死刑執行に強く抗議し、改めて死刑執行を停止し、2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきであることを求める会長声明

本日、東京拘置所において2名に対して死刑が執行された。いずれも弁護人が付いて再審を請求しており、うち1名は犯行時少年であった。本年8月就任以降、上川陽子法務大臣による初の執行であり、第2次安倍内閣以降、死刑が執行されたのは、12回目で、合わせて21名になる。

犯罪により命が奪われた場合、失われた命は二度と戻ってこない。このような犯罪は決して許されるものではなく、犯罪により身内の方を亡くされた遺族の方が厳罰を望むことは、ごく自然なことであり、その心情は十分に理解できる。一方で、犯罪を犯した人の多くは、家庭、経済、教育、地域等における様々な環境や差別が一因となって犯罪に至っている。刑罰制度は、犯罪への応報であることにとどまらず、社会復帰の達成に資するものでなければならない。それが再犯の防止に役立ち、社会全体の安全に資することになる。人権を尊重する民主主義社会であろうとする我々の社会においては、犯罪被害者・遺族に対する十分な支援を行うとともに、死刑制度を含む刑罰制度全体を見直す必要がある。

我が国では、1980年代に4件(免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件)の死刑事件について再審無罪が確定しているが、2014年3月27日になされた袴田事件の再審開始決定は、誤判・えん罪の危険性が具体的・現実的であることを、改めて私たちに認識させるものであった。

死刑が生命を剥奪するという刑罰であり、国家による重大かつ深刻な人権侵害であることに政府は目を向ける必要がある。内閣府が2014年11月に実施した世論調査で、80.3%が「死刑もやむを得ない」と回答したものの、そのうち「終身刑導入なら廃止」という回答が全回答者の37.7%に上っており、死刑についての情報が十分に与えられ、死刑の代替刑も加味すれば、死刑廃止を容認する国民世論が形成可能であることを忘れてはならない。

2016年12月末日現在、法律上死刑を廃止している国は104か国、通常犯罪について死刑を廃止している国は7か国、事実上死刑を廃止している国(10年以上死刑が執行されていない国を含む。)は30か国であり、法律上及び事実上の死刑廃止国は合計141か国に上り、世界の国々の3分の2以上を占めている。このように国際社会においては死刑廃止に向かう潮流が主流であり、死刑制度を残し、現実的に死刑を執行している国は、世界の中では少数に留まっている。国連の自由権規約委員会(1993年、1998年、2008年、2014年)、拷問禁止委員会(2007年、2013年)及び人権理事会(2008年、2012年)は、死刑の執行を繰り返している日本に対し、死刑執行を停止し、死刑廃止を前向きに検討するべきであるとの勧告を出し続けている。

こうしたことから、当連合会は、2016年10月7日、第59回人権擁護大会において、「死刑廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し、日本政府に対し、日本において国連犯罪防止刑事司法会議が開催される2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきであることなどを求めてきた。

また、成育した環境の影響が非常に強い少年の犯罪について、少年に全ての責任を負わせ死刑にすることは、刑事司法の在り方として公正であるかも問われなければならない(2011年10月7日第54回人権擁護大会「罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立を求め、死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言」)。さらに、死刑に直面している者に対し、被疑者・被告人段階、再審請求段階、執行段階のいずれにおいても十分な弁護権、防御権が保障されるべきであり(同宣言)、今回の執行はこの観点からも問題の残るものである。

以上のとおり、当連合会は、本日の死刑執行に対し強く抗議するとともに、改めて死刑を廃止するまで全ての死刑執行を停止した上で、2020年までに死刑制度を廃止するよう求める次第である。

 


  2017年(平成29年)12月19日

日本弁護士連合会      

 会長 中本 和洋