セーフティネット住宅における家賃債務保証の在り方に関する会長声明


国土交通省は、「社会資本整備審議会住宅宅地分科会 新たな住宅セーフティネット検討小委員会中間とりまとめ」(2016年7月)が、民間賃貸住宅を活用した新たな住宅セーフティネット制度の創設に伴って適正な事業者による家賃債務保証の活用と住宅確保要配慮者が保証内容に関する情報を容易に入手できる仕組みが必要であると指摘したことを受けて、2016年10月、「家賃債務保証の情報提供等に関する検討会」(以下「検討会」という。)を設置し、具体的な制度の検討を進めている。

高齢者、子育て世帯、障がい者、外国人、低所得者等の住宅確保要配慮者に対する居住の安定確保は重要な政策課題であり、そのために公的住宅のみならず民間賃貸住宅を活用することも必要である。しかし、その際には、賃借人の利益の保護を図ることが必要である。

家賃債務保証業をめぐっては、家賃滞納者に対する悪質な取立行為やいわゆる追い出し行為による被害が多発し、社会問題となったことから、当連合会は、2012年6月28日付け「賃借人居住安定化法案(追い出し屋規制法案)の制定を求める意見書」等によって、家賃債務保証業に対する法規制の実施を求めてきた。

民間賃貸住宅契約では、56%において家賃債務保証業者による機関保証が利用されている一方で、保証委託契約の内容をめぐるトラブルや悪質な取立行為や追い出し行為による被害が多発し、苦情・相談件数も高止まりしている。

このような状況を踏まえ、検討会では、家賃債務保証業の適正化として、任意の登録制度を導入し、自主的な社内規則や相談窓口等の整備を促し、事前説明や情報提供等の仕組みを講じるなどの方向性が提案されている。また、住宅確保要配慮者向けの住宅に関する支援の中で、一定の要件を満たす住宅確保要配慮者向けの専用住宅につき、保証料等を補助するとしている。

しかし、提案内容は、住宅確保要配慮者の居住権保障の観点からは、不十分である。

トラブルの現状や多くの住宅確保要配慮者が社会的に弱い立場にあることに鑑みれば、少なくとも、当連合会が繰り返し指摘してきたように、家賃債務保証業にあっては、①不当な取立行為の禁止、②義務的な登録制の導入、③家賃滞納情報提供事業の禁止などの法的規制及び規制の実効性を確保するための具体的措置の構築が不可欠である。また、住宅確保要配慮者を支援するため、公的保証の拡充及び居住支援の取組強化による雇用や社会保障におけるセーフティネットとの連携等を図るべきであり、こうした施策こそが真の意味での住宅セーフティネットの確立となる。

以上のことから、当連合会は、住宅セーフティネットにおいて民間の家賃債務保証業者を活用するに当たって、上記の法規制を整備するよう求めるものである。

 

  2016年(平成28年)12月8日

日本弁護士連合会      

 会長 中本 和洋