元暴力団組員らによる裁判員への声掛け行為に関する会長談話


2016年5月10日、福岡地方裁判所小倉支部における工藤会幹部に対する殺人未遂被告事件の裁判員裁判の審理後、元工藤会系暴力団組員ら2名が裁判員に声を掛けるという事件が発生した。同事件を受けて、上記裁判員裁判においては、裁判員と補充裁判員の合計5名が辞任する事態となり、2016年5月16日に予定されていた判決期日が延期された。さらに、同支部は同年7月13日、同裁判を裁判員裁判対象事件から除外する決定をし、裁判官のみによる審理を行うこととした。

福岡地方裁判所は、2017年1月6日、上記事件について被告人である工藤会幹部の知人の元暴力団員ら2名が「あんたらの顔は覚えとるけね。」等と声を掛けた(以下「本件行為」という。)と認定し、当該2名に対し裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(以下「裁判員法」という。)違反として執行猶予付きの有罪判決を下し、同判決は確定した。

裁判員法第1条は、「国民の中から選任された裁判員が裁判官と共に刑事訴訟手続に関与することが司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資する」としている。この点、本件行為は、暴力団員を被告人とする刑事手続において、その知り合いである元暴力団員らが当該被告人に有利な判断を求めて裁判員を威迫し、公正かつ適正な司法運営を妨害し、法を蹂躙しようとしたものであり、裁判員制度の趣旨を没却し、我が国の司法制度に対する重大な挑戦行為であるといわざるを得ない。

当連合会は、裁判員制度によって、広く国民が司法に対する理解・支持を深め、司法がより強固な国民的基盤を得ることを願う。

 

  2017年(平成29年)1月24日

日本弁護士連合会      

 会長 中本 和洋