「核兵器禁止条約」の採択に関する会長声明

本年7月7日(日本時間7日深夜)、ニューヨーク国連本部の条約交渉会議にて核兵器禁止条約が採択された。投票参加国124カ国のうち、賛成122、反対1、棄権1の圧倒的多数の賛成によるものである。

当連合会は、本年3月27日から始まった「核兵器のない世界」を国際法規範として確立することを目的とする史上初の本国連会議に注目し、6月6日付けで「『核兵器禁止条約』の早期実現を求める会長声明」を発表するとともに、NGOとして参加し、同国連会議の第二会期中の6月19日には、 当連合会の代表が発言を行った。

当連合会が1954年の第5回定期総会において、「原子力の国際管理、平和利用、原子兵器の製造、使用、実験禁止に関する宣言」を行い、1978年には当連合会独自の「核兵器使用禁止条約案」を発表し、当時のワルトハイム国連事務総長に提出するなど、核兵器禁止条約締結を求めてきた歴史を振り返るとき、今回の条約採択については、当連合会としても、高く評価し、心から歓迎する。

採択された条約には、以下のとおり、これまで当連合会が繰り返し述べてきたことが明確に取り上げられている。

1 核兵器の完全な廃絶こそ、核兵器が再び使用されない唯一の方法であるとして(前段第2段)、核兵器の使用がもたらす「壊滅的な結果に対して、人類は適切に対処できない上、その影響は国境を越え、人類の生存、環境、社会経済的な発展、世界経済、食料の安全及び現在と将来の世代の健康に重大な影響を与え、しかも、電離放射線の影響を含めて女性及び少女の健康に対し均衡を失する悪影響を及ぼす」(前段第4段)とし、その使用は、「武力紛争に適用される国際法の規則、特に国際人道法の原則及び規則に違反する」(前段第9段)ことを確認したことは、これまでの当連合会の意見と一致するものである。

2 加えて、締約国に課される法的義務としての核兵器その他核爆発装置についての禁止行為(第1条)として、「使用」だけでなく「使用の威嚇」を加えたこと、他に「開発、実験、生産、製造、その他の方法による取得・保有・貯蔵」、更には「移譲、直接・間接の受領、禁止行為の援助・奨励・勧誘、配置・配備・設置の許可」を含めて、これら全てを禁止したことは画期的である。

3 また、被爆者の声を受け入れ、「核兵器の使用又は実験によって影響を受けた自国の管轄下にある個人について、適用可能な国際人道法及び国際人権法に従い、医療をはじめリハビリテーションや心理的な支援を含めて、年齢及び性別に配慮した援助を適切に提供し、社会的・経済的に社会に包摂されるようにする」ことを締約国の義務とし(第6条第1項)、さらに、採択に当たり、「過去に核兵器またはその爆発装置の使用を行った締約国は、犠牲者の援助のために、影響を与えた他の締約国に対し、十分な援助を行う責任を有する」ことを定めたこと(第7条第6項)の意義も大きい。

当連合会は、1950年の第1回定期総会において、「地上から戦争の害悪を根絶し、平和な世界の実現を期する」と宣言して以降、繰り返し核兵器の廃絶や被爆者の援護を求め、世界の諸国間で核兵器禁止条約が締結されるよう提言してきた。

その立場からすれば、当面は締約国間の法的義務を定める本条約が、「締約国会議及び検討会議に、条約の締約国ではない国及び国際連合その他関連する国際機関、地域的機関、赤十字国際委員会、国際赤十字・赤新月社連盟、関連する非政府機関をオブザーバーとして出席するよう招請する」(第8条第5項)としたことは、今後の核兵器禁止条約の国際的な広がりと市民社会の世論形成にとって有益であると評価する。

また、このことは、日本政府が、原子爆弾の投下による被害を受けた唯一の被爆国として、積極的な役割を果たす礎となることを期待するものである。

 

  2017年(平成29年)7月10日

日本弁護士連合会      

 会長 中本 和洋