人種差別撤廃条約第1回・第2回定期報告(仮訳)

I. 総論

1. 我が国は、1995年12月15日に「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」(以下「人種差別撤廃条約」という。)に加入した。


 我が国の憲法は、その第14条第1項において、人種等の差別なくすべての国民が法の下において平等である旨明記している。我が国は、かかる憲法の理念に基づき、また、既に締結している経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約においても人種、民族を理由とするものも含め広く差別が禁じられていることを踏まえて、これまでも、人種、民族等も含めいかなる差別もない社会を実現すべく努力してきた。我が国は、人種差別撤廃条約への加入にあたり上記憲法の理念を再確認するとともに、今後もいかなる差別もなく国民一人一人が個人として尊重され、その人格を発展させることのできる社会をめざし、たゆまぬ努力を行っていきたいと考える。


2. こうした理念は、同時に我が国の国際社会における活動をも支えている。我が国は、国連の場等を通じて、人種、民族等に基づくいかなる偏見も払拭するためにあらゆる必要な措置を採る必要性を呼びかけ、一貫して人種差別に反対するとの基本的態度を表明してきている。また、人種差別撤廃に向けた決議の採択や、関連基金の設立、会議等の開催に関しては、その趣旨に積極的な支持を一貫して表明するとともに、人種差別撤廃のための10年行動計画信託基金に対し毎年拠出を行うなど、幅広く国際社会に貢献してきている。


我が国憲法における基本的人権の尊重

3. 我が国法体系における最高法規である憲法は、国民主権を基本原理とし、平和主義と並んで基本的人権の尊重を重要な柱の一つとしている。憲法の保障する基本的人権は、「現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたもの」(第97条)であり、基本的人権尊重の考え方は、「すべて国民は、個人として尊重される」(第13条)との思想に端的に示されている。この基本的人権には、(i)身体の自由、表現の自由、思想・良心の自由、信教の自由等のいわゆる自由権的権利、(ii)教育を受ける権利、国民が健康で文化的な最低限度の生活を営む権利等のいわゆる社会的権利等が含まれている。基本的な原理である平等原則は、第14条第1項に「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と規定され、人種、民族等この条約の対象となる差別事由を含めいかなる差別もない法の下の平等を保障している。憲法が規定する基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみを対象としていると解されるものを除き、我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものとされている。(注1)


4.憲法の定めるこれらの規定は、立法、行政及び司法の三権を拘束するものである。立法、行政及び司法の三権は、それぞれ国会、内閣及び裁判所に分属し、厳格な相互抑制の作用を通じ、人種差別撤廃を含めた人権擁護の面においても、遺漏なきを期している。


 国会は、「国権の最高機関」として、正当に選挙された国民の代表により構成され、「唯一の立法機関」として、立法権の行使を通じ、国民の権利と自由の擁護を図っている。内閣(行政府)は、国会が制定した法律を誠実に施行することを通じ、同じく国民の権利と自由の擁護を図っている(特に、行政府にあって人権擁護を直接の目的としている人権擁護機関の仕組みは、第6条を参照)。更に、国民の権利が侵害された場合には、裁判による救済を受け得るが(憲法第32条は、「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない」と定めている。)、憲法は、独立かつ公正な裁判を確保するため、裁判官に「その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」(同第76条第3項)との立場を保障している。


5. 我が国が締結した条約は、条約及び国際法規の遵守義務を規定する憲法第98条第2項の趣旨から、国内法としての効力を持つ。なお、条約の規定を直接適用し得るか否かについては、当該規定の目的、内容及び文言等を勘案し、具体的場合に応じて判断すべきものとされている。


国土に関する情報

6. 我が国の国土の総面積は37万7819k㎡であり、面積22万7909k㎡の本州、7万7979k㎡の北海道、3万6719k㎡の九州、1万8294k㎡の四国の4つの大きな島を含む6、852の島から成る。社会指標は、資料1参照。


人口に関する情報

7. 1997年10月1日現在、日本の総人口は1億2616万6000人となっている。我が国では、人口を調査する際、民族性といった観点からの調査は行っていないので、日本の人口の民族構成については必ずしも明らかではない(注2)


 一方、「和人」(注3)との関係において北海道に先住していたアイヌの人々は、現在も独自の言語、文化等を有し継承等に努力しているなど民族としての独自性を保持しており、同地域におけるアイヌの人口は、1993年に北海道が実施した北海道ウタリ生活実態調査(注4)によれば、23,830人となっている (資料2参照)。


8. 昨今、日本では、外国人登録者数が年々増加している(注5)。法務省の外国人登録者数の統計によれば、1998年末現在、我が国の各市区町村に登録されている外国人の数は151万2116人(日本の総人口の1.20%)で、過去最高を更新している。この数は、5年前の1993年末に比べると19万1368人(14.5%)、10年前の1988年末に比べ57万1111人(60.7%)増加している。


 国籍(出身地)別に見ると、韓国・朝鮮が最も多く(全体の42.2%)、次いで中国(18.0%)、ブラジル(14.7%)となっている(資料4資料5参照)。


9. 難民については、1981年の「難民の地位に関する条約」(以下「難民条約」という。)及び1982年の「難民の地位に関する議定書」(以下「難民議定書」という。)の締結に伴い、従来の出入国管理令を改正して難民認定制度を新設し、法令の名称を「出入国管理及び難民認定法」に改称、1982年1月より実施しているが、1999年6月末までに、同制度に基づき難民と認定された者は、234人である。また、我が国ではインドシナ三国(ヴィエトナム、ラオス、カンボジア)から難民の定住を受け入れており、その数は1999年6月末で1万465人となっている。



アイヌの人々の現状

北海道ウタリ生活実態調査

10. アイヌの人々の生活の実態に関しては、これまで北海道庁により、1972年、1979年、1986年、1993年の4度にわたり、北海道ウタリ生活実態調査が実施されている(資料2参照)。1993年に実施された「北海道ウタリ生活実態調査」によれば、アイヌの人々の生活水準は以下のとおり着実に向上しつつあるが、アイヌの人々が居住する地域における他の人々との格差は、なお是正されたとはいえない状況にある。


 進学状況については、高校への進学率は87.4%、大学(短大)への進学率は11.8%となっており、進学率の推移をみると、高校及び大学への進学率は着実に向上しているが、まだ、アイヌの人々の住む市町村(以下「市町村」という。)の高校進学率96.3パーセント、大学進学率27.5パーセントに比べると格差がみられる。


 産業別就業者比率についてみると、第一次産業が34.6%でうち漁業が22.2%、第二次産業が32.4%でうち建設業が22.3%、第三次産業が32.0%でうちサービス業が13.1%となっており、前回調査に比べると、第一次産業への就職者の比率が減少し、第三次産業への就職者の比率が高くなっている。これも市町村と同様の傾向である。


 生活保護の適用状況についてみると、保護率(対人口千人比、保護を受けている人の割合)は38.8‰と、1986年の調査より22.1ポイント減少している。1972年調査では、アイヌの人々の住む市町村の保護率の6.6倍であったが、1979年の調査には、3.5倍、1986年の調査は2.8倍、さらに今回は2.3倍と徐々にその格差が縮小している。この点については、地区道路や生活館等の生活環境改善のための施設整備事業、生産基盤の整備等の農林漁業対策、アイヌ民芸品の販路拡大を図るための中小企業振興対策、雇用促進及び技術習得等の対策を北海道ウタリ対策として実施しており、これら施策の総合的な効果が生活保護適用状況についての格差の縮小につながっていると思われている。


11. 同調査によれば、差別に関し、その状況は前回の調査時に比し大きく改善はされてはいるものの、学校や就職、結婚等において差別を受けたことがある、又は、他の人が受けたのを知っていると答えた人が17.4%いる。


北海道ウタリ福祉対策等

12. 北海道庁は、1974年以来、4次にわたり「北海道ウタリ福祉対策」を策定し、上記の生活実態調査の結果等を踏まえつつ、教育、文化の振興、生活環境の整備、産業の振興等の施策を総合的に推進し、アイヌの人々の生活水準の向上と一般道民との格差の是正を図っている。例えば、進学状況等の格差を克服するため、高等学校及び大学に修学する者に対する入学支度金及び修学資金の助成(大学は貸付け)等を行い、進学を奨励している。


 政府は、北海道庁が進めている右施策に協力し、これを円滑に推進するため、1974年政府部内に「北海道ウタリ対策関係省庁連絡会議」を設置し、関係行政機関の緊密な連携の下に北海道ウタリ福祉対策事業関係予算の充実に努めている。


13. アイヌの人々の人権擁護に関しては、法務省の人権擁護機関が、「アイヌの人々と人権」と題した人権啓発資料を作成し、全国各地で配布するなどの啓発活動を行っている。特に、北海道内の法務局・地方法務局において、「アイヌの人々に対する理解を深めよう」を人権週間の強調事項としているほか、人権に関する講演会や研修会の場でアイヌ問題にも触れており、これらの講演会・研修会の場及び街頭でもパンフレットやチラシの配布を行っている。


ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会

14. このような状況の下、今後のウタリ対策のあり方について検討するため、1995年3月には内閣官房長官の要請に基づき「ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会」がスタートした。本懇談会では、我が国におけるアイヌの人々の位置づけにつき、自然人類学、歴史学、民族学、国際法等の学問的立場からヒアリングを重ねるなど様々な角度から議論するとともに、この分野の施策の新たな基本理念及び具体的施策のあり方等について検討が行われ、1996年4月に報告書が内閣官房長官に提出された。この報告書では、現在、アイヌの人々は、我が国の一般社会の中で、言語面でも、文化面でも他の構成員と殆ど変わらない生活を営んでおり、独自の言語を話せる人も極めて限られた数にとどまるという状況に至っているが、関係者の帰属意識や様々な取組みに照らし、アイヌの人々は民族としての独自性を保持している旨、また、中世末期以降の歴史の中で、和人との関係で我が国固有の領土である北海道に先住していたと認められるアイヌの人々の固有の事情に立脚し、アイヌ語や伝統文化の保存振興等を通じ、アイヌの人々の民族的な誇りが尊重される社会の実現を目指すため、今後可能な限り立法措置を含め特段の措置を講じること等述べている。


15. 政府は、右報告書の趣旨を尊重し、検討した結果、アイヌの人々の誇りの源泉であるアイヌの伝統及びアイヌ文化(以下「アイヌの伝統等」という。)が置かれている状況にかんがみ、アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現等を図ることを目的とする「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」案を国会に提出した。同法は、1997年5月に成立し、同年7月に施行されたところであり、国、地方公共団体及び指定法人は、同法に基づき、アイヌに関する総合的かつ実践的な研究、アイヌ語を含むアイヌ文化の振興及びアイヌの伝統等に関する知識の普及啓発を図るための施策を推進しているところである。


在日外国人の現状

16. 我が国では、外国人が日本に入国し在留するための基本的な枠組みとして、在留資格制度をとっている。すなわち、日本社会の健全な発展との調和の下に外国人の受け入れを図る観点から、「出入国管理及び難民認定法」において、外国人が入国し在留して従事することができる活動又は入国し在留することができる身分若しくは地位を類型化して「在留資格」として定め、外国人はこの在留資格のいずれかに該当するものでない限りは入国及び在留を認めないこととし、この「在留資格」を中心に外国人の入国及び在留の管理を行っている。我が国に入国し在留することが認められた外国人には、他の法律に特別の規定がある場合を除き、いずれか一の在留資格が決定される。外国人は、その取得した在留資格に応じて許容されている活動を行うことができるとともに、在留資格に対応する在留期間中の在留が保障される。また、外国人の身分関係及び居住関係を明確にし、在留外国人の公正な管理を行うため、外国人には外国人登録法に基づきその居住地の各市区町村長に登録することが義務づけられている。


17. 1998年末現在、在留の資格別にみると、外国人登録者数全体の41.4%は特別永住者及び永住者、17.5%が「日本人の配偶者等」、14.0%が「定住者」となっている。


 就労が認められている在留資格の外国人は、7.9%となっている。就労が認められている外国人の数は、1998年末は11万8996人で、前年に比し1万1698人(10.9%)増加している。


 出身地域別にみると、「興行」の91.6%、「技術」の85.5%、「技能」の88.2%はアジア地域出身者が占めている。また、「教育」の64.6%、「宗教」の53.7%は北米地域出身者が占めている(注6)


18. 外国人労働者の受け入れについては、1995年12月に「第8次雇用対策基本計画」を閣議決定し、「専門的、技術的分野の労働者については可能な限り受け入れることとし、我が国経済、社会等の状況の変化に応じて在留資格に関する審査基準を見直す。一方、いわゆる単純労働者の受け入れについては、雇用機会が不足している高年齢者等の圧迫、労働市場における新たな二重構造の発生、景気変動に伴う失業問題の発生、新たな社会的費用の負担等我が国経済社会に広範な影響が懸念されるとともに、送り出し国や外国人労働者本人にとっての影響も極めて大きいと予想されることから、国民のコンセンサスを求めつつ、十分慎重に対応する」こととしている。我が国で単純労働に従事する意図を有する外国人については、上述の方針に基づき原則として入国を認めていない。既に入国し、出入国管理及び難民認定法に違反して不法に就労している者については、原則として国外に退去強制することとなるが、これらの者への賃金の不払い、労働災害(不法滞在者でも労働災害保険に基づく保護を受けることができる)などの事実が判明したときは、所要の救済措置がとられるよう関係政府機関が連携を図ることにより対処するなどしている。


19. 不法残留者数は、1990年7月1日時点10万6,497人であったものが、91、92年に激増し、1993年5月1日時点の29万8646人をピークとしてやや減少に転じたものの、1999年1月1日現在27万1048人であり、依然として高い水準で推移しているとみられる。なお、これらの者の就労期間が、以前は1年未満であったものが全体の半数以上を占めていたが、近年では1年を超えるものが全体の約70%を占め、不法就労期間の長期化の傾向がみられる。


 不法就労者の増大は、出入国管理行政の適正な運営を阻害するにとどまらず、それらの者の弱みにつけ込んだ中間搾取、強制労働等が行われるなど犯罪の温床ともなり、また人権侵害のケースも指摘されている。このため、不法就労を防止するために、事業主等に対する周知啓発、指導を行っているほか、関係省庁が連携の上、不法就労者の入国・就労に関与しているブローカー、暴力団関係者、悪質な事業主等の取り締まりを行っている。また、不法就労者の人権擁護の観点から、法務局の人権擁護機関においては、不法就労あるいは不法残留外国人からでも人権相談を受け付けており、相談があった場合には他の外国人と同様に取扱っているほか、プライバシーに配慮した対応を行っている。


在日外国人の人権

20. 我が国の憲法は、在日外国人についても、権利の性質上日本国民のみを対象としていると解されるものを除き、基本的人権の享有を保障しており、これを受けて、政府は、(i)外国人の平等の権利と機会の保障、(ii)外国人の自己の文化、価値観の尊重、(iii)外国人との共生に向けた相互理解の増進等に積極的に取り組んでいるところである。


 我が国は、1979年に、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約を批准したほか、1981年には難民条約、1982年には難民議定書に加入しており、さまざまな分野において日本国籍を有する者とそうでない者との間の平等を確保している。


21. 例えば、教育については、公立義務教育諸学校で学ぶことを希望する外国人児童生徒に対して教育機会、待遇(授業料不徴収、教科書の無償給与等)の均等を保障している他、就労の分野においても、職業紹介等について、人種、民族等による差別的取扱いを受けることがないよう確保されており、労働条件についての国籍による差別的取扱いは罰則をもって禁じられている。また、住居についても、公的な住宅への入居に際しては、居住関係及び身分関係につき居住地の市町村に登録している者については、日本人と同様に入居申込資格を認めている。社会保障制度についても、内外人平等の原則にたって適用されており、例えば、国民年金、国民健康保険の加入、児童手当、児童扶養手当等の支給に当たり国籍要件は撤廃されている。また、生活保護制度についても、永住者、定住者等日本人と同様の生活をしている在日外国人については、行政上の措置として同一要件の下に同一内容の給付を行っている(以上第5条参照)。


 この他、地方自治体では外国人との共生を目指した地域づくりに向け、パンフレットの作成配布や外国人専用の相談窓口を設ける等主要外国語での各種情報提供の促進を図るとともに、直接外国人住民と接する場面の多い公務員への外国語教育や外国人への日本語教育についての施策を実施する等、外国人を対象とした行政サービスの充実に努めている。


22. 一方、外国人居住者の急激な増加に伴い、言語、宗教、習慣等の違いから、私人間において、日常生活の様々な場面において差別的取扱いを受けるなど外国人を巡る人権問題が発生している。法務省の人権擁護機関が取り扱った事例の中には、外国人であることを理由に賃貸マンションへの入居を拒否されたり、村営プールへの入場を拒否される等の事案があった。政府では、これらの問題を在日外国人の重大な人権問題として受け止め、外国人との共生、外国人にとっても住み易い社会の実現に向け、外国人に対する偏見や誤解をなくすよう、あらゆる機会を通じて関係団体、機関に対し指導を行うとともに、国民全体の意識を高めるべく全国的に啓発活動を行っている(第6条第7条参照)。


在日韓国・朝鮮人

23. 日本に在住する外国人のうちの約3分の1を占める在日韓国・朝鮮人の大部分は、いわゆる日本の統治時代の36年間において(1910~1945年)種々の理由により我が国に居住することなり、その間日本国籍を有していたが、第2次世界大戦後サンフランシスコ平和条約の発効(1952年4月28日)に伴い日本国籍を離脱し、その後引き続き日本に居住している者及びその子孫である。


 在日韓国・朝鮮人は、朝鮮半島が韓国と北朝鮮に分かれている現状から、彼らの自由意思に基づき韓国籍を取得している者及びこれを取得していない者に大別される。


 これらの者は、「特別永住者」として日本に在留しており、その数は、1998年末現在52万8450人にのぼる{なお、「特別永住者」の総数は、53万3396人で、韓国・朝鮮の他、中国が4349人いる。また、この他の国籍(出身地)の者もいる。}。地域別では、約半数が大阪を中心として近畿地方に、次いで約20%が東京都、神奈川県等関東地方に居住している。


 なお、在日韓国・朝鮮人の日本の社会への定着、帰化が進んでいることもあり、特別永住者として在留する者の人数は毎年減少傾向にある。


24. これらの者の基本的人権は、先に述べたとおり憲法等により保障されているが、日本国籍を有していないことから、参政権、入国の自由等通常外国人には与えられていない権利は与えられておらず、国内法上他の外国人と基本的に同等の取扱いとなっている。他方、これらの者の有する歴史的経緯及び定住性を考慮し、これらの者が日本でより安定した生活を営むことができるようすることが重要であるとの認識に立ち、種々の措置が講じられてきた。


25. これらの者のうち、在日韓国人三世以下の者の法的地位の問題については、「日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定」(以下「日韓法的地位協定」という。)(注7)に基づき、韓国政府と1988年以来累次にわたり協議を重ね、1991年海部総理(当時)が訪韓した際に、その協議が決着し、その内容をとりまとめた覚書に日韓両国外相が署名を行った。


 政府では、これらの協議の結果を踏まえ、在日韓国・朝鮮人の生活の安定に向け誠実に努力しており、以下のような措置がとられているところである。


(1)法的地位

26. 1991年1月に同協定の協議が決着した結果を踏まえ、「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(以下「出入国管理特例法」という。)」が1991年5月10日公布、同年11月1日から施行された。同法は、終戦前から我が国に引き続き在留し、日本国との平和条約の発効により日本国籍を離脱した者及びその子孫について、その法的地位の一層の安定化を図ることを目的として、出入国管理及び難民認定法の特例を定めたものである。同法の対象者は、同法第2条においてサンフランシスコ平和条約国籍離脱者及びその子孫と定義され、特別永住者の資格を付与される。なお、同法は、上記のとおり日韓法的地位協定に基づく協議の結果を踏まえて制定されたものであるが、在日韓国人と同様の歴史的経緯及び定着性を有する在日朝鮮人、在日台湾人の人々についても、同様の法的地位を付与するのが適当であるので、同法においては、対象者の国籍は特に限定していない。


出入国管理特例法の優遇措置として、以下(a)~(c)の措置がとられた。


(a)退去強制事由の特例

27. 特別永住者の法的地位のより一層の安定化を図るため、退去強制事由を極めて限定した。すなわち、その事由を内乱に関する罪並びに外患に関する罪、国交に関する罪(外国国章の損壊等、私戦の予備・陰謀又は中立命令の違背の罪)、外交上の利益に係わる罪(外国の元首や外交使節に対する暴行、名誉毀損等の種々の犯罪等)及び重大な国家的利益を害する罪(例えば、民主的法秩序を破壊する目的での爆発物取締罰則違反、殺人罪、放火罪等)に限定する。


なお、現在のところ、この入管特例法第9条に規定する退去強制事由に該当して、退去強制された者はいない。


(b)再入国許可の有効期間の特例

28. 特別永住者については、企業の駐在員等として海外で勤務したり、海外に留学する場合を考慮し、当初の再入国許可の有効期限については4年(一般外国人は有効期間が1年)を超えない期間、日本国以外での延長の期間については1年を超えず、当初の許可から5年(一般外国人は2年)を超えない期間とする特例を設けることによって、特別永住者が長期にわたり海外で生活する場合にも対応できるようにした。


(c)上陸の審査の特例

29. 再入国許可を受けて出国した特別永住者が再入国する場合の入国審査官の上陸審査においては、出入国管理及び難民認定法第7条第1項に定める上陸のための条件のうち第1号の旅券の有効性のみを審査の対象とし、上陸拒否事由の該当性については審査しないこととすることによって、在留の安定化を図っている。


(2)教育

30. 日本の公立義務教育諸学校で、就学希望があれば、受け入れることとしており、授業料の不徴収、教科書の無償給与、上級学校への入学資格の付与について日本人の場合と同様に取り扱っている(第5条教育部分参照)。また、育英奨学金についても、我が国への永住許可を受けている在日韓国・朝鮮人等の在日外国人については、日本人の場合と同様に取り扱っている。


 日韓三世協議の際の「覚書」には、日本社会において韓国語等の民族の伝統及び文化を保持したいとの在日韓国人社会の希望を理解し、現在、地方自治体の判断により学校の課外で行われている韓国語や韓国文化等の学習が今後も支障なく行われるよう日本国政府として配慮する旨述べられており、上記内容を踏まえ、政府から地方自治体に対し、そのような学習が支障なく行われるよう配慮するよう指導を行っており、実際にいくつかの地方公共団体においてそのような学習機会が提供されている。


 この他、社会教育においても、公民館等の社会教育施設などにおける青少年、成人、女性等を対象とした学級・講座等の中で、地域の実情に応じて韓国・朝鮮語、韓国・朝鮮文化等の国際理解に関する多様な学習活動が行われている。


31. 在日韓国・朝鮮人が日本の学校教育を受けることを希望しない場合は、その多くが韓国・朝鮮人学校に通学している。韓国・朝鮮人学校については、その殆どが各種学校(注8)として都道府県知事の認可を受けているところである。各種学校の教育内容については法令上特段の定めがなく、その修了者については一般的に高等学校(注9)卒業者と同等以上の学力があると認定することが困難であることから、大学への入学資格は与えられていない。


 なお、国内の外国人学校で学ぶ外国人生徒について、大学への進学の道を制度的に開くため、平成11年9月に大学入学資格検定の受検資格の弾力化を図ることとしている。また、大学を卒業していない者についても大学院において個々人の能力を審査することにより、大学院に進学できる道を開くため、同様に平成11年8月に大学院入学の弾力化を図ることとしている。


(3)就労

32. 就労については、上述のとおり職業紹介、労働条件等に関し人種、国籍等を理由とする差別的取扱いは禁止されている。政府では、在日韓国・朝鮮人について、就職の機会均等について正しい理解と認識を深めるための広報活動や不適正事業所に対する個別指導を実施するなどして、事業主等に対する指導、啓発に努めている。


なお、我が国における外国人の公務員への採用については、公権力の行使又は公の意思の形成への参画に携わる公務員となるためには日本国籍を必要とするが、それ以外の公務員となるためには必ずしも日本国籍を必要としないものと解されており、在日韓国・朝鮮人の公務員への採用についてもこの範囲で行われている。


33. 在日韓国・朝鮮人については、国内外の社会情勢の変化、人権尊重の精神の国民への定着、学校・社会教育や法務省の人権擁護機関をはじめとする各省庁による指導、啓発活動、NGOの啓発努力等により、これらの者に対する理解は進み差別意識は確実に改善の方向に向かっているといえる。しかし一方では、就労、入居等に関する差別、差別言辞や差別落書き事案等、日常生活において依然私人間での差別が見られ(第4条第6条参照)、そのような状況の中で、在日韓国・朝鮮人の中には、その本名を名乗ることによって起こる偏見や差別を恐れ、日常生活において日本名を通称として使用する場合もみられる。政府では、このような人類平等の精神に反する誤った偏見、差別意識が依然として一部に存在することを憂慮しており、被害者の救済に関する施策及び学校、社会教育の場における人権教育の充実に努めるとともに、引き続き各省庁において、関係機関、団体等に対し指導、啓発活動を行っていくこととしている(第7条。参照)


難民の現状

(a)難民の取扱い

34. 我が国は、1981年の難民条約及び1982年の難民議定書の締結に伴い、従来の出入国管理令を改正し出入国管理及び難民認定法とし、難民認定制度を新設して1982年1月より実施しており、難民認定申請が行われたときは、その都度該当案件について調査を行い、難民条約第1条及び同議定書第1条の「難民の定義」に該当するか否かにつき適正な判断を行い、これら条約に定める義務を誠実かつ厳正に履行している。また、受入れ後の待遇についても、同条約に従い、職業、教育、社会保障、住宅等において各種の保護及び人道的援助が与えられており、内国民待遇の確保に努めている。


1999年6月末までの難民認定事務の処理状況は以下のとおり。
受理 1790
審査結果 認定 234
不認定 1170
取下げ 277
処理中 109

(b)インドシナ難民

(i)我が国の定住受入れ

35. 我が国におけるインドシナ難民の定住受入れは、1978年より我が国に一時滞在しているヴィエトナム難民について定住を許可することから始まった。次いで、1979年よりアジア諸国に滞在中のインドシナ難民についても定住許可の対象とし、その後、2度の定住許可条件の緩和が行われ、インドシナ三国における政変前に留学生等として日本に滞在していた者や合法出国計画(ODP)に基づくヴィエトナムからの家族呼寄せによって入国する者についても定住が許可されることとなった。その後、定住促進のための体制が整備されるとともに、定住受入枠も漸次拡大され、1994年には受け入れ枠が廃止された結果、我が国に定住するインドシナ難民は、1999年6月末現在、1万465人に達している。その内訳は以下のとおり。


受入区分 国別 定住者総計 国内の一時滞在施設 国外の一時滞在施設 元留学生等 ODP
ベトナム人 7,900 3,534 1,814 625 1,927
ラオス人 1,306 - 1,233 73 -
カンボジア人 1,259 - 1,215 44 -
10,465 3,534 4,262 742 1,927

1999年6月末現在


(ii)インドシナ難民の定住促進策

36. 政府は、1979年の閣議了解によって、インドシナ難民の日本への定住促進のため、日本語教育、職業訓練、就職あっせんなどを行うことを決定し、これらの業務を財団法人アジア福祉教育財団に委託することとした。それを受け、同財団では、難民事業本部を同財団内に設置、引き続き姫路(兵庫県)定住促進センター(1996年3月閉鎖)、翌1980年には大和(神奈川県)定住促進センター(1998年3月閉鎖)、1982年には大村(長崎県)難民一時レセプション・センター(1995年3月閉鎖)を設置した。また、1983年には、東京都に国際救援センターを開設した。現在、インドシナ難民の多くは、国際救援センターに6ヶ月間入所し、生活費の支給を受けながら日本語の教育を受講するほか、日本の社会生活へ適応するための指導等についても受けることとなっている。更に、右センターでは、希望する難民の児童に対しては養子、里親のあっせんを行う他、就職希望者には、職業紹介、職業訓練等を行っている。開設以来の実績としては、1999年6月末現在で、合計で入所者1万596名(既に閉鎖された3センターを含む)となっている。


(iii)生活状況

37. 1992年のインドシナ難民の定住状況調査(財団法人アジア福祉教育財団難民事業本部実施)によると、比較的順調に定住が進んでいるといえる。就職状況は、昨今の景気の低迷によりインドシナ難民への求人条件も厳しくなりつつあるが、上記センターでは、インドシナ難民に対する理解の促進と雇用の一層の促進を目的に、毎年11月を「インドシナ難民雇用促進月間」と設定しているほか、雇用主懇談会を各地で開催しており、上記センターの修了者については、1998年度には就職希望者54名全員が就職している。職種は、金属加工、電気・機械器具・自動車組立、印刷製本等が大部分を占めている。


38. このように、我が国の定住インドシナ難民の多くは、雇用主、地域社会の理解と支援に支えられて比較的順調に職場や地域社会に適応していると考えられる一方、定住難民の数が次第に増加していく中で、中には言語、習慣等の違いから日常生活において様々な問題に直面しているケースもみられる。このような状況を踏まえ、難民事業本部では、複雑化・専門化する相談内容と本人、その家族及び事業主等に対する綿密かつ長期間にわたる相談・指導に対応するため、「難民相談員」を本部及び国際救援センターに配置している。


 この他、インドシナ難民の円滑な定住にとって地域住民の理解と協力は不可欠であることから、同財団では、毎年「定住インドシナ難民とのつどい」を開催し、地域住民との交流による相互理解の増進に努めているとこ


II. 第2条

国及び地方の公の当局及び機関による差別の禁止

39. 国の公の当局による差別の禁止については、憲法が人種等による差別のない法の下の平等原則を規定し(憲法第14条第1項)、憲法が国の最高法規であり、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない旨規定するとともに(第98条第1項)、公務員の憲法尊重擁護義務を規定することにより(第99条)、国民が国家により人種等を理由に差別されないことを保障している。


 憲法は第94条において、地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができるとしているが、第99条に定める公務員の憲法尊重擁護義務をはじめとする憲法の諸規定は、地方公共団体をも拘束するものである。これを受けて、地方自治法は、普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて条例を制定できる旨規定するほか(同法第14条第1項)、法令に違反してその事務を処理してはならない旨規定するとともに(同法第2条第15項)、右規安に違反して行った地方公共団体の行為は、これを無効とする旨規定(同第16項)するとされており、これらの規定により、地方公共団体においても、人種等に基づく差別的行為が行われないよう法的に保障されている。


40. 人権の尊重は、公務員にとって最も基本的な原則であり、憲法、世界人権宣言等に関する講義は法務省をはじめとして多くの省庁で実施されているところである。また、この条約に関しては、締結に際し、関係省庁より、条約の義務を誠実に履行するとの見地から、職員のみならず、所管の特殊法人、管下の関係機関及び団体に対し、適宜条約の趣旨を周知徹底の上、差別を行うことのなきよう然るべく指導・監督するよう通達等により適宜要請を行った。特に、人権擁護委員及び人権擁護事務に携わる国の職員に対しては、通知の発出や資料の配布によって我が国のこの条約への加入について周知し、また、人種差別・外国人差別等の解消のため、啓発活動及び人権侵犯事件・人権相談におけるこれらの問題への取組を一層強化するよう指導している。また、各種研修においても、これらの問題に関する講義や事例研究等を積極的に行って、委員及び職員に対するこの条約の趣旨の周知徹底を図っている。


私人間における差別の禁止

41. 憲法第14条第1項は、人種等の差別なく法の下の平等原則を定めたものであるが、このような考え方等を踏まえ、我か国は、教育、医療、交通等国民生活に密接な関わり合いを持ち公共性の高い分野については、各分野における関係法令により広く差別待遇の禁止が規定されているほか、その他各種の分野につき関係省庁の指導、啓発等の措置を通じて差別の撤廃を図っている。


42. また、我が国では、人権侵犯事件調査処理規程及び人権擁護委員法に基づき、人種差別を含む人権侵害につき事案に応じて適切な措置がとられることとなっている(第6条参照)。なお、我が国は、1996年12月に、人権の尊重の緊要性に関する認識の高まり、社会的身分、門地、人種、信条又は性別による不当な差別の発生等の人権侵害の現状その他人権の擁護に関する内外の情勢にかんがみ、人権の擁護に関する施策の推進について、国の責務を明らかにするとともに、必要な体制を整備し、もって人権の擁護に資することを目的として、人権擁護施策推進法を制定した。1997年3月、同法に基づき、人権教育・啓発及び被害者の救済に関する施策の基本的事項を調査審議するため、人権擁護堆進審議会が設置され、人権教育・啓発に関する施策については、1999年7月を目途に、また、被害者の救済に関する施策については、2002年3月を目途に答申等が出される予定である。


43. 私人間の私法的法律関係については、民法により、不法行為が成立する場合には、このような行為を行った者に損害賠償責任が発生するほか、差別行為が、私的自治に対する一般的制限規定である民法第90条にいう公序良俗に反する場合には、無効とされる場合がある。更に、差別行為が刑罰法令に触れる場合には、当該刑罰法令に違反した者は処罰されることとなっている。


差別法の改廃

44. 1899年に制定された北海道旧土人保護法及び同法の特別法として1934年に制定された旭川市旧土人保護地処分法は、北海道の開拓により、生活の途を失い、困窮に瀕していたアイヌの人々に対し、土地を無償で下付し、農耕を奨励する等、その生活の安定を図ることを目的とするものである。しかし、1930年半ば以降、土地の無償下付の実績がないなどその運用実態も乏しく、今日においては、その存在意義を失っている上、「旧土人」という名称は、今日の社会常識に照らし、呼称として不適切であることは否定できない。


 1995年3月に設置された「ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会」において、法制度のあり方を含め今後のウタリ対策のあり方について検討が進められた結果、1996年4月1日、上記法律の廃止方針が盛り込まれた報告書がまとめられた。政府では、同報告書の趣旨を踏まえ、1997年5月、アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律が制定されたのに伴い、上記法律を廃止することとした。


III. 第3条

アパルトヘイトの禁止

45. 我が国にはアパルトヘイトは存在しない。かかる政策を行うことは人種等による差別なく法の下の平等を保障する憲法14条第1項により禁止されている。


46. 我が国は、従来より一貫して人種差別に反対するとの基本的立場を維持してきており、南アのアパルトヘイト問題についても国連憲章の目的である人種平等及び基本的人権の尊重を踏みにじるものであり容認できないとの立場を堅持してきた。特に1960年以降の南ア情勢の悪化に伴い、国際社会は段階的に対南ア制裁を強化していくこととなったが、1960年代より国連総会及び安保理において、対アパルトヘイト非難決議が累次採択される際には、我が国もそれらの決議を積極的に支持するとともに、我が国としても、かかる情勢を勘案し、南アのアパルトヘイト撤廃を促すため、国際社会とも協調の上、対南ア規制措置として、外交関係を有さず領事関係にとどめ、直接投資禁止、融資自粛要請、スポーツ・文化・教育交流規制、武器輸出禁止、対南ア輸入規制、観光規制、南アとの航空機相互乗り入れ停止その他の各種対南ア規制措置を講じてきた。


 国際的努力の結果、南アにおける民主化が進展し、アパルトヘイトが撤廃されることとなったので、こうした進展及びこれを歓迎・支援する国際社会の動向を踏まえ、これら規制措置は94年1月までにすべて解除された(92年1月外交関係再開)。


47. また、我が国は、上記規制措置の解除に加え、南アの状況がアパルトヘイト後の新体制樹立に向かって変化する中で、対南ア黒人支援は、南アの平和プロセスを促進し、また、新たな政治・経済体制の担い手を育成するとの観点から、「国連南部アフリカ教育訓練計画」、「国連南ア信託基金」、「反アパルトヘイト広報信託基金」、「南部アフリカ黒人支援日・EC共同計画(南ア国内の援助団体であるカギソ・トラストに対する支援)」に対する拠出等の援助を行ったほか、1990年度よりは、「小規模無償資金協力」、「JICA研修員受入れ」の新たなスキームを実施している。また、UNHCRへの拠出を通じて南ア国外亡命者の帰還に対する支援を行った。


48. 我が国は、南アにおいて1994年4月に南アの歴史上初めて黒人を含む全人種参加の下で総選挙が実施され、アパルトヘイト政策に終止符が打たれたことを歓迎するものである。南アは、和解の精神と対話により平和的に新体制へ移行した成功例であり、また、その安定と発展はアフリカ全体にとり重要であるとの観点から、責任ある国際社会の一員として同国に対する支援を強化することとし、94年7月に2年間で総額13億ドル(政府開発援助3億ドル、日本輸出入銀行の融資5億ドル、貿易・海外投資保険のクレジットライン設定5億ドル)の対南ア支援策を発表した。我が国は、右支援パッケージ終了後も引き続き十分な規模の支援を実施していく方針であり、本年6月に第2回目の民主的選挙により新大統領が就任した際にもかかる我が国の方針を表明した。


IV. 第4条

留保

49. 我が国は、本条約を締結するに当たって、第4条(a)及び(b)に関して、次のような留保を付している。


 「日本国は、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約第4条の(a)及び(b)の規定の適用に当たり、同条に「世界人権宣言に具現された原則及び次条に明示的に定める権利に十分な考慮を払って」と規定してあることに留意し、日本国憲法の下における集会、結社及び表現の自由その他の権利の保障と抵触しない限度において、これらの規定に基づく義務を履行する。」


50. これは、次の理由によるものである。


 我が国憲法は第21条第1項において、集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由(以下、これらを併せて「表現の自由」という。)を保障している。表現の自由は、個人の人格的尊厳そのものにかかわる人権であるとともに、国民の政治参加の不可欠の前提をなす権利であり、基本的人権の中でも重要な人権である。かかる表現の自由の重要性から、我が国憲法上、表現行為等の制約に当たっては過度に広範な制約は認められず、他人の基本的人権との相互調整を図る場合であっても、その制約の必要性、合理性が厳しく要求される。特に最も峻厳な制裁である罰則によって表現行為等を制約する場合には、この原則はより一層厳格に適用される。また、我が国憲法第31条は、罪刑法定主義の一内容として、刑罰法規の規定は、処罰される行為及び刑罰について、できるだけ具体的であり、かつ、その意味するところが明瞭でなければならないことを要請している。


 本条約第4条(a)及び(b)は、人種的優越又は憎悪に基づく思想の流布や人種差別の扇動等を処罰することを締約国に求めているが、我が国では、これらのうち、憲法と両立する範囲において、一定の行為を処罰することが可能であり、その限度において、同条の求める義務を履行している。しかし、同条の定める概念は、様々な場面における様々な態様の行為を含む非常に広いものが含まれる可能性があり、それらすべてにつき現行法制を越える刑罰法規をもって規制することは、上記のとおり、表現の自由その他憲法の規定する保障と抵触するおそれがある。そこで、我が国としては、世界人権宣言等の認める権利に留意し、憲法の保障と抵触しない限度において、本条約第4条に規定する義務を履行することとしたものである。


51. 我が国においては、次に述べるような国内法の執行により差別による人権侵害を防止するとともに、粘り強く国民一般の人権意識を啓発することにより、差別行為を自主的に排除させ、又は、将来の再発を防止することに相応の効果を挙げているところである。政府としては、国民、社会の人権意識は本来、表現の自由によって保障されている自由な言論等を通じて高められていくべきものであって、現存する差別、偏見も、国民一人一人が自由や権利の濫用を禁じる憲法の規定(第12条)を踏まえて、社会内で自発的に是正していくことが最も望ましいとの立場であり、政府による啓発措置がかかる社会の自浄作用の促進につながることを望んでいる。


流布、扇動、暴力の処罰化

52. 「人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布」に関して、我が国は、本条約を締結するに際し上述の留保を行っていることからも明らかなとおり、憲法で保障する基本的人権である集会、結社及び表現の自由等の重要性にかんがみ、人種的優越又は憎悪に基づく思想の流布にあたる人種差別的な表現類型を一般的に処罰の対象とはしていない。しかし、それが、特定の個人や団体の名誉や信用を害する内容を有すれば、刑法の名誉毀損罪(第230条)、侮辱罪(第231条)又は信用毀損・業務妨害罪(第233条)で処罰されるほか、特定個人に対する脅迫的内容を有すれば、刑法の脅迫罪(第222条)、暴力行為等処罰に関する法律の集団的脅迫罪(第1条)、常習的脅迫罪(第1条の3)等により処罰される。


53. 「人種差別の扇動」については、上記で述べた各罪が成立する場合に、その教唆犯(刑法第61条)又は幇助犯(同法第62条)として処罰されるほか、公務員の平等取扱の原則違反(国家公務員法第27条、109条、地方公務員法第13条、60条)など差別的取扱いを禁じる法令に違反する行為を教唆し、幇助する行為についても、同様に処罰の対象とされている。


54. 「いかなる人種若しくは皮膚の色若しくは種族的出身を異にする人の集団に対するすべての暴力行為」に関して、我が国には、特定集団に対する暴力行為のみ取り出して重罰化した法律は存しないものの、刑法は、多衆が集合して行った場合として騒乱罪(第106条)を規定するほか、強姦罪(第177条)、殺人罪(第199条)、傷害罪(第204条)、凶器準備集合罪(第208条の2)、強盗罪(第236条)等を規定し、暴力行為を処罰している。また、暴力行為等処罰に関する法律は、集団的暴行・脅迫・器物損壊等(第1条)及び常習的暴行・傷害・器物損壊等(第1条の3)の処罰を、爆発物取締罰則及び火炎びんの使用等の処罰に関する法律は、爆発物や火炎びんを使用する行為等の処罰を、それぞれ規定している。


55. 「(これら暴力)行為の扇動」については、前段落で述べた罪が成立する場合に、その教唆犯(刑法第61条)又は幇助犯(同法第62条)として処罰されるほか、刑法第206条が、傷害の現場助勢罪を処罰している。


56. 「人種主義に基づく活動に対する資金援助を含むいかなる援助の提供」に関しては、援助を受けた者が上記で述べた犯罪を犯した場合に、刑法第62条の幇助犯として処罰される。


57. 本条項に関連して、1994年の春から夏にかけて、全国各地で、在日朝鮮人児童・生徒に対する嫌がらせや暴行等の事象が発生し、この中には、朝鮮学校に通う女子生徒らに対する、差別言辞・言動、駅構内トイレにおける差別落書、チマ・チョゴリ(朝鮮の民族衣装)を切るなどの暴行事件など人権擁護上、看過できないものも多く見受けられた。


 警察では、被害が予想される場所における警戒強化、登下校の時間帯における警戒強化、関係機関との連携及び学校側との協力などにより、この種の事案の未然防止及び早期検挙を図った。


 この関連の事案の検挙事例としては、例えば次のようなものがある。


(a)電車内で朝鮮学校女子生徒のチマ(スカート)の腰付近を縦約13センチ、横約9センチにわたり切り取った成人被疑者1名を暴行罪及び器物毀棄罪の容疑で逮捕した。)


(b)ゲームセンターで遊戯中の朝鮮学校男子生徒を手挙で殴打し、傷害を負わせた少年被疑者1名を傷害罪の容疑で検挙した。


 また、平成10年8月の北朝鮮によるミサイル発射後、同年末までに被害届により警察は朝鮮学校又はその生徒に対する嫌がらせ事案を6件認知した。この6件は、登校中の女子生徒が列車内でランドセル鞄を切られた事案(東京)、登校中の男子生徒が腹部を殴られた事案(東京)、登校中の女子生徒が髪の毛を引っ張られた事案(愛知)、下校中の女子生徒が駅構内でナイフで手を切られた事案(東京)、及び大阪、岐阜の朝鮮学校外壁に落書きされた事案であり、必要な調査を行っているところである。


 法務省の人権擁護機関においても、この種の事象に関する情報の収集に努めるとともに、人権侵犯の疑いのある事案については、関係者等から事情聴取を行うなど事実関係の調査を行い、こうした嫌がらせ等の事象の発生を防止するため、広く国民の間に在日朝鮮人を始めとする在日外国人の人権についての正しい認識の定着を図り、嫌がらせ等の事象の発生を根絶するよう強力な啓発活動を展開した。具体的には、差別防止を呼びかけるリーフレット等の配布や啓発ポスターの掲示、「外国人差別や嫌がらせ等の根絶」を訴える緊急街頭啓発、在日朝鮮人児童・生徒に対する嫌がらせ等の事象についての相談の呼びかけ、講演会やシンポジウム等のテーマへ「在日外国人の人権問題」の追加、等の啓発活動を実施した。


 また、上記北朝鮮のミサイル発射後の在日朝鮮人児童・生徒に対する嫌がらせ等については、法務省人権擁護局ではその情報収集及び事実関係の調査に努めると共に、当該事象の発生を根絶するため、平成10年9月10日、人権擁護局から法務局・地方法務局に対して啓発活動の取り組みの強化をするよう依命通知を出して指示した。


 具体的な取り組みとしては、在日韓国・朝鮮人児童・生徒が多数利用する通学路、利用機関等において街頭啓発を行い、事件の防止を呼びかけるリーフレットやチラシ等を配布すると共に、ポスター掲示等を行い、嫌がらせ等の防止を呼びかけている。


 また、地域によっては、直接朝鮮人学校に出向き、児童・生徒が嫌がらせ等を受けたときは、直ちに法務省の人権擁護機関に相談するよう呼びかけを行っている。


情報分野における規制等

58. 我が国においては放送法の規定により、放送事業者は、国内放送の放送の番組の編集に当たっては、公安及び善良な風俗を害しないこと、政治的に公平であること、報道は事実を曲げないですること等とされているほか、放送番組の編集の基準(番組基準)を定め、これに基づいて放送番組の編集をし、また、放送番組の適正を図るために放送番組審議機関を設置することとされている。これらの規定を通じて、各放送事業者は、放送番組が、人種差別の流布、扇動及び暴力を正当化し、もしくは助長することによって、公安及び善良な風俗を害すること等のないよう適切に放送を行うことが責務となっている。


59. また、全国の日刊新聞社は日本新聞協会を設立し、その指導精神として「新聞倫理綱領」を定め、報道・評論の自由に対し自らの節制により制約を設けることにより、報道や評論に当たって高い倫理水準を確保するよう図っている。


60. 近年普及が著しいインターネットについては、1996年2月、パソコン通信サービスを提供する事業者を会員とする電子ネットワーク協議会は、電子ネットワークを活用する上での倫理的観点からガイドラインである「電子ネットワーク運営における倫理綱領」及び「パソコン通信を利用する方へのルール&マナー集」を作成し、人種的憎悪に基づく誹謗・中傷等の倫理的な問題が生じないよう努めている。また、郵政省が1996年12月に取りまとめた研究会の報告書を受け、1997年5月、インターネットプロバイダー事業者を会員とするテレコムサービス協会が、「インターネット接続サービス等に係わる事業者の対応に関するガイドライン」を公表し、利用者が差別措置を含めた違法・有害情報の発信をしないよう利用契約で定め、違反には削除等の措置を執るなどの自主的な対応をしているところである。


扇動団体の活動の禁止

61. 人種差別撤廃条約第4条(b)は、「人種差別を助長し及び扇動する団体及び組織的宣伝活動その他のすべての宣伝活動」の禁止、並びに「このような団体又は活動への参加」を犯罪として処罰することを求めている。


 我が国には、人種差別の助長及び扇動一般を構成要件として特定の団体及び活動を禁止し、及びそれらの団体への参加を処罰する規定は現行法上存しないが、人種差別を助長し及び扇動する団体が破壊活動防止法上の暴力主義的破壊活動を行った場合には、同法により、一定の要件の下に、当該団体の活動制限及び解散指定処分並びにそれらの処分に反する個人の行為を処罰することが可能である。人種差別を助長又は扇動する団体が、破壊活動防止法所定の要件に該当するものとして、処分がなされた事例はない。


V. 第5条

裁判所、その他のすべての裁判及び審判機関

62. 国民の権利が侵害された場合には、裁判による救済を受け得るが、憲法第14条が人種等による差別を禁止するとともに、同法第32条が、「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない」と定めていることから、何人も人種、民族の差別なく平等に裁判を受ける権利が保障されている。


 また、憲法は、独立かつ公正な裁判を確保するため、裁判官に「その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」(第76条第3項)との立場を保障するとともに、裁判官の身分を保障している。憲法が保障する国民の権利が問題となっている事件の対審及び判決は公開法廷で行うこととされている(第82条)。


身体の安全及び国家による保護についての権利

63. 我が国では、次のとおり人種、民族等の差別なく、暴力や傷害に対する身体の安全及び国家による保護についての権利が保障されている。


 憲法は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、(中略)最大の尊重を必要とする。」(第13条)、「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。」(第18条)、「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」(第31条)と規定して、身体の安全を最大限尊重するとともに、第14条において平等原則を定めている。


 刑法は、騒乱罪(第106条)のほか、強姦罪(第177条)、殺人罪(第199条)、傷害罪(第204条)、暴行罪(第208条)、凶器準備集合罪(第208条の2)、逮捕監禁罪(第220条)、強盗罪(第236条)等の罪を規定しているほか、暴力行為等処罰に関する法律をはじめとする特別法においても暴力的行為に関する罪を規定し、暴力や傷害を処罰している。そして、これらの罪は、被害者が何人であるかに関係なく等しく適用されている。


64. 特に、公務員に関しては、憲法第99条が憲法尊重擁護義務を課しているほか、同法第36条において拷問を禁止しており、これを受けて、刑法が特別公務員職権濫用罪(第194条)、特別公務員暴行陵虐罪(第195条)等の罪を規定し、厳しく処罰の対象としている。


 捜査活動に関わる法執行官による刑事被疑者に対する暴行・陵虐行為等も、上記特別公務員職権濫用罪及び特別公務員暴行陵虐罪の対象となるほか、厳重な懲戒処分の対象となる。このような事件の発生は極めて稀ではあるが、法執行官に対しては、任官後、その経験に応じて各種の研修を行い、法執行官としての識見を身につけさせ、人権感覚の一層の涵養を図るとともに、職務の遂行過程においても、上司の指導・監督により、若手職員の育成の充実を図ることによって、その発生防止に厳重な注意を払っている。


 暴力や傷害による損害を被った場合の措置として、民法第709条は、相手方に対して損害賠償が請求できる旨規定しているが、特に、これらの行為が公務員によって行われた場合には、憲法第17条が「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる」と規定し、国又は公共団体の賠償義務を定めている。これに基づき、国又は公共団体の公務員が、その職務を行うことについて、故意又は過失によって、違法に他人に損害を加えたときの国家賠償責任を定めた国家賠償法が制定されている。


在日外国人の安全の確保

65. 外国人は、生活習慣等の違いから、地域住民とのコミュニケーションが希薄になりやすく、地域の安全に関する情報を得にくい立場に置かれている。


 警察では、在日外国人が犯罪等の被害に遭うことを防止するため、在日外国人向けの防犯教室の開催、外国語で書かれた防犯パンフレットの配布等により、生活の安全に関する指導を行っているほか、在日外国人のための相談窓口を設け、生活上の不安の解消に努めている。


 また、外国人からの警察への電話による通報も増加している中、通信指令室に外国語に通じた者を配置するなどの措置等を講じている。


政治的権利

参政権

国民主権

66. 主義を基本原理の一つとしている我が国憲法は、第15条第1項において公務員の選定・罷免は、国民固有の権利であるとし、同条第3項は成年者による普通選挙を保障すると定めている。また、同法第14条は人種等による差別を禁止するとともに、特に国会議員の選挙資格については第44条において人種等による差別の禁止を定めており、平等選挙が保障されている。


 公職選挙法は、憲法の精神に則り、満20歳以上の日本国民は衆議院議員及び参議院議員の選挙権を有すると規定しており(第9条第1項)、国政への選挙権は、人種、民族の差異なくすべての国民に対して与えられている。また、同法は、衆議院議員及び参議院議員については、それぞれ満25歳、満30歳以上の日本国民は被選挙権を有すると規定しており(第10条第1項)、被選挙権についても、人種、民族の差異なくすべての国民に対して与えられている。


 地方参政権については、公職選挙法及び地方自治法により、当該都道府県又は市町村に引き続き3箇月以上住所を有する満20歳以上の日本国民は、選挙権を有するとされている。また、各都道府県の知事、市町村長については、それぞれ満30歳、満25歳以上の日本国民は被選挙権を有するとされているほか、各地方議会の議員についても、当該議会議員の選挙権を有する満25歳以上の日本国民は被選挙権を有するとされており、右要件の下で人種、民族の差異なく平等に権利が与えられている。


67. なお、選挙・被選挙権については、上記のとおり憲法第15条第1項が「国民固有の権利」であると定めており、その権利の性質上、日本国民のみをその対象とし、右規定による権利の保障は外国人には及ばないと解されている。他方、外国人でも国又は地方公共団体の機関に対し、その職務に関する事項について希望・苦情・要請を申し出ることは可能である。特に、住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという地方自治の趣旨に鑑み、地方自治体の中には、我が国に在留する外国人でもその居住区域の地方公共団体と緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、その意思を公共的事務の処理に反映させるべく、外国人施策など各地方自治体の施策について審議し意見具申を行うことのできる”外国人市民代表者会議(注10)を設置したり、審議会等に外国人に対し一定枠を確保しているところもある(注11)


公務就業権

68. 我が国では、公権力の行使又は公の意思の形成への参画に携わる公務員となるためには、日本国籍を必要とする。


 その採用にあたっては、国家公務員法第27条、地方公務員法第13条において、すべて国民は、この法律の適用について、平等に取り扱われ、人種等によって差別されない旨定めており、人種、民族による差別は禁止されている。


移動、居住の権利

69. 憲法第14条が平等の原則を定めているとともに、第22条においては、すべての者に対し、公共の福祉に反しない限り、居住及び移転の自由を保障している。


出入国の権利

70. 我が国の憲法は、第14条において法の下の平等を規定しているとともに、第22条第2項においては外国移住の自由を規定していることから、日本人の出国の自由は、人種、民族の差別なく等しく保障されている。自国に戻る権利については、憲法上の明文の規定はないが、当然に保障されているものと解されている。


 出入国管理及び難民認定法では、日本人の出国又は帰国について、出国又は帰国に際しての確認の手続を規定しているが(同法第60条、61条)、これらは出国又は帰国それ自体を制限しているものではない(なお、旅券法第13条第1項各号において、犯罪にかかわっている者、日本の利益又は公安を害するおそれがある者など一般旅券の発給を制限する場合が定められている)。


71. 外国人についても、その出国の自由は、憲法第22条第2項の保障が及ぶものと解されている。出入国管理及び難民認定法は、外国人の出国に際しての確認の手続についても規定しており(第25条)、また、重大な犯罪において訴追され又は逮捕状等が発せられている等の場合については出国確認を一時留保することができる旨を規定しているが(第25条の2)、これらも外国人の出国自体を制限するものではない。


 外国人が日本に入国するためには、出入国管理及び難民認定法により、有効な旅券を所持し(乗員を除く)、旅券への査証を受けることのほか(条約等により相互に査証を免除している国の国民を除く)、一定の在留資格に該当する者であることが必要とされる(在留資格については、パラ16参照)。在留資格に該当する者でも、国の安全や公の秩序等を守るため、一定の上陸拒否事由に該当する者については上陸が認められないこととなっている(同法第5条)。ただし、上述のとおり、これらの規定の適用に当たっても、憲法第14条の趣旨に基づき、平等に取り扱っている。


国籍についての権利

72. 我が国の国籍法は、出生による国籍の取得について、第2条で規定しているが、同条は「子は、次の場合には、日本国民とする。」として、第1号で、「出生の時に父又は母が日本国民であるとき。」、第2号で、「出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であったとき。」、第3号として、「日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。」としている。また、届出による国籍の取得について、同法第3条及び第17条第1項、第2項等に規定されているが、その要件は、例えば第3条にあっては、(i)準正により嫡出子たる身分を取得したこと、(ii)子が20歳未満であること、(iii)子の出生当時父又は母が日本国民であったこと等であり、また、第17条第1項にあっては、(i)国籍不留保により日本国籍を喪失したこと、(ii)20歳未満であること、(iii)日本に住所があることである。


 帰化については、同法第4条に規定され、第5条に帰化についての最低条件が規定されている。その条件は、住所条件、能力条件、素行条件、生計条件、重国籍防止条件、憲法遵守条件である。


 しかし、上記のいずれの場合も、憲法第14条の原則に基づき、人種、民族等による差別なく、これらの要件を満たす限りにおいて、平等に国籍を取得する権利が保障されている。


婚姻並びに配偶者の選択、相続及び財産についての権利

73. 憲法第24条第1項は、「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し」と定め、また、第2項は、「配偶者の選択、財産権、相続、・・・婚姻・・・に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない」と定めている。これを受けて、民法が婚姻、相続及び婚姻中の財産についての成立要件等を規定しているが、これらの権利については、憲法第14条において人種、民族等による差別が禁じられていることから、何人も等しく保障されているところである。


 また、私有財産権については、憲法第29条第1項が「財産権は、これを侵してはならない」と定めており、私有財産権についても、憲法第14条により、人種、民族等の差異なく等しく保障されている。


思想・良心及び信教の自由

74. 憲法第19条が「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」と規定し、すべての国民に対し思想及び良心の自由を保障している。また、信教の自由については、憲法第20条第1項が信教の自由は何人に対してもこれを保障する旨規定している。これらの思想・良心及び信教の自由は、憲法第14条の平等原則に基づき、すべての国民に対し人種、民族等の差異なく等しく保障されている。


 この他、教育基本法第9条第1項では、宗教に関する寛容の態度及び宗教の社会生活における地位は、教育上これを尊重しなければならない旨規定されている。


集会・結社及び表現・言論の自由

75. 憲法第14条が人種等に基づく差別を禁じているほか、憲法第21条は、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と定めており、すべての者に対し等しく集会・結社及び表現の自由を保障している。


職業選択の自由

76. 職業選択の自由につき、憲法第22条は、何人も、公共の福祉に反しない限り、職業選択の自由を有する旨規定しているほか、職業安定法第2条においても、「何人も、公共の福祉に反しない限り、職業を自由に選択することができる」ことが定められており保障されている。


77. 企業における採用の際の平等取扱いについては、同法第3条において、何人も、人種、国籍・・・等を理由として、職業紹介、職業指導等について、差別的取扱を受けることがない旨規定しており、公共職業安定所を通じて求人の申込みを行っている事業所については、公共職業安定所は、右事業所に対し、人種・民族の差別なく就職の機会均等を確保するための指導・啓発を行っている。特に、採用選考について不適正な事象を惹起し又はその恐れのある事業所に対しては、個別指導の徹底を図っている。


 また、上記以外の事業所についても、憲法(第22条第1項)及び職業安定法(第2条)が規定する職業選択の自由及び職業安定法が規定する均等待遇(同法第3条)の趣旨を踏まえて、同法第8条に基づき職業紹介、職業指導等を実施するに当たっては、公平かつ公正な採用の実現を確保すべく、公共職業安定所を通じた一般的な措置としての指導・啓発を行っている。


78. 人種、民族等の差異を理由とした採用における差別や職場での不当な取扱いについて、法務省の人権擁護機関では、人権相談所においてこれらに関する相談を受け付け解決に向けての援助をしているほか、人権侵害の疑いのある事案については、人権侵犯事件として調査を行い、その過程で関係者に人権尊重の意識を啓発することによって、具体的な人権侵害の状況を自主的に排除させたり、再発を防止させ、平等の確保に努めている。


労働条件等

79. 雇用保険法では、労働者が失業した場合に必要な給付を行うことにより、労働者の生活及び雇用の安定を図ること等を目的にしており、雇用保険制度における権利を享受するに当たり、全ての者は、雇用保険法に則して平等の取扱いを受ける。


 労働基準法、労災保険法等の労働基準関係法令は、人種、民族等による差別なく、全ての労働者に適用されている。このため、労働基準監督機関は、外国人労働者に対する労働基準関係法令の履行確保を図るため、外国人労働者についてもこれらの法令が適用されることについての周知するとともに、法令違反がある場合の是正のための措置等を事業主に対して行う指導をしている。また、全国の主要な都道府県労働基準局に外国人労働者相談コーナーを設置し、専門の相談員による相談を行っている。


労働組合の結成・加入

80. 労働組合の結成・加入については、憲法第28条が「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他団体行動をする権利は、これを保障する」と規定している。また、労働組合法第5条第2項において、労働組合の規約中に「何人も、いかなる場合においても、人種、宗教、性別、門地又は身分によって組合員たる資格を奪われないこと」が含まれなければならない旨定められている。労働組合法第3条は、労働組合法上の労働者を「職業の種類を問わず、賃金、給料、その他これに準ずる収入によって生活する者」と規定しており、人種等による制約や区別は設けられていない。このように労働組合は、上記の労働者であれば、人種、民族等の如何にかかわらず、結成・加入できる。


住 居

81. 賃貸住宅における入居者選択の際の平等取扱いに関しては、公的な住宅等の入居者資格等については、公営住宅法、住宅地区改良法、住宅・都市基盤整備公団法、地方住宅供給公社法、住宅金融公庫法等において入居者の募集方法、資格、選考につき公正な手続及び要件を定めている。


 更に、上記に掲げられた住宅の賃貸における外国人の取扱いに関しては、外国人登録法第4条1項に従い、居住地の市町村にその居住関係及び身分関係につき登録をした者については、可能な限り地域住民と同様の入居申込資格を認めるものとする旨の通達を発出し、これにより運用している。


 また、民間住宅に関しては、(社)全国賃貸住宅経営協会等の貸主団体を通じて、人種、民族等を理由に入居を制限するなどの差別的行為がないよう、家主に対する啓発を行っている。


 入居者選択の際における不当な取扱いに対しては、法務省の人権擁護機関は関係者に対する啓発等を通じて平等の確保に努めている。


公衆の健康、医療、社会保障、社会サービス

82. 公衆の健康、医療、社会保障、社会サービスについて規定する我が国の法令においては、人種差別の禁止、ないし人種間の平等を規定している。


 例えば、医師法第19条第1項及び歯科医師法第19条第1項において、医師及び歯科医師は、患者からの診察治療の求めがあった場合には、「正当な事由」なく、これを拒んではならないとされており、人種、民族等を理由として診療の拒否を行うことは禁止されている。また、助産婦についても、保健婦助産婦看護婦法第39条第1項に同様の規定が置かれており、人種、民族等を理由として助産等の拒否を行うことは禁止されている。


 また、薬剤師法第21条においては、「調剤に従事する薬剤師は、調剤の求めがあった場合には、正当な理由がなければ、これを拒んではならない。」と定められており、調剤サービスを人種、民族等を理由に断られないこととなっている。


 社会福祉の増進を図るため、保護を要する者に保護指導を行うこと等を職務とする民生委員については、民生委員法第15条においてその職務を遂行するに当たっては、人種、民族等による差別的取扱いを行ってはならないことになっている。


 児童福祉法は、すべての児童が健全に育成されるという理念の下に、保護者とともに国及び地方公共団体に児童を心身ともに健やかに育成する責任を課している。これを受けて、児童福祉施設への入所措置等児童福祉法に基づくあらゆる行政的措置は、人種、民族等による差別なしに、すべての児童に対して平等に行われている。また、児童手当、児童扶養手当については、それぞれ児童手当法、児童扶養手当法により、人種、民族等の差別なく、日本国内に住所を有する者に対して、支給されている。


 国民年金法及び国民健康保険法については、日本国内に住所を有する者であれば日本人であるか外国人であるかを問わず被保険者とされ、厚生年金保険法及び健康保険法についても適用事業所に使用される者であれば日本人・外国人を問わず被保険者とされるので人種、民族等による差別はない。


 生活保護法は、生活に困窮する国民に対し必要な保護を行うことを目的とするものであるが、日本国民を対象としており(生活保護法第1条)、法律の要件を満たす限りにおいて、無差別平等に保護が行われることを規定している(生活保護法第2条)。なお、日本国籍を有しない外国人に対しては適用されないが、生活に困窮する永住者・定住者等日本国内において日本人と同様の生活をすることが認められている外国人に対しては、行政措置として日本国民と同一の要件の下に同様の保護(生活扶助、教育扶助、住宅扶助、医療扶助、出産扶助、失業扶助、葬祭扶助)を実施している(1997年度の被保護外国人数は、28,788人となっている。詳細は資料6参照)。


教 育

83. 我が国においては、憲法は、第14条第1項で、人種等による差別なく、法の下において国民がすべて平等であるとの基本原則を掲げ、更に第26条第1項ですべての国民は、法律で定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する旨規定している。この規定を受けて、教育基本法は、第3条において、すべての国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであって、人種等によって教育上差別されない旨規定し、教育の機会均等の原則を明示している。この規定は公立のみならず私立学校についても適用されるものである。政府としては、教育関連法令の下で行われる学校等における教育活動について、憲法及び教育基本法の理念の下に、人種、民族等に対する差別のない、全ての者に対する教育の機会均等の実現を指導・啓発している。


 また、教育基本法第3条第1項は、すべて国民は、人種等によって教育上差別されないと規定しており、私立学校も含め全ての教員は、中立・公平性をもって教育に従事するとともに、学生・生徒等に対し平等な取扱いをすることが求められており、政府としては、適切な指導の徹底を図っている。


84. 我が国では、満6歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満15歳に達した日の属する学年の終わりまでの児童・生徒(又は子女)は、小学校及び中学校に就学することとされている。我が国に居住する外国人児童・生徒(又は子女)については、就学義務は課されていないが、我が国の学校教育を受けることを希望する場合には、公立の義務教育諸学校に受け入れることとしている。高等学校についても、学校教育法の下、中学校若しくはこれに準ずる学校を卒業した者若しくは中等教育学校の前期課程を修了した者又は監督庁の定めるところによりこれと同等以上の学力があると認められた者は、すべて人種、国籍等いかなる差別もなく、入学資格が認められている。


 また、公立の義務教育諸学校への入学を希望する外国人子女が機会を逸することのないよう、就学年齢相当の外国人子女の保護者に対して、市町村教育委員会より就学案内を発給している。


 なお、外国人子女が我が国の公立の小・中学校へ就学した後の取扱いは、無償教育など日本人児童・生徒の場合と同様に取り扱うこととしている。その具体例としては、(1)授業料不徴収、(2)教科書の無償給与、(3)就学援助措置の対象とすること、(4)災害共済給付の対象とすること、(5)上級学校への入学資格の付与、等がある。


 また、学校教育法第1条に規定する学校に通う在日外国人に対し、課外において、当該国の言葉や文化を学習する機会を提供することは従来から差し支えないこととされており、実際にも幾つかの地方公共団体においてそのような学習機会が提供されている。


 インターナショナル・スクールなどの外国人学校は、そのほとんどが各種学校として都道府県知事の認可を受けているところであり、その自主性は尊重されている。


文化的な活動

85. 我が国憲法第13条「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」、第14条第1項の法の下の平等原則、第25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」(同第1項)、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」(同第2項)との諸規定により、文化的活動への平等な参加が保障されている。政府及び地方公共団体では、人種、民族等による差別なく、すべての人にスポーツ・文化活動等の機会を提供するために各種事業を実施している。


公衆の使用を目的とする場所又はサービス

86. ホテル、飲食店、喫茶店及び劇場の利用における平等な取扱いについては、利用者又は消費者の利益の擁護を図るため、環境衛生関係営業の運営の適正化に関する法律に基づき、(財)環境衛生営業指導センターにおける苦情処理体制の整備等の措置が講じられているほか、特にホテルについては、旅館業法上、特定の人種・民族であることのみを理由として宿泊を拒むことは認められていない上、国際観光ホテル整備法施行規則上、登録ホテルにおいて提供するサービスについて、人種、民族等による差別的取扱いをすることが、禁止されている。


87. また、運送機関の利用における平等取扱いについては、陸上輸送機関に関しては、鉄道営業法、鉄道事業法、道路運送法、貨物自動車運送事業法、貨物運送取扱事業法において、海上輸送機関に関しては、海上運送法、港湾運送事業法において、航空輸送機関に関しては、航空法において、それぞれ特定の利用者に対する不当な差別的取扱いが禁止され、また、法律ごとに制度は異なるが、例えば特定の利用客に対して差別的取扱いをする業者による運賃及び料金認可申請を認可しない、あるいは運送が公序良俗に反する等以外の場合には運送を拒絶してはならない等の規定がおかれている。


VII. 第7条

107. 人種的偏見や差別をなくすためには、法制度面の整備のみならず、国民一人一人の人権に対する意識の向上が重要である。政府では、従来より人権教育の充実に努めるとともに、人権擁護に向けたさまざまな啓発活動を行ってきたところであるが、この条約の締結、更には、国連において1995年以後の10年間が「人権教育のための国連10年」と定められたのを契機に、より一層この分野での施策の充実に努めていくこととしている。


 また、1996年12月に制定された人権擁護施策推進法(パラ42.参照)に基づき、1997年3月より、法務大臣、文部大臣及び総務庁長官の諮問に応じ、人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項等を調査審議するため、人権擁護推進審議会が設置されている。


教育及び教授

108. 学校において児童生徒に基本的人権尊重の精神を正しく身につけさせるとともに、異なる人種、民族について理解を深め人種・民族に対する差別や偏見をなくすことは重要であるとの認識にたち、小学校、中学校、高等学校においては、学校の教育活動の全体を通じて人権尊重に関する内容を指導するとともに、諸外国の人々の生活や文化を尊重し、理解を深めるための国際理解教育の推進を図っている。特に、社会科や道徳などにおいて、児童生徒の発達段階に即しながら、人権に関する国際法の意義と役割、基本的人権の尊重について指導している。


 更に、大学又は短期大学においては、授業科目のうち特に人文科学・社会科学等の分野において、人権に関する学生の知識と理解が深められている。社会教育においては、地域住民の最も身近な学習施設である公民館をはじめとする社会教育施設などにおいて、地域の実情や学習者のニーズに応じ、多様で高度な学習機会を提供する事業を実施する市町村に対し財政的支援を行っており、現代社会の重要な学習課題である人権や国際理解に関する学級、講座などにおいて多様な学習活動が行われている。


109. 広く国民の間に人権尊重思想の普及高揚を図るため、人権擁護関係職員と人権擁護委員は、一体となって啓発に努めている。具体的にはシンポジウム・講演会・座談会・討論会・映画会などの開催、各種イベントへの参加、テレビ・ラジオ・有線放送などによる放送、新聞発表、広報紙への掲載、パンフレット、リーフレットなどの印刷物の配布、ポスター・懸垂幕・横断幕・立看板の掲示・広報車による巡回、作品展示会などのいろいろな方法が採られている。


 大規模な行事としては、法務省、文部省、総務庁、開催地自治体等の共催により、毎年全国から3会場を選定して人権に関するシンポジウムの開催、各種啓発資料展、啓発映画の上映などの啓発活動とコンサートや地方の郷土芸能の披露などの文化活動とを一体的・総合的に行う「人権啓発フェスティバル事業」を開催している。この事業は、より多くの人々の参加を確保し、人権尊重思想の普及・高揚を図ることを目的とするものであり、平成10年度は同フェスティバルの統一テーマを「考えよう あなたの人権 私の人権」と定め、3会場で開催し、合わせて7万9000人を超える人々が参加した。


 そして、毎年12月10日の「人権デー」を最終日とする1週間を「人権週間」と名付け、全国的な規模で啓発活動を行っている。


 1998年は世界人権宣言が国連で採択されてから50周年を迎え、また、我が国の人権擁護委員制度も創設50周年を迎えた。そこで、1998年9月25日開催の閣議において、法務大臣及び外務大臣から、世界人権宣言50周年と人権擁護委員制度50周年を記念し、1998年12月を「世界人権宣言50周年・人権擁護委員制度50周年記念月間」とし、国民をあげて世界人権宣言及び人権擁護委員制度の意義と重要性を再認識すると共に、「人権教育のための国連10年」国内行動計画(1997年7月4日策定)に沿って、基本的人権尊重のための教育及び啓発に対する取組の強化を図ることを目的に、各種記念行事を実施する旨の報告を行った。


 以上により、法務省及び全国人権擁護委員連合会は、1998年度は、これまでの人権週間(12月4日~10日)の取組に替えて、12月の同月間中、その強調事項の一つに、「国際化時代にふさわしい人権意識を育てよう」を掲げ、国民の全てが国内・国外を問わず、人種差別や外国人差別問題を始めとするあらゆる人権問題について理解と認識を深めることを目標として、啓発活動を実施した。(資料8参照)


 また、全国人権擁護委員連合会では、人権擁護委員法が施行された日(1949年6月1日)を記念して、毎年6月1日を人権擁護委員の日と定め、人権擁護委員制度の周知と人権尊重思想の普及・高揚のため、全国的な啓発活動を行っている。


人権教育のための国連10年

110. 我が国は、1997年7月、「人権教育のための国連10年」国内行動計画を公表した。同計画では、人権という普遍的文化を構築することを目的に、あらゆる場を通じて訓練・研修、広報、情報提供努力を積極的に行うことを目標とし、人種差別撤廃条約の趣旨も踏まえ、人権教育が人権尊重思想の普及高揚の観点から非常に重要であるとの認識に立った人権啓発活動をより一層積極的に推進していくこととしている。特に、同計画では、アイヌの人々の人権の尊重及び外国人に対する偏見・差別の除去を重要課題の中に含め、人権教育の推進に取り組んでいくこととしている。


文化

アイヌ文化

111. アイヌ文化については、北海道庁が進めているウタリ福祉対策を通じて文化の振興を推進してきたほか、法務省の人権擁護機関では、「アイヌの人々と人権」と題した人権啓発資料を作成配布し、アイヌの人々への理解の促進につとめている。ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会の報告書(第1条参照)では、(a)アイヌに関する総合的かつ実践的な研究の推進、(b)アイヌ語をも含むアイヌ文化の振興、(c)伝統的生活空間の再生、(d)理解の促進を柱とした、アイヌ語や伝統文化の保存振興及びアイヌの人々に対する理解の促進等のため、今後可能な限り立法措置を含め特段の措置を講じること等が望ましい旨述べている。政府は、この報告書を尊重し、1997年5月に「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」を制定し、同法に基づきアイヌ文化の振興に努めている。


国際文化交流

112. 我が国では、社会の国際化に伴い、民族や文化の違いを越えて互いの価値観を尊重し共存し合うために、国民の意識を開かれたものとし、異なる人種や民族との相互理解の増進を図ることが、重要な課題となっている。


 政府では、このような認識の下、学術、芸術、青少年及び留学生交流等あらゆる分野・レベルにおいて諸外国との人物交流及び各種文化紹介事業を積極的に実施しており、特に、将来を担っていく青少年の交流については、これを重視、促進するとともに、留学生の受け入れや、諸外国の学校との交流の拡充に努めている。また、地方自治体では、地域における国際理解学習、交流事業を促進するための事業を実施しており、これに対し政府は財政的支援を行っている。


広 報

113. 政府は、従来より世界人権宣言等をはじめ人権に関する国連諸条約のパンフレットを作成配布している。この条約の締結後には、外務省において、新たにこの条約作成の経緯、条約全文、人種差別の撤廃のための国連宣言等を掲載したパンフレットを10万部作成し、関係省庁、地方自治体、全国の警察署、公立図書館等関係各機関、NGO他希望者等に随時配布している。この他、政府の広報誌、ラジオ番組、講演会等を通じて、この条約の意義、内容等の普及に努めている。なお、この条約の主な内容については、インターネットを通じた情報提供も行っている。


 また、法務省の人権擁護機関においても、条約の趣旨や成立の経緯について記したリーフレットを16万部作成し、全国の法務局・地方法務局を通じて地方自治体等に配布したほか、講演会やシンポジウム等の機会においても広く一般に配布している。


 この報告については、関係省庁に配布するとともに、公衆が広く利用できるように希望に応じて配布する予定である。


(注1) 本報告において、外国人の扱いについて特に取り上げているが、このことは我が国が国籍に基づく区別を本条約の対象と見なしていることを意味するものではない。


(注2) 因みに、これまで日本国へ帰化した者の数は、1998年末現在、301,828人であるが、これらの者のうち、帰化後に死亡した者の数等については正確な数を把握することが困難であるので、現在、帰化した者が日本の人口のどの程度の割合を占めるかについては、必ずしも明確でない。


(注3) 「和人」とは、アイヌ以外の日本人という意味で用いている。


(注4) この調査では、「アイヌ」とは、「地域社会でアイヌの血を受け継いでいると思われる者、また、婚姻・養子縁組によりそれらの者と同一の生計を営んでいる者」としている。ただし、アイヌの血を受け継いでいると思われる者であっても、アイヌであることを拒否している場合は調査の対象としていない。なお、「アイヌ」は「ウタリ」と呼ばれる場合もあるが、アイヌ語で「アイヌ」とは「人間」を、「ウタリ」とは「同胞」を意味する。


(注5) 外国人は、本邦入国後90日以内(本邦で出生した場合などは60日以内)に居住地のある市区町村長に登録し、出国、帰化、死亡などにより登録閉鎖される。入国後90日以内に出国する場合などには登録しない場合が多い。


(注6) 「興行」とは演劇、演芸、演奏、スポーツ等の興行に係る活動又はその他の芸能活動。「技術」とは理学、工学その他の自然科学の分野に属する技術又は知識を要する業務に従事する活動。「技能」とは産業上の特殊な分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する活動。「教育」とは本邦の小学校、中学校、高等学校、専修学校等又はこれに準ずる教育機関において語学教育その他の教育をする活動。「宗教」とは外国の宗教団体により本邦に派遣された宗教家の行う布教その他の宗教上の活動。


(注7) 日本国と大韓民国との間の諸懸案を解決して両国の国交を正常化するために締結された。「日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約」(昭和40年条約第25号)と同時に成立した協定で、在日韓国人の永住、教育、生活保護、国民健康保険、財産携行、送金等について定めている。


(注8) 「各種学校」とは学校教育法第1条に定める学校以外のもので、学校教育に類する教育を行うものをいう。ただし、専修学校及び他の法律に特別の規定がある職業能力開発校等を除く。


(注9) 「高等学校」とは、学校教育法第1条に規定する学校のうち、中学校における教育の基礎の上に、心身の発達に応じて、高等普通教育及び専門教育を施すことを目的とする教育機関であり、同法第43条及び同法施行規則第57条の2に規定に基づき文部大臣が告示する学習指導要領に基づいて教育課程を編成するものとされている。


(注10) 1996年神奈川県川崎市が、条例により設置した制度。同会議の代表者は、年齢18歳以上、1年以上市内に外国人登録していること等が条件で26人で構成される。同代表者会議は、広く外国人市民に係る事項について調査審議し、その結果を市長へ報告し、又は、意見具申ができることとなっている。報告又は意見は、市の機関を法的に拘束することはないが、市の機関はそれらを尊重することが求められている。この他、東京都でも、外国人が地域社会の一員として行政に参画する機会と仕組みを整えていくため、1997年に「外国人都民会議」を創設した。


(注11) 大阪府、大阪市、神奈川県では、外国人に係わる諸課題及びその方策について幅広く意見を求めるため、メンバーの半数が外国人から構成される在日外国人問題に関する有識者会議を設置している。移動、居住の自由