朝鮮学校に対する補助金停止に反対する会長声明


文部科学大臣は、本年3月29日、朝鮮学校をその区域内に有する28都道府県知事宛てに、「朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について(通知)」を発出した。

同通知は、朝鮮学校について、「北朝鮮と密接な関係を有する団体である朝鮮総聯が、その教育を重要視し、教育内容、人事及び財政に影響を及ぼしている」という政府の認識を示したうえで、対象自治体の各知事に対し、大要、「朝鮮学校の運営に係る上記のような特性も考慮の上、補助金の公益性、教育振興上の効果等に関する十分な御検討と補助金の趣旨・目的に沿った適正かつ透明性のある執行の確保」を要請している。

しかし、補助金の支給権限は地方自治体にあり、その判断と責任において実施されるべきところ、同通知は、具体的な事実関係を指摘することなく、上記のような政府の一方的な認識のみを理由として、数多くある各種外国人学校のなかの朝鮮学校のみを対象として補助金交付を停止するよう促しており、事実上、地方自治体に対して朝鮮学校への補助金交付を自粛するよう要請したものと言わざるを得ない。このことは、同通知を受けて、実際に補助金の打ち切りを検討する自治体が出てきていることからも明らかである。

朝鮮学校に通学する子どもたちも、一個の人間として、また、一市民として、成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利である学習権(憲法26条第1項、同13条)を保障されている。そして、朝鮮学校は、六・三・三・四を採用し、学習指導要領に準じた教育を行っている。そもそも、朝鮮学校は、歴史的経緯から日本に定住し、日本社会の一員として生活する、朝鮮半島にルーツをもつ在日朝鮮人の子どもたちが通う学校であり、民族教育を軸に据えた学校教育を実施する場として既に一定の社会的評価が形成されてきた(大阪高裁平成26年7月8日)。

それにもかかわらず、子どもの教育を受ける権利とは何ら関係を持たない政治的理由により補助金の支給を停止することは、朝鮮学校に通学する子どもたちの学習権の侵害につながるものである。

また、朝鮮学校に通う子どもたちが、合理的な理由なく他の学校に通う子どもたちと異なる不利益な取扱いを受けることは、憲法14条などが禁止する不合理な差別的取扱いに当たり、憲法の理念を反映させた教育基本法4条1項の教育上の差別禁止の規定にも反し、我が国が批准する国際人権(自由権・社会権)規約、人種差別撤廃条約及び子どもの権利条約が禁止する差別にも相当する。2014年(平成26年)8月に採択された国連人種差別撤廃委員会による最終見解においても、朝鮮学校への補助金の不交付等の措置に対し、「朝鮮学校に対し地方自治体によって割り当てられた補助金の停止あるいは継続的な縮小を含む、在日朝鮮人の子どもの教育を受ける権利を妨げる法規定及び政府の行動について懸念する」旨の指摘がなされているところである。

当連合会は、全ての子どもたちが教育を受ける権利を平等に享受することができるよう、政府に対して、朝鮮学校に対する補助金交付の停止を、事実上、地方公共団体に要請している同通知の撤回を求め、また、地方公共団体に対しては、朝鮮学校に対する補助金の支出について上記憲法上の権利に配慮した運用を行うよう求めるものである。


 
  

 2016年(平成28年)7月29日

日本弁護士連合会
会長 中本 和洋