児童ポルノの単純所持を犯罪化する法律改正を受けた会長声明

本日、児童ポルノの単純所持を犯罪として処罰することを中核とする「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(以下「児童ポルノ処罰法」という。)の改正案が可決成立した。

 

当連合会は、2010年(平成22年)3月18日付け「『児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律』の見直し(児童ポルノの単純所持の犯罪化)に関する意見書」及び2010年(平成22年)11月16日付け「『児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律』の見直し(児童ポルノの定義の限定等)を求める意見書」を発表し、児童ポルノの定義が曖昧かつ広範であることから、定義を限定かつ明確化することを求めるとともに、子どもの人権保障の観点から、児童ポルノの単純所持を法律上明確に禁止することを提言した。一方で、比較的軽微な行為類型である単純所持を犯罪として処罰することは、捜査権の濫用が危惧され、刑罰の謙抑性の観点からしても行き過ぎであるので、単純所持の犯罪化には反対すると主張してきたところである。

 

今般の改正法では、児童ポルノを定義する同法2条3項3号の規定が若干変更されたが、依然として、定義が広範であり、漠然として不明確である。

 

すなわち、改正法は、同条3号をこれまでの「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」から、「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀(でん)部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの」に改めている。しかし、「性的な部位」が「強調」されている姿態が児童ポルノに当たるとされているところ、「性的な部位」に臀部又は胸部が含まれていることから、性的な部位とされる部分は相当に広範である。また、その部位の「強調」の意味が漠然として不明確であって、児童のビキニ姿の画像も、性的な部位を強調しているとして児童ポルノに当たるとされる可能性もある。

 

また、定義中には「性欲を興奮又は刺激するもの」という主観的要件が含まれており、児童ポルノの構成要件該当性を客観的に判断できないという問題もある。例えば、自分の子どもの乳幼児時代の裸の写真でも、見る人によっては「性欲を興奮又は刺激するもの」であるとして、児童ポルノに該当すると判断されるおそれがある。

 

このような曖昧な定義は、運用のいかんによって、捜査権の濫用につながり、国民の人権を侵害するおそれがあるものである。当連合会は、上記2010年(平成22年)11月16日付け意見書において、「解釈上の指針(ガイドライン)を作成し、捜査機関の恣意による摘発がなされないようにすべきである」と提言したのであるが、本改正法にはそのような配慮はなく、運用面での不安を残すものとなっている。今後速やかに、有識者会議を設置して、国民に見える形でガイドラインを作成するべきである。

 

このような問題のある定義を前提として、しかも、比較的軽微な行為類型である単純所持を犯罪化する改正法は、当連合会が繰り返し述べてきたとおり問題が大きい。

 

確かに、改正法は、当初自民・公明両党が提案していた改正案の単純所持罪の構成要件に比べ、処罰対象となる行為を「自己の性的好奇心を満たす目的で」と限定しており、学術研究目的、報道目的、証拠確保の目的その他正当な理由がある行為が対象とされるおそれがないような配慮がされているように見受けられる。

 

しかし、このような主観的な目的には曖昧さが残ることは否定できず、しかも、あくまでも内心の問題なので、少なくとも捜査段階では、所持しているという客観的要件を満たせば逮捕・勾留され、密室での取調べの中で、主観的目的について無理矢理「自白」させられるという事態が生じるであろうことが容易に予想できる。

 

さらには、単純所持罪という比較的軽微な犯罪下での身体拘束を利用して、別件の「自白」を得るための取調べが行われる危険性もなお大きいといわざるを得ない。

 

このような主観的要件での絞り込みは、捜査権の濫用を防ぐ方法にはなり得ない。 

 

したがって、このような改正法が成立した以上、捜査権の濫用を防ぎ冤罪を防止する観点から、取調べの全面可視化は一層急務になったといえる。

 

当連合会は、2014年(平成26年)6月17日の参議院法務委員会附帯決議のとおり、改正法が真に子どもを性的搾取及び性的虐待から守り、更に捜査権の濫用を防止するという趣旨を十分に踏まえたものとなるよう、早急に解釈上の指針(ガイドライン)を作成する等の対応を行うことを求めるとともに、取調べの全面可視化を求めて、一層の運動強化に努力するものである。



 


 2014年(平成26年)6月18日

  日本弁護士連合会
  会長 村 越  進