東日本大震災及び福島第一原子力発電所事故から3年を迎えての会長声明

  
本日、東日本大震災及び福島第一原子力発電所事故発生から3年を迎えた。


当連合会は、震災発生直後から、各地の避難所及び仮設住宅等で行われた震災法律相談を支援し、数多の被災者・被害者の声に耳を傾け、集約し、数々の立法、政策提言を行ってきた。その中には実現に至ったものも少なくない。しかし一方、いまだ約26万7千人の避難者がいるとされ、復興の見通しのつかない状況に苦しむ被災者・被害者が多く存在することを忘れてはならない。当連合会は、ここに改めて、人間の復興の観点から、以下の数々の問題に取り組む決意を示す。


第一に、原発事故被害者の救済である。最も切実な問題である損害賠償問題については、昨年12月4日に原発事故による損害賠償請求権の消滅時効特例法が成立し、本年3月で請求権が時効により消滅するという危険性は回避された。しかし、この特例法はあくまでも権利行使の期間を確保したにすぎず、いまだに請求をしていない被害者へのアクセスや適切な賠償を受けるための支援など、被害救済の更なる具体化が求められている。昨年12月26日、原子力損害賠償紛争審査会がいわゆる中間指針第四次追補を取りまとめた。上記指針では、事故前の財物価値を超える賠償額を必要かつ合理的な範囲で認めるとしており、一定の評価ができる。しかし、今後、本格化するであろう不動産の賠償において、同指針を適用するに当たっては、個々の事情を十分に斟酌し、その必要性合理性を柔軟に解釈し、適切な賠償がなされるようにすべきである。また不動産の賠償に限らず、被害の長期化により新たな損害の項目、概念が発生しており、これらについても十分な賠償がなされる必要がある。とりわけ、最近、東京電力が原子力損害賠償紛争解決センターの示した和解案を拒否する、また最終的に和解案を受諾したとしても、回答期間の延期や和解案再考を求める、これによって和解までの時間が遅延するといった事例が散見されるようになっている。東京電力には自らが申請した新・総合特別事業計画で掲げた和解仲介案の尊重を徹底し、いたずらに被害者の救済を遅らせることのないよう求める。


さらに、損害賠償だけではカバーできない被害者の生活再建、健康確保、人権擁護のために、原発事故子ども・被災者支援法が十分に活用されるべきであるが、残念ながら、居住者も避難者も帰還者も等しく支援するという法の理念が実現されたとはいい難く、その施策も不十分なものにとどまっている。政府に対し、被害者の切実な声に耳を傾け、改めて法の理念に基づいた具体的な支援策を早急に定めるよう求める。


第二に、昨年7月に、福島第一原発において高濃度の汚染水漏れが発覚して以来、その後も汚染水漏れが止まらず、その解決の目途も立たないなど、いまだ事故が収束したとは到底いえない。そのような中、政府は、本年2月25日に「エネルギー基本計画案」を取りまとめ、今月中にも閣議決定を目指すなど、原発再稼働に向けた準備を着々と進めており、このような動きについては強い懸念を覚える。


第三に、いわゆる二重ローン問題においては、特に当連合会等の提言により創設された私的整理ガイドライン(被災ローン減免制度)の利用が低迷している。当連合会がたびたび指摘してきた運用の問題については、被災地の弁護士会、当連合会及び運営委員会の協議により徐々に改善されてはいるものの、本年2月28日現在の成立件数はわずか814件にとどまっている。今後も、1人でも多くの被災者が同制度により救済されるようさらに運用の改善を図るとともに、将来の災害に向けて、支払不能要件の緩和や、全債権者の同意がなくても債務整理の成立を可能とするなど、立法化を含めた制度自体の改善を検討する。


第四に、災害弔慰金支給に当たっての震災関連死の問題について、これまで多くの関連死が認められているものの、地域によっては、県への委託率が高くかつ認定率が低いといった現象や、震災発生後6か月が経過した後に亡くなった方に関する申請件数が極めて少ないという現象が生じている。震災関連死として認定されるか否かは、残された遺族の心情に大きく影響する。震災関連死の審査自体は各市町村の自治事務とはいえ、亡くなった地域により認定基準や申請のしやすさが異なるとすれば大きな問題であり、今後も、認定状況及びそれに関する諸問題につき注目していかなければならない。


第五に、復興まちづくりについては、円滑に進んでいるとはいい難い状況であり、被災者の希望を失わせかねない状況にある。住民の意思形成過程の問題に加えて、大きな障壁となっているのが、遺産分割未了や権利者所在不明などの問題により、復興整備事業に必要な用地の取得が進んでいないという問題である。この問題については、既に震災から3年が経過しようとしていることからも、立法措置も含めた抜本的な改革を検討すべきである。


以上、ここでは5点の課題のみを挙げたが、その他の課題についても、当連合会は、人権擁護と社会正義の実現という弁護士の使命に基づき、被災者・被害者の支援・救済のために今後も全力を尽くす所存である。

 


 2014年(平成26年)3月11日

  日本弁護士連合会
  会長 山岸 憲司