「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」の成立に関する会長声明


「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(以下「本法律」という。)が、本年11月18日成立した。

本法律は、現行の技能実習期間が、入国後最初の実習である第1号技能実習として1年、続いて実施される第2号技能実習として2年の合計3年を上限としているところ、更に2年を上限として実習期間を延長する第3号技能実習を制度化した。また、新たに外国人技能実習機構を設立するなど、技能実習生に対する人権侵害の防止を目的とする諸施策が盛り込まれた。政府は、本法律の施行と同時に技能実習の対象職種を介護分野等に拡大する方針である。

技能実習制度は、実態は非熟練労働者の労働力不足解消の手段として用いられているにもかかわらず、技能実習という名目上の目的ゆえに職場移転の自由が制限され、対等な労使関係を構築できないという構造的な問題を抱えており、技能実習生に対する人権侵害等が多く発生してきた。本法律はこの構造的問題を残したまま技能実習制度を存続・拡大するものであるため、当連合会は、法律案提出時の2015年4月24日付会長声明において法律案に反対の意見を述べた。

本法律の可決に当たっては、上記会長声明において当連合会が指摘した個別の問題点も踏まえて附帯決議がなされた。同附帯決議において第2号技能実習から第3号技能実習に移行する際、技能実習生の意向に基づき実習先を選択することを認めるなど、技能実習生の側に職場選択の余地を一定程度与えるべきこととされ、また強制帰国の事例を防ぐため、技能実習計画途中での帰国について原則として届出によるべきこととされたことなどは、当面の改善策として評価することができる。

しかし、附帯決議においても本法律が想定している送出し国との二国間取決めの締結については、締結に向けた努力をすることとなったままである。送出し機関による保証金の徴収の禁止などの技能実習制度を適正化するための施策の実効性を確保するためには、これらの施策を送出し国も実施することを含む二国間取決めの締結を当該国からの技能実習生受入れの条件とするべきである。また、新たに設置される外国人技能実習機構だけで人権侵害に遭った技能実習生に寄り添った在留継続の援助や被害救済を行うことは困難であり、同機構とNGOや法テラス、弁護士会などとの連携を具体化するべきである。

当連合会は、制度の構造的な問題を残したまま技能実習制度を存続・拡大させることにはなお反対であり、政府に対し、外国人の非熟練労働者を受け入れるのであれば、技能実習制度によることなく、外国人労働者の人権に十分な配慮をした新たな非熟練労働者受入れ制度を設けることの検討を求めるものである。

 

  2016年(平成28年)11月24日

日本弁護士連合会      

 会長 中本 和洋