諫早湾干拓事業の排水門の開放に関する会長談話

福岡高等裁判所は、2010年12月6日、国に対し、諫早湾干拓事業(以下「本件事業」という。)で建設された潮受け堤防の南北各排水門について開放(以下「開門」という。)することを命じる判決を言い渡した。この判決においては、国が農業者等の利害関係者に被害が生じないような対策を行うために、判決確定から3年間の猶予期間が認められていた。しかし、国はその履行期限である2013年12月20日までに、その対策を怠ったため、開門することができなかった。


本件事業については、開門による被害を訴えた農業者らの申立てを受け、長崎地方裁判所が2013年11月12日に開門を差し止める仮処分決定を出しているが、かかる決定がなされたのは、国がその手続の中で、上記福岡高裁の判断の基礎となった、開門しないことによる漁業行使権侵害の事実を主張しなかったこと等による。そもそもこのような混乱した状況は、国が、自ら主張し、認められた最大の期間である3年間の猶予期間を有効に使わず、農業者等に対する被害対策を怠ったことにより生じたものであって、漁業と農業を共存させるという農林水産省の本来の職責を果たしていないからに他ならない。


当連合会は、諫早干潟の貴重で自然的な価値を評価するとともに、「宝の海」と呼ばれ、生物多様性に富んだ有明海に、本件事業後、「有明海異変」と呼ばれる環境の悪化が発生したことを踏まえて、本件事業に関し、これまで意見を述べ続けてきた。すなわち、1997年5月以降、2度にわたる意見書及び7度にわたる会長声明(会長談話)を発表して、排水門を開放し堤防内に海水を導入することや、中・長期開門調査の実施を求めてきた。さらに、福岡高裁判決に際して、ただちに開門するための準備に着手することも求めてきたところである。


当連合会は、国に対して、漁業と農業の共存を可能とするよう農業者に対する十分な対策を実施するなど、開門に向けてあらゆる手段を講じ、有明海再生のために第一歩を踏み出すことを強く求めるものである。

 

2013年(平成25年)12月24日

日本弁護士連合会

会長 山岸 憲司