犯行時少年に対する死刑判決に関する会長声明

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2010年2月、宮城県石巻市で当時18歳7か月の少年が元交際相手の女性を連れ戻そうと女性宅に押し入り3人を殺傷したなどとして、殺人罪などに問われた事件の死刑判決に対する上告が、本日最高裁判所において棄却された。


この事件は、裁判員裁判による第一審判決で死刑が言い渡され、第二審も第一審を支持していた事件であるが、裁判員裁判で初めて少年に死刑を言い渡した事件であり、弁護側は「未成熟な人間性を背景にした衝動的犯行。多くの問題点があり、その審理が尽くされていない」として死刑判決の破棄を主張していた。


死刑については、死刑廃止条約が1989年12月15日の国連総会で採択され(1991年発効)、1997年4月以降、国連人権委員会(2006年国連人権理事会に改組)は「死刑廃止に関する決議」を行い、その決議の中で日本などの死刑存置国に対して「死刑に直面する者に対する権利保障を遵守するとともに、死刑の完全な廃止を視野に入れ、死刑執行の停止を考慮するよう求める」旨の呼びかけを行っている。国際人権(自由権)規約委員会は、2014年、日本政府に対し、死刑の廃止について十分に考慮すること等を勧告している。


また、死刑廃止国は着実に増加し、1990年当時、死刑存置国96か国、死刑廃止国80か国(法律で廃止している国と過去10年以上執行していない事実上の廃止国を含む。)であったのに対し、現在は、死刑存置国58か国、死刑廃止国140か国となっており、死刑廃止が国際的な潮流となっていることは明らかである。


特に少年については、1994年に我が国で発効した子どもの権利条約第6条が少年の生命に対する固有の権利及び成長発達権を保障し、同条約で引用されている少年司法運営に関する国連最低基準規則(いわゆる北京ルールズ)第2条2(a)では、少年を年齢で区別することなく、「少年とは、各国の法律制度の下において、犯罪について成人とは違った仕方で取り扱われている児童又は若者をいう」とした上で、同規則第17条2では「死刑は少年が行ったいかなる犯罪についても科してはならない」と規定している。


したがって、20歳未満を少年とする我が国の法制度の下では、犯罪時18歳未満の少年に対して死刑を科さないという現行規定(少年法第51条1項)にとどまらず、犯罪時20歳未満の少年に対しては死刑を科さないとすることが求められている。


当連合会は、死刑のない社会が望ましいことを見据えて、2011年10月7日、第54回人権擁護大会において「罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立を求め、死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言」を採択し、少年に対する死刑の適用は速やかに廃止することを検討すべきであると宣言した。


とりわけ苛酷な虐待を受けて育ったために感情のコントロールができなくなったり他者の痛みへの共感性を失ってしまうなど、成育した環境の影響を非常に強く受けて人格形成され、十分な判断力を持たない結果として生じる少年の犯罪について、少年に全ての責任を負わせ死刑にすることは、刑事司法の在り方として公正ではない。


当連合会は、本判決を契機として、改めて、政府に対し、犯行時少年に対する死刑を廃止するための抜本的な検討を求めるものである。

 
  

 2016年(平成28年)6月16日

日本弁護士連合会
会長 中本 和洋