国家戦略特別区域における外国人家事支援人材の受入れに関する会長声明

 

政府は、2014年10月31日、国家戦略特別区域において、家事支援サービスを提供する企業に雇用される外国人家事支援人材の受入れを含む国家戦略特別区域改正法案を閣議決定した。

 

この法案は、現在、外交官や高度人材などの外国人に雇用される場合にのみ入国・在留が認められている外国人家事労働者について、女性の活躍推進や家事支援ニーズへの対応、中長期的な経済成長といった観点から、国家戦略特別区域を利用することにより、地方自治体による一定の管理体制の下、家事支援サービスを提供する会社に雇用される外国人に対して、入国・在留を認めようとするものである。

 

しかし、日本は未批准ではあるものの「家事労働者の適切な仕事に関する条約」(ILO189条約)は、家事労働が過小評価され、軽視され、主として女子によって行われており、特に雇用条件及び労働条件についての差別及び他の人権侵害について被害を受けやすい外国人女子などによって担われていることを指摘して特別な対策を定めている。家事労働が家庭内の閉鎖的な環境の中で行われることに鑑みても、外国人家事労働者を受け入れる場合には、当該外国人家事労働者が差別や虐待などの被害を受けないよう、特別な考慮が必要である。また、受入れ企業からの職場移転の自由が実質的に保障されなければ、外国人家事労働者が、在留資格を継続するために雇用主との関係で従属的な立場に甘んじることとなる危険性があること、技能実習制度で問題となっているような送出し機関による保証金徴収などの問題が発生し得ること、監督体制の確保などの権利保護の体制の検討が必要なことなど、外国人の人権保障の観点からの慎重な検討が必要となるところ、このような観点からの検討は十分になされていない。

 

加えて、家事労働の社会化や男女の平等な分担が進んでいない現状の固定化に対する影響といった観点からの検討も必要不可欠であるが、これらの観点についても必ずしも具体的な検討はなされていない。

 

当連合会は、かねてから、外国人労働者の受入れを検討するに当たっては、外国人の基本的人権を確立することを通じ、多民族・多文化の共生する社会を構築するための条件を整備するという観点からの検討が必要不可欠であることを繰り返し指摘してきたものであるが、国家戦略特別区域における外国人家事支援人材の受入れについても、上記の外国人の人権保障等の観点を踏まえ、その是非及び条件について慎重な検討を行うよう求めるものである。
 

 

 
 2014年(平成26年)10月31日

  日本弁護士連合会
  会長 村 越   進