「袴田事件」第2次再審請求即時抗告審決定に対する会長声明

東京高等裁判所第8刑事部(大島隆明裁判長)は、本日、いわゆる袴田事件第2次再審請求事件(請求人袴田ひで子、有罪の判決を受けた者袴田巖)につき、検察官の即時抗告を認め、静岡地方裁判所の再審開始決定を取り消し、再審請求を棄却すると決定した(以下「本決定」という。)。


本件は、1966年(昭和41年)6月30日未明、袴田巖氏(以下「袴田氏」という。)が、当時の勤務先である味噌製造販売会社の専務宅に侵入し、一家4名を殺害し金員を強取した後、放火したとされた事件である。袴田氏は、逮捕後、1日平均12時間、最高16時間余に及ぶ過酷かつ違法な取調べにより自白したものの、第1回公判期日で否認した後、一貫して無罪を主張した。ところが、事件発生から1年2か月後に味噌醸造タンクの中から発見されたという5点の衣類が、袴田氏の犯行着衣とされて、静岡地方裁判所により死刑判決が下され、1980年(昭和55年)11月最高裁判所が上告を棄却し確定した。


第1次再審請求においては、裁判所は再審請求を認めなかったが、2014年(平成26年)3月27日、第2次再審請求審の静岡地方裁判所は、5点の衣類に関する本田克也筑波大学教授のDNA型鑑定(以下「本田鑑定」という。)及び血痕の付着した衣類を味噌漬けにする再現実験の報告書等を新規明白な証拠として認め、しかも、5点の衣類について警察によるねつ造証拠の可能性を認めて、本件について再審開始を決定し、死刑の執行停止をするとともに、これ以上拘置を続けることは耐え難いほど正義に反するとして、拘置の執行停止も認めたことで、袴田氏は47年7か月ぶりに釈放された。


しかし、検察官は即時抗告を申し立てた。即時抗告審では、原審で高く評価された本田鑑定の鑑定手法の有効性、開示された録音テープにより明らかになった袴田氏に対する違法な取調べの実態などが重要な争点となった。

本決定は、原決定において明白性を認める高度の証拠価値があるとした本田鑑定及び味噌漬け再現実験報告書の証拠価値をいずれも全面的に否定し、その他の新証拠についても新旧証拠の総合判断という名において明白性を否定した上で、捜査機関が5点の衣類をねつ造した合理的な疑いは生じないとして、原決定を取り消した。


また、科学的証拠であるDNA型鑑定に対する判断を誤った上に、総合判断と言いながら、実質的には各新証拠を孤立的に評価し原決定を取り消したものであり、再審の判断に当たり鉄則というべき「疑わしい時は被告人の利益に」と明言した白鳥・財田川決定を骨抜きにしたものにほかならない。


このように本決定は、袴田氏が50年以上もの間訴えてきた無実の叫びに真摯に向き合ったとは思われず、結果的に司法の役割を放棄し、人権救済の砦たる地位を投げ捨てているとの批判を免れない。


当連合会としては、袴田氏が高齢であること、本件が死刑事件であることから、再審無罪を勝ち取るまで、引き続き全力で支援していく所存である。 




  2018年(平成30年)6月11日

日本弁護士連合会      

 会長 菊地 裕太郎