少年の実名・顔写真報道を受けての会長声明


昨日、最高裁判所は、2010年2月、宮城県石巻市で当時18歳7か月の少年が元交際相手の女性を連れ戻そうと女性宅に押し入り3人を殺傷したなどとして、殺人罪に問われた事件について、1審(裁判員裁判)及び2審で死刑判決を受けた元少年の上告を棄却する判決を言い渡した。これにより死刑判決が確定することとなったとして、一部の報道機関は被告人の実名及び顔写真を報道した。

これは、少年時の犯行について氏名、年齢等本人であることを推知することができるような記事又は写真の報道を禁止した少年法61条に明らかに反する事態であって、遺憾である。

凶悪重大な少年事件の背景には家庭での虐待等の不適切養育や学校・地域などをめぐる複雑な要因が存在し、少年個人のみの責任に帰する厳罰主義は妥当ではなく、少年の成長支援が保障されるべきであることから、少年法1条は「健全育成」の理念を掲げ、同法61条は、この理念に基づき、少年の更生・社会復帰を阻害することになる実名報道を、事件の重大性等に関わりなく一律に禁止している。

国際的に見ても、子どもの権利条約40条2項は、刑法を犯したとされる子どもに対する手続の全ての段階における子どものプライバシーの尊重を保障し、少年司法運営に関する国連最低基準規則(いわゆる北京ルールズ)8条も、少年のプライバシーの権利は、あらゆる段階で尊重されなければならず、原則として少年の特定に結びつきうるいかなる情報も公表してはならないとしている。

そして、上記の理念は、犯行時少年であった者が成人に達したり、死刑判決が言い渡されたりしても変わるものではない。一部の報道機関は実名を報道した理由として、死刑判決が確定した場合には少年が社会に復帰して更生する可能性がなくなったことを挙げているが、再審や恩赦制度があることから、可能性は残っている。

さらに、少年法61条の精神は、憲法13条から導かれるものであり、少年の個人としての尊厳及び幸福追求権は、少年に死刑が確定した後も失われるものではない(2007年11月21日付け「少年事件の実名・顔写真報道に関する意見書」)。

もとより、憲法21条が保障する表現の自由の重要性は改めて言うまでもないが、事件の背景・要因を報道することこそ、同種事件の再発を防止するために必要なことであり、私人である少年の実名や顔写真が、報道に不可欠な要素とはいえない。

当連合会は、2011年3月10日には、いわゆる長良川リンチ殺傷事件について、2012年2月24日には、いわゆる光市母子殺害事件について、各死刑判決を受けた実名報道に関し、報道機関に対し、以後少年法61条を遵守するよう要望した。それにも関わらず、今回もまた同じ事態が繰り返されたことは遺憾である。

当連合会は、改めて、報道機関に対し、今後、同様の実名報道及び写真掲載等を行わないよう要望する。

 
  

 2016年(平成28年)6月17日

日本弁護士連合会
 会長 中本 和洋