「姫路郵便局強盗事件」差戻し決定に関する会長声明

本年3月15日、大阪高等裁判所第6刑事部は、いわゆる「姫路郵便局強盗事件」に関する再審請求棄却決定に対する即時抗告申立事件につき、原決定を取り消し、神戸地方裁判所に差し戻す決定をした。

本件は、2001年(平成13年)6月19日、兵庫県姫路市内にある郵便局に、雨合羽及び目出し帽等を着用し、模造けん銃を持った2人組の男性が押し入り、2275万円余りの現金を強奪したという事件であり、ナイジェリア人である本件即時抗告申立人(以下「申立人」という。)が実行犯の一人として逮捕・起訴された。

本件においては、犯人を特定するに足りる指紋、毛髪及び体液等の証拠物並びにこれらについてのDNA型鑑定等の鑑定結果を記載した鑑定書等の客観的証拠が多数存在するはずであるが、確定審の裁判手続では全く提出されなかった。しかも、申立人の本件への関与については、本人が一貫して否認しているのみならず、本件の実行犯であることを認めているナイジェリア人の男性も、否認していた。しかし、確定第一審の神戸地方裁判所姫路支部は、2004年(平成16年)1月9日、申立人を実行犯の一人と認定のうえ、同人に対して懲役6年の有罪判決を言い渡した。その後、控訴及び上告が棄却され、2006年(平成18年)4月25日、有罪判決が確定した。

これに対し、申立人は有罪判決確定後も無実を訴え続け、服役後の2012年(平成24年)3月2日、神戸地方裁判所姫路支部に再審請求を行った。そして、2013年(平成25年)4月以降、当連合会も本件再審請求の支援を行ってきた。

ところが、2014年(平成26年)3月28日、神戸地方裁判所姫路支部は、申立人が使用・管理していた倉庫内から被害品である現金が発見されたという事実や、申立人が購入していた自動車等が犯行に使用され、その後、それが上記倉庫内に置かれていたという事実等から、申立人が犯人であることが強く推認され、仮に実行犯である2人の男性の中に申立人が含まれていない可能性があるとしても、申立人が実行犯人ではない共犯者の一人であることの推認が妨げられることはないとして、再審請求を棄却した。申立人はこの決定を不服として、2014年(平成26年)4月3日、大阪高等裁判所に即時抗告を申し立て、2年近くにわたって審理が続けられてきた。本決定は、「原裁判所が、申立人の実行共同正犯以外の共犯を含めた犯人性について、何ら争点を顕在化するための措置を講じず、当事者に主張、立証の機会を与えなかったことは、刑事訴訟規則286条の趣旨等に照らし、申立人に不意打ちを与え、申立人の防御権を侵害する違法なもの」とした。そして、原裁判所の上記推認については「事実上も、第三者が申立人に無断で本件倉庫に物品を持ち込み、隠匿することや証拠隠滅の作業をすることがない管理状態であったことが前提となるはずであり、申立人の管理権限そのものを基礎に……強力な推認力を認めるのは相当ではなく、論理則、経験則に反している。……申立人の関与なしに、申立人以外の者が本件倉庫に立ち入り、本件倉庫内での物品の隠匿や毀棄等の行為ができたかという点に関して、弁護人から提出された証拠の信用性等を検討して初めて評価できるが、前記のとおり原決定はこの点について検討しておらず、審理が尽くされているとはいえない。」として原決定を取り消し、差し戻した。

本決定は、原裁判所の訴訟指揮を違法と断じ、原決定の事実推認過程を否定して、原決定を維持しなかった点においては評価できる。

しかし、「確定判決において認定された実行犯人性ではなく、他の共犯形態による申立人の犯人性が認められることを理由として、再審請求を棄却することが許される場合もあると解され、そのような原決定の判断理論それ自体に誤りはない。」との判示には大いに問題がある。再審請求審の審理対象は、あくまで確定判決において認定された申立人の実行犯人性であり、それ以外の犯人性を審理対象とすることはそもそも許されない。確定審や再審開始後の手続では訴因変更が必要とされる場合であるにもかかわらず、再審請求審ではそれが不要という論理は理解困難である。実際にも、この決定の論理では何らかの形で複数名が関与している事件では再審請求のためには常に共犯の可能性をも否定しなければならないことになりかねず、不当である。確定判決の認定した申立人の実行犯人性につき合理的な疑いが生じている本件においては、即時に再審が開始されるべきであった。

当連合会は、差戻し審において、検察官手持ち証拠の開示等必要かつ十分な証拠が開示され、充実した審理が行われた上で、再審開始が決定されることを求める。

当連合会は、今後も申立人が再審無罪判決を勝ち取るまで、あらゆる支援を惜しまないことをここに表明する。
 

 

2016年(平成28年)3月16日

日本弁護士連合会

会長 村 越   進