国選弁護、被疑者弁護援助、当番弁護士に関する取り組み(日弁連刑事弁護センター・国選弁護本部)
日弁連刑事弁護センター
1:発足の経過
日弁連刑事弁護センターは、1990年、絶望的とまで評された日本の刑事手続を抜本的に改革するために設立されました。刑事弁護人の現場での力を結集して当番弁護士制度の全国実施を推進し、その実績を裏付けとして、被疑者国選弁護制度を実現し、現在、各地の弁護士会と連繋して、これを担っています。
また、被疑者国選弁護制度の対象外となっている領域において、刑事被疑者援助制度を実施しています。
2:活動の概要
日弁連刑事弁護センターは、被疑者・被告人の権利保障のために、前記のような刑事手続の改革・改善、刑事弁護態勢の人的・物的充実及び刑事弁護技術の向上を目指して、情報の提供、調査研究、様々な研修を行うほか、改革のための運動を展開しています。
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- すべての身体拘束事件を対象とする国費による被疑者弁護制度の実現に向けた活動
- 会員への情報提供(量刑データベースに関する検討,抗うつ薬SSRI・SNRIによる副作用に関連すると疑われる刑事・少年事件に関する調査・分析等)
- 冤罪事件再発防止のための弁護活動についての検討
- 被疑者弁護における制度改革の検討
- 法廷通訳問題に関する検討
要通訳事件における捜査弁護の手引き―通訳人と弁護人のより良い協働のための留意点―(PDFファイル;240KB)
- 当番弁護士制度改善に向けた各地の検討状況の集約・報告
- 各地で問題となっている実務的諸問題の情報収集
国選弁護本部
1:発足の経過
被疑者国選弁護及び裁判員裁判を担う弁護士の確保などの対応態勢の確立方策等を検討するため、2007年に「国選弁護対応態勢確立推進本部」が設置され、2009年5月21日の被疑者国選弁護の対象拡大に向けた対応態勢の検討を中心に、国選弁護に関わる様々な検討を行ってきました。その後も被疑者国選の対応態勢の整備が概ね順調に進んでいることから、2011年4月からは、名称を「国選弁護本部」と改め、すべての身体拘束事件を対象とする国費による被疑者弁護制度の実現に向けた活動等を行っていきます。
2:活動概要
国選弁護本部では、被疑者国選弁護制度の充実とさらなる拡大に向けて、対応態勢や手続等に関する検討を行っています。
(1)各地の被疑者国選弁護制度の対応態勢に関する検討
(2)国選弁護報酬の改善
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- 基本方針
※国選弁護報酬改善の基本方針(2007年8月23日付け) - 重大案件に関する国選弁護報酬基準の改善
※重大案件に関する国選弁護報酬基準の改善要望書(2008年6月20日付け) - 当事者による鑑定費用に関する検討
※当事者による鑑定費用に関する要望書(2010年12月17日付け)
- 基本方針
(3)国選弁護制度における手続き等の改革
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- 被疑者国選弁護人の複数選任制度に関する検討
※被疑者国選弁護人の複数選任制度に関する意見書(2011年2月18日付け) - 検察官請求予定証拠、訴訟書類及び証拠物の写しの交付に関する検討
※刑事訴訟法第299条第1項等の改正に関する提言(2009年2月20日付け)
※訴訟に関する書類及び証拠物の写しの交付に関する意見書(2010年7月16日付け)
- 被疑者国選弁護人の複数選任制度に関する検討
(4)すべての身体拘束事件を対象とする国費による被疑者弁護制度に向けた検討
刑事弁護に関わる各制度のご紹介
以下では、市民の皆さんの関心が高い国選弁護制度および当番弁護士制度等についてご紹介します。
1:国選弁護制度
国選弁護制度とは、刑事事件の被告人(起訴された人)及び被疑者(刑事事件で勾留された人)が、貧困等の理由で自ら弁護人を選任できない場合に、本人の請求又は法律の規定により、裁判所、裁判長又は裁判官が弁護人を選任する制度です。
被疑者国選弁護制度
2006年9月以前は、被告人のみに国選弁護人が付されていましたが、2006年10月から、被疑者国選弁護制度の第一段階が実施されました。しかし、その対象は、被疑者に勾留状が発せられている場合における「死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮にあたる事件」に限られていました。その後、2009年5月から実施された第二段階では、対象事件が「死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮にあたる事件」に拡大され、2018年6月からは第三段階として、対象事件が「被疑者が勾留されている全事件」に拡大されました。なお、いずれも、被疑者が貧困その他の事由により弁護人を選任することができず、かつ、その被疑者から請求があった場合に使える制度です。
被告人国選弁護制度
起訴された後に、被告人が貧困その他の事由により弁護人を選任することができない場合には、本人の請求又は法律の規定により、裁判所、裁判長又は裁判官が弁護人を選任する制度です。
2:私選弁護人選任申出制度
刑事訴訟法第36条の3第1項及び第37条の3第2項により、国選弁護人の選任手続に「弁護士会に対する私選弁護人選任の申出」が組み込まれており、資力基準以上の被疑者及び必要的弁護事件以外の被告人は、予め弁護士会に私選弁護人選任申出をすることが必須となっています。
3:当番弁護士制度
当番弁護士制度は、1990年、被疑者段階の国選弁護制度がない中で、被疑者弁護の充実化と被疑者国選弁護制度創設の足がかりとして、弁護士会が独自に始めた制度です。
当番弁護士制度は、各地の弁護士会が運営主体となり、毎日担当の当番を決め、被疑者等からの依頼により、被疑者の留置・勾留されている場所に弁護士が出向き、無料で、面会の上、相談に応じる制度です。
なお、当番弁護士制度に刑事訴訟法が規定した私選弁護人選任申出制度の機能を併せ持たせて一元化している弁護士会や、私選弁護人紹介制度のみで対応している弁護士会などもありますので、詳細は各弁護士会へお問い合わせください。
当番弁護士制度のあらまし
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費用
初回の接見費用や外国人被疑者のための初回通訳費用などは、被疑者に負担を求めることなく、弁護士会が負担して制度を運営しています。 -
受任
被疑者は、当番弁護士と接見した後、引き続き弁護人(私選弁護人)として依頼することができます。 -
被疑者国選弁護制度および刑事被疑者弁護援助事業
多くの犯罪に関しては、被疑者が貧困その他の事由により私選弁護人を選任できない場合には、国の費用で弁護人が付されます。
それ以外の場合は、私選弁護人を依頼することとなりますが、一定の要件を満たす場合には、日本弁護士連合会が日本司法支援センターに委託して実施する「刑事被疑者弁護援助事業」により、弁護費用について援助を受けることができます。
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費用
当番弁護士の派遣の仕組みと運用状況
(注)弁護士会ごとに、実情に応じた運営を行っているため、一般的な形態をまとめました。運営形態については、各弁護士会にお問い合わせください。
当番弁護士への出動要請の連絡まで
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- 被疑者(依頼者)からの当番弁護士派遣依頼は、弁護士会の受付電話に入ります。依頼は被疑者本人のほかご家族・ご友人からのものでも受け付けています。
※休日等は、留守番電話に吹き込んでもらうことになります。
※被疑者本人の場合は、逮捕後に裁判官のところに連れていかれたときに(勾留質問)、裁判官から当番弁護士のことを知らされて、裁判所を通して弁護士会に依頼することが一番多いのですが、逮捕後に連れていかれた警察から弁護士会に連絡して依頼することもできます。
- 弁護士会は、派遣依頼を受けたら、その日の担当となっている弁護士に出動要請の連絡をします。
※休日等は、担当日の弁護士が、留守番電話を聞いて接見に向かいます。休日明けに接見に向かうところもあります。
- 被疑者(依頼者)からの当番弁護士派遣依頼は、弁護士会の受付電話に入ります。依頼は被疑者本人のほかご家族・ご友人からのものでも受け付けています。
当番弁護士の主な活動内容
- 出動要請の連絡を受けて、接見に向かいます。可能な限り当日に接見しています(通訳人を要する場合や遠隔地の場合など翌日以降となる場合もあります)。
- 被疑者と接見をします。
- 1)自己紹介をし、当番弁護士の意味を説明します。
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- いつ、どこからの連絡で来たか。
- 被疑者本人からの依頼でない場合、誰からの依頼か。
- この接見の費用は無料であること。
- 被疑者の味方であり、秘密を厳守すること。
- 被疑者の相談にのり、法的助言を行うこと。
- 2)依頼の趣旨を聞きます。
- 3)被疑事実とそれに関する被疑者の言い分を聞きます。
- 4)逮捕状況とその後の取調べ状況を聞きます。
- 5)刑事手続の概要を説明します。
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- 身体拘束期間と被疑者の現在の位置、警察官・検察官・裁判官の違い
- 保釈はいつから可能なのか、その見通しはどうなのか等。
- 罰金のある犯罪なのか、執行猶予の要件はあるのか等。
- 6)供述調書と黙秘権について説明します。
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- 供述調書の重要性
- 黙秘権があること
- 身に覚えのないことは、絶対認めないこと
- 供述調書に署名指印を求められた時に注意する点
- 7)弁護人依頼権と弁護人の役割を説明します。
- 8)罪名・資力等により、被疑者国選弁護制度もしくは「刑事被疑者弁護援助事業」を説明します。
- 9)以上の説明をした上で、改めて弁護士を選任する意思があるかどうかを確認します。
- 接見終了後
被疑者が弁護人選任を希望した場合には、私選弁護人として活動を開始します。