精神保健福祉法改正に関する会長声明

本年2月28日、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案(以下「本法案」という。)が今国会に提出された。

本法案は、昨年政府が設置した「相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チーム」の報告書を受けて、措置都道府県に措置入院者の退院後支援計画の作成を義務付けるものであるが、同計画の作成に関わる精神障害者支援地域協議会に警察等、医療・福祉とは関係のない機関が参加しうる制度となっている。当連合会は、昨年、神奈川県相模原市で発生した障害者支援施設における殺傷事件に関連して、措置入院制度の課題を事件の再発防止策と結び付けることは、精神障がいのある人に対する差別や社会的偏見を助長しかねないだけでなく、医療や福祉に犯罪の予防という保安的側面を背負わせ、障がいのある人に対する監視を強めることになりかねないとの懸念を表明した。そこで、この制度については、退院後支援計画が犯罪予防的な使われ方をされないよう求めるものである。

また、本法案においては、退院後支援計画に措置入院者本人の意思が考慮されるかどうかについては全く触れられていない。その上、退院後支援計画の内容等本人の個人情報に関わる事項は、本人の転居後も転居先都道府県に通知されるなどの不利益な側面があるにもかかわらず、同計画の終期又は期間の上限も明記されておらず、同計画に対する見直しや不服申立手段も講じられていない。当連合会は、これまで障害者の権利に関する条約の完全実施を求めるなど障がいのある人の権利保障を訴えてきたが、措置入院者の関与が予定されず、また、所定の手続保障が確保されない退院後支援計画には反対するものである。

さらに、本法案では、入院措置時の精神医療審査会による審査制度が新設されているが、既に行われている医療保護入院における入院届についての同審査会の審査では、入院はほぼ100%認容されており、本法案による書面審査制度を設けるだけでは措置入院者の権利擁護手段として不十分である。そこで、当連合会がこれまで求めてきたとおり、非自発的入院者については早急に国費で代理人を付すべきである。   

 

  2017年(平成29年)4月12日

日本弁護士連合会      

 会長 中本 和洋