「エネルギー基本計画(案)」に対する会長声明

  
当連合会は、かねてより、原子力推進政策を抜本的に見直し、原子力発電と核燃料サイクルから撤退することを求めてきた。2013年12月20日にも、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会による「エネルギー基本計画に対する意見(案)」(以下「意見案」という。)に対し、原子力発電に依存しない基本計画を策定すべきであり、化石燃料への依存を減らし、再生可能エネルギーの推進等、省エネルギー及びエネルギー利用の効率化を政策の中核にすべきとの意見を述べたところである。


しかしながら、経済産業省が本年2月25日に取りまとめた、「エネルギー基本計画」の政府案(以下「政府案」という。)は、原子力について、「エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」と位置付け、安全性について「原子力規制委員会の専門的な判断に委ね、原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進める」とし、原発依存度について、「省エネルギー・再生可能エネルギーの導入や火力発電所の効率化などにより、可能な限り低減させる」と述べるものの、具体的には、今後、「確保していく規模を見極める」とし、新増設を否定していない。核燃料サイクル政策についても、「再処理やプルサーマル等を推進する」としている。福島原発事故によって原子力に対する不信が高まっている国民・自治体との信頼関係のために「広聴・広報」を掲げるのみで、前述の意見案についてのパブリックコメントも形式的な意見聴取にとどまっているのと同様、真摯に国民の声を汲み上げ、対話する姿勢はみられない。


再生可能エネルギーについては、「積極的に推進していく」とあるのみで、今後の導入目標は設定されていない。さらに、温暖化対策を、原子力発電の確保を必要とする理由に掲げる一方で、二酸化炭素の排出量が大きい石炭発電を、原子力発電とともに「優れた重要なベースロード電源の燃料」と位置付け、新増設を進めることを明記しているものである。


原子力発電所の新規制基準は原発の安全性を確保するに足るものではないことは既に指摘してきたとおりである。福島原発事故から3年を経過してなお、14万人を超える人々が避難を余儀なくされ、汚染水問題など事故処理も損害賠償も進んでいない。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書は、地球温暖化による気候の異変が加速的に進行し、深刻な影響が数世紀にわたって継続することを改めて示し、二酸化炭素など温室効果ガスの排出削減を強く促している。しかるに、意見案をそのまま踏襲して、原子力利用に固執し、石炭火力発電所も新増設を進めるとする政府案は、福島原発事故から教訓を学ばず、原子力からの撤退を求め、地球温暖化による被害を最小化する取組を求めている多くの国民の声に背を向けたものといわざるを得ない。よって、当連合会は政府案の根本的見直しを求めるものである。

 


 2014年(平成26年)3月12日

  日本弁護士連合会
  会長 山岸 憲司