人種差別撤廃委員会の総括所見に対する会長声明

国連の人種差別撤廃委員会は、2014年8月29日に人種差別撤廃条約の実施状況に関する第7回・第8回・第9回日本政府報告書に対し、同年8月20日及び21日に行われた審査を踏まえ総括所見を発表した。同委員会は人種差別撤廃条約に基づき設置された国際機関であり、我が国は同条約の批准国として、委員会から勧告された点につき、改善に向けて努力する義務を負う立場にある。

 

総括所見で委員会は30項目に及び懸念を表明し、または勧告を行った。

 

とりわけヘイトスピーチについて、委員会は、集会の場やインターネットを含むメディアにおける広がりと人種主義的暴力や憎悪の扇動に懸念を表明し、適切な措置を求めるとともに、日本政府が、「人種的優越又は憎悪に基づくあらゆる思想の流布」、「人種差別の扇動」等につき、処罰立法措置をとることを義務づける人種差別撤廃条約4条(a)(b)の留保を撤回し、差別禁止法を制定することを求めている(10、11項)。本問題については、前回(2010年4月)の総括所見よりも、より一層踏み込んだ厳しい勧告となっており、この間の日本における深刻なヘイトスピーチの蔓延が国際基準に照らして看過できない状態にあることを示している。

 

同時に、委員会は、ヘイトスピーチやヘイトクライム規制が、それらに対する「抗議の表明を抑制する口実として使われてはならない。」(11項)と指摘しており、現在議論されているヘイトスピーチ規制立法が、権力により濫用され正当な表現までをも規制する手段として利用されることのないよう、注視する必要がある。

 

また、委員会はいまだパリ原則(1993年国連総会決議)に則った国内人権機関が設置されていないことに懸念を表明して速やかな法案の検討の再開と採択を勧告し(9項)、個人通報制度についても、個々の人権侵害の救済に国際人権法を生かす重要な制度であり、受諾宣言すべきであると奨励している(31項)。

 

前回に引き続き、委員会は、家庭裁判所の調停委員は権力を行使するものではないとして、外国籍調停委員の採用を再検討するよう勧告した(13項)。

 

さらに、委員会は、技能実習制度の改革(12項)、慰安婦問題(18項)、高等学校の無償化についての朝鮮学校の排除(19項)、部落問題(22項)、アイヌ問題(20項)、沖縄問題(21項)、外国人やマイノリティの女性に対するDV問題(17項)、ムスリム監視(25項)、移住労働者(12項)、難民庇護希望者等の個別問題(23項)等への取組が不十分である旨指摘した。

 

日本政府は委員会の表明したこれらの懸念、勧告を真摯に受け止め、検討するとともに、さらなる改善措置に向け真摯に取り組むべきである。

 

当連合会は、委員会が指摘した事項についてその実現のために政府との対話を継続し、これらの課題の解決のために全力を尽くす所存である。


 

 

   2014年(平成26年)9月5日

  日本弁護士連合会
  会長 村 越  進