イリノイ大学ロースクール(UIUC)留学体験記

目次

ロースクールと学園都市シャンペーン・アーバナ  矢部耕三 会員

イリノイ大学ロースクールと学園都市シャンペーン・アーバナ

イリノイ大学は、シカゴ、スプリングフィールドにもキャンパスを持つ大規模州立大学ですが、同州中部の双子町シャンペーンとアーバナがその発祥地であり(大学本部がアーバナ側にあるため学校名ではアーバナが先になります)中核となるキャンパスもこの町にまたがってあります。カリフォルニア大学などと並ぶ全米でも最古参の州立大学であり、多くのノーベル賞やピューリツァー賞受賞者を輩出し、我々の生活に欠かせないインターネットなどの科学技術の発展にも寄与してきました。

 

イリノイ大ロースクールは、19世紀半ばの草創期より黒人、アジア系、女性を学生として積極的に受け入れてきている米国公立ロースクール・トップ10の一角をなし、教員・研究者と学生の距離が近い学校として知られています。伝統的に比較法研究にも熱心で、国際研究・学生担当室が受入元となって、外国人に対しても寛容な学校運営がなされています。日本人も、1960年代から100名以上の弁護士・企業法務部員、最高裁・法務省派遣の判事補・検事が学んできています。

 

客員研究員には指導教授という形での特定の指導者がつくことはありませんが、教学担当副校長との協議により、関心のある科目の教授とのコーディネーションも可能です。研究室やデスクの使用、教員専用や貴重図書の部屋の使用も許されます。本校の法律図書館は、大学図書館としては世界第三位の蔵書数を誇るイリノイ大学図書館システムの一部となっており、日本関係の英文・和文の主要な図書・雑誌もあります。

 

憲法、刑事法、租税法、破産法、民事訴訟法、労働法や労働仲裁、国際公法、法哲学や法曹倫理などが伝統的に強い分野ですが、環境法、高齢者法、会社法、知的財産法、国際民事訴訟、独占禁止法などにも近年気鋭の教授を揃えてきています。

 

シャンペーンとアーバナはあわせて人口15万人程のイリノイ州農業地帯にある学園町です。町の周辺には大学と連携した研究機関・企業、地元住民のための大型ショッピングモールなどが点在します。大都会のようなきらびやかさはありませんが、米国のハートランドにおける豊かで穏やかな生活環境を実感できるところです。ご家族連れでの留学ということを考えられるのであれば、恵まれた環境であると言ってよいでしょう。文化的行事、スポーツ、エンターテインメントでも地域の中核をなす町です。最近はアジア系レストランや各種ショップもブームですし、イリノイ大学日本人会という互助組織もあります。

 

シカゴ、デトロイト、ダラスへは航空便があり、日本からいかれる場合には、これらの都市から乗り継ぐことになります。シカゴ、セントルイス、インディアナポリスへは鉄道や車での移動も可能です。いずれに向けても定期バス路線があります。

 

留学先としてのイリノイ大学と留学目的  藤井靖志 会員

その国をよく知るには、大都市より田舎に住んだ方がよいと言われますが、日本とアメリカの地方都市に住み、その通りと実感しました。私は法テラスのスタッフ弁護士として平成18年10月から2年9カ月間、司法過疎地の鹿児島県鹿屋市で過ごし、その後イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校に留学し、平成21年7月から約1年間、イリノイ州シャンペーンで過ごしました。共に市街地を少し離れると農地が一面に広がる典型的な地方都市ですが、そのような場所であればこそ、その国のどこにでもある普通の日常生活が経験できると思います。

 

さて、私が留学した目的は、ロースクールのリーガルクリニックを研究することでした。私は、弁護士3年目のときから國學院大學法科大学院内にある渋谷パブリック法律事務所で法科大学院のリーガルクリニックに関わり、法テラス鹿屋に赴任してからも鹿児島大学法科大学院が屋久島、種子島で行っているリーガルクリニックに関わりました。その間、アメリカのリーガルクリニックの視察旅行に同行したこともあり、アメリカで腰を据えて本場のリーガルクリニックを調査、研究するというのが私のかねてからの希望でした。一つの研究テーマに絞って留学することができる日弁連の客員研究員制度は、まさにこの希望を叶えてくれるものでした。

 

客員研究員の研究環境         

客員研究員は、個人的な研究を目的としたプログラムであり、指導教授が就くわけではありませんが、担当教授の許可を得て授業を聴講することも、教授らのワークショップに参加することもできます。また、研究室が与えられ、電話、プリンター、データベースなどを自由に使うことができます。客員研究員用のプログラムとしては、秋学期と春学期を通じて月に一度、ロースクール教授と客員研究員、JSD生(LLMよりも上の学位)が会合するCoffee with the College of Law’ s Facultyがあり、また春学期には、客員研究員、J S D 生が研究成果をプレゼンテーションするInternational Workshopがあります。

 

私の場合、イリノイ大学OBの矢部先生からご紹介を受け、Mediation Clinicを担当するTarr教授にMentorになっていただき、授業の聴講やフィールドワークのアレンジをしてもらいました。そして、イリノイ大学のクリニックを調査しながら、月に一度は他の都市に出張し、他のロースクールのクリニックに訪問したり、学会にも出席しました。私のプレゼンテーションは3月中旬に予定されていたため、それまでにある程度の研究成果をまとめることを目標として研究を進めました。

 

Federal Civil Rights Clinicについて

リーガルクリニックは生の事件を扱うため、守秘義務の関係で聴講が難しい科目ですが、幸いイリノイ大学の5つのクリニックのうちFederal Civil Rights Clinicを担当するAndrew Bequette准教授が、教室授業や法廷での学生の活動の傍聴を許可してくれ、1年を通じてこのクリニックを調査しました。このクリニックは、連邦裁判所が扱う受刑者の人権侵害の事件を扱い、学生は裁判所から代理人に選任され、自らの名と責任において陪審裁判を含むあらゆる訴訟活動を担当します。アメリカでは、学生実務規則によりロースクール上級生は依頼者の代理人になることができますが、実際には監督者である弁護士も同時に代理人となり、裁判所に同行することが多く、学生が自ら単独で陪審裁判まで行うこのクリニックは珍しいとのことでした。しかし、私が見た学生の法廷での活動は、相手方弁護士にも見劣りしない立派なものでした。学生は、クリニックを通じて実務技能を学ぶだけでなく、受刑者のような司法アクセスに障害を持つ者に対して法的支援することの重要性を体験的に学んでおり、リーガルクリニックが全ての市民に対し司法アクセスを確保するという弁護士の職業価値の教育にとって有意義であることを実感しました。

 

フィールドワーク(ロースクール訪問等)

イリノイ大学のクリニックを調査するだけでなく、他のロースクールのクリニックにも訪問し、ディレクターと対談し、授業を聴講するなどして、様々なクリニックを調査しました。訪れた場所は、シカゴ、インディアナポリス、ワシントンDC、ニューヨーク、ニューオーリンズ等であり、アーバナ・シャンペーンのような地方都市とは違うアメリカの大都市の魅力にも触れることができました。アメリカには無料の高速道路があるため、各都市にはシャンペーンから車で行きましたが、途中で地方都市に泊まり、夫婦で交代しながらのロングドライブは、小旅行のような楽しさもありました。

 

訪れたロースクールには、全米でも17校しかない臨床法学教育(リーガルクリニック、エクスターンシップを含む)を必修とするロースクールも含まれます(Thomas Cooley Law School、City University of New York School of Law)。これらのロースクールのクリニックは、地域の低所得者や高齢者等に法律扶助を提供し、地域社会においてなくてはならない重要な役割を果たしており、社会の中でのロースクールのあり方を考えさせられました。

 

また、Indiana University School of Lawに訪問した際は、同校のクリニックだけでなく、これと連携する扶助団体やPD(パブリックディフェンダー)オフィスにも訪問しました。同校のクリニックには、扶助団体やPDオフィスが受け付けた多数の事件の中からクリニック教員と協議の上、学生が扱うに相応しい事件が回されてきます。元々クリニック教員は、扶助団体やPDオフィスの弁護士であることが多く、アメリカではこうした連携は珍しいものではないとのことでした。そこで、私がイリノイ大学のInternational

Workshopで行ったプレゼンテーションでは、同校のリーガルクリニックを参考としながら、日本における法科大学院と法テラスの連携の可能性について報告しました。

 

アメリカで学ぶことの意義

日本での経験からリーガルクリニックについては多少の知識はあると思っていましたが、アメリカでは、想像もしていなかったリーガルクリニックに接しました。アメリカで学ぶことの意義を一言で言うなら、多様性(Diversity)を知るということになると思います。日本の法制度に問題意識を持っている方は視野を広げるチャンスですので、ぜひこの制度を利用されることをお勧めいたします。

 


2010年度派遣 佐藤 光子会員

イリノイ大学について

イリノイ大学ロースクールのあるシャンペーン市は、アメリカ中西部に位置し、アメリカ第3の都市であるシカゴから自動車で約3時間半、飛行機で約1時間の場所に位置します。広大なキャンパスに各学部や大学関係施設が点在し、緑豊かできれいなキャンパスです。


大学での研究について

 客員研究員は、共同研究室内に専用の机、固定電話、ロッカーが貸与され、学内ではどこでも無線LANの使用ができます。共同研究室では、各国から来た客員研究員学内の情報を交換したり、意見交換をするなど、貴重な経験ができました。


客員研究員には、特に指導教授がいるわけではないので、研究内容は自分で組み立てますが、必要に応じて教授にアポイントを取れば、快く応じてくれます。ロースクールでは、8月にLLMの学生向けの2~3週間にわたる導入コースを設けており、ロースクール内の施設(図書館など)の利用方法のガイダンス、契約法、不法行為法などのミニ講義、リーガルリサーチライティングの仕方の少人数ゼミ、裁判官や各界で活躍する卒業生をゲストとして招いてのランチ、裁判所見学などが盛り込まれています。客員研究員も、有料ですが参加可能とのことでしたので、参加しました。これを受けることによりスムーズにロースクールになじむことができましたし、LLMの学生や、卒業生のチューターとも早めに知り合いになることができ、その後の研究生活を進める上で大変有意義でしたので、UIUCに留学される方は、是非参加されることをお勧めします。


授業については、学期ごとに事前に許可を得て聴講することができます。私は研究テーマが環境法関係だったため、国際環境法、環境政策、再生可能エネルギー法、国際人権法などを聴講しました。授業は、教科書を読んでいることを前提に、学生が議論をするといった形式のものもあり、リスニングが大変でしたが、親しくなったアメリカ人の学生からノートを借りるなどして理解に努めました。ランチタイムを利用しての、さまざまな分野のゲストスピーカーによる講演も頻繁に行われ、また見解の違う教授同士の白熱した討論会などもあり、自分の研究テーマとは違うものにも積極的に参加しました。学内のカンファレンスにも参加し、再生可能エネルギー専門の弁護士と知り合いになり、その後、事務所を訪問させていただき、いまでもメールをやりとりするなど親交を持っています。


学外の調査では、ロースクールの客員研究員であるということで、どこでも大変丁寧に対応していただきました。例えば、隣州であるインディアナ州の気候変動センターの訪問の際は、理事の方に直接インタビューをすることができましたし、再生可能エネルギー関係の研究施設の方々にも時間をとっていただき、施設や研究内容の詳しい説明を受けることができました。また、日弁連のメンバーとして、ニューヨークで国連の女性の地位委員会の国際会議や、世界中から集まったNGOのサイドイベントに参加するという貴重な経験も得ることができました。


英語について

英語力は、渡米前にレベルを上げるにこしたことはありませんが、大学構内にはYMCAの主催の英会話教室があり、また地域の無料英会話教室もありますし、大学で格安の個人チューターを紹介してもらうこともできますので、渡米後に引き続き研究と並行して英語力アップも出来ます。私もそのような機会を利用し、英語力アップとともに、ロースクール以外の留学生と交流を持ったり、ハロウィーンなどのイベントにも積極的に参加しました。

 


生活環境

シャンペーン市は、治安もよく、とても生活がしやすい場所です。コンサートホール、図書館といった文化施設や、大型ショッピングモール、各種レストランなど商業施設もひととおり揃っているため、特に不自由を感じることはありませんでした。アジア人留学生も多いため、米やアジア食材を置いているスーパーが複数あり、和食の食材に困ることはありません。週末にシカゴまで行けば、日本の大型スーパーがあり、食品のみならず、常備薬、化粧品、雑貨、書籍など日本製のものが手に入ります。スポーツをしたければ、大学のスポーツジムや、スケート場が格安で利用できます。市内には、全米ベスト100に入る公共図書館があり、明るく近代的で、CD、DVDコーナーや子供向けコーナーも充実しています。


中西部は、比較的物価が安く、アメリカ的な広い部屋やプールつきのアパートなどに住むこともできます。部屋が広いため、各自が料理を持ち寄ってのポットラックパーティーとよばれるホームパーティーもよく行われています。夏にはアパートの庭でバーベキューを楽しむ姿もよく見られました。まさにアメリカ的な生活を体験できます。

 

終わりに

以上のように、研究する上での環境としても、アメリカンライフを堪能する場所としてもUIUCはお勧めです。

 


2013年度派遣 田村淑 会員

イリノイでの研究環境

イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校ロースクールは、その名のとおりアーバナとシャンペーンの二つの町に跨って立つ大規模な総合州立大学です。とはいえ同大ロースクールの学生数は、JDコースで1学年180名程度、LLMコースで100名程度であり、アメリカの中では比較的小規模のロースクールです。


ロースクールでは客員研究員用の研究室はありませんが、ロッカーのほか、ロースクール内の図書館に専用のキャレルデスクが割り当てられます。図書館は、原則として学期中は深夜12時(金、土曜日のみ午後9時)まで開館しているので、研究環境に不便を感じることはほとんどありません。秋学期には、日本の他、コロンビア、ブラジル、中国、スペインなどからの客員研究員が在籍していました。


客員研究員は、各自の研究テーマに沿って研究を進めていくことになりますが、担当教授の許可を得れば自由に授業を聴講することができます。聴講できる授業数にも特に制限はありません。私は、秋学期には家族法、家族法実務など研究テーマと関連する授業を3つほど聴講しました。中でも家族法実務は、シャンペーン郡州地方裁判所の現職判事が教鞭をとり、主に離婚裁判手続きやそれに付随する問題点について実務的な観点からわかりやすく解説してくれるほか、検察官や弁護士等ゲストスピーカーによる講義もあり非常に得るものが多かったです。


また、授業以外にも、昼休み等を利用して学内外の講師による講演会が頻繁に開催されています。講演テーマは法律に限らず非常に幅広く、興味があれば誰でも自由に参加することができます。また、客員研究員は、ロースクールの教授陣を対象にした学内外の教授によるワークショップにも参加することができます。私もこれまでに何度か参加する機会がありましたが、毎回、発表者と参加者との間での活発な議論に非常に刺激を受けました。


その他、毎月1回、客員研究員、JSDコース(法学博士課程)の学生、及び教職員向けの“facultycoffee”というカジュアルな集まりがあり、コーヒーや軽食とともに他の研究員や教授と気軽に交流することができます。



生活環境

アーバナ、シャンペーンとも小規模な町ですが、学園都市のため比較的治安も良く、また、大型スーパーやショッピングモール、アジア食材店や各国料理のレストランなども揃っており、日常生活上困ることはありません。大学内には最新設備を備えた大規模なスポーツジムのほか、ボーリング場やスケートリンク、ミュージアムもあり、格安で利用することができます。市内には自然豊かな公園がいくつもありますし、公共図書館、映画館、劇場なども揃っているので余暇を十分に楽しむことができます。また、大都市シカゴまでは車で2、3時間程度なので週末に気軽に訪れることができますし、高速バスや電車、飛行機を利用してシカゴまで行くことも可能です。


なお、市内での生活に関しては、車があれば格段に便利になりますが、市内にはバス網が整備されているので車がなくても生活することは可能です。


今年は、アメリカ東海岸から中西部にかけて数十年ぶりといわれる大寒波が到来したため、気温が低く雪の日も多くありましたが、例年の冬はもう少し過ごしやすいのではないかと思います。

 

英語学習

私は渡米の時期と合わなかったため利用しませんでしたが、大学内のIntensive English Instituteという機関が夏期英語コースを提供しているので(有料)、秋学期開始前に集中的に英語を学習することもできますし、また、コミュニティーグループやYMCAが主催する無料の英会話レッスン、民間の英語教室などを利用して学期中も引き続き研究と並行して英語学習に取り組むことができます。

 

さいごに

1年間の留学を終え振り返ってみると、弁護士業務から離れ興味の赴くまま勉強や研究に集中的に取り組めたことは本当に貴重な経験でした。研究分野についての理解が深まっただけでなく、物事に対する見方や視野が大きく広がったように思います。この経験は、今後、弁護士として仕事を続けていくうえで大きな糧となると信じています。



2014年度派遣 鈴木敦士 会員

留学準備

英語が不得意であったので、6月に渡米し、イリノイ大学のIEI(Intensive English Institute)の夏季コースを受けました。このコースは有料ですが、英語学習の上でも、米国の大学に慣れるという意味でも有益であったと思います。

 

ロースクールでの生活

 8月上旬から、LLMの学生向けの導入講座があり、これは米国の判例を読むうえでの基礎知識やどのような情報がどのような文献に書かれているかがわかるので、受講するとよいと思います。授業については席に余裕があり担当教授の許可があれば聴講ができます。私の場合、消費者法の授業がなかったこともあり、断片的にこれまで聞きかじっていた知識を体系化したいと思っていたので、研究テーマとは直接関係ないのですが民事訴訟法や救済法の授業も聴講しました。民事訴訟や契約法など基礎的な法律科目についてLLM向けの講座が開講されることがあり、英語力が十分でない学生がいることに配慮してわかりやすく授業をしてくれるので受講すると基礎的な知識を得るのに有益なように思います。建前では、授業中の議論への参加は禁止されているのですが、担当教授次第です。

 

昼休みに、大学あるいは学生組織主催の講演会がたくさんあり昼食も提供されるので、興味のある分野の話を聞くとよいと思います。教授陣向けのワークショップに参加することもできます。私の場合、司法長官事務所の弁護士が講演に来ていたので捕まえて、事務所に訪問して消費者法の執行についてお話を伺いました。

 

そのほか、ほぼ毎週ロビーにスナックと飲み物が用意され学生が集まって歓談するPeer’s Pubという行事があります。客員研究員が集まるためのfaculty caféという行事も行われます。

 

研究活動

 他の学生と同様にロッカーが利用できるほか、JSDの学生と同様に図書館の2階に専用の机が借りられます。書籍についてはロースクールの蔵書以外の他学部や他校の蔵書も含めて借りることができます。もっとも、自分のパソコンで、ウェストローなどの判例文献情報検索が使え、雑誌掲載論文は図書館のサイトからオンラインで読めるものも多いので自宅で研究をすることも可能です。研究について、指導担当の教授に相談することもできますし、聴講した授業の担当教授にその分野の文献を紹介してもらったりもしました。

 

大学から2キロほどのところに州地方裁判所と連邦地方裁判所があるので、陪審裁判の傍聴を数件しました。

 

シャンペーンでの生活

 アジア系の食材店・レストランは充実しており、パンが嫌いでも食生活に困りません。大都市に比べ住宅費が安いので特に家族連れには良いと思います。大学町で外国語なまりの英語の発音に町の人が慣れており、田舎なのでのんびりしているせいか人も親切なので助かります。大学周辺はバスの便が発達しているので、小さいお子さんがいるのでなければ、車がなくても生活をする上ではそれほど困りません。冬季は、確かに外は寒いですが、建物はどこにいっても暖房が利いており快適で心配したほどではありませんでした。

 

大学のキャンパス内に屋内プール、体育館、アイススケート場などがあり近くに大学のゴルフ場もあるので、スポーツをするにもよいと思います。大学のフットボール、バスケ、ホッケー、野球のチームの試合がキャンパス内のスタジアム等で行われスポーツ観戦の機会もあります。コンサートホールもあり、音楽学部の学生や教授陣のオーケストラ、ウィンドバンド、室内楽のコンサートも定期的に開かれるので、手軽に楽しむことができます。また、キャンパス内に各宗派の教会があり、教会が留学生向けに文化交流イベントを開いており、クリスチャンでなくても参加できアメリカの生活文化を知るうえで有益です。人によっては大都市に比べ、刺激が少ないという不満を抱くかもしれません。その場合は、その分研究に専念できるというメリットと理解するとよいと思います。

 

おわりに

 私は、学生時代も含め海外で生活した経験はなく弁護士業務でも英語を使用していませんでした。選考の面接でも英語力の向上が課題だねと言われ、英語力向上のため何かしているのかと突っ込まれたほどでした。日本で学んだ法的思考能力と実務経験は、米国法を理解するうえでも役立つことが多く、英語力の不足を補うことができますので、ぜひ留学にチャレンジしてみるとよいと思います。

 

 

2015年度派遣 渡邉享子 会員

ハーグ条約及び離婚後の親子関係などを研究テーマに、2015年夏からイリノイ大学アーバナシャンペーン校(UIUC)のロースクールに留学させていただきました。長男(渡米時6歳)と長女(同4歳)を連れて、一時的なシングルマザー生活を送りました。

 

大学

 UIUCは、シカゴから車で南に2時間半ほどのシャンペーン郡のアーバナとシャンペーンという2つの町にまたがってキャンパスが広がる州立大学です。大学のテーマカラーである濃紺とオレンジ色が町全体を飾り、キャンパス外でも大学のロゴの入った服を着ている人に多く会うような大学町です。ごくたまに銃撃などのニュースを聞くこともありますが、基本的に治安はよいと思います。キャンパスから離れると、一面トウモロコシや大豆の畑が地平線まで広がる風景になります。

 

UIUCのロースクールはCollege of Lawと呼ばれ、約120年の伝統を誇っています。校舎はキャンパスの南に位置する3階建ての建物で、講堂、図書館、教室、ファカルティーの個室、事務やITのサービス、小さなカフェテリア、個人ロッカーなど、基本的にすべてがこの建物の中にあります。


研究生活

 私は6月初めに渡米し、最初の2か月は、大学のIntensive English Instituteという語学学校のサマーコースに通いました。ビザの関係でパートタイムでの受講でしたが、子連れで生活を立ち上げる私にとっては、むしろ都合がよかったです。この語学学校では、英語の授業の他に様々なアクティビティがあります。大学生のインターンがグループごとに割り当てられ、キャンパスの案内から始まり、近郊のイベントやシカゴへの日帰り旅行の引率などをしてくれます。おかげで町での生活に慣れることができましたし、各国からの学生と親しくなることができ、留学期間を通じて交流が続きました。

 

8月になると、ロースクールでLL.M.生を対象にした基礎講座が始まり、客員研究員も参加することができます。あくまでも客員研究員の立場なので、テストは受けず、成績もつけられませんが、その他はすべてLL.M.生と同じように扱われます。10~12人程度のクラスに分かれ、アメリカの法律の基礎概念、判例の調べ方・検索データベースの使い方、判例の読み方、文章の書き方などを学び、秋学期からの授業に備えました。LL.M.生の多くは中国からの留学生ですが、そのほかにも様々な国からの学生がいます。授業が始まってからも、折あるごとにLL.M.生やその他の留学生を対象とした交流の機会がありました。

 

客員研究員は、各教科の担当教授の了解を得ることで、自分の興味のある講義を聴講することができます。聴講なのでソクラティックメソッドの授業でも発言を求められることはないのが原則ですが、授業の内容や担当教授によっては、より積極的に関わっていけることもあるようです。

 

私の場合は、秋学期は指導担当になっていただいた教授の家族法と少人数のドメスティックバイオレンス法を、春学期は、同じく指導担当教授のバイオメディカル倫理と現職裁判官の家族法実務を聴講しました。


授業を聴講する他には、文献を調べたり、指導担当教授が主催するワークショップ等への参加、郡の裁判所で保護命令事件や家族法関連の事件の審理の傍聴、ロースクール内外での講演の聴講などをしたりしました。郡裁判所の裁判官や聴講している講義のゲストスピーカーの実務家の方に自分の研究テーマに関連したお話を直接伺い、家族法の枠を越えて様々な意見交換をしたことは、貴重な体験でした。私は子どもがおりますので、調査や会議等のための遠出が難しかったのですが、アメリカに住んでいる旧友を頼って、首都ワシントンで開催されたAssociation of Familyand Conciliation Courtsの会議や、日弁連の有する国連経済社会理事会との協議資格によりニューヨークでのCSW(国連女性の地位委員会)のイベントに参加することができました。

 

日常生活

 シャンペーン郡の気候は、夏は高温多湿で冬は寒さが厳しいのですが、四季の変化に富み、美しい自然を楽しむことができます。夏は日が長く、屋外でのイベントがたくさんあり、秋は紅葉が美しく、冬は氷点下20度まで下がる日もあり時々雪が積もります。

 

私は、キャンパスの南端にある大学運営の家具付きアパートに入居しました。メンテナンスが行き届いていることと、大学がコミュニティの運営をしっかりしており様々な経験ができること、国際的な環境でいろいろな国の人との交流が持てることなどのメリットが大きく、アパートの建物が古くて快適さが少々劣っても、ここでよかったと思います。

 

また、長男は公立小学校に、長女はアパートの敷地内で大学が運営するプリスクールに通いました。長男も放課後は同じ場所にある学童にスクールバスで直接戻ってきて、2人とも5時半まで預かってもらうことができました。

 

日本人は多くはありませんが、現地で永住している方を含めて日本人のネットワークがありますし、他の国の留学生や現地の人たちも、親切な方が多く、単身でも家族連れでもとても生活しやすい環境だと思います。

 

2016年度派遣 星知矩 会員

はじめに

  米国における広告規制を研究テーマに、2016年夏からイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校にて客員研究員として留学しました。任期付公務員として消費者庁に3年間在籍し、景品表示法を中心とした広告規制に関する業務を担当していたことから、米国の広告規制についても研究したいと考え、留学することにしました。

 

米国の広告規制の中でも、私の主な研究テーマは、いわゆるステルスマーケティング(特定の商品や役務の広告宣伝であるにもかかわらず、一般消費者に広告宣伝であると認識されないような方法でする広告宣伝)に関する法規制です。近年、日本においても社会的な問題となっていますが、このような行為は米国の広告規制のもとでは明確に禁止されている一方、日本では明確に禁止する法規制は現在のところ存在しません。米国の広告規制の研究を通じて、日本における規制の在り方を考察することが研究の目的でした。

 

ロースクールでの生活

 2016年8月から、LL.M.の学生を対象にした米国の法制度等を解説する基礎講座を受講しました。客員研究員であってもLL.M.の学生と一緒に講座に参加することができるため、他の学生と知り合う良いきっかけになりました。その講座では、米国の法制度の概要や、判例や文献の調べ方、法律文書の書き方などを学びました。また、講師とのロールプレイングを通じて、クライアントとの面談の仕方や、パートナー弁護士への法律調査結果の報告の仕方なども学ぶ機会がありました。毎年同様の講座を開講していることもあり、しっかりとしたカリキュラムが組まれている講座でしたので、大変有益でした。

 

秋学期が始まると、自分の興味のある分野の講義を聴講することができます。教授から事前に聴講の許可を得る必要がありますが、断られることはありませんでした(他学部の講座や、オンラインで開講されている講座も聴講することができました。)。私は、商標法、不正競争防止法、著作権法、メディア法、スポーツ法などの授業を聴講しました。通常のLL.M.生とは異なり、自身の興味分野に絞って自由に授業を聴講することができることは、客員研究員として留学するメリットだと思います。

 

ロースクールでは、平日の昼休みに教授や実務家の方の講演会などが多く開催され、様々な分野の最新の議論を学ぶことができます。自身の研究分野とは関連しないものであっても、様々な方々の問題意識を知ることは、自身の研究にも新しい視点をもたらすきっかけになりました。

 

研究活動

 客員研究員には、ロースクールの図書館内に専用の机とロッカーが割り当てられ、ロースクール内のパソコンやプリンターなども使用することが可能です。イリノイ大学の図書館は大変充実しており、様々な文献をオンラインでも閲覧することができました。また、ロースクールの図書館にはリサーチアシスタントの方が常駐し、調査したい分野についての有益な文献などを紹介してくれました。

 

普段の研究活動としては、ロースクールの授業を聴講するほか、研究テーマである米国の広告規制についての文献調査をしたり、専門誌に連載するための記事を執筆したりしていました。特定の法律分野にこれだけじっくりと取り組むことは、弁護士として仕事をしながらでは難しいと思いますので、関心を持っている分野がある方にとっては、とても貴重な経験になると思います。

 

日常生活

 私が住むシャンペーンという町は、シカゴから車で2時間半ほどのところにある大学町で、のんびりとした町です。決して都会とは言えませんが、飲食店やスーパーマーケットが大学の近くにあるため、車がなくても生活に困ることはありません。シャンペーンは冬の寒さが厳しいと聞いていましたが、留学をしていた年は暖冬だったこともあり、あまり東京と変わらない印象でした。雪が降ることもありましたが、数日ほどだったと思います。

 

大学の施設はとても充実しています。特に大学のジムは綺麗に整備されていて、快適に使えました。場所もロースクールから近く、大変便利です。また、大学のキャンパス内のスタジアムではスポーツ観戦をすることができますし、コンサートホールなどでは著名な方々のコンサートなどが開催されていました。都会の大学と比べると刺激は少ないかもしれませんが、学内でも様々なイベントが開催されているので、退屈することはないと思います。

 

さいごに

 自身が関心を持つ法律分野の研究に集中できる贅沢な時間を得ることができたことと、留学生活を通じて様々な国の方々と出会えたことは、私にとって一生の財産になると思います。留学するに当たって悩んだこともありましたが、今では留学して本当に良かったと思っています。留学に興味があるのであれば、是非チャレンジしてみてください。



2017年度派遣 橋本佳代子 会員

はじめに

妊娠中の労働者に対する法的保護を研究テーマに、2017年夏からイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校ロースクールに留学しました。この数年でマタニティ・ハラスメント事件の受任が増え、妊娠中の労働者に対する不利益取扱いを性差別として位置づけるアメリカの法制度に興味を持つようになり、思い切って日弁連の留学制度に応募しました。


大学の環境

アーバナ・シャンペーンは、シカゴから車で約2時間半の位置にある、大学を中心とした静かで広大な田舎町です。夏は暑く、冬は寒さが厳しく、留学時の冬は氷点下25度まで下がりました。もっとも、部屋の中は暖かく、外の寒さにはすぐに慣れました。大学近辺にスーパーや学生向けの飲食店がありますし、バスが多く通っているので車がなくても生活には困りません。夜に一人で出歩かないなど気を付けてもいましたが、日々の生活の中で治安に不安を感じたことはありませんでした。日本人は少ないもののアジア系の留学生は多く、大学構内で異文化交流イベントが頻繁に開かれるなど、大学が留学生を歓迎している雰囲気を感じました。


英語学習

5月末に渡米し、はじめの2か月間は大学附属の語学学校に通いました。授業ではプレゼンテーションを行う機会が複数回あり、鍛えられました。また、授業の一環として、ボランティア活動、警察署訪問、市長へのインタビュー等を行い、アメリカの文化を知る良い機会となりました。


秋学期以降は、地元の教会が開いている英会話教室や交流会、外国語学部の冬期英会話講習に参加するなどして、できるだけ多く英語に触れるようにしていました。


研究生活

客員研究員には、ロースクール内に専用の机とロッカーが割り当てられます。大学図書館は蔵書が多いことで有名ですが、オンラインの判例・文献データベースも非常に充実しています。


8月にはL.L.M生を対象にした3週間の導入講座に出席しました。この講座では、アメリカの法制度の概要の他、判例・文献データベースの使い方、判例の読み方、クライアントとの模擬面談等、実用的な内容を学びました。客員研究員にも発言の機会が与えられ、課題の添削を受けることもできます。この講座で教わった判例の読み方やデータベースの使い方は、すぐに研究に役立ちました。また、この時に知り合ったL.L.M生とは学期が始まってからも親しくしていました。


授業は各学期2コースまで聴講することができます。私は秋学期には労働組合法と労働災害補償法、春学期には個別労働関係法と雇用差別法を聴講しました。文献を読んでいるだけではよく理解できなかった内容が、授業で説明を聴いてすっと分かることがありますし、テキストには載っていない背景事情を知ることもでき、とても面白いものでした。聴講生なので発言を求められることはありませんが、少人数のクラスでは教授から日本の法制度について尋ねられることもありました。 


平日の昼休みには、ほぼ毎日のように、裁判官、弁護士、教授等の講演会が開かれます。テーマは陪審制度、受刑者の更生、女性弁護士のキャリア構築など多岐に渡り、視野を広げる機会になるのでできる限り出席しました。


授業を聴講する以外には、文献や判例を読んだり、研究テーマに関連する他学部のワークショップに参加したりしました。指導担当教授も聴講したクラスの教授もとても親切で、個別の質問の機会をいただいたり、文献のコピーをいただいたりすることもありました。また、9月には雇用機会均等委員会(EEOC)のセミナーに、3月にはアメリカ法曹協会労働部門の主催する会議に参加しました。


日常生活

語学学校やロースクールの友人とホームパーティーをしたり、キャンパス内のスタジアムで行われる大学対抗フットボールを見に行ったりするなど、各国出身の友人と積極的に交流しました。また、大学の留学生課のプログラムを通じてホストファミリーの紹介を受け、サンクスギビングデーやクリスマスにご自宅に招いていただいたり、一緒に地元のファーマーズマーケットに行ったりして、アメリカの文化を体験しました。


さいごに  

L.L.M生のように試験に追われることなく研究に集中できるのは、客員研究員だからこそです。本制度で客員研究員として留学し、本当に良かったと思っています。留学を考えている方には、ぜひ本制度の利用を検討していただければと思います。



2018年度派遣 辻畑泰喬 さん

はじめに

私は、2018年6月からイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校に客員研究員として留学しています。イリノイ大学は工学やコンピューターサイエンス分野でトップクラスの優れた研究がなされており、また、全米1、2とも評される図書館があります。私はこれまでの官民での経験を踏まえつつ、データ利活用社会におけるプライバシーについて研究しています。情報のデジタル化、ビッグデータ化、グローバル化、AIやIoTの開発・普及という時代背景がある中で、データ流通や利活用ニーズとの両立を図りつつ、米国での議論等も踏まえたプライバシー政策について研究することが目的です。


研究生活

客員研究員は、最初の8月の1か月間、他のLLM生とともにLaw500(Legal Writing & Research)を受講することができ、これはその後の研究活動にとって有意義でした。連日、朝から夕方まで少人数形式を中心とした授業を受け、大量の課題が出されます。米国の法制度、文献の引用方法、判例のリサーチ及び分析方法、米国での法律文書の書き方などを具体的に学ぶとともに、プレゼンテーション、クライアントインタビュー、法律事務所内でのパートナーへの報告などの実践練習も行います。このLaw500では客員研究員も他のLLM生と同様に扱われ、LLM生と密に過ごすことができ、友人を作る良い機会でもあります。


客員研究員は研究に関連する授業を聴講することができます。聴講生という位置づけですので議論への参加は求められないのが建前ですが、教授によってその扱いは様々です。実際、私が聴講しているプライバシー法の講義では、積極的な議論への参加、及びプレゼンテーション等の機会を聴講生である私にも提供しています。


授業のないときは、基本的にロースクール棟内にある専用デスクで研究活動をすることになり、朝9時までには行くようにして研究リズムを整えています。残念ながら今年度はロースクール図書館の改修工事と重複している期間が多く、同図書館の使用が制限されてしまっていますが、間もなくその工事も終了するようです。私は、判例や書籍、記事等の文献を調査するほかにも、学期中は毎日欠かさず新聞を3~4紙目を通すようにしています。学期中は、New York Times、Chicago Tribune、USA TODAYの3紙が、ロースクール棟を含む学内各所に積まれており、自由に持っていくことができますし、週2日は学生新聞であるTHE DAILY ILLINIも配布されます。特に前3紙は、大手IT企業におけるプライバシー問題など、私の研究テーマとも関連のある記事が掲載されることが多く、情報収集のツールとして実際に役立っています。


研究テーマと関連するシンポジウム等に参加することもあります。例えば、イリノイ大学ビジネススクールで開催されたシンポジウムではデータ駆動型社会における倫理についての議論を聴くことができ、そのような場は、プライバシーを研究・担当している学者や企業の方等と直接話ができる機会にもなります。


ロースクール生活

私が所属するロースクールには、JD生を中心としつつも、各国から留学してきているLLM生が60名程度、JSD生及びVisiting Scholar(客員研究員)が合計で10名程度在籍しています。留学組は中国出身者が最多ですが、他のアジア、欧州、アフリカ、南米など、様々な国籍の方がいます。日本人は私と裁判官の合計2名の客員研究員がいるのみで、今年度のLLM生は0名でしたが、ロースクールとしては日本人のLLM生が増えることを期待しているようです。実際、日本人向けのロースクールの広報資料の和訳を手伝ったことがありましたし、日弁連の推薦枠として、新たにLLM枠が設けられることにもなりました。


ロースクールでは、昼休憩の時間を使い、講堂や教室、ファカルティラウンジで講演会が開催されることがあり、大抵、参加者には昼食が無料で支給されます。多いときは平日のすべてが講演という週もあります。ロースクール公式のもののほか、各種学生組織が企画し、ロースクールの支援を受けて開催するものもあります。講演会を通じて、様々なテーマ(法律、政治、社会、キャリア等)についての米国での問題意識や実務、キャリア形成についての知見を増やすことができ、とても有意義なので可能な限り参加するようにしています。


日常生活

私が生活しているシャンペーン市・アーバナ市エリアは、シカゴの南方、車で2時間半程度の地にあり、周囲には広大なトウモロコシ畑が広がっています。人口は両市あわせて十数万人で、大学都市ゆえに大学が休みの期間中は中心地を含めて閑散としています。自動車があると確かに便利ですが、深夜までバスが運行しており、また必要なときはレンタカーやウーバー等を利用すればよいので、小さな子がいない限り、自動車なしでの生活に特段の不自由は感じません。気候はマイナス30℃近くまで下がって大学の全授業が休校になったときがあり、日中でもマイナスの日々が続くことも多々ありますが、日本で着ていた服を重ね着することで生活できており、建物内はとても暖かく管理されていますので、感覚的には東京の冬と大差はありません。治安はとてもよい印象で、前述THE DAILY ILLINIの警察の報告欄を読めばそれがよく分かります。研究時間外は、大学のジム、映画鑑賞、大学スポーツ観戦、町のフェスティバル、音楽・演劇鑑賞などの機会が身近にありますが、やはり都会に比べると制限されてしまいます。夜は自宅でTEDの視聴など、語学の勉強をしています。


おわりに

これまでの日本での弁護士業務から離れて研究活動に専念するという経験や、海外に生活の拠点を置くという経験は、自身に新たな物の見方や価値観、スキルを提供してくれる良い機会になるかもしれません。気づけば本稿執筆時点で既に半分以上の期間が経過しており、私自身、残された研究期間を有意義なものにしなければと、本執筆を通じて再確認したところです。



2019年度派遣 葦名ゆき 会員

留学概要

2019年5月31日~2020年6月18日まで、米国イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)に「大規模不法行為における損害賠償制度の日米比較研究」という研究テーマで留学しました。


米国での主な活動

(1)Law500の受講

2020年8月から約3週間、ロースクールにて、アメリカ法に関する集中講義を受講しました。非常に充実したプログラムで、少人数クラスと大教室での講義が組み合わせられたカリキュラムとなっており、その中で、受動的に講義を受けるだけではなく、判例調査のレポートを提出したり、模擬面談をしたり、法律文書を作成したりしました。読むべきテキストも大量にありましたが、アメリカ法の概要を知る上で、とても有意義な集中講義でした。


(2)ユタ州弁護士会での報告

客員研究員として留学するにあたり、UIUCに研究計画書を提出する必要があったのですが、その際に日弁連が依頼したネイティブチェッカーだった米国の弁護士が、私の研究テーマに興味を持ってくださり、ユタ州弁護士会で研究内容を報告する機会を設けて下さったため、9月下旬に一週間の日程で、ユタ州ソルトレイクシティを訪問しました。この報告会には、日弁連で共に被災者支援活動をしていた5人の弁護士も日本から合流し、私の報告に先立ち、被災者支援の仕組みや活動内容を英語で報告してくれ、とても心強く励みになりました。


(3)ロースクール講義聴講

秋学期は、Complex Litigation(複雑訴訟)を聴講し始めました。私の研究テーマと直結する講義で、当初1割も分からなかった講義内容が、予習も完璧で、講義中も教授の話を聞き落とさなかった場合に限り、12月頃には、なんとか6~7割程度、理解できるようになっていきました。2021年1月から始まった春学期では、Civil Procedure(民事訴訟法)、Remedies(救済手段)を聴講しました。


(4)Nuclear ENGR and LAW seminar

多国籍との仲間との交流も当然できますが、日本にいたら出逢えない異分野の研究をしている日本人留学生と交流する機会を得られることも留学の醍醐味です。UIUCには、全米有数の原子力工学部があるため、私の研究テーマの前提にある原子力発電所事故を異なる視点で研究している日本人留学生が数人在籍していました。そこで、彼らとの繋がりを核に、ロースクールの仲間や原子力発電所事故に関心がある他大学に留学中の日本の官公庁からの留学生も加わり、Nuclear ENGR and LAW seminarと称する研究会を2019年10月から2~3週間に一度の頻度で開催し、さまざまなことを議論するようになりました。


生活について

(1)家族同行のメリット

私の場合は、夫と二人の子ども(渡米時11歳、7歳)と一緒の留学生活でした。家族と一緒であったからこそ、体験できたことが非常に多く忘れがたい体験を沢山重ねられました。


子どもたちは、現地の小学校にスクールバスで通学しました。小学校は、数十の多国籍の子どもを受け入れている国際色豊かな小学校で、先生方も外国人の生徒には慣れていましたし、良いところを見つけ出して褒めるのが上手で子どもたちの自信を引き出してくださいました。


余暇も家族で楽しみました。留学生同士の交流会は沢山企画されていましたし、ホームパーティー的なことも頻繁に行っていました。また、週末にも図書館や農場などで何かしらイベントがあり、なるべく出かけるようにしていました。


大きな旅行は前述のユタ州と年末のフロリダ州くらいでしたが、シカゴやセントルイスは近かったこともあり、何度か行き、大リーグやNBAの試合を楽しみました。


暖かい季節は、大学のキャンパスや近くの公園、寒い季節は大学のスケートアリーナに通いました。子どもたちは、どんな環境でも何かしら遊びを発見して遊ぶのでどんなに気分が落ち込んでいても、一緒にいるだけで心から笑えて、楽しかったです。


(2)パンデミック

2020年3月半ばから、COVID-19による生活の制約が大きくなり、大学や小学校、公共施設がすべて閉鎖され、生活が一変しました。パンデミック下での生活は苦労も沢山ありましたが、①米国が危機にどのように対応しようとしているかを内側から学べた、②勉強しかすることがなかったので、腰を据えて勉強できた、③勉強仲間や留学生同士で日々の情報を交換し、気分転換を共に試みる中で、絆が非常に強まった、等の利点もありました。Positive thinkingはどんな場面でも重要だと感じました。


さいごに

1年間の留学生活は、どの瞬間も豊かな学びがあり、本当に留学して良かったと思います。キャリア半ばでの留学は、短期的には失うものもあるかもしれませんが、長期的には得るものの方がずっと大きいと思います。キャリアがあるからこそ、語りたいこと、語れることがあり、思っている以上の強みとなり、あらゆる場面における足がかりになります。


私は、留学前から帰国後まで数え切れないほど沢山の方々に支えられて、今に至ります。留学にご興味がある方に私ができることは何でも還元させて頂きますので、どうぞお気軽にご連絡ください。



2020年度派遣 遠藤真吾 会員

はじめに

私は、長年、高齢者・障害者の権利に関する委員会に所属し、現在日本で進められている成年後見制度利用促進に関する活動にも関わることが多かったのですが、2016年9月にドイツのベルリンで開催された成年後見法世界会議に参加したことなどをきっかけに、諸外国の法制度を学ぶ必要性を実感し留学を決意、「アメリカにおける成年後見の法改革の動向」を研究テーマに、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校LL.M.コースの学生として留学しました。



研究生活について

(1)大学の環境

イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校は、イリノイ州シカゴ市から南に約200km、車で約2時間30分の位置にある、シャンペーン市とアーバナ市にまたがってキャンパスの広がる歴史の古い州立大学です。両市はリスが至る所を走り回る自然豊かな学園都市で、町の中心部を離れれば、トウモロコシや大豆の畑が広がります。気候は、夏は湿度が低く、気温が高くても爽やかで過ごしやすい日が多いですが、冬は凍えそうな寒さで、特に1月・2月は日中でも氷点下の日々が続きます。


治安は、たまに銃撃事件が発生することはあるものの、比較的良く、さまざまな国からの留学生やその家族が数多く生活していることもあって、アジア系の外見から差別されていると感じたことはありませんでした。


(2)LL.M.について

LL.M.(Masters of Laws:法学修士)とは、アメリカのロースクールのコースの1つで、卒業により法学修士号を取得することができます。LL.M.の学位取得は、外国人が各州の司法試験を受験する場合に、受験資格の要件の1つとなっていることが多く、日本の法曹であれば、一般的にニューヨーク州司法試験の受験資格を得ることができます(なお、各州の司法試験の受験資格・要件は、必ず最新のものを公式サイトから確認し、できるだけ早めに準備を開始することをお勧めします)。


主に留学生向けのコースであり、私がいたときは、31の国または地域から、138名が在籍していました(2021年秋学期)。


期間は、一般的に約1年間(2セメスター:秋学期8月〜12月、春学期1月〜5月)ですが、希望する学生は、期間を延長して3セメスター目の受講・在籍をすることもできます。ただし、少なくとも12単位の履修が必要です。また、学費も当然かかりますが、最初のセメスターの成績に応じて、奨学金を受けることができます。


(3)授業科目(コース)について

コースは、アメリカの学生が法曹資格の取得を目指して通うJD(Juris Doctor:法学博士)と共通するものが多いですが、LL.Mの学生のみを対象とするコースもあります。


参考までに、私が受講したコースは、次のとおりです。

  • ・高齢者法(Elder Law, Richard L. Kaplan)
  • ・家族法 (Family Law, Janice Farrell Pea)
  • ・相続と信託(Decedents’ Estates and Trusts, Sean M. Anderson)
  • ・財産法 (Property, Jacob S. Sherkow)
  • ・契約法 (Contracts, John L Rogers)
  • ・国際法 (International Law, Patrick Keenan)
  • ・憲法  (Constitutional Law, Jason Mazzone)
  • ・民事訴訟法(Civil Procedure, Sean M. Anderson)
  • ・リーガルライティング&リサーチ(必修)

    (LLM Legal Writing and Research, Stephanie Davidson)

  • ・法曹倫理(Professional Responsibility, Ellen R. Kordik)(必修)

(4)LL.Mか客員研究員か

LL.Mの場合は、学生なので、研究活動は主に研究に関連する授業の履修と単位取得を通じて行うことになります。実際、セメスター中は、単位取得のために大量の予習や期末試験に向けての勉強に追われ、それとは別に調査・フィールドワークを行う余裕は全くありませんでした。


他方、客員研究員は、自分の研究に関連する授業のみ聴講すればよく(1セメスターあたり2科目までという制限があります)、試験勉強をする必要もないため、研究に専念することができ、必要な調査やフィールドワークを行う時間的余裕もあります。


私は、アメリカ法の体系的な知識や理解を得たかったこと、修士号の取得により今後のキャリアの選択肢が増えること等を理由にLL.Mを選択しましたが、学位取得やアメリカの司法試験受験を考えていない場合は、客員研究員をお勧めします。


日常生活について

大学から徒歩で行ける範囲にスーパーマーケット(Targetなど)がありますし、アマゾンの配達車も頻繁に来るので、生活に必要な買い物に困ることはありません。


交通機関は、バス路線が発達しており、レンタカーやウーバーも利用できるので、特に大学に歩いて通える場所に住むのであれば、自動車を持っていなくても生活に支障はありませんが、シカゴやインディアナポリスなど近郊の都市や郊外の店にも気軽に行けますし、自動車を持っていた方が圧倒的に便利です。特に、子供と一緒に留学される場合は、自動車を購入されることを強くお勧めします。


私が留学していた時期は、コロナの影響でコロナ前よりもイベントも少なめでしたが、それでも、大学スポーツの観戦(アメリカンフットボール)やロースクール内のイベントへの参加(International Cultural Night: 各国・地域ごとに料理のブースを出して投票で順位を決める)など、アメリカの大学生活を存分に味わうことができました。


さいごに

弁護士としてのキャリアを中断して留学に行くかどうかは非常に悩ましい問題です。 しかし、海外での留学生活は、日本とは異なる文化・慣習・価値観・考え方に日常的に触れることで、視野を広げ、自分の信念や価値観に向き合うことができる貴重な機会です。


人生100年時代といわれ、あらゆる領域でグローバル化が急速に進展する昨今、コンフォートゾーンを抜け出し、さらなる成長を目指したいという方は、海外ロースクール留学にぜひ挑戦してください。



2022年度派遣 木下岳人 会員

シャンペーンという街

イリノイ大学(UIUC)が所在するシャンペーン市とアーバナ市は、シカゴからバスで3時間、長距離鉄道(Amtrack)でもやっぱり3時間かかる、トウモロコシ畑に囲まれた米国中西部の田舎町です。シカゴとシャンペーンを結ぶバスは1日に5本前後、長距離鉄道は2本しかないためアクセスはすこぶる悪く、晩秋から初春までの寒さは厳しいため(氷点下15度の日もありました。)、気合と覚悟が必要です。他方で治安は相対的に良好であり、滞在中に危険を感じるような場面に遭遇したことはなく、滞在期間中は銃撃事件もありませんでした。家賃も大都市に比べると格段に安いため、心理的・金銭的には暮らしやすい街でした。


キャンパス内部及び周辺はローカルバスが運行しており、日常生活においては自家用車を保有していなくても特段不便なことはありませんでした。しかし、シャンペーン市街に行くためには、(上記のシカゴとの往復を除けば)公共交通機関がほぼないことから、自家用車は必須となります。


研究活動について

ロースクールの講義を半期に2コマまで聴講受講することができます。研究テーマとの関係では春学期に開講が予定されていた気候変動・サステナビリティ関連の授業を楽しみにしていたのですが、残念ながらキャンセルになってしまいました。ロースクール図書館の一角に専用机も貸してもらえますが、図書館の蔵書の充実度がいまひとつであり、かつ電子資料には自宅からでもアクセスできるため、ほぼ物置状態でした(講義で使うケースブックは重いのでそれはそれで助かりました。)。


また、シカゴ・オヘア空港あるいはシカゴ・ミッドウェー空港は、国外の各都市とも多くの路線が就航しています。私の研究テーマがグローバル・サプライチェーンに関連するものであることに加え、英連邦諸国において先進的な判例が多く出ていることもあり、留学期間中は英国の各大学やカナダのトロントにあるオンタリオ州法曹協会の図書館でリサーチを行ったり、コロンビアでフィールドワークを行ったりもしました。


研究テーマにもよると思いますが、文献の電子化やデータベース化の進展のおかげで、物理的にシャンペーン(UIUC)にいないとできないことは相当限られる(さらに言えばシャンペーンにはUIUCしかない)ので、研究計画に応じて、積極的にシャンペーン外、あるいは米国外にも活動の場を広げることも大事かと思います。


カレッジ・フットボール

シャンペーン滞在中の日常生活で最も印象に残ったのは、(アメリカン)フットボール観戦です。日本にいたときは「アイシールド21」という漫画を読んだことがあるぐらいでほぼ知識はなかったのですが、米国ではカレッジ・フットボールがプロスポーツと並ぶレベルの人気を持つと聞いていたので足を運び、徐々にのめりこんでいきました。


ロースクールのすぐ近くにあるフットボール専用のスタジアムは、6万人の観客を収容できる巨大な建物で、試合前のブラスバンドやチアも含めて試合当日の雰囲気は圧巻です。UIUCは、米国の大学スポーツのカンファレンス(リーグ)の中でも最上位の1つであるBig10カンファレンスに所属しています。といっても、強いのはあくまで所属リーグであって、UIUC自体は残念ながら毎年リーグ内で最下位付近が定位置となっています。それでも学生や街の人々には変わらず愛され続けており、週末の試合開始時間近くになると、シャンペーンの街では応援ユニフォームを着た人たちがぞろぞろとスタジアムを目指して移動する光景が見られます。


日本にはそもそもフットボール専用のスタジアムがほぼないため、これからUIUCに行かれる方には是非1度スタジアムに足を運んでみて頂ければと思います。