日本法令の国際発信に向けた将来ビジョン会議の取りまとめに対する会長声明

法務省に設置された、有識者による「日本法令の国際発信に向けた将来ビジョン会議」(以下「将来ビジョン会議」という。)が、この度、法令の国際発信に関する取りまとめを公表した。本取りまとめは、日本法令の国際発信というプロジェクトの理念・目的について、日本法令を国際社会や国内の外国人に向けて適切に発信することに高い意義がある旨を指摘した上で、基本的ビジョンとして、これまでの法務省における法令外国語訳整備プロジェクトにおける経験の蓄積や、民間の知見、技術の進展等を有効に活用して、更に充実した魅力あるサービスの実現を目指すべきであるとしている。日本企業による国際取引、対日投資の拡大、滞日外国人の増加等、昨今の更なる国際化の進展に鑑みれば、法令翻訳とその国際発信については、これまで以上の推進やサービスの向上が急務となっており、当連合会は本取りまとめによる取組を歓迎するものである。また、将来ビジョン会議の設置を受けて当連合会が公表した「日本法令の国際発信に向けた将来ビジョンに関する意見書」(2019年1月18日付け)と同様の方向を志向しているといえるであろう。


本取りまとめは、優先的に取り組むべきコンテンツ拡充のための方策として、翻訳工程を見直し、翻訳を要する重要法令の選定や進捗等をユーザー目線でチェックする官民協働の会議体の設置や、新法や改正法のコンパクトな概要情報の公表を進めること等を挙げ、優先的に取り組むべき利用サービスの改善として、利用ガイダンス情報や質問対応機能、更新予定情報や関連・付随情報の提供等を挙げている。さらに、これまでの政府主導の法令外国語訳整備プロジェクトで蓄積された情報を民間に開放し、民間による商業ベースでの独自のサービス展開を促したり、産学官の相互連携や、海外機関との協働を行うこと等についても言及がなされている。


これらの方策は、外国弁護士等の専門家にとどまらない幅広い法令外国語情報の利用者の視点に立ったものであり、利用者にとって迅速に入手することが期待される情報や使いやすいサービスの提供が進められることは有意義である。特に、利用者目線の推進には、司令塔となる新たな官民協働の会議体の設置が強く求められる。そして、民間の力を利用する点で、既存の方法にとらわれない発信力強化の方策を提示しており、新奇な試みと評価できる。


一方、本取りまとめでは、多言語対応、裁判例の翻訳提供及びIT、AIの活用は、継続的に更に検討していくべき課題等に位置付けられている。しかし、国際取引においてプレゼンスを増している国については、当該国の言語訳の提供が積極的に進められるべきである。また、法令の解釈に重大な影響を及ぼす主要な裁判例の翻訳について、早急に裁判所との間で連携がなされるべきである。そして、すでにAIを利用した民間の翻訳ツールが提供されており、政府においてもAI技術の活用をより積極的に検討し、試行を進めるべきである。


当連合会は、政府が本取りまとめを確実に受け止め、そこで示された提言を着実に実現していくことを期待するとともに、必要な財政的及び体制的措置を早急に図ること求めたい。


法務省による既存の法令外国語訳事業に対して、優先的に翻訳すべき法令に関する照会回答や、日本法令外国語訳推進会議構成員の推薦等を通じて協力してきた当連合会としては、引き続き法務省等の関係省庁と必要に応じ連携しながら取組を支援していく方針であり、とりわけ今後立ち上げが構想されている官民協働の会議体が設置された場合には積極的に加わり、法令の国際発信のための検討を推し進めていく所存である。


 2019年(平成31年)4月18日

             日本弁護士連合会
           会長 菊地 裕太郎