過労死等防止対策推進法の成立に当たっての会長声明

本日、「過労死等防止対策推進法」(以下「本法律」という。)が成立した。

 

当連合会は、国が、初めて「過労死」問題とその防止の重要性、過労死等のない社会の実現を正面から捉えた法律を成立させ、過労死等防止に向けて具体的な一歩を踏み出したことを評価する。

 

本法律は、社会から過労死等をなくすために、国、地方公共団体、事業主その他の関係する者の相互の密接な連携によって過労死等防止対策を行うとの基本理念のもと、特に、国は大綱を策定し、国の責務として①過労死の実態の調査研究、②教育活動等を通じた国民への啓発、③過労死のおそれのある者や家族が相談できる体制の整備、④民間団体の活動への支援という4つの対策を行い、過労死等の防止のために必要な法制上又は財政上の措置等につなげていくことを柱とし、加えて、遺族も参加する過労死等防止対策推進協議会を設置すること、政府が国会に、毎年、過労死等の防止のために講じた施策の状況に関する報告書(白書)の提出を義務付けることなどが規定されている。

 

過労死等に関する実態が必ずしも十分に把握されていない現状を踏まえ、上記調査は個人事業主や法人の役員等に係るものを含め広く調査研究の対象とするもので、労災手続で捉えきれていない過労死等の実態が明らかになることが期待される。

 

他方で、現在、政府は新たな成長戦略として労働時間規制の大幅な緩和を具体的に進めようとしている。

 

 当連合会は、2012年10月に佐賀で開催された第55回人権擁護大会において、「強いられた死のない社会をめざし、実効性のある自殺防止対策を求める決議」を採択し、過労自殺等の問題について言及した。また、2013年7月18日付け「『日本再興戦略』に基づく労働法制の規制緩和に反対する意見書」において、労働者の生活と健康を維持するため、労働時間規制の安易な緩和を進めないよう求めてきた。長時間労働が、労動者が人間らしく健康で働くことの障壁になるのみならず、過労死等の主たる原因の一つとなることに鑑みると、労働時間の規制緩和は、過労死等のない社会をめざす本法律や当連合会のこれまでの主張に反するものである。

 

当連合会は、本法律が過労死等の防止に実効性のあるものとなるよう、適正な運用を確保するとともに、この法律の成立を契機に、長時間労働の防止についての議論を進め、法制上の措置として現行の労働時間法制を見直すことを求める。併せて、本法律の目的に逆行しかねない長時間労働を可能とする労働時間の規制緩和について、再考することを強く求める。

 



 


 2014年(平成26年)6月20日

  日本弁護士連合会
  会長 村 越  進