最低賃金額の大幅な引上げを求める会長声明

 

中央最低賃金審議会は、本年7月頃、厚生労働大臣に対し、2018年度地域別最低賃金額改定の目安についての答申を行う予定である。昨年、同審議会は、全国加重平均25円の引上げ(全国加重平均848円)を答申し、これに基づき各地の地域別最低賃金審議会において地域別最低賃金額が決定された。


しかし、時給848円という水準は、1日8時間、週40時間働いたとしても、月収約14万7000円、年収約177万円にしかならない。この金額では労働者が賃金だけで自らの生活を維持していくことは到底困難である。日本の最低賃金は先進諸外国の最低賃金と比較しても著しく低いことは明らかである。フランス、イギリス、ドイツの最低賃金は、日本円に換算するといずれも1000円を超えている。アメリカでも、ニューヨーク州やカリフォルニア州が15ドルへの引上げを決定したのを始め、全米各地の自治体で最低賃金大幅引上げが相次いでいる。国際的に見て日本の最低賃金の低さは際立っている。


我が国の貧困と格差の拡大は深刻な事態となっている。我が国の2015年貧困率は15.6%であり、3年前の16.1%と比べやや改善したものの、貧困ラインは年収122万円のままで変動がない。女性や若者に限らず、全世代で貧困が深刻化している状況である。働いているにもかかわらず貧困状態にある者の多数は、最低賃金付近での労働を余儀なくされており、最低賃金の低さが貧困状態からの脱出を阻止する大きな要因となっている。最低賃金の迅速かつ大幅な引上げが必要である。


最低賃金の地域間格差が依然として大きく、ますます拡大していることも見過ごすことのできない問題である。2017年の最低賃金は、最も低い高知県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県で時給737円、最も高い東京都で958円であり、221円もの開きがあった。そして、このような地域間格差は年々拡大している。地方では賃金が高い都市部での就労を求めて若者が地元を離れてしまう傾向が強く、労働力不足のために倒産する企業が相次いでいる。地域経済の活性化のためにも、最低賃金の地域間格差の縮小は喫緊の課題である。


また、審議会における審議、議事録、配布資料の公開も重要である。鳥取地方最低賃金審議会においては審理の全面公開が実現しているが、何ら問題は生じていない。中央及び各地の審議会においても、審理の公開を積極的に推進すべきである。


さらに、中央及び各地の審議会において、最低賃金の引上げが雇用や経済に与えた影響についてのしっかりとした検証作業をすべきである。科学的な検証結果に基づく検討作業の実施によって国民の信頼を得ることができるのである。


なお、最低賃金の大幅な引上げは、特に中小企業の経営に大きな影響を与えることが予想される。最低賃金の引上げが困難な中小企業のために、最低賃金の引上げを可能とするための社会保険料の減免措置や補助金制度等の構築を検討すべきである。さらに、中小企業の生産性を高めるための施策や減税措置などが有機的に組み合わされることが必要である。私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律や下請代金支払遅延等防止法をこれまで以上に積極的に運用し、中小企業とその取引先企業との間での公正な取引が確保されるようにする必要がある。


当連合会は、2011年6月16日付け「最低賃金制度の運用に関する意見書」等を公表し、毎年、最低賃金額の大幅な引上げを求める会長声明を発してきたところであり、早急に1000円に引き上げることを求めている。2020年までに全国加重平均1000円にするという政府目標を達成するためには、1年当たり50円以上の引上げが必要であるから、中央最低賃金審議会は、本年度、全国全ての地域において、少なくとも50円以上の最低賃金の引上げを答申すべきである。


上記答申がなされた後に各地の実情に応じた審議が予定されている各地の地方最低賃金審議会においても、以上のような状況を踏まえ、最低賃金額の大幅な引上げを図り、地域経済の健全な発展を促すとともに、労働者の健康で文化的な生活を確保すべきである。


2018年(平成30年)4月11日

日本弁護士連合会      

 会長 菊地 裕太郎