参議院選挙定数配分に関する最高裁判所大法廷判決についての会長声明

2017年9月27日、最高裁判所は、2016年7月10日に実施された第24回参議院議員通常選挙(以下「本件選挙」という。)をめぐる選挙無効訴訟において、公職選挙法の選挙区選出議員の定数配分規定が本件選挙当時憲法に違反するに至っていたということはできないという「合憲」判決を言い渡した。この訴訟では、各選挙区における議員定数が選挙区人口に比例して配分されておらず、最大で3.08倍の投票価値の較差が生じていたこと等が争われていた。

振り返れば、2014年11月26日、最高裁判所は、投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったが、選挙までの間に公職選挙法が改正されなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず、憲法に違反するに至っていたということはできないとのいわゆる「違憲状態」判決を言い渡していた。

これを受けて2015年、国会は定数を「10増10減」とし、「徳島・高知」「鳥取・島根」を合区とする公職選挙法の改正をした上で、本件選挙を実施した。ところが、投票価値の不平等は緩和されたものの3.08倍の較差を残し、福井県の有権者が1票の選挙権を持つのに対し、埼玉県の有権者は僅か約0.33票分の選挙権しかないという不平等が生じていたのである。

本判決は、合憲との判断をするに際し、「具体的な選挙制度の仕組みを決定するに当たり、一定の地域の住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味する観点から、政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮すること自体が否定されるべきものであるとはいえ」ないと指摘した。これは、憲法上の要請でない都道府県別の選挙区割を優先させる結果、投票価値の平等の実現を妨げる判断であり、到底賛同できない。

まして、投票価値の平等の要請のため、都道府県単位で選挙区の定数を設定する方式を改めるなどの見直しを求めた2012年大法廷判決の言渡しから、本件選挙が実施されるまでの間には約3年9か月の時日が流れており、その間に投票価値の平等を実現することができなかった理由は見いだしがたい。

当連合会が「参議院選挙定数配分に関する最高裁判所大法廷判決についての会長声明」(2014年11月26日)で指摘したように、裁判所には、司法権の担い手としてだけでなく、憲法の最後の守り手としての役割が期待されている。違憲審査権を適切に行使して、立憲主義、法の支配を貫徹させていくのは裁判所の役目である。特に本件のように、選挙という民意を反映する民主主義の過程そのものが歪められている場合にこれを正すことは、裁判所以外にはなし得ない。本判決は、裁判所が果たすべきこの職責を十分に果たさず、国会の怠慢を容認し、民主主義の過程そのものの歪みを放置する判断と見るほかない。

2015年改正公職選挙法の附則第7条は、「平成31年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて、参議院の在り方を踏まえて、選挙区間における議員一人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得るものとする。」と定めている。最高裁判所も指摘するように、同附則には投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されているといえよう。当連合会は、国会に対し、同附則の検討を実行に移し、徹底した投票価値の平等を実現すべく、直ちに公職選挙法を改正し選挙制度の抜本的な見直しを行うよう求める。  


      

 2017年(平成29年)9月28日

             日本弁護士連合会
           会長 中本 和洋