「消費者契約法の一部を改正する法律案の骨子」についての会長声明

消費者庁は、2018年(平成30年)2月2日、自民党消費者問題調査会において、「消費者契約法の一部を改正する法律案の骨子」(以下「本骨子」という。)を報告し、消費者契約法の改正法律案の概要が明らかになった。これは2017年(平成29年)8月の内閣府消費者委員会答申(以下「本答申」という。)を受けたものであるところ、本答申の立法作業が着実に進んでいることについては当連合会としても高く評価するものであり、引き続き消費者庁等において鋭意検討が進められ、一日も早く多発する消費者被害の救済に資するよう改正法律案の閣議決定を始めとする同法の改正手続が早急に進められることを望むものである。  


一方、本骨子が提案する改正項目の中には、本答申の趣旨を十分に踏まえたものとはいえない点も含まれている。今後、同法の改正手続を進めるに当たっては、本骨子から以下のとおり必要な修正がなされることを求める。


1 契約締結過程に関する規律における困惑類型の追加に関して、消費者が抱いている不安や勧誘者に対して恋愛感情等を抱いていることにつけ込んだ勧誘を理由とする取消権の導入が提案されているものの、本答申にはなかった消費者が「社会生活上の経験が乏しいこと」との若年者を主たる対象として念頭に置いているかのような文言が本骨子には加えられている。   


しかし、今回の消費者契約法改正は、本答申の基礎となった内閣総理大臣から消費者委員会に対する諮問でも指摘されていたように、高齢化の進展への対応が重要な課題の一つである。本取消権を含む困惑類型の追加は、このような諮問を踏まえ、消費者委員会消費者契約法専門調査会において、若年者に限らず高齢者など年齢に関係なく、消費者の不安や人間関係等につけ込んだ不当な勧誘による被害の救済を念頭に議論されてきたものである。したがって、同法の改正法案の条文に「社会生活上の経験が乏しいこと」という文言が加えられ、その結果として、とりわけ高齢者に対する霊感商法などがこの取消権の対象から除外されるとの解釈がとられることとなれば、本答申の趣旨を大きく逸脱する。よって、同法の改正法律案を取りまとめるに当たっては、「社会生活上の経験が乏しいこと」との文言は削除されるべきであり、少なくとも、高齢者が取消権の対象から除外されないことを解釈として明確にすべきである。


2 消費者契約法第9条第1号の「平均的な損害の額」に関して、本答申では消費者の立証責任を軽減するための推定規定の導入が提言されていたところ、本骨子における改正項目には含まれていない。しかし、この推定規定の導入は、「平均的な損害の額」の主張立証責任は消費者側が負うとする最高裁判決を前提としつつ、立証のために必要な資料を事業者側が保有していることが一般であることを踏まえて本答申が提案したもので、同号の規定を実効化するためには必要不可欠のものである。この推定規定を立法しないことは本答申の趣旨を大きく逸脱するものといわざるを得ず、同法の改正法律案を取りまとめるに当たっては、この推定規定の導入が含められるべきである。


3 本答申にその検討を求めることが付言され、当連合会もその導入を強く求めているにもかかわらず、高齢者や若年者等に対して年齢等による判断力不足に乗じて過大な不利益をもたらす契約をさせる、つけ込み型勧誘行為に対する取消権も本骨子においては全く提案がなされていない。高齢者や若年者の消費者被害の現状に照らせば、このつけ込み型勧誘行為に対する取消権の早急な立法も必要であり、同法の改正法律案を取りまとめるに当たっては、このつけ込み型勧誘行為に対する取消権の導入も含められるべきである。


  2018年(平成30年)2月22日

日本弁護士連合会      

 会長 中本 和洋