健康被害の防止の観点から放射性物質に係る環境法制の再構築を求める会長声明

 

放射性物質による汚染については、従来、環境基本法をはじめとする関係法から除外されてきた結果、福島第一原発事故により生じた放射性物質に対して、これに対処する法律がないという状況を招いた。

 

そこで、急遽、「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年8月30日法律第110号)(特措法)が制定された。

 

その後、環境基本法が改正され、放射性物質による汚染についても、環境基本法に基づく規制を行うこととし、さらに本年6月には、「放射性物質による環境の汚染の防止のための関係法律の整備に関する法律」が公布され、これによって、いくつかの個別環境法に関して、放射性物質の適用除外規定が削除され、環境大臣が放射性物質による大気汚染・水質汚濁の状況を常時監視することや、放射性物質についても環境影響評価を行うことが定められた。このうち、大気汚染防止法及び水質汚濁防止法等の関係箇所については本年12月20日に施行されるが、環境影響評価法に関してはいまだ施行されていない(公布の日から2年内において政令で施行予定とされている。)。

 

しかしながら、個別環境法の改正はまだまだ不十分である。例えば、廃棄物処理法、土壌汚染対策法、海洋汚染防止法、化学物質審査規制法等の個別環境法においても、放射性物質による環境汚染に係る適用除外規定があるところ、これらの個別環境法の改正についてはいまだ手つかずの状態である。

 

この点、参議院では、本年6月13日に「環境基本法13条の削除に伴う環境法令の整備に当たっては、単に適用除外規定の削除にとどまらず、環境基本法の目的・理念等を踏まえ、放射性物質に係る環境法制の再構築を図るとともに、環境基本法第二章に則り、放射性物質に係る環境の保全に関する基本的施策を可能な限り速やかに実施すること」等の附帯決議がなされている。

 

当連合会でも、本年10月4日の「福島第一原子力発電所事故被害の完全救済及び脱原発を求める決議」において、政府に対して、「福島第一原発事故以前の環境水準を確保し、汚染対策・健康被害の発生防止・健康被害に対する適切な救済のために、及び、今後の放射性物質による汚染を防止するために、大気や土壌、海・川などの放射性物質による汚染の実態を継続的・包括的に調査・公表するとともに、環境基本法に基づく、全面的法整備を行うよう」求めたところである。

 

福島第一原発事故による放射性物質による汚染は膨大かつ広範囲に渡っており、放射性物質による健康被害の防止の観点から、個別環境法に基づく綿密な規制を整備することは喫緊の課題であり、当連合会は、改めて、以下のような観点から全面的法整備を速やかに行うことを求める。

 

第1に、福島第一原発事故以前の環境水準が確保されるよう、廃棄物については従来のクリアランスレベルを参考にし、また、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染について、人々の居住地域において追加の放射線量が1ミリシーベルト/年を大幅に下回る線量となるように環境基本法第16条の環境基準を設定し、そのための具体的施策を定めるべきである。

 

第2に、福島第一原発事故の汚染対策について、特措法は除染を基本的なものとしているが、除染は放射性物質の量を減らすものではなく、これを場所的に移動させるにすぎず、除染による環境浄化には本質的な限界がある。また、放射線量の低減には長期を要することといった特質があり、そのことを踏まえた対応が考えられるべきである。除染を行うとしても、子どもの生活圏など必要性の高い場所で、かつ、効果が高い場所を中心に行っていき、特に高い汚染地域については、移住を中心とした施策がとられるべきである。また、全体に、居住を制限する地域の指定の維持、空間放射線量及び放射性物質汚染状況の継続的かつ包括的測定、警告表示などの長期的管理がなされるべきである。

 

第3に、福島第一原発事故により発生した放射性廃棄物について、特措法が、相当量の放射性物質を含むものであっても、その他の廃棄物との混在での埋め立て・焼却を認めていることは大きな問題であり、その点は予防原則の観点に立った再検討がなされるべきである。

 

第4に、空間放射線量及び大気や土壌、海・川などの放射性物質汚染状況について、継続的かつ包括的測定が行われ、それが公開されることが必要である。また、その権限は、環境大臣に委ねられるべきではなく、各都道府県に委ねられるべきである。

 

第5に、健康被害防止・健康被害に対する適切な救済のために、避難・移住を助けるための諸措置・健康管理・医療給付・健康被害に対する補償等の措置を含む、新たな制度が整備されるべきである。


2013年(平成25年)12月18日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司