ニューヨーク大学ロースクール(NYU)留学体験記

目次

「充実した授業内容」  三木俊博 会員

私は修習27期。弁護士経験25年、満50歳になったことを機縁に海外留学を志した。日弁連の選考委員から「英語能力をもっと高めること」「情報発信者の役割も果たすこと」を求められた。これは大変だ。考えると、後者も前者にかかっている、前者は現場に身をおくことにかかっている。そこで、2001年5月17日からニューヨークに渡り、NYU/ALI(ニューヨーク大学付属英語研修所)で世界各国からの若い留学生たちに交じって英語、とりわけヒアリングとスピーキング能力をつけることから始めた。NYUは客員研究員に無料でALIの英語研修に参加することを認めている。ロースクールとALIはすぐ近くであり、夜間研修もあって至極便利。とは言え、2年間の留学中、英会話能力は常に苦労の種だった。が、ここでは、その点は脇に置いて、2001年9月貿易センタービル・テロ攻撃とその直後の期間に、NYU留学で学んだこと・見たこと聞いたこと・発信したことを簡単に紹介したい。


学ぶこと:ロースクールにて

私の研究対象は消費者法・投資者法の実務、ということで出かけたが、日弁連との窓口教授であるUpham教授に誘われて、同教授主宰のGlobal Pubic Service Lawyering (GPSL:国際的公益弁護活動)のゼミナールにも参加。そこへの参加によって、世界各国の公益的弁護活動に研究対象(見聞対象と言った方がいいかな)を広げることとなった。消費者法・投資者法に関しては証券取引法と独禁法を受講し、また、ニューヨーク市弁護士会が主催する公開セミナー等にも参加。GPSLゼミでは、国際的な視点での公益的弁護活動に関する論文を読んでの意見交換だけではなく、公益訴訟(国内・国際)に携わっている実務家を招いてのディスカッション、リーガル・サービシーズ(低所得者向けの地域公設法律事務所・民事専門)への訪問、夜間勾留審理の傍聴(注:リーガル・エイド・ソサエティー所属の刑事専門弁護士が被疑者弁護を担当することが多い)、ワシントンDCに出かけて国際的な人権・環境監視団体(例:ヒューマン・ライツ・ウオッチ)・世界銀行とIMF・共和民主両党議員の政策秘書などへの訪問と極めて多彩で刺激的な内容。GPSLゼミは毎年継続されており、世界各国で公益的な弁護活動に携わっている弁護士と交流できる最適の機会なので、次年度研究員も是非参加されることをお奨めしたい(注:2006年度は不開講、2007年度以降未定)。


見ること・聞くこと:実務現場を訪ねて

私の主たる関心は、日本の実務家として、アメリカ法の実務現場・実務家たちの活動振りにあった。そこで、ニューヨーク市弁護士会消費者問題委員会の臨時委員にしてもらい、その定例会やシンポジウムに出席。また、NCLC(National Consumer Law Center:全米消費者法センター)が主催する消費者権利訴訟研究集会やPIABA(Public Investor Arbitration Bar Association:一般投資家仲裁弁護士協会)の年次研究集会にも積極的に参加。そこへの参加を通して、消費者・投資者法分野の実務家と知り合えたことが今後の貴重な財産になった。その集会へ参加する機会に、ボストン、アトランタやカリフォルニアなどを観光することもできた(楽しかったなぁ)。さらに、2003年5月には、約1ヶ月間、日本流に言うと「都市型公設法律事務所」と言うべき「South Brooklyn Legal Services」に通った。低所得者向け民事専門の無料法律事務所。所長弁護士の好意で個室と個人用PCを与えられ、消費者金融事件の訴状や答弁書に目を通して担当弁護士に質問したり、所属弁護士に連れられて、地域出張法律相談、Housing Court(住宅紛争裁判所)、Appellate Division(ニューヨーク州控訴裁判所)へ出向いた次第。アメリカ大都市下町の法律紛争とその解決の実際を見聞するとともに、久しぶりに、司法修習生に戻った気分にもなった。


発信すること:日本の実務・活動を紹介

英語能力の問題があって、かなり苦労したが、日弁連から、また、Upham教授からも求められたことなので、頑張ってみた。GPSLゼミでは、豊田商事事件を素材に日本における「弁護団方式」での公益的弁護活動(1年目後期)、日本の公益的弁護活動の概要と特徴(2年目前期)、クレサラ問題と弁護士の取組み(2年目後期)を報告。ニューヨーク市弁護士会消費者問題委員会では日本の消費者問題に対する弁護士の取組み(消費者金融や詐欺商法問題を中心)、ブルックリン・ロースクールで日本の証券取引規制と実際事例について報告。いずれもレジュメに基づく口頭報告の後、質疑応答を行った。聞き上手の皆さんに助けられて、幾ばくか、日本から発信するとの役割も果たせたのではないか、と思っている。次年度の研究員にはこの道を広げていただくようお願いしたい。



「ママさん子連れ留学の思わぬ効果」  森雅子 会員

12歳のとき父が全財産を無くし弁護士に救われたのがこの職業を目指したきっかけであった。働きながらの進学。苦しかった。同じような人たちを救いたいと登録1年目から二弁の消費者問題対策委員会の委員として勉強させていただいた。ココ山岡事件、日本テレビ・しょう錦事件、和牛商法などの被害者側弁護団に参加し、被害者の救済に一つの壁があることを知る。不当利得返還請求・損害賠償請求のための加害者資産の保全が困難であるため勝訴判決を得ても被害が回復されない。現行法制度の問題点を感じていた。「どうしたら被害者にお金を戻してあげられるのか」。だれかれ構わず議論をふっかけた。「それは法律を使う弁護士の仕事じゃない。法律を作る政治家の仕事だ。」と答えた人がいて、「現場の不条理さを最も知っている弁護士が、制度を変えるよう働きかけていくべきなのでは。」と思い始めていた。登録3年目に事務所を独立し消費者保護のための仕事に専念し始めたちょうどその頃、日本弁護士連合会の人権弁護士育成のための米国留学制度を知り、応募。最終選考までに4名が残ったが、当時私は妊娠9ヶ月で出産寸前の大きなお腹。面接官に「生まれた子はどうするのか」と聞かれると思いヒヤヒヤしたが、5名ほどの面接官は研究テーマについては鋭い質問をしたものの、出産育児については一切質問しなかった。さすが人権意識の高い日弁連であると感動した。(ちなみに、金融庁に入るときには二児について詳しく質問された上、育児との両立について書面で提出を求められた。)

結果として、留学制度第2期生(99年)として私一人が選抜された。第一期が2名だっただけに複数での留学を予想していたので、一人だけというのはかなり心細かった。しかも初めての子育てもある。夫の事務所も見かねて一緒に渡米する提案までしてくれたが、夫自身のキャリア設計を曲げてもらってまで一緒に行ってもらうのは気がひけた。結局よく話しあった末、「このチャンスがまたあるとはかぎらない」と、夫の日本からの応援を支えに、出産したばかりの長女を連れてニューヨークに留学する。共同経営で独立したばかりのパートナー弁護士たちにも迷惑をかけたが、皆快く送り出してくれた。初孫と遠く離れてしまうことになる双方の両親も私を信頼して応援してくれた。夫は3連休があれば必ず飛行機でNYに駆けつけた。初めての子の一番可愛い盛りの1年間を一緒に生活できなかった夫に対しては非常に申し訳ない気持ちで一杯である。授業料は日弁連とNY大学との提携契約により無料であるとはいえ、NYでの生活費は非常に高くついた。家賃だけで月約30万円であったし、ベビーシッター代もかかる。夫の日本からの仕送りが無ければ私の留学生活は成り立たなかった。そんな私たちに「離婚したの?」との失礼な質問も寄せられた。女性が子連れで留学するのは日本ではまだまだめずらしい。しかしNY大学や国連には世界中からそんな女性たちが集まっていた。本留学制度では国連での仕事も与えられるが、それを通じて知り合った女性たちの影響で、働く女性の子育てについてもひとつの見解を持つに到った。

実はNY市は消費者保護が世界一進んだシティと言われる。犯罪で得た収益も米国ではいったん資産を凍結して、有罪となれば被害者に分配する制度がある。被害者救済のためにこの「違法収益剥奪制度」を日本に導入しようと強く心に誓った。同時に、金融に強いNYローに集う学生たちと議論するうちに、企業専門弁護士だけではなく、消費者弁護士であっても、資金の流れや企業会計などをより深く理解し「金融の専門知識を持たなくては闘えない」と感じた。帰国後、違法収益剥奪制度について論文を書くが、手応えを感じないまま、今度は夫の留学のために2002年に渡米。第二子出産直後であった。

2年間の滞在後、2005年、金融庁が任期付職員を募集しているのを知る。「金融について学べる上に、消費者保護行政にも関わることができる」と迷わず応募。40歳で弁護士(というよりほとんど主婦)から任期付国家公務員へと転身?した。正解だった。

実は、こうしたキャリアチェンジに役立ったのが2回目の米国滞在。夫の留学に伴い自分の事務所は閉め、米国では子育てに専念した。この間、仕事を離れたようでいて、冷静に、今後の人生設計、被害者救済という大目標を達成するために自分には何が必要か、を考える時間を得た。もちろんブランクが生じたことに焦りを感じなかったといえば嘘になるがこれも次のステップへのエネルギーになった。若い女性弁護士の皆さんには恐れずに大胆な挑戦をどんどんしていってもらいたい。

金融庁では、意外にNY留学の経験が生かされた。入庁半年後にひとりで海外調査の任を命ぜられた。アメリカ、イギリスに赴きノンバンク制度について政府機関、業界、消費者団体を回り調査。NYローの人脈を使い、ノンバンクに強い弁護士にも話を聞けた。金融庁の有識者懇談会にて報告し、同庁のHPにも報告書が掲載されている。金融関係の雑誌にも執筆した。金融庁とは無関係と思われた違法収益の剥奪制度についても、庁内で研究することが認められた。相次ぐ経済犯罪事件により、同庁においても、違法収益剥奪制度が注目され始めている。私のNYでの研究成果や、DCでの調査も参考にしていただいている。本年6月、日本で初めて犯罪収益剥奪制度が一部立法化された。その政府提出資料に当時手応えがなかった私の論文が入っていた。それを国会で仕事中に偶然発見したとき、「あきらめないで最後までやりなさい」という、夫が留学する私に手向けてくれた言葉がよみがえった。

今後多くの弁護士が、本制度によって海外へ留学し、質の高い教育を受け有意義な研究をし、良い人脈を作り異なる社会環境下で刺激や影響を受け、その知見が我が国の法社会制度の改善に生かされることだろう。留学制度同窓生として、できる限り応援協力をしてゆきたいと思う。



2009年度派遣 小原路絵 会員

ロースクールの環境

NYUロースクールは、グリニッチ・ビレッジというマンハッタンの街中のとても便利なところに位置しています。ロースクール以外にもビジネススクールやメディカルスクールなど様々なスクールがあり、とても大規模な大学です。ロースクールの学生だけでも、JD生で300~400人くらい、LL.M.生も同じくらいの学生がいて、様々な国から、多様なバックグラウンドを持った学生が集まっています。また、日弁連の制度で留学した場合、学生ではなく客員研究員(visiting scholar)という身分になりますが、これらscholarの受け入れも盛んです。

 

私の前任者までは、ハウザー・グローバル・プログラムに所属していましたが、今年から、USAsiaLaw Institute(http://www.usasialaw.org/)に属することになりました。このInstitute は、NYU側で日弁連の留学制度を最初から担当して頂いているUpham教授がco-directorをされているinstituteで、中国、台湾などのアジア法を

専門としたInstituteです。アメリカ人だけでなく、中国人、台湾人などのResearch fellowやresearch scholarが10人ほど属しています。Instituteはほぼ毎週ランチミーティングを開いており、メンバーが集合して近況を報告しあったりしています。また、Instituteのもう1人のco-directorであるCohen教授の授業に関連して、ほぼ毎回ゲストスピーカーも参加し、ゲストスピーカーにまつわる法分野の報告や議論が交わされたりしています。ともすれば、大規模過ぎるとも言われるNYUロースクールですが、同Instituteは、両教授を始め他のメンバーも留学生のことを色々と気に掛けてくれたり、毎週顔を合わせたりしているうちに、アジアという共通項もあって、親密になりやすい環境なのではと思います。

 

また、希望すれば、大体のロースクールの授業を聴講することが可能で、私は、秋学期は、children’s rights clinicを聴講させてもらいました。英語での予習や、JD生ばかりの授業に付いて行くのはなかなか大変ですが、日本の子どもの権利の分野ではまだあまり議論されていない分野が取り上げられたり、弁護士としての実践的なトレーニングがなされたり、各分野で活躍されている方の講義があったりと、大変充実した内容でした。 

 

自分の研究環境としては、Instituteが管理している図書館内の自習机を専用で借りることができ、もちろん図書の利用や、lexisやwest lawなどの利用も可能です。

 

さらに、ロースクール自体が、様々なシンポジウムを開催したりしており、また、ロースクールだけでなく、様々なスクールを超えたscholarの交流も盛んです。

 

生活環境

マンハッタンは、確かに、他と比べると家賃や食費等が高いかも知れませんが、アメリカの都市としては珍しく車がいらず、地下鉄やバスで移動できる便利な街です。また、マンハッタン自体はそんなに広くありませんので、散歩がてら徒歩での移動も可能で、治安も良い方だと思います。日本食の店や食材も充実しており、他都市よりもハイレベルの日本食を味合うこともできます。

 

また、オペラやミュージカルを格安で見ることができたり、夏には野外イベントが至るところで開催されたり、街中の歩行者天国など、お金を掛けずに様々なイベントを楽しむこともできます。

 

また、大学以外にも、国連が近いこともあり、国連に関連する勉強会に参加することもできますし、NYU以外にもコロンビア大学との交流や、NYに留学・駐在している日本企業の方や、週末などによく開催されるパーティーで知り合う各国の色々な職業の方など、日本でなかなか知り合えないような人とも知り合いになれたり、色々な経験をさせてもらっています。

 

NYUでの留学生活

私がこれを書いているのは、まだ1年の約半分が過ぎたばかりのところですが、NYUでは、大都市ならではのダイナミックさや多様性を経験することができ、他方でInstituteでの少人数での密度の濃い交流を経験することも可能かと思います。これから留学生活の折り返しに入って行きますが、まだまだやりたいことが沢山あります。留学生活の時間はあっという間に過ぎて行きますので、たくさんの選択肢に埋もれることなく、時間を最大限有効に使って、悔いの無い留学生活にしていきたいと思います。

 


2010年度派遣 梅田康宏 会員

大学の特色

マンハッタンには多くの大学がありますが、中でもニューヨーク大学はコロンビア大学と並んで人気実力を二分する私立総合大学です。コロンビア大学がアイビーリーグに所属する伝統的エリート校であるのに対し、ニューヨーク大学は実学を重んじ近代的教育をいち早く取り入れる校風を持っています。東京の大学に例えるなら、コロンビア大学が東大でニューヨーク大学が慶応のイメージでしょうか。キャンパスにもその特徴が現れており、コロンビア大学がセントラルパークの北に重厚で壮麗な建物で構成された広いキャンパスを有しているのに対し、ニューヨーク大学はカフェやレストランで賑わうグリニッジビレッジ地区に校舎が点在していて厳密な意味でのキャンパスがありません。学生数43000人というマンモス大学であるにもかかわらずごみごみした感じはなく、大学と街との一体感がニューヨーク大学の特色です。

 

ニューヨーク大学ロースクールは2010年全米ロースクールランキングで第5位。3年間のJDコースに総数1500人、主に留学生が参加する1年間のLLMコースに500人が在籍する巨大ロースクールです。LLMの学生の出身は多様で、アジア、ラテンアメリカ、ヨーロッパから満遍なく優秀な学生が集まってきています。提供されるカリキュラムも多種多様で、毎学期約500講座が用意されています。国際法、人権法、租税法、エンターテイメント法などが特に有名ですが、あらゆる分野の講座が提供されており、関心のある授業が必ず見つかります。

 

ニューヨーク大学は何でも楽しもうという校風があり、大学主催のイベントが数多く催されます。新入生歓迎パーティーに始まり、マンハッタンディナークルーズ、ハロウィン仮装パーティー、サンクスギビングパーティーなどなど、それも「豪華」といえる内容です。研究員もこれらのイベントに学生と同じように参加することができます。

 

留学生同士の交流も盛んで、中国、台湾、韓国、タイなどのアジア諸国の学生と親しくなるケースが多いようです。日本人についていえば、マンハッタンにあるニューヨーク大学、コロンビア大学、フォーダム大学の3つの大学のロースクールの留学生や研究員によって名簿やメーリングリストを作成し、情報交換や交流が図られています。

 

研究環境と授業

日弁連から派遣された研究員は、ロースクールに付属するアメリカアジア法研究所(U.S.- Asia Law Institute)に所属することになります。同研究所はロースクールの校舎に隣接するウィルフ館(Wilf Hall)の5階にオフィスを構えており、研究員にはパーティションで仕切られた研究スペースが与えられます(要確認)。オフィスは2010年夏に完成した最新式です。ここのオフィスにあるコピー、ファックス、パソコンなどの各種設備を自由に使用できるほか、教授による研究のサポート、図書館への自由なアクセス、自由な授業への参加など充実した研究環境が提供されます。授業への参加には特別な手続きは不要で、興味のある授業の担当教授にメールを送るか、直接最初の授業に参加して教授に許諾を得るだけで基本的に聴講が認められます。

 

アメリカアジア法研究所は主に中国における司法制度の改善拡充の支援活動に力を入れており、所属する研究員のほかに、中国の研究者、台湾の検察官や裁判官などが滞在しています。ここでの同僚たちとの日々の会話や議論は本当に得がたいもので、彼らとの友人関係は一生続く宝物だと思っています。研究所自体は各種調査研究や出版活動のほか、実際に中国に人を派遣して現地での司法インフラ改善に向けた活動なども行っています。また、研究所による学内向けの活動としては毎週木曜日開催のランチミーティングが上げられます。これは、ゲストスピーカーを招いて主に中国における近時の司法制度について議論をするものです。ゲストは多彩で、現役の中国最高裁判所判事という回もありました。ランチを取りながらのミーティングはテーマは深刻でも雰囲気はとても和やかで、活発な意見交換が行われています。ここには研究所の所員や参加を認められた学生のほか、ニューヨーク大学や周辺の大学の学者などが参加しています。私の専門ではありませんが、ここで得た中国や周辺国の司法制度や司法インフラに関する情報や知識は膨大で必ず今後の私のキャリアの中で生かされているものと思っています。

 

ニューヨークという街

ニューヨークは世界中の人、物、金が集まってくる街です。リーマンショック以降もその活気がなくなることはありません。近年は治安もよく、深夜1人で地下鉄に乗っても基本的に心配ありません。オペラ、ジャズ、ミュージカル、バレイ、クラシック、美術館、各種プロスポーツ、ショッピング、セントラルパークなど各種アミューズメントの豊富さは今更説明するまでもありません。大学から徒歩圏内のイーストビレッジ地区には日本人の経営するお店が多く、手に入らない日本食材や食べられない日本食はほとんど無いように思います。マンハッタンは家賃が高いのが難点ですが、節約したければニュージャージーやクイーンズ地区に住むこともできますし、お金があるならせっかくの機会ですからマンハッタンの夜景を一望できる高層マンションに住むのも良いのでしょう。東京を心地よいと感じる人にとって、ニューヨークは滞在先として最初の選択肢になるように思います。

 

研究員の視点で見てもニューヨークはフィールドワークにうってつけの場所です。国連やNGOの本部が多くありますし、大企業の本社も集中しています。私の研究テーマは企業内弁護士によるプロボノ活動のあり方ですので滞在中多くの企業や団体を訪問しましたが、ニューヨークでなければ効率的に訪問することは難しかったと思います。ワシントンDCも列車で最速2時間50分とアクセスが良く、連邦政府やDCを拠点とする団体の訪問や、催し物への参加にも便利です。私は授業の合間を縫って2011年3月にDCで開かれた企業内弁護士のプロボノ活動に関する年次シンポジウムに参加してきましたが、こうしたことができるのもニューヨークのロケーションによるところが大きいと思います。

 

あなたもニューヨーク大学へ

日々の弁護士業務を一時中断して、このように充実した生活環境と研究環境の整ったニューヨーク大学で充実した1年を過ごしてみるのも良いのではないでしょうか。必ず得がたい経験を得られるものと思います。

 


2011年度派遣 篠島正幸会員

NYUの紹介

NYUは1831年に設立された伝統ある私立総合大学で、全米の中でも人気のある大学の一つと言われています。その人気の秘訣は、伝統、充実した施設と教授陣やカリキュラム、それらに裏打ちされた実績にあることは当然ですが、加えて、その恵まれた立地条件にもあるでしょう。

NYUのキャンパスはマンハッタンでも若者に人気のダウンタウン、グリニッジビレッジ地区に所在しています。学園都市のような広大な敷地こそありませんが、カフェやレストラン、店舗やオフィスなどが密集する市街地の中に、いろいろな学部のキャンパスビルがいくつも点在し、大学が街全体と一体化しています。お洒落の街として知られるソーホーが近くにあり、いつも若者の活気に溢れています。

 

NYUロースクールの様子

そんな中、NYUロースクール(NYU School of Law)は、大学施設のまさに中心に位置しています。ロースクールの建物は、ワシントン・スクエア・パークの南側に集中しており、ビルの林立するマンハッタンにあっても、校舎から出ると樹木と空の安らぎを得ることができます。公園は、昼間には散歩する人々はもちろんのこと、ギターやドラム、果てはグランドピアノを持ち込んで演奏をするミュージシャンが居たりして、活気に溢れています。ニューヨークは芸術の街でもあるのです。研究に疲れた時に公園を散歩でひと歩きすると、気分が一新します。

 

立地もさることながら、NYUのロースクールは、名実ともに全米トップレベルと評価されています。ビジネスローは当然のこと、憲法、刑事法、環境法、国際法など、様々な分野にわたる研究が行われており、教授陣も充実しています。私の研究対象分野でも、NYUの大学論叢であるNYUローレビューに掲載された論文が、学生が使用するテキストに多数引用されています。

 

校舎の多くは、他のマンハッタンの建物と同様、趣深い内外装が保存されているのでが、その内部に近代的な地下深くまで図書館が広がっているのは圧巻で、研究環境の素晴らしさを象徴する風景です。もっとも、大学内にはLANネットワークが整備されており、文献や判例調査用のデータベースも無償で利用できるため、私自身は図書館をほとんど利用しないのですが。

 

大学内LANネットワークは、自分が受講しているコースや講義に関する情報を提供するためだけでなく、学生間の交流や学校内のイベントを紹介するためにも活用されています。季節のイベント紹介から、ミュージカルのチケットの予約まで、研究以外の学生生活全般をサポートしてくれます。

 

留学生としての活動

日弁連から推薦された我々客員研究員(Visitor Scholar)はU.S. Asian Law Instituteという研究所に所属することになります。研究所は大学の本庁舎ともいえる建物に隣接しており、大学のイベントにはすぐ参加できます。

 

この研究所は、日本法に詳しく、我々の受入担当となっておられるアップハム(Frank K. Upham)教授と、中国法の権威であるコーエン(Jerome A. Cohen)教授が共同所長(Co-Director)となっています。中国を中心とした東アジアの法律問題(特に人権問題)を研究する研究者が、米国のみならず世界中から集まっていますが、同時に、我々と同様、東アジアから米国法を学びに来た研究者も所属しており、両者の情報交換の場所にもなっています。他の研究員と話をすると、他国ではすでに日本法が驚くほど分析・研究されていることが分かります。日本の立法の立ち遅れを感じることもしばしばです。

 

アジアから来ている研究員には実務家も多く、それぞれの国における制度や法律問題などについても、共に実務家という視点から情報交換ができます。私にとっては非常に貴重な体験です。

 

我々は研究員ですから、基本的に活動に制約はなく、単位を取得する義務もありません。ですから、研究の具体的活動は自分で決めることになります。研究対象がクラスアクション制度とインターネット・プライバシー関係法である私は、まずは大学のサイトから該当しそうな講義やイベントをピックアップしてアップハム教授に相談し、適切な講義を選択して受講しました。講義を理解するのはもちろん大変ですが、アップハム教授だけでなく、紹介していただいた他の教授陣も非常に親切にしてくださいました。講義を受講するだけでなく、研究所が主催するランチョンなどにも参加し、様々な学者のお話なども楽しく聞いています。

 

NYでの生活

ニューヨークは経済、そして文化の中心です。本場のオペラやミュージカルも身近に見ることができ、美術館・博物館の多さも世界有数を誇ります。世界中の誰もが憧れる街ですから、物価は高く、居住費も高額ですが、それを補って余りある豊かな生活を送ることができると思います。

 

そして、人種の坩堝であるマンハッタンは、社会の縮図です。散策するだけで、この国の立法史を想像できる場面に出くわすこともあります。そのような体験をすることも、NYUにおける研究は法律に関する知見を広げ、日本の司法により一層の貢献する一助となると思います。

 

是非とも本制度を活用し、NYUで同じ風を感じていただければと思います。

 

 

2012年度派遣 大橋君平会員

NYUでの研究環境

無罪を争う弁護活動、誤判防止のための弁護活動を研究テーマに、日弁連派遣の客員研究員として、NYUロースクールでの1年間を過ごしています。

 

NYUロースクールは1835年創立の歴史あるロースクールで、税法・国際法で特に有名ですが、そのほかにも、刑事法・公益活動を含む幅広い法分野で強みを持っています。

 

日弁連派遣の客員研究員の所属先は、U.S.-Asia Law Institute (USALI)という、東アジアの司法制度改革についての研究機関です。

 

中国法の権威であるJerome A. Cohen教授と、日本法のエキスパートで中国法にも明るいFrank K. Upham教授のお2人を筆頭に、中国の刑事司法改革を中心とした様々な研究に取り組んでいます。連邦検察官やパブリックディフェンダーなど様々なバックグラウンドを持つ研究者の方々が所属している他、常時、多数の中国・台湾の学者・実務家を客員研究員として受け入れています。本年度は、私を含めて4人の日本人の客員研究員が加わっています。

 

ロースクールでの毎日

客員研究員は、ロースクールで学ぶ学生たちと同じ授業を聴講することが許されています。人気の高い授業は、客員研究員よりも学生が優先となるため、聴講できないこともありますが、その反面、客員研究員は単位取得のための課題や授業での発言を必ずしも義務付けられないことから、LLM生が殆どおらず、JD生ばかりが参加している発展的なゼミ等にも比較的気軽に出席できるという点で、メリットがあると言えるかもしれません。

 

USALIでは、公式な行事として、中国の実務家・研究者を中心とする様々なゲストスピーカーを招いての週1回のランチセミナーを開催しています。少人数での非公式な集まりとしては、ニューヨーク市刑事裁判所へのトライアル傍聴ツアー、連邦裁判所での著名経済事犯の量刑審理・判決の傍聴、夜間のアレインメント手続の見学等がありました。裁判所はロースクールから地下鉄で1駅ときわめて近く、常に多種多様な事件の審理が行われていますので、ときどき1人でも傍聴に足を運んでいます。

 

そのほか、刑事法研究者のグループのランチセミナーにも毎週出席させて頂いています。ゲストスピーカーは、ニューヨークの実務家(検察官、裁判官、弁護士)や、著名な学者の方など、多種多彩です。このセミナーの内容も非常に興味深く、新聞記事や文献にあたる際の手がかりにもなります。

 

また、NYUは4万人以上の学生が学ぶマンモス校で、学内では、時々、刑事法関連のシンポジウム・講演・映画上映等のイベントが開催されています。そのようなイベントでは、再審無罪となった方々の生の話を聞いたり、DNA鑑定に関する最新の議論に接したりする機会がありました。その他、国連や、コロンビア大学・フォーダム大学・ブルックリンロースクールなどの他のロースクールも直ぐ近くにありますので(イノセンス・プロジェクト発祥の地であるカードーゾロースクールに至っては、NYUから徒歩10分ほどの場所にあります)、学外でのシンポジウム・講演等のイベントに参加する機会も得られます。

 

ニューヨークでの生活

ニューヨークは世界のビジネスを牽引する大都市であると同時に、全米で最も貧しい地区を持つ貧富格差の街でもあります。

 

また、街を歩いていても英語以外の言葉を聴くことの方が多いほど多くの人種・言語が混在している反面、それぞれの文化が分離したまま併存している「サラダボウル」であるとも言われます。

 

ニューヨークでの生活は刺激的で、マンハッタンを歩いているだけで、常に異なる様々な風景・人々が眼に入ってきます。きらびやかな表舞台を見て回るだけでも、飽きることはありませんが、その裏側の深刻な社会問題について、ニューヨークで暮らす人々がそれぞれの立場でどう感じどう考えているのかを探っても、興味が尽きることはありません。

 

留学の意義

アメリカの法制度、運用、社会の成り立ちに触れるにつけ、アメリカを見習うべき点もあれば、アメリカが大きな問題を抱えている点もあることを考えさせられます。そして、このようなことを考えるにつけて、アメリカを学ぶということは、その裏返しとして、日本の持つ長所・短所を再発見することにつながっていることを感じます。

 

アメリカは、きわめて複雑な法制度を持っており、常に多くの人々が制度の改革に取り組んでいます。今回の留学で得た新たな視点を、今後の弁護士業務に活かしていきたいと考えています。

 



2013年度派遣 松崎暁史 会員

研究テーマについて

2013-2014のNYU客員研究員として留学していました。研究テーマは軍事司法です。弁護士登録以来、沖縄で基地訴訟に関わってきたので、米国における軍事司 法、特に軍事裁判所の裁判手続について興味がありました。沖縄に限らず、米軍基地が存在する地域では米兵や軍属による犯罪はつきものですが、事件が起きたときには第一次裁判権の所在がニュースになることは多いものの、その後の手続がどのように進むのかという点についてはあまり報道されません。また、共犯の一方が軍事裁判所で、他方が地方裁判所で裁判となる事件も発生しており、軍事裁判が通常の刑事裁判と手続研究テーマについて2013-2014のNYU客員研究員として留学していました。研究テーマは軍事司法です。弁護士登録以来、沖縄で基地訴訟に関わってきたので、米国における軍事司法、特に軍事裁判所の裁判手続について興味がありました。沖縄に限らず、米軍基地が存在する地域では米兵や軍属による犯罪はつきものですが、事件が起きたときには第一次裁判権の所在がニュースになることは多いものの、その後の手続がどのように進むのかという点についてはあまり報道されません。また、共犯の一方が軍事裁判所で、他方が地方裁判所で裁判となる事件も発生しており、軍事裁判が通常の刑事裁判と手続的にどのように異なるのか、その特色はどこにあるのか、憲法上の諸原則や被告人の権利とどのように折り合いを付けているかということは、実務的にも興味がありました。的にどのように異なるのか、その特色はどこにあるのか、憲法上の諸原則や被告人の権利とどのように折り合いを付けているかということは、実務的にも興味がありました。


マンハッタンの中心地にある大学

NYUは都市型の大学なので、広大な敷地に建物があり車で通学するといった米国の大学のイメージとは異なります。校舎はマンハッタン中に散らばっていますが、紫のスクールカラーとトーチのシンボルマークですぐにNYUの建物とわかります。特に校舎が密集しているワシントンスクエアの周辺は、文化的水準が高く活気のある地域に囲まれており、少し足を伸ばすと多くの飲食店やライブハウス、シアター、ギャラリー、本屋などがあり、散策するだけで楽しい地域です。ワシントンスクエア自体も多くのアーティストが集まる場所となっています。また、週末には必ずと言って良いほどどこかの公園やストリートで催し物があり、出店が出たりしていました。


US-Asia Law Institute

NYUではUS-Asia Law Institute (https://usali.org/)という研究所に在籍して研究活動を行います。US-ALIは米国における中国法の権威の一人であるJerome A. Cohen教授と日本法に明るく中国法の講座ももっているFrank Upham教授がディレクターをつとめています。US-ALIにはResearch ScholarとVisiting Scholarが常時20名程度在籍していますが、内訳としては中国からの研究者がもっとも多く、そのほかは台湾、日本、韓国からそれぞれ1名~3名程度参加しています。多様な研究分野から多くの研究者が参加していることがUS-ALIの特徴の一つで、日常的に各国の研究者と接する機会があることはとても刺激的です。


US-ALIの活動の柱としてCohen教授が他の教授や研究者を招いて対談形式で行うランチトークシリーズがあります。これはCohen教授が、ユーモアあふれるトークで、研究分野に関する議論、研究者としての生い立ち、研究の方法論、家族に関する話まで、多様な話題をゲストから引き出すシリーズで、毎回楽しく参加していました。もちろん、客員研究員は研究所の一員ですので、積極的に参加することが求められますし、研究分野や過去の事件に関しプレゼンテーションを行うなど、それなりの“貢献”が求められます。また、“公益活動をしている日本の弁護士”だと紹介されるので自分はどういう弁護士なのかということを説明する機会が多いかもしれません。


日々の研究活動

客員研究員は単位や試験に煩わされることがないので、自分の研究分野や興味関心に合致する授業を自分のペースで聴講することができます。また、NYUに留学することの大きな利点として、近隣にロースクールが複数あるということがあげられます。仮にNYUに希望する授業がなくても、コロンビアや他のロースクールが当該授業を開講していれば、教授に相談して他のロースクールの授業を聴講させてもらうということが可能な場合があります。私の場合、Brooklyn Law Schoolの軍事法の授業を聴講させてもらうことができました(ただし、聴講料を支払わなければならない場合もあります)。


NYでの生活は、言うまでもありませんがとても刺激的です。単身で留学しているためアパートもルームシェアの部屋を探し、アメリカ人とシェアしていました。アパート探しは部屋を見るということの他に、先住者とのマッチングという側面があり、今のアパートにたどり着くまでに10件近くの物件を回りました。もちろんトラブルもありますが、これも留学ならではの経験だと思い楽しんでいました。


最後に

弁護士は一度仕事に就くと事件が切れることがなく、逆に一度離れると再度セットアップするのが大変な職業だと思います。キャリアの重要な1年間を費やし自費で留学するのですから、本当にそれに見合う価値があるのかと悩まれるかもしれません。しかし、追求してみたいテーマがある方にとっては間違いなくその価値があると思いますし、一般的なLLM留学より、ビジティングスカラーでの留学が向いていると思います。是非応募してみてください。



2014年度派遣 伊藤崇 会員

US-Asia Law Institute

NYUのUS-Asia Law Instituteはアジア法の研究のために設立された組織であり、その一環として、毎年10数名のアジアからの研究員を受け入れています。日弁連推薦の客員研究員は同Instituteに在籍して活動する体裁となります。

US-Asia Law Instituteはロースクールと向かい合わせのWilf Hallという建物に研究空間を確保しており、客員研究員にもキュービクルが貸与されます。近年は2名でシェアという状況であり、各自でパートナーと話し合って使用方法を決めています。キュービクルにはデスクトップPCとロッカーがあるほか、フロアで共用の電子レンジと飲料水があり、昼飯時には重宝します。

客員研究員としては、許可を受けて希望する授業を聴講することが可能です。また、Instituteとしては、基本的にゲストスピーカーの話を聞くという形式で週一回程度の頻度でランチミーティングがあります。トピックのほとんどは中国法ですが、中国との比較対象として日本の状況への関心も維持されているようです。基本的にInstituteから研究内容を指定されることはなく、何をしても構わないのですが、1月~4月にかけて各客員研究員が自分の研究分野を発表する機会があり、これは権利かつ義務となっています。私も“Unsolved problem in product liability”という題でプレゼンテーションを行いました。


研究生活

秋セメスターには民事訴訟法、不法行為法の授業を聴講し、冬セメスターには製造物責任法の授業を聴講しています。このうち不法行為法は3年制カリキュラム(JD)の1年目に割り当てられる基本科目であり、通常の留学生(LLM)のカリキュラムには入っていません。また、製造物責任法の授業に至っては、現行リステイトメントを起草した著名教授の教えを請うべく他大学での授業聴講です。

更には、授業聴講の合い間を縫ってAmerican Bar Associationの関連セクションの会議に出席するためにカリフォルニア、コロラド、アリゾナなど全米各地に出かけていますが、これも通常のLLMコースでは到底不可能な日程です。

自分で研究計画を立ててよいという客員研究員の立場に心から感謝しています。


生活環境

私は就学年齢の子の学区や家賃事情等を考慮して、マンハッタンの喧騒とは無縁の郊外に家を借り、大学までは電車で50分+自転車で20分かけて通学しています。

大きな家の立ち並ぶ閑静な住宅街は、四季折々の街路樹の色も美しく、リスやカモ、ときにはシカまでもがのどかに散歩しています。ハロウィンやクリスマスには辺り一帯がイルミネーションで彩られ、サンクスギビングやイースターには家族団らんの声が聞こえてきて、そのような行事が本当に大切にされているのが伝わってきます。車が必須の住環境ではありますが、慣れればドライブも心地よく、2時間でフィラデルフィア、3時間でボストン、5時間でワシントンDC、7時間でナイアガラまで行くことができます。

ニューヨーク留学というと煌びやかな都会生活を連想する方が多いと思いますが、このような素晴らしい郊外生活もあります。


滞在費用等

正直なところ、家賃も物価も高いです。ラフな印象としては、東京の1.5~2倍くらいでしょうか。客員研究員は寮が利用できないのが痛いところであり、特に家族連れの場合には節約の余地も乏しく厳しいものがありますが、致し方ないところです。もっとも、私は奇跡的に素晴らしい大家さんと出会って問題の大半が解決しました。人生、意外とそんなものかもしれません。


留学の勧め

このように、留学の金銭的負担はそれなりに重いのですが、少なくとも私の研究分野(製造物責任法)については、アメリカ発祥の法分野であることもあり、日本とは比較にならない質量の資料にアクセスすることができます。積年の疑問が論旨明快に解き明かされていく様は感動的であり、来てよかったと心の底から思えます。

関心のある研究分野がアメリカで深められると思えるのであれば、かかった費用に見合うだけのものを手に入れてやるのだという意気込みで、挑戦してみてはいかがでしょうか。




2015年度派遣 井桁大介 会員

はじめに

2010年10月、警察の内部資料がインターネットに流出し、警察が国内の全てのムスリムをムスリムであることのみを理由として詳細な個人情報を収集していることが明らかになりました。この事件に代理人として関与するにつれ、アメリカ政府をはじめとする各国の「テロ対策としての監視捜査」の実情を研究し、「政府の市民に対する監視活動を監督する方法」についてより深く学びたいと考え本留学制度に申し込み、2015年夏から1年間、ニューヨーク大学(NYU)で研究に従事しました。


研究生活

9月から12月の秋学期には、証拠法と刑事手続法(日本国憲法第34条と第35条に類似する分野)の授業を聴講しました。いずれの教授も50人から100人程度の大教室でしたが、ソクラテスメソッドを用いて学生と議論を交わすスタイルでした。授業はそれぞれ週に2日で、各授業までに40ページ前後の判例や論考が予習課題として指定されます。必要最小限の箇所だけを抜粋してテキストとしていたり、有名な映画やドラマから取り扱う論点と関連する箇所を上映したりと、学習効果を高めるために各教授が授業準備を工夫している様子が感じられました。


1月以降の春学期には、National Security LawとIntelligence Gatheringという2つの授業を履修しました。いずれも20人程度のセミナー形式でした。


予習課題として、判例、論文、新聞記事など1授業あたり100ページから200ページほどが指定されます。アメリカ政府のテロ対策権限が発展して行く歴史や、その権限を監督する枠組などを学びました。いずれの授業も各回ごとにテーマが的確に分類され、必要最小限の参考文献を整理してくれるため、自分の研究にとって大変有益であり、この2つの授業だけを受けに来ても良かったと思えるほどです。


また、ニューヨーク市警が行っていたムスリムに対する監視捜査に対して訴訟を提起していた、Centerfor Constitutional RightsとACLUという2つのNGOへもヒアリングに伺い、大変有益な情報を得ることができました。またNYUにはBrennan Center for Justiceという付属の研究機関があり、そのNational Security部門の責任者にも最新の実情を伺うことができました。そのほか、国連の会議や地元の刑事公設事務所を訪れる機会にも恵まれました。一流の研究者や実務家に容易にアクセスできることは、ニューヨークで研究する大きなメリットだと感じています。


日弁連から派遣される研究員はUS-Asia Law Instituteという研究機関に所属します。他の客員研究員やポスドク研究員2、3名での共有となりますが、パソコンやキャレルも割り当てられました。2月から4月に各研究員が研究内容を所属メンバーにプレゼンする機会があり、これが事実上唯一の正規の活動となります。私は4月上旬に「日米両国におけるムスリム監視の実態と訴訟の経緯」について報告し、多くの質問やコメントを受けることができました。


所属先でほぼ毎週企画されるランチ会にもできる限り参加しました。アジア研究の権威である所長のJerome Cohen教授が、主に中国、台湾、香港の研究者や実務家を招き、ユーモア交じりでゲストスピーカーの生い立ちから研究テーマについてインタビューするというもので、テレビのトーク番組を間近で見ているような面白さがありました。


日々の生活

妻と生後8ヶ月の子どもと生活を始めましたが、1年間にわたり不自由なく過ごすことができました。常識的な生活をしている限り治安もほとんど気になりません。私はマンハッタン島内の家具付きマンションを借りましたが、すぐ近くに公園やスーパー、日本食材店などがありました。交通網(地下鉄・バス)が発展しており、どこに行くにもほとんど苦労しませんでした(エレベーターが少ないのでベビーカーでの移動は少し大変でしたが。)。アメフトや野球は家族で観戦できますし、ミュージカルやオペラ、ジャズバーなども友人と楽しむことができました。


他方、ここ数年の円安の影響もあり物価はかなり堪え、家賃もレストランも東京の1.5倍から2倍という印象でした。服とビールと牛肉とおいしいコーヒーはこちらの方が安いかもしれません。


最後に

Visiting Scholarは、LL.M.と異なり大学の単位やニューヨーク州司法試験受験資格を得ることはできませんが、その分比較的自由に授業を聴講することができるため、自分の研究に落ち着いて取り組むことができました。それまでの実務経験と向き合う時間として、また少しニッチな自分の関心領域のインプットに注力する時間として大変有意義な時間を過ごしました。自分のキャリアにとってVisiting Scholarという選択は正解だったと感じています。



2016年度派遣 加藤丈晴 会員

はじめに

私は、2016年9月(渡米は6月)より、セクシュアルマイノリティ(LGBT)の権利擁護に関わる研究のため、ニューヨーク大学ロースクールに留学していました。日弁連からの客員研究員は、US-Asia Law Institute(USALI)というアジア法の研究機関に所属することになります。このセンターのディレクターは、Jerome Cohen教授という中国法の権威で、アメリカの対中政策に強い影響力を与えてきた大物です。


USLAIには、Cohen教授のほか、エグゼクティブ・ディレクターで刑事法が専門のIra Belkin教授、5人の常勤スタッフと14人の客員研究員が所属していました。客員研究員は、中国人が8人、日本人が4人、台湾人・韓国人が各1人で、留学していた期は刑事系の研究者が多い印象でした。日本人は例年1人か2人なのですが、この時期は特に多かったそうです。


研究生活について

USALIのオフィスに、パーテーションで区切られた机が与えられ、デスクトップのPCも貸していただけました。毎日まじめにオフィスに来る日本人には、優先的に机が割り振られているようで、独占的に使っていました。オフィスにある複合機は、本来常勤スタッフ専用らしいのですが、事実上自由に使うことができました。


授業は、聴講してもしなくても自由で、聴講数に制限もありません。私は、秋セメスター前のLL.M.生向け導入講義を、秋セメスターは、NYUのスター教授の一人で、同性婚訴訟に大きな影響を与え、ご自身もゲイであることをオープンにされているKenji Yoshino教授の憲法の講義と、私の研究テーマを正面から扱う「セクシュアリティ、ジェンダーと法」セミナー、USALIが提供する中国法のセミナーを聴講しました。春セメスターは、Yoshino教授のセミナーのみ聴講しました。Yoshino教授の憲法の講義はとても人気が高く、学生が履修しようとすると競争率が高いのですが、客員研究員である私はメール1本で聴講許可が出ました。


授業以外には、USALI主催で週1回開催される主に中国法に関するランチセミナーと、研究テーマとは直接関係ないのですが、お誘いを受けて参加している刑事法の研究者向けランチセミナー、その他学生団体や学内研究機関の主催で、毎日様々なテーマでの勉強会やイベントが開催されており、その中で興味のあるものに積極的に参加していました。ニューヨークという土地柄もあるのか、著名人が講演に来られることも多く、潘基文国連事務総長(当時)やソトマイヨール連邦最高裁判事、馬英九台湾元総統などが講演に来られました。


LGBTという研究テーマに関して、ニューヨークという土地、さらに歴史的な大統領選の前後というタイミングは、最高のめぐりあわせだったと思います。


ニューヨークは、サンフランシスコなど西海岸の都市と並んで、LGBTフレンドリーな街で、街中で同性カップルを当たり前のように見かけます。NYUにも、LGBTの学生を支援するセンターがありますし、ロースクールにはOutlawというLGBTの学生団体があります。これらを通して、LGBTの学生やOBと仲良くなることができました。また、ACLUやLambda Legal、TLDEFといったLGBTの法律問題に取り組むNGOの本部も集中しており、この分野をリードする著名な弁護士に、直接お会いしてお話をうかがう機会にも恵まれました。さらにロースクールや研究機関も多数あるので、Facebookなどで情報を集めては、コロンビア大学やフォーダム大学、ニューヨーク市立大学などに出かけて行って、講演会やフォーラムに参加したりしていました。ニューヨークは人が集まる場所なので、研究テーマを同じくする各国の実務家や研究者と知り合う機会も多く、特に中国の弁護士や研究者とネットワークを作ることができました。ほかにも、地元のNGOやコミュニティーセンターが主催するLGBT当事者向けのセミナーに参加したり、アジア系のLGBTを支援する市民団体の活動に関わって、6月のプライドパレードや2月のチャイナタウンの旧正月パレードに参加したりしました。


大統領選では、LGBTの権利擁護も争点の一つとなり、これに否定的な立場をとるキリスト教右派の支持を受けたトランプ大統領が誕生すると、各地でデモが相次ぎました。私も、ニューヨークだけで40万人が参加したWomen’s marchや、gay rights movement発祥の地であるStonewall Inn前での抗議行動などに参加し、アメリカという国が抱える矛盾を肌で感じました。


研究生活以外について

私は単身でニューヨークに来たので、本来はニューヨーク生活を満喫できるはずなのですが、研究生活で忙しく、せいぜい錦織圭を見にマディソンスクエアガーデンに行ったり、バレエやオペラ、ニューヨークフィルの演奏会に行ったり、イーストリバーをカヤックで遡ったり、ブルックリンブリッジで新年のカウントダウンをしたり、客員研究員の皆さんを誘ってハイキングに行ったり、USALIの皆さんを招いて鍋パーティーをしたり、LL.M.の日本人学生と一緒に各国の学生を招いて日本酒パーティーをしたり、忍者の仮装をしてハロウィンパーティーに参加したりしたくらいで…結構満喫していたかもしれません(笑)。


さらに年末には、念願だった南米パタゴニアで、トレッキング三昧の毎日を送ることもできました。


終わりに

客員研究員としての留学は、LL.M.留学と異なり、試験を受ける必要はありませんし、授業も興味のあるものだけを聴講すればよいので、圧倒的に自由です。学費もLL.M.留学とは0(ゼロ)一つ違いますし、それでいて、ロースクールのイベントにはすべて参加できます。一粒で三度も四度もおいしい、客員研究員としての留学をぜひおすすめします !!



2017年度派遣 具良鈺 会員

はじめに

私は、2009年、在特会が京都の朝鮮学校に対してヘイトデモを行った事件についての弁護団活動を通じて、日本の差別事案における法制度の不備を痛感し、アメリカにおけるヘイトクライム、ヘイトスピーチの法実務を学びたく、本制度を利用した留学を希望しました。


ニューヨーク大学(NYU)を希望した理由は、裁判の中で引用した「ヘイトスピーチの危害」の著者である教授がおられたこと、ニューヨークが多様な人種構成からなる国際都市であることに加え、人権委員会や各種NGOをはじめとする多様かつ独自の差別対処実務があり、そのような社会全体の中でのヘイト法制度の運用を学びたいと思ったからです。


研究生活

1 NYUでの研究生活


日弁連からの客員研究員は、US-Asia Law InstituteというNYUロースクール内のアジア法研究機関に所属することとなります。同研究機関には中国法の権威であるJerome A. Cohen教授をはじめ教授やスタッフがみなフレンドリーでアットホームな雰囲気です。また、キュービック型のデスクが与えられ、非常に恵まれた研究環境です。


私は、1週間に2コマの授業を聴講しました。


秋学期(前期)は、アメリカにおけるヘイトスピーチと表現の自由の議論において  常に言及される民主主義(その根底価値の議論)について学ぶため、Democratic Theory Seminarを、また、ヘイトや人種差別等が問題となっている個別事件について学ぶためACLU(アメリカ自由人権協会)弁護士によるCurrent Issues in Civil Liberties Seminarという20人程度のセミナー授業を受講しました。ヘイト法制度とそれを支えるバックグラウンドについて本当に学ぶことの多い授業で、授業前日には興奮して夜眠れないほどでした。


春学期(後期)は、Critical Race Theory Seminarというまさにアメリカの人種差別の歴史とその対処について学び、法制度のバックグラウンドについての理解を深めました。


いずれの授業も、論文、判例、ニュース記事等60頁~100頁を超える予習が求められたほか、ソクラテスメソッドを意識した双方向授業が行われ活発な議論が行われました。


図書館にも想像を超えるほどの膨大な資料とデータがあり、いくら時間があっても足りないくらいでした。


アメリカで人種差別をめぐる法制度が発達してきた歴史的背景には、数多くの名も無き被害者、個別事案があったのであり、つぎはぎ的な制度の中に彼らの生きざまをみるようです。法律を学ぶことは心理学、社会学、歴史、人間そのものに肉薄する経験であると改めて感じました。


2 その他の研究生活


ヘイトや差別に対処する法制度のみならず、これらが実際にアメリカ法実務においてどのように生かされ運用されているのかを学ぶことに私の研究の主眼がありました。


そのため私は、ACLUのNYオフィス、NY市人権委員会、EEOC(雇用機会均等委員会、各種NGO(Legal Aid Society、Center for Constitutional Rightsなど)を訪問したり、Asian American Bar Associationの行事でアジア系アメリカ人弁護士らと出会い、アメリカのマイノリティの状況について聞き取り等を行うなど、非常に有益な情報をえることができました。


また、ここでは情報発信ということも求められました。サンフランシスコにあるUCヘイスティングで行われた日本のヘイトスピーチ対処法についてのシンポジウムに参加し、そこで出会った教授からの依頼を受け、UCサンタクルーズ校において、私が担当したヘイト京都事件および日本のマイノリティの状況について講演をすることとなりました。また、NYUのLaw&Society In Japanという授業で、ヘイト京都事件および在日コリアンの状況について講義(2時間)を担当することとなりました。アメリカからみた日本の見え方、着眼点は興味深いものでした。


このように、NYUキャンパス内外において、経験、理論、実践が有機的に連携し非常に刺激的な研究生活でした。


さいごに

私は、2017年7月、当時2歳の娘と渡米しました。渡米当初、なにもかもがわからない産まれたての子どものような恐怖感を味わい、生活のセットアップには本当に苦労しましたし、あらゆる段取りに手間取り、そのたび心が折れそうになりました。しかしその都度、留学諸先輩方、日弁連国際室をはじめたくさんの方々にお力添えをいただいたおかげで、実に貴重な経験をできたことに、感謝と感激の気持ちでいっぱいです。


ニューヨークの大きな魅力のひとつは、街自体が活気と変化に富み、歩くだけでも楽しいということです。また、非常に高い水準の芸術、音楽を比較的安価で楽しめます。週末には、ブロードウェイミュージカル、オペラ、メトロポリタン美術館、アメリカ自然史博物館、ニューヨークフィルハーモニー、また、NBAなどのスポーツ観戦も楽しめます。


週末には、アメリカ独立宣言がなされた土地であるフィラデルフィアに出かけるなど、ニューヨーク近郊でアメリカ建国の歴史について学ぶこともできます。


留学の醍醐味は、他国について学ぶことを通じて、日本についてより深く理解し、新たな視点やヒントを得ることができる点だと思います。


この文を読まれている方の中には、留学への決断を悩まれている方も多いと思います。百聞は一見に如かず、その言葉のとおり、是非とも勇気を持ってチャレンジされることをお勧めします。なにものにもかえがたい貴重な経験となることでしょう。



2018年度派遣 小幡孝之 会員

NYUロースクール・The U.S.-Asia Law Institute

ニューヨーク大学(NYU)は、常に世界大学ランキング上位に位置している私立総合大学であり、その中でも、NYUロースクールは、全米屈指のトップクラスのロースクールと言われています。特に国際法、租税法の分野が有名とされていますが、憲法、刑事法、家族法・ジェンダー法、人権など様々な分野の授業もまた注力を入れて整備されており、最高峰の教授陣と施設・図書館などの設備が十二分に揃っているため、研究に不足するものはありません。


NYUロースクールは、マンハッタン南側のグリニッチビレッジ地区にあり、海外映画・TV番組でも有名な凱旋門のあるワシントン・スクエア・パークの南側に立地されています。文化的で多様性のある地域であり、周辺には、カフェ・レストラン、ジャズバーなどが多く、アパレルショップが並ぶお洒落なソーホー地区も近いこともあって、若者に非常に人気のある地域です。日本で言うと、青山・表参道と言ったイメージでしょうか。


日弁連推薦の客員研究員は、このロースクール内にある“The U.S.-Asia Law Institute”(アメリカ・アジア法機関。略称「USALI」と言います。)に在籍します。現在、中国法の権威であるJerome A. Cohen教授と、刑事法が専門であるIra Belkin教授を中心に、9名のスタッフ、15名の提携の研究員、12名の客員研究員で構成されています。同期の客員研究員は、中国からの研究員が最も多く、韓国、台湾、日本などアジア各国に関連のある学者、検察官、弁護士などで、刑事系の研究員が大半となっています。


客員研究員の義務は、2月から5月の間に研究内容のプレゼンテーションを行うことのみで、直接教授に連絡を取り、聴講の許可を得れば、一部のセミナーを除き、自由に聴講することができます。アメリカのロースクールの学費は非常に高額で、NYUも学費が年間6万ドル以上かかるとされているのですが、これが10分の1以下の登録料のみで聴講することができるのはかなりの魅力です。


NYUでの研究生活

私は、学生時代から家族法に強い興味があり、付添人活動や各施設を訪問等する中で、少年事件の少年は、貧困や十分な教育の機会が得られなかった社会の被害者であると感じることが多く、時に家族と言える家のない少年に遭遇することもしばしばで、こうした活動から、里親制度・養子縁組といった子どもの社会的養護の在り方の問題に興味を持つようになり、この研究のため、NYUに留学させていただくことになりました。


昨年の夏に渡米し、早速、LL.M.生のサマークラスに参加し、米国法律実務の概要を学びました。秋学期は、家族法全体の理解を深めるため、ニューヨーク州家裁判事を務められたPeggy Cooper Davis教授の“Family Law”と、私の研究のメインで、子どもの権利と家族法における一流の専門家であるMartin Guggenheim教授の“Child, Parent, and State”を受講しました。


毎回の授業では、判例を中心に、基本書、文献など50頁から80頁程度の予習が求められますので、ニューヨークらしい生活もできずに、図書館に通い詰める日々となりました。授業内容は、「何故か」という本質を突き詰め、新たな問題にどう応用するかと更に議論を発展させるもので、その都度、刺激的かつダイナミックで、米国の家族観、その由来の概要等を理解することができました。特に、「子どもの最善の利益」を誰がどのように判断できるのかということにつき、教授と生徒の意見が大きく対立して、永遠と議論が続くなど、これこそ米国のロースクールだと感心をしました。


研究内容とは異なりますが、USALIで毎週、開かれるランチミーティングに積極的に参加し、“Wrongful Conviction Program”のツアーもありましたので、ブロンクス最高裁への訪問・判事との懇談、裁判傍聴などにも参加しました。


ニューヨークでは、養子縁組が盛んなこともあり、養親になる里親を紹介してもらい、直接インタビューをしたり、ニューヨーク家裁での養子縁組の最終ヒアリングに参加したりと、充実した日々を過ごしています。


執筆時点では、いよいよ春学期が始まったところですので、これから各論の研究と、一層のフィールドワークに努めていくところです。


USALI・ニューヨークで研究するメリット

USALIの教授・スタッフ、研究員は、素敵な方々ばかりで、研究の合間には、鍋パーティー、クリスマスパーティー、新年会、オーケストラの鑑賞会など様々なイベント企画があり、かなり良好な人間関係が築かれています。


ニューヨークには様々な研究者、実務家が集ってきます。NYUは、コロンビア大学やフォーダム大学が近いこともあり、裁判官、教授、中央官庁職員、弁護士などニューヨーク近郊の客員研究員同士で集まり情報共有しています。日弁連研修委員会の継続研修調査の参加機会にも恵まれ、ニューヨーク州の法律事務所・研修機関を訪問し、弁護士研修の在り方を知る機会を得たり、法律関係者が集うNew York Japan Law Forum、国際紛争ADRの研究会に参加したり等、様々な研究に接する機会は限りなく得ることができます。


ニューヨークの街自体の魅力はご想像の通りで、皆ニューヨークを愛し、自由と夢に溢れ、活気に溢れているのを実感します。街を歩くだけでも、研究の疲れを癒してくれます。


弁護士9年目で渡米しました。所属事務所を始め、様々な先生方の懐深いご理解とご協力があって、学生時代からの夢でもあった留学の機会をいただくことができました。人生は一度限りです。留学を検討されている方には、是非、本制度を利用されることを強くお薦めします。



2019年度派遣 谷田部真彰 会員

はじめに

日弁連海外ロースクール推薦留学制度を利用し、2019年からニューヨーク大学ロースクールに客員研究員として留学させていただきました。LLMよりも大幅に廉価な学費で留学できる一方で、LLM・JD生向けの授業の聴講に加えて、U.S.-Asia Law Institute(「USALI」)主催のイベントやプログラムへの参加等、プラスアルファの経験・知識を得ることもでき、とても有意義な留学をすることができます。留学を志される方には、本制度の利用を是非ご検討いただきたいです。


大学での生活

ニューヨーク大学ロースクールは、アメリカでもトップロースクールの一つとして知られており、著名な教授が多く在籍しています。本制度で派遣される留学生は、ニューヨーク大学ロースクールの中でもUSALIというアジア法を研究する機関に、客員研究員として所属することになります。アジア各国から研究者・法曹が客員研究員として派遣されていますので、他国の客員研究員やUSALIの教授・スタッフから、世界中の法律について学ぶ機会があります。なお、客員研究員であっても、教授の許可さえ得れば、LLMによる留学生と同様に、いかなる授業でも聴講することができ、何ら不便はありません。判例検索サービスや図書館も利用できます。授業の予習は、判例や教科書を毎回数十ページ読み込む必要があり、最初の頃は大変苦労しましたが、それにより授業の理解が深まりますし、英語力の向上にもつながります。もちろん、毎年秋学期の授業開始前に行われているLLM生向けのイントロダクションコースも聴講可能です。私も受講しましたが、LLM生と知り合うきっかけになりますし、LLM生と一緒に基礎から英米法の基礎を学ぶことで、秋学期以降の授業の理解にも役立ちます。アメリカの授業は、ソクラテスメソッドによる双方向授業が多く、学生は、教授から指名されることもありますが、しばしば自ら積極的に発言します。日本のロースクールよりも、多くの学生が自ら積極的に手をあげて発言や質問をしており、全員で授業を作りあげる熱気と、学問への熱意を日々感じ、刺激的な毎日です。


加えて、ニューヨーク大学ロースクールが行う各種講演会にも参加可能です。毎日のように何かしらのイベントが行われています。USALIでも、毎週ランチタイムに講演会が開催されています。最先端の知識を持つ実務家や研究者の話を聞ける絶好の機会が数えられないほどあり、これはニューヨークというアメリカ随一の大都市に来るメリットの一つだと思います。


また、留学後半において、客員研究員には、USALIにて自分の研究分野について発表する機会が与えられます。準備にはかなりの労力が必要ですが、自分の研究を深める良い機会であり、また、発表時の質問等から新たな視点や気づきを得ることができます。この研究発表の機会があることも、ニューヨーク大学ロースクールに留学して良かったことの一つです。


日常生活

ニューヨーク大学は、凱旋門で有名なワシントンスクエアパークのすぐ隣にあることから、毎日、凱旋門を見ながら図書館で勉強していました。


ニューヨークは家賃が非常に高額であり、日本の2倍から3倍程度の印象です。しかし、地下鉄やバスといった公共交通機関が充実しており、自家用車なしで十分に生活できます。また、日本食スーパーや現地スーパーもマンハッタンの至るところにあり、手に入らないものはほとんどありません。チップの支払いが必要なことから、外食は日本より割高ですが、自炊すれば日本で生活する場合とそれほど変わらない食費で生活も可能です。書店もマンハッタン島内にいくつもあり、アマゾンや図書館と併用することで研究に必要な書籍もすぐに手に入ります。必要なものがすぐに手に入るという、東京と変わらない便利さは、研究に集中できるという意味でもプラスだったと感じています。


さらに、ニューヨークは、観光名所やイベントが多い場所です。全米オープンテニスやメジャーリーグ等のスポーツイベント、ミュージカルやオペラ等の観劇、世界的に有名な美術館や博物館を堪能することができます。授業の予習復習や研究活動でなかなかまとまった時間を取ることは難しいですが、数時間から半日の間に最高の息抜きができることもニューヨークならではのメリットだと思います。


最後に

留学後半では、コロナの影響でニューヨーク大学ロースクールもリモート授業になってしまったのは残念でした。しかし、1年間を費やす価値のある経験ができることは間違いありませんので、ぜひ、多くの弁護士の先生に、本制度を利用して、ニューヨーク大学ロースクールで素晴らしい研究生活を送っていただきたいと思います。



2021年度派遣 入江克典 会員

はじめに

私は、2021年8月から2022年12月まで、ニューヨーク大学(NYU)ロースクールに客員研究員として在籍し、主に「法と開発」と日本の法整備支援への示唆をテーマとして研究をしました。2015年から独立行政法人国際協力機構(JICA)に籍を置き、2017年からはラオスに赴任して法整備支援の実務に関与したこと、また2015年から日弁連国際交流委員会の幹事に就任したことを契機として、実践と架橋するための基礎理論を学びたいと考えたためです。


2021年6月末日にラオスから帰国した後、コロナ禍にて行動制約のある中(帰国後2週間の隔離のため動き出せたのは7月中旬でした)、ワクチン接種やビザの発行など、渡航準備に目まぐるしく駆け回りました。また、妻と長女、次女を東京に残し、長男と2人での渡航を決意し、長男のサマースクールへの参加や小学校の入学の手続に追われました。8月末の渡航後しばらくは、長男が家族と離れ離れになった寂しさや異国の地での不安に苛まれている中、生活の基盤を整えるためだけに奔走する日々が続きました。本当に研究を始められるのだろうかとの不安で先の見えなかった日々を、今は懐かしく思い出します。


9月に入ると、長男の小学校が無事始まり(前年はコロナで全てオンライン授業でしたので、登校が認められた年の渡航であったことは幸いでした)、NYUの秋学期も始まりましたので(主として、対面講義で、補助的にオンライン参加も可能という状況でした)、少しずつ生活にも慣れ、身を入れて研究活動をすることができるようになりました。


振り返ると、本当に大変だった時期は渡航後の2週間程度で、その後は、研究の内容や成果の実現に対する悩みはあったものの、概ね順調に、充実した研究生活を送ることができました。


客員研究員として

多くの留学生がLL.M.による留学を選択する中で、私が、NYUの客員研究員を選んだ理由は、主として、研究テーマが明確になっていたこと、師事したい教授がいたこと、可処分時間との関係の3点です。


私は、上記のとおり、「法と開発」を中心に研究したいと考えていましたため、履修科目の選択で悩むことはあまりありませんでした。NYUには興味を刺激する魅力的な講義が多数あり、さまざま手を伸ばしたくなります。また、LL.M.の留学生は、学期に多くのコマ数の講義を履修していることから、自身も、と考えそうになりました。しかし、私は、長男とのニューヨークでの生活のため、一人になれる時間は限られていましたので(学校の送迎で朝と夜のコマは出席できないうえ、週末は長男と共に過ごす必要がありました)、多くに手を広げると自身の研究が中途半端になると考え、ぐっとこらえて研究テーマを中心に時間を使うことを考えました。また、NYUの秋学期に「法と開発」の講義を履修した後は、コロンビア大学の春学期に行われた「法と開発」の講義に参加しました(同大学の教授に連絡し、聴講を承諾してもらいました)。この講義の参加によって、研究は一層深まり、一つのターニングポイントとなりました。このように、客員研究員は、可処分時間に応じて、自由に計画を立てて、研究活動とその成果の実現に没頭することができます。


また、NYUで「法と開発」の教鞭をとるフランク・アッパム教授(2022年夏に教授職を引退され、同年末現在、アドバイザーとして在籍されています)は、財産法と東アジアの比較法を専門とされ、日本との造詣も深い一方、ラオスの土地法改革に関与したご経験があります。私は、ラオスに滞在していた頃から教授と連絡を取らせて頂き、また、教授の論文には私が支援の現場で感じていたこととも関連する指摘があり、同教授の下で「法と開発」を学びたいと考えました。研究時にはいつも快く相談に乗って頂き、論文の執筆、出版においては多くの支援を頂きました。


その目的をどのように設定するかによって、各人各様の留学があると思います。私は、以上の理由から、「NYU」の「客員研究員」の道を選択し、非常に充実した研究生活を送ることができました(そして、長男も、ニューヨークに多くの友人ができ、最後は彼らとの別れを惜しんでおり、充実した日々を過ごせたようです)。留学時、弁護士登録12年目で、私より先輩の修習期の方に出会うことはありませんでしたが、このタイミングでの研究に思い切って挑戦したことは、自身の経歴、そして自身の人生において(加えて、長男の人生においても)大変貴重な時間となりました。


さいごに

NYUは、ニューヨークの多くの刺激の中、多彩な教授陣の最先端の議論に参加でき、多くのサポートを受けながら研究に没頭できる素晴らしい環境が整っています。そして、客員研究員としての研究活動は、実務での経験を重ねられ、問題意識が明確になっていればいるほど、より充実したものになると思います。ぜひ、留学をお考えの多くの皆さまに、(修習期や年齢などを気にすることなく)NYUでの客員研究員としての研究に挑戦して頂きたいと思います。