障害基礎年金の大量支給停止問題につき適正な審査と検証等を求める会長声明

本年5月の報道を契機として、障害基礎年金受給者で2017年度に障害状態確認届(いわゆる更新手続)を行った者のうち、20歳後に障害認定された2933人が支給停止となり、また、20歳以前に障害認定された者のうち1010人につき確認保留とされ、翌年には支給停止が検討されていることが明らかとなった。


これは、2017年から、 障害年金の地域間格差を是正するため、中央一括の認定方法に改められ、日本年金機構の認定事務が従来の都道府県の事務センターから、同機構本部の障害年金センターに移管されたことから、認定医も事務局もほとんど変わったことが背景にあるということが、厚生労働大臣の国会答弁でも確認されている。そして、厚生労働大臣は、障害の状態が従前と変わっていない場合には、以前の認定医の判定を踏まえて認定するとして、上記支給停止等の見直しを行う旨の答弁を行い、現在、障害の状態につき見直しの審査が実施されている。


そもそも障害年金は、障害に基づく日常生活上の支障により経済的に不利な状況におかれる人々に対し年金支給を通じて所得保障をはかる制度であるから、障害の程度や状況に変化がない場合に、厚生労働大臣の答弁に沿って、上記の見直しがなされるべきである。


しかしながら、多数の障害基礎年金受給者が、約1年間にわたり、障害基礎年金の支給が停止され、又は、翌年には支給停止となる不安に苛まれ、経済的・精神的に不安定な地位に置かれたことは看過できない。


当連合会は、厚生労働省の障害年金の地域間格差の是正施策につき、「精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域間格差の是正に関する意見書」(2015年7月17日)を公表した。同意見書において、地域間格差の是正が図られること自体は必要であるとしながらも、障害基礎年金の所得保障としての重要性等から、格差是正の名の下に、障害基礎年金の支給抑制につながることがあってはならないと指摘してきたところである。


そこで、当連合会は、上記支給停止等の対象者に対する見直しの審査を速やかに行い、障害の状態が変わらない者が1人たりとも支給停止となることのないよう、適正な回復措置を採ることを求める。併せて、障害の状態が変わらないにもかかわらず、多数の障害基礎年金受給者が一斉に支給停止されかねない事態となった要因について、審査経過等を検証し、今後このような事態を引き起こすことのないように努めることを求めるものである。


また、中央一括の認定方法により、新規の申請者について、認定基準や審査が従前より厳格になされ、障害基礎年金の支給抑制がなされることのないよう適正な審査の実施を求めるものである。


2018年(平成30年)8月22日

日本弁護士連合会      

 会長 菊地 裕太郎