独立を内外から侵害するような大きな流れが、その時点で一挙に噴出したということが出来るのであります。これらの事態こそ正に司法の危機という言葉で現されるものであるわけであります。今回、再任拒否、任官拒否が行われましたけれども、われわれは、今度この問題がいま簡単にふれましたような、そういう一連の事態の中で発生しているんだという事実を、まず、率直に見る必要があると思うのであります。昨年12月19日、私たちは、この会場において、日弁連総会を行い、司法権の独立を守るための決議を圧倒的多数で行いました。この決議は国民の立場に立つ在野法曹として、司法権の独立を擁護する重大な責務を持つということを自覚し、その決意を内外に表明したものであります。私たちは、昨年の臨時総会の際に全期出身の弁護士で全国的に構成されております全国全期懇談会が臨時総会の招集を行いまして、あの総会を成功裏に終らせることができたわけでありますけれども、今回そういう重要な問題が再び発生したという、この事態にあたりまして、再度全期懇談会が中心になって、この日弁連総会の招集に踏切ったわけであります。招集請求者は、1,648名でありますけれども、これは実質2日間で集めた数字でありまして、日時のゆとりがあればこれは過半数を超える委員の請求をもって、臨時総会を行うということも決して不可能ではなかったというふうに思うわけであります。さて、このような観点から、さらに具体的に決議案の内容にふれてみたいと思います。


第一決議案の中、まず、宮本裁判官に対する再任拒否の問題であります。ご承知のように、最初にも申し上げましたが、最高裁判所は、国民の多くの要望、それから宮本裁判官自身の要請にもかかわらず、再任拒否の理由を明らかにしておりません。しかし、裁判官の再任の問題は、一人その裁判官の進退の問題或はその裁判官個人の人権の問題に止るものではないのであります。これは全裁判官の身分保障に関連する極めて重要なことであります。そして、それが同時に延いては司法権の独立の問題に関してくるのでありまして、したがってこの問題は日本国憲法における国民の基本的人権の保障の問題、或は民主主義の問題につながる重要な問題であります。したがって、このような人事は、本来これが公開されるのが原則であります。人事の機密としてこの公開を拒むというようなことは、僅かに例外的にそれを公開した場合には、その当該の個人の名誉を傷つけるというような、そういう事情がある場合に、その個人の利益との関係においてその人事の機密というようなことが問題にされるに過ぎないのであります。しかし、今回の場合には、宮本裁判官自身が公開を要求している。しかもせめて自分にだけはその理由を告げてくれと、こういっているわけでありますから、いわゆる人事の機密という問題は生ずる余地がないものと考えます。裁判官の再任の問題は、最高裁判所の指名した名簿によって内閣がこれを行うということになっておりますけれども、憲法第78条によって、裁判官の身分が強力に保障されております。したがって、この裁判官の身分保障ということにかんがみて、いやしくも再任制度の運用によって身分保障がゆがめられるということがあってはならないのであります。したがって、弾劾による罷免の事由がある場合、或は病気や心身の故障によって裁判官としの職務を遂行することが不可能であるか、或は著しく困難であるという場合以外には再任されなければならないということは原則であるということについては、通説の一致するところであります。まして、裁判官も個人として基本的人権を擁護されなければならないのでありますから、法の下の平等や、或は思想、良心の自由という憲法上の保障を侵害するような形で再任の運用がなされてはならないということは、当然のことであります。なお、宮本裁判官が、個人的にどのような経歴の持ち主なのかということについては、ここでは詳しく説明はいたしませんけれども、さきに、全国13弁護士会と3弁護士会の会員の有志合計38名による再任拒否に関する弁護士会合同調査団が結成され、その調査が行われたということがあります。この調査報告書によりますと、宮本裁判官の再任の問題については、次のように調査結果が報告されているのであります。宮本裁判官は、裁判官として単に人格、識見、能力、勤務態度、訴訟指揮、健康、趣味等において何等問題がないというばかりではなくて、極めて優れた裁判官であるということ、それからまた世上一般にうわさされているところの再任拒否の理由になったんではないかということで、うわさされている二点、その一つは平賀書簡の公表に関係があるのではないかということ、もう一点は、東大事件の欠席判決に反対したからではないかというようなこと、この二点につきましても、調査報告では、全調査委員の一致した判断ということで、この点に関する、つまり平賀書簡の公表については、全くそのようなことは事実無根であると結論づけているのであります。もともと、この平賀書簡の問題が、この公表に仮に関係したとしても、そのことが再任拒否の理由になるということはあり得ないことであります。すべきではないことは明らかであります。しかし、事実としてそのようなことに関係したことはないという事実が弁護士会の合同調査団の結論によって裏付けられているわけであります。


それからまた、東大裁判の問題に関しましても、この本件を担当した裁判官がなす法律適用の問題であって、いかなる意味においてもそのようなことが再任拒否の理由になることはあり得ないということを述べております。これは当然であります。このようなことから宮本裁判官には、裁判官としての適格性を疑せるような事由は全くないということがいわれているのであります。すでに新聞等でも報道されましたように上司や同僚、裁判所職員、弁護士会、それから友人、すべて宮本裁判官の再任については全く適格性について問題ないということをいっております。これらの人達が一致して適格性を有すると考えている人を、最高裁判所は適格性がないんだとすることは誠に奇怪なことであります。このことに今日の裁判所のあり方ということが極めて問題であるということは象徴的に現れているというふうに考えるのであります。


以上の事実とさきに述べましたような再任拒否が行われるに至った一連の経過の中でこの問題を考えて見ますと、合同調査団が結論づけておりますように、宮本裁判官の再任拒否の問題は結局、同氏が青年法律家協会の会員であるということを理由とするものであるという疑いが、極めて濃厚であるというふうにいわざるを得ないのであります。


次に23期修習生7名の任官拒否問題についてふれてみたいと思います。


さきにもふれましたように、22期にすでに3名の任官拒否が行われました。このことから23期の修習生は、早くからこの裁判官の採用の問題について問題提起をし、そして11月の段階では分離修習、任官差別を許さぬ会を結成しているのであります。通称これを許さぬ会と略称しているようでありますけれども、そうして、最高裁判所に対して同期の修習生、435名がこれに連署をして要望しております。そして様々な活動を行ってきたのでありますが、同期の人達がそういう活動を行う中で、今年任官を志望しました62名に対する採用面接試験が行われたのであります。採用面接を受けた人達が後で同期の人達にどのような試験の状況であったかということをお互いに語り合う中で、7名については極めて異常な面接が行われているという事実が判明したのであります。それではどのような異常な面接であったかということでありますけれども、第一は、他の裁判官志望者に対しては志望任地がどこであるとか、或は家族関係はどうであるかとか、こういうようなことについて、可成り詳しく尋ねられたのでありますけれども、7名についてはこのようなことは殆ど聞かれておりません。それから第二に、二回試験の内容だとか法律問題について、その7名は執拗に追求され、そして難しい口頭試問が法律問題で行われ、次から次へと矢継早に質問がなされ、本人がどうしてもよく判らんということを自認するまで続けるというような、そういう仕方における面接試験が行われているということがあったのであります。そして、特に成績が、お前は悪かったのではないかというような形で、成績の問題を強く面接の中で示すというようなことが行われたのであります。このようなことから、面接を受けた後で、既に23期修習生の中では、この7名、具体的に人が特定されてこの7名については、採用拒否は必至であるということを予測したのであります。不幸にしてその予測がそのまま全員当っているという事実があるのであります。成績というようなことが23期の問題に関しましても若干いわれたことがありますけれども、本来そもそも現在の司法修習制度の基本は、分離修習問題において、われわれが表明しましたように、裁判官、検察官、弁護士の三者を統一平等に養成するということに主眼があるのであります。したがって、二回試験に合格して法曹資格があるんだという人について、特に裁判官になる人だけを成績によって区別するというようなことは、本来あってはならないことであります。しかし、仮に百歩譲りまして、成績が問題になり得るんだとしてもこの7名の人については、いずれも平常の成績は弁護教官の評定によっても良好である。或は二回試験についても特に劣っているというようなことはないということが調査報告によって明らかになっております。この成績ということとは、こような経過から見ますと、7名に対する異常な面接をやることによって、成績を口実にする。本人が成績が悪かったのだということであきらめさせる。そういう支えになっているのではないかという疑いがあるのであります。この7名については、全く裁判官としても問題のない人であるということは、名古屋弁護士会の23期修習生に対する任官拒否、および阪口修習生の罷免に関する小委員会の報告書、それから東京弁護士会の司法制度臨時措置委員会が調査しました調査報告書の中に、この点についての問題は詳細にふれられているのであります。さらに、この採用拒否の経過の中で、極めて疑問に思われる点があるのであります。といいますのは、最高裁判所は3月29日になりまして、突如採用内示の日を繰り上げて、30日に任地についての内示を行うということを行ったのであります。そして、いま問題になりました拒否された7名を除く他の全員に対しては31日の正午までにこの任地についての回答をしなさいということを出しているのであります。そして、毎日新聞が当時報じたところによりますと、7人を不採用としたけれども55人の採用を内定し、内閣に名簿を提出するんだとそういう最高裁事務総局の報告を了承したという形でこの審議が行われているのであります。この3月3日の衆議院法務委員会で、矢口人事局長は答弁をいたしまして、任官の問題についても、再任の問題と同様に希望した人について、一人づつ慎重に審議をするんだということを述べております。しかしながら、そのような既に30日の時点で、実質的には、この採用の内示と、採用内定と目される任地の内示を、7名を除いてしているというようなこと、それから、予め採用拒否者を決めて、こういう形で処理したいから了承してもらいたいというような形で、最高裁裁判官会議にかけられた疑いが極めて強いというようなこと、このようなことからこの採用拒否の手続についても重要な疑念が持たれるのであります。昨年5月小林法務大臣が、裁判官になる人が不足していると、裁判官になり手が少ないから、これを解消するためには分離修習が必要なのだということで、いわゆる分離修習構想というものを出して参りました。これについては、弁護士会が一丸となって反対し、その企画は一応打ち破ることは出来たように思います。しかしながら、裁判官になり手が少ないということをいっていながら、62名中7名の人について、しかも、われわれが裁判官として適格だと考える人を採用を拒否すると、そして一方では裁判官が足らないということは、これは一体どういうことでありましょうか。われわれは、このような措置を絶対に容認することはできないと思うのであります。