大阪・泉南アスベスト国家賠償請求訴訟最高裁判所判決に関する会長声明

最高裁判所第1小法廷(白木勇裁判長)は、2014年(平成26年)10月9日、大阪・泉南アスベスト国家賠償請求訴訟において、国の規制権限不行使の責任を認める判決を出した。


大阪・泉南地域においては、100年間にわたる石綿紡織業の発展の陰で、早くから石綿肺や肺がんなどの深刻な石綿被害が工場内外で発生してきた。


2011年(平成23年)8月25日、大阪高等裁判所判決(第1陣訴訟)は、行政の裁量権を広範に認め国の責任を否定したが、2010年(平成22年)5月19日の大阪地方裁判所判決(第1陣訴訟)、2012年(平成24年)3月28日の大阪地方裁判所判決(第2陣訴訟)、2013年(平成25年)12月25日の大阪高等裁判所判決(第2陣訴訟)においては、国の規制権限不行使の責任を認める判断が出されていた。


本判決は、上記第1陣訴訟大阪高裁判決を見直し、労働大臣の旧労働基準法等に基づく規制権限は、粉じん作業等に従事する労働者の労働環境を整備し、その生命、身体に対する危害を防止し、その健康を確保することをその主要な目的として、できる限り速やかに、技術の進歩や最新の医学的知見に適合したものに改正すべく、適時かつ適切に行使されるべきものであり、その不行使により被害を受けたものとの関係において、国家賠償法1条1項の適用上違法となるとし、1958年(昭和33年)5月26日には省令制定権限を行使して、罰則をもって石綿工場に局所排気装置を設置することを義務付けるべきであったのにこれを怠ったとして、旧特定化学物質等障害予防規則が制定された1971年(昭和46年)4月28日までの国がその責務を果たしてこなかったことの違法性を、改めて認定した。また、最高裁判所が、国民の生命と健康を守る責務が国にとって最も重要かつ基本的な責務であることを確認した意義も極めて大きい。国は、本最高裁判決を真摯に受け止め、早急に原告らの救済を行うべきである。


アスベストによる健康被害は、本件にとどまらず広範囲に及んでおり、今後も発生し続けることが懸念されている。また、建築作業従事者のアスベスト被害については、全国で6地方裁判所と2高等裁判所で損害賠償請求訴訟が係属している。当連合会では、2006年(平成18年)1月18日付けで「『石綿による健康被害の救済に関する制度案の概要』に対する会長声明」を公表し、被害救済制度の創設に当たり、実効性のある被害救済を提言したが、現行制度は今なお不十分なものにとどまっている。


当連合会は、国が、本判決を受けて、速やかに現行の石綿健康被害救済法の全面的な見直しを行い、全てのアスベスト健康被害の全面的救済を行うことを、改めて強く求める。また、新たな被害発生を万全に防止するために、震災時や建物解体時などのアスベスト飛散防止対策の一層の強化を求めるものである。

 

 


 2014年(平成26年)10月9日

  日本弁護士連合会
  会長 村 越   進