原発事故被害者の集団申立案件にかかる東京電力による原子力損害賠償紛争解決センターの和解案拒否に関する会長声明


近時、原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」という。)における原発事故被害者による集団申立案件において、センターが一律増額を認めた和解案について、東京電力ホールディングス株式会社(以下「東京電力」という。)が受諾を拒否したため、和解仲介手続が打切りとなる事例が相次いでいる。2018年に和解仲介手続が打切りとなった集団申立案件は18件で、その申立人数は約1万9000人に及ぶ。本年に入ってからも1件の集団申立案件が打切りとなっている上、係属中の集団申立案件でも、東京電力から和解案を拒否されている案件が複数報告されている。また、集団申立案件ではない個々の案件について、東京電力が和解案の受諾を拒否したために和解仲介手続が打切りとなった件数は、昨年大幅に増加し、昨年のセンターの和解成立は67.8%まで低下している。


東京電力は、集団申立案件に対する和解案を拒否する理由として、中間指針及びその追補(以下「中間指針等」という。)の存在を挙げている。しかしながら、中間指針等はあくまで最低限の基準であり、更に個々の事情・要因による増額を予定しているものであって、最低限の基準に依拠してその内容を理由に増額を認めないということは、中間指針等の趣旨に反する不合理なものである。


公平・迅速な賠償金の支払を求めてセンターに申立てを行った多数の被害者が、被害実態に見合った賠償金の支払を受けられないという事態は看過できるものではない。また、東京電力は、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(以下「機構」という。)から賠償資金の援助を受けるに当たり、自ら「和解案の尊重」を含めた「3つの誓い」を掲げているにもかかわらず、和解案拒否を繰り返している。このような東京電力の対応は、「和解案の尊重」という自らの誓いに違背するもので、機構による資金援助の前提を覆すものである。


当連合会は、かかる東京電力の対応に抗議し、自らが誓約した「和解案の尊重」の本旨に立ち戻り、不合理な和解案拒否を行わないよう求める。


さらに、国に対して、東京電力による和解案拒否を再発させないため、東京電力に適切な指導をするよう求めるとともに、センターの和解仲介案に、その内容が著しく不合理なものでない限り東京電力の応諾を義務付ける片面的裁定機能を付する立法を行うことを改めて求める。



 2019年(平成31年)3月11日

             日本弁護士連合会
           会長 菊地 裕太郎