国際テロリストの財産凍結法案に対する会長声明

政府は、本日、「国際連合安全保障理事会決議第1267号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法案」(国際テロリストの財産凍結法案。以下「本法案」という。)を、国会に上程した。


本法案は、国際テロリストの指定の要件を定め、国際テロリストとして公告された者に資産凍結の措置を課し、違反した場合の罰則等を定めるもので、国際テロリストの資金を遅滞なく凍結する等の措置を講ずるとの国連安保理決議に関し、FATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)から国内取引に関する措置が十分でないと勧告を受けていたことに対応するものである。


当連合会は、テロリズムを予防するための措置の必要性と、国際社会の中で、我が国がその役割を果たすことの重要性については十分理解しているところである。しかしテロリズムの予防にあたっては、テロ対策名下に民族独立のための解放運動支援を抑圧したり、市民の表現の自由や結社の自由を侵害することがないよう基本的人権を十分に尊重することが必要である。


本法案は、国際テロリストを定めるに当たって、国連安保理決議第1267号決議及びその後継決議に基づき、安保理制裁委員会が指定する国際テロリストをそのまま公告する方法と、国連安保理決議第1373号決議を受けて、国家公安委員会が独自に指定して公告する方法を認めている。前者の方法に異存はないが、後者の指定制度には、国家公安委員会による恣意的な指定がなされる余地があり、問題が大きい。


すなわち本法案では、国家公安委員長は、外国為替及び外国貿易法16条1項の規定により、閣議決定(同法10条)か主務大臣の判断(同法16条)によって、本邦から外国へ向けた支払等について許可を受ける義務を課せられることとなる者で、この公衆等脅迫目的の犯罪を行った場合や、行おうとしたり助けた場合で、将来更に公衆等脅迫目的の犯罪行為を行ったり助ける明らかなおそれがあると認められる十分な理由がある自然人や法人その他の団体、さらにこれらの者が影響を及ぼす自然人や法人その他の団体等を、国際テロリストとして指定できる。


しかし、当連合会がかねてから指摘しているとおり、ここでいう公衆等脅迫目的の犯罪行為は、「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律」第1条に規定する行為とされ、これがいわゆる「テロ行為」の定義となっているところ、同法が、国連のテロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約を国内法化するために制定されたものであるにもかかわらず、同条約と比べて処罰範囲が著しく拡大されている(2002年4月20日付け「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律(案)」に対する意見書」)。したがって、これらの条文をそのまま準用する本法案においても、テロ行為とされる対象犯罪は広汎に過ぎる。


これらの問題点が払拭されない場合、国家公安委員長による国際テロリストの指定は、恣意的になされる危険があり、テロ対策のための人権の制限としても目的と手段のバランスがとれていない。


当連合会は、国会の内閣委員会において、人権保障に留意して十分に審議することを求める。

 

 


 2014年(平成26年)10月10日

  日本弁護士連合会
  会長 村 越   進